真剣で私に恋しなさい!X   作:テンペスト

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第二十六話 昇る

―――――もう日が沈もうとしている、港の廃工場。

そこで師岡卓也は仲間達に向けてここ数日の行動を全て説明した。

綾鶴彩子との接触、彼女からの至言、そして今日自分が取った行動。仲間達は責めるでも、同情するでもなくただそれを聞き届けた。

最も自分の思いや大和に対する感情は口にはしなかった。理由にもならないし、口にするのは失礼に値するから。

 

 

「………と、いうワケなんだ」

 

「なるほどな。 とは言え皆に相談すべきだったと思うぞ」

 

 

クリスの一言は最もだった。

どんな感情があろうが、せめて大和以外の面子には相談するなり愚痴るなりする選択肢もあったはずだ。

卓也もそこは反省点のようで唸りながらも受け止める。

 

 

「ま、何はともあれ私的にはモロロも京も、大和も無事だったんだ。 良しとは思うが」

 

「そうね! これで無事じゃなかったら大騒ぎになってるわ」

 

 

川神姉妹は元から卓也を叱りつける気は無かったようだ。

それは卓也が最後まで仲間を思って行動したからこその結果。彼女の一言に仲間達―――当然大和も頷く。

一番被害を被っても、こうして真摯に受け止めてくれる友人に改めて卓也は申し訳なさと感謝を覚える。

 

 

「はい。 ………でも失礼ながらモロさん。 まだ残っているのでは?」

 

『自分で宣言したんだ、まだ終わらせるんじゃねぇ!』

 

「ほへ? モロ、まだ何かあんのか?」

 

 

由紀江と松風の提言に女性陣が頷いた。最も京は一体何の事か聞かされていないため一人首をかしげているが。

彼女と一緒に首を傾げる翔一であったが、それに対して岳人と忠勝はすぐに察しがついた。

 

 

「………モロ。 俺様達先帰るからよ、バシッて決めてこいや」

 

「が、ガクト………」

 

「ま、愚痴なり自慢話なり付き合ってやるよ。 バイト先から川神水貰ってんだ」

 

「……うん。 ゲンさんも、ありがとう」

 

 

本来であれば一番の親友として岳人が話に食い込んでくるところだ。

だが彼は卓也の意思を汲み、彼の全てを受け止めた。その上で察したのだ。これから彼がつけるケジメが一体何なのかを。

忠勝もまた漢として、彼の背中を押した。

 

 

「何だよガクト! 俺だけ除け者にしてずるいぞぅ!」

 

「いいから風間はこっち来な」

 

「ああ。 女に興味ねぇお子様はすっこむ場面だぜ」

 

「うお! 首根っこ掴むな! はーなーせぇぇええ~~~~~…………」

 

 

一方で“女”に疎い翔一が絡んでくる。

いい年して除け者扱いされるのが嫌な、ある意味彼らしいと言えば彼らしいがさすがにこの後の展開を考えると邪魔以外の何者でもない。

岳人が持ち前の怪力で翔一を掴み、廃工場から抜けていった。

 

 

「お姉様! 私達そろそろ戻らないとルー師範代に怒られるわ」

 

「っとそうだな。 じゃまたなモロロ。 今度こそ帰り道に気をつけろよ」

 

「うん。 モモ先輩、ワン子。 ありがとう」

 

 

あんな大事件だったと言うのに、解散はあっという間だ。

これもまた「ファミリー」だからこそ、である。

最後に百代が心配の一言をかけて二人は駆けて行く。

 

 

「んじゃ俺達も帰るか京」

 

「いや待て。 大和と京はここに残っててくれ」

 

「クリス? でもそろそろ門限が………」

 

 

ケジメが何のことかは分からない大和はそのまま帰ろうとする。

そんな彼を引き止めたのはクリスだった。彼女もまた、これからつけようとする卓也の「ケジメ」を知る一人だったからだ。

京も早く帰られないと鬼のように怖い寮母にどれだけどやされるか、と懸念していると。

 

 

「麗子さんには私達から伝えておきます」

 

「うん。 ありがとうねクリス。 まゆっちも」

 

「何、騎士は人の意思を汲んでこそだ! では」

 

「夕食、麗子さんと一緒にご用意していますね」

 

 

クリス中々空気が読めるようになってきたのは素直にありがたい、とは卓也談。

褒められたこともあり、クリスは上機嫌で工場を後にした。後を追って由紀江も一礼してから去る。

これで残るは大和と京、そして卓也のみ。茜空はもう青黒く染まってきており、夜の帳が下りようとしている。

月の光が、ポッカリと開けられた穴から差し込んできた。

 

 

「大和………ちょっとだけ時間ちょうだい」

 

「まさか………このタイミングでモロが禁断の愛に目覚めたのかッ!?」

 

「違うよ!! ……まぁ相手は違えど告白するんだけどさ」

 

「じゃぁやっぱりガクトかッ!? それともキャップ!? 意表をついてゲンさん!?」

 

 

もう卓也は突っ込むのに疲れた。

彼が哀れに見えてきたのか、大和が軽くチョップを打ち込む。「むー」と唸りつつも、京は黙ることに。

こうして初めて卓也は本題を切り出せる。

 

 

「大和。 聞いて欲しいんだ。 ……なんで僕が今日、こんな事をしたのか」

 

「………ああ」

 

 

明確な理由はまだ聞いてはいなかった。

さすがにこれについては個人的な理由が絡んでいるようなので大和もタイミングを見計らいつつ、帰り際に聞くつもりだった。

故に卓也がこんなに神妙な顔をして話を切り出してくることに驚きである。

 

 

「僕ね………ずっと大和が羨ましかったんだ」

 

「お前が、俺を?」

 

「うん。 自覚あるのかないのか分からないけど、大和ってモテてるでしょ」

 

「みたいね。 それについては否定しない」

 

 

大和はあっさり認めた。

これは彼が龍造寺のような所謂“スケコマシ”だからではない。ちゃんと相手の気持ちを捉えて考えているという意思表示だった。

勿論大和がそんな人物ではないと知っているので卓也も京も何も言わなかった。

 

 

「その一方でね、僕………ある人のことが好きだったんだ」

 

「…………」

 

「その人はずっと大和に一途で、積極的で………僕は見ているだけしか出来なかった」

 

 

卓也のこの台詞で、誰が好きなのかはもう分かる。京も同じようで、面食らったかのような表情をしていた。

あの天下五弓に豆鉄砲を食らわせてやったことに卓也は何か言いえぬ面白さを感じるも、今は話を続ける方が先だ。

 

 

「僕はずっとそれでいいって思ってたんだけど……最近、大和の女性人気がハンパ無くて。 で、その人はそれでもずっとアプローチしてて……見ていて辛かったんだ」

 

「………だから今日、俺達にチケットなんて渡したんだな」

 

 

ある意味卓也らしい行動だと大和は理解した。

その人のことを真剣に想っていて、でも手が出せなくて。だからこそこんな回りくどい方法を取ることしかできなくて。

大和も聞かされては怒るどころか笑うことしか出来なかった。

 

 

「でね、勝手ながら尾行させてもらったんだ」

 

「テーレッテー。 それについては追々裁判するとしよう。 裁判官は姉さんね」

 

「し、しっかり搾り取られそう………まぁ覚悟の上だけど」

 

 

