真剣で私に恋しなさい!X   作:テンペスト

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第七話 一子の一日

時を刻む針が動く。

その微かな音がこの大和の部屋に響き渡っていた。それすらうるさく聞こえ、大和は起き上がる。

時計を見てみるとまだ5時を差している。

 

 

「……そっか。 昨日ワン子の勉強に付き合って疲れたから早めに寝たんだっけ……」

 

 

後頭部を掻きながら起き上がる。

もう体の中に眠気は残っていない。今からダラダラとする生活というのは大和自身が好まなかった。

彼だって武士娘ほどではないが、健康に気を遣う程度のトレーニングはする。

なのでここは早朝の散歩でもしようかと着替え、外に出る。

 

 

「おや大和ちゃんおはよう」

 

「眼福。 朝一に大和撫子に会えるとは」

 

「もう大和ちゃんったら褒め上手だねぇ~! 今日の目玉焼き、一個追加するよ!」

 

 

早々に出会ったのは和服を来た恰幅のいい女性。名は『島津麗子』といい、岳人の母親である。

そして彼女はこの島津寮を経営しているため、こうやって平日は寮生の朝食、夕食を作ってくれる。

豪快で気のいい人で、こうして大和が褒め殺しにすると嬉しがり、サービスもしてくれる。

 

 

「今日は由紀江ちゃんと一緒に作るから最ッ高に美味しいものが出来るよ!」

 

「へぇ~。 まゆっちおはよう」

 

 

由紀江と一緒に作る、ということは彼女はもう台所にいるという事。

挨拶ぐらいしようと顔を出すとリズミカルな包丁の音が聞こえてくる。こちらに背後を見せたまま調理をしている。

 

 

「大和さん、おはようございます。 今朝は早いですね」

 

「ちょっと早めに寝たから早めに起きちゃってさ」

 

「早寝早起きは健康にいいですから今後も続けては?」

 

「今日はたまたまさ。 次も出来るとは限らんね。 だからまゆっちと麗子さんが羨ましい」

 

「あははは! 大和ちゃん、松永納豆もお食べ!」

 

 

さりげに朝の挨拶にも麗子への褒め言葉を織り交ぜることで朝食のグレードアップを狙う。

大和だってハングリーなお年頃、朝は出来るだけ食べて力を付けたい。

だから麗子のこういう性格には感謝しているのだ。

 

 

「大和さん、今日も私のでよければお弁当如何でしょうか?」

 

「如何も何も食費も浮くし何より美味しいしね。 今日もお願いまゆっち」

 

『やったねまゆっち! 大和の餌付けに成功だぜ~!』

 

 

どこからか松風の声が聞こえてきた。しかもなんと図々しい。

 

 

「おいまゆっち。 松風いい加減に思念波を飛ばさないようにしてくれ」

 

「は、はいいぃぃぃ! すみませんすみません!」

 

(っていうか全部まゆっちの発言だと思うと……ゾッとするな)

 

 

最早別個体として認識されつつあるが松風はあくまで携帯ストラップ。

実際喋っているのは由紀江だ。しかもほぼ別人格と言わんばかりに本人の意識とかけ離れている辺りがタチが悪い。

 

 

「ま、いいや。 俺ちょっと散歩しに行ってくるよ」

 

「うんうん。 健康に気を遣うのはいいことだよ。 朝食までには戻って来るんだよ」

 

「分かりました。 いってきまーす」

 

 

朝から褒められっぱなしの麗子は機嫌が良かった。

この寮も門限や勝手に外に出てはいけない、女子の部屋に勝手に入ったら市中引きずりまわしの刑など厳しいルールがある。

けれども今回に限りお咎めは無かったので遠慮なく外に出ることに。

 

 

「うー……やっぱり朝は冷えるな……ん?」

 

 

寒さに身を震わせていると聞き覚えのある足音が。

音のする方向に振り返ってみるとそこにはあの少女がこちらに向かってきている。タイヤを引きずりながら。

 

 

「あっ! 大和、おーはよーっ!!」

 

「おはようワン子。 バイトか?」

 

「うん! 新聞配達のバイトついでに朝のトレーニング!」

 

 

川神一子だった。

彼女は時たまバイトついでにトレーニングを行うことがある。大抵はランニングだが、時折多馬川を泳いでの生態系調査などもしたりする。

金稼ぎと修行の一石二鳥ということで一子自身この生活を気に入りつつある。

 

 

「大和は? こんな時間に珍しいじゃん」

 

