真剣で私に恋しなさい!X   作:テンペスト

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第三話 激闘!プチ川神大戦

 

 

―――――十分後、グラウンドの周りには多くの見物客が集合していた。

川神学園では決闘は最早名物の一種だった。

中にはどちらが勝つか賭博を提案するもの、弁当などを売りさばくなど商魂溢れるものがいる。

風間翔一は、賭博を提案する側だった。

 

 

「さぁ! 我らがFクラスに賭ければボロ儲けだぜー!!」

 

 

この状況下、仲間の勝利を信じていた。

みなのリーダー、キャップと呼ばれる所以である。大和も試合まで時間があるので彼につき合わされていた。

 

 

「ほうほう。 お前達に賭ければいいのか?」

 

「そうそう……って紋様!」

 

 

大和の目の前に小さな女の子が現れた。髪の色、額のバッテン傷は九鬼英雄を髣髴とさせる。

彼女の名は1-S所属、『九鬼紋白』。彼女自身「紋様と呼べ」と言っているので大和のこう呼ぶ(ことを半ば強制された)。

彼女の傍には凄まじい威圧感を放つ老人も立っている。

 

 

「我はこの戦い、Fが相当不利だと見るが……ヒュームはどう思う?」

 

「不利も何も正面から突っ込んではFに勝ち目は無いと断定します、紋様」

 

 

老人は燕尾服を着込んでいた。彼の名は『ヒューム・ヘルシング』。嘗て川神鉄心のライバルだった男であり九鬼家従者部隊序列零番、つまり九鬼財閥の切り札。

恐らく大和が知る中で川神百代と対等以上に渡り合えるの彼だけだろう。因みに彼は紋白の警護のために1-Sに所属している。

 

 

「そうですね。 ヒュームさんの言うとおり戦力はS側が圧倒的ですね」

 

「直江、それでもお前はFに賭けろと?」

 

「はい。 何せFには俺がいますから」

 

 

自信満々に言い切る大和。

本来九鬼財閥の娘である彼女にこういった物言いをすると傍に光るヒュームが串刺しに来るものだ。

だが彼女はそれを許した。度々大和に世話になっているからだ。

 

 

「Sからは義経が出ると我でも予想できるぞ」

 

「というか絶対出すでしょうねSの気質からしたら」

 

「そうか。 直江はそれらを下す策を持っているのだな」

 

「ですね。 一か八か……俺自身もただではすまないかもしれませんけど」

 

 

大和は不敵な笑みを浮かべた。

まさに軍師の顔だ。こういった彼の表情は策の中でもダントツで恐ろしい策を使う。

紋白もヒュームもその自身の裏に隠された彼のサドに気づく。

 

 

「………我は物凄く恐ろしい予感がしてならないぞ」

 

「大当たり。 我ながらエグイ手を使いますよ」

 

「そうか。 それでも勝負は勝負、プチとは言え何でもありの川神大戦だからな!」

 

 

大和が自称「エグイ策」を使う気になれたのもその辺りが理由だった。

学長である川神鉄心が「真剣勝負」と一言でも告げたならこの策を使うことで後にバッシングが来るだろう。

しかし何でもありの川神大戦の名を冠しているからこそ、何でも使える。

 

 

「はい。 勝負は力と武器だけじゃないってことです」

 

「面白いぞ直江! 我はお前が気に入った! この賭け、そちらに賭けさせてもらおう」

 

 

紋白の言葉と同時にヒュームがいつの間にか札束を用意していた。そして大和が抱えていた賭け札を一気に買い取ってしまう。

 

 

「良いんですか? 紋様はてっきりお兄さんがいるSクラスに賭けるものかと」

 

「フハハハ! お前のその気概を買ったのだ! 見させてもらうぞ、お前の手並みを!」

 

 

上機嫌そうに紋白は去っていった。

が、ヒュームは動かない。一体何があるのかと大和は警戒していたが、彼は目を伏せながらこう告げる。

 

 

「赤子同士どのような勝負をするか……俺も興味がある。 見届けさせて貰うぞ」

 

 

彼は若者に対して厳しい。

主以外は悉く赤子呼ばわりしてくる不良老人だ。だが紋白同様一応期待してくれる模様だ。

 

 

「……紋様の期待を裏切ればお前を俺の標本コレクションに加えてやるがな」

 

 

絶対に負けられない戦いとなった。

そしてその向こう急遽設置されたテントの下で実況を務める女性が二人。

 

 

『さぁ今始まろうとしているのはプチ川神大戦! 実況はこの絶世の美少女、川神百代と』

 

『一日一食ナットウ! 納豆小町、松永燕がお送りしまーす!!』

 

 

一人は昼休みに行われるラジオのパーソナリティを務める百代。

そしてもう一人は彼女と同じ3-F所属でありながら西から来た武士娘、武道四天王の一人『松永燕』だ。

同時に自身が売り出す松永納豆のイメージキャラクター、納豆小町というアイドルとして嘗て無い人気を誇っている。

 

 

『本当だったら同じラジオのパーソナリティである準(ハゲ)がやるはずなんだけどな』

 

『でもそのコ、Sクラスでしょ? さすがに不公平な実況来そうだよね』

 

 

燕は当然といわんばかりだ。

彼女の一言一句が男子達を震えさせている。

何せ彼女もまた絶世の美少女。しかも強さにおいても(あくまで稽古と言う形だったが)川神百代と引き分けている。

まさにアイドルといて謳われないほうが可笑しいだろう。

 

 

「ええい!! 三次元に欲情するなクズどもォ!!!」

 

 

スグルは発狂していたが。

 

 

『でも燕が実況でよかったぁー。 ハゲをクビにしてラジオのパーソナリティ燕で行こう、うん』

 

『モモちゃんモモちゃん。 井上君泣いてる』

 

 

燕の視線の先には涙を堪えるために天を仰ぐ準がいた。

 

 

『さて、今回はクラス選抜の五人が戦うということだがどう見る燕?』

 

『(井上君スルー……)うーん。 質的にも戦力の数的にもSが有利なんじゃないかな~』

 

『当然の見解だな。 私としては大和がどんな策を立てているか楽しみだが』

 

 

百代は期待していた。自分の弟分に。

燕の分析は適格だ。百代もそれについて否定する気はない。彼女の分析にはあの男の頭脳が含まれていない。

 

 

『まぁプチとは言え何でもありの戦争だからね』

 

『そうだ。 不意打ち、交渉、小細工、権謀術数……それらが戦力を埋めるカギになるかもな』

 

 

戦争、それは勝つか負けるかしか存在しない。

クリスは好まないかもしれないが勝てば正義、負ければ悪として扱われる。

だからこそ戦争には何でも出来るという用意周到さ、何でもするという覚悟も問われる。

この暗黙の了解に、戦争の規模は関係なかった。

 

 

(へぇ~。 じゃ、私も大和君に期待しちゃおっかな?)