明らかにやらせの裁判になりそうだが非は間違いなく卓也にある。重い判決が下るのは承知の上で行動していた。

とは言え改めて聞かされると少々恐怖を感じる。

 

 

「……で、大和がもしその人の想いを受け取るなら僕は吹っ切れるかなって」

 

「……受け取らなかったら?」

 

「それを今、実行するよ」

 

 

卓也は、その人の前まで歩いていった。

―――――眼が点になって立ち尽くしている、椎名京の前まで。

こう、演劇部以外の場で人と直に目線を、至近距離で合わせることは今までなかった。風間ファミリー内でも、なかった。

分かりやすいくらいに卓也は緊張している。顔が赤くなり、肩が震え、呼吸が安定しない。

 

 

 

 

 

それでも言いたかったその一言を。有りっ丈の想いを乗せて。

 

 

 

 

 

「―――――京! 僕はずっと昔から、君のことが好きでした!!!」

 

「ゴメン私大和一筋なので受け付けません」

 

 

 

 

 

覚悟と勢いの割にはばっさりと切り捨てられた。

 

 

「………あ、ははは………やっぱり、ね……」

 

 

やっぱりフられたショックは大きかったのか、言葉は震えていた。

あっさり断られて、しかもこれ以上ないくらいに突き放されたのだ。ショックを受けない方が可笑しいだろう。

それでも、顔はどこかスッキリしていた。

 

 

「でも私がモロからモテてたのは意外だった。 いつから?」

 

「多分一目惚れ、かな。 その時自覚はなかったけどね………」

 

 

思い返せば京が風間ファミリーに正式加入したあの日、卓也の顔が僅かに赤かった気がする。

きっとその時からなのだろう。

―――――その十数年の思いが今、木っ端微塵に打ち砕かれた。悲しい一方で、胸を大きく締めていたものが消えていく開放感を感じる。

 

 

「でもやっぱりダメだったね。 あーあ、大和にはホントに敵わないなー」

 

「………モロ」

 

 

今の卓也は分かる。何故、自分はこの直江大和と言う男に勝てなかったのか。

言葉には出来ないが、答えが得られた。

単純明快、至極当然。それを己の目で見た時、彼はやっと解放されたのだ。

 

 

「大和、今日は改めて本当にゴメン。 僕の嫉妬と八つ当たりにつき合わせちゃってさ」

 

「全くだ。 ………今度、面白いゲーム貸してくれよな」

 

 

大和は、親友に向けてそう微笑み返した。

応えるようにして卓也も微笑み返す。今ここに、改めて友情が成立する。

 

 

「イイ………実にいいんだッ!」

 

「………京。 いい加減に仕置きされたいようだな」

 

「大和からの仕置きッ!? キてキてぇ~~~♪」

 

 

京はやはり一朝一夕には変わらないようだ。

やれやれと肩を竦めていると大和の携帯電話が震える。岳人からだった。

内容は「今日はモロも交えて寮で晩飯だ!」とのこと。

 

 

「………だってさ。 どうするモロ?」

 

「今日はご一緒するよ。 愚痴聞いて貰いたいし」

 

「じゃあ私はモモ先輩とワン子呼ぶね」

 

 

―――――そして彼らは、当たり前の日常に戻っていく。

島津寮に戻れば、既に準備万端と言わんばかりに皆が待っていた。大和が、京が、そして卓也が。

めいっぱいの笑顔で、こう答える。

 

 

「ただいま」

 

 

と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ………九鬼の監視が入ってからは安泰だ、の」

 

 

その頃、川神学園の教師の一人にして三台名家の出身である綾小路麻呂は親不孝通りにいた。

教師としての見回り役を鉄心により命じられたからである。

命じられたと言ってもシフト表によるものであるため彼も渋々ながらお勤めを果たしているというワケだ。

 

 

「ん? これそこの学生、もう月が昇っている。 さっさと帰るでおじゃ」

 

 

鉄心からの命令であれば、プライドの高い彼も従わざるを得ない。

その事によるストレスでため息をつきながら歩いていると目の前に青年が見えた。明らかに学生という体つきと見た目。所謂不良だろう。

一応これも仕事と割り切り麻呂が注意しに掛かる。

 

 

「あ? んだよオッサン気持ち悪ぃ!」

 

 

が、生意気と受け取られたためかカウンターパンチを貰ってしまった。

 

 

「あじゃぱー!?」

 

「ったく……ん? でもコイツぁ結構持ってんじゃねーか。 らっきー♪」

 

 

体育会系ではない麻呂はそれを受けてしまい、もんどりうって倒れた。

倒れた際に彼が懐に入れていた財布が滑り落ちる。

青年はそれを拾い上げると上機嫌に自分のものにしてしまった。鼻歌を歌いながらそのまま去っていく。

 

 

「お、おのれぇ………! 麻呂が優しく接してやれば……! 見ているでおじゃ、綾小路家の力を持って粛清してやる、の!」

 

 

―――――その青年は知る由もなかった。この行動が原因で自分の全財産を搾り取られた挙句死刑寸前の重い刑に科せられるなどと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――翌日は月曜日。

一週間の始まりでもあると同時に多くのものが疲れを背負って学校に登校する日でもある。

 

 

「おはようナオっち」

 

「おはよう小笠原さん」

 

 

2-Fはいつもの緩んだ空気だった。大和の眼に入ってきたのは小笠原千花。

今日も真与や黒子といった女子仲間を囲んで世間話を楽しんでいる。

よく回りからスイーツと揶揄されているが、コミュニケーション力もありとは普通に会話を楽しんでいる。

 

 

「ワン子にクリスもおはよう。 椎名っちもね」

 

「チカリンおっはー!」

 

「おはよう」

 

 

大和に続いて一子とクリスにも挨拶を交わした。

二人からも元気のいい返事が返って来る。その一方で京にも挨拶していた。

普段の京は挨拶されても無視するか、眼を見ないで返す程度しかしてこなかった。それはこの千花相手でも例外では無い。

それでも彼女は挨拶してきてくれる。そんな彼女に京は。

 

 

「………おはよう!」

 

 

とても明るい挨拶で返した。

 

 

「オゥッ!? ……うん、何か椎名っち明るくなったねー」

 

「ホントです! でもお姉さんの見立て通り、椎名ちゃんはいい子なんですよ」

 

「確かに! 椎名、アタイねアンタのこと根暗系だと思ってた。 ごめん系」

 

 

挨拶一つで、京の世界が一気に変わった。

周りの女子達が彼女への見方を変えたのだ。勿論これまで交流はあったのだが、それでも孤立している雰囲気は否めなかった。

それが京自ら歩み寄っただけでこんなにも周りは受け入れてくれる。

 

 

「ほほぉ………こんなにも変わるとは俺様驚きだぜ」

 

「だな。 でも俺はこの変わり方好きだぜ!」

 

 

岳人と翔一も驚いていた。

はっきり言えば昨日どのような事態があって京がここまで変われたのかは知らされていない。

昨日の食事の席でも卓也と微笑み合いながら「内緒」としか言ってくれなかったのだ。

だが他人を受け入れることは悪いことではない。彼女の閉鎖的な部分を気にしていた翔一はこの変化を喜んでいる。

 

 

「周りも受け入れているしな。 ……でもよ、付き合いってそう簡単なモンじゃねぇぞ」

 

 

