アリーナを出た後、零を待ち構えていたのは目を細めこちらを睨む千冬とどこかおどおどする麻耶だった。その後ろには一夏や簪も着いて来ていた。
「どうかしましたか?」
その問いかけにより一層千冬の視線が鋭くなる。隣にいる簪の視線も同様であった。
「最後……何故あんな結果になった?」
「あんな結果とは?」
「煙の中だと見えないとでも思ったか……解析すれば煙の中も見える。もう一回聞くぞ。何故あんな結果になった?」
やはりばれたか、と内心で悪態をつく。おおよその予測は付いていた。周りを見渡せば山田先生も気になっているのかチラチラと視線を向けてくる。簪も知りたくてココに来たんだろうと簡単に推測できた。
言い逃れは出来そうにない。そう悟った零は溜息をつき、重い口を開く。
「セシリアにも言いましたが……あのまま負けを認めてるよりああやって負けた方がまだ良いかと思いましてね」
「良い負け方だと?」
「どういうことだ?」
互いに同じ反応をした千冬と一夏にさすが姉弟と思いながらも零は自分の考えを述べる。
「自分で言うのもなんですが……自分は嫌われ者ですからね。あまりいい印象を持たれていません。あのままただ負けを認めたとして、周りはそんな自分を罵るでしょうね。簡単に負けを認めて情けない。これだから男は……とね。なら最後まで戦って負けた方がまだマシだと思いました」
「何故だ、確かに動きはチグハグであまりいい機動はできていなかったが、それでもセシリアの攻撃を最小限の被害に収め、自分が今出来る最善の事を貴様はしていたはずだが……」
千冬とて教師の端くれだ。しっかりと零の動きを見ていた。チグハグの機動を補うために相手が射撃を打つ前に予め先に予測しての回避行動。避けれない攻撃は最低限の被害を抑える動き、一通りの作戦を実行する実行力。
それはISが思い通り動かせないなりの最善の戦いだったと千冬は零の戦闘を評価していた。だがそれを零本人が否定する。
「無駄ですね。それでも最初から最後まで終始セシリアの圧倒的な優位は変わらなかった。結果もこの通りです。もしこれが貴方の弟さんなら頑張ったと称えられたかもしれませんが……自分は適性Fで評判も良くはないですからね」
事実。そうでしょう?と語る零。事実アリーナにいる観客はセシリアの勝利を祝い、その第三世代の性能の強さに目を奪われている。誰も零の事など頭から忘れ、健闘を称えている人物は皆無であった。唯一の救いは零本人の悪口がないだけまだ良い方であった。その光景を見て全員が零の言った意味を理解した。
千冬がしたのはあくまで教師としてであり、IS操縦者としての評価。しかし、零をよく思ってない先入観をもつ生徒達は少し善戦したくらいじゃ認めるはずがない。
「だから最後、セシリアにトドメをさして貰ったということか」
「そうです。まぁ……本当はすぐに負けるつもりでした。1週間前は」
「何?」
突然の零の負ける発言に千冬はもちろん、麻耶や一夏、簪も目を見開く。何故という感情でいっぱいなのだろう。
ただそれは零にとっては当たり前の事。もともと評価の低い自分の事だ。周りから期待もされていない。ならば、すぐに負けたとしても、たいして評価は変わらないと零は考えていた。それにあまり目立つと色々とまずいという理由ももちろんあった。それでもここまでした理由は、
「今回精一杯頑張ったのは山田先生が自分の時間を削ってまで指導してくれたからです。だから一矢報いたかったんです。だから自分はこの結果で満足してます」
すべては山田先生が精一杯指導してくれたため、報いるという意味で真剣にしたに過ぎない。
「え、わ、私ですか。そんな私はそんな大層な事は……」
そんな一生徒の気持ちに麻耶は恥ずかしいのか、手に持つノートで顔を隠す。それでも隠し切れずこれでもかというほどリンゴのように顔全体が赤一色に染まる。恥ずかしいのかふらふらと今でも倒れそうな麻耶。
「はぁ…………まぁいい。もう言っていいぞ」