 

 

燕はあくまで実況と言う立場を貫き、口にしなかった。

しかし彼女がそこまで信じる大和という男を見守ってみたくなった。

彼とであったのは学校の屋上。そこに彼はいた。

ただ、一目見て気に入ったのは間違いない。でもそれ以上の存在になるかどうか、燕は見てみたくなった。

 

 

『さぁそんなこんなの間に選手入場! まずはSクラスから!』

 

 

燕のコールと共に西側から五人の人物が現れた。

これから激闘を繰り広げる戦士の登場にグラウンドが沸いた。

 

 

『華麗に舞う貴族! 不死川心!』

 

「ヒュホホ。 高貴なる此方の手で山猿どもをなぶってやるのじゃ」

 

 

どうやら心はFクラスを自らの手で屠りたい一心で参加を申し出たようだ。

そしてこの緊張感の中、独特の笑い声を出せるほどの余裕がある。

 

 

『続いてドイツから来た鋭き猛犬、マルギッテ・エーベルバッハ!』

 

「クリスお嬢様……申し訳ありませんが、全力で戦わせていただきます」

 

 

軍人として容赦は出来ないとマルギッテも覚悟を決めていた。

明細模様の軍服がその現れた。その手には愛用のトンファーが光っている。

 

 

『そしてSクラスの目玉! 武士道プランの申し子!』

 

『那須与一、武蔵坊弁慶! そして源義経!! 華麗に入場ッ!!』

 

 

百代のコールで三人が前に出た。

義経の方はこの戦いに対して迷いを持ちながらも刀を握っている。一方の弁慶と与一はどちらも余りやる気はなさそうだ。

全ては義経次第、と言うところだろう。

 

 

「正直、こんな戦いに意味は無い……でも、これで納得が行くなら……」

 

「相変わらず真面目ちゃんだな。 ま、俺も気乗りしないがね」

 

「私も同じく……ごくごく……。 義経がやるってんなら従うだけだけどね」

 

 

だが誰の眼から見てもテンションが低い。

真面目に物事を捉える義経は意義の無い戦いに借り出されるのは好まない。そして面倒ごとに首を突っ込みたくない弁慶と与一も士気が高まっていない。

 

 

(義経ちゃん達はローテンションかー。 こりゃ……大和次第ではやり込められるかもな)

 

 

百代は大和に対し注目の視線を差し向けていた。

戦いにおいて『コンディション』や『テンション』は重要なパラメーター。どれ一つを欠いても、負ける可能性は十分にありうる。

彼の指示次第ではこの戦力差をひっくり返す事態になるかもしれないと。

 

 

『以上の五名がSクラスの代表! まさにエリート中のエリートという感じだな』

 

『そうだね。 特に義経の実力……私達と同じ領域にいるかも』

 

 

武道における強さを表す際にとある呼称が用いられる。

中でも『壁を越えた者』と言う呼称が定着しつつある。この領域に入ると、基本その者達でしか倒せなくなる強さを持つことになる。

川神百代や松永燕、そして黛由紀江はその中に入る。そしてそこにはあの義経もいるという。

その力量差は精神状態や人数差で埋まりもするが。

 

 

『さぁ対するFクラスの選抜メンバー入場ッ!!』

 

 

百代の呼びかけに応じ、対する五人が姿を現す。

こちらもSクラスの時と負けず劣らずの感性が上がる。

 

 

『努力を胸に! 切り込み隊長こと川神一子!』

 

「勝負である以上、負けない!! 川神院の誇りにかけて!」

 

 

薙刀を派手に振り回す一子。

その華麗な円舞に観客達がエールを送った。彼女の努力をする姿はある意味隠れアイドルともいえるもので一子の人気は高かった。

そしてその声援が一子の力を漲らせる。

 

 

『そして同じくFクラス! ドイツからの刃! クリスティアーネ・フリードリヒ!!』

 

「マルさん……自分も全力でぶつかる!」

 

 

クリスがレイピアを構える。

天に向かってまっすぐ伸びるレイピアはまさに彼女そのものだ。

迷い、乱れ、驕り。一切無い。標的にされたマルギッテも、生唾を飲み込むほどだった。

 

 

『冷静沈着! 天下五弓の椎名京!』

 

「しょーもない……でも大和のために、射抜きます」

 

 

既に京は集中力を高めていた。

己の持ち味である命中精度。それこそが椎名流弓術の真骨頂にして那須与一をも上回る能力。

彼女の視線は鷹の眼より鋭かった。

 

 

『疾風怒濤! 風の如く動く男、風間翔一!』

 

「へっへー。 やっぱ目立つってのは気持ちいーぜ!」

 

 

賭けのための商売を終えたらしくほっこりしている。

だが元気満タンと言っているかのようにバク転をして見せた。彼の派手かつ華麗なボディパフォーマンスに拍手を送るものさえいた。

 

 

『そして気になる五人目……え?』

 

『ふっふっふ。 燕、さすがのお前でも予測し切れなかったか』

 

 

激戦が必至のこの戦い。

Sクラスも最高戦力を揃えている中、燕は意外そうな声を出した。彼女の中で一瞬だけだが余裕が消えた。

百代は面白そうに笑っている。動揺をきたした彼女の代わりにコールした。

 

 

 

 

 

『Fクラスの頭脳! 尊敬する軍師はカク! 直江………大和ぉ!!』

 

「さて、頑張りますかねっと」

 

 

 

 

 

まさかの頭脳派の人間の登場だった。

これには誰もが驚いて声援も、罵倒も出せなかった。

 

 

『ある意味注目の対決カード! 双方の意気込み十分! 私の家まで十五分!』

 

『さぁ、学長の掛け声と共に試合スタートです! ナッ、トウ!!』

 

 

燕の声と当時に学長こと川神鉄心が表れる。

Sクラス五人とFクラス五名。双方の間には視線がぶつかり合い、火花が散らされる。

この緊張感が逆巻いてか、砂煙すら巻き起こる。

それにも一切怯まず、彼らの間に立った。

 

