真剣で私に恋しなさい!X   作:テンペスト

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第三十九話 アイバナ! ~弾けろ花火~

東に川神学園あり、西に天神館あり―――――。

 

 

 

九州は博多。その地で学び舎を構える最大級の学園。それが天神館。

嘗て武神と呼ばれた川神鉄心の高弟である鍋島正の下、設立されたこの学園では文武両道を唱え、そしてその内容も全国水準を上回っていた。

更にはその天神館の生徒の中で最も優れた10人の戦士―――――西方十勇士がシンボルとなり天神館を支えていた。

 

 

「………では次の案。 島、読み上げろ」

 

「ハッ。 中国との交換留学生の件です」

 

 

天神館では生徒会長でもあり西方十勇士の総大将と銘打たれた石田三郎の下、西方十勇士が実質生徒会のような役割を担っている。

具体例としては生徒会で上がってきた案件、問題点等をシンボルである西方十勇士が解決に導くというものであった。

生徒達の自主性の育成という鍋島正らしい、豪快な方針である。

夏休みであるのにも拘らず、西方十勇士の約半数が参加していた。

 

 

「これに関して三年生を出すのは反対だ。 十勇士候補であった二年を宛がおう」

 

「それがしも賛成です。 大村は?」

 

「ゴホッゴホッ……俺も同じ方針だ。 候補者のリストを作成しておく」

 

 

主にこの会議の中心となる人物はこの卓上で最も目立つ席に座っている石田三郎は勿論のこと、補佐役である島右近。そしてサーバー担当でもある大村ヨシツグは愛用のノートパソコンを用いて様々な処理や会計などのデータ作業を任されている。

この三人は西方十勇士の中でも特に有能であるとされ、主に進行を司っている。他のメンバーもいることにはいるのだが、今日は集まりが悪い。

 

 

十勇士でもあり、売れっ子ニュースキャスターでもある龍造寺隆正は常にテレビの仕事。

 

鉢屋壱助は自身も忍者として汚れ仕事を引き受けていることもあり、度々音信不通に。

 

最強の攻撃力の持ち主、長宗我部宗男は四国の宣伝のために事業に注力。

 

小柄な尼子晴は成績向上のために塾に通い詰めの日々。

 

金に貪欲な宇喜田秀美は会議自体に出ているものの、余り興味ない様子。

 

同じく興味なさそうに独特のポーズをとっているのは毛利元親。ナルシスト。

 

 

そしてもう一人。西方十勇士のメンバーでもあるこの女性もいた。

 

 

 

 

「大友。 お前の意見は………どうした、天井に何か面白いシミでもあるのか」

 

「……え? あ、いやすまない!」

 

 

 

 

彼女の名は大友焔。大砲を手に掃討戦を好む、西方十勇士の中でも危険人物と称される。だがその実態は可愛らしい女子であった。

いつもならば十勇士であることを誇りに思い、会議には真面目である彼女が上の空という珍しい事態に参加している他の五名の視線が一気に突き刺さる。

 

 

「何だ、まさか聞いていなかったのか?」

 

「………す、すまん」

 

「ふん。 西方十勇士は天神館のシンボル。 気の抜けたバカはその称号を背負うに相応しくない。 気を抜けばその座を奪われるという事を努々忘れるなよ」

 

 

三郎の厳しい言葉と視線に元々小柄であった体格が更に縮む。

嫌味のようにも聞こえるが、三郎の意見は実際に間違っていない。西方十勇士は館長の次に権力のある組織とされ、その称号だけで様々な進路が約束される。

まだ二年でのみ構成されている西方十勇士も、既にあらゆる企業からの推薦が幾つも届いている。そんな勝ち組とも言える席を狙うものは多いのだ。

 

 

(あーりゃりゃ。 毛利、どう見るよコレ?)

 

(ふっ、美しくない愚問だな。 紛れも無くあれは恋する乙女の顔だな、美しい)

 

 

そんな大友の変調を、この二人は見抜いていた。

宇喜田と毛利の二人である。戦闘力こそ、十勇士の中では下位の分類だが頭脳においては他の通髄を許さない。その知能は、時に松永燕ですら出し抜くほどだ。

彼らの頭脳と目は見抜いていた。大友の変調、その原因を。

 

 

「あ、ああ。 今後気をつける」

 

 

大友は気を取り直して前を向きなおした。

が、話を聞いていなかったという汚点もあり三郎は最早彼女の意見の必要性を皆無と見なしていた。

実質参加しているのが他に島と大村のみという事もあり、纏めに入っている。

 

 

「では御大将の意見に従い、十勇士候補であった二年を対象に中国との交換留学を実施する方向で」

 

「希望者のリストアップは任せてくれ………ゴホッ」

 

 

咳き込みながらも、大村は愛用のノートパソコンにデータを打ち込む。

そのタイピングは鮮やかとしか言いようが無い。西方十勇士のサイバー担当にとってタイピング検定一級は当たり前の事なのだ。

 

 

「では本日はこれにて………む?」

 

 

どうやらこれが最後の案件だったらしい。

解散宣言を三郎が下そうとした時、その口が止まった。彼だけではない、この場にいる西方十勇士すべてが感じていた。

今ここに近づいてい来る人物の気配を。

 

 

 

「よう、夏休みだと言うのにご苦労なことだな。 我が十勇士達よ」

 

 

 

学内であるにも関わらず、葉巻を咥えた男

全体的の白を基調としたスーツとシャッポ。そして顔に刻まれた傷。豪快な声色。

この天神館において、彼の名を知らぬわけは無い。

彼こそが、「鍋島正」。この天神館の館長にして、川神鉄心の高弟である。

 

 

「館長、わざわざここまで足を運ばれるとは何事ですかな」

 

「いやなに、会議ついでに俺からの提案を聞いて欲しくてな」

 

 

ガッハッハ、と笑いながら葉巻を近くの灰皿に押し付ける。

一方の十勇士達は呆れ顔をしている。別に彼の葉巻にではない、彼の唐突な提案に頭を痛めているのだ。

この鍋島正と言う男、実力も信念も一級品だが如何せん破天荒な面が目立つ。今回のように唐突な意見で振り回すことも多々ある。

 

 

「まぁ、館長の提案とあらば仕方ない。 ここは美しく拝聴するとしよう」

 

「せやな、ここで抗っても一銭の得にもならんしなぁ」

 

 

けれども、内心はそんな彼を慕っている十勇士。

話を聞こうと、帰り支度をやめその場に座った。

 

 

「さて俺からの提案の前に、お前らは一ヶ月ほど川神滞在を行った。 そこで得るものはしっかりと得てきたはずだ」

 

「確かに、川神院を始め有意義な経験であった」

 

 

川神は武の町として知られ、その影響からか世界中の「武」が集う。

さすがの三郎も、そんな川神の街の質を気に入ったようだ。だが、鍋島の着眼点はそこだけではなかったようだ。

 

 

「けどな、お前らがそんな経験を出来たのも川神で世話してくれた奴らのおかげだ。 特に川神学園の連中には相当世話になったはずだろ?」

 

「うむ。 時々手合わせもしてくれたな」

 

 

腕を組みながら焔が頷く。

姉妹校だから、という事情もあるからだろうがそれ以上に川神学園の生徒は天神館を受け入れた。

途中授業にも参加したり、部活や決闘などに混ざることもあった。

そんな刺激的な生活は記憶に新しい。

 

 

「そこで、だ。 川神学園からの代表生を数人こっちに招待することにした。 なぁに、恩返しに博多や天神館を観光してもらおうってだけだ。 宿泊費なんかは俺持ちだから安心しな」

 

 