最近、風間ファミリーとして大和達と良く行動するようになった忠勝には分かる。

友との輪を広げられるのはいい事。しかし人付き合いは色々と難しい。

人に気を遣うこともあれば、逆に己を曝け出さなければならない時もある。大和と卓也もそれに共感していた。

 

 

「心配しすぎだよゲンさん」

 

「そうだよ。 京なら大丈夫」

 

 

それでありながら、大和と卓也が太鼓判を押した。

彼女の強さを二人は良く知っている。あの悪夢を乗り越えた京ならば、きっと歩んでいける。

ならば今出来ることはただ、彼女を見守るだけなのだ。

 

 

「……そうか、そうかもな」

 

 

杞憂だったと悟った忠勝はそのまま眠りについた。

本来ならば昨日は夜にバイトのシフトが入っていたと言う。それでもわざわざあの廃工場にまで駆けつけてくれた彼は本当に漢で、本当に友達なのだと感じた。

誇りに思っていると他の男性陣も京の変化に気付いたようで大和に近寄ってくる。最初に来たのはヨンパチこと育郎だった。

 

 

「おい大和。 何か椎名の奴更に可愛くなってね?」

 

「やっぱりそう映るんだ」

 

「何? お前抱いたの?」

 

「話が飛躍しすぎじゃ!!」

 

 

確かに男と女の関係になれば互いにそれぞれ色気が出るなり変わるとは言われている。

だが大和はそんな事をした覚えは無い。京ならばしてくるかもしれないが。

それが信じられないとばかりに育郎はこの後の光景も目に収め続ける。

 

 

「クマちゃんおはよう」

 

「椎名さんおはよう。 自分から挨拶してくれるなんて嬉しいよ」

 

「寧ろ今までしてこなくてゴメンね」

 

「いいよ。 それより最近出来たお店のチーズケーキ、一つ食べる?」

 

 

更に見ていると京は自分からも積極的に挨拶をしてきた。

温厚な熊飼満もたまに彼女から無視される時があっただけにこの変化は嬉しいと感じている。

そしていつものように自分が買ってきた菓子を配っていた。

彼曰く、「人が美味しい物を食べて幸せそうにしている顔を見ることが好き」だとか。受け取った京は。

 

 

「ありがとう」

 

 

しっかり、感謝の意を込めて返した。

受け取ったチーズケーキを口にすると、その甘さに頬を緩める。今の彼女の顔はまさに「お年頃の女の子」と言うほどの可愛らしさ。

元々見た眼が良いだけに密かな人気があった京だけに、この変化に周りが一気に沸きあがる。

 

 

「ホントに!? ホントにあれでヤってないのかお前は!!」

 

「ヨンパチィ!! 貴様はちたぁ恥をしれぇ!!」

 

 

相も変わらず育郎は下品な言葉を連発していた。

さすがに頭に来たらしく大和が怒鳴り散らす。その後梅子がHRのために教室にやってきたことで会話は一旦打ち切られた。

 

 

「何やら騒がしかったが出席を取るぞ。 浅野!」

 

「はい」

 

 

梅子によって出席が取られていく。

今日は珍しく遅刻などは無いようで、滞りなく進んでいく。

 

 

「次、椎名!」

 

「はい!」

 

 

その瞬間、梅子が停止した。

いつもならばか細い、ギリギリ聞き取れるくらいの素っ気ない返事。それが今、しっかり誠意を込めての返事となった。

梅子は驚いていたが、すぐに微笑む。

 

 

「……いい返事だ椎名。 だが続けることに意味があるんだぞ」

 

「心得てます」

 

「ああ、それを忘れずにな。 次、島津!」

 

 

教師として梅子は受け持つ生徒達の長所短所は全て把握している。

彼女、椎名京の場合は明らかなコミュニケーション不足が眼に見えた。それを今まで懸念していたが、あの微笑み方を見る限りではそれもないだろう。

安心した梅子はその後も出席を続けていったのであった。

 

 

「以上! 一時間目は綾小路先生による歴史の授業だ、準備を怠らないように!」

 

 

教師の威厳を保ちながら梅子は教室を去っていった。

彼女が去ってすぐに2-Fは話題騒然となる。

もちろん、一番の話題と言えば京についてであった。

 

 

『おい、何だかアイツ明るくなってね?』

 

『ああ、どういう風の吹き回しだろうな。 今まで根暗だったくせに………』

 

『直江曰く抱かれてもいないらしいが……とうとうフられちまったかねぇ』

 

 

中には育郎のように女性としての魅力が上がったと評価する者もいれば、このように余計に怪しんで辛辣な発言をする者もいる。

今までの京の態度を考えれば仕方がないのかもしれないが、彼女に聞こえないようにして隅で話し合う辺り大和は不快感を覚えた。それでも京は明るく話し続ける。

 

 

「ほぉ。 あのショートカット、ギャルゲーでいう転機を迎えたな」

 

「スグルは分かるんだそういうの」

 

「まぁな。 三次元には興味は無いが……変わるってことはいいことなんじゃねぇの」

 

 

その変化はスグルですら認めるところだった。

少なくともこのまま続けていけば悪い方向にはならない。大和はそう思いながら見守り続けた。

がその会話も今度は歴史の教師である綾小路麻呂の介入で中断される。

 

 

「………では今日も麻呂が平安時代の授業を教えてやろう、の」

 

(また平安かよいい加減安土桃山戦国時代に突入しろっつーの)

 

 

島津岳人のみならず、誰もがこう思っただろう。

綾小路麻呂は三大名家の一つ「綾小路家」の出身であり、その中でも平安時代をこよなく愛する貴族中の貴族。

故に授業もこうして平安時代のみを扱っている。が、彼にとって至福の一時とも言える時間にしてはため息混じりで顔も厳つい。

 

 

(やれやれ………これはあの噂通りらしいな)

 

 

大和は朝一で「見回り中の麻呂が暴行を加えられた」という知人からのメールを受け取った。

何気に彼は懸念材料であったのだ。

元々プライドが高く自己中心的な部分を否応なく覗かせていたために不機嫌な表情を隠そうともしない。

 

 

「では麻呂クエスチョン! 出羽において俘囚が反乱を起こした事例を何と言うか分かる奴はいるか、の。 答えられる奴がいなければ宿題確定じゃ!」

 

 

完全に潰しに来ている、と大和は呆れ顔になった。

こんなコアな問題はクイズ番組でも取り扱わないだろう。そもそも今までの授業でも触れられたことがない部分であるために一同は困り果てている。

仕方ないので成績優秀である大和か日本に詳しいクリスが挙手するしかない。

 

 

「おっと、この問題は直江とクリス以外が答えるでおじゃ」

 

「なっ!?」

 

 

しかし麻呂はその道すらも封じてきた。

これはもう授業と言うより嫌がらせ以外の何者でもない。さすがに大和とクリスも物申したかったが、そうは出来なかった。

―――――既に挙手しているものがいたからである。

 

 

「の!? し、椎名京………貴様に分かるというのでおじゃるか!?」

 

「はい。 939年に起きた天慶の乱です」

 

 

あっさり答えて見せた。

麻呂が驚いたのは彼女が問いに答えたことではない。そもそも自主的に挙手をするというその積極性に驚いていたのだ。

普段であれば名指しされない限りは自ら答えに行くことは決してない彼女が、自ら歩み寄る。この光景に麻呂は戦慄さえ覚えた。

 

 

「で、どうですか先生?」

 

「む、むむ………正解、でおじゃ………」

 

 

京の成績は普段本気を出していないだけで、本来ならばSクラスに入れるくらいの知力を有している。

だからこそ難なく答えて見せた。

正解と認めざるを得ないだけに麻呂も歯軋りを隠せない。

 

 

(わーお! 椎名っち凄~い!)

