真剣で私に恋しなさい!X   作:テンペスト

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一子編
第六話 想い ~川神一子~


貴方は私と深く接してくれた。

 

 

孤児院の出だった私を仲間に入れてくれて。実際手を差し伸べてくれたのはキャップだったけど、その後貴方は私のために色々なことをしてくれた。

 

 

初めて遊んでくれたり、初めて買い物と付き合ってくれたり、初めてプレゼントをくれたり。

 

 

今では貴方が私の主導権をほぼ握っちゃってるけど、でもそれも貴方の優しさなんだなって気づいた。

 

 

実際、貴方のおかげで私いろんなことができちゃった。

 

 

九九や買い物の仕方にゲームの遊び方……色んなことを。

 

 

時々意地悪もするけど、貴方は私を可愛がってくれる。どんな時でも私を見捨てないでくれる。

 

 

いつの日か、迷子になった時真っ先に見つけてくれた。その時に思ったんだ、頼れる人だって。

 

 

特訓だって付き合ってくれる。時に励ましてくれる。貴方の言葉と仕草と、笑顔に。

 

 

確かにお姉さまのために師範代になりたいけれど、でも貴方のことはトクベツ。

 

 

貴方を見ると、頑張れるの。

 

 

 

だから……見ていて、大和。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほらワン子。 ここの問題はこの公式を使うんだよ」

 

「うー……」

 

 

川神一子は現在、幼馴染による勉強会に引き込まれていた。

明日テストが行われるためである。この時期、最も危機に追い込まれる知人といえば真っ先に彼女と岳人が思い浮かばれる。

岳人の方は問題集を贈ってあるのでどうにかなるだろうが彼女の方はそうもいかない。

 

 

「デキナイト、ドウナルカ………ケタケタケタケタケタ」

 

「ひいぃぃぃぃ」

 

 

大和のドSな笑い声に背筋を凍らせる。

彼に逆らえない理由の一つがこの恐ろしさ。どうやら元賊の頭だった母親の影響らしい。

しかし風間ファミリーの中で勉強を効率よく教えられる存在は大和のみ。そのため、一子は昔から大和に助けて貰っていた。

 

 

「……や、大和ぉ。 ここはどうするの?」

 

「あーこれか。 これは連立方程式を立ててだな……」

 

 

大和も、そんな彼女を(時には断るが)助けている。

教育方針として甘やかすのは良くないとは知りつつも、結果として最も甘やかしているのがこの大和。

だからこそ、一子は最も彼になついている。

そんな彼が一緒だからこそ、一子は苦手な勉強も集中して取り組んでいる。

 

 

「ここまでが基礎だ。 応用の問題作っておいたからこれを解いてみろ」

 

「オス!」

 

 

大和がコネを利用して集めたテストの出題範囲を纏めた問題を取り出す。

人脈構成を得意とする彼ならではの荒業とも言える。彼のこのお家芸には一子も幾度と無く救われてきた。

きっと、彼がいなければ今この場に自分はいなかっただろう。

そんな考えが一瞬過ぎったが、すぐに切り替えて問題に集中する。

 

 

「……よし出来てるな。 明日休み時間中にミニテスト渡すからそれで乗り越えろ」

 

「うん! ありがとう大和!」

 

 

天真爛漫、そうとしか言いようが無い至高の笑顔を大和に向ける。

これは九鬼英雄が惚れるのも無理も無い。

大和はそんな彼女の頭を撫でてやる。すると一子は気持ちよさそうに目を細めた。

 

 

『直江、ちょっといいか』

 

「お、ゲンさん。 パスワードを」

 

『YADOKARI』

 

「態々俺の愛するものをパスワードにしてくれるゲンさんステキ! ってことでどうぞ」

 

 

扉の向こうから忠勝の声が聞こえた。

許可を出すと忠勝がお盆を持ってきている。その上には美味しそうなケーキと紅茶が並べられていた。

 

 

「勉強終わったのか一子」

 

「うん! 大和のおかげでバッチリ!」

 