この鍋島正という男が慕われる理由、それは圧倒的実力だけではない。この男気にある。

移動手段の手配から宿の手配、それに伴う金銭的負担まで自分の手で賄うというのだ。

しっかりと誠意を込めての有言実行、まさに人物の鑑ともいえる存在。そんな彼の姿がこの天神館を大きく育ててきた。

 

 

「ゴホゴホッ、もう決定事項ですか。 さすが館長」

 

「だが誰もいいってわけじゃねぇ。 お前らが特に連れてきたいと思う奴らをここで推薦しろってこった。 さぁ、誰がいいか決めな」

 

 

しかしだからと言って川神学園の生徒全てを連れてくるほど甘くは無い。

だからこそ、現地で世話になった人物を選べという事のようだ。確かに筋は通っている、と十勇士の誰もが無言で頷いた。

この場にいない十勇士達に決定権は無い、会議に参加している彼らのみが決定権を持つ。すると、真っ先に手を挙げた人物がいる。

 

 

「お、大友の話を聞いて欲しい!!」

 

「ん? 何だ、先程まで上の空だったと言うのに急に目を輝かせおって」

 

 

先程とはうって違って、目をギラギラと輝かせた焔。

声も快活を超えて聊か緊張が混じっているようだ。怪訝したかのように睨みつける三郎だが、他の面々は焔の提案を聞く姿勢だ。

さすがにこうなっては三郎も聞くほか無い。待ってました、と言わんばかりに焔が立ち上がった。

 

 

 

 

「お、大友はが推薦するのは――――……!!」

 

 

 

 

その後、彼女の提案に誰もが納得するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――飛行機内。この飛行機は現在、川神市上空を飛行している。

こんな鉄の塊が空を飛ぶ、など経験の無い人間には信じられない話だろう。

特にそれは、飛行機による旅行を経験したことが無い彼らにとっては尚更の事だった。

 

 

「へぇ~……これが上空から見た川神か~……」

 

 

窓から故郷、川神を見下ろす少年。直江大和。

彼だけではない、彼の属するグループ「風間ファミリー」も各々の座席に座っていた。

 

 

「大和は飛行機に乗ったことがないのか? あのお父上と一緒ならば結構乗っていそうなものだが」

 

「いや、ウチは以前川神から全く離れなかったからな」

 

「なるほど、それであんなにはしゃいでいるのか」

 

 

大和の隣に座っているのはクリス。

ドイツからの留学生に加え、名家のお嬢様という事もあり飛行機の経験は豊富のようで、まるでリビングで寛ぐかのようにゆったりとしていた。

一方、背後はそんな彼女とは対照的に騒がしかった。

 

 

「とととととと飛んでるぅ……! タッちゃん、おおおお落ちないよね!?」

 

「落ち着け一子。 こっちにはモモ先輩もいるんだ、落ちやしねぇよ」

 

「ゲンの言うとおりだ。 いざとなれば私がベクトルそのものを操作する」

 

 

全く飛行機の経験が無い一子はまるで怯えている子犬のようだった。しかし無理も無いだろう。

そんな彼女を宥めようと忠勝と百代は必死だ。

 

 

「やれやれ、犬っころは騒がしいぜ。 こういう時、ナイスガイは騒がないものさ」

 

「ガクト、そういう割には足が震えてるんだけど」

 

「ハッハッハ。 何を言っているのかねモロよ、これは新天地に対する武者震いだよ」

 

 

その隣では堂々とした姿勢を見せつけようとする岳人。しかしやはり彼も怖いらしく、膝がガクガクと震えている。

ついでに言えば顔色は青く、冷や汗も滝のように流れていた。当然のように隣に座っている卓也も、少々呆れ気味である。

 

 

「おう! ガクトもワクワクしてるのか! 俺もだぜ!!」

 

「はっはっは! キャップよ、気が合うなぁ!! はっはっはっははははははは」

 

(あ、笑い声が乾いてきた)

 

 

彼らの前で座っているキャップこと風間翔一も振り返る。

旅好きだけあって外国に行くために何度も飛行機に乗っているようだ。そんな彼の威光が逆に岳人の恐怖心を煽っている。

助け舟を出すべく、卓也が話題を変える事に。

 

 

「そう言えばさ、大和の隣の席クリスになったよね」

 

「まぁ、ジャンケンの結果だから仕方ないさ」

 

「そう言えば、京ならいつもここで『ウラメシヤ……』とか呟いているんだが」

 

 

実はこの飛行機に乗る以前、少しの騒動が存在した。

というのも、大和の隣の席を巡って女性陣が小競り合いを起こしたのである。

穏便に済ませるべく、忠勝からの意見でジャンケンを行った結果クリスがその栄誉を手にしたという事だ。

一子達は勿論だが、特に大和を愛してやまない京からすればこの状況は歯軋りだけでは飽き足らないはずだが。

 

 

「京ならホラ、あっちで青ざめてる」

 

 

卓也の指の先にはガタガタと小刻みに震えている京がいた。

天下五弓もやはり女の子、未知なる経験には恐怖を抱くものだ。対する由紀江は冷静で、そんな彼女を世話している。

 

 

「まぁ、無理も無いよな。 それに比べクリスはさも当たり前のように繕いでらぁ」

 

「クリスはドイツのお嬢様だもんなー。 よーし、今度はドイツに行ってみるかー!」

 

 

やはり風間ファミリーの大半は経験が乏しいだけに落ち着きが無かった。

その中でも最も落ち着いているクリスは、至福の一時を味わっているかのように大和と話し込んでいる。

 

 

「それにしても気前がいいな、天神館は。 我々を招待してくれるとは」

 

「そうだな。 しかも交通費や宿泊費なんかは向こう持ちと来たもんだ。 俺もそんな気前の良さは見習いたいね」

 

「だな。 今日は天気が少し悪いらしいが、楽しもうでは無いか」

 

 

そう、彼らは他ならぬ天神館からの招待を受けて九州の博多に向かっている。

正確には数日前に大友焔からメールを受け、皆で話し合った結果その誘いを受けることにしたのだ。

先述したとおり、風間ファミリーの殆どは川神市内から出たことがない。思い出づくりとしては最高の機会だった。

 

 

「我々はそのまま天神館に向かうのか?」

 

「いや、大友さんによると空港で西方十勇士が出迎えてくれるらしい」

 

「出迎え付きとは。 いつぞやの自分達とは逆のシチュエーションだな」

 

「確かに。 向こうもそれを意識してくれているんだろうな」

 

 

以前、大和達は川神を訪れた西方十勇士を案内した。

今回はそれに対するお礼という名目だ。その時にしたことをそのまま、否、それ以上の接待を受けるという天神館の手厚い姿勢が伺える。

 

 

「……ところで大和。 大友殿とはまだメル友関係なのか?」

 

「まぁね。 やっぱ距離が離れていると中々会えないもんで」

 

 

そしてクリスとしては、大友焔との関係が気になるようだった。

彼女も京ほど嫉妬深くないとはいえやはり想い人の人間関係というものは気になる。

今回連絡を寄越してくれた焔も、大和と親密な関係になりたいが故に誘ってきたであろうことは想像に難くない。

 

 

「だ、だろうな。 メールは常にどんな内容を?」

 

「ん? ただ向こうの愚痴聞いたり悩み相談に乗ったり……まぁプライベートなことが多いな」

 

(プライベートという内面的な事情を話している時点でただのメル友ではない!)