「いや早く眼が覚めちまってな、今から散歩でもしようかと」

 

「でも、ってことは具体的に決めてないの? だったらアタシのトレーニングに付き合って!」

 

「はいはい。 お前の顔を見たらそうしようと思ったさ」

 

 

大和はどっかりと彼女が引きずるタイヤの上に乗っかった。

これも時々であるが、大和は彼女の希望にあわせてトレーニングに付き合っている。

重量を増やしたりタイムを計測してあげたり、スポーツドリンクを買ってあげたり。

いつしかサポーターのような位置づけになっている。

 

 

「新聞を入れて……次の家に向けてしゅっぱぁーつ!!」

 

 

次の新聞を届ける家に向かって走り出した。

せっせと走り出すその背中、地を捕らえる足、風になびくポニーテール。大和は一瞬可憐とも思った。

 

 

「そう言えばワン子、勉強は大丈夫か?」

 

「オイッチニーサンシー」

 

「出来てなかったらコキジェットな」

 

「ひぃぃぃぃぃ!!」

 

 

あからさまに誤魔化そうとしたがサド気質の大和にはそんなもの通用しなかった。

彼のお仕置きを度々受けている一子はまさに調教されている子犬である。

 

 

「で、でも大丈夫! 赤点回避は出来る!」

 

「あんだけミッチリやって赤点回避って言うのが悲しいな。 少しトレーニング控えたら?」

 

「それはダメ! まだ師範代に届かないもの!」

 

 

大和としては勉強が出来ないのが頂けない。

だから彼女に勉強を教えている。もっと勉強が出来るようになって欲しいのだが、彼女としてはそれよりも川神院師範代になるという絶対的な夢がある。

それに関しては怠けた姿勢を見せない。

 

 

「でも身内なんだろ? 多少の恩恵に与れるんじゃ」

 

「ないない。 だってルー師範代や釈迦堂さんだって元は違うもの」

 

 

そう言えばそうだ。ルー・イーは中国出身であるし、釈迦堂刑部はとある島で生まれ育ったという。

二人とも川神院の家系ではないということは誰にでも試験は挑めるという事。

つまり世界中から師範代の座を狙うものがいるという事。

 

 

「競争率高そうだな」

 

「セマキモン、ってのを潜らないとダメらしいわ」

 

 

それでも川神一子は師範代を目指している。

―――――孤児となった自分を引き取り、尚且つ誰よりも尊敬し、憧れる姉の川神百代の助けになるために。

夢に向かって走るその一途な姿に大和は嘗ての自分を思い出した。

 

 

≪俺、将来は総理大臣になる!≫

 

 

とある女性に向けていった、そんな昔の記憶。

今でこそすっかり忘れてしまっていたが、彼女の努力を見ているとそんな自分を恥じたくなる。そしてこの娘を応援したくなる。

 

 

「そっか。 頑張れよワン子」

 

「うん! 見てて大和!!」

 

 

大和の声援を受け、一子の脚力は増した。

あっという間に指定された家に新聞を届け終え、バイト代を貰う。そしてそのまま島津寮まで送ってもらった。

 

 

「んじゃアタシはもう少し走ってくるわね」

 

「おう。 んじゃまた学校で」

 

「うん! バイバーイ!!」

 

 

一子と別れ、大和は寮に上がる。

彼を出迎えたのは豪華なことこの上ない朝食だったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほいワン子。 このミニテスト解いてみろ。 満点ならば赤点は確実回避だ」

 

「はーい!」

 

 

テストが行われるこの川神学園、今日。

一子はダンベル挙げに精を出していた。が赤点を回避するためにも勉強には取り組まなければならない。

すぐに切り替えを行い、渡されたテストに挑む。

 

 

「ポニーはよくこんな日にも修行が出来るな」

 

「修行を邪魔しないように俺が勉強を教えてやってるのさ。 だからやっても大丈夫」

 

 

スグルがそんな彼女を見て感心していた。大和も少し同感しつつもサポートしていく姿勢を見せる。

そうか、と呟きながらスグルは携帯電話で何かのサイトを開いている。

 

 

「ところで大和、コイツを見てくれ」

 

「何々……? “高名な武道家、次々と襲われる”……?」

 

 

スグルの携帯電話の画面にはそんな見出しの付けられたニュースが堂々と出されている。

サイトの写真には酷く打ちのめされた武道家の写真が貼り付けられている。

写真や文章を見ても痛々しいことこの上ない。

 

 