 

 

 

 

「それでは………始めぇい!!」

 

 

 

 

 

鉄心の一言が、地を揺るがした。

だがそれに怯む戦士達ではない。有利な間合いに持ち込もうと各々が動く。

そんな中、一子が薙刀の切っ先を不死川に向けた。

 

 

「アンタの相手はあたしよ! 不死川!!」

 

「ヒュホホ。 愚かな山猿よ、高貴なる不死川流柔術の餌食にしてくれようぞ」

 

 

一見、戦闘力皆無に見える不死川。だが彼女の戦闘力はそこにある。

油断した相手を引き込み、投げ飛ばし、間接を極める柔道。彼女は全国区を突破する実力の持ち主なのだ。

つまり中距離ならば一子、ゼロ距離ながらば心に軍配が上がることになる。

 

 

「行くわよ不死川心!! 川神一子、行きます!!」

 

 

一子の周りを闘気が覆っていた。

さすがの心も一瞬怯むがすぐに冷静さを取り戻した。

 

 

『さぁ、こちらはある意味因縁かも? 川神一子VS不死川心、激突ナットウ!!』

 

『そして一方、マルギッテは面白い状況になっているぞ!』

 

『え?』

 

 

この戦いに面白い状況などあるのだろうか。

強大な戦力差が有る以上、一対一で有利に事を運ぶしかない。燕ならばそうしている。

しかし、彼女の視界には全く異なる状況が展開されていた。

 

 

『なんとマルギッテ!! クリス、キャップ、そして京の三人に囲まれているぅ!!』

 

 

そう、マルギッテは3対1を強いられていたのだ。

三方向から囲まれ、マルギッテもどこから攻撃が来るのかと警戒している。

 

 

「……まさか、お嬢様がこのような集団戦法を使おうとは」

 

「“仲間のため、それが本当の義”……大和が教えてくれた。 だから、自分は仲間のために勝つ!」

 

「……変わりましたねお嬢様。 いい方向に」

 

「それにこの二人はあくまでフォローに徹するだけ。 基本は自分と一対一だぞマルさん」

 

 

以前のクリスならば1対1を平然と申し込んでいただろう。

だが、それで仲間を守れるのかは別問題。大和はそれを親身に教えてくれた。

だからこそ彼女は彼の信頼にこたえるためこの作戦を受け入れた。

 

 

「おう! その通りだクリス! それに俺達が揃えば―――――」

 

「出来ないことはない!!」

 

 

翔一や京も、彼女の成長を喜んでいた。

と同時にうかうかしていられないと昂ぶる。彼女が前進して自分達が立ち止まっては意味が無い。

マルギッテを囲む三人が、仲間のために勝利をつかみとろうとしていた。

 

 

『――――あれ? ってことは大和君は?』

 

『決まっているだろう。 不死川にワン子、マルギッテに3人使ったのなら――――』

 

 

百代の視線の先。

そこには圧倒的絶望の中、余裕の笑みを浮かべる男がいた。

百代が可愛がる、あの弟分が。

 

 

 

 

 

『大和は、義経達3人を相手するだけだ』

 

 

 

 

 

大胆不敵な笑みを浮かべる大和。

その先には英雄達のクローンが勢ぞろいしていた。刀、弓、杖。それぞれを代表する武器が大和を狙っている。

誰もが絶望を覚える中、大和は歩いて彼女達に寄っていく。

 

 

「……直江君、手加減はしない!」

 

「いや手加減してくれないと死ぬけどね。 っていうか負けてもらわないと」

 

 

彼女の強さは理解しているつもりだ。

義経達が転入してきた当日、マルギッテは弁慶に、一子は義経に敗北していた。つまり回避能力だけが取り得の大和に勝ち目は無い。

そんな中、負けてもらうという宣言が出た。

 

 

「―――――源義経、参r『ちょっと待って』

 

 

口上を述べようとした時、大和が静止をかけてきた。

出鼻を挫かれた義経は気勢を崩してしまう。

 

 

「な、何だ直江君! これは真剣しょ――――」

 

「そう、俺は真剣(マジ)だ。 義経、棄権しないと大変な事になる」

 

 

なんと大和はあろう事か義経に棄権を求めてきた。

前代未聞の事態に義経本人のみならず、弁慶、与一も唖然とする。

元々やる気が無い彼らは義経からの指示がなければ動こうともしなかった。目論見どおりに事が運んでいると満足している大和は次の段階(フェイズ)に移行する。

 

 

「義経。 このサイトを見て」

 

「な、何だこれは?」

 

「これは……川神学園の裏サイトか……」

 

 

大和は日々愛用している携帯電話を手にした。

そしてあっという間にインターネットに繋ぎ、彼女に見せた。義経は当初何のサイトか全くの見込めなかったが、ネット愛用者である与一はすぐに気づいた。

 

 

「そう。 簡単に言えば悪口書き込みサイト」

 

「で、これがどうしたの大和」

 

「このページを見て。 Sクラスへの誹謗中傷が書き込まれている」

 

 

その中には様々な人物に対する悪口や誹謗中傷が連なるように存在している。

だが最も酷く荒れている掲示板。それがSクラスへのものだった。

 

 

「うわ……ひ、酷いものだな……」

 

「ああ。 セカイが生み出す“悪意(イヴィル)”の捌け口、それがこのサイトなのさ」

 

「反吐が出るね……で、これがどうしたの大和」

 

 

いつの間にか英雄三人はたった一台の携帯電話に釘付けになっていた。

書き込んだ人間達の負の結晶を。

だが精神に余裕のある弁慶はまだ動揺していない。彼女の動揺を最初から求めていない大和もまだ余裕だった。

 

 

「ここ、Sクラスに問題のある人物が書き込まれているよ」

 

「本当だ! ……言われてみればその通りだな」

 

 

大和が気になる項目をピックアップした。

そこにはSクラスに対する問題点を揚げ足に彼らを叩く、という掲示板が。

しかしそこに連なっている問題点は日頃義経達が感じているものと相違なかった。

 

 

「Sクラスは紛れも無く優秀。 でもその一方で人からこれだけ嫌われている」

 

「無くならないさ。 こういうのはな」

 

「与一の言うとおりだ。 でも改善せず、放置するというのは問題だ」

 

 

