真剣で私に恋しなさい!X   作:テンペスト

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第五話 まじこいキャラがカラオケに行ったようです

月曜日。それは仕事や学校が始まる日として人々が最もダレると言われている曜日。

涼しい風が吹く多馬川の土手を風間ファミリーは歩いていた。

 

 

「……ってなことがあってな、板垣辰子と仲良くなった」

 

「へぇ、俺が琵琶湖に行っている間にそんな出来事があったのか」

 

「キャップも大概だと思うけどね」

 

 

今回はキャップこと翔一もちゃんと登校している。

彼は休日祝日は旅に出ることが多く、その関係で次の日に当たる月曜日すら巻き込んで帰ってこないと言う事もしばしば。

 

 

「で、昨日姉さん達ガバガバ俺に奢らされたんだよ。 あろうことかまゆっちまで遠慮なく」

 

「す、すみません大和さん」

『でもそこで文句垂れるのは男らしくないぜ大和坊』

 

「ギャハハ! 大和松風に言われてやんのー!」

 

 

昨日の板垣一家との一件を知らない男性陣は大和を笑った。

一方のまゆっちこと由紀江もさすがに調子に乗りすぎたことを反省しているがその他面々はそんな気配が一切無い。

 

 

「お詫びというワケではありませんが今日のお弁当は自信作ですので!」

 

『っていうかまゆっちは事大和のことに関してはいつもめちゃ真剣SSS!』

 

「まぁ、まゆっちに関してはお弁当でチャラにするか」

 

 

大和は登校しながら由紀江から弁当を受け取った。

彼女の弁当はいつも可愛らしい風呂敷に包まれている。この包みを開く時のドキドキ感がたまらない。

何より彼女の作る弁当は絶品。大和も日々の楽しみになりつつあった。

 

 

「大和。 私食べていいよ」

 

「禁断の果実に手をつけてはいけない」

 

 

家事スキルMAXの由紀江に対抗してか京が何やら言い寄ってきたがいつもの如く断っている。

 

 

「そう言えばモロとガクトは何を読んでいるんだ?」

 

「○NE PIECEだよ。 今『真世界』に突入したところでね」

 

「俺さ、この人の露出が増えたのは嬉しいんだがもう一人の方のデザインはイマイチだなー」

 

 

列の後方では岳人と卓也が本を読んでいた。

クリスも気になったのか覗き込む。今日は珍しくラブコメではなく、週刊誌の人気を飾る漫画を読んでいたらしい。

 

 

「みんなー! おはよーっ!!」

 

「おはようワン子。 って今日は学長もセットとは珍しい。 おはようございます」

 

 

彼らの後ろから元気のいい声が聞こえた。

振り返るとそこには体操服にブルマと健康的な格好をし、腰にタイヤ付きの紐を巻いている川神一子が。

努力第一とする彼女はこうして日々のトレーニングを欠かさない。

そして彼女が引くタイヤの上には彼女達の祖父にして学園の長、鉄心が座っている。

 

 

「おはよう皆の衆。 たまには孫娘の特訓にも付き合いたくての」

 

「じーちゃん。 アタシ早くなってるかな?」

 

「うむ。 実感は難しいかもしれんが少しずつ成長しておるぞ」

 

 

何だかんだで孫には甘い鉄心だった。

 

 

「このまま学校まで連れて行ってくれるということでの」

 

「そっか。 んじゃワン子また学校で」

 

「はーい! いっちにーさんしー、ゆうおーまいしんっ!!」

 

 

鉄心を乗せたまま、一子は学校に向かっていった。

ああして努力をする彼女の姿は何よりも眩しい。九鬼英雄は惚れてしまうのも無理も無い。

そして一行は多馬川の上に差し掛かる多馬大橋に辿り着いた。

 

 

「プルケケケ!! 川神百代! 待っていたぞ!!」

 

「おっ! 挑戦者か! ひっさびさに戦えるー♪」

 

 

その橋の真ん中では何やら奇抜そうな男が待ち受けていた。

百代を名指ししたことからどうやら挑戦者らしい。

戦闘狂である百代は嬉々として、ステップを刻みながら近寄った。久々の路上戦闘に登校していたほかの生徒、及び一般人も見物に来る。

 

 

「はい皆様。 戦闘の影響が出る恐れがありますのでこのラインよりお下がりください」

 

 

すると突如、まるで最初からスタンバイしていたかのように男が現れた。

男は細身だがヒュームのような燕尾服を着込んでいる礼儀正しい男。爽やかそうな美青年だ。

たまたま登校中だった羽黒黒子や小笠原千花も男に興味を持ったようだ。

 

 

「あっ、あのー! アンタ名前は何ていう系!?」

 

「羽黒ズルいわよー! 私も是非お話を……!」

 

「私は九鬼家従者部隊序列42番、母をこの上なく愛するマザコン桐山鯉です」

 

「「どうみても変態ですありがとうございました」」

 

 

前半までは誰もが食らいつくステータス。しかし後半のマザコンが彼女達を決定的に退かせた。

この多馬大橋は通称「変態の橋」と呼ばれ、変態のエンカウント率が異常に高いことで有名だ。

彼もその橋に踊らされた犠牲者なのだ。

 

 

「私のことはどうでもよろしいではないですか。 間もなく川神百代様の決闘が始まりますよ」

 

 

鯉達、九鬼家は度々路上で行われる戦闘に介入し、決闘がスムーズに行くよう仕切ることが多い。

最近この川神には源義経や松永燕といった名の知れた実力者が多く集結しているため挑戦者が後を絶たない。

それを取り仕切っているのが最近の九鬼財閥である。

 

 

「桐山さん、おはようございます」

 

「君は直江大和君でしたか。 おはようございます」

 

 

大和は桐山にとりあえず挨拶した。

彼は生粋のマザコンで有名な人物だがそれ以外のスペックは高い。何より九鬼家の人物と繋がりを持っておくのは美味しいと判断し、話しかけることに。

 

 

「珍しいですね。 今日はお一人ですか?」

 

「ええ。 先日、源義経様達が君達に負けましたよね?」

 

「はい」

 

「その噂が広まって今なら倒せると意気込む挑戦者が相次いでいるんですよ」

 

「なるほど。 それで人員が多く割かれる必要があると」

 

 

まるで愚痴にも近い感想だ。鯉はこういった、ねちっこさに関しては九鬼家従者部隊の中でも群を抜いているという。

しかし愚痴を聞くことに慣れている大和からすれば何てことはない。

 

 

「逆に言えば義経様達を倒した君達にも挑戦する可能性はある。 ご注意ください」

 

「ご忠告感謝しますマザコンの桐山さん」

 

「ありがとうございます!」

 

 

本来感謝される返しではないはずなのだが。

とりあえず桐山鯉は「マザコン」をつければ喜ぶと知った大和は収穫を手にし、百代との決闘に目を向けた。

 

 

「服装はこのまま、場所はいますぐのここでいい」

 

「分かった……ケルプププ! 百代、俺の軟体真拳……受けてみるがいい!!」

 

 