そんな麻耶の様子に千冬はすっかり毒気を抜かれたため零を解放する。馬鹿馬鹿しくなり、疲れたのだ。
「失礼します」
なんとか世界最強を納得させる事を成功させた零は頭を下げその場から立ち去る。
「これがさっき放課後で戦闘していた記録です」
IS学園の生徒会室――――
その場所で一人の女性の声が室内に響く。女性が見ているであろう画面に映るモニターでは先ほどの試合。零とセシリアオルコットが戦ってるシーンが映し出されていた。
「何回見ても異常はないのでは?」
その女性――――布仏虚はもう数十回見ている映像に何ら違和感は感じられないためそう声をかけた。
その疑問にこの部屋の主――――生徒会長、更識楯無は首を頷き肯定する。
「そうねー。実際にアリーナでも見ていたけれど、特に変な所はなかったわね……ただ」
「ただ?」
そのもったいぶる発言に従者の虚は先を急かす。
「戦闘が手馴れすぎてる。たしかに動きはたいして良くはないわ。でも、戦い方が初心者っぽくない」
「ですが、彼はまだISにはそこまで乗ってないはずです」
「んー。ISでの戦い方って意味でいった訳ではないわ……人としての戦い方かしら」
その楯無の言葉に虚は再度映像を見直すが、分からず首を傾げる。そんな困った自分の従者の顔をニコニコ観察しながら楯無は答える。
「まずはここね……」
虚からリモコンを受け取り、映像を止めた場所は最初のセシリアの射撃を零が避ける動き。
「どこも変な所はないですが……?」
写っているのは一見どこも変わりは無い、至って普通の回避シーン。
「彼、相手が自分に照準を定めて指で引き金を引く直前、その絶妙なタイミングで機体を動かしているわ」
「それは無理では?」
銃口を向けられて避けるのなら虚にも分かる。しかし、引き金を引く瞬間に避けるなど、出来る出来ない以前にしようともしない。リスクが高すぎる。それが虚が叩き出した結論だった。
「そう?なら全部スローで見てみる?どの映像見ても全部そのタイミングよ」
確認のため、映像一つ一つをスローで再生する。結果からいえばその通り。どの映像もその動き出すタイミングが全部一致していた。セシリアが射撃をした回数、合わせて30数回。そのどれもがすべて一緒だったのだ。
「まさか……こんなことが」
あまりの驚きで言葉を失う虚。楯無は真剣な表情のまま続ける。
「私もスローで見るまで気づかなかった。気づいたのは偶然だったわ。それにISであの動きをしていたのは生身でそれをやっていたからじゃないかしら?それをあれだけ同一のタイミングでこなすのは相当そういう事に遭遇していたって事になるわね。彼にとってはこれは日常茶飯事だったのではないかしら?」
おそろしいわね。と笑う主の楯無に虚は笑えない。
「笑い事ではありません」
「まあまあ、いつもそんな無愛想な顔してたんじゃいつまでたっても彼氏できないわよ?」
「死にますか?」
場を和ませる役割を持った台詞。しかしそれは虚にとって禁句だったらしい。
その言ってはいけない一言に虚からは尋常じゃない見えない何かが見えだす。言ってしまえばそこにいたのは修羅。思わず楯無は冷汗が垂れる。やりすぎた。その一心だった。
「じょ……冗談よ!」
「分かりましたから早く続きを説明してください」
いつもの状態に戻った虚に楯無は安心して続きを説明する。
「それに、違和感がないのがそもそも可笑しいのよ」
「違和感がないのが、可笑しい……ですか」
「最後の彼の攻防見てたよね?」
「はい。ブレードを盾に突っ込み、それを放棄、右手には手榴弾を放り投げ、その時にさり気なく左手に持ったスモークを落として置く。そしてライフルでの爆発に乗じて煙の中からブレードを取り切りかかるですよね?」
専用機を持っていればその機能のハイパーセンサーを起動すれば煙の中もすぐ見える。セシリア本人は手榴弾の爆発で煙の発見が遅れ、センサーもそれに最適するためには数秒の猶予がいたが、観客席から見ていた専用機持ちならば、最初から煙を見ていたため簡単に中は見えたのだ。