「明日になったらもう忘れてる、なんてことが無いように明日も問題を渡すけどね」

 

 

源忠勝は、彼女を気にかけることが多い。

元々同じ孤児院の出だから、と本人は言う。一子もまたそんな彼を兄としてみていた。

 

 

「ま、一子見てくれてありがとよ。 礼といっちゃ何だがケーキだ。 食え」

 

「ありがとうゲンさーん!!」

 

「抱きつくなコラ!」

 

 

休憩用の差し入れなのか、ケーキを渡してくれる。更には特性の紅茶もプラスされていた。

彼はこうして理由をつけては大和達にケーキを差し入れてくれるいい人。

不良を気取ってはいるが、内心一子の面倒を見てくれる大和に感謝していることは誰もが知っている。

 

 

「で、明日赤点は乗り越えられそうなのか」

 

「うん。 解答用紙を見ても寧ろ最高得点すら叩き出せそうな気がする」

 

「大和のおかげで修行時間も割かれない勉強方法を教えてくれるし、本当にありがとう!」

 

 

忠勝も一子の勉強の出来なさは心配していた。

その憂いも大和が晴らしてくれる。

しかも今の彼女の生きがいの一つとなっている、川神院師範代になるための修行を邪魔することも無い方法を採ってくれる。

感謝と嬉しさの意を込めて大和の膝に飛び乗った。

 

 

「……………」

 

 

そんな彼女を、切なそうに見つめている忠勝。

しかしすぐに笑顔を向けていた。

 

 

「タッちゃんもありがとね! ケーキとか」

 

「俺ぁいいんだよ。 こういうことしか……してねぇからな」

 

「そんなことないよ! ゲンさん漢だよ!」

 

「何でテメェが一番励ますのかね……まぁいいや、ありがとよ」

 

 

少し自嘲気味になる忠勝。しかし彼の漢っぷりは同じ漢である大和が良く知っている。

無論一子も彼と合わせて頷いた。

少々複雑ではあるものの、元気を分けて貰った忠勝の顔から自嘲の色が消えた。

ケーキも食べ終え、少し話し込んでいると日が傾いていた。

 

 

「もうこんな時間か。 折角だしどっか食べに行こう」

 

「いいわね! 行こうタッちゃん!」

 

「俺は別に―――――」

 

 

断る姿勢を見せようとした忠勝。しかし彼と友達になりたい大和は親密さを深めるべく、彼を逃がすわけには行かなかった。

今日は夜勤が入っていないことは既にヒゲ先生こと巨人に確認済み。

愛用の携帯電話を取り出し、凄まじい速さで一斉にメール送信。

 

 

「何々ー!? ゲンさんと一緒にメシ食えるってー!?」

 

「大和に呼ばれてきたが……犬はともかく源殿もセットとは珍しい。 当然行くぞ!」

 

「クク。 大和と一緒ならドコヘデモ………」

 

「わ、私もご一緒しますぅ!」

『ゲンさんとより仲良くなれるかもよ頑張るんだぜまゆっちー! 特に大和坊ともなー』

 

 

この寮に住む風間ファミリーが一斉に駆け寄ってきた。

特にキャップこと翔一は忠勝に懐いている人物の一人でもあるため嬉しそうだ。

最も彼の人のよさは既に周知のことなので誰一人彼と一緒に外食することに反対していない。寧ろ期待していた。

 

 

「ゲーンさん?」

 

「テメェ策士だな。 人海戦術で退路を断つとは……ま、断る理由もねぇしいいけどよ」

 

「「「やったー! タッちゃんと一緒にご飯だー!!」」」

 

「一子はともかく直江、風間! 嬉しそうにはしゃぐな! 後タッちゃんって言うんじゃねぇ!」

 

 

ソバットを噛まされた。彼の得意技だ。

だがそんな容赦なく突っ込んできてくれる辺りも大和が懐く要因の一つだ。真剣に付き合える人物は遠慮がないことが大前提だから。

 

