―――――それから一週間後、川神院。
曇り一つ無く、心地よい風がこの院内に吹き抜ける。武道を嗜むものにとってこれ以上ないくらいの最高の天候だ。
武道家の中には天候を利用して戦う者もいるらしいが、少なくとも晴れて悪いこと等一つもない。
それは今、一人の野生児を相手に薙刀を振るう川神一子も同じだった。
「せいやぁ!!」
「にゃっ!!」
速度に重点を置いた薙刀の鋭い一閃。野生児、ニャニャは生まれ持ったその身体能力で苦しみながらも避けてみせる。
薙刀の相手を全くしたことがない彼女にとって一子の戦い方はいま一つ掴めていない。
「むぅ、今の薙ぎ払いは惜しいのぅ」
「ハイ、踏み込みが足りてないようデス。 少しでも踏み込んでいれば届いていたでしょウ」
「ですね。 ただ相手は焦り始めているのに対しワン子は冷静さを保っています」
彼女の戦いを、川神院の三大トップである鉄心、ルー、そして百代が観戦していた。
相手はアフリカ出身の野生児で、生まれ持った身体能力と凄まじい脚力が売りとのことだ。だが生まれが生まれだけに実戦に出会う機会に恵まれず、その緊張感を味わえていなかった。
「にゃ、ニャニャは負けないもん!! たぁーっ!!」
「っ!!」
口調、動き、そして呼吸。全てが相手のコンディションを伝える。
一子はそれを冷静に見抜き、構えを取る。
しかし向こうのスピードが上であり防御を余儀なくされる。
「この攻撃見えないでしょーっ!!?」
拳、蹴り、肘。凄まじい速度で繰り出される乱舞の数々。
確かに一子は防御に徹するしかなかった。だがその一方で余りダメージを受けていない。
速度こそは自分を上回るものの、鋭さがない。今まで野性で育ち、手本となるものがなかったために攻撃の型に無駄があるのだ。
「そこよっ!!」
「ニャァッ!!?」
その一瞬を見切り一子が薙刀を振り回す。
刃にこそは触れなかったものの、柄の部分がニャニャの手を弾き、体勢を崩した。
「貰ったぁっ!」
「ま、まだまだ!!」
一気に決めようと一子が突きを放つ。
食らうわけには行かないとニャニャは無理矢理身体を逸らした。刃は間一髪、ニャニャに触れることはなかった。
「これもまた惜しいですネ」
「勝ちを焦りすぎたなワン子。 決着をつけようと威力を乗せやすい突きを出してしまった」
「じゃが突きは出も早い分、有効範囲が狭い。 今のは切り払うべきじゃったな」
愛すべき身内の試合。だが彼らは武道家。
故に師範代達は辛らつな見方をするしかなかった。無論彼女には聞こえないように。
「にゃにゃにゃ!! もーらいっ!!」
一子の突きを避けたニャニャはそのまま勝負を決めようと飛び込む。
薙刀はリーチが長い分、懐に攻め込まれると一気に弱くなる。川神一子は度重なる実戦でそれを理解していた。
咄嗟に薙刀を手放し、彼女を迎え撃つ。
「天の槌!!」
「ギャ!?」
猛烈な蹴りが彼女を浮かせた。
まさか武器を手放すとは思ってもいなかったニャニャ。不意打ちを食らってしまい、同様も相まって空中で身動きが取れない。
一子はそれを狙って飛び上がり、思い切り回し蹴りを打ち込んだ。
「地の剣!!」
「ニャ――――――!!!」
猛烈な蹴りが打ち込まれ、ニャニャを地面に叩きつけた。
小柄な上、全く無防備だったところにあの蹴りを打ち込まれたのでは立ち上がれないだろう。
事実ステージの上では彼女が伸びていた。
「それまで! 勝者、川神一子!」
「――――……オス!!」
呼吸を整え、一礼する。
例え勝者であろうと敗者であろうと、戦った相手への礼儀を失してはならない。
それは武道家として当然のマナーであった。川神院はその技術よりも心を教える場、礼を失するものは厳しい処置が待ち受けている。
「い、いててて………」