「そう、それでも気付かない?」
「いえ?一連の動作が素晴らしいとは思いますが……」
その言葉に楯無はパサリ、と扇子を開く。その扇子には『柔軟』という文字。
「頭が固いわよ。貴方も彼の経歴を見たんだから分かるでしょ?ISの操縦は初心者。それに加えてただの一般人。そんな人物がこんな動作を違和感なく、完璧に出来ると思う?出来るはずないわ……それを知る私から見たら違和感バリバリだったわよ」
あの一連の動作を見たとき、楯無は思わず鳥肌がたった。あまりにも簡単にそれを成し遂げる彼自身の技量に。あまりにも自然な動作。そう思えるのは毎日それを扱ってきたという証拠に他ならない。言ってしまえばあの精練された動きは彼にとっては当たり前に出来る動き。むしろISがそれを台無しにしてるとも感じとれたのだ。
「それならなおさら、妹様が危ないと思いますが……」
「そうよ!」
バン、と机を叩く。それはやりきれない楯無の怒りを表していた。
「彼の部屋割りは私のはずだった……それは承諾してくれたはず。なのに……」
ギリ、と唇を噛み締める。
彼の相部屋はもともと自分のはずだったと楯無は思う。最初から彼は怪しかった。経歴を弄っているので有れば、それを見破る力があると楯無自身自負していた。しかし、彼の経歴はそれ以前の問題だった。生まれてから16才までの情報は一切書いておらず。1年ちょっと高校に通ったぐらいの情報しか書いてなかった。
それは疑ってくださいと言ってるもんだと楯無は鼻で笑った。しかし、徹底的に調べてみれば本当に情報通りに彼の情報は無かった。何一つだ。本人に問い詰めても覚えてないの一点張り。医者に見てもらった診断結果も記憶喪失としっかり紙に示されていた。結局分からず仕舞い。一切謎な人物。それが楯無にとっては不気味でならない。
「たしかに承諾を貰ってましたね……ですが、一体誰が?」
「あの人しかいないわ。彼の事も何か知ってるんじゃないかしら……」
頭を抑えながらも楯無はあらかじめ予想はついていた。
「あの人ですか?しかし、何故です?」
互いにある人物が浮かび上がる。それは実質IS関係を取り仕切っている事実上の運営者。
「それが分かれば苦労しないわ。あの人の考え方は読めないわ……」
思い出すだけで心身ともに疲れる。
人心の掌握、交渉を得意と自負する楯無。しかしあの人物の考えは楯無をもってしても読めなかった。年を重ねた功か、自分の行動が全てのらりくらりとかわされ何一つ情報をえられず仕舞い。ニコニコと対応する姿は余計に腹立たく、そんな感情すらも分かってるかの如く煽って来るのだから、怒りを通り越して呆れてくる。
「では、どうしますか?」
八方塞がり、そんな状況の中。虚の質問に楯無はすでにどうするかを決めていた。
「あの人に聞きに行くわ。それが無駄骨なら……私が直接、彼と接触して正体を確かめるわ」
堂々と言い放ち扇子を広げる。その扇子には――――「覚悟」
その文字が刻まれた扇子を広げ不敵に笑う楯無であった。
『そっちの調子はどうだ?』
「あまり良くは無い。相変わらず変わらない」
今現在、携帯を片手に持ち部屋で電話をしていたのは零と木下博士だった。
『そうか?私としては君があそこまで打鉄を動かせた事に驚きだがな。随分と頑張っているじゃないか』
「……何故それを知ってるんだ?」
さっき行わなわれた試合。それも3時間前の出来事をまるで見ていたかのような物言いの博士にさすがの零も疑問を感じた。たしか今は本社にいるはずだが、と零は思考するがそんな考えをお見通しなのか、
『なに、前にも言ったが私の知り合いに頼んだだけさ』
「いや……まあ、もういい。それより何か用か?」
簡潔に答える博士。だがそれは頼んでどうこうなるものじゃないもののはずだと思うが零は割り切った。博士の行動に一々驚いてたらきりが無いからだ。思考を放棄しそう割り切る。何故なら電話の向こうでそんな自分の悩む姿を笑っている様な気がしたからだ。その知り合いはそれなりの地位の人間だということだけ頭においておけば良い。