男は身体を揺らし始める。

するとまるで身体中の骨が抜かれたかのように柔軟になり始めた。多くの人が恐れるほどの気持ち悪さだ。

その姿はさながらスライムのようだ。

 

 

「俺に普通の打撃は効かぬ! 衝撃を吸収するからなアーッハッハッハ!」

 

「なら固めてやろう。 川神流奥義、雪達磨」

 

 

百代が一瞬で肉薄し、男を掴んだ。

男は絡みつく間もなく彼女手から発せられる冷気によって凍らされる。

そして次の瞬間彼を縛っていた氷は砕け散り、男はその場に崩れた。

 

 

「それまで! 勝者、川神百代!」

 

 

桐山鯉が素早くジャッジした。

そして挑戦者に後遺症が残りそうな傷が無いか入念に調べる。急激に凍らされたのだ、普通は生死を問われるところだが。

 

 

「この分ですと2,3日休めば全快するでしょう」

 

「よし、川神院に連絡しておくか」

 

 

逆に言えば2,3日休まなければ全快しない攻撃を受けた。

こういった決闘で敗れた者に関しては川神院が責任持って敗者の治療に当たってくれる。

百代は川神院に連絡を取るべく携帯電話を取り出した。

 

 

『さっすが秒殺に定評のあるモモ先輩ー!!』

 

『そして当然の如く人外な技を出す辺りがもうヌけるーッ!!』

 

『モモ先輩ーっ!! 私とデートしてくださぁーい!!』

 

『私オッパイありますよぉ~~! 抱いて抱いて~~~!!』

 

 

百代を絶賛するファンの声が上がる。

川神百代はその美しさ、強さ、そして凛々しさを持って人気を集めている。

そのファンは男女問わず。そして何より。

 

 

「おっ、君オッパイあるんだって? よし放課後揉ませて貰おうか」

 

 

女癖が悪かった。

百代は時々ファンの一人とデートと銘打ち、奢らせるのだ。

弟分としては余り好ましい行動とはいえない大和だった。因みに風間ファミリーは。

 

 

「んじゃ行こうぜ。 モモ先輩の勝負は賭け事にならねーからなー」

 

「因みにクリスさんでしたら先程の相手はどのように対処を?」

 

「レイピアの切っ先による斬撃だな。 軟体といえど液体ではないのだから切れるだろう」

 

「因みに私だったら矢の先端にダイナマイト仕込みます。 クク」

 

「モロ、早く次のページ捲れよ。 この展開だと明らかにシャワーシーンだろハァハァ」

 

「ちょっと待ってよ、割とこの娘のパンチラ気に入ってるんだから!」

 

 

百代の勝負の結果に全く興味を向けていなかった。

何せいつものことなのだから。因みにその一方ではこんなやり取りが。

 

 

「2-F委員長! オハヨウゴザイマスッ!!」

 

「井上ちゃん、おはようございます!」

 

「今はまだ暑いですね! 水分補給欠かしちゃいけませんよ!」

 

「は、はい。 私も気をつけています……」

 

「こちらのペットボトル、良ければお飲みください! え? ちょっと口をつけましたがナニカ」

 

 

この後ロリコンはマザコンによって蹴り飛ばされていた。

今日も変態の橋は絶好調。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ってな事があったんだ。 自重するよう釘を刺しておいてくれ」

 

「分かりました。 うちの準がご迷惑をおかけした事をお詫びします」

 

「全く、困ったハゲなのだー」

 

 

学校について早速大和は2-Sの葵冬馬達に会いに行った。

先程の準のもう変態の域に達したアタックには真与自身はともかく、親友である千花には不愉快だったようで釘を刺しておいてくれと頼まれていた。

身内同然の彼に対し、冬馬は素直に謝る。さすがに彼のロリコンには小雪も手を焼いているようだ。

 

 

「お詫びの印にホテルに行きましょう。 無論私持ちですから」

 

「誰持ちであろうが行かん」

 

「では草むらへ。 外でヤるのもオツなものですよ」

 

「そんなシチュ求めてねーっちゅんじゃ」

 

 

大和は冷静に返しつつも涙目になっていた。

これだけ見ると大和と冬馬達は仲がいいようにも見えるが。

 

 

『……チッ、直江か……』

 

『ウゼェんだよゴミめ………』

 

 

Sの教室からそんな陰口が聞こえてきた。

すぐにマルギッテや義経の睨みや注意で収まるものの、依然として空気が悪い。

 

 

「ありゃりゃ。 目の敵にされてるな」

 

「前回のプチ川神大戦の影響でしょうね」

 

「あれ以来心がプンスカプンスカ怒ってるよー。 まるで壊れたオモチャみたいキャハハ!」

 

 

冬馬の言うとおりだった。

前回、大和はプチ川神大戦にて勝利を収めるため学校の裏サイトを利用した。

そのためSクラスの問題点などが浮上し、サイトは閉鎖に追い込まれた傍ら教師陣や義経達の注意が深まったのだという。

 

 

「ご安心ください。 義経さん達は貴方に対して怒ってはいませんよ。 無論私も」

 

「それはありがたい。 でもここにいるとお前までバッシングされそうだからそろそろ帰るよ」

 

「すみませんね。 今度はゆっくりしていってください。 私のお腹の上で」

 

 

やまと は にげだした !

 

 

「はーっ、はーっ……あー怖かった……」

 

「おやおや。 何やら必死なようだったね大和君?」

 

 

急いで2-Sの教室から脱出した大和。息も絶え絶えだ。

そんな彼の目の前に聞きなれた声が。顔を上げると意地悪そうな微笑を向ける一つ上の先輩がそこにいる。

 

 

「燕先輩。 おはようございます」

 

「うんおはよう。 大和君は挨拶を欠かさないいい子だねーっ」

 

 

目の前にいたのは松永燕。大和は燕先輩と呼んでいる。

屋上で出会って以来、事あるごとに絡んでくる。燕も大和が気に入ったようで可愛がっているのだ。

 

 

「どうしたんですか? 俺の教室の前まで来るなんて珍しい」

 

「いやさ、ちょっと今日の放課後遊ばない? 九鬼財閥の方で」

 

「何で九鬼財閥なんですか?」

 

「ウチのおとんがそこにいるからさ。 おとんの心配ついでに紋白ちゃんとも遊ぼうって思って」

 

 

松永、それは西では有名な武士の家系。

そして彼女の父親である松永久信は発明家なのだという。現在は九鬼家がスポンサーとなってくれているために近くにある九鬼家財閥極東本部に身を移しているのだと聞く。

そしてそこは英雄と紋白の家でもある。その関係で仲良くなったらしい。

 

 

(ふむ、これは燕先輩と仲良くなれるチャンス。 上手くいけば紋様や英雄とも近づけるかもしれない)

 

 

燕とは純粋に遊んでみたかった。そして何より権力の塊でもある九鬼家の兄妹とも仲良くなれる可能性が高い。

この誘い、受けて損はないだろう。

 

 

「分かりました。 ただ……」

 

「ただ?」

 

「何も今じゃなくても昼休み辺りに誘えばよかったじゃないですか」

 

