真剣で私に恋しなさい!X   作:テンペスト

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第二十五話 集う

ここは、川神の港からそう離れていない喫茶店。

 

 

「綾鶴 彩子?」

 

 

直江大和と椎名京は、その名に心当たりが無かった。

その名を出してきたのは紛れもない、目の前にいるドイツ軍人である。

軍服に大量の勲章をつけ、今日も厳つい雰囲気と皺を刻んだ男―――――フランク・フリードリヒだ。

知る人ぞ知るクリスの父親。彼は今、パフェを傍らにその話題を出していた。

 

 

「そうだ。 この人物が君達に接触しては来なかったかね?」

 

「いえ。 こんな女性見たことは………京は?」

 

「私が見ているのは大和だけ!」

 

 

クリスの父親との確執は、もう存在しない。

前回クリスを巡っての大乱闘以来だ。あれ以来、あってこそは来ないがクリスやマルギッテ曰く元気に軍務をこなしているとの事だった。

大和を呼び出したのは他でもない、このフランクである。フランクは話題の女性――――「綾鶴彩子」の写真を彼らに見せていた。

 

 

「クリスに何か関係のある女性ですか?」

 

「いや、その逆だ。 決して関係があってはならない、危険な女だ」

 

 

忌々しそうにフランクが写真を見つめた。

これが意味するものは、ドイツ軍でも危険人物としてマークしていることに他ならない。

顔を顰めながら、大和は更に詳しい情報を引き出そうとする。

 

 

「この女性は嘗てアメリカ軍の国防情報局(DIA)に所属していた諜報員だ」

 

「諜報員………このナリで?」

 

 

京も「これはないわー」という呆れ顔、呆れ声で写真を手に取った。

決して幼いとはいえないが、年端も行かないという印象の見た目。そして着ている服装はゴスロリとかなり非常識で、自己中心的であることを窺わせる。

こんな女性がどう諜報活動するのか、疑わしく思うのも無理も無かった。

 

 

「ああ。 先日、君達との一悶着の前に私は彼女と接触してしまった」

 

「……唆された、とでも言うんですか?」

 

「恥ずかしい話だがね。 しかしあの時の騒動の原因、そしては意思は私にある。 責任を転嫁するつもりは毛頭ない」

 

 

大和の表情が怪しくなった。

軍人ともあろう者が責任転嫁するのか、と少々勘繰ってしまっていたからだ。最もそこはあの誠実さを絵に描いたようなクリスの父親。責任を押し付けるようなマネはしなかった。

この辺りは軍人として、大人して、父親として立派だと感じる大和と京。

 

 

「だが問題はそれではない。 彼女自身が危険なのだ」

 

「見たところ体に筋肉などはついていないから然程武力があるように見えないケド」

 

「写真見ただけで分かるとは……さすがは天下五弓。 ドイツとの交換留学生に欲しいよ」

 

 

写真をじっくり観察していた京がそう断言した。

彼女の武器、それは天下五弓としてのその視力にある。与一には劣るものの、その正確性は他の人物をも凌ぐ。

また武士娘としての観察眼にも優れていた。そんな彼女が断言するのだ、腕力や瞬発力は皆無だろう。

 

 

「しかし彼女は武力など必要としない。 もっとタチが悪いのだ」

 

「だからなんですかそれは」

 

 

どうやらもったいぶる癖があるらしい。

この辺りもクリスに受け継がれている節がある。茶目っ気なのは分かるが、今は真剣な話題。余り茶化されるのも正直困るというのが二人の素直な感想だ。

とは言え軽率に言うほど愚直でもなんでもなかった。

 

 

 

 

「彼女は超能力者だ。 ………本物の、な」

 

 

 

 

驚きの答えが、返ってきた。

しかも口頭に「これは軍事機密だ」と置いておく辺り信憑性は高いのだろう。

大和と京も少々呆気に囚われていた。

 

 

「ちょ、超能力って……つまり、エスパーってことですか?」

 

「そうだ。 念力、読心術、瞬間移動………超能力の全てを彼女は有しているのだ」

 

「なるほど。 それで諜報活動をしてきた、と」

 

 

周りに人外な戦闘力を有する連中を囲んで暮らしている大和達だ。

超能力者がいても不思議ではない、とは考えた。がやはり実際に会ったことが無いため、どうにも想像に及ばない。

だが嘘が嫌いなフリードリヒ家だ、冗談などでは無いはず。

 

 

「あの時は知らなかったが、後日調査をして彼女の正体が特定できた」

 

「その綾鶴が今、この川神に?」

 

「ああ。 部下からの報告が上がっている。 まず間違いない」

 

 

ドイツ軍中将自ら警告してきてくれている。

大和もその綾鶴の危険さを承知し、写真を眺め続けた。確かに全てを見通すかのような、実に不気味な目をしている。

 

 

「そして弁舌にも長けている。 言葉を巧みに操り、自らの言いなりにさせてしまう」

 

「口八丁手八丁ってワケですか………」

 

「最近はアメリカ軍を脱走し、裏で様々な犯罪にも手を貸しているらしい」

 

「だから追いかけ回しているんだ」

 

 

今や一介の犯罪者になってしまっているらしい。

超能力を操る犯罪者、と聞けば確かに国際指名手配せざるを得ないほどの危険人物だ。

聞く限りでは人格も宜しくないらしい、京が顔を歪める。

 

 

「ところで、大和君は先程から何を?」

 

「写真を写メにして知人達に情報要請しているんです。 こういう時は目撃情報が欲しいですし」

 

「さっすが大和! その要領の良さに濡れるッ!」

 

「濡れ場じゃないからね。 言われても嬉しくないからね」

 

 

京に悪態付きながらも尚も携帯電話をフル稼働させる。

大和の知人は学園のみならず、嘗てのバイト先から果ては県外の不良にまで及ぶことがある。

持ち前のネットワークを駆使するその姿にフランクはただ、感心していた。

まさに情報戦のプロと言うべきその姿には軍人として見習うものがあった。

 

 

「………来た、橘のお姉さんからだ!」

 

「お。 意外な御仁から」

 

「あれ以来積極的に寮の外にも出てくれているようで………って、え!?」

 

 

天衣からの情報提供とは少々意外だった。

彼女の不幸体質は自他共に認めるほどでそれ故に運気の塊ともいえる島津寮から一向に出る気配が無かった。

が、教育研修生となってからは外に出る機会も多くなったようだ。ポジティブになりつつあると大和も頷いていると、その文面に驚かされる。

 

 

「どうしたの?」

 

「2、3日前に………モロが綾鶴らしき女性と会っているのを見たって!」

 

「モロが!?」

 

 

瞬間、今までの点となって散らばった違和感の数々が一本の線になった。

ここ数日の卓也の行動。その疑問点。今日のチケットの入手ルート。

 

 

「モロ………と言うと、君達の仲間だね?」

 

「はい! クソッ、何で気付かなかったんだ俺は………!」

 

 

大和が舌打ちしながら返した。

厳密に言えばこれまで大和達がその違和感を口にする機会はあった。問い詰めることも出来た。相談に乗ることも出来たはずだ。

それをしてこなかったのは「仲間」という括りから生み出された「慢心」。大和は己を恥じる。

 

 

「大和、落ち着いて」

 

「みや、こ………ああ、そうだな。 ここで落ち着かなくちゃな」

 

 

