―――――キングオブソルジャーズ開催。
九鬼揚羽によるその発言で、世界は大きく揺れ動いた。優勝賞金500億と最高の名誉をかけ、間違いなく世界各国から強者が集う。
翌日の川神も、その熱が冷めやらないでいた。特に武士娘達が集う、風間ファミリーはテンションが最高潮だった。
「つーことで俺、KOSやるわ」
秘密基地で、唐突に風間翔一がそう告げた。
一気に目が点になるメンバーだが、ある意味予想していた事態でもある。
とは言え、川神学園で行うような体育祭のレベルではない規模。そう、世界規模の大会となる。その大きさに大和が軍師として心配の声をかける。
「キャップ、
「俺はいつだって
歯をキラリと輝かせるイケメン。
この男は一度やると言い出したら聞かない。そしてそんな男気に惹かれた男がもう一人。
「キャップの心意気……俺様にも伝わったぜ。 やるか、KOS」
「やろうぜ、KOS」
「が、ガクトさんもですか!?」
ダンベルをあげながら、岳人がそう言いながら拳を突き出した。
翔一も拳を突き合わせる。どうやらファミリー同士として参加するつもりらしい。確かに挑戦してみたくなる祭典だろう。
けれども、由紀江の心配は最も。岳人も翔一も、喧嘩慣れはしてはいるが彼女達のように際立った強さではない。世界レベルの強豪達と満足に戦えるとは思えなかった。
「いや、闇討ちでも何でもアリつったろ? 僅かでもチャンスがあるのなら賭ける価値はある!」
「うーん、でもキャップが言うと安心感はあるね」
師岡卓也は愛用のノートパソコンでKOSに関する情報を集めていた。
さすがに彼はどう見ても戦線に赴くタイプではないので今回の参加は見送っているようだが、翔一達の参加を耳にして心が少し揺らいでいるようだった。
と、心が揺らぐといえば本来なら誰よりもハイになっているべき人物がいるはず。なのだがその人物は鬱陶しそうにソファで横になっている。
「………というか、姉さんテンション低いね? どうしの、戦えるんだよ?」
「と、思うだろ大和。 ところが私やルー師範代、ジジイは参加できないと言われた」
どうやら武の頂に立っている人物は対象外だったらしい。
恐らく当日は審判として駆り出される、と百代が愚痴っていた。確かに目の前でハイレベルな戦いが行える中、お預けを食らったようなものだ。面白いわけがないだろう。
「勿論アタシは参加するわよ! ねー京!!」
「クク、優勝賞金を大和との愛につぎ込みます」
「自分も参加するぞ! まゆっちもだろう?」
「は、はい! 皆さんのお役に立ちます!!」
その反対に一子を始め、女性陣は参加を表明していた。
どちらかと言えば優勝賞金よりも腕試しの意味合いが強いが誰もがやる気に満ち溢れていた。大和から見ても、十分優勝を狙えるだろう。
「ほほぅ、女どもで固まるか。 なら俺様達も男で固まろうぜゲン!」
「俺もかよ……と言いたいが出るぜ。 勘違いすんな、大怪我でもされたら面倒だからだ」
「僕はさすがにパスするよ。 足を引っ張るしね」
「なぁに、優勝賞金は山分けしても十分すぎるからな。 ファミリーの資金も潤うぜ!」
そして反対に男性陣でもチームを結成しつつあった。
賞金も各々の使い道があるだろう。だから山分けすると宣言したうえで翔一はその額を全てファミリーの資金に充てると宣言した。
最も100億にしろ一億にしろ、十分すぎる額ではあるのだが。
「やっとう! やっとう! フフハハハ。 私の剣技を見せる機会は無いかな~」
「……何て言ってるがどうするよ?」
「寧ろクッキーに命じる! 俺のチームに加われ!!」
「マイスターの命令とあれば尚更! フハハハハ!!!」
クッキーも第二形態に変形してはビームサーベルの素振りを行っていた。
彼も戦士として出たいらしい。始めは無視していた面々だが、忠勝が見るに見かねて声をかけた。
ただ戦力としては相当なものだろう。一応性別を漢と区切ったうえで彼も参加することになった。
「こうなると流れ的にも大和は俺様達のチームだよな?」
「えっ? 俺?」
大和は返事に困ってしまった。
確かに大和の頭脳があれば、チームに貢献も齎してくれるだろうし回避能力もそこそこ。だが戦闘が出来るわけではないので卓也と同じように足を引っ張る可能性が高い。
更には岳人の反対側で、一子が大和の腕を引いた。
「ダメよ! 大和はアタシ達のチームに参加するの! ねー?」
「ねー、って決定事項かよ!?」
「おいおい! 大和は当然、男の友情を取るよな?」
天真爛漫な笑顔でそう語りかけてきた。
ただどちらにせよ、自分が求められている状況に変わりなかった。それに他の女性陣も大和の参加を心から望んでいた。
むさい男の結束か、見目麗しき女の園か。
「んじゃ俺はワン子達のチームで」
「やったー!! よろしく大和!!」
「大和は全力で守ります。 愛の力で」
「大和さん、この黛由紀江に何でも命令してください!」