 

(何か椎名って可愛い上に頭良くね? アタイに次ぐ才色兼備系じゃね?)

 

(凄いよ椎名さん! ありがとう)

 

(ナイスだショートカット! そしてザマァ見ろ平安野郎)

 

(いいぞ椎名! 俺は信じてたぜ! 真実はいつも一つだもんな!)

 

(椎名ちゃん………お姉さんは今、猛烈に感動しています!)

 

 

彼女の活躍で周りから勝算の目線が集まる。

風間ファミリーのものだけではない。クラスメート達全員からのものだった。

今この瞬間、クラス中の誰もが彼女のステップアップを認めたのだ。

 

 

(どう大和? 惚れたでしょ結婚して)

 

(スゲーぞ京お友達で)

 

 

それでもやはり大和一筋は変わらなかった。

一方してやられた麻呂は扇で自身の顔を隠しながら歯軋りをしている。

 

 

(ぬ、ぬぬ……おのれぇ……“忌々しいレッテル”の持ち主のクセにぃ……)

 

 

麻呂は知っていた。この学校に存在した「裏掲示板」なる存在を。

最も今はそれが潰されているが、彼の好奇心が当時それを見つけてしまったのだ。そしてその中に存在する彼女――――椎名京に対する書き込みも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――弓道部。

現在ここでは三年でもあり主将でもある矢場弓子と顧問である小島梅子の指導の下、部員達が日々鍛錬を続けていた。

その中でも今日は珍しい面子が揃っていた。一人は那須与一。天下五弓の一人にして武士道プランにて生み出されたクローンの一人。

 

 

「………ほぉ。 俺を呼び出すとはどういう風の吹き回しだ? 椎名京」

 

 

そしてもう一人は、京であった。

ステップアップの一環として今まで幽霊部員となってたこの弓道部にも顔を出すと決めたのだ。その際、主将である弓子から相談を受けた。

内容はもう一人の幽霊部員、那須与一を引っ張り出して欲しいという事であった。

 

 

「ん、貴方も周一でいいからこの弓道場に顔を出して欲しいって。 欲を言えば周三で」

 

「ハッ! お前、自分で何言ってるのか分かってんのか。 お前だってユーレイだろ」

 

「………確かにね。 でも、それはもうやめたの」

 

 

勿論京は他の部員のように平日全てに顔を出すわけではない。

それでもここに来る回数は多くなることを約束した。弓子達弓道部員にとってこれは朗報である。受け入れてくれた部員達に京は更に自身に試練を課した。

この中二病で捻くれた実力者を引っ張ってくる、と。

 

 

「与一君。 椎名さんのいう事は本当よ。 さっきまで部員達に熱心に指導してくれたわ」

 

「出来ればプレミアムな英雄の一人でもある貴方の指導も受けたいんです!」

 

 

京に加わり、弓子、そして一年部員のまとめ役ともなっている武蔵小杉が前に出た。

どちらも部活に関しては熱心である。弓子に至っては仲間内には素を曝け出しており、それだけ弓道部が家であるかのように大切に扱っているという事もであった。

 

 

「断る。 俺の目から見てもお前らはレベルが低いとは言えない。 が、俺の心を揺らすような魅力を感じないのも事実だ」

 

 

天下五弓として、与一の狙撃能力は最高を極める。

特に飛距離、そして威力。どちらも京を凌ぐほどだ。那須与一、嘗て義経の部下として平氏方の軍船に掲げられた扇の的を射落とすという逸話が有名だ。

彼の腕は、その歴史上の一幕を裏切らぬほど確かである。

 

 

「……つまり貴方には、競えるだけの相手がいないということでOK?」

 

「さっきから何が言いてぇんだ。 ……この時間は、天と地の狭間で風を感じていたい」

 

 

与一の物言いには「特に話がないなら帰る」という意味が含まれている。

ここで引き下がっては、周一どころか二度と顔を出して貰えないだろう。弓道部はこの夏、全国大会出場に向けて盛り上がっている。

今、その勢いを落とすわけにはいかない。天下五弓として、そして“弓道部員”として。京がそれを引き止める。

 

 

「私と勝負をしない? それに勝ったら貴方は好きにしてくれて構わない」

 

「………ほぅ。 お前とか………」

 

 

京の提案に、さすがの与一も食いついた。

彼の今までの相手は皆、九鬼が用意したものだ。何れもレベルは高かったが、天下五弓の称号を背負えるほどではなかった。

故に彼女との勝負には、彼の中の武士の血が騒ぐのか目つきが変わる。

 

 

(し、椎名さん? 大丈夫よね!?)

 

(任せてください主将。 ……私、ここで変わりますから)

 

(意気込みは嬉しいんだけど無理はしないでね!)

 

 

弓子も、与一がどれだけの実力を持つかは知っている。

数百メートル離れた先のバイクを射抜いてみせると言うその桁外れの飛距離、威力。伝説の人物の名に恥じないその報せを聞いたときは震撼したものだ。

だからこそそんな相手に勝てるかどうか怪しい。京も同じ称号を背負うとは言え、与一の持ち味とする飛距離と威力においては負けているのだ。

 

 

「んで勝負は何にするんだ? 遠当てか? 流鏑馬か? 俺は何でも構わんぜ」

 

 

与一は自信満々だ。この辺りもさすが源義経の部下と言えよう。

勿論京は彼の得意とする遠当てを選ぶつもりはない。大和曰く「格上の相手のフィールドで挑むな」が兵法の基本だとか。

かと言って慣れてもいない流鏑馬は相手を錯乱できる分、リスクも高い。

 

 

「ここは弓兵同士狙撃戦で勝負しない?」

 

「詳しく聞こうか」

 

「ルールは簡単。 お互いに風船を一つつけ、その風船を射抜いた方の勝ち」

 

 

説明を始めると、武蔵小杉が二種類の風船を持ってきた。

赤い色と青い色の風船がふわふわと浮いている。見たところ合成樹脂などを使っている様子もない、市販されているごく普通の風船。

レプリカの矢と言えど射抜けば一瞬で割れてしまうだろう。

 

 

「場所はこのグラウンド内、ただし校舎内はダメ。 窓を割ってもダメ」

 

「………校舎を傷つけずに相手を射抜く、か。 面白い趣向ではあるな」

 

「どう? このルールで受ける? それとも自信がないなら別の方法で……」

 

 

聊か京が挑発的だった。

これは事前に大和から受け取った情報による。あれでいて与一もお年頃の男子。相応に負けず嫌い。

相手を逆なでするかのような物言いをすれば、受け取るであろうと。

 

 

「いやいいだろう。 その勝負、受けて立つ。 以前の借りも返したいしな」

 

「OK。 ならすぐに始めましょう」

 

 

与一が学園のシンボルが刻まれたワッペンを叩き付けた。同時に京も自信のワッペンをたたきつける。

するとまるで準備していたかのように学長である川神鉄心が現れた。

 

 

「うむ、決闘承諾! 開戦は10分後、グラウンドにて! 双方準備を怠らぬように!」

 

 