愛用の携帯電話すら握り潰しかねない剣幕だった。

それを宥めるのは隣にいる京の役目だ。彼女ただ優しく微笑んで頷く。こういう時、弓兵としての冷静さを保てる彼女に感謝しなければ、と大和は頷き返す。

 

 

「とにかく善は急げ、モロに連絡しねぇと………!」

 

 

大和は早速携帯のアドレス帳から「師岡卓也」を検索、発信した。

もうどんな言葉がこようと誤魔化されはしない、ただ彼の無事を祈りながら大和はコールし続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「綾鶴、彩子………?」

 

「クスクス……そう。 改めていらっしゃい、私のお人形さん♪」

 

 

冷たいせせら笑いを浮かべながら目の前の女性――――綾鶴彩子は卓也を見下していた。

瓦礫の山の上で、赤い瞳を向けてくる。

まるで血に染まったかのようなその瞳に卓也は恐怖すら覚える。

 

 

「で、どうだった? 今日一日尾行を続けてのご感想は?」

 

「! み、見てたんだ………」

 

「当たり前じゃない。 お人形さんを管理するのは持ち主の特権よ。 クスクス……」

 

 

先程から彩子は卓也のことを「お人形さん」呼ばわりしている。

恐らくだが、この女性は他人をオモチャ同然にしか扱っていないのだろう。ただ、自分が楽しめばいい。それだけの道具に。

それでも、今聞くべきところはそこではない。

 

 

「ど、どうして僕を………」

 

「簡単よ。 貴方が風間ファミリーの中で一番“隙”があるから」

 

 

悪びれもせず、そう告げた。

彼女の言う“隙”―――――それはとりわけ、能力のことであるとすぐに理解する。卓也自身もそれをコンプレックスとしていたからだ。

 

 

「何で風間ファミリーのことを!?」

 

「さっきから質問ばかりね貴方………。 だってクライアントが言うんですもの」

 

「く、クライアント?」

 

 

クライアント、それは俗に言う「雇い主」のことである。

つまり彼女には雇い主となる人間がいる。その人物が嗾けてきた、という事に他ならない。

改めて卓也はとんでもない人物と接触してしまったと悔いた。

 

 

「さて、もう問答は終わりにしましょ」

 

「終わり、って………?」

 

「クスクス……。 決まっているでしょ。 貴方はこれから、私の『お人形さん』になるの」

 

 

そう言いながら彩子は手を伸ばした。

すると怪しげな光が波動となって卓也を包む。すると卓也の頭が、まるで激しく揺らされたかのように痛み出した。

 

 

「う、あああああああああああああ!!?」

 

 

凄まじいその痛みに卓也がすぐに膝をつく。

だが問題はそこではない。そのすぐ後、に胸のうちから黒いものが湧き出してきた。

痛みの中、脳内に浮かぶビジョン。それは今までの大和の行動だった。常に隣には京がついている。

 

 

「こ、れは………?」

 

「クスッ……私ね、超能力が使えるの。 本物の。 貴方には今までの記憶を見せている」

 

 

言われてみれば、確かにこれは今までの過去の記憶だ。

ただ、全てが大和と京のものだ。どれもこれも京が大和に告白してはフられている、という日常のもの。それが今となっては、胸の疼きにしかならない。

まるで頭の中を、黒一色に染め上げるかのようなそんな激しい感情。

 

 

 

 

 

「それも………“憎しみの記憶”をね。 クスクスクスッ」

 

 

 

 

 

卓也の眼が、呆けた。

“憎しみ”―――――今見ているこの記憶全てを、それで一括りすることは正直できない。しかし見れば見るほど心が疼いていくのも事実だ。

少なくとも見て気持ちがいい、などとは思えない。

 

 

「ち、違う! 違う違う違う!! 僕は……僕と大和は……!」

 

「オトモダチ? いいえ、貴方達は単なる恋敵同士でしかない」

 

 

必死に卓也は頭を振り続けた。この悪夢から逃れるかのように。

今まで積み上げてきたこの絆は本物―――――そう自分に言い聞かせながら。

それを彩子は無情に切り捨てる。

一番聞きたくなかった言葉を以って、彼の心を抉り取るように。

 

 

「羨ましいんでしょう? 頭が良くて、皆から頼られる直江大和が」

 

「そ、そ、それは……確かに少しあるけど………っ!」

 

「妬ましいんでしょう? 女の子から次々と好かれる、あの男が」

 

「で、でも…! でもでも………ッ!!」

 

 

冷たい言葉を次々と浴びせていく。

まるでナイフのように心に突き刺さっていくそれに、卓也は苦しむ。

頭では分かっている。この女の言葉に乗ること事態が間違いだと。こんな感情を抱く自分が悪いと。

―――――その一方で、心は告げていた。「その通り」、と。

 

 

 

 

 

「いい加減認めなさいな。 ……直江大和がいるから、自分は幸せになれないって!」

 

 

 

 

 

その事実を、告げられた。

もう、抗う気力も無い。肩を、頭を、そして心を落としてしまう。

ガクン、とまるで糸の切れた「人形」のように卓也は動かなくなった。彼の精神を掌握している彩子には分かる。まだ心臓は動いている。そう、ただ「動いているだけ」と。

 

 

「ぁ………ぼく、は…………」

 

「……でもね。 恥じることは無いのよ。 人間素直が一番ですもの」

 

 

いつの間にか、彩子は目の前にいた。

優しく卓也の頬を撫でながら顔を上げる。まるでそれは自愛に満ちたかのような目。

卓也の目はいつの間にか、彼女の唇に釘付けだった。

 

 

「だから、もういっそのこと楽になってしまいなさい。 自分のしたいことをすればいい」

 

 

唇が、そっと卓也の耳に近づけられる。

甘ったるいような息が直接耳に触れられるこの感覚に鳥肌が立ちそうになった。

だがもう鳥肌は立たない。体が脱力してしまってそれどころではない。

 

 

「分からない? なら当てて見せましょうか。 貴方のしたいこと」

 

 

頬に触れていたその指が、肌を滑っていく。

顎に到達し、顔を更に持ち上げた。

 

 

「椎名京と付き合いたい。 そうでしょ?」

 

 

コクン、と力なく頷いた。

彩子は上品に微笑む。もう彼はまさに「人形」に成り下がったのだと。

今まで彼女は自らの超能力で相手のトラウマや隠された嫉妬心などを全開にして精神を痛めつけ、そして自らは甘い言葉の誘惑で相手を取り込むという手口を使ってきた。

卓也もまた、それに飲まれてしまった一人に過ぎない。

 

 

「でもそのためには直江大和という存在が邪魔。 彼を超えることは貴方では無理」

 

 

また首を縦に振る。

卓也は理解していた。大和は自分のスペックを高く超えていると。彼自身が優秀すぎるわけではない、ただ自身の能力が余りにも低いだけだ。

そう、心の中では自嘲している。

 

 

 

 

「だから………消しちゃいなさい。 貴方の手で」

 

 

 

 

彩子が、離れた。

よく見ると、自身の手には何か光るものが握られている。ぼうっとしていた精神が、やっと落ち着いてきた。

そうなってようやく焦点が定まる。そして理解した。

自身の手に握られているのが、ナイフであると。

 

 

「人間の命って簡単なものよ。 ナイフをちょっと捻っただけで死んでしまう脆弱な生き物」

 

 

