IS-王と言う名の騎士-   作:osero

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第六話「中国代表候補生」

「ねえ、織斑君。転校生の噂聞いた?」

 

「今の時期に?珍しいな」

 

「そう。なんでも中国の代表候補生らしいよ」

 

 朝。教室は転校生の噂で賑わっていた。

 

 今はまだ四月。入学して数週間しか経ってない今、転校生が来るのだから女子達が騒ぐのも無理はない。

 

何故なら転入には国の推薦と試験が入学に比べ難しくなっており圧倒的に難易度が高い。

 

 そんな難関を超えた人物が来てるのだから噂好きの女子からすれば気になるのもわかる。ついでに代表候補生なのもまた気になる素材の一つであった。

 

(転校生。……凰か)

 

 その中で二人目のIS操縦者、零は教室の噂の女子。昨日のツインテールが似合う勝気の女子を思い浮かべていた。

 

 他のクラスで体格に似合わず、態度が大きく堂々としてる姿が容易に想像で出来る。

 

 『私は凰鈴音、中国の代表候補生よ!まぁ、よろしく頼むわ!』

 

(ありえるな……)

 

 そんな零の考えを余所に女子達はいつの間にか来月に始まるクラス代表同士のリーグマッチの話題になっていた。

 

 それは言葉通り、各クラスの代表同士が戦う物であり、この時期にやるのは本格的なIS訓練のスタート時点での実力指標を作るためだ。

 

 表向きはクラス単位での交流およびクラスの団結のためのイベント。裏は稼動データ、武器の試作品の試しなど、言ってしまえば各国の実験の成果を試す場所だろう。

 

 大抵、入学の数週間でクラス代表になるなど一般人には無理である。最初から国に有力視されているクラス代表候補生か、専用機持ち、などと国に重宝されてる人間がなる場合がほとんどである。新しい武器や性能を試すには良い機会であるのだ。

 

「織斑君!フリーパスのために頑張ってね!」

 

「私達の希望を織斑君に託すよ!」

 

「お、おう。頑張るよ。デザートがかかってる女子は凄いな……」

 

 一位のクラスが獲得出来る優勝商品。学食デザート半年フリーパスのおかげで女子全員は一同団結して燃えていた。淑女のセシリアは目を輝かせ、いつも不機嫌そうな箒もまたすこし機嫌がよさそうであった。

 

 その異様な熱気を受ける一夏の顔はもちろん引きつっている。女子のデザートに対する執念は恐ろしいものである。女子の背後に修羅が一夏にはくっきりと見えた。

 

「ごほん。気軽に頑張ってね」

 

 次第に自分を見る目に気づいた女子達は冷静を取り戻し取り繕うがもはや遅いだろう。だが、幸先の良い情報を教えてくれた。

 

「大丈夫。各クラス代表で専用機持ちは四組しかいないからアドバンテージが大きいよ。それにまだ出来てないらしいから。実質専用機持ちは織斑君一人だけだよ」

 

「おお、それならなんとかなりそうだな」

 

「――――その情報古いよ」

 

 その声と共に教室の入り口には先ほど噂にあった中国代表候補生であり、一夏の幼馴染でもある、凰鈴音が立っていた。

 

「二組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単には優勝できないから」

 

 腕を組み、片膝をたててふっと笑みを漏らす鈴。だが――――

 

「お前、もしかして鈴か?……それより何格好付けてるんだ?すげえ似合わないぞ」

 

「んなっ!?なんてこと言うのよ、アンタは!」

 

 あまりにも似合っていないため一夏に突っ込まれる始末。零にいたっては想像通りすぎて、無表情ではあるが面白がっていた。口を押さえてるのが軽い証拠だろう。似合っているのは左右に揺れているツインテールぐらいであった。

 

 その後の出来事は鈴が後ろにいる鬼、いや教師である千冬の出欠簿を食らい泣く泣く退散していった。相変わらずのキャラである。その様子を眺めながら零は次の授業の用意を始める。

 

 一方で一夏を好いているセシリアと箒は新たな幼馴染の登場で授業が頭に入らず、千冬の出欠簿の打撃を何回も食らう羽目になるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、あんたは寂しく一人で食事?一緒に食べる人もいないの?」