「もう立ち上がったか。 ルー、見てやりなさい」
「ハイ。 ……ふむ、身体は丈夫ですネ。 テーピングでいけるかト」
対戦相手の治療に取り掛かろうとしたがニャニャはすぐに意識を取り戻した。
激痛が走っているようだが、骨に亀裂等が入っている様子はない。
ルーも安心した上で的確な処置を施す。
「後はしっかり休養を取ればダイジョウブ」
「大事ないようでよかったのう」
真剣勝負とは言え万が一大怪我を負ってしまえば遺恨も残りやすい。
無論それを加味した上での正式な試合の申し込みだったが、無事ならば何より。
一子もホッと安心する一方で己の未熟さを感じていた。
「すぐに起き上がった……威力不足なのかなぁ」
「確かにお前の技はまだまだ威力不足だ。 だが着想は良かったぞ」
勝利で満足する一子ではない。寧ろその勝負から何を学ぶか、それが大事なのである。
今の戦いは、彼女自身も反省点を多く見つけていた。
百代もそれを指摘する一方で褒めるべき点はきちんと褒める。飴と鞭は使いようだった。
「うむ。 冷静さは欠いておらんからな、後は型の問題じゃ」
「薙刀の返し方だネ。 後日、みっちり特訓するよ」
「はい! ありがとうございました!!」
一子は本日一番の笑顔で応えた。
彼女のこの笑顔は最大の能力。誰もが好いてしまうこの綺麗な笑顔。
鉄心達が可愛がる理由もここにある。
(しかしいつかは伝えねばならぬこと………そろそろかのう)
鉄心は己の中で決断を固めていた。
☆
≪ってことで試合には勝利! 課題は多かったけど、大和にいち早くご報告!≫
「おお! ワン子勝ったか!」
夜、勉強中にそんな報告をメールで受け取った大和。
まるで自分のことであるかのように嬉しくなる。
思わず騒ぎ立ててしまったのか、扉を叩かずに忠勝が入り込んできた。
「うるせぇぞ直江。 ケーキ食え」
「ごめん、そしてありがとうゲンさん」
相変わらず優しい忠勝に礼と侘びを入れる。
「で、どうしたんだ」
「ワン子が今日の試合勝ったって」
「なるほどな。 後で返信してやれよ」
忠勝も元身内だけあって彼女の勝利を喜んでいるようだ。騒いだ理由が理由だけに忠勝もそれ以上怒る気はなかったようだ。
そして言われるまでもなく一子に祝いのメールを送る。
「ワン子も大怪我してないみたいだから明日普通に登校するんだって」
「なら良かった」
一子に関しては微妙に素直になる忠勝。
そんな彼にひっそりと萌える大和であった。
「後対戦相手のニャニャって人、まだ滞在するらしいから見かけたら仲良くしてあげてだって」
「俺は必要以上に馴れ合うつもりはねぇけどな。 お前達とも」
「ゲンさー………ハッ! 先読みされた……だと……」
忠勝はこうして大和とのコミュニケーションを要所要所で切り上げる。
だが彼の優しさに懐いてしまった大和としてはなんとしても忠勝を攻略……ではなく、仲間にしたいところだ。
引き際も肝心と考え、今日はこれ以上突っ込みはしなかった。
「まぁ気が向いたらでいいよ。 ケーキありがとう」
「おう。 勘違いすんなよ、それは押し付けられて処理に困っていただけだからな」
大和はそのぶっきら棒な優しさに胸を高鳴らせた。
その後、忠勝は部屋に戻ってしまい、大和はヤドカリ達に餌を挙げてから就寝するのだった。
☆
翌日の朝、大和はいつも通り川神学園に登校していた。
「やっほーい。 大和、おはよ~」
「ユキ、今日も元気ハツラツゥ~?」
「マシュマロンD! ってことでましゅまろ食べて~」
話しかけてきたのは2-Sの榊原小雪だった。普段は葵冬馬、井上準と一緒にいる彼女だが大和に対しては積極的に話しかけている。
彼女は親から虐待を受けた過去があり、そんな最中大和達風間ファミリーと遊ぶことで精神的支えとしていた。