「っ、それは……大和君をいち早く予約しておきたかったからかなー?」

 

 

一瞬だけ焦った。思えば彼らは昼休みによく会う。

であれば時間も空いてる其方の方が誘うに適している。大和は効率のいい手段を好む燕の性格を知っているから少し疑問に思った。

本当は気持ちが焦ったからとは決して口にしない燕だった。

 

 

「なるほど、そういう事にしておきます。 とりあえず今日は空いてますから」

 

「んじゃ放課後に九鬼財閥極東本部前ね。 私教室に戻るから。 ナットウ!!」

 

 

そう言って燕は瞬時に消えた。

自由奔放な彼女はこうして大和の前に姿を現してはすぐに姿を消す。その自由に駆け回る姿はまさに「燕」のように掴みどころが無い。

 

 

「大和、松永先輩と遊ぶの?」

 

「早速これかよ……京、いつの間に?」

 

「大和の傍に取り付いています。 背後霊の如く」

 

「一刻も早く除霊してもらわなければ」

 

 

振り返るとそこには京が。

それだけではない、クリスや一子もこちらを見ている。

先程のやり取りは一部始終目撃されていたようだ。

 

 

「武道四天王に九鬼財閥の長子と仲良くなっておいて損はないだろ?」

 

「じゃ私達もついていっていいよね? 私達も“仲良く”なりたいし。 クク……」

 

 

今の京には有無を言わせぬ迫力がある。

彼女のみならずクリスや一子も同様だ。このままでは昨日の二の舞になってしまう。

ただいつもの面子がついていくことに大和はとある問題を感じていた。

 

 

「……ちょっと待って。 燕先輩に確認してみるから」

 

「確認じゃない。 許可を取るんだッ!」

 

 

最近京が焦っているように感じる。ライバルが増えたからだろうか?

疑問に思っていると早くも返事が返ってきた。内容は「見られちゃったものは仕方が無い。 つれてきていいよん」とのことだ。

燕にしては珍しい小さなミス連発だな、と大和は思う。まさか自分の意識しているのでは、と淡い期待もしたり。

 

 

「いいってさ。 クリスにワン子も来るか?」

 

「勿論!」

「お供する!」

 

 

待ってました、と言わんばかりの勢いだった。

やれやれとため息を突く大和。この後、待ち合わせの場所に行く前に銀行によって貯金を少し下ろさなければと腹を決めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれま。 随分と大所帯になっちゃったねー」

 

「そりゃ燕やモンチッチと遊べるんだからなー」

 

 

結局あの話がファミリー全員に漏れ、ここに風間ファミリーが集まってしまうのだった。

燕も来るとしても女性陣だけだろうと踏んでいたらしく口元を押さえている。

岳人が同行を申し入れた理由はもう明らかなのだが。

 

 

「姉さん、放課後ファンの娘の胸揉んで繰るんじゃ?」

 

「既に揉みしだいてきた。 何の問題もない」

 

 

問題のある行為を問題ないと問題なさそうに言い切る武神。

 

 

「ま、いいや。 とりあえず紋白ちゃんがOKを出すかどうかだね」

 

 

燕は少し心配そうに携帯電話を弄り始めた。彼女の心配の理由は、大和も察せている。

その理由とは川神姉妹がいることなのだ。

九鬼紋白は、この二人に対して苦手意識を持っている。その理由は彼女の姉や兄に関わっている。

 

 

「OKだって。 今から下りてくるんだってよん」

 

「あれ、ビルの中で遊ぶんじゃないんだ」

 

「たまには外で遊びたい、だって」

 

 

そう言っているうちに玄関から数名の従者が出てくる。

誰もがピシッと整った燕尾服、或いはメイド服に包まれている。彼らが作った道から二人の老人を従えて紋白がやってきた。

 

 

「フハハハ! 待たせたな、皆の衆!」

 

「こんにちは紋様。 そしてヒュームさんに……クラウディオさんもご一緒ですか」

 

 

彼女はいつものようにヒュームを連れていた。別に彼は専属の従者というわけではないが、一応護衛として1-Sの生徒として編入されている。紋白とは昔からセットだった。

対するはヒュームのような威圧感を感じさせない執事が。

 

 

「お久しぶりです。 今回はこの私めもご同行させていただきます」

 

「安心しろ赤子ども。 俺とクラウディオはあくまで紋様の警護。 邪魔はなるべくしない」

 

 

ミスターパーフェクトの異名を持つ完璧執事、クラウディオ・ネエロだった。

どんなことでも「簡単なことでございます」といってやってのける完璧執事。順位も高く、序列3番を務める。

そして同じく従者であるヒュームは首に巻いてある布に手をかけながら下がった。

彼らのような大物が出る理由としては川神百代がついてきたからだろう。

 

 

「……しかし風間ファミリーが一丸となってこようとは」

 

「すみません紋様。 ゾロゾロしちゃって」

 

「いやよいぞ! 仲良くしたいとも思っておったしな!」

 

 

紋白はやはり川神姉妹に対して苦い表情をしていた。彼女には姉と兄がいる。

姉の九鬼揚羽。彼女は元武道四天王でもあったが、百代に敗れた。そして揚羽の弟にして紋白の兄、英雄は事ある語とに一子に告白しては断られている。

姉と兄のことが大好きな紋白としてはそれが許せなく思い、同時にそんな事で憤りを感じる己自身を恥じているのだ。

 

 

(紋様、あまりご気分を害するようでしたら……)

 

(いや良いと言うておる。 この程度の障害乗り越えずして兄上や姉上には追いつけない)

 

 

本当にお兄さんやお姉さんが好きな子なのだと大和は感じた。

こんな彼女に苦しい思いをさせるわけには行かない。けど今日の折角の遊びを台無しにするわけにも行かない。

大和の顔は“軍師”のそれになった。

 

 

「で、どうするのだ燕?」

 

「そうだねー。 ここは皆でカラオケなんてどうかな?」

 

 

燕がごく普通の案を出した。

最近の学生としては最もな意見といえるだろう。紋白もカラオケという施設にその家柄上、余り立ち寄ったことが無い。

 

 

「うむ、面白そうではあるな!」

 

「じゃイチゴクラブに行きましょ! あそこ曲がたくさん入ってるのよね~!」

 

 

一子が真っ先に提案した。

ここからであれば最も近いカラオケだった。彼女の発言にまたも紋白が苦そうな顔。

そんな彼女の表情にクリスが突っ込んでしまう。

 

 

「どうしたんだ? イチゴクラブが嫌なのか?」

 

「い、いやそういうわけではないぞ!」

 

 

そう言えばクリスは紋白が川神姉妹を苦手とすることを知らない。

彼女だけではなく、大和以外の風間ファミリーは紋白との接点が少ないため知る機会が無い。

後で遠まわしに教えておくかと大和は肩を竦めた。一方の由紀江はその理由を察したようで少々戸惑いながらも提案をする。

 

 

「あ、あの! 僭越ながらカラオケの部屋は人数限られていますし二組に分かれませんか!?」

『おーまゆっち。 ナイスな意見だぜー』

 