「何でも旅の男に勝負を挑まれ、足蹴にされたそうだ」

 

「足蹴に……ねぇ」

 

「ガラはとにかく悪く、黒いジャンバーを着込んでいるらしい。 足技が得意との事だ」

 

 

相当の危険人物らしく、スグルが注意を促してくれる。

普通の真剣勝負ならともかく彼の言い方から襲撃にあった、というようなもの。

風間ファミリーに被害があってはならない。大和はこの情報を真摯に受け止めた。

 

 

「おう。 ありがとなスグル」

 

「ま、俺も三次元とは言えクラスメートの心配ぐらいはするさ」

 

 

スグルからの情報提供に大和は感謝した。

眼鏡をクイッと持ち上げるその仕草が妙に格好良く見える。これで二次元を崇拝していなければ、と思っていても口に出してはいけない。

 

 

(とにかく俺も後で情報収集して、集会で注意を促しておくか)

 

 

大和はテストとは別の意味の緊張感を持った。

チラリと見せられた程度だが事件の大きさとしては相当なものらしい。

高まった危機感を、大和は己のうちから排することはできなかった。

 

 

 

 

 

因みにこの後、テスト中に自慰好意に走った育郎は梅子教師によってボロ雑巾になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――風間ファミリー秘密基地。

彼らはテストが終わった後にはここに集まる。テストの答えあわせとその復習という名目で。

 

 

「む、ここの問題はアでは無かったのか」

 

「ちょっと違うよ。 問題の聞き方が嫌らしい」

 

 

京とクリスは答え合わせを行っている。

どうやらクリスは間違った問題があるらしい。だがそこは日本語の厭らしさ、主語述語が入り乱れると受け取り方も換わってくるというものだ。

 

 

「ガクト、お前はどうだテスト?」

 

「ああ、お前が纏めてくれた問題集無きゃ多分赤点だろうな」

 

「借り1だなフフフ」

 

「ッキショー。 テストで借りを作ることになろうとは」

 

 

一方勉強大嫌いな岳人は絶望していた。

無論テストで赤点を取ると休みを潰してでも補習が行われるのでファミリーの一員としてそんな悲しいことはさせないと大和が問題集を作ってあげるのはいつものこと。

 

 

「ガクトさん、普段から少しでもやっておけばかなり良くなると思いますよ」

『1と0は違うんだぜ~』

 

「まゆっちの言うとおりだ。 そうしてくれたら俺の負担も減るんだがな」

 

「むぐぐ。 まゆっちも言うようになったなぁ~。 でも事実だから言い返せねー」

 

 

一方で成績ならば十分Sクラスというハイスペックな実力を持つ由紀江が厳しい意見を出した。

彼女は大和と同じく普段から勉強をしている人間なので恐らく風間ファミリーの中では大和の次に成績がよい。

 

 

「モロは? その顔色を見る限りよろしくないご様子ですが?」

 

「うぅ……ちょっと息抜きにやろうと思ったクリハンにすっかりのめり込んじゃって……」

 

「決定。 来期のテスト、モロにも特別補習を行います。 講師は俺と京ね」

 

「どうしよう……ガクトやワン子と同類にされちゃった……」

 

 

卓也が赤点を取るほど落ちぶれてはいない。が、だからと言って安心していいレベルではなかった。

寧ろ油断から勉強を疎かにしてしまったようで点数に関しては自身がない模様だ。

大和は厄介事が一つ増えたとため息を吐き、講師に任命された京の眼が光った。

 

 

「クク。 因みにクッキーも参加してくれる?」

 

「任せてもらおう。 間違えるたびに10万ボルトの電流が走る」

 

「この上ないスパルタ教育! 詰め込み教育は良くないよ!」

 

「黙れ。 そうやって甘えたゆとり教育の結果がこの散々たる結果だろう」

 

 

クッキーは第二形態になって威嚇していた。

一々致死量の電流を流し込まれるのはゴメンだと卓也や岳人は恐れ戦く。

 

 

「ところで姉さんは?」

 

「Zzz……」←最初から興味なし

 

「キャップは?」

 

「Zzz……」←旅行疲れ

 

 

百代と翔一はテストなどどうでもよかった。

更に翔一はテストの前日にも旅行している辺り内申を捨てているのだ。ただその代わりバンダナを巻くという自由奔放な格好が認められている。

 

 

「さて思うところあるだろうがワン子。 見る限りでは赤点どころか最高得点だな」

 

「うわーい!! 平均点50とか夢のようだわ~!!」

 