正論を突きつけた。

事実Sクラスはその才能を鼻にかけて他人を見下すという傾向がある。特にそれが著しい不死川心は最大の標的になっている。

無論中には妬みやただの八つ当たり、なんて文章もあるがそれ以上にSクラスの人を見下すという傾向が嫌われている印象を受ける。

 

 

「今見たところ、義経達に対する悪口は書き込まれていない」

 

「……た、確かに」

 

「でもこの戦いに加担したことでいずれ書き込まれるだろうね」

 

 

大和の口車が炸裂する。

無常に突きつけられた一言が義経を追い込んでいく。

 

 

「ど、どうして!?」

 

「“伝説の英雄は傲慢な奴らの味方”でスレが立つ」

 

「……そんな記事もできるだろうな」

 

 

ネットを愛用している与一は良く知っている。

どんな風に動けば、どんな噂が立つのかを。そしてそれが自分達に、義経に向けられる。想像したくなかった。

 

 

「だからここは素直に棄権するべきだと思う。 でないといつか本物の陰口に発展する」

 

「う……ぅ……」

 

「そうなれば与一や弁慶、挙句関係の無いクラスメートまでその矛先が向けられるかもしれない」

 

 

大和の言葉が、義経の脳内に世界を構築させていく。

日々陰口を叩かれる、そんな世界を鮮明に築き上げていく。

 

 

「そんな……そんな事、義経は許さない!」

 

「だったら今ここで無益な戦いを終えるべきだ。 どうせこの後には双方が謝罪する。 この戦いはただの大義名分なんだ」

 

 

因みに大和はこの演説を周りにも聞こえるように言っている。

周りの観客達もこの醜悪なサイトに目を逸らしていた。

 

 

「で、でも……義経は……皆の代表として出ている……棄権なんて……」

 

 

やはり義経は迷っていた。

まだ棄権するには至らなかったが、それでも彼女の精神が揺らいでいる。

 

 

「な、何をしておるか義経! 早くその山猿を―――――」

 

「隙ありィッ!!」

 

 

最大の切り札がまさか直江大和という男に対して何も出来ていない。

当然、それを頼りにしていたSクラス陣営に衝撃が走った。

特にメンタル面が弱い心にそのダメージは大きい。致命的ともいえる隙を一子に与えてしまった。

 

 

「川神流………水穿ち!!」

 

「にょわあああぁぁぁぁ――――――っ!!!」

 

 

鋭い薙刀の一閃が心を襲った。

一子が最も得意とするスピード戦法についていけず、心は吹き飛ばされる。

鮮烈な痛みが身体を襲い、崩れ去った。

 

 

『綺麗な一閃ーっ!! ワン子、不死川を破ったぁーっ!!』

 

『相手の一瞬を見逃さない集中力……努力の賜物だね』

 

 

妹が宿敵を破る。

その快挙に百代はあくまで実況者と言う息を超えない程度に賞賛した。

燕も彼女の努力を純粋に褒め称えた。そしてこの決着がつくほんの数秒前。

 

 

「てやぁぁぁっ!!」

 

「くっ!」

 

 

マルギッテは愛用の武器でクリスの鋭い突きをいなす。そしてトンファーを振るうことで彼女を交代させた。

だがそこに京の狙撃が足元に襲い掛かる。

足を上げて避けたところで翔一の鋭い蹴りが飛んでくる。

 

 

(あくまでお嬢様と私の一騎打ちに近い形にさせることでお嬢様の気持ちを汲みつつ、私を完全に押さえ込む……直江大和、これがお前の策士としての指示ですか)

 

 

京と翔一は、仲間の動きの邪魔にならぬよう、そして尚且つ彼女が傷つけられそうになるとそのフォローに動いている。

あくまでオフェンスには加勢していないが、プレッシャーが増してくる。

その見事なまでの連携力はマルギッテの視界に戦場を髣髴とさせた。

 

 

「見事なコンビネーションですね。 褒めてやってもいい」

 

「当たり前だ! 俺ら風間ファミリーの結束力舐めんな!」

 

「正直、今なら寄せ集めの軍隊程度なんて相手にならない!」

 

 

翔一と京の自信は全うなものだろう。

事実生半可な軍隊を送り込んだところで風間ファミリーには叶わない。マルギッテは悟った。

そして今、この戦場には彼女一人しかいない。断然不利だ。

 

 

「ならば………一人ずつ着実に倒すのみ!!」

 

 

あくまで負けるつもりは無いようだ。

トンファーを振り回し、次々と攻撃を裁いていく。

 

 

「せやぁぁぁぁっ!!」

 

「くっ!!」

 

 

だがその最中で襲い掛かるレイピアの鋭いつき。

紙一重の差でマルギッテは避けた。避けなければ、軍服のように貫かれていただろう。

油断はしていない。クリス相手でも完全勝利を収めるつもりで臨んでいた。それでも彼女に傷つけられたという事実、それはクリスの成長だ。

 

 

「さすがですお嬢様! ですが……私は負けない!! Hasen Jagd!!」

 

 

トンファーを回転させながらマルギッテは走る。

狙いは風間翔一だ。この場において最も武力の低い人間から狙う。兵法における基本中の基本だ。

左右から襲い掛かるトンファーの嵐。翔一はそれを。

 

 

「この世に俺を……“風”を捉えきれるものなどありゃしねぇ!!」

 

「何ッ!?」

 

 

持ち前のスピードで避けていた。

速度だけではない、身軽さ、冒険で培ってきた勘。その全てが彼に回避能力を与えた。

 

 

「こんなのアマゾン川で遭遇した組織の銃弾の雨に比べればなんてことねぇ!!」

 

「……なるほど、戦場を掻い潜ってきたわけですか。 礼を失していたようですね……!」

 

 

正直、今の今までこの男を見くびっていた。ただサボり癖のある青年だと。

この戦いはその認識を改めるのに十分だった。

マルギッテは敬意を表して眼帯に手をかける。この眼帯はリミッターのようなものでこれを外せば欧州最強とまで言われる戦闘力を手に入れられる。

 

 

「そこっ!!」

 

「うっ!?」

 

 

その手を、京の矢が弾いた。

彼女はこの戦いが始まる直前、『マルギッテの眼帯外しだけは阻止しろ』という指示を受けていた。

つまり彼女はただ、眼帯に手をかける左手に意識を集中させればよかった。

京の持ち前の集中力、そして狙撃精度が見事にマルギッテの手を弾いた。

 