ナイフを手に、卓也は考えた。

確かにこの鋭い刃が突き刺されば、人間簡単に死ぬものだ。手や足など余程急所から外れた場所で無い限りは。

普段であれば恐れるところだが、手は不思議と震えていなかった。

 

 

「貴方の手で奪うのよ。 自分の幸せを奪ってきた愚か者の命を」

 

 

期待に満ちている彩子の目。

まるで昼ドラの次の展開を楽しみにしている視聴者のような態度だった。

実際、彼女にしてみればこんなもの遊びに過ぎない。自分が作った「人形」が「悲劇」を起こす。その一連の流れを、ただ眺めて楽しむだけ。

フフフ、と薄ら笑いを浮かべていると卓也のポケットから震動と音楽が流れた。

 

 

「………ぁ………」

 

「あらこんな時に誰からかしら………いいわ、出て頂戴」

 

 

すっかり主導権は彩子に握られている。

何をするにしても彼女の許可があって、始めて卓也は動ける。それほどまでに放心しきっていた。

携帯電話の画面を見てみるとそこには「直江大和」の文字が。

 

 

「クスッ………なんてグッドタイミング。 そのまま誘き出して殺っちゃいなさいな」

 

 

彩子はそのまま出るように指示した。

言葉に従い、卓也はただ通話ボタンを押す。会話する程度の力なら残っている。

ただその会話内容がどうなるか、もう誰も分からなかった。

 

 

『モロ! すまん今どこにいる!?』

 

「………どうしたの大和」

 

『……正直に答えてくれモロ』

 

「………多分、ゾニーの廃工場だけど。 それがどうしたの」

 

 

今の卓也の声色は、素っ気なかった。

疲れきっているという事は勿論、友人と呼べるかどうかも怪しい存在からの電話なのだ。

それに嘘は言っていない。こうとしか言えなかったのだ。

 

 

 

 

 

『モロ………綾鶴彩子と接触したんだな?』

 

「!」

 

 

 

 

疑問系では無い、大和は確信していた。

そしてその名前が出てきたことで卓也の顔に僅かに活力が戻る。

会話内容を拾っているらしい、聞き耳を立てていた彩子の目も僅かに泳いだ。

 

 

『もう誤魔化しはさせねぇ。 ………どうなんだ?』

 

「……………」

 

 

卓也は、黙っている。

どういえばいいのか分からない。―――――そして何故この男がここまでしてくるのか分からなかった。

 

 

「……どうして」

 

『ん?』

 

「どうして………大和は、そこまでして僕なんかを気にかけるのさ。 それをもうちょっと京に向けてあげてもいいんじゃない」

 

 

少し皮肉を込めて返してしまった。

卓也は刹那に思った。これでもう、友達という糸に亀裂が生じてしまったなと。

もうあの温かい場所には、戻れないのだと。

 

 

 

 

 

『うるせぇ!! 友達が心配で何が悪い!!!』

 

 

 

 

 

大和から怒りが篭った声が飛んで来た。

それは当てつけなどではない。聞き分けの無い子供を叱りつけるようなものだった。

思わず携帯電話を耳元から話してしまうほどの声量に卓也も面食らってしまう。

 

 

『何があったかは分からない。 でもな、お前がどう思うと俺はお前が心配なんだよ!』

 

「や、まと…………」

 

『この十数年間で、俺はお前と言う存在を知っている! だから「僕なんか」って言うな!』

 

 

声を通じて、分かった。

この直江大和と言う男は、自分と言う男の価値を知っていると。

 

 

『とにかくゾニーの廃工場だな。 今すぐいく!』

 

「ま、待って大和」

 

 

勢いに任せて携帯電話を切ろうとする大和。

刹那、卓也が待ったをかける。

ギリギリで聞き届けられたようで、大和との通話はまだ続いていた。

 

 

『……どうした?』

 

「大和、出来るならさ。 “一人”で来てくれない? ちょっと“二人”きりで、さ」

 

 

何やらそんな要求を卓也がしてきた。

彩子にとってこれは上手い機転だと褒める。一人になれば相手を殺す絶好のチャンス。そして二人きりという事を強調すれば「綾鶴彩子」と接触していないと油断させられる。

 

 

「僕を………信じてよ、大和」

 

 

最後にそう付け加えた。対する大和の答えは。

 

 

『………分かった。 すぐ向かう』

 

 

承諾の二文字だった。

今度こそ通話が切れたようで、携帯電話からはツーツーと空しい音が流れる。

その音は、この広い廃ビル内に反響していった。

 

 

「フフフ………よく誘き出せたわね、さすが私のお人形さん」

 

「……………」

 

「さて、いつでも来ていいように準備なさい。 私も影で楽しませて貰うわ」

 

 

そう言って彩子は姿を消した。

持ち前の超能力―――――瞬間移動だろうか。と思いきやあの瓦礫の山の裏でクスッ、という笑い声が漏れた。

どうやらあの裏から一部始終を楽しむつもりらしい。

 

 

「……………」

 

 

卓也は何も言わず、ただ大和を待ち続けた。

彼が到着するのは、その約10分後だった。

 

 

「はぁっ、はぁっ………モロ。 まずは無事なようだな、良かった」

 

「…………うん」

 

 

相当走ってきたらしい、入ってきた大和の荒い息遣いがこの空しい廃工場に広がる。

この時間と辿り着くまでの正確性がさすがだと感じる。

だからこそ、手が届かなくて、凄くて、羨ましい。

 

 

「で、どうしたんだモロ」

 

「………ところでさ大和。 この工場って凄いよね」

 

 

まるで大和の話を遮るかのように、卓也はそんな話題を振ってきた。

大和も強引に話しにもぐりこむ気は無いらしい。荒れた呼吸を落ち着かせることもあり、黙って彼の話を聞く。

 

 

「もう廃棄して何年以上かな。 あそこなんか瓦礫が山のようになってる」

 

「……………」

 

「あんなの退けたら、何かお宝とか見つかるかもね」

 

 

そんな他愛も無い話だった。

油断させるための一手か、とその瓦礫の山の裏で彩子はほくそ笑む。

 

 

「………話はそれだけかモロ」

 

「うん」

 

 

断言しきった。

卓也の微笑に合わせて大和も微笑み返す。

 

 

「そうか。 それじゃ…………」

 

 

大和もそれ以上の話はないらしい。

手を伸ばそうとしているその様子を瓦礫の裏から彩子は覗いていた。その瞬間こそ最も油断した時。

素手で手を伸ばすなど、最も無防備で、最も大勢の変更が利き辛い瞬間。

彩子は期待した。卓也が隠しているそのナイフで、大和を貫くその光景を。

 

 

 

 

 

 

「伏せろモロ!!」

 

「アイ・サー!」

 

 

 

 

 

 

―――――見ることは無かった。

まるで計っていたかのように、大和が体勢を屈めた。それに合わせて卓也も身を屈める。

すると彼らの頭を飛び越すかのように鋭い何かが飛来してきた。飛来してきたそれは、瓦礫の山に突き刺さる。

 

 

「なッ!?」

 

 

彩子には見えた。飛んできたものの正体を。

 

 

 

 

 

 

――――――それは矢のレプリカ。最も、先端に爆薬を括り付けて。

 

 

 

 

 

3秒も間を空けず、それは爆発した。

瓦礫が吹き飛び、一斉に舞う。瓦礫は粉々に砕け散り、精々礫程度の大きさとなって降り注ぐ。

おかげで屈んでいる大和と卓也にもこれと言って怪我は負わなかった。

 