 

「そう言えば犬。 大和から勉強を教わっていたそうだが大丈夫なのか?」

 

「うん! 大和のおかげでどんな問題もカモンジョイナス!」

 

「おおお! ワン子がインテリぶって英語使い始めた! これも大和の教育がなせる業だな」

 

 

自信満々そうなオーラが一子の周りから溢れている。

翔一でさえ中々見ぬこのインテリさに本気で関心を抱いた。

 

 

「やーまと! これからもジャンジャン教えてね!」

 

「甘えるんじゃありません! (デコピン)」

 

「ギャー!!」

 

 

厳しい教育方針を採る京は甘えた考えを持つ彼女の額に痛い一撃を見舞った。

それでも結局甘やかしてしまうのが風間ファミリー。否、一子のなせる業。

 

 

「ま、いいさ。 ワン子は俺がちゃんと見てやらなきゃな」

 

「うわーい! ありがとう大和!!」

 

 

この通り結局大和も彼女のペースに飲まれてしまうのだった。

そんな事を笑いあいながら食事に向かう面々であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……珍しいな鉄心。 お前の方から俺を呼び寄せるとは」

 

「すまんのう。 正直、猫の手を借りたいと思っての」

 

「本当ならこれは身内……川神院で解決しなきゃいけないことですけどネ」

 

 

その頃、とあるバーにて二人の老人と青年が座っていた。

川神鉄心とルー・イー、そして九鬼家従者部隊序列零番にして元鉄心のライバルであったヒューム・ヘルシングだ。

彼らの目の前にあるのは空になったグラス。本来なら酔いやすいルーも今回に限ってはそれも忘れるほど真剣な話題だ。

 

 

「俺に相談……つまり武道家として、それも厳しい意見を貰いたいのか?」

 

「そうじゃ」

 

「ふん、俺のライバルともあろうものが赤子のようなことをするものだな」

 

「耳が痛いわい」

 

 

ハッキリと言い放った。

生ける武神として、川神院総代として。門下生には常に厳しく接してきた鉄心。

そんな彼が動揺をきたすほど悩んでいる。しかも嘗てのライバルに助言を乞うほどに。

 

 

「川神一子は知っておるかの?」

 

「ああ。 川神百代の妹分だな……あれがどうした」

 

「現役を名乗っている貴方から見て、彼女のこと“武道家”としてどう見ますカ?」

 

 

ふむ、とヒュームは唸る。

一子は門下生であると同時に身内だった。川神院が彼女を引き取った際に武道は強制しなかった。普通の家族でもいいと思っていた。

しかし一子は姉に憧れ、強くなろうとしている。補佐である師範代になることでそれを実現させようとしている。

そんな彼女の話題だからこそ、鉄心は悩んでいるのだ。

厳しいながらも他人の心を汲むことが出来るヒュームは一子のことを思い出し、そして告げる。

 

 

 

 

 

「武道の才能はない。 ……にも関わらずあそこまで鍛え上げた努力は見事だが」

 

 

 

 

 

冷酷に、迷い無く言い切った。

 

 

「彼女の夢は川神院師範代だったな」

 

「そうじゃ……じゃがワシの目から見ても」

 

「私や元師範代になりますが……釈迦堂も同じ意見デス」

 

 

二人とも既に同じ結論に達していた。

恐らくは、姉である百代がそれを一番理解しているはず。だからこそ、ヒュームは遠慮しない。してはいけない。

 

 

 

 

 

「師範代など無理だな。 無い夢を追わせ続けるのは赤子のすることだ」

 

 

 

 

 

―――――いつか訪れる、残酷な現実。

 

 

続く




今回から一子編になります。
実は私自身まじこいの中ではワン子とまゆっちが大のお気に入りでこの二人は後に取っておこうかなぁと思ったのですがこの後の展開を考えワン子にトップバッターを任せました。切り込み隊長だしね。
何やら終盤から雲行きが怪しくなってきましたが一体どうなるのか。お楽しみに。
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