「だな。 まゆっちの言うとおりここは紋様グループと燕先輩グループに分かれよう」

 

 

いつものように松風がうるさかったが大和はその意見に賛同する。

いきなり距離を縮めるのは無理があると悟った。積み重ねで解消していくしかない。

ただカラオケは密閉空間ともあり、嫌でも接触機会が増えてしまう。

毎回毎回嫌な思いをされたのでは彼女もこちら側も楽しくない。

 

 

「燕先輩には姉さんにワン子、岳人とクリスで」

 

「モンチッチの方にはまゆまゆに京、モロとキャップ、そして大和ということか。」

 

「いや、俺は相互間の橋渡しってことで時々二部屋を往復する」

 

 

なるべく各々が喜びそうで、かつ無難な割り振りを大和が提案した。

大和が往復することに違和感を感じた百代だったが彼のアイコンタクトが「後で事情を話す」と報せる。

そのため納得し、一行はカラオケに向かうことにした。

歩くこと約10分。カラオケクラブ、「イチゴクラブ」に到着だ。

 

 

「実はこのイチゴクラブ、九鬼財閥の傘下に入っているのだ」

 

「さすが世界の九鬼財閥、カラオケすらも手中ですか……」

 

「というよりも九鬼は全ジャンルを網羅しておるからな! フハハハ!」

 

 

紋白の得意げな笑い声に全員が納得する。

そして代金を払い、大き目のパーティー用の部屋を二部屋借りた。大和の最初の提案どおりの割り振りで分かれ、最初大和は燕側の部屋で歌うことに。

 

 

「それじゃ一番槍、この川神一子……あれ? マイクが?」

 

「ごめんね一子ちゃん。 一番はこの納豆小町、松永燕が貰い受けます!」

 

「いよっ! 納豆小町ーっ!!」

 

 

岳人が騒ぐ。しかし燕は大和の意思を汲み取ってくれたようだ。

彼女の持ち歌である「I LOVE ねばねば~らいふ」が始まる。岳人が盛り上げているのでその隙に大和は百代達女性三人にことのあらましを伝えた。

 

 

(―――――ってワケで紋様は姉さんとワン子が苦手なんだ)

 

(そうなんだ……私、余計なことしちゃったかな……)

 

(いやいや。 これはワン子は悪くない。 でも紋様も悪くない)

 

 

大和はフォローに必死だ。

事情を話せば感傷的な一子を始め落ち込む面子が出てくるのは予想できたからだ。

 

 

(だから今日を機に、少しずつ距離を詰めていこうと思う)

 

(なるほど。 すまないな大和)

 

(いいんだって姉さん。 ワン子が悪くないように姉さんも悪くない、誰も悪くないんだから)

 

 

事情をある程度説明したところで燕の曲が終わる。

大騒ぎする岳人はまさにアイドルと押しかけファンの構図だった。

 

 

「よし、なら次はこの俺様が死ね死ね隊のテーマを歌いマッスル!」

 

「あはは! 岳人君て面白いね」

 

「ほ、ホントッスか先輩! 見ていてくださいこの島津岳人、筋肉光らせます!」

 

「いやそれはやめて欲しいな」

 

 

岳人と燕のおかげでテンションが変に下がるという事態は回避された。

当然岳人は事情を知らないので、燕一人のおかげとも言える。

その間に大和達は作戦を練る。当然、「いかにして紋白と仲良くなり、今日のカラオケを楽しむか」にある。

どちらを欠いても今日のカラオケは成功したといえない。

 

 

(具体的にどうするんだ大和?)

 

(当初の予定通り俺が向こうと往復しつつ様子をみて、メンバーを入れ替えていく)

 

(なるほど。 で、最終的には私やワン子をモンチッチと同じ部屋にさせたいと)

 

(そういうこと。 途中俺がケータイで色々指示するからそれに従ってくれ)

 

 

この件に関してもクリスは協力的になってくれている。

彼女も紋白とファミリーが仲良く出来ないのは悲しく思ってくれているからだ。

 

 

(でもだからって極力自分達が“我慢”してはいけない)

 

(だね。 折角遊びに着たのに楽しくないのはいけないわ)

 

(ワン子の言うとおり。 紋様と仲良くなって、皆楽しい。 これ以外に勝利条件は無い!)

 

(((了解!!)))

 

 

大体方針も纏まってきたところで岳人が歌い終わったようだ。

彼自身、燕にいいところを見せようとこの一曲に全力を出して疲れたようだ。今なら事情を説明できる。

 

 

「よし次はクリス、歌ってこいよ」

 

「任された! 残酷な悪魔のアンチテーゼ、ご披露しよう!」

 

 

大和は次の歌い手をクリスに託した。

そうしている間に岳人を呼び寄せ、百代と一子に話させる。これで事情を飲み込ませるつもりだ。

残された大和と燕はクリスの歌を盛り上げる傍ら、作戦を伝える。

 

 

(なるほどねん。 で、大和君が骨折るの?)

 

(こういうのは俺の役目ですから。 でも大丈夫、俺も楽しんでやります)

 

(OK。 私も楽しめる範囲でフォローするよん)

 

 

燕は見た。軍師大和の顔を。

彼は今日、川神姉妹と紋白を近づけようとしている。その上で皆楽しいカラオケにしようと画策している。

本当にそれが出来るのか、燕は期待してみたくなった。

 

 

「んじゃ俺はちょっと紋様の部屋の方でも見てくるよ」

 

「いってらっしゃーい」

 

 

一子の声を受け、大和は部屋を出た。

部屋の目の前ではヒュームやクラウディオがそれぞれの部屋の前で立っている。警備のためだろう。

カラオケという雰囲気を害さないために威圧感は極力抑えているが。

 

 

「話は聞かせてもらったぞ赤子」

 

「聞こえたんですか」

 

「はい。 我々にとっては簡単なことでございます」

 

 

完璧執事に嘗て武神と渡り合った従者。どちらも人外のようだ。

ただ話が聞こえていたのならやりやすい。

 

 

「言っておくが紋様の川神姉妹に対する感情は思った以上に深い。 何せ英雄様と揚羽様を深く敬愛しているのだから」

 

「深く敬愛している分、深く相手を嫌悪してしまっています。 そしてその分ご自分にも嫌気を」

 

「でもいつかはなくして欲しい。 それが今日です」

 

 

大和は言い切った。この二人の執事相手に臆面も無く。

クラウディオは一切顔を変えなかったが、ヒュームは口元を歪めて笑う。

 

 

「面白い。 紋様の苦手意識……貴様に解消できるか?」

 

「尚且つ楽しいカラオケにして見せますよ。 では俺は部屋に入りますね」

 

「はい、どうぞ。 宣言どおり我々はなるべく介入しませんので」

 

 

ヒュームもある程度は期待してくれているようだ。

しかし介入はしないと明言された。つまり、邪魔はしないが助けもしないという事だ。大和は最初から彼らの助力に一ミリの期待もしていない。

覚悟を決め、大和は紋白達が歌う部屋に辿り着いた。

 

 

「って何で紋様が項垂れているんですか」

 

「いや……椎名の歌がな……」

 

「あー京はこと歌に関してはバケモノですからね」

 

 

京の歌声にノックアウトした紋白がいた。

彼女の歌に勝てるものはいない。京は「えへん」と得意げだった。

因みにその歌声はクラウディオ達も認めるほどだったという。

 

 

「そうだ。 紋様とキャップ、デュエットしてみては」

 

「面白そうだなー! やるか?」

 

「うむ! カラオケは楽しまねばな!」

 

 

大和の提案に翔一は乗ってくれた。しかしそこには楽しそうな顔ともう一つ、軍師としての顔を読み取ってくれたからだ。

翔一は直江大和との最初の友達。意思疎通は完璧だった。しかし自分が楽しんでやっている辺りはさすがだった。

 

 

(京、これを)

 

(ラブレター?)