 

 

益々大友焔に対し警戒しなければならないという事態に陥った。

因みにこの一連の会話は男性陣ならいざ知らず、鍛え抜かれた百代達こと武士娘には筒抜けだった。

 

 

「や、大和! 持て成しならば我がフリードヒ家も凄いぞ!」

 

「へぇ、例えばどんなの?」

 

「自分が先日里帰りすると、何と父様が戦闘機で空に『お帰りクリス』と書いてくれたのだ!」

 

「毎度毎度思うけど本当にメチャクチャだよなお前の親父さん」

 

 

万が一自分がそんな出迎えを受けた時のことを想像してみる。

恐らく、恥ずかしさの余り蹲りそうだと大和は頭を抱えた。

そんな陰鬱な彼らを乗せた飛行機は、尚も順調に博多に向けて飛び続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁー! ついたぜ九州!! 博多ー!!」

 

「キャップはいつでもどこでも元気だねぇ」

 

 

それから数時間後、飛行機は何事もなく博多空港に着陸した。

飛行機を降りて早々、翔一は新天地の到着に歓喜する。そんな彼に呆れつつも、卓也は自分の荷持ちを地面に下ろした。

福岡の首都、博多だけあって人の往来が激しく一度仲間を見失えば迷子になってしまいそうである。

 

 

「普通だったら『遊びに来たんじゃないぞー』って御する場面なんだけど………」

 

「まぁ、今回はどう見ても遊びに来たからな。 歯止めきかねぇぞ」

 

 

風間ファミリーの世話役である大和と忠勝も肩を竦める。

名目上は「前回の川神滞在に対する返礼」であるが、最後の一文に「気楽に遊びに来い」と付け加えられていた。

しかも費用に関しては向こう持ちとくれば、騒がないはずがない。

 

 

「おっ、あのねーちゃんお尻が実っているな……。 フフフ、新天地で桃狩りも悪くあるまい!」

 

「いや悪いことですからねモモ先輩」

 

 

一方の百代は到着するなり早速女子を見定めていた。

夏休みということもあって旅行のために空港を利用する女性は多く、いずれも百代の眼を惹かせるレベルの高い女性ばかり。

その都度、由紀江が止めているが早く対策を講じなければ暴走することは必然である。

 

 

「さて、天神館の連中が出迎えてくれるって話だが………どこだ?」

 

「あ。 あれじゃないカナ?」

 

 

しかしこれだけ人が多ければ、探すのにも一苦労だ。

大柄な岳人ですら中々見つけられない。

と、ここで京がそれらしき人影を発見したらしい。さすがは天下五弓と言わんばかりの視力である。

京の方向に合わせて振り返ると、そこには大きな旗を掲げた一団が固まっていた。

 

 

 

 

「おーい風間ファミリー! ようこそ九州へ!!」

 

 

 

 

出迎えてくれたのは大友焔だった。

彼女は身の丈以上の長さを持つ旗を堂々と振るっているが、普段大筒を抱えているだけあって全く動じていなかった。

そんな彼女の堂々とした振る舞いと掛け声で位置を特定できた大和達がそこへ向かう。

 

 

「やぁ大友さん。 そして十勇士の皆もお久しぶり」

 

「うむ、久しぶりだ。 そうだ紹介しよう、こちらが天神館の館長だ」

 

 

大和が一同を代表してお礼を言う。

こういった行事に参加する時、大抵代表に選ばれるのが大和だ。

礼儀正しさもさることながら、相手の顔色や態度を伺いその都度適切な対応を繰り出せる人物だからである。

そうして挨拶した大和の目の前に、長宗我部よりも体格のいい男が現れる。

 

 

「よう、よく来たな。 俺が天神館の館長、鍋島正だ。 お前らのことはよく聞いてるぜ」

 

 

大和達は初めて見る、天神館のトップに思わず息を飲んだ。

風格だけでわかる、「壁を超えた者」としての実力。にも拘わらず、人に安心感を与える佇まい。

癖のある、天神館の生徒達を纏め上げる男として相応しい人物像だった。

 

 

「ナベさん! お久しぶりです」

 

「おう、百代も元気そうだな。 お前、この間不良達で人間テトリス15段を組み上げたそうじゃねぇか」

 

「失礼なー。 13段までですよ」

 

 

一方、元川神院として身を置いていたことから百代がその次に声をかけた。

どうやら彼女の噂は逐一伝わってくるようだ。

 

 

「鍋島さん、お久しぶりです。 ……といっても、顔を合わせたの一回だけですけど」

 

「いやぁ、俺は覚えてるぜ。 10年前から大きくなったじゃねぇか一子ちゃんよ」

 

 

一方の一子はあまり面識がなかったらしい。

それでも鍋島は相手の顔をしっかりと覚えていた。この一連のやり取りだけでも、鍋島の器の大きさが見て取れる。

 

 

「さて、改めてようこそ九州へ。 こっから先は十勇士に案内させる。 ガイドなりパシリなり好きに使ってくれや。 タクシーも回すぜ」

 

「ふん、出世街道を歩く身にとってパシリとは屈辱の極みだな」

 

「御大将。 これも人付き合いですぞ」

 

 

鍋島は豪胆に笑う裏で、十勇士の大将である石田三郎は苦い顔をしていた。

プライドの高い彼にとって人に使われることは屈辱らしい。しかしそんな彼を諌める副将、島の存在が彼を制している。

 

 

「ガッハッハ! 名物関係なら俺に聞いてくれ! オススメはさぬきうどん!!」

 

「それ四国やろ! こんな時くらい九州の名物を紹介せんかい!」

 

 

そんな彼と対照的に、友好的な長宗我部はうどんを片手に笑っている。

隙あらば四国を宣伝してくる彼だが、前回の川神滞在で友好関係をもって以来「弁慶のために」と厳選したちくわや友人となった岳人に鳴門金時を送ったりとこちらも器が大きい。

 

 

「ガイドならば俺に任せるがいい。 我が秘伝の忍法で案内しよう」

 

「美しい名所ならば私の出番だな。 九州の美しさを美しく刻み込んでくれる」

 

「ゴホゴホッ、俺は医療関係のスペシャリスト……げほごほぉ!!」

 

「おいラスト一名。 それお前が世話になっているところだろうが」

 

 

他にも忍者の鉢屋、京と同じ天下五弓の毛利、サイバー担当の大村と友好的な態度を見せてくれる。

それだけ前回の川神滞在で感謝しているということだ。これだけ個性豊かな面々に案内してもらえば、観光も楽しくなるだろう。

 

 

「そろそろしゅっぱつしたほうがいい。 どこかいきたいところはあるか?」

 

「あの、自分は大宰府に行きたいのだが」

 

「ふむ、まずはメジャーな所からだな。 了解した」

 

 

尼子と龍造寺が案内した先には6台ものタクシーが止まっていた。

ただ、一般のタクシーらしく一台に付き運転手を除いて4人までしか乗れない様子だ。

 

 

「そ、それじゃ大和君。 大友のタクシーに乗るがいい!」

 

「うん。 じゃお言葉に甘えようかな」

 

((((あぁ~~~っ!! そういうことー!?))))