鉄心の一言で教師陣が慌しく動き始めた。

決闘の妨げにならぬようグラウンドを整備したり、狙撃戦という事もあり矢があらぬ方向に行かぬよう監視、防御に徹する者、またはアナウンスの準備をする者など。

天下五弓同士の勝負は、プチ川神大戦以来という事で多くの見物客が集まっていた。

 

 

「弁慶! 与一が決闘するって!」

 

「珍しいね~………ま、主の恥になるようだったらシめるけど」

 

 

当然、与一の仲間である義経と弁慶も駆けつけた。

反対に風間ファミリーも逆サイドに集まっている。本来ならば仲良く観戦したいところだが高まる士気に阻まれてしまったのだ。

 

 

「以前はキャップの援護があったから勝てたけど、今回はどうかしら?」

 

「松永先輩の言うとおりであれば、一対一の狙撃戦においては京が不利らしいが」

 

 

一子とクリスも固唾を呑みながらその行方を見守っている。

前回のプチ川神大戦において京は勝利を収めた。しかしそれは翔一の破天荒な行動で掻き乱してくれたことが勝因だ。

今回はその頼りになる翔一は観戦に回っている。誰の力も借りれない、ただ己の力のみであの英雄を倒さなければならない。

 

 

「東方、椎名京!」

 

「はい!」

 

「西方、那須与一!」

 

「おう」

 

 

鉄心の一言で、両サイドにそれぞれが歩み寄る。

既に京は弓道部員用の装束に着替えている。与一は普段どおりの格好であるが、弓は自前のものだ。

ただ狙撃戦という事もあり、距離は互いに校庭の隅に近い場所。距離で言うなら凡そ100メートルは離れている。

風が校庭の砂を巻き上げながら、互いに付けられている風船を揺らす。

 

 

「時間無制限、狙撃戦一本勝負! 始めぇぃ!!!」

 

 

鉄心の一言と同時に互いが弓を構えた。

が、それっきり動かない。互いの視線は相手を捕らえて離さない。猛禽類と称されても可笑しくないほどの鋭さが、相手の行動をしっかり抑えていた。

五分が経過しても、どれだけ風が吹こうが、二人は動かない。一子とクリスの緊張感もピークに達した。

 

 

「ど、どちらも動かないわね………」

 

「ああ。 タイミングを見計らっているのだろうか」

 

「その通りですお嬢様」

 

「おわ! マル、いつの間に!?」

 

 

二人の会話に割って入ってマルギッテが登場。

神出鬼没なドイツの猟犬に驚きつつも、彼女の解説を黙って聞くことに。

 

 

「狙撃戦は一瞬で決着します。 ですから、両方とも隙を窺っているのです」

 

「マルは狙撃得意なの?」

 

「ドイツ軍人である以上当たり前だと知りなさい」

 

 

得意げにマルギッテは語った。

彼女の地位は少尉。故に銃の扱いは心得ている。狙撃戦もその気になれば彼らほどは無いが、並みの軍人以上の活躍を見せるだろう。

 

 

「しかし今日は風も強い。 特に矢は風の影響を受けやすい飛び道具です」

 

「確かに横風を受けようものなら狙いが逸れてしまうだろうな」

 

「加えて的は彼ら自身ではなく、あくまで風船。 風船は風の影響を存分に受けます」

 

 

最大の問題は彼女の言うとおり風そのものだった。

今、風船は風に煽られ、激しく棚引いている。下手をすれば風で紐が切れてしまうのでは無いかと言うほどに。

 

 

(……けどな。 俺がそれを想定していないとでも思ったか? だとしたら甘ぇ)

 

 

優れた弓兵として、与一は強風時の対応は既に心得ていた。

対応策―――――それは持ち前のパワーだ。

 

 

(俺の矢の威力さえあればこの程度の風、抵抗も受けずに切り抜けられる。 が、問題は椎名の変化球ならぬ変化矢だな……)

 

 

与一は冷静に京が構える矢に目を向けている。

正確には矢の羽だ。彼女の得意技の一つに羽に切込みを入れることで矢の進路を自在に変える、というものがある。通称「迷い鳩」。

以前はその技に翻弄され、敗北を喫した。あれ以来与一はそれに対する警戒心を身に着けた。

 

 

(この風がどういう変化を齎すか分からねぇ。 風船の動きも全く読めない)

 

 

弦に込める力が自然と強くなった。

筋力の全てを矢を引く腕、否、弦を引くその指に込める。矢の威力は弦の反動のそれで決まる。加えて気を込めることで矢をコーティング、矢そのものの破壊力を上げることも可能。

与一はその両方に優れていた。だからこそあんな論外の破壊力を持つ。

 

 

(だったら話は簡単。 将を射るならまずは馬を射よ、って奴だ)

 

 

――――与一の狙いは定まった。刹那、風が止んだ。

 

 

「くらえっ!!」

 

 

矢を放ったのは、与一だった。

与一の放つ矢のパワーは速度にも繋がる。その雷光とも呼べる矢が向かっていった。

他ならぬ、京の元に。

 

 

「ぐっ!」

 

「京!?」

 

 

与一の言う「馬」―――――他ならぬ京自身のことだった。

この勝負は風船に矢を当てない限り、幾ら相手に命中させても勝負はつかない。逆手に取れば、風船を割らない限り相手に矢を当てても構わないということだ。

それを利用し、与一は京に迅速の矢を当てたのだ。京は避けることも出来ず、腹でその矢を受けてしまう。

 

 

「可哀想だが………これで終焉(ジ・エンド)だッ!」

 

 

即座に与一が次の矢を装填する。

今、京は腹に相当な衝撃を受けて蹲ろうとしている。殺さぬよう手加減したとは言え、あの威力を受ければしばらくは動けない。

与一はもう京に目を向けることなく、狙いを風船に定めた。今なら風もない。矢を放てばそれが当たる。

 

 

 

―――――その自信が、仇となることも知らずに。

 

 

 

「破っ!」

 

「なっ!?」

 

 

矢が放たれた。だがそれは与一のものではない。京のものだった。

彼女はあの高威力の矢を受けながら即座に狙いを定め、矢を放ったのだ。与一は矢を装填すると言うモーションを挟み込んでいたためにタイムラグが発生してしまう。

矢を風船に当てないよう避けることで精一杯だった。

 

 

「っ!」

 

 

だがその矢は旋回して向かってくる。京のお家芸だ。

この時点でギャラリー達は達人技とも言える弓術の応酬で湧き上がっている。矢はまるで与一の避け方を読んでいたかのように向かってくる。

 

 

「ハッ! 俺が同じ過ちを二度も犯すと思うかッ!」

 

 

与一は弓を構えた。飛んで来る矢に向けて。

既に矢の装填は完了している。気を込めて矢を放てば、京の矢は次の変化を起こす前に打ち落とされる。

打ち落とされるその瞬間を見ることもなく、与一は向き直った。

 

 

「小賢しいマネをっ………」

 

 

が、その視線の先に京はいなかった。

 

 

「はい。 死亡フラグお疲れ様」

 

「っ!? し、しまっ――――――」

 

 

京は、既に彼の背後に回りこんでいた。

あの矢は与一の風船を割るためのものではない。彼の視線を自分からそらせるためのフェイクだったのだ。

彼の捻くれたその性格を利用し、完全に虚をついてみせる。

――――――――――そして。

 

 

 

 

 

「勝者! 椎名京!!」

 