 

(違う今回の指令書だ)

 

 

大和はメモを後ろ手で渡した。

彼の小声による指示やメモの渡し方から何かあると悟り、なるべく歌っている二人には見えないようにしてメモを確認した。

そこには今回の作戦の意図が書かれている。

 

 

(なるほどね)

 

(これを紋様には見せないようにキャップとモロ、まゆっちにも伝えてくれ)

 

(了解)

 

 

紋白にこれを知られてしまってはいけない。

そうなれば彼女は責任を感じ、今回のカラオケを楽しめなくなってしまう。紋白の苦手意識を取り除くだけではいけない。

誰か一人、楽しくないカラオケにしてはいけないのだ。

 

 

「うっひょー! 86点! さすがだなー!」

 

「うむ! お前の歌声も中々に良かったぞ!」

 

「んじゃ次は大和だ! 俺と紋白の点数を超えられるか~?」

 

「面白い! その挑戦受けて立つ!! 紋様、見ていてください!」

 

 

大和が態々紋白をご指名した。

これには実際にいいところを見せたいと思う部分と紋白の眼をひきつけ、その間にメモを三人の目に通させるという狙いがあった。

狙い通り、彼女の視線はずっと大和に釘付けだった。

 

 

(ふむ、つまり今回のミッションは「紋白と全員が仲良くなること」と「全員楽しむ」だな)

 

(うん。 だから三人とも。 大和の指示を聞きつつ楽しんで)

 

(分かったよ)

 

(はい。 楽しく、皆が仲良くなれるカラオケにしてみます!)

(まゆっち、オラ達の美声で世界を平和にして見せようZE☆)

 

 

京が分かりやすく伝えてくれたようだ。

そして証拠隠滅のためにメモを京が食べてしまう。

手書きメモを美味しそうに食す彼女に大和は一抹の不安を覚えた。

 

 

「どれどれ~……ぬ、78点か……」

 

「はい大和罰ゲーム! 紋白を笑わせる一言を言え!」

 

「島津岳人は聖夜の詐欺師です」

 

「フハハハ! 何だそれはとても興味があるぞ!」

 

 

因みにこの罰ゲームは点数勝負に負けた時に発生する彼らのローカルルールだったりする。

 

 

「モロ、次はお前が歌うか?」

 

「え? ぼ、僕?」

 

 

大和が卓也にマイクを渡した。

折角のカラオケ、歌わないのは損だ。自身の歌の下手さを知っている卓也は少々遠慮気味だが、たまにはいいかとマイクを手に取る。

 

 

「とは言えただ歌うのは面白くないな~……そうだ京、まゆっち!」

 

「合点承知」

「モロさん、失礼します」

 

「え? え?」

 

 

キャップの指示で京と由紀江が、卓也の左右を取る。

そしてあっという間に部屋の外に拉致ってしまった。が、戻ってくるのはその3分後だった。

 

 

「キューピー京とまゆっちの3分メイキングです」

 

「モロさん、どうぞ~」

『今のアンタ……アイドルの頂を目指せるよ……』

 

 

二人と一個は部屋に戻ってくるなりそう告げる。

卓也は何故か入りたがらない様子。その背中を押したのは部屋の外で待機しているヒュームだった。

彼が押し出したことで卓也は部屋に入ってくる。

 

 

「うぅ……酷いよ二人とも……トイレに押し込んだと思ったら女装なんて……」

 

 

師岡卓也(旧)は師岡卓代(真)という女装姿になっていた。

彼の女装は異常なほど可愛らしく、岳人や育郎でさえ眼がいってしまうほどだ。しかも京や由紀江によるメイクも完璧で大和も唸ってしまう。

 

 

「おおお………」

 

「お願い! 今の僕を見ないで!」

 

 

その美貌は紋白ですら唸ってしまうほどだった。

顔を手で埋めてなるべく晒さない様にしている卓代。そんな彼に翔一は、肩に優しく手を置くと。

 

 

「はいマイク」

 

「鬼かアンタらは!」

 

 

歌わせるのだった。

その後卓代はヤケクソ気味に歌ったが妙に涙声だったという。

 

 

「そうだ。 京、ちょっと向こうでクリスと替わってきて」

 

「うん。 じゃ行ってくる」

 

 

ここで既に歌い終わっている京とクリスがチェンジをするように指示した。

メンバーチェンジに紋白は少々不安そうだ。

いずれこのままだと一子や百代が来てしまうのではないのかと。無論最終的にはそうなるが、それまでに柔らかくさせる。

 

 

「騎士クリス、推参!」

 

「よしクリス、参上ついでに一曲どうぞ」

 

「任せろ! 『愛で斬るならいたくな~い』、まゆっちも一緒に歌おう!」

 

「は、はい!」

『世界の平和を願う歌の女王まゆっちに乞うご期待!』

 

 

大和からマイクを受け取り、クリスと由紀江が歌い始めた。

因みに彼女は女装した卓也改め卓代には一切突っ込みはしなかった。

 

 

「ほうほう。 クリスに中々上手いでは無いか! 黛はちと苦しそうであったが」

 

「ふふん。 そうだろうそうだろう~!」

 

「っと。 今度は俺とガクトがチェンジしてくるよ。 キャップ、任せた」

 

「任されろ!」

 

 

暫くクリスが歌ったところで今度は大和自身が燕の部屋に行くことに。

またこの部屋に舞い戻ると岳人がその意思を察したらしく、彼と替わるようにして紋白の部屋へと向かう。

 

 

「どう? 大和君」

 

「モロの女装作戦が見事に炸裂して紋様はハイ状態です」

 

「いいなー私もそれ見てみた~い」

 

「では後で卓代ちゃんをこっちに寄越しましょう」

 

 

燕も女装には興味があったらしい。

それに賛同した大和もクックックと黒く笑う。それにあわせて燕も不適に微笑む。

さながらドSコンビとも言うべきか。

 

 

「あっ、やーまと! 一緒に歌いましょ!」

 

「いいだろうワン子。 あれか、“せいぶつがかり”行ってみるか?」

 

「おっけー! 足引っ張らないでよー!」

 

 

部屋に入るなり一子がデュエットを要求してきた。

『せいぶつがかり』は彼女の好きなアーティストだがどうやら大和と一緒に歌いたかったらしく嬉しそうだ。

この時、一子は本日最高得点の95点を叩き出せた。

 