 

 

ここでさりげなく、かつ大胆に大友が大和を誘った。地味ながらも距離を縮めるには打ってつけのシチュエーションだ。

大和も特に打算もなく、同じ車に乗り込んでしまう。

こうなってしまえば、風間ファミリーの女子達は手を出すことができない。

 

 

「ほほう、直江はその車に乗るのか。 では俺も乗るとしよう」

 

「お、御大将………。 むぅ、仕方があるまい。 それがしも同行します」

 

(……はぁ。 相変わらず石田は空気が読めねぇな、ったく)

 

 

すると同時にズカズカと乗り込んでくる石田。

どうやら風間ファミリーの中で唯一会話が成立した男として気に入られているらしい。だがそんな彼が乗り込んで、焔がありがたいと思うわけがない。

焔の内面を察した島と鍋島はため息をつくしかない。

 

 

「さて、それじゃ川神一子さんだったかな。 俺と一緒の車に乗らないかい?」

 

「え? あ、アタシと?」

 

「ああ。 大宰府につくまで、このバラのように甘い一時を過ごそうじゃないか」

 

 

その間、龍造寺が一子を口説きにかかっていた。

因みに以前京には反撃と言わんばかりのパロスペシャルを掛けられたのにも拘らず、この手の悪さはある意味さすがである。

男と女の関係に疎い一子は誘いを断るような雰囲気を見せない。龍造寺の顔がほくそ笑む。

と、その時。彼の肩を忠勝が掴んだ。

 

 

「おっとすまねぇ。 俺と一緒の車に乗ってくれねぇかな」

 

 

その眼は、笑っていない。

鋭い眼光は、龍造寺だけでなくクリスや宇喜田ですら震え上がるほどの恐ろしさを秘めている。

冷たい圧力が、龍造寺の肩を絞め上げ続けた。

 

 

「なっ!? は、離せ! 俺は男と一緒に乗りたくは………」

 

「島津に長宗我部、お前達も来てくれ」

 

「うーん、出来りゃぁ女子と一緒の車が良かったんだがなぁ………」

 

「まぁ仕方あるまい。 龍造寺の監視も兼ねて、男同士で親睦を深めるとするか!」

 

「や、やめろ! 俺は………アッ――――――!!!」

 

 

こうして龍造寺は男だらけのタクシーに乗せられることとなった。

きっとあの車内の室温は、恐ろしいほどまでに上昇しているだろう。

 

 

「お姉様、タッちゃんや龍造寺どうしちゃったの?」

 

「気にするな。 さぁ、私達もいくぞ」

 

「そ、そうだね………」

 

 

さすがの百代や卓也も、あの車だけは乗りたくないと感じつつ各々のタクシーに乗り込む。

こうして彼らを乗せたタクシーは、大宰府へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んまーい! 梅が枝餅美味ぇな!!」

 

「この角煮まんも美味い! 日本の食文化は最高だな!」

 

 

それから大宰府を一頻り参拝し終えた彼らはその近くの露店にて九州名物の食べ物を購入していた。

翔一とクリスは脇目も振らずそれを頬張っては幸せそうな顔をしている。

 

 

「せやろ? 九州のモンは何でも美味いで! ちと値は張るけど」

 

「確かに物価は川神よりも高いけどこれは食べる価値アリ」

 

「食べるのもいいが、ほどほどにしないと晩御飯が入らないぞ」

 

「尼子の言うとおりやな。 もっと食べたかったら最終日にお土産として買っていきぃ」

 

 

京も打ち解けているようで、同じく梅が枝餅を口にしている。

辛党である彼女だが年頃の女の子だけあって甘いものも好んでいる。そして宇喜田と京との会話に加わっても尼子は違和感がない。

しかしその話し方に地味な違和感を覚える大和であった。

 

 

「どうした? 尼子が気になるのか?」

 

「気になるっていうか……タクシーで出発する前の尼子さんとはちょっと違うような……」

 

「そ、それは気のせいだろう! うん」

 

 

焔はその辺りの事情を知っているようだが、何やら誤魔化した。

何となく秘密がある、と察するものの今はそれを暴く雰囲気ではない。大和もこれ以上深入りしないことにした。

 

 

「ねー大和ぉ…・・・どーしてアタシにこんなにお守りを持たせるのよぉ」

 

「黙れこの犬っコロが。 正直貴様には学問の神様にすがらなければならんのだ」

 

「ひぃぃぃ」

 

 

ちなみに一子は大量のお守りを持たされている。

大宰府は学問への祈祷が有名だ。学問の神様ならばあの残念な脳内もどうにかしてくれるに違いないという淡い期待だった。

 

 

「大和君……一子も大変だな」

 

「ところで大友さん」

 

「な、なんだろうか大和君」

 

「それそれ。 その大和君、って何だか呼びづらそうだなって思って。 呼び捨てでもいいんだけど」

 

「よよよよよ呼び捨てかァッ!?」

 

 

どうやら大和は以前から大友からの呼び名に違和感を感じていた。

焔のような豪胆な少女が「君付け」という、改まった呼び名は男としては嬉しいが焔本人が少々恥ずかしそうだ。

人脈という意味でも親密になるためには、その堅苦しさも取っ払うべきだと考えたのである。

 

 

「そ、そうだな……。 そ、その代わり大友のことも……」

 

「下の名前で呼んでほしいの? えっと……焔、さん」

 

「ほ、焔でいい! 焔と呼んでくれ大和!!」

 

「うん、じゃぁ解ったよ焔」

 

 

今にも爆発しそうな表情を抑え、お互いの下の名前を呼び合う。

ここまで来ると少々恥ずかしさがあるが、それでも距離の縮まりを感じれる幸せがある。

そして女性陣達はそれを視界に入れては不服そうな顔を一瞬だけ見せる。

 

 

「……なるほど、これが川神で噂のフラグ軍師、その手並みか。 ごほごほっ」

 

「うん……。 正直、大和の未来が僕達には見えない……」

 

 

オタク同士、ということで友好を深めている大村と卓也も少々呆れ気味だった。

梅が枝餅を半ばやけ食い気味に頬張った百代が口を拭きながら今後の予定について鉢屋に尋ねた。

 

 

「ところで晩御飯はどうするんだ?」

 

「館長お勧めの料亭だ。 ちょっとしたイベントも用意しているらしい」

 

「へぇ、それは楽しみだな」

 

 

今回のためにわざわざ料亭まで予約してくれたらしい。

何から何まで気前がいい天神館の館長だった。夜の料理も楽しみにするとなれば、余り間食ばかりではいけないと風間ファミリーも立ち上がる。

 

 

「それじゃ次は毛利君のイチオシ、美しい場所をお願いできるかな」

 

「承知したぞ直江。 この私が美しく案内してやろう」

 

 

次の行き先も決まったようだ。

再びタクシーに向かう一同。だが、龍造寺だけはやはりというか暗い顔をしていた。

思わず心配になった由紀江が声をかける。

 

 

「あの、どうされました?」

 

「お、お嬢さん。 心配してくれるのは嬉しい………け、けど………」

 

 

背後から視線を感じる。忠勝のちょっとした視線が、彼を捉えて離さない。

すっかり忠勝に対して恐怖を抱いてしまったようだ。というよりも、あの男だらけのタクシーには押し込まれたくはないのかもしれない。

あの地獄の記憶が思い起こされたのか、また顔色を悪くしてしまう。

 

 

「お、俺はそろそろテレビの仕事があるので失礼する! ではまた!!」

 

(あーあ。 龍造寺クン可哀想に。 ま、後でご機嫌取りついでに知り合いからの合コンのお誘いメールを飛ばしておくか)

 

 

後にこの大和のフォローが功を奏し、龍造寺が元気を取り戻すのはまた別の話。

そして一行は毛利の案内の下、次の場所に案内された。

辿り着いた先は名だたる名所ではない、観光スポット雑誌でも見たことがない小さな洞窟だった。

 

 

「ここは我ら天神館でも十勇士や館長のような極限られた人物しか知らない、美しき場所だ」

 

「ほほぅ、地元民しかしらない場所か」

 

「おっほー! 面白そうじゃん!」

 

 

観光案内において、確かによく知られる名所は是非とも訪れたい場所。

しかしこういったその人だけしか知らない場所を教えてもらえるということは、それだけ信頼を得たということでもある。何より何が待ち受けているのか分からないという期待が溢れ出る。

特に冒険家を目指している翔一の心をくすぐっていた。

 

 

「まぁ何があるかは入ってのお楽しみだ。 さぁ入った入った!」

 

 