 

 

 

 

京が放った矢が、与一の風船を打ち抜いたのだった。

 

 

「やったやった! 椎名さんが勝ったわ!!」

 

「椎名先輩もプレミアムですけど与一先輩もプレミアムでした!!」

 

 

弓子、小杉、そして弓道部員が京は勿論存分に戦い抜いた与一を褒め称える。

見物に来ていた客も、彼らに惜しみない拍手を送った。

 

 

「………一つだけ聞かせてくれ。 どうして俺の矢を受けながら自由に動けた?」

 

 

与一は敗北しながらも、悪い顔を一切していなかった。

彼も武士として引き際と潔さを心得ている。だが疑問は尽きなかった。

それだけ自身の矢の威力と戦略には自信があったという事だ。クク、と微笑んで見せると京が甲冑を脱ぐ。その下には何かが詰め込まれた袋があった。

 

 

「大和のために取っておいたコンドーム。 これを詰め込んで防御したの」

 

「発想はどうかと思うが……なるほど、俺の負けだな」

 

 

防具も彼女らしい発想だと言えるだろう。

普段であれば引くところだが、周りも彼女の変態度はある意味認知していたので特にいう事はなかった。

寧ろあの激戦を演じた二人に対する賞賛の声が大きい。

 

 

「東夷たるクローンの勝敗などどうでもよい……が、椎名京の活躍は許せぬ、の!」

 

 

―――――この男を除いて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――それからしばらくして、弓道部の道場。

ここに弓道部の部員が集まっていた。だが何れも部活のための服装ではない。

周りにはちょっとしたお菓子と飲み物が置かれている。

 

 

「おいおい………何なんだこりゃ」

 

「見れば分かるでしょ。 改めて与一君と椎名さんの歓迎式よ」

 

 

今まで幽霊気味であった二人という事もあり、顔を出すことを約束した二人。

ここで仲を深め合うという意味合いも込めて弓子が提案したのだ。当日になっての発想だったため大層なものではないがそれでも充実したラインナップである。

 

 

「で、椎名先輩? お体は大丈夫なんですか?」

 

「痛くないっていえば嘘になるね。 でも私も意地があるから」

 

「ぷ、プレミアムです! 今度是非稽古をつけてください!」

 

「いいけどちゃんと吸収してネ」

 

 

今日の一件を通して大分小杉も京に懐いてきたようだ。

あれだけハイレベルな戦いを見せられて沸かないと言う方も可笑しいが。

 

 

「さて椎名さん、与一君。 改めて弓道部にようこそ! 乾杯!!」

 

「「「カンパ~イ!!」」」

 

 

弓子の音頭で、ジュースが注がれた紙コップを掲げる。

ここは校舎内であるため川神水は飲めない。それでも雰囲気さえあればジュースでも豪華だと感じるものだ。

口にした京と与一はこれまでない美味しさを味わう。

 

 

「ほぉ………ただのジュースがここまで美味くなるとはな」

 

「一仕事した後の飲み物サイコー」

 

 

見たところ、与一も居心地悪いという表情はしていなかった。

京も達成感溢れる顔をしている。

 

 

「梅先生も参加できれば良かったんですけどね。 お仕事で来られないなんて……」

 

「仕方ないわよ。 でも京さんと与一君のことは本当に喜んでいたわ」

 

 

この祝いの場には顧問である梅子の姿はなかった。

本来なら顧問として参加したいところであったが急用が入ってしまったのだと言う。そのため会の進行は弓子に一任されていた。

それでも顧問として賛辞の言葉を送ることは忘れていない。

 

 

「さて皆! 椎名さんと与一君が改めて入ってくれたけどこれで終わりじゃないわよ!」

 

「目指すは全国大会?」

 

「そ! 椎名さんと与一君は指導は勿論、参加して貰うわよ!」

 

「全国ね……俺の技を世界の全てに晒すことになるのか………」

 

 

左手を顔に押し当てて、与一はクネッとポーズを取る。

それでも否定はしていない。京もまた同じだった。

全国大会、それは部活動に生きるものにおいて憧れの場。特にこの大事な時期に主戦力となる二人が加入してくれたことに弓子は期待せざるを得ない。

 

 

 

 

 

「いいや! 麻呂は、麻呂は認めぬっ!!」

 

 

 

 

 

そこに差し込んでくる、無粋な声。

全員が振り返るとそこには顔を白粉で埋め尽くした男が立っていた。流麗さを表しているらしく、扇子を構えて。

 

 

「綾小路先生………?」

 

「ほほ。 少々失礼する、の」

 

 

誰の許可も取らず、麻呂は上がりこんできた。

折角の盛り上がりを邪魔したことで一気に空気は険悪になる。無論対象は麻呂に向けてである。

しかし最近のこの教師はやたら権力を振りかざしてくる。誰も文句が言えなかった。

 

 

(……何か嫌な空気だな。 兄貴に繋いでおくか)

 

 

与一は空気の流れが悪い方向に傾く予感を感じ取った。

密かに携帯電話を取り出し、兄貴と呼んで尊敬する「直江大和」の電話番号を探し出して通話した。

事前に「今からの会話内容を黙って聞いててくれ」というメールを出しておいて。

 

 

「綾小路先生。 何が認められないんですか?」

 

「それは………椎名京の全国大会参加でおじゃ」

 

 

与一の予感は当たった。

チッ、と鋭い舌打ちも、通話中の大和に届いているだろう。一番動揺しているのは、他ならぬ京本人であることは言うまでもない。

当然の反論を、京がした。

 

 

「どうしてダメなんですか」

 

「決まっておろう」

 

 

しかし麻呂はその反論も想定済みと言わんばかりに素早く切り返す。

 

 

 

 

 

「インバイ、などという汚いレッテルを貼られた女の娘が晴れ晴れしい全国大会に上げるわけにはいかぬから、の」

 

 

 

 

 

その言葉を聞いた瞬間、京が固まった。

まるで鈍器で頭を殴られたかのような感覚に陥る。動揺した彼女に代わり、弓子が発言を繋いだ。

 

 

「ど、どういう事なんですか!」

 

「知らぬのか。 椎名京の母親はインバイであったそうな。 そんな汚らわしい娘を出場させれば、この学園の尊厳は地に落ちるであろう」

 

 

弓子達が知るはずもなかった。知られたくもなかった。

彼女にとっては、どんな手段を使ってでも消したい過去なのだ。どうしてこの男がそれを知っているのか、それは問題ではない。

問題なのはこの男がそれを知っているという事実だ。

 

 

「そ、そんな事は無いです! 椎名先輩のプレミアムな弓術があれば!」

 

「武蔵小杉よ。 綾小路家ほどではないにしろ、お前の家にも体裁と言うものがあろう」

 

「………!」

 

「同じじゃ。 不良学園が快く思われぬと同じ、椎名京が出るだけでそうなるであろう」

 

 

武蔵小杉は地元では顔が利くほどの家系の出である。

その所為もあり、麻呂の話にはどこか共感を覚えてしまっていた。

 

 

「いや、別に出ぬのであればそれでよい。 椎名よ、お前はこの弓道場で他の部員に指導をするだけでよい。 そうすれば全てが解決じゃ」

 

 