「このクリスティアーネ・フリードリヒ。 大和の指示に従う!」
大和の選択肢はもう一択だった。彼の参加が決まり、女性陣が嬉しさに跳ねる。
勿論、大和の能力を評価していることもあるが何より想い人と共に戦える喜びがある。
それが彼女達の士気を高めていた。
大和も己の武力のなさを自覚する一方で、軍師としてその能力を存分に発揮しようと心に誓った。勿論彼女達を優勝に導くために、そして彼女達を守るために。
「この裏切りものがァ!! つーかハーレムに入りやがって!!」
「うん、正直嬉しい」
「開き直りやがったよもういい! 本戦でぶちのめしてやる!!」
あっさりと男性陣を裏切ったことに憤る岳人。
因みに彼がもし大和の立場だったら同じ反応を取っていただろうということは言わずもがな。
「んじゃ、アタシ達のチーム名を決めて大和!」
「ん? 俺が決めちゃっていいの?」
「そうだな。 大和がリーダーとした方がいいだろう」
クリスからの推薦もあって、大和が指揮権を握ることになった。京や由紀江も無言で頷いてくれる。
大役になったものだと、大和も気合を入れた。
「そうだな……安直だが『大和サムライ』でどうだ?」
「大和サムライ……いい響きです!」
『オラ達サムライを率いる大和坊……ピッタリなネーミングだぜ』
由紀江の言う通りだ、と誰もが認めてくれた。
現代に蘇る日本の誇り、侍。それを率い激闘を制すのだという願いが込められたそれが、改めて結成された。
「ふふん、それじゃ俺達のチーム名何にすっかなー」
「マイスター、それ以前にあと一人を見つけなければならんぞ」
「ん? ああ、それについては心当たりがあるんで。 ファミリー外になるけど」
「腕に覚えがあるんだったら俺は構わねぇ」
一方翔一率いるチームは名前よりもまずはメンバーを探さなければならない。
卓也は今回辞退を宣言してしまっているのでファミリー外からの参戦になるが、意外にも真っ先に忠勝が賛成を述べた。
「おや? ゲンゲンは今回
「ええ。 賞金を手に入れて……まぁ、オヤジにちったぁ楽させようと」
「親孝行だねゲンさん」
その覚悟たるや、百代も認めるほどだった。そしてその理由もまた男気溢れる彼らしいものだ。
仮に彼らが優勝するとして、平等に分ければ一人100億。例え一億でもオヤジと呼んで慕う宇佐美に渡せば、当面は楽できること間違いなし。
「だから悪いが直江、お前らのチームと戦うとなりゃ
「……いいよ。 俺もゲンさんを倒してデレ期に突入させてやる!」
「ざけんな! なんだその意味不明な挑戦予告は!」
何はともあれ、KOSには風間ファミリーの殆どが参加することになった。
改めて結成されたチームの面々を、大和は一人一人見据える。
行動力の高い一子、一転突破が得意なクリス、狙撃のスペシャリストである京、そして武道四天王の実力を隠し持つ虎の子である由紀江。
「……やるからには、
大和は勝利の基盤のため、早速携帯電話を取り出したのだった。
と、同時に卓也が携帯電話を取る。
「あ、ゴメン。 ヨンパチから招集が掛かった」
「ヨンパチ? 珍しいな、あいつから……しかもモロに」
「うーん。 とりあえず言ってくるよ」
そう言いながら、卓也は出て行ってしまった。しかも相手がヨンパチこと福本育郎という事実が気に掛かる。
2-Fのと呼ばれる彼は呆れた性欲の持ち主だ。暇さえあれば際どい写真を撮るべく奮闘しているはずだが、一体何の用事で呼び出したと言うのだろうか。
しかし今はそれよりも裏工作を進めなくてはならない。勝利を寄り確実なものにするために。
「よーし! ワンフォーファミリー、ファミリーフォーワン! ということで優勝したらそのうち一割を進呈してにゃん♪」
さらりと十億を要求する女、これが川神の武神である。
☆
一方その頃、九鬼財閥極東本部では義経達クローン組が集まっていた。
議題は言わずもがな、KOSについてである。
「弁慶、与一、葉桜先輩! 義経はこのKOSに参加したいと思う!」
凛とした佇まいはさすが、古来より日本が誇る英傑の一人源義経だった。
しかしそんな彼女の真剣な一言にも、余り動じない面々である。
弁慶はいつもように川神水を飲み、与一は気取ったポーズを欠かさず、葉桜清楚は愛読している小説を手放そうとしない。
「うんうん。 義経ちゃんらしいね」
「まぁ、何も言わなくてもマープルが参加しろとか言いそうだけどね」
清楚はクローン組でありながら、一見は文学少女らしい外見と性格をしておりどう見ても戦闘タイプでは無かったために本人は参加するつもりはないようだ。
だが武士道プランのために生み出された源氏一派はそうもいかない。普段は「面倒くさい」としか言わない弁慶も、強制参加させられると踏んだ弁慶は重い腰を持ち上げようとした。
「与一、当然お前もだよ」