力強い、長宗我部の言葉に背中を押され一同が洞窟の中に入っていく。

洞窟はまるで冷気を帯びているかのように涼しく、外界の熱気などまるで知らないかのような別世界だった。

更には真っ暗なのだが、道中生えている苔が怪しく光っており神秘的とも、不気味とも言える空間wの作り出している。

 

 

「なんか出てきそうな雰囲気だねモモ先輩」

 

「みっ! 京ォ!! 余計なこと言うなァ!!」

 

「はっはっは、相変わらずお化けギライは治っちゃいねぇようだな」

 

 

こんな雰囲気の場所は百代にとってはまさに鳥肌ものだ。

戦闘力に絶対の自信を持っている百代だが、唯一にして最大の恐怖対象が幽霊などの霊的なものである。

不気味さもさることながら、何より自慢の攻撃が通じないとなれば百代にとってその恐怖は何倍も違う。

武道家らしい弱点ではあるが、鍋島は懐かしんでいるかのように笑っていた。

 

 

「ゴホゴホッ。 そういえば噂によれば、この付近で女性が昔――――」

 

「言うなぁ!! それ以上言ったら川神波で全て吹き飛ばすぅ!!」

 

「やめんか大村! 下手をすれば福岡が滅ぶ!!」

 

 

まるで悪戯を仕掛けたかのように大村がそっと零した。

噂集めが得意な彼だけあってその信憑性が高いという点においてもまた性質が悪い。

十勇士の実質的な纏め役である島が注意するものの、百代は以前と涙ぐんでいる。

 

 

「あらら。 モモの姐さん、そういえば苦手やったなぁお化けとか」

 

「ほほぅ、武神にもあんな弱点があったとは。 中々面白いことを――――」

 

「石田君。 きたねぇ花火になりたくなかったらそれ以上言わないことをオススメするよ」

 

「…………どんな人間にも弱点はある。 出世街道を歩む俺ならそれくらい理解できる」

 

 

何やら石田が良からぬ表情を浮かべていた。

大方、百代のお化け嫌いな点を活かして作戦を立てるつもりだったのだろう。

一応風間ファミリーの軍師として仲間として舎弟として、大和がそれ以上余計なことをさせないように釘をさす。

武神の制裁があるかもしれないと理解したとたん、石田は大人しくなる。

 

 

「おお……大和は凄いな。 あの石田を御せるのは島だけだったのだが」

 

「まぁね。 ……因みに焔、さっきの大村の噂ってホント?」

 

「う、うむ……。 どうやらホンモノらしいぞ」

 

 

百代に聞かれないように、密かに耳打ちしあう二人。

それが風間ファミリーの女性陣の嫉妬心を煽っているとも知らずに。

 

 

「………父様ぁ……マルさぁん…………」

 

 

因みにクリスは一人、怯えていた。

そんな彼らは尚も歩を進めていく。時が止まっているかのようは不思議な気分、だがそれもとうとう終わりを見せる。

奥のほうで、チラッと輝きを見た。外の光だ。少しだけ歩を早めながらその光に向かう。

 

 

 

 

 

「………わぁ。 すげぇなコレ………」

 

 

 

 

 

光が晴れると、そこには巨大な滝が待ち受けていた。

どうやら滝の裏にある洞窟だったらしく、その脇から潜り抜けてみれば美しい草花が水しぶきに揺らされていた。

ごうごうと落ちる水の音、かさかさと揺れる草花、ぴーぴーと美しくなく鳥の声。

それを一心に味わった大和達からは感嘆の声が漏れ出るばかりだ。

 

 

「どうだこの場所は。 この私が最も美しいと思うスポットだ」

 

「これは確かにおったまげた。 いい場所だね」

 

 

美しい物好きを公言する毛利に相応しい場所だった。他の十勇士や鍋島も心なしか顔が綻んでいる。

京も思わず「10 GRADE!」と掲げた看板を取り出してしまうほどだ。

 

 

「空気が美味しい~」

 

「ですね。 心が洗われるようです」

 

「ゴホゴホッ。 九州は武芸者の土地としても有名でな、俺達もここで修行することが時たまある……ゲホゴホッ」

 

「それを病弱のお前が言うと何ともな……だが納得できる場所だ」

 

 

一子や由紀江も、美しい空気を存分に吸い込む。

自然から生み出された穢れなき空気が身体中を満たし、新鮮な気分になる。

このような場所はまさに大村の言うとおり、絶好の訓練場にもなるだろう。クリスも、思わずレイピアを手に取ってしまいたくなる場所だった。

 

 

「やっぱここ、九州の観光名所として紹介したほうがええんとちゃう?」

 

「俺は反対だ。 秘密だからこそ、輝く地もある。 そんな売り文句があっても良いでは無いか」

 

「おお長宗我部分かってるねぇ! そういうの冒険心をくすぐられるんだよなぁ!」

 

 

恐らくこれだけ美しい場所でも、九州の魅力のほんの一部に過ぎないだろう。

であれば、まだまだこの九州と言う地を歩き回る価値は出てくる。

風間翔一は目を輝かせていた。恐らく今回の旅行が終わったら今度は自分ひとりでここに赴くつもりだろう。

 

 

「そうだ! まだまだ九州の魅力的な地は他にもある! 次はこの大友に任せてもらおう!」

 

「ほぅ、焔プレゼンツ。 これは面白くなりそう」

 

「ふふふ。 大和よ、満足させることを誓おう!」

 

 

次は派手好きの焔がオススメする場所に行くことになった。

そんな中、自然と会話が大和と交わる。さり気無くも、幸せそうな彼女の顔に鍋島は笑う。

 

 

(カッカッカ。 いいねぇ大友。 ……まぁ最も、まだライバルは多そうだがなぁ)

 

 

周りでやきもちを焼いている女子を見ながら、心の中で鍋島は笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――それから数時間後、夕日が水平線に沈もうとしていた。

長崎の地から見える、諸島に沈む夕日はその地の名物の一つとしても数えられる。

発展と武の街が川神なら、九州は自然の地といえよう。

そして何よりも、九州の魅力は美しい景観や自然だけではない。

 

 

「さぁ入りな。 俺オススメの料亭だ、味は保障するぜ」

 

 

鍋島の案内で一同は料亭の暖簾を潜った。

そこには風情溢れる和風の造りがある。綺麗な石畳と、竹や藁を組み合わせた壁。

天井は古木を用いており、吹き抜けに近い構造となっており日本独特のゆったりを体現した広がりを見せている。

店員の案内で、更に奥へ案内された。そこには立派な井草を編んで作られた畳を敷き詰めた部屋がある。

 

 

「うへぇ~。 まるでVIP待遇だな」

 

「ああ、こりゃすげぇな。 まさに飲み会の席、って奴だな」

 

 

岳人と忠勝も普段はこういう店に入ったことが無い故に少し堅苦しさを感じながらも席に付く。

十勇士達も彼らの着席にあわせて据わって座っていった。

 

 

「あ、この窓から外が見える! 月が綺麗だな~……」

 

 

卓也は窓側の席になった。

障子となったその窓を開けてみれば少し雲が掛かっているが、金色の満月がこちらに挨拶していた。

更に窓から覗き込んでみれば下は庭園となっており、池に移る月が更に美しさを際立たせている。

 

 

「や、大和! あちらの席が空いているぞ! あちらも窓側でオススメだ!」

 

「お。 んじゃお言葉に甘えて」

 

 

さり気無く、焔が大和をその席へ誘導した。そう、窓側の席という事は彼の隣の空きはたった一つ。

そこに座り込めば、彼にとっての隣はただ一つだけ。そして自分は接待役と言う名目の元、隣に座ることが出来る。

大友焔、伊達に西方十勇士を務めていない計算高さだった。

 

 

「では大友も―――――」

 

「クク。 私も月が見たいからこの席に行きたいナー」

 

 