 

因みにこれは100点満点のテストです。

 

 

「次回これより下回ったら島流しじゃ」

 

「きゃいーん………」

 

 

調子に乗らないようしっかりと釘を刺す大和。

こうして一子は日々彼によって調教されるのだ。何はともあれこれでテスト、その答え合わせや確認は終了。

一同は肩の荷を降ろし、ため息を吐く。

 

 

「はいはい。 疲れているだろうが注目注目」

 

「大和からの伝令ッ! 耳をかっぽじって大和のマグナム零距離で注目するんだッ!」

 

「誰もそんな変態チックな清聴は望んでいない!」

 

 

近寄る京をクリスに剥がしてもらい、大和は本題に入った。

 

 

「クッキー。 例の映像をよろしく」

 

「了解~」

 

 

第一形態に戻ったクッキーが映像を出した。

その映像には高名な格闘家が地に伏せている写真の数々。中にはモザイクが書けられるほどの酷い有様の写真が。

 

 

「これは何だ弟よ」

 

「スグルによると最近高名な武道家が狙われているらしんだ」

 

「僕も聞いたよ。 神速の“足”を持って相手を襲っているんだって」

 

 

卓也も独自に情報を得ていたようだ。

倒された武道家の中にはダルビッシムや太陽の子メッシなどの知れ渡った男達がいるという。

 

 

「しかも倒され方からして不良染みている。 その男が日本に乗り込んだという情報が入った」

 

「誰なんですかその男?」

『まさか板垣竜兵じゃないよなー?』

 

「竜兵じゃない。 “斑目風牙(まだらめふうが)”って言うらしい」

 

 

不良という言葉を聴いて松風(由紀江)は真っ先に板垣竜兵の名を上げた。

確かにあの男の力量と釈迦堂から教わった武術の手解きがあれば不可能ではないかもしれない。

しかし最近九鬼の監視の目もある上に先程辰子に連絡をとって事実関係をハッキリとさせた。

 

 

「ガラは悪く、黒いジャンバーがトレードマークだとか。 皆も気をつけてくれ」

 

「勝負を挑みに来たのだろう? ならば普通に戦えばいいだけのはずだが」

 

「被害者の中には負傷した状態で無理矢理戦いを挑まされたものもいるらしい。 つまり相手は倒せればなんでもいいってワケ。 卑怯な作戦を立ててくるかもな、俺みたいに」

 

「……なんでそんな事を言うんだ大和。 お前の作戦は皆のためだろう」

 

 

クリスの意見は最もだ。ただ完膚なきまで叩きのめされたその様子から勝つことに拘る人物のようだ。

しかも彼自身の写真が無いという事は闇討ちに近い状況であるという事。

だから腕の絶つ武士娘を抱え込んでいるこの風間ファミリーには注意を促さなければならない。

 

 

「とにかく九鬼の監視があるからって無闇に路上戦闘するのは避けろ。 川神院や学園からと言った信頼できる斡旋先ではない限り勝負事は避けた方がいい」

 

「ただの不良レベルなら俺様も負ける気はしねーけどこいつは真剣(マジ)だな」

 

「そうね。 ただ勝負を挑んでくるなら勝負するまでよ!」

 

 

ソファにどっかりと背を預けている岳人も真剣そのものだった。

何より仲間が狙われるかもとあればその身を盾にする覚悟がある。それが漢、島津岳人であった。

一子は受けて立つという姿勢だがとにかく危険な相手であることには間違いない。

 

 

「それらしき人物を見かけたら俺に真っ先に報告してくれ」

 

「了解。 猛禽類のような眼で大和を見張ってるよ」

 

「出来ればそれを周りにも移してほしい」

 

 

24時間監視は精神が削がれる。

げんなりしていると翔一が手を挙げて質問してきた。仲間の事になると翔一の目は真剣そのものだ。

 

 

「大和、日本に上陸したって言うけどよ具体的にはどこだ?」

 

「1週間前は東京、そして高津にも現れたらしい」

 

「順々に下っていくともうすぐ川神かー……こりゃガチで警戒しないとな」

 

「ゲンさんにも注意するようにって言われたし、皆本当に気をつけて欲しい」

 

 

源忠勝は時々夜勤と称してバイトに行くがその多くが不良達が多く集まる、川神の闇とも呼ばれる親不孝通りの見回りだ。

そんな親不孝通りにさえ緊張が走っているという。

 

 

「私に挑んでくれるなら喜んで捻り潰してやろう」

 