「ふん、いいだろう……俺の技を“表”に出すのは危険だが俺が動かなければ“闇”が動くからな……。 (訳:出ないとヒュームに串刺しにされるから出ます)」
弁慶とヒューム、与一にとって処刑人も同じであるこの二人が出張るとなればさすがの彼も恐怖を感じざるを得ない。
そして何より、彼も日本の英雄。本人は認めないだろうが、心の中では昂りを感じている。激闘に対する期待を。
「……でまぁ、俺も出るといいとして残りのメンバーはどうするんだ?」
「うーん、私も出ようかな~」
「せ、先輩はやめておいた方がいいですよ。 正直、文学少女を戦わせた~なんて事態になったら色んな所からバッシング喰らうって」
だがここで出てくる問題点は残りのメンバーだ。
本来ならクローンである葉桜清楚も出張るものだが、見た目からして戦線に出すのは憚られる。
清楚な彼女相手では、皮肉屋の与一も丁寧な態度にならざるを得ないらしく丁重に断った上で弁慶と義経に向き合った。
「そこなんだ……こうなると義経の知り合いから探さないといけない」
「できれば私は大和と組みたいけどな~」
「兄貴ね。 でもよ、兄貴の取り巻きが既にとってると思うぜ?」
それに関しては与一の言う通りであった。
彼らにとっては親しく、そして慕ってならない存在である直江大和。当然、彼ほどの男をみすみす他に渡すような風間ファミリーの面々ではない。
大和の性格から考えても、彼らは仲間内でチームを結成している。
「と、なるとやっぱり従者の誰かにお願いしなければならない」
「でも、ヒューム爺もクラウ爺もあずみも参加しないって宣言しているしね」
そして従者部隊の中でも序列が高い従者はやはり当日のスタッフになるため、或いはバランスブレイカーにならないために参加を辞退する方向らしい。
ただ、その他の従者であれば組むことはできるだろう。
「うーん、桐山さんや小十郎さんにお願いしてみるのは?」
「桐山はどうもなぁ……確かに出来るマザコンだが、マープルが近くにいるみてぇでヤダだね」
「小十郎は親しいけれども、参加するなら優勝を狙いたいからね」
清楚から二人が推薦される。
桐山鯉は能力こそ高いものの、マープルの代弁者でもあり言動そのものが癪に障るとして与一とは余り気が合わなかった。
逆に小十郎は性格こそ温和でガッツ溢れるが能力はお世辞にも高いとは言えず、強敵が集まること必至のこの大会においては選択肢として含まれない。
「だったらよ、ロックな私達に任せておけって!」
話は聞かせてもらった、と言わんばかりにドアが開けられた。
快活のいいこの声は一人しかしらない。
「ステイシーさん、それに李さんも」
「メンバーを探しているのなら、私達の存在もリメンバーしてください」
「こんな形の冷房を頼んだ覚えはないけど?」
弁慶のツッコミは冷たかった。
「でもまぁ、私達のやる気はロックンロールだぜ!」
「はい。 私達若手の力を見せつけるいい機会だと思っています」
自ら名乗りを上げてくるくらいだ。それも醜態を晒せないこの源氏組に売り込みをかけてくることからその覚悟は半端なものではないだろう。
能力も優秀であるし、それなりに親しい従者だ。チームを組む相手には適しているだろう。
「それに私達は内部側スタッフとして見張るよう指示されています」
「無論不正行為や正々堂々の勝負を汚すようなマネはしねーさ。 当然、メンバーとしてお前らをロックに優勝へと導いてやるぜ!」
それも予め伝えておく。仕事とプライベートを兼ねている、と伝えれば義経も断る理由はない。
寧ろお願いしたいくらいだった。
他の二人も頷いており、戦闘に参加しない清楚も適任だと微笑んでいた。
「わかった! よろしく頼む二人とも!」
「ロックな返事だぜ! 任せときな!」
「やるからには優勝ですね。 ユー、勝利は目前です。 ………」
「自分でも強引過ぎたと後悔するならやらない方がいいよ、李さん」
ここでもまた一つ、チームが結成された。
九鬼財閥きっての切り札ともいえるべきチームにして後にマスコミからも優勝候補と謳われる「源氏組」の誕生の瞬間であった。
(ま。 まずは第一段階クリアだな)
(ですね)
チーム結成を喜ぶ一方で、ステイシーと李は互いに目配せをしていた。
☆
その頃、川神院。
「そうか、お前達は参加しないのか。 梁山泊が出るのも面白そうだと思ったが」
「天衣さん、それは貴方もでしょう」
林冲と天衣が川神院の一室で緑茶を啜っていた。
梁山泊は川神院で寝泊まりしているからここにいるのは当然だが、天衣も元とは言え武道四天王。その腕を落とさぬために時々川神院に顔を出し、修行に参加させてもらっていた。
今は休憩時間のようで、互いにお茶とお菓子を腹に入れている。
「リンー。 やっぱりわっちらも参加しようよー」
「ダメだ。 川神には表沙汰になってしまったが、元々梁山泊は秘密裏の行動が主なんだぞ。 軽々しくテレビなどには出せない」
「相変わらず固いねー。 パンツ頂戴天衣さん」