 

「くっ………これはどういう事なの!?」

 

 

煙が晴れて数秒後、彩子が姿を現した。

彼らの真上を取るかのように浮いている。念力で浮いているのだろうか。

だが立ち上がった大和の関心はそこにはなかった。

 

 

「さっすがモロ。 俺好みの暗号にしてくれたな」

 

「へへ。 大和こそ。 ちょっと捻ったつもりだったのに解読しちゃって」

 

「な、何よ………何なのよ!?」

 

 

まるで息ピッタリのコンビと言わんばかりにハイタッチを交わす二人。

そこには、憎しみも何も無い。ただ笑顔があるだけ。

不快な物を眼にしたと言わんばかりに彩子の顔が焦りで歪んでいく。

 

 

 

 

 

 

「綾鶴彩子だっけ? ………お前ハメられたんだよ、モロに」

 

 

 

 

 

大和がそう言いきって見せた。

信じられない、と彩子の唇がカタカタ震える。先程まで己の醜い嫉妬で精神を打ちのめされた男が、こんなに咄嗟の機転を、しかも自分を裏切るなどと。

少なくとも彩子の暗い人生の中で、例外は無かった。今まで。

 

 

「ど、どういうつもりなの貴方!! その男が………憎くないの!?」

 

「まぁ憎くないったら嘘になるね」

 

「おいモロ本人目の前にして酷くね?」

 

 

あっさり言い放った。

さすがに傷ついた表情を見せる大和であったが、卓也は遠慮なく言う。

 

 

「でもね、大和と積み上げてきたこの十数年間も嘘じゃない」

 

「な……によそれ………」

 

「僕が大和に感謝したこと、嫉妬したこと、喧嘩したこと。 全部、本物なんだ」

 

 

卓也が自分の胸に手を当てる。

もう言い訳はしない。確かに大和を羨ましく思った。事実だ。京との関係に嫉妬したりもした事実だ。

―――――それでも、大和と一緒にいることも楽しかった。これも事実。

彼はもう、事実から目を背けなかった。

 

 

 

 

 

「だからさ、好き嫌いも含めて………大和は大切な友達なんだよ」

 

 

 

 

 

完全な、彩子との決別だった。

彩子の顔に青筋が次々と浮かんでいく。

 

 

「だから………こんなものもう要らない!」

 

 

ポケットに仕舞ってあったナイフを、躊躇うことも無く投げ捨てた。

金属音が空しく滑っていく。

対する彩子の顔は、もう怒り以外の何者でもなかった。

 

 

「……よくも……よくも人形の分際で私の楽しみをメチャクチャにしてくれたわねっ……!」

 

 

怒りをあらわにした彼女にもはや冷静さなど欠片も存在しない。

手を掲げると一斉周りに転がっていた瓦礫や鉄骨が持ち上がる。しかし百代のように莫大な気を纏っているわけでもなく、まるで重力を失ったかのようにふわりと持ち上がった。

見ただけで重量は100キロを超えるであろうその重量を、彼女は超能力によって可能にしていた。

 

 

「いいわ………貴方達も所詮“これ”と同じ………スクラップにしてあげるっ!!」

 

 

持ち上げている瓦礫や鉄骨と同じようにしてやろうと、手を振りかざしかけたその時。

またもあの矢が彩子に向かって飛んできた。

しかも正確無比に、喉と言った急所目掛けて。

 

 

「くっ!?」

 

 

咄嗟の瞬間移動でその矢を避けた。

だが同時に念力を操ることは出来ないらしい、浮いていた瓦礫や鉄骨が豪快な音を立てて地面に落ちて行った。

再び空中に現れた彩子は入口を睨みつける。

この廃工場に窓は存在しない。矢が飛んでくるとすれば、その入口しかないのだ。

 

 

「誰!? 私に向かってこんなことをする無礼者は!!」

 

「無礼? どっちが無礼なの? ………私の友達と未来の夫に向かって………」

 

 

答えは案外早く返ってきた。

矢を放ったであろうその人物は悠々として入口から現れる。

手には弓、背中には矢立てを差し、その目は猛禽類のように鋭い。

 

 

 

 

 

「椎名京………参る!」

 

 

 

 

 

知る人ぞ知る天下五弓の一人、京だった。

すると彩子の方もある程度納得したようだ。何せ室内にいる人物を矢で正確に狙撃し、尚且つ彼らをこんな出鱈目とも言える芸当で救って見せる人物など彼女くらいのものだからである。

 

 

「どいつもこいつも………愚か者がァァァァァァッ!!!」

 

 

怒りに身を任せ、彩子が腕を振るった。

すると転がっている瓦礫や鉄骨が浮かびながらこちらに向かってくる。

 

 

「大和、モロ! 伏せて!」

 

 

彼らに伏せるよう指示した京が跳躍した。

この指示は特に動くな、という警告でもある。素直に従い、二人は頭を抱えて蹲る。

京は飛び上がることで飛来物を避け、上空から矢を連射する。

 

 

「無駄よ」

 

「!? どこ………」

 

 

だが彩子は一瞬にして消えてしまった。お得意の瞬間移動である。

京の視力は天下五弓として常人のそれを遥かに上回る。が、逆に言えば相手に狙いを定める際に凄まじく視力を使い、相手を拡大している。望遠鏡と同じだ。

対象が消えれば、それを眼で追うのは大変なのだ。慌ててピントを調節するも、彩子は既に京の背後を取っていた。

 

 

「京! 後ろだ!!」

 

「もう遅い!!」

 

 

それに気付いた大和が声をかけるも、彩子の行動が早かった。

彼女は両手を突き出すことで念力を飛ばし、京を地面に向けて吹き飛ばした。

 

 

「ぐうっ!! ………まだまだ………」

 

「しつこいわね……じゃぁ、こういうのはどうかしら?」

 

 

背中から打ち付けられてしまった京。だが武士娘として日頃の鍛錬は怠っていない。

受身を取り、受ける衝撃を減らしたのだ。

そのため大和達が想定していたほどのダメージは無く、すぐに立ち上がってみせる。彩子も厄介だと感じたのか、地面にふわりと降り立つ。

 

 

 

 

 

「椎名京と言ったわね。 ………貴方のトラウマ、思い出させてアゲル」

 

 

 

 

 

彩子から、黒い光が広がった。

 

 

「くっ!?」

 

 

黒い光が京を飲み込んだ。

咄嗟に腕を交差させて防御体勢を取るも、光はまるで泡のように呆気なく包み込んでくる。

防御が無駄だと分かるや否やすぐに体勢を変え、弓を構える。

辺りは一面真っ黒に染まった。彩子は愚か、大和や卓也の姿も見えない。

 

 

「大和! モロ! 大丈夫!?」

 

 

視界を黒く染めるだけの技かもしれない。

まだ技の全容が見えない以上、目立った動きをすることは好ましくなかった。

大和達の安否を確認するも、声が返ってこない。否、声は返ってきた。

 

 

 

 

『お~い、そこの椎名菌! 死んじまえ!』

 

 

 

 

聞きたくなかった、あの言葉で。

 

 

「え………?」

 

 

振り返るとそこには小さな少年がいた。

明らかに悪ガキという格好をしている。その少年の言葉は、自分の向けていったものではない。

その先に膝を抱えて蹲る少女に向けて飛ばしたものだ。

 