 

「マルさん……これで終わりだぁっ!!!」

 

「ッ!!!」

 

 

クリスのレイピアが伸びる。

鋭い切っ先は、マルギッテの喉元に突きつけられた。少しでも動けばレイピアが食い込む。

幾らレプリカとは言え激痛は必至。本物であれば、死は確定。

つまりマルギッテは、もう動けなかった。

 

 

 

「……見事です、お嬢様。 私の負けです」

 

「……ああ」

 

 

 

マルギッテは、とうとう負けを認めた。

レイピアの切っ先を喉元から外し、クリスは可憐に構える。

 

 

『なんと不死川が敗れたと同時にマルギッテ、クリスに追い詰められたぁーっ!!』

 

『あそこまでしっかりレイピアが迫ってたら負けを認めるしかないよね』

 

 

不死川の敗北を伝えたと同時に実況側はマルギッテ側の敗北も伝える。

彼女達の実況の声がスピーカーを通じて義経達の耳にも届いた。

 

 

「義経!!」

 

「し、しまった!!」

 

 

弁慶の一言ですぐに我に帰った。が、気づけば一子によって心が、クリスによってマルギッテがほぼ同時に倒されていた。

仲間が倒された以上、もうどんな口車にも応じないだろう。

だが最低限の時間稼ぎは成功したと、大和の微笑が報せる。

 

 

「い、今から迎撃――――あ、あれ!?」

 

「悪いね。 俺チャチだけど手品も出来るんで」

 

 

大和の携帯電話を捨てて刀を抜き取ろうとする義経。だが、刀は釣り糸によって縛られていた。

大和が得意とする手品を応用した縄縛りだ。

本来の義経であれば縛られることは無かったのだが、携帯電話の画面に夢中になっていたことと大和の弁舌によって精神を揺らがしていたことがその隙となった。

 

 

「大和……これはさすがに私も真剣(マジ)になっちゃうよっ!!」

 

「うおっとぉ!!」

 

 

義経がまさかの無力化。当然弁慶は怒るしかない。

繰り出される杖の一突きを、大和は横っ飛びになって避ける。

姉の百代にいつも絡まれている大和は回避能力が高い。弁慶のパワーの篭った一撃を見事に避けた。

 

 

「クリス!!」

「了解したっ!!」

 

「なっ!?」

 

 

攻撃を避けたと同時に大和が指示を出した。

弁慶の目の前にはレイピアを手に突進してくるクリスの姿が。すぐに迎撃するべく杖を構えようとするが大和がその杖を掴んで離さない。

 

 

「大和!?」

 

「悪いけど……身体を張るのも策のうちなんでね!!」

 

 

大和の重みが杖を持ち上げにくくする。

咄嗟に持ち前のパワーで大和を吹き飛ばそうかとも考えたが、今までの大和とのやり取りが急に脳裏に迸る。

その思い出が、彼女の腕を鈍らせた。

 

 

「貰ったぁッ!!」

 

「ッ!!」

 

 

クリスのレイピアの切っ先が、またも喉元の寸前で止められた。マルギッテの時と同じだ。

微動だに出来ない弁慶は杖を捨て、両手を挙げた。

 

 

「参った……大和、私の負けだよ」

 

「姐御!?」

 

 

見事にしてやられた。無論悔しいのもあるが、弁慶は一杯飲まされたことを悟ると清々しいものすら感じられた。

まるで弟に任された姉の構図に弁慶もどこか悪くなさそうな表情だ。

彼女の敗北に一番動揺するのは与一だ。

 

 

「行くぜ那須与一っ!!」

 

「ッ! バカが……俺の『雷光閃(ライトニングアロー)』の射程内だッ!!」

 

 

動揺が翔一の接近を許してしまう。

まさに風の如く速さと行動力を持つ翔一が果敢にも与一に駆け寄ってくる。しかし天下五弓にカウントされる英雄は咄嗟に弓を構え、狙いを定める。

次の瞬間、翔一がどんな動きをしようと猛烈な矢が彼を穿つ。

 

 

「椎名流奥義……迷い鳩!!」

 

「な!?」

 

 

すると翔一の背後から何度もうねる矢が数本飛んで来た。京のものだ。

彼女は翔一の背後に立つことで自らの動きを読まれないようにしてた。相手は眼がいい、眼で全てを読んでいる。

ならば動きを見せなければいいだけのこと。

 

 

「な、何だこの矢の動きは!?」

 

 

彼女は矢を放つ寸前、羽に切れ込みを入れ、空気抵抗によって羽を破かせることで矢の軌道を変幻自在にしてしまった。

その上で、矢は正確に与一の元に向かってくる。

しかもそれが何本も襲い掛かってくる。与一は出鱈目に向かってくる矢を回避するしかない。

 

 

「隙ありだぜ!! うおりゃあぁぁぁぁーっ!!」

 

「ぐ、あぁぁぁぁっ!!?」

 

 

だが矢に集中した所為で翔一は目の前だ。彼は迷うことなく飛び蹴りを繰り出す。

体重を乗せた鋭い一撃が与一の胸を捕らえ、吹っ飛ばした。

 

 

「ぐ……姉御の攻撃に比べれば!!」

 

 

強烈な蹴りを食らったものの与一はまだ立てる。何せパワフルな弁慶の仕置きを食らってきたのだ。

そして与一は矢を放った。

天下五弓、そんな称号に微塵も興味や未練は無い。が、負けるのは気に食わない。

猛烈な矢が光を纏って飛ぶ。

 

 

「甘ぇ!!」

 

 

しかし翔一は己の身体能力と彼自身の「激運」が脅威のマトリックスを巻き起こした。

当たれば即死クラスの猛烈な矢が翔一の腹を掠める。

そして京も相手にこそ劣るが、眼がいい。彼女は与一の矢を避けると同時に有りっ丈の矢を、細工をした上で装填した。

 

 

「椎名流弓術……迷い鳩の群れ!!」

 

 

全ての矢が全く読めない軌道で襲い掛かる。

与一がその弾道を見極めようとすればすぐに左右にぶれる。それが数多く降りかかってくる。

もう彼の目といえど追いつけない。

まさに矢雨を浴びてしまう。

 

 

 

 

「うおあああああっ!?」

 

「はい。 これで新名物、『那須与一標本』の出来上がりです」

 

 

 

 