「こ、今度は私のか!? というか前回それで酷い目にあっただろう貴様!!」
どうやら梁山泊は不参加らしい。今は川神院に身を寄せているとはいえ、梁山泊であることを誇りに思っており、その梁山泊の教えを背くような真似はしないとのことだ。
そういった精神が、「伝説の傭兵部隊」と呼ばせるまでに至ったのだろう。
最も好戦的な性格の史進は参加したいと何度も愚痴っている。
(それに………万が一勝ったら、戻らなくちゃならない………)
そして林冲の心にはふと、そんな想いがあった。
彼女にそんな感情を抱かせている原因は、あの少年であるなと天衣は推測する。彼女もまたあの少年の影響を強く受けてきたのではあるが。
「ただ何もしないわけではない。 鉄心殿の要請に応え、当日はスタッフとして動くつもりだ」
「私もだ。 川神学園の教師も駆り出されるからな」
既にKOS開催発表による影響は、川神の彼方此方に出ていた。
何せ開催を宣言した場所なのだ、下見という名目で世界各国の強豪達や密偵等が既に何人もこの地に足を運んでいる。
街の治安を良くしようと、従者部隊もこれまで以上に動いていた。だが世界の九鬼と言えど、人材には限りがある。その関係からKOSに参加しない面々、特に川神院や川神学園から声が掛かることになる。
「KOS……か。 九鬼も派手な事を考えるものだ」
「ああ。 ……ひょっとしたら、裏社会の人間まで動く可能性がある。 そうなっても、私が一般人を守ってみせる!!」
林沖は愛用の槍を手に意気込んだ。
あれ以来、天衣も林沖もポジティブシンキングになりつつある。大和を始め、知人達のケアーが功を奏したようだ。
と、その時林沖の電話が震えだした。林沖はまだ天衣と話し込んでいるため、代理として史進が出た。
発信者名は「直江大和」だ。
「もしも~し。 どーしたんだ大和?」
『あ、史進か。 林沖さんに変わってもらえる?』
「言っておくけどKOSだったらわっちら参加しないよ。 リンが機密保持だって煩くてね」
『………ほほう。 いや、イイヨ。 イマハソレデイインダ。 ククク』
「な、何だか怪しい声色が聞こえてきたな……」
とにかく、手が離せないならまた後でと言い残し大和は通話を切った。
その様子は近くにいる楊志もしっかりと見て聞いていた。それだけに先程の大和のコンタクトがかなり気になる。しかも目的がチームへのスカウトではなかったのだから。
しかし気にしても仕方がないと携帯電話を閉じた。
「史進、先程電話に出てくれたみたいだが誰からだ?」
「ん? 大和からだけど」
「え、ええっ!? な、何で私に渡してくれなかったんだ!!」
相手が大和だと聞いて感情が一気に昂ぶった。
抗議する林沖を、呆れもあり、愛おしそうにも見つめる史進と楊志だった。
☆
その頃、翔一達は川神の街へと駆り出していた。
目的は当然、KOSに参加するためのメンバー集めだ。勿論、それは知り合いの中からである。サバイバルともなる今回は仲間の絆が試される場面も出てくるだろう。
つまり、風間ファミリーと親密であり尚且つ実力もある人物が要求される。それらを満たす人物は。
「つーことでスペシャルゲスト! 榊原小雪だ!!」
「わっほーい! よろしく~!」
天真爛漫、という言葉が似合う笑顔と共に小雪が跳ねた。
彼女は過去、風間ファミリーのスペシャルゲストという形で一緒に遊んだことがある。それでいてその足技は「壁を超えた者」に踏み込めるかもしれないというほど。
これ以上ないくらいに適任と言えるだろう。
「よっしゃ! 女の子なら喜んで歓迎するぜ!!」
「男の友情とかいってたワリにあっさり撤回すんのな」
むさ苦しい雰囲気の仲の一輪の花。そして気の抜けたこの感じ。
間違いなくチームの癒しにもなってくれるだろう。
「私も問題ないが……病院を手伝わなくて良いのか?」
「ん~? トーマがね、折角解放されたんだから好きにして良いって!」
クッキーがそんな質問をしてきた。彼女は親から虐待を受け、真剣を葵家に移された身。そして葵家とは、葵冬馬の父親が経営する市内最大の病院だ。
病院ともなれば、息子である冬馬はもちろんの事彼女も何らかの手伝いをするものだと思っていたが問題ないと告げた。
(解放……何かのしがらみかな? まぁ、問題ねぇならいいか)
少しだけ何か引っかかりを覚えた翔一だったが今はそんな些細なことよりも新メンバーを歓迎することの方が大事である。
参戦記念にと先程買ってきたジュースの缶を手渡した。
「参戦してくれるのはありがたいが、一応直江とは敵同士になるぞ。 いいのか?」
「ん~? いいよ」
そして最後に忠勝が確認した。
彼女が風間ファミリーと交友を持つようになった切欠は、大和が手を伸ばしたからである。親から虐待を受け、独りぼっちだった彼女が勇気を持って声を出した結果、大和はそれに答えてくれた。