後にその虐待は発覚、親権は取り上げられ、彼女は葵紋病院に引き取られることになった。冬馬達と仲がよいのはそのためだが、救ってくれた大和に関してもこの通り積極的。
「ねーねー聞いてー。 昨日病院大騒ぎだったんだよー」
「急患でも入ったのか?」
「うん。 何でも路上で不良に襲われたんだってー。 怖いよね~」
その屈託のない笑顔はどこか電波っぽい。しかしそれも彼女の魅力なのでは無いかと大和は受け止めている。
ただ九鬼監視の元で不良に襲われたというのは少々気になるところだ。
「誰が襲われたんだ?」
「ニャニャっていう女の子らしいよ~」
「えッ?!」
大和は驚きの声をあげるしかなかった。
その名を持つ少女は昨日一子と川神院で対戦したはずだ。その後は日本観光のために滞在することを決定したらしいが。
つまり彼女は一子と戦った後、街に出て何者かに襲われたことになる。
「何~? 大和……そのコが気になるわけ~?」
「そ、そうじゃなくてだな……」
そもそも面識もない女の子に気を持つ等あり得ない話。
しかしこの手の話題に関して小雪は頬を膨らませながら大和に鋭い視線を送った。
とにかく事情を説明して彼女を納得させる他ない。
「なるほど~……物騒な時代になったのだー」
「因みにそのニャニャって子、どんな風に襲われたんだ?」
「全身打撲で骨にも亀裂が入ってるらしいよー。 痛いよねそれー」
全身打撲、武道を嗜んでいれば幾らなんでも滅多打ちにはされないし、相手側もそんな弱った相手を一方的になぶるような真似はしない。
だが聞く限りは相当酷いやられ方のようだ。先日聞かされた斑目風牙なのかもしれない。
「まさかその子を襲ったのって斑目風牙か?」
「知らなーい。 その子、意識ないもん」
「そ、そこまで滅多打ちにしたのか………」
意識がなくなる、という事はよく漫画などで表現される。
だが実際は重傷だ。下手をすれば生死にすら関わる。
幸い葵紋病院の治療で一命は取り留めたらしいが最早そんな事をする人物は不良レベルでも、増してや武道家でもない。
「とりあえず気をつけるか。 ユキ達も注意しろよ」
「うん。 じゃまたね。 バイバーイ」
大和に別れを告げ、小雪は上機嫌に自分のクラスへと帰っていった。
益々謎の通り魔――――斑目風牙と確定したわけではないが――――に注意を促さなければと気を引き締めなければならない。
その後、Fクラスのホームルームでも梅子がその注意を促していた。
「先日、とある武道家が何者かに襲われたようだ。 九鬼の監視があるからと言って各々注意を怠るなよ!」
あくまで自分のみは自分で守れ、厳しいながらも当然のお言葉だった。
ホームルームが終われば少しの休み時間が空く。その間、話題もその謎の通り魔で持ちきりだった。
「じゃ、その襲われた子って川神さんの対戦相手だったんだぁ」
「戦い終えた相手を襲うとかマジゲス系。 今度アタイが見つけたら仕留めてやんよ!」
「でも大和や梅先生は戦わずに逃げた方がいいって言ってたわよ」
対戦相手の名誉を守るため、名前は伏せることにしたようだ。
だがすぐに思い当たった一子が大体の事情を話す。
真剣そうに満と黒子も彼女の話を聞いていた。その頃大和も千花や育郎を交えて話しをしていた。
「ねぇ聞いてよナオっち。 親不孝通りの不良達、結構やられたらしいわよ」
「何でも骨折られた奴が殆どだってよ。 病院にはいかないらしいけどな」
「なるほどね」
親不孝通りは川神の闇として知られている。
しかし、聞けば殆どの不良が駆逐されたようだ。以前武士道プランのために桐山鯉が不良達の粛清に乗り出したことが会った。
だがこれはそれを遥かに超えている。明らかに相手をなぶることを楽しんでいるとしか思えない。
(これは竜兵も頭にキているだろうなぁ)