 

「まぁな。凰こそ幼馴染との会話はもういいのか?」

 

 授業も終わり、皆が学食で食事を取る中。幼馴染の一夏と喋っていた鈴だったが、食事を食べ終え食堂を出ると思いきや零の席に腰を下ろした。

 

 それに気づいた零は箸をおきお茶を飲みながら話を聞く。

 

「まぁね。もっと喋っていたかったけど、知り合いがこんなに大勢人がいる中一人ぼっちで食事してたら気にもなるわよ……」

 

 零れる溜め息。

 

 それもそのはず、これだけ人がいるなか昨日自分に道案内をしてくれた男子は一人で食事を表情一つ変えることなく黙々と取ってるのだ。あまりにも空しい光景に自分なら耐えられない、と鈴は思いこうして声をかけたのである。見ていられなかったのである。そんな鈴の優しい思いとは裏腹に当人は陽気にお茶をすすっていた。

 

「あまり歓迎はされてないんでな……嫌悪の視線を向けられるよりはだいぶマシだがな」

 

「まぁ、それもそうよね。あの操縦技術だもんね……」

 

「あのテレビ中継のやつか……」

 

 そのときの光景を思い出してか苦笑いの零。

 

 IS操縦者を大々的に取り上げたものであり、零が墜落したものでもあった。結果としては木下零という名前は別の意味で有名になったものである鈴が覚えているのもそういう理由であった。

 

 やはりそれが自分の中を見たときの第一印象なのだろう、と深く頷く零である。

 

「あれは男子の威厳を取り戻そうとする連中がまともに操れもしないとわかってるのに無理やり乗せたあいつ等が悪い。適正Fで乗れるだけって事は事前に知っていたんだからな」

 

「ふう~ん。アンタも大変そうね。私も昨日道案内して貰わなかったら、今の女子とたいして評価は変わんなかったでしょうね」

 

 周りの視線を感じての一言。あいかわずはっきりとした物言いである。

 

「今は違うのか、てっきりこの状況を笑いに来たんだと思ったんだが……」

 

「そんな訳ないでしょ!私をどんだけ酷い人物と思ってんのよアンタは!」

 

「落ち着け。そんなことより食事待ってもらうのは悪いからな……これ食べるか?」

 

 ――――可愛い。

 

 怒りはすぐさま収まりおもわず鈴はそう思ってしまった。 

 

 ごそごそとポケットから出したのは綺麗に包装されたクッキーだった。特に鈴が目を引いたのはクッキーの形だ。ウサギやら猫、犬と可愛らしい動物がいっぱいあった。色もちゃんと動物に合わせてあり、鈴の目がキラキラ光る。クッキーに釘付けであった。

 

「し、仕方ないから貰ってあげるわ」

 

 異性から貰うというのに慣れていないのか、恥ずかしいそうにほのかに頬が赤く染まっていた。照れくさそうにその包みを受け取り括っていた紐を取り犬のクッキーを口に含む。

 

「ッッ!美味しい!」

 

 甘すぎず、かと言って甘くない訳ではなく、絶妙な甘さ加減であった。

 

 幸せ。とクッキーをころころ口の中に転がす鈴は猫のようである。先ほどの怒りが嘘と思うほど今は子供のような笑顔であった。普段からこの顔なら可愛いであろう。

 

 それを見て、扱いやすいな――――と思った零は悪くないだろう。

 

「なら良かった」

 

「でも、なんでアンタがこれ持ってるのよ」

 

「まあ、食堂のおばさんと仲良くなってな。色々使わせて貰ってる。自分の立場を心配してくれる優しい人物でな。おかげでこうしたクッキーとかも焼かせて貰えた」

 

 今の時代の風潮の影響の事で酷い事されてないか、とこちらの身を本当に心配してくれているのだから零にとって感謝の念しかない。

 

 男女差別なんて碌なもんじゃないですよ、とはっきり言える良く出来た人物である。

 

「それでも自分で作ったんだ?」

 

「クッキーは色々練習したからな……いや、させられたの方が正しいか、おかげでここまで上達出来た」

 

「見た目も可愛いし美味しいんだけど、なんか女として複雑だわ……」

 