それをバネにして耐え抜き、そして今の幸せがある。彼女がそんな大和に好意を持っていることは誰の眼から見ても明らかだったのだが意外にも二つ返事だった。
「だって、大和は残りの女の子と組んでるんでしょ?」
「あ、ああ………」
「だから………オシオキしないとね♪」
陰りのある笑顔で、そう告げた。そう、彼に好意を持っているからこそ許せなかったのだ。
自分以外の女の子に囲まれてデレデレしている彼の姿を見ていると腹が立って仕方がない。愛ゆえの参戦という事だった。
そんな一幕を見せ付けられては、一気に震え上がるしかない男性陣だった。
「まぁまぁ、参加してもらえるんだからいっか」
「うん。 KOSではみーんな蹴り飛ばしちゃうからね!」
「よーし! んじゃ後はチーム名だな!」
残る問題、それはチーム名だ。
優勝を狙いに行くチームが平凡な名前では良くないと凝り性の翔一が言い出したらもう止まらない。
「パワーイズNO.1! ってのはどうよ?」
「それよりマシュマロ戦隊Dの方がカッコイイー!」
「チームオブアウトロー! ……いや勘違いすんなよ、誰かの比喩であってだな」
皆がノリノリでチーム名を挙げてきた。その中に忠勝もいた当たり、すっかりのめりこんでしまっているなと皆が微笑む。
こうしてアウトオブコントロールで名前を上げていた結果、「KAZAMA疾風伝」が誕生することになるのだが、それは30分後のお話。
☆
そしてKOS開催の報せは川神市内だけに留まらず、海を越え、西にも伝わっていた。
当然、天神館はその噂で持ちきりだ。
今日も学園のシンボルである西方十勇士による会議が終わったのだが、その際に彼らのリーダーである石田三郎がこう告げた。
「出世街道を歩む俺の勇名を広めるに相応しい。 俺もこのKOSに出るぞ」
刀を抜いて勇む三郎。一言目には「出世街道」と言って憚らないこの男だが、確かに実力はある。
しっかりとチームを組んだ上で指揮を取るのであれば善戦するのでは無いかと皆からの視線を集める。そもそも負けが込んでいるが、気を応用できるという時点でほぼ人外だ。
それに相応しいだけの能力がこの男にはある。
「それにKOSは九鬼の主催……であれば義経達クローン組も参戦してくるであろう」
「なるほどな。 KOSを通じて義経に前回の雪辱を晴らしたいと」
「ああ。 前回は余りにも瞬殺だったからな、借りは必ず返す」
大友焔も愛用の大筒の手入れをしつつなるほど、と頷いた。実は天神館は二ヶ月ほど前に川神学園と対戦――――東西交流戦を行っており、その際に逆転負けを喫してしまっている。
特に大将であり、プライドも高い三郎は義経へのリベンジを何としても果たしたいようだ。
「御大将が出るのであれば、それがしも」
「ふん、お前はそういうと思っていた。 いや、運命付けられたと言うべきか」
真っ先に参戦を表明したのは島だ。彼は西方十勇士の副将として、そして三郎に忠誠を誓った身としてどこまででも従う男だ。
三郎も当然、と言わんばかりに島の席を作り出す。
「よし! 大友も参戦するぞ! 世界規模と聞いてはもう止められん!!」
「ごほごほっ、川神に行くための口実でもあるだろう?」
「なっ、そ、そんな事は無い!」
同じく焔も大筒を背負い、チームに参戦した。
彼女は花火職人であると同時に列記とした武士娘の血筋。戦いと聞いて武者震いが止められないようだ。
だが、最も大きな理由は川神に住むあの男に会いたいのだろうと大村が咳き込みながらノートパソコンで今日も情報収集を行っている。
「ガッハッハ! では俺も出よう。 KOSで四国の魅力をアピールしてくれる!」
「アピールするなら第一に天神館だろうが! ……さて、出来れば鉢屋にも参加を頼みたいところだが今日は不在か」
「何でも唐突な依頼が入ったようだ……ゴホゴホッ」
更には西方十勇士最強の攻撃力と呼ばれる長宗我部もその腰を上げた。
彼は郷土である四国を心から愛しており、そのためにあらゆる手段を使って四国を宣伝、活性化させようとする。
このKOSは間違いなく良き宣伝材料となるだろう。
「鉢屋は無理か……ならばヨッシー。 お前だ」
「お、御大将……。 本気なのですか!?」
「ああ。 真剣と書いてマジとも読む」
石田本人は便利屋でもあり、裏工作が得意な鉢屋をメンバーに加えたかったようだ。だが鉢屋は忍者として様々な以来を請け負っており、その際は音信不通となってしまう。
連絡が取れない以上、残り参加している大村ヨシツグに白羽の矢が立った。
「ヨッシー、異論は無いな」
「ゴホゴホッ……まぁ、御大将が出るのであれば従うのみ」
「ふふふ。 これで良い……今度ばかりは、不覚は取らぬぞ」
石田三郎は怪しく微笑んでいた。
彼の最強とも言えるチーム編成がここに誕生する。その名も、「西の五英傑」だ。
メンバーに関してはこれで問題ないのだろうが、まだ一つ懸念点があった。
「しかし、他からどのようなチームが出るのかが懸念すべきところだな」