しかし即座に京が割り入ろうとする。アプローチ高さで有名な彼女だ、夜の食事まで隣を奪われて面白いわけが無い。

真っ先に名乗りを上げるが無言の冷たさが彼女の肩に圧し掛かる。クリスのものだった。

 

 

「おいおい。 隣はお姉ちゃんのものって決まっているだろう?」

 

「えーお姉様いつも大和にベッタリじゃない! ここはアタシが……」

 

『べったりって意味じゃワン子さんも同じでしょーでしょーでしょー(セルフエコー)』

 

 

負けじと百代達も自己主張を始める。

旅行に来た手前、なるべく自重した上で牽制しあっている。が、お互いに一歩引く様子も無い。

一触即発の空気の中、大和の隣に座ったのは。

 

 

「ふん、直江の隣は俺が座ろう」

 

 

空気の読めない子、石田君でした。

 

 

『『『…………………はぁ』』』

 

「な、何だその呆れと軽蔑が混ざった凝視の後のため息は」

 

「お、御大将………」

 

 

百代達も当然の反応をしてそれぞれ席に座った。

結果的に場を動かした石田であるが、全く無自覚なだけに非難轟々の視線を浴び続け妙の痛い気分になった。

世話役である島も、どう教えたものかと頭を痛めている。

 

 

「ま、これも青春って奴だ。 カッカッカ」

 

「館長、ここは一言言うべきです。 『男は生涯、女に気を許すべからず』と」

 

「それはおまえがにんじゃだからだろ」

 

 

突っ込みも一入、そろそろ料理も運ばれ始めた。

九州の名物は地鶏と魚だ。漁で上げられたばかりの新鮮な船盛りがズラッと並べられ、目の前には芳醇な香りが広がる地鶏の丸焼きが置かれる。

他にも漬物や炊き込みご飯、焼き鳥等この地の名物がこれでもかと言うほど所狭しと並べられた。

 

 

「うっはー! こりゃぁ凄ぇー!!」

 

「ふふふ。 この料理の美しさもまた、九州の素晴らしさだ」

 

 

先程梅が枝餅や角煮まんなどで味わったが、九州の料理は実に美味。

尚且つ見た目にも拘っており、盛り付け方もまた毛利を満足させるものだった。これだけのご馳走を前に、もうお預けなどは我慢できない。

特に一子は今にも食らいつきそうな勢いだった。

 

 

「では川神学園の生徒、風間ファミリー。 九州の味、思う存分食らっていけ! 乾杯!」

 

『『『カンパーイ!!』』』

 

 

各々が一斉に川神水の入ったグラスを掲げた。

非アルコールでありながら、酔うことの出来る川神水は神奈川県外でも有名なようでこの博多の地にも取り入れられていたようだ。

川神水を味わいながら、まずは刺身へと箸を伸ばす。

 

 

「んー。 この鯛の刺身美味いな~」

 

「ガッハッハ。 当然だ、この海に囲まれた九州だからこその味だ」

 

「川神水とよく合うわね~。 ぐまぐま」

 

 

大和と一子はしっかりと堪能していた。

特に一子は食に拘る性格だけあって、バランスよく口にしては川神水を適度に飲む、と言った健康的な食生活を送っている。

食事に関しては躾の必要がない、と大和も安心していた。

 

 

「うはははは。 おーい! 誰か一発芸をしろー!!」

 

「お、おい。 クリスがよいはじめたんだが………」

 

「クリスさん、ダメですよもう」

 

 

真逆にクリスは壊れていた。あの凛々しい騎士クリスが、と思うかもしれないが既に彼女の酒癖の悪さ(※川神水ですが)は周知の事。

こうなれば彼女を制御できるのはしっかり者の大和か由紀江しかいない。由紀江は酔いが平気である分、苦労性であった。

 

 

「酔いといったら焔、あんまり飲んでないね」

 

「ま、まぁな! 以前は少々不覚を取ったが今回は自重するのだ」

 

「ふん。 気品ある振る舞いも、西方十勇士の勤めだ」

 

 

ちらり、と焔の方を見た。前回と違い、チビチビと口にしているだけで左程酔いが回っているようには見えなかった。

前回で懲りたのだろう、と三郎はぐいっとグラスを空にする。

 

 

「直江、全快勧めてくれた小説。 中々に美しかった、礼を言っておこう」

 

「どうも」

 

「お~? 何だ何だ、毛利とも仲良かったのか」

 

「まぁ、知り合って以来直江には美しく相談に乗って貰っている間柄だ」

 

 

そして奇妙な事に毛利とも親交があったようだ。

一瞬驚く岳人であるが、彼はナルシストだけであってそこまで人柄が悪いわけではない。寧ろナルシストである分、美しいと付け加えれば会話が弾むのであった。

加え、天下五弓と頭の良さから大和も仲良くなって損は無いと考えていたが実際に付き合ってみると案外好感は高まりつつあった。

 

 

「逆に長宗我部や島さんには世話になりっぱなしだけどね。 弁慶のためのおつまみとか、マッサージのコツとか」

 

「ガッハッハ! なぁに、友人に尽くすのは当然の事」

 

「直江殿には御大将絡みで色々世話になっている手前でして」

 

 

人柄の良さ、といえば長宗我部と島も挙げられる。

大和はほぼ毎回弁慶にツマミを差し入れているが、その中には彼が送ってくれたものが大半だ。特に竹輪に関しては感謝しても仕切れない恩がある。

島は真面目な気質ゆえ、忠誠を誓っている三郎の暴走を止めてくれる大和とは仕事仲間のような付き合いがあった。

 

 

「おうおう。 直江だっけか。 大友が推薦するだけあってコネ広げてるじゃねぇか」

 

「でしょう? お姉ちゃんとしては妬けるワケですよ」

 

「モモ先輩! 寂しいなら俺様と『だが断る』

 

 

豪胆に焼酎を飲んでいる鍋島だが、しっかりと直江大和という人物を見ていた。

今回、風間ファミリーを連れてくるに当たって一番話題になった人間。それが大和だったのだ。あの東西交流戦以来、十勇士の誰もがその名を口にするようになった。

そのコミュニティの高さを垣間見、面白そうな顔つきになる。因みに百代と岳人はいつもの一幕を演じていた。

 

 

「………大和、すまぬが大友は少しだけ抜ける」

 

「ん? 了解」

 

 

大和の真正面に座っていた焔が席を立った。

トイレか何かなのか、としか思えなかったがその言葉からそれ以上に長い時間をかけるものになるらしい。

気にはなったが、それ以上追及はせず大和は再び川神水を口にする。

が、やはり去ってしまったあの小さい背中が気になるのだった。

 

 

「どうした直江、グラスが空いているぞ」

 

「お、おう。 ありがとさん」

 

 

それもまた石田に遮られる。

しかし今は楽しい食事の席、下手な詮索はやめておこうと大和は石田達と会話を交わすのだった。

因みに相も変わらず勧誘を仕掛けている石田君にはしっかりと睨みを利かせておいたそうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――その頃、焔は料亭の外に出ていた。

川神水を飲みすぎた所為ではない。増してやあの空気に居心地の悪さを感じたからでもない。

彼女は武器でもある大筒と数個の花火玉を広げていた。

 

 

「ふっふっふ……皆驚くだろうな。 大友が独自に花火を用意しているなど」

 

 

鼻歌を歌いながら、焔は大筒を天に向かって立て、その穴の中に花火玉をセットする。

焔の家系は代々西日本の花火大会で大取を務めるほどであり、彼女もまたその花火職人になるため修行をしては花火玉を作り、時たま大会に出展している。

特に今回は大和が訪れる、ということで以前の約束を果たすためもあり今まで以上に気合を入れたものが出来上がっている。

 