「練習すれば誰でも出来る。なんなら作り方教えるか?」

 

「ほ、ほんと!?いいの?」

 

 ずいっと顔を寄せる鈴。よほど美味しいのだろう、目に星が見えた。あまりにも純粋すぎた。だからこそ零の悪い癖が出た。

 

「すまん、嘘だ」

 

「あ、あんたねぇー!!わ、私の気持ちを踏みにじったわね!」

 

 ふしゃー、と猫のように体を震わせ怒りの鉄槌とばかりにパンチが放たれる。普通の女子であればポコポコと可愛らしいパンチだが、そこは鈴、手加減なしの本気のパンチである。だが――――

 

「なんで当たらないのよ!」

 

 零は涼しげな表情で左手で鈴のパンチを弾く。右手は暢気にお茶を啜っていた。

 

 納得が行かない鈴は負けじと両手で対抗したが無駄骨であった。

 

「落ち着いたか、まあさっきのは冗談だ。今度レシピ書いて持ってくる」

 

 全てをことごとく防がれ机に顔をつけもたれかかる鈴にそう伝え、食事を食べ終えた零は席を立つ。

 

「覚えてなさい」

 

「そんな怒るな。それじゃあ俺はここで失礼する。一組はこの後はIS実戦の授業だからな。ISスーツに着替えないといけないからな……それと喋り相手、感謝する。」

 

  そのまま意気消失している鈴を置いて零は食堂を出て行った。

 

「ほんとに覚えてなさい……」

 

 言葉ではそう言いつつも、鈴は怒っていない。むしろその表情は楽しそうだった。

 

 昨日と同様で無表情ながら、出る言葉はこちらを馬鹿にしてるかのようなものばかり。だが、馬鹿にしてる訳でもなく、それで本当にそう思って言ってるのだから余計に性質が悪い―――と思うと同時にこういうさりげない優しさを持っているのだからなんだが憎めなかった。

 

「……美味しい」

 

 また一口クッキーを口に含む。さっき食べたクッキーよりほんのり甘く感じた鈴だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後。零は山田先生に事前に予約して貰っていた訓練機を借りてのIS訓練をしようとアリーナに来ていたのだが、ISには乗れず、呆然と観客席で座っていた。 

 

(まさか、自分が予約していた訓練機が貸し出されてるとは……)

 

 零の目に映るは自分が乗るはずだった訓練機。箒が操る打鉄が白式と打ち合い火花を散らしていた。なかなかの接戦であった。ついでにブルーティアーズを纏うセシリアも視界に入る。

 

 「自分が嫌いで嫌がらせで貸したのか、それとも篠ノ之束の妹だから優先して貸したのかどっちだろうな……」

 

 首をポキポキ鳴らしながら現状を把握していた。

 

「はぁはぁ、零君!」

 

「どうも山田先生」

 

「えっと……これは一体……」

 

 アリーナに着いた麻耶もこの状況に驚く。自分が一生徒のために予約していたはずの訓練機が使われていたのだから。

 

(どうして……)

 

 愛用のメモを何回も見直すも間違いではない。しっかりと記入してある。

 

 なんで?どうして?そんな疑問が麻耶の頭を過ぎる。

 

「えっと、何かの間違いだと思うので確認してきますね。……どうしましたか零君?」

 

 何かの間違いだと思い許可を出した同僚の先生に確認を取りに行こうと思った麻耶だったが零に手を掴まれていた。

 

「もういいですよ。何かの手違いがあったんでしょう」

 

 日常茶飯事なのでなんてことはなく、当人はまったく気にしていない。

 

 むしろこれ以上、麻耶の立場を悪くしたくないため裾を掴み止めたのだ。

 

 普段とは違い険しい表情を浮かべる麻耶を見たくなかったのもある。

 

「でもっ……!」

 

 それに激しく声を上げるが、次第に俯く麻耶。髪が掛かり表情が隠れる。

 

 しかし、体は小刻みに震えていた。

 

 普段の麻耶ならすいません。と誤りそれで終わっていたはずだが、今回の零の件に関しては我慢しきれなかった。

 

(こんなの間違ってます)

 