「うむ。 長宗我部の言うとおり、何も正攻法だけというワケにも行くまい」
「中には、あっと驚くようなメンバーを揃えているチームもいるかもしれん。 げほっ」
他の参加者だ。強さはもちろんの事、戦い方で今後が左右される。
例えば大友焔は掃討戦、それも真正面からの戦いを好むが鉢屋壱助などは裏工作が得意だ。そのような人間が固まれば、明らかに思想も戦法も大多数の方に寄る。
しっかり情報収集はしておくべきだと、ヨシツグがパソコンと向き合った。
☆
―――――さて、舞台は戻って川神市、川神学園。
そこに存在する体育館は本来なら、夏休み期間という事もあり運動部がよく使用しているはずだった。だが今はこの男の一存で貸しきり状態だ。
電球は全て落とされ、体育館内は暗がりになっている。その中で怪しげに浮かび上がる5人の姿が。
「……どうだ鉢屋? これで俺の依頼を請けてくんねぇか?」
「何と見事な春画の数々……これだけあれば性処理にも困らぬ」
先程話題に上がっていた男、鉢屋壱助の姿がそこにあった。
彼は今、呼び出し人である福本育郎が並べた
「鉢屋君って、前童貞は力だーとか言ってなかったっけ?」
「そうだ。 しかし男としてどうしても欲情はしてしまうもの。 そのためにそれを抑え、任務に全力で臨む必要がある。 これだけの春画などがあれば、それも心配要らぬ」
「さっすが童帝! エログッズならばお手の物だな」
童帝――――それは他ならぬ福本育郎の事である。
彼はその座に座り、「魍魎の宴」なる物を開いている。所謂エログッズや学園内で激写した女子達の写真の競りを行う場で彼はそこで絶対権力を得ている。
ここにいるメンバーは鉢屋を除き全員がその魍魎の宴に参加しているというワケだ。
「しっかし本気か福本? お前がこのメンバー連れてKOS参加するって」
巨人が顎鬚を撫でながら少々訝しんだ。
そう、育郎はこのメンバーを用いKOSに参戦しようと言うのだ。確かに優勝賞金や副賞などは魅力的だが、余りにも垣根が違いすぎる。
何せ相手は最低でも世界大会クラスの強者が訪れるであろう大会、鉢屋ならともかく一般人である育郎や卓也が在籍したところで勝ち目があるとは思えない。
「本気も本気よ。 これで優勝賞金を手にすれば、魍魎の宴を更に活性化させられるぜ」
「で、でも何で僕まで? 僕もう、ファミリーには『参加しない』って言っちゃったんだけど」
「だからこそよ。 まぁ俺に秘策がある。 俺に任せとけ!」
愛用のカメラを手に、育郎が言い切った。
どうやら彼はあくまで武力で戦おうというつもりは無いらしい。呼び出したメンバーが鉢屋という点から見ても、小賢しく立ち回るつもりだ。
「鉢屋、まだまだエログッズは送るし優勝したら当然賞金100億はお前のモンだ!」
「……良かろう。 この鉢屋、KOS開催中はお前の忍になる」
「よっしゃ! 一人ゲットだぜ!!」
心強い戦力を得た、と育郎が歓喜する。
そしてお前達はどうだ、と言わんばかりに育郎が残りの三人に視線を向ける。
「意気込みは伝わったけどなぁ~。 リスクっつーか壁がでか過ぎるなぁコレ……」
「おう井上、これ紋白が牛乳瓶を一気飲みしている写真」
「童帝―――――ッ!!! どこまでもついていきますッッ!!!」
あっさりとハゲは忠誠を誓った。何とか買収成功、と育郎はこれまでの苦労を汗として拭う。
何せ紋白とは九鬼紋白その人に他ならない。当然九鬼のセキュリティも厳しく、学校新聞の記事作成のためと偽ってまで何とか撮影したものだ。
こうまでしないとヒューム辺りに串刺しにされてしまう。その分、ロリコンには効果があったようだ。
「ふーん、オジサンは出てもいいと思うな。 ……体張るだけの価値があらぁ」
「おぉっ。 ヒゲ先生はそう言ってくれると思ったぜ」
「へへっ、最低でも一人100億……どうやっても眼が眩んじまうよ」
「だろうな。 どう使おうが一生遊んで暮らせる金額だぜこれ」
いつになく、巨人の眼が輝いていた。
普段は頼りない面持ちの彼だが、妙な鋭さがある。何より人生経験はこの中の誰よりも豊富だ。育郎はそこに賭けたというわけである。
狙い通り、巨人も参加した。残るは卓也のみ。
「ぼ、僕? うーん……ファミリーと敵対するかもしれないしな……」
やはり彼は渋っていた。無理もない、先程仲間達に参加しないと明言してしまったのだ。
その上彼のチームに入れば、他の仲間達と敵対してしまうかもしれない。勝敗の結果はさて置き、卓也にとっては簡単に首を縦に触れなかった。
「ホレ、これ弁慶と義経の髪の毛だぜ」
「うん! 僕も精一杯頑張るよ!」
あっさりと首を縦に振った。童帝にとって、彼が髪の毛フェチであることを見抜くことは容易かった。
しかも美人の髪の毛と聞いて興奮し、後先を見失ったようだ。
その後我に返り、ごほんと咳払い一つするももう後の祭りだ。結局卓也も参加することになる。