『ふむ。面白くないな……』
「……用がないなら切るぞ」
怒りが蓄積される。あと少しでも溜まれば零は博士の所に乗り込むだろう。それぐらいの鬼気迫る物が今の零にはあった。
そんな零の気持ちを住み取ったのか、博士は用件を語る。
『近況報告と忠告の電話をかけたまでさ』
「忠告?」
『そうだ。こちらも映像で先の戦いを見たが、普通の人間には気付かないが優秀な人物なら君の異常に気付く。実際に知り合いからもそのことで色々聞かれたと言われた。まあ……本人は楽しそうだったがな』
博士が思い出すのは先ほどのやり取り。
いやいや困りましたよ。若い女性に迫られてハッハッハと困るどころか逆に嬉しそうだった知り合い。その笑顔が非常に憎たらしい。それだけならまだ良かった。しかしまだ飽き足らないのか、まだまだ私もモテ期が来てるんですかね?と調子に乗っていたのですぐさま電話を切り、奥さんに連絡したのは言うまでもない。
「善処はする」
「そうしてくれ。君の立場はいつだって危うい場所なのだからな……」
IS適正が低くISに乗れるだけの人物。価値はないように思えるが……誰もが持っていないたった一つの才能。男性ながらISを動かせるという力。それはこの世界を変えようと思っている、または女性に蔑まされる男性達にとっては喉から手に欲しい貴重なサンプルだった。解剖して世界のために役立てようとも考える輩はいくらでもいる。ISさえ動かせればこちらの物だというように。しかも都合の良い事に彼の後ろ盾は何もない。狙ってくださいと言っている様なものだった。
しかし、だからこそ――――
「アイツら……亡国企業にとっては良い餌になるだろうさ」
「そうだ。だからこそ、君は一般人のままでいて貰わないと困るのさ。IS学園に亡国企業のスパイがいても可笑しくはない。疑われると色々やっかいだぞ」
良くも悪くも傭兵としての零の戦場での評価は高く、同じ戦場を戦う兵士や傭兵達からは有名であった。
かつて零がいたフェンリル部隊。各国に突如現れては国が極秘に開発する兵器や、基地などを襲い破壊する。目的も何もかも不明であり、世界中の国の軍や上層部が警戒するほどの危険部隊。それもそのはず国の極秘中の極秘であるため、それ相応の部隊を守りにおいているにもかかわらず、その部隊はそれを容易く殲滅する。現場に増援が到着した頃には、そこにあるのは破壊された施設と味方の死体のみ。
そんな圧倒的な力を持つ部隊の長に立つのが零だった。もちろんその事を知る人物は皆無に近い。その部隊が実際にあると知っている国や人物は極少数。だから傭兵や軍の間には噂だけが広まったのだ。
曰く、幻の部隊がある、と。長に至っては一人で部隊を殲滅した。目を紅く輝かせ獣のように戦場をかけ次々と敵の命を刈る姿は青い狼……フェンリルの様だ。と様々な噂が飛び交う。
もちろんそれを知っている国は居場所を突き止め危険を承知で零本人を勧誘に来た事もある。だから目立つと正体が突き止められる場合がある。一度接触してるだけあって警戒はして置かなければ行けなかった。
「それは理解している。でも、本当に危険になった時はアレは使えば良いのか?」
「それは君にまかせる。君の人生だ。好きにするといい」
「助かる。また休みの時にそちらに寄るよ。色々教えて貰ったとはいっても、本業の人にアレは見てもらった方がいいからな……」
『それは助かる。こちらとしても新しい物が出来たからな……』
クックックとどこか不気味に笑う博士。その声を聴いた零は顔が引きつる。博士達が作るものにまともな物などないと本人が理解しているからだ。数々の実験が脳裏に浮かび上がる…………。冷や汗が止まらない。
「それは……俺に害はないよな?」
『何を疑っている。ある訳がないだろう?』
「何を当たり前の事をみたいに言ってるが……何回も死にかけたんだがな……」