「いやぁさすがに姉さんには挑まないんじゃないかな」

 

 

実際百代は人間テトリスを強要してくる恐ろしい人物。その噂は海を渡っているはずだ。

 

 

「俺からの報告は以上だ」

 

「それじゃ今度は私からだな。 と言っても皆にではなくワン子にだが」

 

「え? 何々お姉様」

 

 

軍師の報告が終わると入れ替わりに百代が前に出る。

そしてその眼差しは一子に向けられた。

 

 

「お前に対戦相手の申し込みが出ている」

 

「え? アタシに?」

 

「ああ。 相手はアフリカ出身のニャニャ。 チーターすら凌駕する速さの野生児らしい」

 

 

ここで一子に対戦の話が出た。

川神院は言わば道場。対戦相手は連日訪れてくる。大抵は百代、もしくは師範代であるルーに向けられることが多い。

故に今回の対戦の申し込みは一子にとって久しぶりなのだ。

 

 

「勝負は一週間後の川神院で行う。 準備して置けよ」

 

「はい! よーしテストも終わったし早速修行!!」

 

 

そういうなり一子は逆立ちした上で腕立てを始めた。

スパッツを着用しているとは言え、余り男の目によろしくない光景だ。

 

 

「おい犬! 慎みが無いぞ!」

 

「一子さん逸る気持ちは分かりますがせめてそれはジャージを履いてからに!」

 

 

クリスや由紀江からの反対意見にもあい、一子は渋々取りやめた。

どちらの頬も赤く染まっている。破廉恥なものには余り耐性がないようだ。

 

 

「モモ先輩、僕らが応援に行っちゃダメ?」

 

「悪いがそうなるとアウェー側が不利になる。 向こうはサポーター以外応援が無いから精神面で差が出てしまう」

 

「んじゃ俺様達は大人しくしてろってことか」

 

 

どうやら本格的に勝負するつもりらしい。

元は孤児とは言え今は立派な川神院の娘。その名に恥じる行為はさせられない。

最もな理由をつけられたからには卓也や岳人も納得するしかなかった。

 

 

「因みにモモ先輩からみてワン子に勝算は?」

 

「武道家である以上余り贔屓は出来ないが……実戦経験があるワン子が有利だろう」

 

 

京からの質問にもそう返した。

幾ら最愛の妹とは言え贔屓するなど武道家としてのタブー。

あくまで高潔に、百代は武人としての意見を出した。野生児と聞くからには余り実戦にありつく機会に恵まれなかったのだろう。

 

 

「対戦相手には早めに来日して日本に慣れて貰い、精神を楽にさせる。 とは言え皆も例え見つけたとしてもちょっかい出すのだけはやめろよ」

 

「へー。 こりゃ結構真剣(マジ)だな」

 

 

百代がこれほど釘を刺してくるのは中々無い。

ファミリー最古参にしてリーダーである翔一にもそれが良く分かる。

 

 

「私からは以上だ。 せめてワン子の健闘を祈ってくれ」

 

「連絡は以上か? なら遊ぼうぜ!!」

 

 

連絡事項が他にないか翔一が確認した。

その上で遊びを提案する。ファミリー一丸となって遊ぶというのは中々無いものだ。

岳人も興味深そうに聞き返した。

 

 

「何すんだ? ゲームか?」

 

「久々に“トレハン”やろうぜ!」

 

「ああ、あれか。 これは私にも厳しいな」

 

 

百代も少し苦そうな顔をした。

さて、ファミリーの新参者であるクリスと由紀江には何のことだか分からない。

当然の如く質問する。

 

 

「あの、何ですかそれは?」

 

「キャップ考案、『トレジャーハンティング』の略。 所謂宝探しだよ」

 

「今から宝を隠す側と探す側にチームを分ける。 隠す側は宝をこの基地内に隠し、探す側は制限時間内に探す! 宝は何でもいいし、隠し場所は隠せる範囲ならOK!」

 

 

冒険家志望の翔一らしい提案だろう。

思わず微笑んでしまいながらまだ質問が尽きないクリス。

 

 

「この基地から外に出るのはダメか?」

 

「ああ。 壁に張り付くとかは無しだぜモモ先輩」

 

「むぅ。 前回の裏技を封じてきたか」

 

 

百代はこの頭脳と勘が要求されるゲームにてその自身の身体能力を活かし、壁に張り付き、そして宝を外壁に設置されている排水パイプに引っ掛けるという荒業を使用したのだ。

その時は翔一が持ち前の行動力でゲットしたが、さすがに不公平すぎるということで今回は封印されることに。

 