 

『やーい椎名菌!』

 

『おいやめとけよ~伝染(うつ)っちまうだろ~』

 

『違いねぇ違いねぇギャハハハ!!』

 

 

見覚えがあるこの光景。

大勢がたった一人を取り囲んで、この上ない罵詈雑言を浴びせる。そして少女はその中心の中でただ泣いていた。

――――見たくなかった、思い出したくも無かったこの光景。

 

 

「わ……たし………?」

 

 

間違いない。これは過去の自分の記憶だ。

小学生の頃、周囲から事あるごとに「椎名菌」と揶揄されては除け者にされ、まるでゲームを楽しんでいるかのように苛めてきた。

当時、父親から弓術を習っていても集団という力に孤独は勝てなかった。彼女自身の性格が控えめという事もあり、言い返すことも出来ない日々。

 

 

『お前の母さん、インバイなんだってな~』

 

『もう学校に来ないでくれる~? 汚いー』

 

『親がインバイなんだからお前もインバイなんだよな! アハハハ!!』

 

 

苛められる原因を作り上げたのは、紛れもない母親。

父親と結婚しておきながら他の男に身体を許す。それがいつしか広まり、小学生でありながらこんな滅多に聴くこともないであろう侮辱の言葉が当たり前になってしまった。

学校来るたびに毎回毎回降りかかる心の刃。生きることすら苦痛と感じる日々。

 

 

「あ………ぁ………」

 

 

本来、京ら武士娘は暗示をかけても打ち破れる精神力がある。

だがこれは暗示などではない。自分の記憶の奥底に封印してきたものが、蘇ってしまったのだ。

いつしか、京がカタカタと震えている。自分の肌に、頭に、心に。痛みが再び刻み込まれていく。

 

 

               『インバイ! インバイ!』

 

                      『こっち来んな! 汚ねぇんだよ!』

 

     『うわぁ! 椎名菌がこっち見てる! 伝染っちゃうよ~』

 

『あっち行け! しっしっ!』

 

               『椎名菌マジ椎名菌。 さっさと死んじまえばいいのに』

 

 

取り囲んでいる人数が更に増えた。

比例して浴びせられる汚い言葉の数も増えていく。こちらを見ている顔も、まるでゴミ扱い。

歪んだ笑顔が黒く見え、こちらを嘲笑う。

囲まれている京は、膝を抱えて蹲り、もう脇目も振らず泣いている。誰かに助けを求めるかのように。

 

 

 

 

 

 

誰も、手を取ってくれないこの空間の中で。

 

 

 

 

 

「………やめ、てよ……やめてよ……………」

 

 

 

 

京はただ、顔面蒼白でその光景から逃れることが出来なかった。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

――――――――――

 

 

――――――

 

 

――――

 

 

 

 

 

「おい! 京! どうしたんだ!!」

 

「京! 返事して!!」

 

 

大和と卓也には、何が起こったのか分からなかった。

黒い光が京を包み込んだと思ったら、彼女はただ呆然と立ち尽くしているだけなのだ。

しかも顔色が青すぎる。明らかに精神に異常をきたしている。

眼を覚まさせようと必死に呼びかけるも、まるで届いていないと言うほどの棒立ちだった。

 

 

「フフフ………無駄よ。 あの女は自分のトラウマに押しつぶされているの」

 

「! 京に……一体何をしたんだ!!」

 

「ただ懐かしい光景を見せてあげてるだけ。 ……椎名菌って愉快な仇名もあったのね」

 

 

刹那、大和が拳を振るった。

思ったよりもキレのあるストレートだったらしく、彩子は一瞬にして瞬間移動を使用する。

拳こそは空を切ったが間違いなく、彩子は大和の拳を恐れた。

 

 

「………てめぇ、京のトラウマ利用するとかえげつないことしてくれるんじゃねーか。 結構俺好みだぜそのやり方………」

 

「っ………の割には怒り心頭って顔ねクソザル!!」

 

 

この女がどんな手口で京を傷つけているか、大和には分かった。

持ち前の読心術を応用している事ぐらい。だが今の大和にそんなメカニズムは興味の対象では無い。

ただこの女が気絶すれば京も助けられるはず。

いざとなれば特攻してでも――――その覚悟が大和には勿論、卓也にもあった。彼は今、大和以上に恐ろしい表情をしている。

 

 

「どっちがクソだ……! まともな勝負もしねぇで俺の友達を傷つけやがって……!」

 

「アハハハ!! 元はと言えば貴方の隣にいる男が原因よ! そいつがいたからこの女は苦しんでるの! 違わなくて!?」

 

 

彩子は指差した。卓也に向けて。

しかし、件の彼は神妙な顔をしている。まるで正面から向き合うかのように。

 

 

「……確かに、原因は僕にある。 だからこの後怒られもするし、必要だったら殴られもするさ」

 

 

彼は、もう逃げないことを誓った。

まるで今までの自分と決別するかのような。隣にいる大和も、思わず微笑んでしまうほどの決意に逆に彩子の顔が歪む。

 

 

「でも………それと京を傷つけることは別だ!!」

 

「そういうこった。 それにな………京をあんまりナメんじゃねぇぞ」

 

 

大和は立ち尽くしている京に向き直った。

未だに顔面蒼白、自失呆然という四字熟語そのものとなってしまった彼女に。

 

 

「京!! いつまでウジウジしてるんだ!!!」

 

 

らしくない、大和の大声。

傍にいる卓也もここまで大和が声を大きくすることを見たことが無かった。

しかもその声には少々怒りが篭っている。

 

 

「昔の事いつまで引きずってる!! いい加減振り切れ!! お前は一生立ち止まっていいのか!? いいワケねぇだろうが!!!」

 

 

精一杯、腹の底から声を出す。

僅かでもいい。京の耳に届けばいい。そしてそのついでと言っては何だが、日頃感じている疑問をぶつけた。

今でこそ友達であるが、このままではただの「苛められた人と助けた人の図式」でしかない。友達を、そんな非対等な関係にさせることは絶対に許さない。

 

 

 

 

 

「お前なら絶対にそんな過去捨てられる! それでも無理って言うなら………」

 

 

 

 

打ち破って欲しい。忌々しい過去。

だが大和も知っている一人だけでは出来ることと出来ないことがある。

 

 

 

「京!! 昔、俺は言ったよな! お前がどう受け取ったは分からないが、俺は言った!!」

 

 

 

力になりたい。ただ助けるのではなく、この一瞬が「彼女自身の力」に。

そのために、大和は力の限り叫んだ。

 

 

 

 

 

「これからはもう大丈夫だ……俺がいる、って!!!」

 

 

 

 

 

―――――僅かに、京の指が震えた。

 

 

「俺だけじゃない! キャップも、姉さんも、ワン子も! ガクトにゲンさん、クリスとまゆっち! クッキーだって………モロだっているじゃないか!!!」

 

 

内心大和も自分らしくない熱さだと自覚している。

軍師、という称号には程遠い熱血漢になってしまったものだと理解している。だが構わない。

どれだけ無様になろうが、どれだけ笑われようが。この言葉、この思いが京自身の力になれるのならばその程度どうって事は無い、と。

 

 

「何があろうと皆がいるんだ! だから………負けるんじゃねぇ!! 京ぉ!!!」

 