そして不良達のまとめ役である板垣竜兵が怒り心頭であることもすぐに思い当たった。
彼の予想は大当たりで後日辰子や刑部から「竜兵がうるさい」とのメールが届くことになる。
「卑劣な……! 疲弊した者を狙うとは……!」
「どうやら強ぇ奴なら見境なしらしいな。 そういった意味ではクリス達も注意が必要だな」
クリスや岳人も注意する一方でその通り魔に対して怒りを徐々に露にしている。
無論その通り魔が仲間の誰かを傷つけるようならば絶対に容赦しない。
「大和、能力アップのために私にミルクを!」
「股間からは出ないよ~お友達でね~」
そんな最中、京は相変わらず大和に一途だった。
☆
――――本日は金曜日ではない。
にも拘らず風間ファミリーの面々がこの秘密基地となっている廃ビルに集まっていた。
何か仲間達に危害が及びそうな事件が発生した場合、緊急集会と称して集まることがある。今回は大和が翔一を通して全員を集めたのだった。
「皆、担任から聞いたと思うけど例の通り魔がいよいよ川神に入ったみたいだ」
「ああ、ゲイツ教師からもうるさく注意されたな」
「ゲイル先生も私達を心配してくださっていました」
百代や由紀江も、教師からの忠告を真摯に受け止めている。
因みに彼女達の担任はそれぞれ「カラカル・ゲイル」、そして「カラカル・ゲイツ」と言う兄弟である。
嘗ては弟のゲイツによるコンピューター分析に従い、ゲイルが敵を倒すというスタイルをとっていたが燕に敗れ、一から鍛えなおすために教師になったのだという。
「マルさん達も監視してくれているらしいが全く見つけられないらしい」
「つまり相手は九鬼、ドイツ軍の監視の目を逃れられる実力があるという事だ」
クリスの姉貴分としてマルギッテ達ドイツ軍も心配になり、監視体制を整えてくれているらしい。が、それの効果がなかったとなると敵はかなりのやり手である。
「以前も言ったが川神院や学園ぐるみの決闘でない限り勝負をするな。 特にワン子」
「え? アタシ?」
「お前喧嘩っ早い上にすぐ勝負を吹っかけるからな、絶対に手を出すなよ」
「当然! 大和との約束は破らないもん!」
強い相手と戦えることは武士の悦び、故に本心では一子はその通り魔とも戦ってみたかった。
だが大和の仲間を思う気持ちはファミリー最古参である彼女が良く知っている。
「約束破ったら公開スパンキングショーだもんね、ワン子」
「うわぁぁぁぁぁん!!」
「どんだけトラウマになってんだよ」
因みに一子に対するお仕置きは殆ど大和がするのだが時たま京も混ざることがある。
教育と称してそのお仕置きは凄惨なものらしく、一子にとってはトラウマレベル。
故に彼女の中では友情関係とは別に上下関係が出来上がってしまっている。それをまざまざと見せられては岳人も同情するしかなかった。
「クッキー、モロ。 メディア方面での情報収集を頼む」
「任せてよ。 常に最新情報をチェックしているよ」
「情報入り次第皆に連絡するね」
最近はツイッターなるもので最新情報が手に入りやすくなった。
無論中にはデマや荒らしもあるが、情報の取捨選択には大和の得意分野だ。自身の人脈構成とあわせればほぼ確実な情報が得られる。
何より情報収集はメディアに強いクッキーと卓也以外に適任者はいない。
「キャップ。 この件が沈静化するまでなるべく外に出ない方がいいよ」
「分かった。 俺も皆には心配かけたくねーからな」
「いつもかけているくせに」
よく旅行に出かける翔一にも釘を刺しておく。
万が一いつものように外に出ている最中に襲われたのでは武神である百代でも、四天王である由紀江でもすぐに応援には駆けつけられないからだ。
「ワン子。 そういうわけだからランニングなどには腕の立つ人を常に傍において置けよ」
「うん」