 

「因みに隠し終えた奴はトラップも設置できる! 制限時間は一時間!」

 

「なるほど。 その勝負、受けて立つ!」

 

「よーし! ここにくじがあるから全員引いてくれ! 勿論クッキーも!」

 

「了解。 ふふふ、僕の電子頭脳が火を噴くよ」

 

「いやそれリアルでヤバくね?」

 

 

などと言い合いながら全員くじを引いた。

くじは赤白で分かれており、赤が隠す側、白が探す側と分かれることに。

結果赤には一子、クリス、京、卓也、クッキー。白には大和、百代、由紀江、岳人、翔一となった。

 

 

「やっぱり宝は探してナンボ! 燃えるぜぇーっ!!」

 

「ふふっ、キャップ! 今日でその冒険家生命は終わるわ!」

 

「クク。 実は前回以来研究に研究を重ね絶好の隠し場所を見つけた」

 

 

どうやら一子と京は相当の自信がある模様だ。そして初参加となるクリスは隠す側。どこに隠そうか決めあぐねているようだ。

その前に何を隠すかを決めなければならないが。

 

 

「んじゃ隠す側は何を隠すか選んでくれ。 持ち物でもいいしここにあるものでも構わない」

 

 

翔一の発言で一斉にポケットをまさぐり始めた。

或いは周りに視線を飛ばし、何か手頃な物が無いかを探し始める。

 

 

「それじゃ僕はこのノートパソコン。 壊さないでね」

 

「自分はこの勝家(クマのストラップ)だな」

 

「んーとね………アタシはこの薙刀!」

 

「………大和がくれたこの花の髪留め。 見つけられるカナ?」

 

「私はビームサーベルだ。 触れる時には注意したまえ」

 

 

一名と一機はさらっと大切な武器を隠したような気がする。テンションも上がり、クッキーは第二形態に変形していた。

ただ、各々の性質が感じられる物品のチョイスだといえるだろう。しかもいずれも面白い隠し方が出来るかもしれない。

相手にとって不足は無かった。

 

 

「おっしゃぁ! 俺達は外に出るぜ!」

 

「隠す時間は30分間だからな! 急げよ!」

 

「フフフ。 トラップなどこの私には無意味だ」

 

「頑張って探しましょう!」

 

「さて頭を動かしますかねっと」

 

 

由紀江も初めての参加にしては凄まじいやる気を見せている。だがそれは隠す側も同じだ。

大和も本気になる必要があると悟り、頭のトレーニングを始めた。

そして廃ビルの入り口に待機してから30分後、いよいよ会戦を告げるアラーム音が鳴った。

 

 

「よっしゃぁーっ!! 探し当ててやるぜぇーっ!!」

 

 

果敢に飛び込んでいく翔一。

リーダーとしての責任感よりも好奇心に狩られたのだ。そして飛び込んでから少しして。

 

 

『うおおおお! ブービートラップで矢の雨だと!?』

 

 

早速トラップに引っかかっていた。

矢のトラップという事は仕掛けたのは京だろう。

ただこの程度の罠は前回からあったので今更驚きはしない岳人と大和なのであった。

 

 

「け、結構トラップも本格的なんですね」

『トラップに警戒しながら宝探しとかトゥー○レイ○ーだな』

 

「中にはトラップの中に宝を隠す、なんて嫌らしい発想もあるから注意ね」

 

 

気配探知が得意な由紀江といえどもものまでは探れないだろう。

つまり誰もが同じ条件で挑むという事。

大和達はいよいよビルの中に踏み込んだ。先ほど翔一がトラップに引っかかってくれたおかげである程度駆逐されている。

 

 

「んじゃまずはいつもの部屋だな」

 

「おおう。 大和は目星ついているようだな」

 

 

大和は早速いつも集まって談話している部屋に赴いた。

下の捜索は翔一と岳人、由紀江に任せ、護衛的立場として傍に百代を控えさせている。

この部屋には隠し終えた五人が悠々とお茶を飲んでいた。

 

 

「あら大和! 来たわね!」

 

「フフン、早速降参しにきたのか大和?」

 

「いいや勝利宣言しにきた」

 

 

挑発的なクリスの発言にも全く怯まず大和はこの部屋から捜索を開始する。

まず彼が狙いを定めたのは卓也のノートパソコンだった。

 

 