 

「やったー!」

 

「おうやったな! っと京、今度は向こうで卓代ちゃんとチェンジで」

 

「アイ・サー」

 

 

再び京をあの部屋に戻し、燕のご希望通りに卓代を寄越す。

おずおずとしながら部屋に入る卓代に、燕も目を見張った。

 

 

「ほ~ん……ふむふむ……へぇぇぇ」

 

「大和! 僕今凄く死にたい!」

 

「その憤り、歌でぶつけると吉」

 

「やっぱそうなるのね!」

 

 

嘗め回すような燕の視線に卓代は耐え切れなかったようだ。

追い討ちを書けるような大和のマイクに、泣きながら卓代は歌う。

彼女(?)が歌ったその時、誰もが喉を鳴らしたという。

 

 

(よし、このタイミングだな………)

 

 

喉を鳴らした、という事はそろそろ喉が渇いてくる頃。

ドリンクバーを使って渇きを潤すという手もあったが軍師はここで盛り上げるため、そして紋白のために次なる策を発動させる。

部屋に設置されている内線の電話を取った。

 

 

『はい、ご注文はいかがいたしましょう?』

 

「川神水を5つ」

 

『畏まりました。 少々お待ちください』

 

 

川神水とは弁慶も愛用する水。

多馬川の源流に沸く水で、成分こそは普通の水だが飲めば酒と同じように酔える。

未成年のカラオケを盛り上げるには最適の飲み物だ。

 

 

「川神水を頼んだのか?」

 

「うん。 これから京を介して向こうに同じ物を頼ませる」

 

「なるほど。 紋白ちゃん達を酔わせて気分を良くさせるわけね」

 

「はい、それにこれなら本音も出せるでしょうし」

 

 

百代や燕も納得した。酒は場を盛り上げるために人々に愛飲される。

川神水は未成年のための代替品。そして胸のうちに抱えた物を一度放出させればきっと今までのような嫌悪感も無くせるはず。

大和はそう考え、携帯電話で京に川神水、もしくはそれを使った飲み物を頼むよう指令を出した。

 

 

「だから姉さん達もべろんべろんはまずいけどある程度酔ってね」

 

「はは! いいだろう、酔えば楽しいしな!」

 

「……モモちゃんの場合親父臭くなりそうなんだけど」

 

 

部屋に運ばれた川神水を、百代はグイッと流し込んだ。

少々不安がりながらも燕も、そして一子達も口にする。

 

 

「ねーねー大和。 アタシ達はいつ行けばいいの?」

 

「俺がこれからキャップと交代してくる。 そして紋様達の酔い具合をみて呼び出す」

 

「シャーラッ!(了解)」

 

 

一子は軍師の指令を受け、いつでもいけるよう万全の準備を整えておく。

本来健康を気遣い、川神水は余り摂取しない一子であったが今回は状況が状況。思いっきり口にする。

これで彼女の理性がある程度解れるだろうと大和は踏み、部屋を出た。

 

 

「どうもー。 ってコトで今度はキャップが向こう行ってくれ」

 

「おっしゃぁ!! いってくるぜぇーっ!!!」

 

 

部屋に入ると各々のグラスが空になっていた。京は大和の指示通り、川神水を使ったノンアルコールカクテルで面々を酔わせたらしい。

川神水が入ってハイになっている翔一は元気一杯に飛び出していった。

 

 

「風間は元気だな~……」

 

「紋様、少し酔いが?」

 

「うむ……余りこういうのを口にし過ぎるのは良くないと思っていたのでな……」

 

「ですけど今日は折角のカラオケ。 それにこれは水なので二日酔いはありませんから」

 

 

気になる紋白の顔は少し赤かった。彼女の目の前のグラスが空になっていることから一気に飲んだらしい。

上に立つものとして酒の味や雰囲気を知っておきたかったようだ。

ただ多少耐性はあるらしく、このままでは百代達を招いても空気が凍りつく可能性があると察し、川神水の瓶を薦めた。

 

 

「そうであるな……よし、とことん飲もう! いざとなれば即効性のある酔い覚ましがあるしな」

 

 

紋白も大和の説得に応じ、川神水を飲み始める。

後は酔いが回ってくるのを待つだけだ。因みに今歌っているのは由紀江。彼女はお酒の体勢があるらしく、一切酔っていなかった。

 

 

「うはははははは(ぐびぐび)」

 

「あーもう……零してるじゃない……」

 

 

一方、クリスはぶっ壊れていた。そんな彼女を京がフォローしているが彼女の頬も赤い。

 

 

「いいぞまゆっちー! 次は俺様の“マッスルマン”、得とご清聴あれ!!」

 

「うはははは! ガクトー! 脱げー!!」

 

 

岳人も川神水の影響で気分が向上しているらしい。そしてそんな彼をクリスが煽っている。

この場で正常に機能しているのは大和と由紀江、そして京だろう。

 

 

「ふ……ぅぅ……気持ちよくなってきたぞぉ~大和~~~」

 

(よし、紋様は度重なるエンターテイメントと酔いで理性が緩くなっている!)

 

 

とうとう紋白も酔いが回ってきたようだ。

その白い肌を赤らめ、身体をふわふわさせている。これ以上飲ませるとさすがに悪酔いして台無し、何て事になりかねないので川神水はここで一旦打ち切ることにする。

 

 

(まゆっち、ここでワン子と交代。 ワン子が余り酔っていなかったら姉さんを)

 

(了解しました)

 

 

小声で由紀江に指示した。聞こえるように言わなかったのは紋白に聞こえないようにするためである。

サプライズとして登場させた方が、効果があると踏んだのだ。

これから登場する人物を予告しておいては紋白も覚悟を決め、折角の酔いも空しく精神を暗くさせてしまうだろう。

 

 

「はいはーい!! 川神一子、さんじょ~~~~う!!」

 

「む~……川神一子か~~~~」

 

 

彼女が苦手とする人物一人目の来訪だ。

ここが正念場と大和は息を呑んだ。いざとなれば場を暗くさせないようありとあらゆるフォローに回るつもりだ。

その間、歌は酔いの勢いに任せたクリスが歌っている。

 

 

「ねぇーねぇーどーしてそんなにアタシが苦手なのー?」

 

「お前兄上の告白を中々受け取らないからでは無いかー!!」

 

「ブはっ!?」

 

 

余りのストレートにさすがの大和も計算外だった。

川神水の力と場の雰囲気でなるべく本音をバーストさせるつもりだったが、開幕ぶっぱしてくるとは思わなかった。

 

 

「ゴメンね~。 でも九鬼クンには好きって感情が沸かなくて~~~………」

 

「なら誰が好きだというのかー! 教えろー!!」

 

 

もう暴走状態だ。これには大和も固唾を呑んで見守っている。

いざとなれば身体を張ってでも空気が悪くなるのを防ぐしかない。一発芸として仕込んであった手品やファミリーでも面白い逸話などを用意していた。

 

 

「誰って……んも~~~それをアタシに言わせる気ぃ~~~!?」

 