特に大和は一子の心配をする。
このメンバーの中で次に外出が多いのは一子である。ただ翔一のように遊び目的ではなく、修行のためにランニングを欠かさないのが日課となっているからだ。
しかも毎日10kmの走りこみは欠かさない。通り魔からすればこれ以上ないくらい絶好のチャンスといえるだろう。
「それについてはルー師範代や私がつく事になっているから安心してくれ」
(まぁ影でこっそち九鬼英雄が手を打っていそうでもあるけどね)
九鬼英雄は川神一子に惚れている。
そのために彼女のためならば九鬼家が誇る従者部隊を簡単に狩り出すこともしばしば。
以前彼女を襲おうとしていた賊を九鬼家の従者がお仕置きしているのを見たことがある。
「――――で、だ。 川神院の話題が出たのでここで話しておこう」
「?」
妙に百代が真剣な顔つきになった。
彼女のあんな真剣な顔つきは大和ですら数えるくらいしか見たことがない。いや、今まで見たものの中で一番のものだ。
「ワン子……いや川神一子。 お前に決闘を申し込む」
「お、お姉様!?」
一子だけではない、その場にいた全員が目を見張った。
今まで稽古と称して彼女と組み手を好くことは何度もあった。だが正式な勝負を申し込まれるのはこれが初めてだ。
「お前はもう10年以上修行に打ち込んできた。 その成果を見せて欲しい」
「それはじーちゃん……総代からの?」
「ああ。 つまりこれは川神院からのお前に対する挑戦、と受け取ってくれ」
勝負事に関しては百代は嘘をつきなどしない。というより彼女の大好きな言葉は“誠”。元々だらしない人物ではあるが嘘をつくことはなかった。
だからこそ、誰もがこれが本気であることをすぐに悟った。
「で、でもモモ先輩。 こういうのもなんだけどワン子じゃ太刀打ち……」
「今までの修行の成果を見せてみろということだ。 元より勝ち負けを気にしないし、負けてもそこを責めるつもりはない」
卓也の質問にも瞬時に返した。
同時に誰もが納得の表情を示した。だが大和は彼女の中に残る真剣さの裏にある“切なさ”を感じ取っている。
「場所は川神院。 日時は明後日。 祝日だがいけるか?」
「……はい! その勝負、お受けします!!」
「心意気や良し!! 川神百代、全力を持って応える!!」
声からして双方本気だ。
こうなっては大和達は応援することしか出来ない。この戦いも以前のように応援無用の真剣勝負だろう。
「ただしワン子、お前は一人だけサポーターを付けられる」
「サポーター……」
「ああ。 私にはルー師範代が正式にサポートにつく。 お前も誰か選べ。 因みに川神院の門下生でなくても構わない」
逆にサポーターとしてならば川神院の者でなくても応援を付けられるという事だ。
それならば一子が選ぶのはたった一人だ。
くるりと赤髪のポニーテールを揺らし、振り返った。その先にあるのは今まで頼りにしてきた幼馴染。
「大和! アタシのサポーターになって!」
「俺? いいのか」
「うん! 大和以外考えられない!」
ご指名は大和だった。
彼女からすれば今まで夢のために頑張ってきた。だがその影には彼がついていてくれたから、頑張って来れた。
だから自分の最も大切な人に、この人生最大の勝負を見守って欲しい。
百代も妥当な人選と判断し、何も文句は言わなかった。
「分かった。 当日まで準備して置けよワン子」
「はい! 今までの成果を出し切って見せます!」
決闘の申し込みが成立し、百代は早速電話をかけた。恐らく川神院に伝えているのだろう。
即時行動をする辺りいよいよ本気なのだと大和は思い知る。
そして時折見せるその悲壮な決意を秘めた瞳。何かよからぬ物を感じ取らせる。
「……とまぁ私からの話は以上だ。 さ、何かして遊ぼーっ」
(……急にテンションを戻した……?)