「さっきからギャーギャーと煩い獣ね」

 

 

演説ご苦労様、と言わんばかりに目の前に彩子が現れた。

彼女の真上には大量の鉄骨が浮かんでいる。

 

 

「煩い獣は………醜く潰されてしまいなさい」

 

 

手を、振り下ろそうとした。

そうするだけであの鉄骨達は彩子の意思に従い、大和達に向かっていくだろう。

勢いと重量を持つそれをぶつけられれば、彼女の希望通り大和達は一瞬で大量の血をばら撒きながら死ぬことになる。

 

 

 

 

―――――それを妨げたのは、一本の矢。

 

 

 

 

「なっっぐうぅぅぅ!?」

 

 

 

 

背後から放たれたそれは、彩子の延髄部分にクリーンヒットした。

意識が一瞬途切れたのか、浮かんでいた鉄骨がそのまま力なく落ちていく。その衝撃波が更に真下にいた彩子を吹き飛ばした。

華奢な体格が災いし、醜く転がっていく。

 

 

「げほげほっ………き、貴様ァァァ………ッ!」

 

 

相当な衝撃だったらしく、彩子の頭から血が流れていた。

もうそこにあの柔和で冷徹な微笑を浮かべていた彼女はいない。いるのはただ、己の凶暴性に目覚めた「綾鶴彩子」であった。

対するは、対照的と言わんばかりに冷静になって弓を構えるあの女性。

 

 

「……ありがと大和。 おかげで色々目覚めた」

 

 

―――――椎名京は、恐らく今までの人生で一番の笑顔を向けた。

 

 

「京………」

 

「悪夢からも、私がこれからしなきゃいけないことも、大和によるドSプレイにも」

 

「おい最後! 最後この流れで言うか!?」

 

 

いつも通りの彼女だった。

突っ込みながらも、大和は安心感を覚える。そして大和とは違った笑顔を、卓也にも向ける。

 

 

「モロもありがとう」

 

「京…………」

 

 

そうだ、自分はこの笑顔が見たかったんだ。

一つ、己の中でそんな答えが出せた気がする。卓也は、それを見ただけで胸が軽くなった。

今まで圧し掛かっていたものが一気に消えていくのを感じる。

 

 

「………ハ、アハハハハ!! 何をノコノコでしゃばってるのクズ女!!」

 

 

再び彩子が浮かび上がった。

傍らには大量の鉄骨や瓦礫を浮かべている。

最早狂気そのものとしか呼べない、悪魔にも近い顔だ。

 

 

「椎名菌!? ふん、そんな程度(・・・・・)で喚いていた女が!! 私はもっと、それ以上の苦しみを味わってきたわ!!」

 

 

まるで自分の方が苦労した、とでも言わんばかりにえらそうな口調だった。

逆切れ、という言葉が相応しいかもしれない。

冷静に弓を構える京だが、哀れにしか聞こえなかった。

 

 

「インバイ!? それが何なの!? 私はねぇ……生まれ以って、こんな力を持っているものだから怖がられたわ!! それもう化け物呼ばわりされて!!!」

 

 

誰も聞いていないのに、勝手にカミングアウトしている。

その姿はもう、ただ八つ当たりにしか見えない。しかし京はその様子を受け止めていた。

どこかで共感しながら、どこかで軽蔑しながら。

 

 

「それを救ってくれた男がいる……!? 私にもいるわよ(・・・・)! だから……貴様だけが、ヒロインを演じるな! 私の前で!! うざったるいんだよおおおおおおおおおお!!!」

 

 

更に持ち上がる瓦礫の数が増えた。

瓦礫だけではない、積まれていたコンテナも持ち上がっていく。

さすがに周りを警戒する大和と卓也だったが、京は一切動じない。寧ろ、目の前の女の“正体”が分かってしまい、更に軽蔑してしまっていたから。

 

 

「大和………私分かったよ。 ……この女が、何なのか」

 

 

一切振り向かず、そのまま告げる。

 

 

 

 

 

「コイツは……“私”なんだ。 成長できなかった、私なんだ」

 

 

 

 

 

―――――勝手にレッテルを張られ、蔑まれて、そして救われて。

まるで人生が姉妹であったかのように寄り添っていた。だから一部共感も持てた。その一方で実に見苦しく思えた。

他人を拒絶して、他人を見下して、一部だけに心を許して。

もし、京があの悪夢に押しつぶされていたなら―――――きっとこの綾鶴彩子のような人間になっていただろう。

 

 

「大和……正直ね、今の生活だけで幸せだったんだ」

 

「………………」

 

「他の人間なんか要らない。 ファミリーの皆が………大和がいてくれればいいと思ってた」

 

 

彩子の超能力は激しさを増す。

念力が強まってきたのか、壁際のパイプが次々とへこみ、潰れていく。

持ち上がったコンテナも恐ろしい音を立てながら圧縮されていった。

 

 

「だけど、それじゃダメだって気付いた。 ……こんなんじゃ好きになってもらえるはずないよね」

 

 

京はただ、相手を眼だけで射抜く。

弱い自分。強くなれなかった自分。他を拒絶し続けた自分。それが目の前の綾鶴彩子という「醜い自分」なのだと理解した。

その酷さを見せ付けられれば、清々しいまでに笑えてくる。自分の酷さに。

 

 

「私は成長しなきゃいけない。 皆と一緒に」

 

 

彼女も、卓也と同じだった。

もう逃げない。歩むことから逃げない。向き合うことからも。

だから彼女の眼はこれ以上ないくらいに真っ直ぐだ。―――――これを見て、微笑まない仲間がどこにいるのだろうか。

 

 

 

 

「だから、コイツは………私が倒さなきゃいけないんだッ!!!」

 

「ほざけぇぇぇ!! “私”気取りのクソ女があああああああああああああ!!!」

 

 

 

 

京が、矢を放った。

空を突き抜けるその矢は、まさに流星を髣髴とさせる。

矢を叩き落すべく、彩子は浮かび上がった物体を次々とぶつけようとする。瓦礫、鉄骨、コンテナ。その全てを追い抜き、矢は飛びぬく。

 

 

(速…………!?)

 

 

今までに無い速さの矢だった。

――――矢の速度は、威力に匹敵する。嘗て与一が放った矢もその威力に恥じない速度を持っていた。

京が放った、この矢もその速さを持っている。否、それ以上の速度。

彩子が危機を感じ取った時には、もう遅かった。

 

 

「ぐべぁ!!?」

 

 

矢が喉に当たる。

凄まじい衝撃が喉に加わり、彩子は醜い声を上げながら落ちていく。

その瞬間、浮いていた瓦礫も、鉄骨も、コンテナも。彼女に合わせて地に落ちていった。

 

 

「げほげほげほッ………ぐ……ァァアア………」

 

「……………」

 

 

強烈な一矢を受けた彩子は脇目も振らずに咳き込む。

彼女は今、完全に京の目の前で跪いていた。

京は彼女を「弱い自分」と割り切っている。そしてその「弱い自分」は京の前で屈している。これが意味するものは即ち。

 

 

「京……やったな………」

 

 

新たなステップアップである。

閉鎖的で、虚無的で、そして一部だけに開放的。それらが作り上げた醜い偶像。

それとの完全な決別。大和は惜しみない賛辞を送った。

 

 

「……貴女は、私に勝てない」

 

「な、ンですって………ゴホゴホッ」

 

 