だがそこに仕上げと言わんばかりに京が無数の矢を放った。

天頂から降り注ぐ矢が、与一の輪郭をなぞるように突き刺さっていく。まさに彼女の宣言どおり、与一は標本にされたような姿になってしまった。

 

 

『これは動けない! 那須与一、敗れるー!!』

 

『風間君の動きが見事に引っ掻き回したね』

 

『因みに燕、純粋な京との狙撃勝負ならばどちらが有利だと思う?』

 

『間違いなく与一君だね。 飛距離、威力どちらも上だから短期決戦に持ち込める彼の方が強いよ』

 

 

実況の傍ら、分析を欠かさない燕。

つまり真っ向勝負では勝てなかったわけだ。それを勝利に導く風間翔一という漢の存在に京は感謝を送る。

 

 

「弁慶、与一ッ! こ……のぉっ!!」

 

「何!?」

 

 

これで残るは源義経ただ一人。

仲間達の相次ぐ敗北に義経は激しく動揺する。何と彼女は鞘を地面に何度も叩きつけ、破壊することで刃をさらすという強引な手段に出た。

これには大和も一瞬、危機感と絶望を覚える。

 

 

「ていやぁーっ!!」

 

「う!?」

 

 

が、瞬時に一子の薙刀が叩き落した。

空しい音を出しながら刀は地を滑っていく。壁を越えた者という強さを持つのなら、コンディションで隙を作ればいい。

大和の策が見事に炸裂し、義経の致命的な隙を作った。

 

 

「大和に誘われて隙を見せたわね義経!」

 

「……全部直江君の策だったようだな……」

 

「悪いけど負けないわよ! この後がどうなるとしても今は全力の勝負なんだから!」

 

「……ああ、これも勝負。 直江君を責めるつもりは毛頭ない。 だからこそ……!」

 

 

一子は薙刀を振り回す。彼女も武器を失わせたとは言え、油断はしていなかった。

それに対し、義経は冷静になり、構えを取る。

 

 

「川神流奥義……!」

 

「義経は……負けないっ!!」

 

 

拳だけでも戦おうとする義経。刀を失おうとその強さは本物。鋭い正拳突きが、一子の薙刀を弾き飛ばした。それだけではない、彼女の拳はそのまま一子を打った。

 

 

「うっ!」

 

「ワン子!!」

 

 

強烈な一撃が綺麗に入る。カウンターの要領だ。直撃した際の威力は、攻撃された側の数倍に匹敵する。

大和も彼女を心配し近寄ろうとした。

しかし一子の最大の武器――――それは。

 

 

「光灯る街に…背を向け……我が歩むは……果て、無き……荒野……」

 

「!?」

 

 

一子はまだ倒れない。そう、川神院の教え――――「川神魂」がある限り。

その眼に宿った不屈の闘志。義経も尋常ならざるものを感じた。

 

 

「奇跡も無く………導も無く……ただ……夜が……広がる、の……み!!」

 

 

一子は左手で義経の腕を握った。

これにより義経は動きを封じられてしまう。

 

 

「大和がくれた……リベンジのチャンス!! 絶対に……離さなぁぁぁぁい!!」

 

「く――――――!」

 

 

川神一子は、源義経に一度負けている。素質も、経験も違った。あの時明るく振舞っていたがやはり内心悔しかった。

だがこの試合が始まる前、大和は彼女に告げていた。

 

 

≪ワン子、義経にリベンジしてやろうぜ!≫

 

 

彼の言葉は、何よりも信頼できる。昔も、今も、これからも。

あのカウンターアタックを食らった時、彼の顔、言葉、そして思い出が脳裏を過ぎった。自分を信頼してくれた大和への、この思い。無駄にしないと。

彼女の想定以上の不屈の闘志に義経が僅かに動揺した。その隙に一子が拳を放つ。

 

 

「蠍……撃ちいいぃぃぃっ!!」

 

「ぐ!?」

 

 

綺麗な正拳突きが決まった。

『蠍撃ち』とは川神院の奥義の一つで強烈な拳で相手の体内に衝撃を齎す。

その衝撃はまるで蠍の毒のように全身に回り―――――。

 

 

「う……ぐっ……」

 

 

対象を仕留めるのだ。

蠍撃ちが綺麗に決まれば倒れない相手はいないと言われるほどの奥義だった。

強烈な激痛に膝を突く義経。周りを見渡すと、既に残りの面々に囲まれている。

武器も無く、仲間も失い、身体には強烈な痛みが圧し掛かる。義経はため息をついた。

 

 

「………義経の……負けだ……」

 

 

とうとう彼女も負けを認めた。

これによりS側はもう戦える人材はいない。

 

 

 

 

 

「それまで!! 勝者、Fクラス!!」

 

 

 

 

 

鉄心の掛け声が学校中に広がった。

 

 

『Fクラス、戦力差を覆しての勝利ぃーっ!!』

 

『大和君が義経達を引きつけておいたのが勝因だね』

 

 

大和は胸を撫で下ろした。

義経が聞く耳持たずの場合は彼自身が大怪我を覚悟してでも彼女達三人を止めなければならなかったからだ。

何はともあれ勝利したことでFクラスが歓声を上げる。大はしゃぎなのは彼らだけではない、観客もそうだった。

 

 

「ほ、本当に直江達が勝った……凄いなヒューム!」

 

「直江大和が巧みに彼女達の精神を掻き乱したことも勝因ですね。 この勝負、彼が勝利の立役者といえるでしょう」

 

 

紋白もまさかの勝利に大絶賛だった。大和の弁術、采配がこの勝利を齎すとは思っても見なかった。

若者に厳しいヒュームも、彼の貢献を認めている。

 

 

(しかし逆に言えば奴の言葉程度で惑わされる義経達も……まだまだ赤子だな)

 

 

だがやっぱり彼は厳しかった。

 

 

「直江……いや大和……お前は凄いのだな……」

 

 

紋白も彼を認めた。彼女にとって直江大和が大きく見えた一面だった。

確かに彼自身が宣言したとおり、少々えげつなかったかもしれないがそれを補うほどの勝利だ。

ヒュームも、彼女の大和に対する呼称が変わったことに気づいたが、寧ろ微笑ましく思いかすかな笑い声を漏らすだけだった。

 

 

『まだ止まぬ歓声! Fクラスの勝利を称えるものが後を絶たない!』

 

『そりゃそうだね。 何せ形はどうあれ、壁を越えた強さを持つ源氏一派を破ったんだもん』

 