『そうか……。と呼ばれたみたいだ。また追って連絡する』
零の反論を無視して軽い挨拶をして博士は電話を切った。何かやるせない気持ちが零の心を占める。脳裏に浮かぶは、累々と怪しい笑みを浮かべ手を振って歓迎する研究大好きなオタク共。
零自身。アレの整備をしてくれたり、武装を開発してくれたりするのはありがたいし感謝しているのだが、少し……いや、大分ネジが外れているため零本人ががあそこに行くといい玩具が来たと言う顔をされるのが零の悩みの一つだった。あの嘘偽りのない子供の様な笑顔が逆に不気味で怖いのだ。
深く考えても仕方ないと首を振る。その時はその時だ、と腹を括った零は明日の用意をするのであった。
何百年前。とある国があった。その国は他国とは違い、一つの国に三人の王様がいた。その国一つを三等分として三人の王様がそれぞれの領土を取り仕切り、互いに協力しあい、同じ国でありながら違った技術や文化などを見せ合い、交流し国の発展を高めていた。だからか技術発展が他を寄せ付けず圧倒的であり、最先端をいっていた。
それぞれの王様も仲が良く自分達の文化や技術をお披露目したりと王様が三人いるのにもかかわらず纏まり、とても平和で良い国であった。そんな国はピスリング。各国からはピースリング、平和の輪と呼ばれまさしく理想郷とも言えた。
その平和も長期に続く。もちろん途中で揉め事もあり険悪になった時もあったが、それでもひたすらこの独自の政策を貫き通してきた。だがそれも永遠に続く事はない。
一人の王様が突然病気で亡くなり、幼い子供が王を即位した事により歯車が狂い始めた。その幼い子供が王となり数年の月日が経ち、幼き子供の王が突然二人の領地を治める王に宣戦布告を宣言したのだ。理由は今もわからず仕舞い。それから二人の王は協力を結びなんとか自分達の国を守ろうと抵抗したが戦力は互いに拮抗し、次々と人が死に民は嘆く。終わらぬ戦争に国も段々と腐り始めていく。それでも戦争は終わらず国が腐敗していく中、戦争の技術だけは恐ろしいぐらいに発展していく。技術だけが一本立ちになり互いに疲弊を重ね、死亡者だけが増え続ける。
もはや国の秩序はなく、理想郷と呼ばれた国は跡形もなく、何百年経った今でも絶えず戦争は継続している。美しい文化は廃り、緑豊かな自然は荒野となり、美しい町並みは瓦礫に埋もれ、青い空は血の様に紅く染まる。人の絶叫、絶望、まさしく地獄そのもの。その様子から今では死の楽園とまで呼ばれる。
「これが二年前までのこの国について大体のあらすじだ」
IS学園の二時間目の授業。パンパンと教科書を叩きながらとピスリングについて、授業の一環として織斑千冬は語っていた。さらに千冬は続ける。
「諸君らも知っていると思うが、この国はずっと戦争を続け他国を受け付けない閉鎖的な国であったが、突如二年前その国は滅びた。原因は不明。その国を治めていた人物ももはや死んだと言われている。何か質問はあるか」
「その国はISは無かったんですか?」
その質問に手を上げて告げる一夏。その何も理解してない発言に溜め息をつきながら千冬は説明する。
「そんな国にISなど与えられるはず無いだろう。それに閉鎖的な国だと言ったはずだろう。こちらが関わなければ向こうからは何もして来ない。内部の状況も良く分かっていない」
千冬の説明通り、外の部外者では中の国について何も分かっていない。内部に入り込んで初めてその実態を知る事が出来る。しかし、それには相応のリスクを伴う。その国に入るだけでも難易度は高い。腐ったとは言え、技術は一流。兵の実力もある。たとえ入ったとしてもあるのは死の危険性が常に身に付き纏う。だから他の国も簡単には入れない。確かにISという圧倒的な技術を世界は手に入れはしたが、それはその一点だけ上回ってるだけに過ぎず、その他の技術はあちらの方がまだ高いと言わざる終えない状況であった。現にその技術欲しさに何人もの優秀な人材を各国は秘密裏に送り込んだが帰ってきたのは半分以下であり、大した技術や情報を得られず仕舞いであった。