「まさか……お前……!?」

 

「何~~~……まさか紋白までぇ~~~?」

 

 

いつの間にか流れは恋バナに移行している。

そして話の流れからどうやら彼女達の好意を寄せている人物は被っているらしい。

最も紋白のそれはまだ発展したものではないが。

 

 

「だから……ゴメンねとしかいいようがないの~~……」

 

「むぅ……兄上だってイイオトコなのだが……そうか………」

 

 

だが徐々に舵が切られているようだった。いい方向に。

彼女の心持に紋白が同調し始めたのだ。同調するという事はある程度納得してくれているという事。

軍師大和はこの一瞬を見逃すわけには行かなかった。

 

 

「ねぇ、折角だからワン子と紋様のデュエットが聞きたいな。 なぁみんな!」

 

「うんうん」

 

「うはははは! 歌えー! 踊れー!(暴走)」

 

「ワン子、紋白! 男同士……じゃなくて女同士、ここはガツンとぶつかれぇ!!」

 

 

大和がデュエットを求めたのだ。

ここで意見もとい互いの気持ちを交換させるための、カラオケならではの手段だ。

仲間達もそんな彼の狙いを理解し(クリスは暴走しているだけだが)、乗ってくれた。

 

 

「よーし! 紋白、私とのデュエットついてこられる~~~?」

 

「ふ……フハ、フハハハ! 我を舐めるでないわ! お前こそ足を引っ張るでないぞ!」

 

 

さながらいつもライバル関係にある一子とクリスに近い構図だった。

衝突から生まれる友情もある――――あの二人を間近で見ていた大和はそれを実感している。

実際、彼女達のデュエットは互いの前口上に反して素晴らしいものだった。

どこか共通した物を持つもの同士だからこそ出来る、魅惑のコンビネーションだった。

 

 

「ヒューヒュー! よかったぜー!!」

 

「ワン子の威勢のいい歌声に紋白がしっかりと絡めていた。 いいデュエット」

 

「いいぞいいぞよきにはからえー! (暴走)」

 

 

そろそろ残念騎士を止めなければと大和は懸念した。

 

 

「……いい、歌であったぞ。 川神一子」

 

「アタシも! 今度歌で勝負しましょ!」

 

「……ああ! 我はあらゆるジャンルでも負けはしないぞ! フハハハハ!」

 

 

どうやら分かり合えたようだ。

一時はどうなるかと肝を冷やしたが、一子の勝気な性格と紋白の相手を受け止める度胸が齎した結果だ。

川神一子はこれからも九鬼英雄からの告白を断るだろう。でも、紋白も理解してくれた気はする。少なくとも今までとは違った見方になるはずだ。

 

 

(ガクト! このまま流れに乗る! 姉さんを連れてきてくれ!)

 

(真打登場ってわけだな! 健闘を祈ってるぜ!)

 

(任せろ! 紋様と姉さんを仲良くさせて、最高に楽しいカラオケにしてみせる!)

 

 

岳人も残る百代との仲がどうなるか、心配してくれている。

仲間が例え一人だけであろうとも馴染めていないなんてことは望まない。百代のため、仲間のため、そして紋白のため。大和は全力で頷く。

岳人は親指を立てて部屋を出る。数秒後に、ラスボスは来た。

 

 

「うっひょー! ここにもいるなぁー! 酔いで顔を赤らめた美少女の監禁部屋!」

 

「何て卑猥なことこの上ない発言を!?」

 

 

百代もテンションが高まっていた。

大和の指示通り、川神水を飲みに飲んで酔ってくれているのだろう。だからとは言えこの発言はエロ親父全開である。

 

 

「モンチッチー。 お前もかーわゆいぞ~」

 

(ちょっと姉さん! いきなりお触りは刺激が強い!)

 

 

大和がいきなり抱きつこうとする百代を止めにかかった。

先程の一子との急接近は彼女の性格あってこそだ。だが百代は一子と性格が違う。故に違った接し方が求められる。

 

 

(姉さん、ここは打ち合わせどおりに)

 

(任せろ。 というか、ここはお前よりも私が適任だ)

 

 

ある程度の流れは作っている。しかし、大和はその具体的な完成図がまだ出来上がっていない。

全ては百代次第。彼女は説得に関してはなるべく自分の手で行いたいと申していた。

『姉として』という彼女の意見を信じ、大和も最低限のフォローに回る覚悟を決めた。

 

 

「今度は……川神百代か………」

 

「そうだ。 お前のお姉さんを倒した女だ」

 

 

すると今度はそんな発言をした。

京や一子も一体どうなってしまうのか、全く予想できない。

 

 

「!」

 

「モンチッチ。 私を好まなく思わないのは知っているぞ」

 

「……うむ」

 

「でもな。 私はお前を嫌っていない。 嫌いたくない」

 

 

百代は彼女のグラスに川神水を注いだ。

対する自分のコップにも豪快に注ぎ、そして飲み干す。

 

 

「だって………お前はこんなに可愛いじゃないか~~~」

 

「ちょ……?!」

 

 

そしてとうとう我慢し切れなかったかのように抱きついた。

部屋の外にいるヒュームやクラウディオ達の動向が怖かったのだが、そこは部屋の外に待機していてくれている由紀江と燕が止めてくれている。

大和の指示が役に立ったようだ。

 

 

(な、なんだ……この、懐かしい感覚は……)

 

「自分の愛するものを倒したものが憎い。 それは間違っていない」

 

 

紋白は不思議な事に抱き疲れても不快感は無かった。

川神水の力もあるのかもしれないが、それにしては妙な事に「懐かしさ」を覚えている。

 

 

「でも私だって揚羽さんが大好きなんだよ。 そしてその揚羽さんが大好きなお前も」

 

(大……好き………? 今まで嫌っていた……我を………?)

 

 

紋白は信じられなかった。というよりも全く経験したことの無い角度からの意見を出された。

これでも彼女は18歳以上。これだけ生きていれば敵として出会った面々は数多く存在する。故に余り好ましく思わないこともあった。

だが、この川神百代は違う。全てを包み込んでくるような優しさがある。

 

 

「だからさ、私は仲良くなりたい。 このカラオケはそのための時間だと思う」

 

 

百代はここで大和からマイクを手渡された。しかも紋白を抱いたまま。

舎弟として、姉のやることを理解した大和は既に彼女が歌いたかった曲をかけている。

発音の綺麗な百代の声が、このカラオケボックス内を満たした。

とても優しく、そして懐かしい感覚が紋白の身体を満たす。その時、彼女の姿が一瞬だけ姉の揚羽と重なった。

 

 

(姉上……?)