そう、それが麻呂の怒りも買わない、手間も省ける方法だった。

態々自分が参加しなくてもこちらには与一や彼らほどではないにしろ、腕の立つ弓子もいる。他の部員のレベルを引き上げればそれで任務完了という事になるだろう。

そもそも弓道部において来る事になったのは当初、弓の練習ということでありそのための条件のようなものだった。

 

 

 

 

 

「………嫌です」

 

「そうそう。 大人しく引き下が………・ゑ?」

 

 

 

 

 

はっきりとした、否定の声が聞こえた。

他の誰でもない、椎名京のものだ。彼女は今、与一と決闘していた時と同等の鋭い視線を麻呂にぶつけている。

呆気に囚われた麻呂はあっという間に飲み込まれた。

 

 

「確かに、以前の私ならばそれで手を打っていたでしょう。 そもそもここに来ない」

 

「な、ならば何故逆らうでおじゃ!?」

 

「私―――――変わりたいんです。 もう、引き下がりたくない」

 

 

京の姿が、強く美しく見えた。

黙りきっていた他の部員達も、彼女の姿勢に息を呑む。

 

 

「ここで引き下がったら私は、皆に……大和に追いつけない。 だから!」

 

 

彼女は麻呂に逆らっている。

絶対的なその姿勢で、彼の前から微動だに揺れない。一貫した決意を感じ取れる。

弓子も、小杉も、与一も。そして他の部員達も。

 

 

「それに綾小路先生にはそんな権限ないと思いますケド」

 

「確かに麻呂は顧問ではない………しかし、これはお前達を思っての助言じゃ」

 

 

麻呂も引き下がる様子は無い。

挙句、「助言」などというおこがましい単語まで用いた。

 

 

「何が助言ですか! 椎名さんを散々傷つける発言しておいて!」

 

「そうです! 椎名先輩のプレミアムな決意を踏みにじること等させません!」

 

「ったく、ホントに世の中腐ってんな……アンタみたいな人間の所為で」

 

 

弓子が、小杉が、与一が立ち上がる。

彼女達も京を認めたという事に他ならない。彼らに続いて部員達も麻呂に対抗するべく立ち上がる。

彼らの強烈な視線を受け、麻呂はたじろいだ。が。

 

 

「お前達………折角人が親切に進言してやったと思ったら悉く逆らいおって……!」

 

「だから何の権限があってあんな身勝手な言葉を!」

 

「綾小路家の権限じゃ! 麻呂の目の前で穢れた風習など認めぬ!」

 

 

ここに来ていよいよ自らの身を可愛がる発言を犯した。

そんな事だと思っていたらしく、与一などは分かりやすいため息を零す。

 

 

「九鬼家の庇護下にある那須与一はともかく、他の者は覚悟出来ておろうな?」

 

「な、何がですか!」

 

「次の日親が職を失ったり、家が潰されたり、財産没収される覚悟が、の」

 

 

何とも無茶苦茶な発言だった。

これにはさすがに京達も固まってしまう。この男、綾小路という名があるだけでそこまで出来るとは思ってもいなかったのだ。

一方でその発言は嘘では無いらしく、麻呂の悠然とした態度は崩れない。

 

 

「後悔するがよい! 麻呂の発言を踏みにじったお前達の愚かさを、の!」

 

 

麻呂は嘲笑うかのように彼らを見下した。

扇子を唇にあて、嫌味ったらしく笑う。

さすがの京も公権力に抗うほどの力はなかった。今の彼女は、どうすればこの場を納められるか。

―――――防戦一方になってしまっている。

 

 

 

 

 

「後悔する必要ないぞ京」

 

 

 

 

 

そこに颯爽と現れた一陣の風。

麻呂の背後から男の声が聞こえた。振り返るとそこにはどこにでもいそうな平凡な男が立っている。

だが彼は京にとって最も特別な人であった。

 

 

「や、大和………!」

 

「うーす。 あ、矢場先輩達こんにちは。 ちょっとお邪魔します」

 

 

のらりくらいと、まるで緊張していないかのように大和も上がりこんだ。

この堂々さが逆に頼もしく感じる。

大和は京達を護るかのよう一歩前に立つ。

 

 

「な、何でおじゃるか直江大和! 今何と申したか!」

 

「『後悔する必要はないぞ京』、ですね。 ついでに言わせれば後悔するのは先生です」

 

「き、貴様………麻呂に逆らうことがどれだけ罪深いか分かっておるのか!」

 

 

完全に彼の怒りは大和に向けられた。

彼からすれば一先ず第一段階成功と言える。狙いを逸らせば、これ以上京達が傷つけられることは無いからだ。

 

 

「寧ろ先生こそ分かっていますか? ……俺の仲間を傷つけた、その罪深さを」

 

 

大和は清々しいまでの笑顔を貼り付けた。

ここまで面と向かって言われれば麻呂も血管を浮き出させる。

 

 

「き、貴様ぁ……命令する! 今すぐ麻呂に謝れ!!」

 

「そっちこそ京達に謝りやがれクソヤロウが」

 

 

大和の仮面が外れた。以前、フランクに対して向けた時と同じく大和の怒りケージはMAXを迎えている。

この彼の覇気に京達は戦慄すら感じる。

 

 

「従わねば麻呂の権力でお前を退学……否、社会的に抹殺してやる、の!!」

 

「権力……ですか俺自身には無いですがそういう事でしたこちらにも考えがあります」

 

 

ニヤリ、と笑って見せた。

まるで最初からその発言を待っていたかのように。

 

 

「ねー紋様」

 

「フッハハハーッ! 邪魔するぞ!」

 

「く、くくくく九鬼紋白!?」

 

 

大和の発言に合わせて派手な人物が現れた。

長い銀髪、派手な和服、そして堂々とした態度を表すかのような額の傷。九鬼家の次女、九鬼紋白だった。

まさかの九鬼家登場に麻呂が慌て始める。

 

 

「な、直江大和ぉ!! 貴様このような汚い手を……!」

 

「汚いとは何事か! 大和はお前と同じことをしているだけだぞ!!」

 

 

紋白は年上、教師、そして名家出身のこの男相手でも全く動じなかった。

寧ろ叱り飛ばして見せるという器の大きさを見せ付ける。

 

 

「し、しかしですな紋白殿。 こんなインバイの娘を………」

 

「九鬼家は個々の能力を優先している。 そのようなレッテルなど関係ないわ!!」

 

 

紋白相手―――――否、九鬼家相手であると麻呂も小さくなってしまうようだ。

言葉を選びつつ反論してみるも、紋白は全く取り合わず、看破して見せた。

妹思いの英雄がいればわき目も振らずに紋白を褒め称えているであろう。

 

 

「な、何故こんな小娘を取り立てるのでおじゃ!?」

 

「椎名京は我が直々にスカウトしたのだ。 何より、もう友達であるからな!」

 

 

紋白の転入学初日、京に向けて名刺を渡した。それは彼女がその眼を持って京の能力を認めたからである。

そして彼女とは一緒にカラオケ等で遊んだ仲。人はそれを「友達」という。

だからこそ紋白は友を傷つけるこの男を許さなかった。

 

 

「やめた方がよろしいですぞ! こんな娘を九鬼家に迎え入れるなど………!」

 

「……ここで大人しく発言を取り下げれば後悔しなかったものを。 ヒューム!」

 

「はい、紋様。 ここに」

 

 

スッ、と彼女の背後に九鬼家が誇る最強執事が現れた。

途端に凄まじい威圧感がこの弓道場に溢れる。

 