 麻耶とて馬鹿ではない。

 

 今のこの状況がどういうものか既に理解していた。

 

 零という自分の一生徒が邪険に扱われたことに。

 

 それも生徒からではなく、同じ教師によるものだと言う事に気づいたのだ。

 

 本来、放課後にISを使う際には事前に申請を出さなければならない。そしてそれを承諾して管理するのは教師の仕事である。

 

 ISを貸し出す際。日程の間違いはあるものの、貸し出す人間の間違いは本来起こりことはありえない。

 

 放課後の各アリーナには大抵教師が中継室で待機しているのだから。

 

 なのに今現在、麻耶の眼鏡越しに写るのは本来、零が乗るはずであった打鉄を操り白式と打ち合う箒。

 

 思わず手に力が入る。

 

 生徒の手本となる教師が生徒を差別するなど、自分の職に誇りを持っている麻耶としては許せるはずがなかった。

 

 悲しみややるせない思いが麻耶の心を占める。

 

(田中先生……ですか)

 

 中継室に目をやれば、それは自身が最も苦手としている同僚の姿が目に入った。

 

 その人物は今の風潮を色濃く受けた、男性嫌いの典型的な人物であった。

 

(すぅー。はぁー)

 

 胸に手をやり深く深呼吸して熱くなった頭を冷やす。

 

(自分がしっかりしないと!)

 

 よし、と気合を入れ直し不機嫌そうな顔からいつもの優しげな顔に戻る。

 

 冷静になった麻耶は抗議に行ってもはぐらかされて無駄になると悟り行くのを諦めた。

 

「すいません木下君。今回は諦めて下さい」

 

「いえ、いつもお世話になってるのは自分ですからね。こんな自分の為に……本当に感謝してます」

 

「こんな、とかあまり自分を貶すのは駄目ですよ。それに木下君にはしっかりと才能があるんですから」

 

 頭を下げる零に姿勢を合わせ、

 

 めっ!と、指を立てて優しい顔で怒る麻耶。

 

 こういう姿は教師にはとても見えない。むしろ、男性を虜にするであろう可愛らしい仕草である。

 

 そんな麻耶の偽りのない本心に零は思わず口を緩めた。

 

「やはり山田先生は可愛いですね」

 

「えぇ!?か、からかわないで下さい」

 

 突然の言葉に戸惑う麻耶。

 

 零とて他意はない、それなりの信頼を置く人物には思ったことを言う性格なのだ。

 

 顔が真っ赤に染まり、両手で必死に顔を隠す。

 

(か、可愛いだなんて、そ、そんなこと……)

 

 熱い頬を手で押さえながら落ち着いて、落ち着いて、と繰り返す。

 

 しかし普段。言われ慣れてない言葉にどぎまぎしながらあたふたと慌てふためく。

 

 そんな麻耶の姿を気にせず零は続ける。

 

「本当に感謝してますよ。適正Fの自分がISをしっかりと動かせることが出来る所まで来ましたし。それもこれも山田先生の指導のお陰です。これからもお願いしますね」

 

「あ、いえ、そ、そんな大袈裟ですよ。先生として当たり前のことで……その、これからもしっかり見ますから」

 

 手をバタバタさせて照れる麻耶。此処まで信頼されていることについつい嬉しくて口がにやけそうになる。

 

 それを見られたくない一心で後ろを向き顔を隠す。

 

 だが、耳も赤いので全然隠せてない。

 

 零はその様子に首を傾げるだけで気づいてはいない。むしろからかいすぎたか、と頭を悩ませる始末。

 

(こんなに頼りにされてるなんて……恥ずかしい。ですがとっても嬉しいです。これからも頑張らないと!別に異性とか、そんなんじゃなくて、生徒と教師の立場として)

 

 先ほどとは別の意味で頭が熱くなった麻耶ではあるが、パチンと両手で顔を軽く叩き引き締める。

 

 まだ顔は若干赤いままである。

 

「木下君。これからもどんどん頼ってくれていいですよ」

 

「そうですか。それなら今日はせっかく専用機の試合がみれますから、それを見て自分が生かせそうな動きを教えて欲しいですね」

 

「はい!」

 