 

百代と燕も本気で感心していた。

彼女達の見立てからして、絶好調の義経を倒せるのは生徒では自身を除いて黛由紀江ぐらいだと思っていたのだ。

ならば絶不調に陥れればいい。

 

 

『正直素手でもワン子はキツイと思っていたんだが』

 

『私もあのカウンターが決まった時はもうダメだと思ったよん』

 

『けど耐え抜いた……これが日頃の努力なんだな、ワン子』

 

 

壁を越えた者――――その強さを持つものは素手でもあらゆる格闘家を凌駕している。

刀を失ったとて、一子では厳しい。百代はそう見ていた。

しかし彼女は見事期待を裏切ってくれたのだ。大和の支援のおかげでもあるが、彼女は胸を熱くしていた。

 

 

(逆に言えば、あれだけの戦力をひっくり返したのは大和君、か……)

 

 

松永燕は、実況を終えると同時に彼に視線を定めていた。

彼は今、クラスに戻り勝利を祝われている。

どこにでもいそうな美青年ではあるが、どこか人をひきつける魅力を感じさせる。そしてどこに、この絶望といえる状況に希望を齎したのか。

 

 

(正直、私だったら学校の裏サイト利用はありかもしれないけど……義経達相手に手品を使い、そして弁慶の攻撃をその身をもって妨げるド根性……凄いなぁ)

 

 

彼女もまた策を好み、知略と冷静な状況分析で勝利を掴む。

故に大和の今回の戦い方にはある意味共感を持てる。だが、弁慶のパワーをその身で受けようとまでは至らなかった。

幾ら武道四天王とは言えあの力を食らえばノックアウト必至。だが、彼は一歩も引かず寧ろ果敢に止めに入った。

 

 

(あのままだと確実にクリスちゃんは杖による攻撃で壁に叩きつけられていた……大和君、噂どおり本当に仲間思いなんだね)

 

 

プライドの高い松永燕も、大和を漢として認めるしかなかった。

だからだろうか。彼女の胸が一瞬だけ高鳴ったのは。

 

 

(……大和君。 この松永燕を本気にさせた代償は高いよん……)

 

 

いつしか、本気の視線を向けていたことに百代は気づく。

近いうち真剣かつ全力を出す彼女と戦えるのだろうか。百代は今は、そうしか思えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では祝勝会! かんぱーい!!」

 

『『『かんぱーい!!』』』

 

 

翔一の音頭で、風間ファミリーの面々がジュースが入ったグラスを掲げる。

ここは梅屋。全国的に有名な丼物のチェーン店だ。彼らはここでSクラスに勝利したことによる祝勝会を開いていた。

本来ならファミレスでやるべきなのだろうが予算もないということで安上がりのこの店を選んだのだ。

 

 

「でもいいのでしょうか……私、何もやっていないんですけど……」

 

「アイツらの勝利はファミリーの勝利だ。 だから仲間の勝利は祝わないとな」

 

 

由紀江はその中でも恐縮していた。

彼女はあの戦闘に介入していなかったのだ。故にこのように関係ない面子で祝勝会に加わることが少し憚れたが、百代が諭す。

 

 

「そうそう姉さんの言うとおり。 一緒に喜ぼうぜまゆっち」

 

「だよなー大和ぉー♪」

 

「奢りません」

 

「ケチ。 ヤドカリ大統領」

 

 

彼女はただ大和に奢らせたいだけだった。

 

 

「だが私個人としてはワン子が義経を倒したことが一番驚き、嬉しかったな」

 

「そんな事無いわよお姉様。 アレは大和のおかげだもん」

 

 

あくまで実況だった百代は妹相手といえど贔屓は出来なかった。しかしやはり彼女の勝利を誰よりも祝っている。

一子自身も勝利を嬉しく思うが、大和がいなければ義経に返り討ちにされていただろう。

そんな中、彼女達が注文した料理を運んでくる店員が一人。

 

 

「へぇ、あの義経を倒したのか。 凄ぇじゃねぇか一子。 この豚皿は俺からのお祝いだ」

 

「うわーい!! ありがとう釈迦堂師範代!!」

 

「元、だ。 破門されてんだって何回言わせる気だ」

 

 

見た目はしがない中年。だが身に纏うは圧倒的威圧感。

彼の名は『釈迦堂刑部』といい、元川神院の師範代。強さにおいてはルーすら凌ぎ、嘗ての百代の師匠だ。

精神面の問題を看破され、川神院を破門されたと伝わっている。その後、ワケあってこの梅屋の店員となっているのだ。

 

 

「釈迦堂さーん♪」

 

「お前は戦闘に加わってねぇだろやらん」

 

「ぶーぶー。 またワン子にだけ贔屓だよー」

 

「そりゃ俺ぁ一子大好きだからな」

 

 

戦闘狂である彼と川神百代は相性がよく、そのため百代は彼を師匠としていた。

しかしその一方で誰に対しても平等に明るく、努力家である一子は釈迦堂ともコミュニケーションを取り、その結果百代以上に可愛がられている。

一子もそんな釈迦堂に感謝しているからこそ、真っ先にこの梅屋を薦めたのだ。

 

 

「しっかし大和が出ると言い出したときは焦ったぜ」

 

「ホントだよ。 キャップならまだしもね」

 

「義経の気質とコンディションを読んだんだ。 余り気乗りがしていない真面目な彼女なら動揺させやすいってね」

 

 

岳人や卓也も、軍師の登場にはハラハラしたものだ。

一方大和は自身の策を成功させたからか上機嫌である。

 

 

「しかし作戦のためとは言えマルさんを大勢で囲むのは気が引けたがな」

 

「だから私達、なるべく1対1の形になるようサポートに徹したのに」

 

「いや、それは感謝しているぞ京。 キャップも」

 

 

真面目といえばクリスもそうだ。

騎士道精神に溢れる彼女は本来ならばマルギッテとは一対一で臨みたかった。

『仲間のために』という彼女の約束で反対こそしなかったが余りいい気がしなかった。

 

 

「キャップさん、与一さんを蹴り飛ばした時は凄かったですね」

『某仮面ライダーもびっくりだぜ』

 

「だろだろ! まゆっち、松風! もっと俺を褒め称えろぉー!!」

 

「あーあ。 調子に乗り出しちゃったよ」

 

 