「さて、これでメンバーは揃った。 後はチーム名と各種書類作成だ」
「書類に関しては顔写真も込みで、か。 ややこしいことだ」
「まぁ仕方ねぇわな。 ……ところで忍者、お前マスクは取らないの?」
「当然。 忍は素顔を簡単に明かさぬもの」
各々会話を交えながら、書類に必要事項を記入しておく。
何せ世界規模の格闘大会なのだ、記載事項もかなり多い。さながら就職活動のための履歴書を作っているような気分だった。
「でもよ、経歴って事項がねぇんだけどいいのか? テロリストとかも余裕で来ちまうぜ」
「九鬼のことだからな。 それもコミで人材発掘したいと思ってんだろ」
「あの企業は脛に傷持つものでも能力が高ければスカウトされると聞く」
キングオブソルジャーズの目的の一つは巨人の言うように人材ハントだろう。
この戦いは単純な武力だけではなく、立ち回りやそれを見極めるだけの頭脳、度胸、手際の良さなどが試される。
副賞に重役就任の証文まで付与されていることもそれに由来するのだろう。もし好成績を収めれば九鬼に就職できるかもしれないと、更に多くの腕利き達が集まる。
「でも俺はそんな血みどろの戦いを生き延び、童貞の、童貞による、童貞のための世界を築き上げてみせるぜ……うきゃきゃきゃ」
手に入れた栄誉や資金さえあればそれも不可能ではない。
育郎の脳内は既にピンク一色だ。栄誉や富にあやかりたいと擦り寄ってきた女性達を囲み、ディープキスやボディタッチはもちろんの事、スパンキングや特殊なプレイまで。
ありとあらゆる妄想が彼の脳内を支配する。
「あ、ヤベ。 ちょっとトイレ…………」
そして数秒後、賢者になりきった育郎が顔を出すのだった。
一部呆れながらも、こうして「魍魎の宴」というチームが誕生する。
☆
―――――そしてここは梅屋。金柳街商店街の中でもある意味異質なところである。
何せそこで働いている面子が面子なのだから。
「えーっ! それじゃぁ釈迦堂のオッサンは出るのかよ! ずるいぞー!」
「俺には出場制限がかけられてねぇからな」
バイトに来た史進が口を尖らせている。その相手は慣れた手つきで机の上を拭く釈迦堂刑部。
元川神院師範代である彼だが、どうやら弟子達と共に今回の催しに参加するとの事だ。今は丸くなったとは言え、元は戦闘狂。
やはり疼いて仕方なかったようだ。やれやれ、と言わんばかりに客としてきた鉄心とルーが目を細める。
「まぁ、お前は川神院では無いしの。 弟子達の成長も見たいじゃろうて」
「余計な気を遣うんじゃねぇよ。 柄にもねぇ」
「何だったらまた川神院に戻るカ? 一から鍛錬すれバ」
「ルーまで何言ってんだ。 もう戻る気もねぇつってんだろ」
そう言いながら厨房に戻り、二人が注文した豚丼と焼肉定食セットを並べる。
二人は釈迦堂の様子を見に来たついでにKOSへの動向を伺いに来たようだ。
「しかしお前が出るとなると……大会は荒れそうじゃのう」
「へへ。 柄にも無く張り切っちまうわ。 まぁ、優勝しようがしまいが梅屋をやめるつもりは無いけどな」
「話じゃヒューム氏からもスカウトがきたそうじゃないカ。 零番を譲ってもいいト」
「行儀よく働いたってつまんねぇよ。 それよか梅屋の方が楽しいぜ」
この釈迦堂刑部という男は嘗て、実力だけならばルーをも凌いだ、言わば川神院のNo.2。
今は全盛期に比べ、修行不足で劣っていることは否めないがそれでも実力は恐ろしい。源義経、黛由紀江など壁を超えた者が多く集う大会にまた一波乱が起こりそうだ。
「実力者っていや、前店に来たあの……なんだあのやたら納豆勧めてくる娘」
「ああ、松永燕?」
「そう、それだ。 あの子は出るのか? アイツ、中々だと思うぜ?」
史進がその名を呟いた。松永燕、武道四天王の座を授かるに相応しいとされる実力者。
公式戦では無敗を誇ると聞くが、一方で人前では中々本気は愚か試合そのものすら行わない納豆小町。
釈迦堂の眼から見ても相当な実力者という事は窺えるだけに動向が気になるようだ。
「彼女も参加せんと言うておる。 モモと一緒に実況中継じゃ」
「なーんだ。 ま、ああいう手合いの方が厄介そうだけどな」
「? そうなのか?」
残念がる一方である意味安堵を覚えた。余り彼女と顔を合わせたことが無い史進はどういう意味か理解していないようだが、経験を積んできた釈迦堂たちには分かる。
燕は確かに強い。しかし百代のような破壊力が無ければ、由紀江のようなこれと言った武器も手にしていない。にも関わらず公式戦が無敗。
どんな戦闘スタイルなのか、徐々に分かってきた。
「んで、そっちではどうよ辰子達」
「頑張っているネ。 技の精密さも、お前の指導で大分モノになってきタ」
「辰子に至っては、このまま大成すれば武道四天王の座を与えてもいいと思える」
「ふーん。 師匠として鼻高々だぜ」
空いた丼を史進と共に洗いながら釈迦堂が満足そうに呟いた。