 先ほどの怒りはあっという間になくなり、それすらも本人はもう覚えてないかも知れない。

 

 それくらい、麻耶はうって変わり普段の優しいオーラが二割り増ししていた。

 

 後ろにお花畑が見えるのも幻覚ではないのだろう。

 

(良かった。やはり山田先生は笑顔が似合うな)

 

 えへん。と胸を張り、張り切って説明するのを横目で確認しながらそう思う零。

 

「やはりPICの扱い方が代表候補生は良く出来てますから。それを……て聞いてますか木下君!!」

 

 頬を膨らませる麻耶を軽く宥めながらアリーナに視線を戻す零であった。

 

 教師と生徒のいい見本である光景がそこにはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕日が落ち、外が暗くなった時間帯。

 

 IS学園の整備室。

 

 そこには簪の姿があった。

 

 さすがにこの時間帯では居残りしてる人はおらず、静けさが整備室を支配する。

 その中で簪の打ち込むキーボード音だけが整備室に響き渡っていたが、それも手が止まりなりを潜めた。

 

(上手くいかない……)

 

 簡易ディスプレイに写るは簪自身に用意された専用機体、名を打鉄二式である。

 

 コンセプトはリヴァイヴの汎用性を参考に全距離対応型に組み上げられた機体。

 

 その性能は第三世代に相応しい物だった。だが、機体の状態はあまりに未完成であり、まだまだ完成には程遠いものだった。

 

 本来なら倉持研究所が彼女の為の専用機として完成させる目処だった。

 

 しかし、世界初の男性操縦者。織斑一夏が現れたことにより、簪の専用機は後回し、はっきり言うなら放置されたと言うものだろう。

 

 IS開発者。篠ノ之束のお手製のIS白式。それが一夏の専用機の目処がたたなかった倉持研究所に送られてきたのだから、企業、又は研究者の喜びは計り知れなかった。それに付け加えもともと倉持研究所にあった使えない欠陥機のコアがIS開発者によってお手製のISに変身したのだから喜びも二倍であった。

 

 IS開発者の機体。普通の機体であるわけがない。技術は1歩も2歩も先をいっているに違いない最先端の機体。

 

 もはや代表候補生の専用機などに構ってる暇はなかった。一刻も早く研究し、技術を吸収しようと躍起になる研究者。

 

 そんな企業の対応に日本の代表候補生の簪は自分でISを作る決心をしたのだ。

 

 もちろん個人にISコアを任せるのは普通ならばありえない。IS一つで世界が動く程の代物なのだから。

 

 しかし現ロシアの代表。更識楯無――彼女の姉が一人で専用機を作り上げた実績を省みてその妹の簪に1年以内の時間制限を貰えたのだ。

 

 そんな過程がありこの期限の一年間になんとしても専用機を完成させなければ行けなかった。

 

 それこそ無理をしてでも。

 

 そんな簪の決意とは裏腹に順調とは行かず作業は停滞気味であった。今も機体のシステムを構築していたが上手くいかず手が止まっていた。

 

「はぁ……なんでッッ!」

 

 頭に手をやりばさばさと髪を乱す。しばらくそのまま頭を押さえていたが、やがて椅子に寄りかかり深い、深い溜め息を吐く。天井の無機質な壁を呆然と眺める。

 

 上手くいかないときの簪のよくする癖であった。

 

 顔も食事と睡眠をとってないからか、隈が少し目立っており顔色も余り良くなかった。

 

(誰か来た?きっと、忘れ物を取りに来た生徒かな……)

 

 だからか、ドアが開く音が聞こえはしたが気にする事は無かった。

 

 しかし足音が段々近づき自分が使っていた机に何かが置かれた。

 

「大丈夫か?」

 

「えっ……」

 

 目の前には苦笑いを浮かべた人物がいた。

 

 ぼおっとしていたために瞬く思考が働かず、呆然としていたがようやくその人物に気づく。

 

 いつもの似合わない丸眼鏡はかけておらず、無造作に伸びたぼさぼさの髪も綺麗に整えられていた。

 

「……れ……い?」

 

 余りにも普段の違いに一瞬だれかわからなかった簪。

 