絶対的な自信が京にはあった。それは節理とでもいうべき圧倒的な差。

今まで他人を玩具にしか扱わなかった彩子にとって屈辱以外の何物でもない。

歯を食いしばり、握り拳を固める。

これ以上下に見下されたくない。見下されれば―――――彩子にとって、あの地獄の日々に逆戻りになる。その光景が脳裏に蘇った瞬間。

 

 

「ゥゥウウガアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

「っ!?」

 

 

彩子が吠えた。

両手を突き出し、念力を飛ばす。瞬時に防御態勢に移行する京であったが、念力は彼女に向けられたものではない。

天井に亀裂が走り、鉄骨や瓦礫が真っ逆さまに落ちてくる。――――大和と卓也に向って。

 

 

「大和! モロ!!」

 

 

京の勝利に油断しきっていたためか、大和と卓也もその場から動けなかった。

見ただけでも卓也も、大和も回避行動が間に合わない。

武士娘ほどの鍛錬を行っていない彼らではあれらの直撃を受ければミンチ確定だ。

 

 

「アハハハハ!! さぁ椎名京!! 貴様はどうする!!?」

 

 

問いかけてくる彩子。その問いかけの真意は、「京がどちらを救うか」だ。

確かに今の京にはどちらかしか救えない。

彼女の狙撃技術があれば落下物を逸らせることくらいは容易い。しかしその数があまりにも多く、また大和と卓也両方に向かってくるそれを全て叩き落とすことは出来ない。

京には、その二択が迫られていた。

 

 

「…………彩子ぉぉぉぉぉっ!!!」

 

 

だが、京はそのどちらもとらなかった。

彼女は一気に間合いを詰め、彩子の首を掴み壁に叩きつけた。苦しさに顔を歪める彩子であったが、すぐに狂気の笑い顔を向ける。

 

 

「フ、フフフ………そう。 貴女はどちらもとらずに憎しみに身を任せるのね……イイ、最ッ高に愚かだわ!」

 

 

寧ろ彩子としては嬉しい誤算であった。

今の彼女に京を倒す術はなかった。ならば最後の悪あがきとして彼女の大切なものを奪う。

京が二人を助けず、己の憎しみを頼りにとどめを刺す。彼女にとって最高に悲しく、残酷な結末が待っていることを彩子は知っていた。

 

 

 

 

 

「………だから言ったでしょ。 貴女は、私に勝てないって」

 

 

 

 

 

だが、京の顔はそれ以上に穏やかで冷静だった。

思わず彩子が呆けてしまうほどに。動揺など一切なかった。

 

 

「な、何を…………!!」

 

「だって、私には………」

 

 

彼女は、確信していた。

確かにこの状況では大和か卓也しか救えない。しかしどちらかだけを救っても意味はない。両方救ってこそ意味がある。

そんな芸当、彼女一人だけでは無理だ。

 

 

 

 

 

「私には………仲間が! 風間ファミリーがいる!!」

 

 

 

 

 

この工場に幾つもの影が突入してきた。

ある者は窓を破り、ある者は入り口から突入し、そしてある者は壁そのものを突き破ってきた。

飛び込んできた影たちはそれぞれ落下物に向かう。

 

 

「川神流奥義、崩流落!!!」

 

「黛流十二斬!!」

 

 

無数の拳と斬撃が激しく振われた。

拳の一つ一つが瓦礫を木っ端微塵に打ち砕き、斬撃の一つ一つが鉄骨を細切れにしていく。

だがそれでも捌き切れないほどの量がある。

 

 

「大和、こっち!」

 

「モロは自分に任せろ!!」

 

 

だからこそ、更に二つの影が二人を抱えを挙げた。

彼らを落下物に巻き込まれない位置まで避難させる。連れてこられた先には、男達が待ち受けていた。

 

 

「大和、モロ! 無事で何よりだ!」

 

「おおお! モロ! 俺様気づいてやれなくてすまん!」

 

「だが目立った怪我はねぇな。 ……救急箱、やっぱり不要だったか」

 

 

そう、それは仲間達。

京が最も信頼し、最も愛してきた仲間達。誰よりも頼りになり、誰よりも大切な。

そんな心強い仲間達が今、ここに集まった。

 

 

「き、貴様ら………何よ貴様ら………何なのよぉぉぉおおおおおおおっ!!?」

 

 

最後の悪あがきすら、邪魔立てされた。

何もかもが滅茶苦茶にされ、彩子は怒り狂う。

自分を悉く邪魔してきた存在。それこそが京にとって最も大切な「居場所」。

 

 

「川神院、川神百代! ……仲間を傷つける奴は、美少女であろうと許さん!」

 

「同じく! 川神一子!!」

 

「悪滅ぶべし!! クリスティアーネ・フリードリヒ、推参ッ!」

 

「黛由紀江………大和さんだけでなくモロさんを傷つけたこと、許しません」

 

 

川神内でも、最もその武力を有するであろう武士娘達が今ここに集った。

しかも一人一人が尋常ではない殺気だ。特に武神と呼ばれし百代と剣聖黛十一段の娘である由紀江のその殺気は他を凌ぐ。

こんな人街の連中に囲まれては、彩子もただ戦意を喪失するほかなかった。

 

 

「女の子であろうと仲間は傷つけさせねぇ!! 島津岳人!」

 

「なんだこれ俺も名乗るのか……源忠勝。 ……とりあえずケジメは取ってもらうぜ」

 

「そして皆、この風間翔一の仲間! 覚えておきな!!」

 

 

武士娘ほどでもないが、男性陣の誰もが拳を固めていた。

女の子相手ならば手加減を信条とする岳人ですら、彩子相手に拳を振るいかねないほどの殺気を叩きつけている。

無論忠勝も翔一も最初から容赦する気などなかった。

―――――もう逃げようがない。彩子は京に捕まれながら、ただ震えることしかできなかった。

 

 

 

「これが私の大切な………風間ファミリーの力!」

 

 

 

京は信じていた。彼らが駆けつけてくれると。

どんな危機も、どんな逆境も。このチームならばあっさり打ち砕いてくれると。そして京は誓った。

彼らと共に新たな一歩を踏み出す、新たに成長すると。

綾鶴彩子は、そのための単なる通過点―――――ではなく、障害に過ぎなかった。

 

 

「そして……私の仲間を傷つけたお前を………今、ここで!!」

 

 

京は拳を大きく振りかぶった。

逃れたい彩子であったが、元より超能力のみを頼りにして生きてきたため腕力では敵いはしなかった。

かといって瞬間移動は触れられている状態では京とまでもついてきてしまう。

 

 

 

―――――つまり、もう詰んでいた。

 

 

 

「たああああああああああああっ!!!」

 

「うぎゃああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

 

 

渾身の右ストレートが、歪んだその顔に食い込んだ。

容赦ない一撃が彼女を壁に埋める。

亀裂が走るほどの威力だった。ここまで京が肉弾戦で圧倒することは非常に珍しく、風間ファミリーの面々も戦慄するほどだった。

やがて煙が立ち上る拳を引き抜く。手を離せば、彩子は醜く地に這いつくばった。

 

 

「京、お疲れさん」

 

「大和! 勝利のキスを!!」

 

「お友達で」

 

「………ま、いいか。 今はまだ、ね」

 

 

相変わらずのアプローチ、相変わらずの対応。

それでも京はめげなかった。だがそれでも彼女の反応が少し変わったことに百代達は少々驚いている。

 