 

「なななななな何でおじゃるか! まさか麻呂に暴力………」

 

「ご安心を。 貴方如きに我が技は勿体無い」

 

「な!?」

 

 

ヒュームの登場は、彼自身による制裁が目的ではなかった。

彼は弓道場に入り口付近に立ったかと思うとピッ、と一礼した。さすが執事だけあってその動作は礼儀正しい。

すると更に新しい来客が現れた。これこそが、大和の今日の切り札。

 

 

 

「麻呂………!!」

 

「ぴっ!? ちちちーち、ちーち父上ー!!?」

 

 

 

紋白以上に服装を「和」で固めた男が現れた。

その男、「綾小路大麻呂」。名前から分かる通り、麻呂の父親だった。つまり綾小路家の当主でもある。

しかし性格は息子と違い、立派な人格者。事前情報でそれを知った大和が紋白を介してここに連れてきたというワケである。

彼の登場で、一気に麻呂の勢いは殺がれた。

 

 

「何たる様だ……己が力と勘違いして他人を振り回し、挙句傷つけるとは……!」

 

「か、勘違い……? いやこれは麻呂の力で………」

 

「私がいなければそんなことも出来ぬのにか? 莫迦め!!」

 

 

爽快感溢れる音が、この弓道場に響き渡った。

大麻呂が、愚息の頬を思い切り叩いたのである。

 

 

「ぷぼべ!! ま、まままま麻呂をぶった!?」

 

「もっと早う殴ってやるべきであったわ。 さぁ、この者達に詫びよ!」

 

「何故麻呂が………!」

 

「(ギロリ)」

 

 

殴られて尚、麻呂は反省の意思を見せない。

が、それも大麻呂の一睨みですぐに消え去る。

 

 

「……………す、すまんでおじゃ」

 

「小さい上に誠意が篭っておらぬわ!!!」

 

「ぴぎゃあああああああああああああ!!!」

 

 

また大麻呂からの一撃が与えられる。

相当強く殴っているのだろう、音が凄まじい。見ていた大和思わず声が漏れてしまうほどの音と剣幕であった。

とうとう耐え切れなくなったかのように、麻呂が大粒の涙を零して嗚咽した。

 

 

 

 

「う、う………ごめなんなさいでおじゃるうううううううううううう」

 

 

 

 

これが三大名家の出の男だといわれて、誰が信じようか。

その無様たるや散々言われ続けた京も笑いを通り越して哀れにしか思えないほどだ。

 

 

「何と無様な………椎名京殿。 すまなかった。 麻呂をぶってくれても……」

 

「いいです汚らわしい」

 

「……当然の反応であるな。 麻呂のことは任せてくれ」

 

 

そう言って大麻呂は愚息の首根っこを掴み、引きずっていった。

表に車でも待たせていたのだろうか、以後彼らが戻ってくることはなかった。後日、麻呂は川神学園に戻ることはなく、復帰は一年後のことになるのはまた別の話。

 

 

「ふぅ、終わったかな。 紋様、お手を煩わせて申し訳ありませんでした」

 

「よいよい! 我らの人材が汚されるなどあってはならん事だからな! それに大和には日頃世話にもなっておる!」

 

 

大和も欲を言えばこんな事に紋白を借り出させたくはなかったが状況が状況であったのだ。

対する紋白も寧ろ今後もっと頼るがいい、という器の大きさをまた見せ付けた。

彼女こそ、英雄達と共に九鬼財閥を背負っていくに相応しいと大和とヒュームも認めている。

 

 

「紋様。 そろそろ夜のお稽古の時間です」

 

「そうであったな。 では大和に椎名、またな! フハハハーッ!」

 

 

紋白は彼らに手を振りながら去っていく。

大和と京も彼女に応え、手を振り替えした。相当忙しい時に来てもらっただけに何も言わせないまま、紋白は去っていく。

後を追ってヒュームも去っていった。不敵な笑みを残して。

 

 

「やれやれ……改めて大丈夫か京」

 

「うん。 でも妻のピンチに駆けつけてくれるなんてやっぱり大和は……!」

 

「おっと今回は与一にお礼をいいな。 アイツの連絡がなきゃ俺は知らずじまいだったんだから。 あと紋様に大麻呂さんにもな」

 

 

今回大和はあくまで人を連れてきただけ、と明言した。

京からすれば助けて貰ったことに変わりは無いが、かと言って勿論お礼を言わないほどもう無関心な人間でもなんでもない。

 

 

「そうだったんだ……。 ありがとうね、与一」

 

「礼を言われる筋合いはねぇよ。 ただ、空気が悪かったから換気しただけだ」

 

 

彼のこの性格が治る日が来るのだろうか、返しもひねてくれている与一だった。

周りからは「素直じゃないなー」などと冷やかす声が飛ぶ。

 

 

「それにしても話聞いていたが……ホントに成長したな、京」

 

「え?」

 

「だってよ、今までだったなら引き下がってたぜ?」

 

 

それは間違いなかった。

今までの京であれば抗うことにすら抵抗を感じ、身を引いていただろう。

 

 

「でもお前はしっかり抗ったんだ。 一人で、な」

 

「…………!」

 

「俺はそれが嬉しく思うよ京」

 

 

大和はそう言って京の頭を撫でた。

本来であれば一子にするようなスキンシップであるが、今回頑張ったのは間違いなく京自身だ。そしてちゃんと成長できていることを自覚させる。

愛するものに褒められ、しかも目標としている「成長」を確実に行えている。

 

 

 

 

 

 

 

「………うん!!」

 

 

 

 

 

 

京は元気一杯の笑顔で返した。

………因みにこの後、大和は寮で彼女に激しく求愛行動をされたために忠勝の部屋に泊まる羽目になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――その夜、男はビルの屋上で夜風を浴びていた。

手には通信機らしきものが握られている。

 

 

「………ああ、旦那? こっちは彩子の回収に成功したぜ」

 

 

この屋上は光も目線も届かぬ切り離された空間。

存在するのはただ、その男と無線機を通じて介される「クライアント」のみ。通信しながら男は煙草を吹かしている。

 

 

「しばらくは目覚めねぇな、激しくやられてらぁ。 九鬼の監視もあるが……ま、自力で戻りまさァ。 ……あぁん? 心配しなさんなって。 俺を誰だとお思いで?」

 

 

男は話しながらも周りへの警戒を一切怠っていなかった。

視覚、聴覚、そして勘。持てる感覚の全てを研ぎ澄ませている。

 

 

 

 

 

「………へいへい。 んじゃまた後でな。 ドッペルの旦那」

 

 

 

 

 

男が通信機を切った次の瞬間、もうそこには誰もいなかった。

 

 

 

 

続く




どうもテンペストです。今回で京編は終了となります。
それにしても前の二人はすいすい行ったのに京編になって色々詰まりました。原作のルートが感動的だっただけにクオリティをいかに高めるかが課題でした。
で、結局犠牲になってもらったのは彩子さんと麻呂さん。っていうか麻呂、A-1の沙也佳ルートでも似たような扱いでしたな……。
さて、次回から幕間として二、三話挟む予定です。予告をしておきますと次回の長編はまゆっちこと由紀江編になります。こうご期待!
私の一番お気に入りだけあって今まで以上に気合入れまっせ!……いやいや贔屓とかは無いカラネ、ウン。
では感想ご意見、お待ちしております!!
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