進んで優秀な人材を失うわけには行かない国は関わらないのが一番だと理解したのだ。
ちなみに情報力がある国はそれがISによって滅ぼされた事を理解している。その情報を知っている国のIS関係者も地位が高い人物には教えられているだろう。現にIS最強のブリュンヒルデ。織斑千冬にもその情報は日本から伝えられている。どこの国の所属でもない謎のISが現れてその国に終止符を打った事を。
それが知られると世界は混乱の渦に陥るため極秘情報となっている。当たり前の事だが、所属不明のIS4機が一つの国を滅ぼした。そんな事を発表したなら世界はかつてないほどの不安に包まれるだろう。特にISを持たぬ国は絶望的といって良いだろう。最先端の技術を持つ国がISによって滅ぼされたと言うのだから。ISを持たない国やどの国も命を握られているのだ。だからこそ、それを知っている国はもちろん千冬も黙認している。
「分かっているのは最先端の技術を持ち、兵が強いと言う所か。今の所噂でしかないが、各国で行方不明になってる数々の人間はこの国に拉致されていたとも言われていたな。証拠はないがな……」
「では、何故。最先端の技術と兵が強いと言うのが分かるんでしょうか?誰も内部を知らない国なんですわよね?」
優雅に席を立ち発言したのはセシリア。その発言はたしかに的を得ていた。他の生徒も同調する様に頷いている。
その質問に千冬は一瞬考える素振りを見せるもやがて口を開く。
「これはあの国が滅びたから言えるが……向こうから来た人物がいたからだ。教科書には載ってないがな。何十年前の話だが向こうの地位の高い人間が数人、他の国に流れたらしくその時貰った技術は相当先を行っていた。そして兵も強者だったらしい。現に各国に流れたその人物達はその流れ着いた国で高い能力を遺憾なく発揮しその国で高い地位を手に入れた」
事実。アメリカやドイツなどはその恩賜を受け取っている。その人物の知能や持ち帰った技術を最大限に活かしあの国以外で常に先へ進んでいた。現にISにかんしてもアメリカやドイツの機体性能は他の国よりレベルが高い。もちろんそれは天才科学者束博士を除けばの話だが。
「他に質問はないか?ならこれでこの授業は終わりにする。次はISの授業だ。遅刻だけはないようにな」
生徒達に連絡を済ませ立ち去る千冬。
それを期に生徒達は次のISの訓練があるため、着替えをするために移動を始める。
そんな中、零は誰も居なくなった教室で呆然と椅子に座りながら佇む。先ほどの自分自身がいたであろう国の話を聞いて懐かしさがこみ上げ友の言葉を思い出していた。
『今が永遠に続けばいい?この日常を永遠に?おいおい!あいかわらずの刹那主義者だな。どれだけ祈ろうが、ずっと続くなんてことは、ありえねえんだよ。だいたいよォ。お前自身がそれを一番分かってんだろ?どれだけ力を手に入れても、こぼれ落ちる物があることおよォ。お前の大好きな今の日常も次の日には壊れてるかもしれねえだろ。……んな顔すんなよ。たとえ話だろ?それに、常にお前の先を行く俺が居るんだ。そう簡単にお前の刹那は壊れないだろ。要するにだ、あんまりあいつ等に心配かけさせるな。いくら優しい俺でもあいつ等を宥めるのは大変なんだからよぉ』
かつての言葉が零の頭をよぎる。相変わらず親友の言葉は恐ろしいくらい的を得ていた。永遠なんてものは絶対にありえない。
現に、あの望んでやまなかった仲間達との優しい日常の刹那は砕け、残ったのは憎悪のみ。
自分の刹那を奪ったあいつ等を許さない。許してなるものか、と零はギュッと手に力を込める。
かならずあいつ等を倒す。と改めて零は誓いを胸に、席を立ち教室から出て行った。
今回は説明回ですかね。早く楯無やら簪、ラウラの出番を増やしたいですね。次あたりでラウラ登場までは行きたいですね……無理そうですけど。出来るだけ早く投稿出来るように頑張ります。