 

「………気になるのはこの天気だな。 今朝から調子が悪かったが」

 

 

花火をセットする一方で焔は火の花を咲かせるべき天を仰ぎ見た。

少し前までは月も星も見えていたのだが、今では暗雲が空を覆い尽くしている。花火大会において一番懸念しなければならないのは天候。

特に雨が降れば、確実に中止しなければならない。

 

 

「だが! それでも大友は咲かせて見せる!! 大友の本気を!!」

 

 

彼女が花火にかける気持ちはまさに真剣そのもの。

増してやそこに恋が加わればその気迫は凄まじいものである。

因みにここに来ることは前々から聞かされており、焔も店の人に花火を打ち上げることは了承を得ているため何の問題もない。

 

 

「よし、セットは完了した。 後は点火するだけ………」

 

 

天神館の仲間に、風間ファミリーに、そして大和に届けるための花火。

それを打ち上げようと着火するためのライターを取り出そうとしたその時、冷たい感触が彼女の鼻先ではじけた。

 

 

「………! こ、これはまさか………!!」

 

 

慌てて天を見上げる。

すると先ほどの一粒に合わせて、ポツ、ポツと滴が降ってきた。雨だ。

しかもにわか雨などではなく、段々と激しくなってくる。咄嗟に焔は風呂敷を広げ、雨粒から大筒や火薬を守りきる。

が、次第に勢いを増してくるこの状況では焼け石に水。折角用意してきた花火玉もいくつか濡れてしまった。

 

 

「あ、あ、……ああ………」

 

 

一個が濡れれば、一揆に焔の心も冷めてきてしまう。

先程まで舞い上がってきた勢いは何処か、もう何も動かずに自分の身も濡らしてしまう。

 

 

「………打ち上げられぬ、な。 これは……」

 

 

はぁ、とまるで失恋でもしたような疲れ切ったため息を吐いた。

見上げれば、そこには食事をしているであろうあの部屋の窓が見える。そこからは空しい雨の音を他所に楽しそうな声が聞こえた。

 

 

「うはははは! 大和ー! 飲めー!!」

 

「お、落ち着けってクリス! おい京引っ付きすぎるな! ワン子、まゆっち助けてくれ!」

 

 

暴れるクリスや阿鼻叫喚の大和の声、そして楽しそうに笑う天神館の仲間達。

それを耳にすると、焔の心は更に寂しくなった。

勝手に恋心を燃え上がらせて、勝手に舞い上がって、天候も確認せず色んなものを用意してきた自分がまるで馬鹿みたいだ。

 

 

 

 

「……まぁ良いか。 まだ機会はあるんだし……」

 

 

 

 

焔はじっと見つめていた。この日のために、あの人のために作り上げた花火。

それらが濡れそぼってしまったその姿を。

何もかも、無駄になってしまった。否、まだ濡れていない花火玉は数個あるし、大筒も濡れてはいない。がこの天候ではどうしようもない。

こんなにもずぶ濡れで店内に戻っては店員にも、仲間達にも迷惑をかけるだろう。

どんな言い訳を告げようか、と考えているうちに惨めになってきた。

 

 

 

 

 

この雨が、自分の涙も洗い流してくれるだろう。焔は、声を上げずにその場に蹲った。

 

 

 

 

 

「おっと、雨の中の美少女も絵になるが私は放っておけないゾ☆」

 

 

 

 

 

その時、声が聞こえた。女性のものだ。

ハッと振り返ってみるとそこには美しい女性が、凛とした姿勢で立っている。

川神百代、今は上で皆とはしゃいでいるものだと思っていた人物だった。

 

 

「な、何だ。 上で食べてなくていいのか」

 

「いや大和が『焔が戻ってこないから探しに行ってあげて』って頼んできたんだ。 あいつ、天神館の連中に掴まれて離れられないんでな」

 

 

寧ろ話さないのは風間ファミリーの女性陣なのでは、と突っ込みたかったが大和の人気を考えると苦笑いせずにいられない。

それよりも、焔はこの状況が何よりも恥ずかしかった。西方十勇士として、一人の花火職人として。花火ひとつも満足に打ち上げられないこの状況を第三者に見られたことが。

 

 

「なるほど、中々戻ってこないのは花火を打ち上げようとしていたのか」

 

「………ああ。 最も、無駄になってしまったが」

 

「…………………………」

 

 

あの明るい彼女からは想像できないほど、その雰囲気は暗かった。

それだけ悔しかったのだろう。

西方十勇士として、彼らを歓迎できなかったことが。

花火職人として、自作の花火を披露できなかったことが。

何より一人の女の子として―――――大和に見せれなかったことが。

 

 

「………ほむほむ。 花火は全部濡れてしまったのか?」

 

「いや。 ……最も湿気でじきに湿気るだろう」

 

「なるほど、まだ間に合うか…………弟め」

 

 

ふと、百代がそんなことを尋ねてきた。

もう焔にできることなど何一つ無い。無気力ながら、そう答えた。

 

 

「ほむほむ、一つ聞きたい」

 

「………何だ?」

 

 

意を決したように、百代が問いかけてきた。

その顔は真剣――――まさしく武に挑むときのものだ。その顔を見せられれば、焔も自然と力が入る。

武士娘らしい反応に少し安堵を覚えつつ、百代が確認する。

 

 

 

 

「…………大和のこと、真剣に考えているのか?」

 

 

 

 

 

まるで、頭を殴られたような衝撃を覚えた。

バレてしまっていたのか、という羞恥心とこれまでの大和への想いを再確認するような聞き方、そして少し牽制の意も含めたイントネーション。

だが、そんなことを聞かれては焔の答えは一つしかない。

ふつふつと沸きあがる、大和の凛々しい顔、優しい顔、少し抜けた顔。

そのどれもが、焔をこんなにも夢中にさせている。その中の想い、その名は。

 

 

 

 

 

「当たり前だ!! 大友は………直江大和に真剣(マジ)で恋している!!」

 

 

 

 

 

腰に手を当てて、ハッキリと断言した。

彼女の宣言はこの雨音で上の部屋には聞こえないだろうが、百代の耳にはしっかりと届いていた。

勿論声だけではない。彼女の、真剣な思い。

 

 

「……ふっ、お姉ちゃんとしては妬けちゃうが私は美少女を放っておかない」

 

 

すると百代は満足したように腰をかがめた。

まるで飛び上がるような姿勢。その際、焔の顔を見た。

 

 

 

 

 

「何より武道家として………誠意の籠ったその思い、聞き届けた! せやぁっ!!」

 

 

 

 

 

そして彼女は跳躍した。この暗雲に向かって。その行動が意味するもの、焔は瞬時に理解した。

一気に活力を取り戻した彼女は大筒の近くへ移動する。

 

 

「川神流………絶縁の大嵐!!!」

 

 

天空で百代の大声が聞こえた。

彼女はこの店の上空で飛行しながら大きく旋回していた。すると彼女は巨大な空気の流れを生み出した。その姿はまさに台風。

本来この技は自身の体を高速回転させることで凄まじい風圧を発生させ周りを吹き飛ばす大技であり、ルー師範代はこれを「バーストハリケーン」という独自の必殺技に改良している。

 

 

 

だが百代が使うと、それは災害レベルとなる。そんな彼女が生み出した乱気流が――――この大空の暗雲をすべて吹き飛ばした。

 

 

 

「今だぁっ!!」

 

 

 

焔はその一瞬を逃さず、無事だった花火玉を装填した。

そして導火線に火をともす。ジジジ、と導火線の妬ける匂いが立ち込め始めた。

今、雨音はない。今ならきっと、届く。

 

 

「みんなー!! 食事の途中で申し訳ないが、外を見てほしい!!」

 