きっと彼は認めないだろうが、父親のような顔もしていた。そんな彼の顔を見ることができ、鉄心とルーも安心したようだ。
「ところでよ、俺みたいな連中が参加OKっつうんだからヤベェ奴らが色々来るんじゃね?」
「ありうるね。 わっちらの敵対勢力とか絶対」
「そこら辺りもワシらと九鬼で何とかするわい。 大会を荒らすようなマネはさせん」
一方で憂いもある。それはテロリストまがいの連中の参加だ。
銃器の使用も許可されているという事は、相当激しい戦いになるはず。無論釈迦堂達壁を超えた者にとって見れば、銃器等オモチャ同然であるのだが、一般人にはそうも行かない。
地面や壁などには間違いなく弾痕も残るだろう。中には勝敗を無視して一頻り暴れようと考える連中も存在する。釈迦堂は内閣調査室という職務につき、それを実感した男だ。
「………ハインドの野郎が来なけりゃいいんだがなぁ………」
ここ最近の、彼のたった一つの危険人物。その名を呟いた。
☆
――――某国某所。
辺りは薄暗く、光源は散乱している機械から漏れ出る光のみ。そんな怪しい雰囲気を醸し出す場所で男が一人、コンピューターと向き合っていた。
凄まじい速度でキーボードを叩くその傍では、煙草を吹かす男――――ハインドがそれを見守っている。
「ジイサン、どーよあの二人は」
「ふむ………霧隠に関しては問題なかろう。 一刀斎は調整が必要じゃが」
「やれやれ、面倒くせぇこった」
二人の前には、厳重に閉ざされた鉄の扉。
辺りから蒸気や異臭も吹き出ており、扉の冷たさもあって近寄りがたい雰囲気を醸し出している。扉の隙間から僅かに漏れ出る光は尚も怪しい。
「んじゃ旦那の指示もあるし、才蔵ちゃんだけ先に出しちゃおうぜ」
「そうじゃな。 ホレ」
赤いボタンを老人が押すと、左側の扉が開いた。
輝きと煙が噴き出す中、一つの影がそこから飛び出た。その影は目にも留まらぬ速さでかけられてあった服を取り、一瞬で着込む。
最後にその翠の髪を束ね、腰まで届くポニーテールに纏めた。
「チェッ、仲間同士なんだからその瑞々しいお体見せてくれよォ~」
「だ、黙れ!! 親しき仲にも礼儀ありだろうが!!」
ハインドからの一言に顔を赤くして少女は反論した。
服からクナイを取り出し、その切っ先を向ける。さすがにからかい過ぎたと思ったのか、ハインドは侘びを入れながら手を挙げた。
少女は鼻を鳴らすと備え付けられていたドライヤーを手に取り、髪を乾かす。
「霧隠才蔵ともあろうお方が裸見られたくなかったり髪に拘ったりファッションに興味持ったり……ちたぁ古臭ぇ事しねぇの?」
「ふん、私は確かにそんなラベルは与えられたが私は私だ。 指図は受けん」
不機嫌な面構えで少女――――霧隠才蔵はそう答えた。
まるで大人と子供だ、とでも言わんばかりに老人はキーボードを叩くことをやめ、コーヒーカップに手をつけた。
飲む前に大量の角砂糖を投入した上で。
「………で、体調はどうかのぉ?」
「問題ない。 定期健診も終わったのなら戻らせてもらうぞ」
「おぉっとその前に旦那からのありがた~いご指示だ。 受けとけよ」
尚も不機嫌な面構えを解く気配もなく、才蔵は翻した。
しかしその目の前にはいつの間にかハインドが立っている。さり気無いことかもしれないが、伝説の忍者の名を持つ彼女に一切気取られること無く先回りしている。
相変わらずの軽薄な態度とは裏腹の、この底の知れない男に才蔵は尚も苛立ちを募らせる。
「ったく、同じ女でも彩子は従順だってぇのに」
「………さっさと用件を言いなさい」
「わーったよ。 んじゃコレ」
懐から指令所らしい紙を取り出した。
それをわざわざ紙飛行機にした上で、才蔵目掛けて飛ばした。忌々しそうにそれを受け取り、中身を見る。
そこには作戦の詳細と、そのための手順等が書かれていた。
「………本当に思うけど、ドッペルの目的って何? 全く意味が分からない」
「ンなの俺も知らネ。 ……いやぁ、どうかな? へへへ」
やはりハインドは何か知っている。何せ、この面々の中で最もドッペルという人物と深く関わっているのだから。
それでも彼がこちらに姿を現すことは少ない。しかしハインドは何かしらの情報を得ている、或いは推測を立てている。
どうにもそれが面白くない、と霧隠は目を反らす。
「でも任務であれば仕方ないわね。 ……KOS、引っかき回してくるわ」
次の瞬間には、才蔵は消えていた。
どうも、季節では春が一番好き。テンペストです。
今回のKOS編ではまじこいSから登場するメンバーも加わるだけに、それぞれの個性をどう引き立てようか色々悩みました。
KOS編はまじこいの中のイベントでもトップクラスに好きなイベントなので気合を入れておりますので楽しんでいただければ幸いです。
さて、最後まで勝ち残るのは誰なのか。ある意味想像が付きそうで想像付かない展開を用意しておりますので。
では感想ご意見お待ちしております。