 

 

その時、紋白は理解した。何故、こんなに優しく聞こえるのか。どうして懐かしさを覚えるのかと。

 

 

 

 

(そうか………川神百代は、姉上になりきってくれていたのだな)

 

 

 

 

同じ武闘家として、同じ『姉』として。

川神百代は九鬼揚羽を理解している。そして揚羽も同じ観点から百代を理解してくれている。

だから紋白は不快感を抱かなかった。寧ろ安心感を覚えたのだ。

大和のアドバイスがあったとはいえ、これは九鬼揚羽を知っている百代だからこそ出来た行為だ。

 

 

(……百代は姉上を理解してくれている。 それに比べたら我は……)

 

 

紋白は今までの自分を振り返る。

とてもとても小さく感じてしまう。が、百代はそんな彼女を優しく下ろし、マイクを握らせる。

 

 

「ホラホラこの歌はデュエット曲なんだぞ? それとももううバテたか?」

 

 

百代は「歌おう」と言ってくれているようなものだ。

このカラオケの時間に、そんな辛気臭い顔はさせないために。

全く気にしている素振りを見せてこない百代に、紋白は眼を伏せた。まるで諦めがついたかのような、そんなため息と共に。

 

 

 

 

 

「……いいだろう! 我の足を引っ張るでないぞ!!」

 

「ははっ、いいぞその意気だ!」

 

 

 

 

 

その時、紋白の顔は最高に楽しそうだったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありゃりゃ。 もう8時近くだよ」

 

「楽しい時はあっという間に過ぎていくものだな……」

 

 

一通り歌いきった時には辺りはもう真っ暗だった。

あの後紋白と打ち解けることが出来たために大和が「遠慮なし」とのメールで一気にフィーバーしたのだった。

 

 

(欲を言えば今日大和君を一日私の傍に置いとくつもりだったんだけど……ま、いっか)

 

 

少なくとも今日は紋白がとても楽しい一日を過ごせた。

大きな収穫だと燕は納得する。

 

 

「じゃ皆、私そろそろ行くね。 ナットウ!!」

 

「あぁっ! 燕先輩ー! 俺様とメアド交換を………!!」

 

 

結局岳人はお気に召されることは無かったようだ。

因みにこの日、女性陣全員は紋白や燕とメアド交換が出来ていたのだった。

そして大和は既に燕と紋白のアドレスを入手済みである。

 

 

「紋様。 そろそろ戻りましょう。 夜のお稽古も入っております」

 

「そうであったなクラウ爺。 でもちょっとだけ待ってくれ」

 

 

九鬼家の娘ともなればさすがに夜も忙しいようだ。それとも昼遊んだ分だけ頑張るのか。

色々気になるところではあったが紋白はこちらに振り返る。

しっかりと“全員”に見向けて、本日一番の眩しい笑顔を送る。

 

 

「……またなー!!」

 

 

可愛らしく手を振ってくる。井上準辺りが見たら卒倒しそうだ。

大和達も微笑ましく腕を振り返した。無論、百代と一子も。

しっかりと別れの挨拶をした紋白は上機嫌に待たされていたリムジンに乗り込み、去っていくのだった。

 

 

「…………」

 

「で、何でまだいるんですかヒュームさん」

 

 

その中でも何故かヒュームは残っていた。

てっきりあのリムジンの中に乗っているのもだと思っていたのだ。

 

 

「紋様の川神姉妹への苦手意識……0になったとは言いがたい」

 

「でしょうね」

 

「だが……その敵対心はいい意味に切り替わったとも言える。 少なくとも、今の紋様は二人に友好的に接することが出来る」

 

 

従者として嬉しいのかヒュームは少し晴れやかな顔をしている。

いつも厳つい不良老人の意外な一面に一同は驚く。

 

 

「従者として俺から一応礼は言っておいてやろう。 が、これで調子に乗らないことだな」

 

「厳しいですね……」

 

「謙虚なのも鼻につくがな。 まぁいい。 俺からすればお前は出来る赤子だ、誇れ」

 

 

それだけをいい、ヒュームは一瞬にして消えた。

百代と由紀江曰く「物凄く早く移動しただけ」らしいが、それだけを考えても恐ろしい存在だ。

そして賛辞とは言いがたい微妙に棘のある言葉を大和は受け取るのだった。

 

 

「……にしても今回のカラオケ、色んな意味でドキドキしたわね~」

 

「ああ。 そういう意味では大和に感謝しなくちゃな」

 

「はい、大和さんのおかげで松永先輩や紋ちゃんと番号も交換できましたし!」

『やったねまゆっち! これでまゆっちの計画達成まで後90人を切ったよ!』

 

「手の掛かる後輩を持つと大変だね、大和」

 

 

女性陣からは大和を賞賛する声が惜しみなく飛んで来た。

実際彼がいなければ今日のカラオケは紋白と険悪なまま終了していただろう。それを楽しく、尚且つ紋白と仲良く出来たことを祝う。

 

 

「……すまない。 自分酔い覚ましの薬を受け取ってから全然記憶が無いのだが……」

 

 

一方本日飲みに飲みまくって暴走したクリスは今までの出来事がおぼろげにしか覚えていなかった。

 

 

「ま、何はともあれ終わりよければ全てよし! 良かったじゃねぇか」

 

「そうだな! まだモロが女の子だもんな!」

 

「それで“良し”なの!? ガクトはそれでいいの!?」

 

 

男性陣も和やかに終わったことを喜んでいた。

そして岳人は卓也に対する目線が非常に怪しくなっている。

京はそんな彼らに対しまるでご馳走を眼にしたかのよう息を荒くしていた。

 

 

「やれやれ……ま、いつも通りの俺らで良かったよ、ホント」

 

 

本日一番の功労者といえる軍師は肩の荷を降ろし、その場に座り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フフ………」

 

「紋様。 本日のカラオケ、相当お楽しみいただけたようですね」

 

「ああ! 本当に楽しかったぞ!」

 

 

リムジンの中、紋白は嬉しさに震えていた。

コミュニケーション力もある彼女は友人作りには不自由していない。が、ここまで楽しく他人と遊んだ経験は無い。

しかも、苦手としていた川神姉妹に対してもだ。

 

 

「……クラウ爺、これも大和のおかげだろうか?」

 

「はい。 あの方は紋様のため、そして仲間のために皆が楽しめるよう取り計らっておりました」

 

「やはりそうか……フフッ! 大和……ありがとうな……」

 

 

カラオケは成功したのでクラウディオも詳細を明かす。

この件に関し最も動いてくれたのはやはりこの男、直江大和。彼の顔を思い浮かべると紋白の顔は更に綻んだ。

 

 

「でな、クラウ爺。 大和についてなのだが……」

 

「はい。 どうやらライバルが多数いらっしゃる模様で……」

 

「熾烈な戦いになるな」

 

「ええ、競争倍率は東大よりも高いかもしれません」

 

「今回のそのギャグは色んな意味で笑えないぞ……」

 

 

ここにまた一つ、フラグを立てる軍師。 真剣(マジ)いい加減にしろ。

 

 

 

 

 

続く




というワケで今日は燕と紋様……というより紋様中心のカラオケ話でした。
私は昔はカラオケあんまり好きではなかったのですが最近になって大好きになってきました。
レミオロメンとかBOMP OF CHIKINとかを中心に。で、カラオケに行くことであんまり仲が良くなかった人と仲良くなった経験があるので今回はそんな実話を元にしてみました。
さて次回からはワン子こと一子が主役のお話になると思います。次回をお楽しみに!
そして感想お待ちしております!
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