(『大切に扱ってね』ということは出来る限りパソコンの負担が少ない場所に隠しているはず。 水周りや傾斜がある場所では壊れる可能性があるから……)

 

 

つまり出来る限り平坦な、卓也の目の届く場所に隠しているはず。

わざとあり得そうにない場所を探すフリをして彼の表情を探った。チラリチラリと向けている視線のその先にあるもの。

 

 

「姉さん、そのテーブルの下」

 

「了解。 ……ほうほう、テーブルの裏に貼り付けてあったか。 ほれモロ」

 

「あちゃー。 ポーカーフェイスって難しいね」

 

 

中々凝った隠し場所だな、と笑いながら百代がテープで貼り付けてあったそのノートパソコンをはがす。

ガムテープを剥がし、テーブルの上に置いた。これで一個目。

 

 

「大和ぉ。 早く私の髪留めを見つけてぇ」

 

(京の声が妙に色っぽい。 これは宝探しに託けて俺にセクハラさせようってことだな)

 

 

京とはもう長年の付き合いだ。無論友達的な意味で。

故に彼女は大和のことならば手に取るように分かるというがそれは大和も同じ。

行動パターンを読みきった大和は百代に指示を出す。

 

 

「姉さん、恐らく京は神々の谷間(オッパイ)に隠している」

 

「よーし京。 私にその実った果実を曝け出せー!」

 

「あぁんモモ先輩っ。 私は大和にまさぐって欲しかったのにぃっ………」

 

 

艶やかな声を上げるが寧ろ百代の好奇心をくすぐるだけだった。

あっという間に身体中を探られ、とうとう京の宝である髪留めが見つかるのだった。因みに隠し場所に関しては大和のほぼ予想通りだったとだけ明記しておく。

 

 

「さて俺は下の方を探してくるよ。 姉さんは引き続きこの部屋周辺を探して」

 

「分かった」

 

 

百代に後を任せ、残る三つの宝を探し始める大和。

このゲームの攻略のカギは隠した人物の気質を読み解くことである。例えばクリスの場合であれば。

 

 

(正々堂々を好むクリスならトラップを周辺に設置しない。 そして可愛い物好きだから大切なストラップを埃っぽいとこに隠したりはしないだろう)

 

 

この通り隠した人物になりきることで自然と足が赴く。

秘密基地内は常にクッキーが掃除してくれているが、トイレ付近や砂埃が入りやすい窓際、水周りは考えられない。

そして彼女が人形を清潔に保てて且つ隠せると踏んだ場所。

 

 

「やっぱりこの御菓子入れだったか」

 

 

大和はとある部屋の箱を空けた。そこにはこの風間ファミリーのための、或いは非常食としても重宝するお菓子が詰まっている箱。

そこにクリスが溺愛するストラップは入っていた。

 

 

「これで残りはワン子の薙刀とクッキーのサーベル……物騒なものが残ったなぁ」

 

 

どちらも非殺傷性とは言え武器を探さなければならなくなった。

しかも武器は己の誇りと呼べるもの。確かに宝としては相応しいが、同時にそれを守るために相当捻くれた隠し場所やトラップを配置しているはず。

 

 

『ぬおおおおどうして電撃のバリアが!? アクションゲームかよォ!?』

 

 

下の方で岳人の悲鳴が聞こえてきた。

恐らくはクッキーが仕掛けたものだろう。大丈夫かなと心配になり様子を見に来る。

どうやら同じ考えを持った由紀江も傍に来ていた。

 

 

「ガクト死んでるか?」

 

「何だその確認は! それより見ろ! これヤベェって!!」

 

 

岳人の指差す方向。そこにはレーザーが張り巡らされていた。

 

 

『何だよこれ。 どこぞの鉄の歯車じゃねぇーよ』

 

 

松風の突っ込みもご尤もだろう。幾ら興が乗ってきたとは言えこれはやり過ぎだ。

と、ここに同じく騒ぎを聞きつけた翔一が参戦する。

 

 

「おっほーっ!! 面白そうじゃねぇか!」

 

「いや触れたら即黒コゲだぞ!?」

 

「さ、さすがにこれはやりすぎなのでは」

 

 

恐らくハンカチか何かで試したのだろう、岳人の足元には灰らしきものが舞っている。

これは本格的どころの話ではない。

どうすればいいものかと、頭脳派な大和もさすがに頭を抱え込んでいる。

 

 

「ここは俺の出番だろ!」

 

「キャップ大丈夫か?」

 

「こういうシチュエーションを待ってたんだ! いやっほぅ!」

 