 

精一杯の大声で、そう叫んだ。

すると天神館の仲間達を始め、鍋島も、風間ファミリーも覗き込んできた。勿論その中には大和の姿もある。それも期待の籠った眼差しで。

 

 

「見よ! これが大友組の………西からの歓迎よ!!」

 

 

その一言と同時に花火が打ちあがった。

天を切り裂く音を上げながら、一筋の光は天へと向かう。そして弾けた。

赤、青、緑、黄色。あらゆる色に、鮮やかにその姿を変えながら天を彩った。その一瞬、彼らだけでなくこの博多の地に息づく者たちの目に焼き付いたことだろう。

 

 

「わー!! キレイー!!」

 

「玉屋~!! 鍵屋~!!」

 

「よくそんな単語知ってたねクリス。 ……でも本当に凄い」

 

「ふん、さすがは代々花火大会でトリを務めるだけはあるな」

 

 

風間ファミリーの面々は勿論、西方十勇士も心から楽しんでいた。

それだけ焔の花火は美しいということだ。それも当然、彼女の「真剣」が込められた花火なのだから。

勿論、それはあの男にも届いた。

 

 

「良かった。 焔、元気になったみたいで」

 

 

そしてこの男は焔の状況を密かに理解していた。

最初そこ本当にトイレに行ったのではないか、とも思ったがあまりにも帰りが遅かった。更には彼女が抱えていた大筒もいつの間にか姿を消していた。

そこから推理し、彼女が花火を用意してくれているということは何となく察していた。ただ途中雨が降ってきたために百代にお願いして様子を見に行かせた、というのが事の顛末だ。

 

 

 

 

「でもまぁ何より、こんな綺麗な花火……見られてよかった」

 

 

 

 

花火の光は、確実に照らした。

満足にほほ笑む大和と大友の顔を。この夜空一杯に弾けた想いと共に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――それから二日後。風間ファミリーは空港に向かっていた。

そう、今日は福岡滞在を終え川神に戻る日。

搭乗時間までまだ余裕がある中、西方十勇士と過ごしたこの三日間を皆は振り返っていた。

 

 

「いやー楽しかったなー! よーし、決めたぜ! 俺はまた来る!」

 

「ガッハッハ! その時にはまた連絡を寄越すといい! 歓迎するぞ」

 

「ああ。 まだしょうかいしきれていないばしょも、いっぱいあるしな」

 

 

すっかり九州の魅力にハマった翔一はまた来ることを宣言していた。

他の十勇士たちも歓迎しているようで、この三日間で川神学園と天神館の友情は深まったといえるだろう。

九州の名物を食べ歩きしたり、九州の自然の中を遊んだりと本当に様々な経験をした。

 

 

「直江よ、天神館に入りたければいつでも連絡を寄越すがいい」

 

「マエケンで。 (前向きに検討しますの略)」

 

「そうでなくとも美しく相談があるのなら美しく連絡を寄越すがいい」

 

「それがし達も世話になりましたからな。 今後もよろしくお願いしますぞ」

 

 

更には大和による懐柔工作も順調の様だった。

すっかり石田を初めとした男連中に気に入られたようだ。人脈が増えた嬉しさもあるが、風間ファミリーとも、Fクラスとも違う友情の芽生えを大和は感じていた。

 

 

「にしても直江はん、えらい人気やなぁ。 そこんトコ、妬けるんとちゃいます?」

 

「ふ、ふん。 あれはお姉ちゃんのモノだからな、ヨユーヨユー」

 

(武神が慌てている……これは面白い情報を得たものだな)

 

 

大和が天神館にも顔が利くようになってから地味にファミリーとの時間が減った。百代はそれに拗ね気味だ。

誇り高き武神と呼ばれた彼女の、意外な一面に鉢屋も心なしか微笑む。最もその顔は全身のマスクやマフラーでよく見えなかったが。

 

 

「ふっ、俺は仕事でまともに行動できなかったが今度は君と行動を共にするよクリス」

 

「? あ、ありがとう………」

 

「ゴホゴホッ。 彼女はやめておいた方がいいぞ、龍造寺」

 

「うんうん。 怖い軍人さんに睨まれるよ」

 

 

さすがに最終日ともなれば仕事で忙しい龍造寺も姿を見せていた。そして遠慮することなくクリスにナンパを仕掛けている。

だが彼女に大和以外の男が近寄ればフランクやマルギッテといった軍人が報復行動に来るだろう、と大村と卓也は地獄絵図を想像した。

 

 

「しっかしまぁ、楽しい時間で案外早ぇもんだな」

 

「まぁ、もう少しゆっくりしていたいってのはあるがな」

 

「それは何よりだ。 是非遊びに来な。 無論俺らも顔を出すがな」

 

 

鍋島正も天神館の館長として赴いていた。

やはり礼を忘れない男だと、岳人と忠勝も納得していた。こういった剛毅な人物が多いのも九州の特色なのだろうか。

 

 

「大友さん! 今度また手合せお願いするわ!」

 

「おうとも! 今度こそ西が完全勝利を収めてくれる!!」

 

 

一子と焔はその気質故に馬が合ったようで、互いに拳を突き合わせていた。

強敵と書いて友と呼ぶ、という関係だ。

傍では京が、優しい目で見守っていた。

 

 

(そう。 大和………お前に対しても、な)

 

(それは許さないんだッ!)

 

 

ただ、恋敵に対しての視線は厳しかった。

 

 

「ん、そろそろ時間か。 それじゃみなさん、大変お世話になりました」

 

 

風間ファミリーを代表して大和が礼を言う。

礼儀正しい彼が言うだけあって、別れ際の印象もよかったようだ。

荷物を纏め、ゲートを潜ろうとした矢先だ。

 

 

「ゴホゴホッ、大友。 いいのか?」

 

「え? な、何が?」

 

「また今度、と言わず今アタックしてもいいと思うが」

 

「………いいんだ。 大友が成長してからだ」

 

 

大村が何となく気を遣ってくれたようだ。

しかしそれも無用と、焔が携帯電話を空ける。そこには昨日、撮られた写真が待ち受け画面になっていた。

機械の扱いにたけている大村に撮ってもらったものだ。

 

 

 

 

「もう、寂しくはないからな」

 

 

 

 

それは、渓流釣りの際に撮ってもらった、大和とのツーショットだった。

眩しいばかりの笑顔で鮎を釣り上げている大和と焔、二人の顔がそこにあった。この写真が最早お守りのようなものだ。

写真を眺めている間の焔は、更に幸せそうに頬を緩ませた。

 

 

 

 

 

続く

 

 

 

 




大変お待たせしました……って何度目になるでしょうか。すみませんすみませn(土下座)
皆様あけましておめでとうございます!!
どうも、最近マクドナルドからモスバーガーに浮気しそうな男、テンペストです。
今回は天神館編ということで思い切って旅行させてみました。九州は修学旅行で一度行ったきりなのですがいい場所でお気に入りでもあります。
まじこいの物語って大抵は川神で展開されるので、余り外に出かける描写が少ない故にそこが苦労しました。
でも、オラ頑張ったよ。ほむほむを出したいから!そしてタカヒロさん!責めて年内にはまじこいAシリーズ全て出してくださーい!!
余談になりますが、まじこいPなるものが発表されましたね。詳細は知らないのですが、まじこいAシリーズから更に発展した物語を展開していくのか、それとも今までのシリーズをスマホ用にしたものなのか。何にせよ、まだまだまじこいの熱は冷めやりません。
さて次回の投稿は少し早くなりそうです。何せストック作ってあるしね!そして次回はいよいよ派手なお祭り騒ぎの予定です。どうかお楽しみに。
今回もありがとうございました。感想ご意見お待ちしております!
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