 

「おっ、京がちょっと穏やかだな」

 

「ですね………何といいますか、前に進んだかのような」

 

「成長期というヤツだな! 自分は常に成長期だが」

 

「ふふーん! 成長期ならアタシだって同じよクリ!」

 

 

女性陣はもう、日常通りの会話を繰り広げていた。

これ以上ないくらいに安心したかのように。京の変化に少し感心しながら。

同じく翔一達も、今回の黒幕が文字通り叩き潰されたことですっかり解決ムードになってしまう。

 

 

「でも超能力かー。 俺ももうちょっと見てみたかったなー」

 

「何言ってんだこちとら気が気じゃなかったんだぞ。 ……あ、いや心配とかっつぅ意味じゃなくてだな」

 

「そうだぞキャップ! モロが! モロが巻き込まれたんたぞぉおおおお!」

 

 

最近の岳人は、妙に卓也に優しかった。

苦笑いしつつも大和も一息つく。

 

 

「ウチらの強さはキャップのネアカさだな………ん?」

 

 

そう分析しながらふと眼をやった時だ。

京の後ろで倒れているはずの彩子がいなかったのだ。彼の視線に気づいたらしい、京や卓也が辺りを見回す。

だが一向に彼女の姿を発見できない。

 

 

「あれ!? また瞬間移動で逃げたの!?」

 

「いや、確かな手応えがあった。 完全に気絶したはず………あ!」

 

 

確かに卓也の言うとおり瞬間移動で逃げたのかもしれない。

が、仕留めた京本人が直々に否定した。確かにあれだけの威力をもって殴りつけたのだ、気絶しないほうがおかしいだろう。

となれば何者かが介入したに違いない。注意深く見渡すと京がその姿を発見した。

それは百代が突撃してあけた穴に立つ、彩子を抱えた男だった。

 

 

「誰だ貴様!!」

 

 

百代の発声がこの工場を揺らす。

しかし男は微動だにしない。分かることと言えば、革のコートにテロガンハットを被ったガンマンのようなルックス。

口には煙草を加えており、顔には皺などが見られず若さを醸し出しているその顔。

 

 

「………………」

 

「答える気がないのなら捕らえるまでだ!」

 

 

瞬時に百代が飛ぶ。

彩子と関係がある時点で真っ白な人物、ということはあり得ない。

拳を固めたうえで男に肉薄した。が、男はせせら笑いを浮かべるだけだった。

 

 

「…………さて問題。 貴方はどっちを選ぶでしょーか?」

 

「何!?」

 

 

突然、そんなことを言ってきた。

まるで既に自分のペースとでも言わんばかりの余裕さだ。

むろん百代はそんな言葉だけでは止まりはしない。剛拳が唸りながら飛ぶ。しかしその背後で金属が跳ねた。

 

 

「A、この俺の首を取る」

 

 

その音が気になり、百代は振り返った。

―――――ようやく理解した。この男の余裕の正体が。

 

 

「B。 ………仲間の命をとるか。 さぁどっち?」

 

 

手榴弾だった。

しかも見るからに威力の高さを窺わせる大きさであり、しかもピンが引き抜かれている。最悪なことにそれがよりにもよって大和の目の前に落ちている。

自分達に気づかれないように、この男が投げ込んだのだ。

犯人を捕らえるか、仲間を守るか。百代の天秤は、あっさり傾いた。

 

 

「大和ッッ!!」

 

 

仲間に、速攻で傾いた。

例え大和の目の前でなくとも瞬間回復と尋常ならざる肉体をもつも百代以外のメンバーでは手榴弾などまず耐えられるはずがない。

それを抑え込むことが出来るのはこの場ではも百代しかいない。

百代は標的を手榴弾に変更し、そして一瞬のうちに抑え込んだ。

 

 

「川神流、圧縮術ーっ!!!」

 

 

手榴弾が爆発した。

が、爆風は百代の両手の中に収まりそれ以上広がることはなかった。そしてまるでおにぎりを潰すかのように、百代はその爆風を抑え込み、潰した。

彼女の手の間から焦げ臭い匂いが僅かに漂う。

 

 

「姉さん、大丈夫!?」

 

「ああ。 私は大丈夫だ、瞬間回復があるし。 だが…………」

 

 

百代は爆発程度では一切動じない。

それでも大和は心配で思わず駆け寄ってしまった。彼の気遣いに答えながら百代は火傷から回復する。

寧ろ忌々しいのは、爆風に気を取られ、彩子ごとあの男を逃がしてしまったことだった。

 

 

「……逃がしてしまったか」

 

「俺の疾風号で追いかけようか!」

 

「待ってくださいキャップさん。 もうこの近辺にはいないようです」

『まゆっちレーダー、探知力の変わらないただ一つの探知機』

 

 

手榴弾などを兵器で放り込む輩を善人呼ばわり出来る筈も無く、忌々しそうにクリスがあの穴を見つめる。

すぐさまバイクに跨ごうとする翔一であったが、由紀江に止められた。

探知が得意であり達人の域に達している彼女の提言だ、狂いは無い。口を尖らせながら翔一もその足を止めた。

 

 

「でも京もモロも大和も無事でよかったわ」

 

「ああ、皆来てくれてサンキュな」

 

「当然。 ファミリーの危機に駆けつけてこそだ」

 

 

とりあえず彩子は迎撃出来た、と川神姉妹は安堵のため息をつく。

大和の召集メール一つで即全員が駆けつけてくれる。

この結束力こそ、何よりの風間ファミリーの強さの秘訣だ。微笑んでいる忠勝と岳人であった、がすぐにその顔を引き締める。

 

 

「さて、エンディング気分で悪ぃけどよ。 もう一つつけなきゃいけねぇケジメがあるぜ」

 

「だな。 ………そうだろ、モロ」

 

 

彼らは皆の無事を喜ぶ一方で、責任からは逃げなかった。

そう、彼らにはまだ「ケジメ」が残っている。

―――――師岡卓也。巻き込まれただけ、という見方も出来るが一切責任が無いかと言えばそれは違う。

卓也もそれを理解しているようで、首を縦に振った。

 

 

 

 

 

「………うん。 皆、ごめんね。 そして聞いて欲しいんだ」

 

 

 

 

 

彼の瞳は、どこまでも真っ直ぐだった。

 

 

 

 

 

続く

 

 

 

 




冬ですね。寒いですね。この時期って意外と「恋」が温まるか冷めるかの瀬戸際って話を友人から聞かされましたテンペストで~す。
京編もクライマックス、京編は次回で終わりとなります。それにしても京編を執筆するに当たりまじこい1の京ルートやり直したんですがやっぱりいいですね。友情って何なのか、学ばされます。
個人的にワン子ルート=感動、由紀江ルート=可愛い、京ルート=成長、百代ルート=熱い、クリスルート=貫く、っていうテーマがあるんじゃないかと思っています。
ワン子編やクリス編もそうでしたが、極力執筆の際にはこの持論を元にやっています。皆さんはどう感じますかね?
人によってそれぞれ考えが違ってきたり、それがどう反映されるかも小説の面白みと言えます。ので機会があればそんな意見交換もしてみたいです。
さて再びになりますが京編は次回で最終回。どうケジメをとり、どう「成長」するのかお楽しみに。
それでは感想ご意見、お待ちしております!
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