 

果敢に翔一がレーザーの中に突っ込んでいく。

彼はただ無謀に突っ走っているのではない。己の中の全てを信じて駆け出している。

飛び越え、身体を逸らし、滑り込む。

あっという間に廊下の向こう側に辿りついた。

 

 

「到着っと!!」

 

「キャップさん凄いです!!」

 

 

由紀江が絶賛した。まだ風間ファミリーの一員となって日が浅い彼女からすれば翔一の凄さは褒めたりない。

彼は廊下の先にある部屋を調べ始める。3分後、翔一が輝ける剣を手にし嬉しそうに部屋から出てきた。

 

 

「クッキーのサーベル! 見つけたぜ!!」

 

「さすがキャップ。 これで残るはワン子の薙刀ただ一つだな」

 

 

部屋に隠されていたクッキーのビームサーベルを手にしていた。

さながら秘境に隠された聖剣を手にした勇者のようだ。

残り一つ、一子の薙刀は隠し場所がかなり限られてくる。何せあの長い形状なのだ、見つからないよう隠すのにも一苦労するはず。

 

 

「まゆっち、あそこの通風口調べてくれない?」

 

「はい!」

『いよいよオラとまゆっちの出番だぜ~』

 

 

大和は指示を出した。それはすぐ近くにあった通風口を調べろというもの。

あの長い薙刀を隠すにはロッカー程度では収まらない。となれば相当縦に長いスペースが必要となる。

そう考えた大和は由紀江に通風口を調べさせる。

 

 

「んっ、ちょっと狭い上に引っかかります~………」

 

 

引っかかるとは恐らく胸だろう。

これは大和独自の情報網だが由紀江の胸はこの風間ファミリー女性陣の中では第二位という実力を持つ。

その上尻好きな軍師はわざと通風口などという狭い場所に彼女を押し込めることで揺れる桃尻を堪能していた。この軍師、中々の策士である。

 

 

(……マジでなんだあのボリュームは……あれぞまさに求めていた秘宝……!)

 

(大和はよく年下にも眼ェ向けられるな。 俺様興味ねぇぜ)

 

 

欲情するのも無理も無いというものだ。

ただ相応にスケベな岳人は年下は「子供」と判断し興味の欠片も示さない。彼はあくまで百代のような年上好みである。

 

 

「大和さん! ありました! 薙刀です!!」

 

「ご苦労まゆっち! 戻っておいで」

 

 

由紀江の声で最後の一つ、薙刀の回収を確認する。

そして彼女に撤収命令を出した。その際にもやはり眼は桃尻に向けられているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ってなワケで今回は俺らの勝ちだぜ!」

 

「なんと……私のトラップを回避するとは……さすがマイスターだな」

 

 

部屋に戻り、大和達は見つけ出した宝をテーブルの上に置いた。

紛れも無く五個揃っており、大和達の完全勝利といえる。

 

 

「ぬ~。 結構考えたつもりだったのにな……」

 

「アタシも……」

 

 

クリスと一子は隠し場所に相当の自信があったらしく、がっくりと項垂れていた。

しかし彼女達の場合、考えれば考えるほど各々の思考、性格が出やすいため大和は余計にその一手先を読みやすい。

 

 

「ねぇ今度は探す側と隠す側をチェンジしない?」

 

「ここまでアッサリ見つけられはさすがに私も本気にならざるを得ない」

 

 

卓也や京も探す側としてリベンジを申し込んだ。

たかがゲーム、されどゲーム。勝負でこうも完敗を喫されては人間腹が立つというもの。

リベンジと聞き、一子やクリス、クッキーも頷いた。

 

 

「よーし!! それじゃ今度は俺達が隠すぜぇーっ!!」

 

「元気だなぁキャップは……」

 

 

大和を始め、由紀江や百代も苦笑いだ。

だがこれほど楽しい時間は無い。それが風間ファミリー。

 

 

 

彼らは夜が更けるまで遊ぶのだが後にとんでもない事態が襲い掛かるとは思ってもいなかった。

 

 

 

 

続く




俺もこんな青春を送ってみたかった……と哀愁漂わせるテンペストです。え?自分で言っちゃ哀愁にならない?ご尤も。
さていよいよ一子編が本格的に始動。多少原作にも沿いますがほぼオリジナルの展開を用意しています。
オリジナルといえばこの物語にはオリキャラは登場させますがあくまで敵サイド大目になります。ご了承ください。
では次回もお楽しみに! 感想お待ちしております!!
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