英雄をその蹴りで倒したことでまた翔一は人気が上がった。

お調子者の彼は目立つことに生きがいを感じている。結構だと思う大和だが調子に乗らせてはいけない。静止役として彼を抑えた。

 

 

「でもその後、FクラスもSクラスも謝罪したんですよね?」

 

「ああ。 委員長同士が代表となって謝罪したんだ」

 

「元々こっちの騒ぎが原因ということで『あまりうるさくしないように』ってじーちゃんに言われちゃったけどね」

 

 

しかしこのプチ川神大戦、元は互いの怒りを捌けるための戦い。

言わば憂さ晴らしに過ぎない。結果はどうあれ、その後謝罪を互いにさせられたのだ。

これにはSクラスは勿論、勝利したFクラスもいい気はしていない。

 

 

「Sクラスの方はどんな様子でしたか?」

 

「今回の結果に納得してない奴もいるみたいで近々再戦を企てそうとの報告があった」

 

 

しかし由紀江からすれば負けて謝罪させられて、黙っているSクラスではないと知っている。

故にその後の動向が気になっていた。

大和もそれは同じだったようで、準から届いたメールの内容を報告した。

 

 

「しかし大和。 学校の裏サイトを利用するなんてよくエグイ手を出せるな」

 

「あれが一番心に来るからね。 そしてこのサイトの存在が露呈されたことで学校側、九鬼側もサイト閉鎖や再発防止に取り組んでくれるはずさ」

 

 

大和の真の策はそこにあった。

彼自身、このサイトの存在を知った時には不快感を覚えた。

そこで強大な力を持つ九鬼の眼に触れさせることでこのサイトを潰させ、二度と同様のサイトが立ち上がらないように情報統制を行わせる。

義経達に余計な知識を与えないように九鬼が全力で配慮することを踏んでの策だった。

 

 

「大和の言うとおりあの後裏サイト閉鎖されてるしね」

 

「アフターケアも狙うとはさすがだな大和」

 

「ま、クリスの言うようにさすがに俺もエグイとは思ったけどな」

 

 

大和も今回の精神攻撃はさすがにやりすぎたと反省しているようだ。

反省してくれているのであればこれ以上何も言うまいとクリスも頷く。

 

 

「だが……大和には感謝しなければ」

 

「ん? どうしてよクリ」

 

「自分がなるべく一対一になれるような陣形を組んでくれた。 自分の気持ちを汲んでくれたからな」

 

 

勝負であれば負けるのは気が引ける。

だからこそ軍師には全力で勝てるような策を義務付けられる。とはいえ兵士の状態を考えないのも策士とはいえない。

大和は仲間のための、そして勝利のための策を練りだしたのだ。

 

 

「だな。 怪我人がなるべく出なかったしな」

 

「その点ワン子には謝らないとな……」

 

「いいわよ。 寧ろ義経にリベンジさせてくれたことにお礼を言わないとね! 大和、ありがとう!」

 

 

大和の策は常に「仲間を傷つけない」ためにある。

だから、傷つくとしても精々自分だけにとどめるように配慮してある。そのため一子にカウンターの拳を食らわせてしまったことが大和の心残り。

しかし今の彼女は勝利というかけがえの無い経験を与えてくれた、一番大切な人に感謝している。

 

 

「そう言えばあの後の義経さん、どんな感じでしたか?」

『悔しくもあるが清々しさもある、みたいな複雑なヒョージョーだったぜー』

 

「弁慶からのメールだと『精神を惑わされないよう鍛えなければ』と張り切って特訓してるらしい」

 

「なら良かったです」

 

 

大和がメールを見せた。

そこには彼女の過信でもあり、だらけ仲間でもある弁慶からのメールが。

元々気乗りがしない勝負ということもあって互いに遺恨は残っていない様子だ。由紀江もそこが気になっていたらしくホッと胸を撫で下ろす。

 

 

「はぁーっ。 食った食った」

 

「そろそろ出るか。 大和、会計頼むぞ」

 

「了解」

 

 

出された料理も食べ終え、皆満足している。

クリスからの要請で皆からの金を受け取り、大和がレジに向かう。その間に風間ファミリーの面々は外に出た。

 

 

「3600円になりまーすっと」

 

「はいはい」

 

 

レジ担当も釈迦堂だった。

金額に関しては既に大和も計算済みで皆からピッタリになるように金を集めていた。

レジからチャリーンと小気味いい音が鳴り響く。

 

 

「そういや直江。 お前明日ヒマか?」

 

「明日ですか? まぁヒマっちゃヒマですけど」

 

 

突如釈迦堂が大和に予定を尋ねてきた。

余りにも突然の質問に困惑するもヒマとは答える。明日は日曜、そして休日を惰眠で潰すタイプではなく明日どうしようか決めあぐねていた所だった。

 

 

「だったらよ、ちょいと会ってほしい奴がいるんだけど」

 

「俺にですか?」

 

「そ。 お前じゃなきゃダメなんだとよ」

 

 

大和はその頭をフル回転させて答えを導き出す。

釈迦堂に関係があり、尚且つ大和に会いたがる人物。すぐに答えは出た。

 

 

「まさかあの人ですか?」

 

「ああ。 もしいいんなら明日多馬川の土手で待ってるってよ」

 

 

珍しい釈迦堂からの頼みごと。

大和もその人物に対して悪い感情は持っていなかった。

この際彼と人脈構成を築けるチャンスでもあり、明日がヒマだという事も相まって、彼はOKを出すことにした。

 

 

「分かりました。 OKだとお伝えください」

 

「ほいよ。 は~っ、これでアイツも大人しくなるな……」

 

「師匠なのに手を焼くんですね」

 

「師匠だからこそ手を焼くんだよ」

 

 

しかし大和は知らなかった。

これが大パニックの日曜日になることを―――――。

 

 

 

 

続く




どうもテンペストです。
色々ありましたがFクラスの勝利です。源氏一派にどう勝たせるか苦労した結果大和君に汚く頑張って貰いました。
公式マテリアルブックの方にも掲載されている通り「壁を越えた者の強さはそのコンディションや人数によって変化」という設定を活かしました。っていうかこれを活かさない限りワン子達に勝ち目は無かったのだから恐るべし源義経。
そして最後の方にですが釈迦堂刑部の登場です。実は私、ヒロインの次に悪役が気になるタイプでして釈迦堂さん大好きだったりします。
次回、彼と関係のある人物による大波乱の一日。お楽しみに。
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