まるで嫌な現実から振り切ろうとしているかのようだ。
他の者達も同調するが、大和にはそれが帰って不審に映った。だがこれ以上追求しても仕方がない。
その後、卓也が持ってきたゲームで盛り上がったことにより大和はそれを忘却するのだった。
☆
その頃、夜の親不孝通りでは忠勝とそして宇佐美巨人が見回っていた。
巨人は「宇佐美代行センター」という会社も経営しており、忠勝もその社員の一人。そして依頼される仕事の中にはこうしてこの通りの見回りというものもある。
「……今日も見回ったが、思った以上に不良達がうろついてないな」
「ああ。 例の通り魔の影響だろうな」
治安が良くなるに越したことはない、そう思っていたが普段ならば柄の悪い連中が横行しているこの通りが静かな事に違和感を持っていた。
「九鬼の監視もあるし、板垣竜兵を筆頭とした奴らも自粛気味だ」
「ま、オジサンとしちゃ仕事が減って嬉しいような悲しいような……」
面倒ごとは避けたいものの、やはり貴重な収入源なので複雑な心境だ。
一通り見回ったが、今回は騒ぎが置きそうな気配が何一つなかった。そこが逆に怪しいのだが。
「んじゃ今日は少し早めだが切り上げるか」
「ああ」
仕事は果たした。少しだけなら早めに終えても問題ない。
そう判断した二人が引き上げようとしたその時。
『ウボァー!!』
「何だ? 今時漫画でしか聞けないような悲鳴が聞こえたが」
「あっちだ! こい忠勝!」
通りの影で男の悲鳴が聞こえた。
知人のものではないだけマシなのかもしれないが、見回りを依頼された側としては放っておけない。
忠勝と巨人が辿り着いたその場所には不良が一人、泡を吹いて倒れていた。
「……コイツは確か板垣竜兵の部下、ルディだっけか」
「ああ。 そして見ろ、前進に打撲の後、明らかに拳ではなく蹴られた痕跡……」
「……一連の通り魔と一致するな」
「だな。 しかも明らかに俺達や九鬼の監視の抜け目を狙って狩ってやがる」
いよいよ被害が本格化している。
九鬼ほどではないが、腕っ節に自身がある忠勝と巨人。そんな彼らの警戒網を潜り抜けるという事は相当な実力者であるという事。
「とりあえずコイツは警察病院行きだな」
「ああ。 竜兵と一緒に悪さしてやがったからな、当然の報いだな」
忠勝はそう言いながら不良を担いだ。
「しかしいよいよ都心に向けて被害が出ているな」
「直江から聞いたが、この犯人は斑目風牙って人間じゃねぇかって」
「斑目か……その筋の人間に情報を集めて貰うか」
巨人も出来る限りのことはしようとしてくれる。
しかしそれだけでは限界もある。本格的に手を打たなければならない。
いよいよ相手はこの通りから次なるステージに向けて動こうとしている可能性が高い。
(今までのケースから実力者が狩られている。 そして今回のルディはウォーミングアップってとこだろうな……そろそろ川神院の誰かを狙うかも知れねぇ)
実力者を狩りつくしている男。
その目的は恐らく「名声を高めること」だろう。形式が何であれ、世界に名立たる強敵を倒していけば自然と人気が高まるというもの。
そしてこの川神に来た以上、川神院の誰かを狙う可能性は高い。
(万が一そうだとしたら……一子を狙うなら容赦しねぇ……)
漢、源忠勝は拳を震わせていた。
続く
いよいよ一子編も中盤に差し掛かってきました。
そして何気にゲンさん配分多め。さすが真のヒロイン。
何気に原作のルートと同じだと思っている貴方。ここからが違います。ここからがっ……!
というワケで衝撃の次回をお楽しみに。