「そうだ。それより大丈夫か、随分と疲れていたようだが……」

 

 顔色が優れないため心配そうに顔を覗き込むが、反射的に仰け反る簪。

 

「だ、大丈夫」

 

(み、見られた)

 

 先ほどの自分の一連の行動を省みて恥ずかしさがこみ上げ言葉が詰まる。必死にぼさぼさに乱れた髪を戻しながら用件を聞く。

 

「な、何か用?」

 

「あぁ、今朝作り過ぎてな。良かったら食べるか?」

 

 言われてようやく机に置かれて物に気づく。

 

 シンプルな蒼の四角の形状の箱と水筒が簪の目の前にあった。

 

「お弁当?」

 

「今朝作ったんだが作り過ぎてしまってな……捨てられるには勿体無い、だからといってあげる人物もいないからな」

 

「私、大丈夫。お腹すいて――」

 

 反射的に断ろうとした簪のお腹から可愛らしい音が鳴り響く。

 

(な、なんで、今!)

 

 かぁぁ!と、自身の顔が赤くなる。

 

 今にも湯気が出そうな勢いであった。穴があったら入りたいと思う簪。

 

 あまりの恥ずかしさに俯く。顔が自分でも分かるくらい非常に熱かった。

 

 ちらりと視線をあげると、顔を横に逸らし口を押さえる零がいた。

 

 必死に隠そうとしているが、クックック、と笑い声が漏れていた。

 

 そんな姿にまた羞恥心が襲う。

 

(どうして……もう!)

 

 馬鹿、馬鹿と自分の腹を恨む簪。

 

 数分前に戻りたいと切に願うも無常にも時間は進むだけで戻りはしない。

 

 視線に気づいた零は咳払いし、必死に笑いを堪える。

 

「そ、それでお腹すいていないから食べないのか?」

 

 今のを聞いといてあえてそう言うのだから意地悪である。

 

「た、食べる」

 

 睨みをきかせながら弁当を受け取る。

 

 せめてもの反抗である。

 

 しかし、そこに怖さは微塵も無く。むしろ純真無垢の子供らしい可愛らしさがあった。

 

「そう言えばここで食事して良かったか?」

 

「駄目。いちを近くにそういう場所がある。そこに机もある」

 

「そうか。まぁ体壊さない程度に、な」

 

「え……」

 

「どうかしたか」

 

 邪魔しちゃ悪いと思い身を翻して帰ろうとした零だったが、驚く簪に首を傾げた。

 

「いや、あの……」

 

 引き止めた本人も戸惑う。自分が食べ終えるまでいてくれると思っていた為につい声が出てしまったのだ。引き止めてしまった手前、どうしようと慌てる簪。

 

 そんな姿を見た零はそんな簪の思いに気づいたのか気づいてないのかは分からないが口を開いた。

 

「部屋に戻って食べるか?それとも、そういう部屋で取るか?」

 

「きょ、今日はもう終わりだから部屋に戻る……」

 

「そうか。なら一緒に帰るか、もう外も暗いしな」

 

 外は星すらも見えないほど暗闇の空であった。

 

「うん。少し外で待ってて……電気落としてくる」

 

「あぁ。分かった」

 

 簪はディスプレイを急いで消し、小走りで行くのを見送りながら零はポツリと言葉を漏らす。

 

「打鉄二式の開発の急務に、姉へのコンプレックス。……無理をするのも当たり前か」

 

 本来、誰も知り得もしない情報を吐く零。

 

 組んでいた腕を解き、寄りかかっていた壁から背中を離す。

 

「押しつぶされなければいいが……」

 

 そう吐いた後、心配そうな顔をしながら歩く。部屋を出る頃にはいつもの無表情に戻っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれからさらに数週間がたち、五月。クラス対抗戦の初日が幕を開ける。

 

 朝、天候は澄み渡るくらい青い空が浮かび絶好の試合日和であった。

 

 食堂の隅の席にはもはや特等席ともいえるくらいにいつも通り零が食事を取っていた。変わったことがあるとすればそこにツインテールを揺らす鈴が一緒に食事を取っていることだった。朝の時間にしてはまだ結構早い時間なので人は数人しかおらず、おちついた朝食であった。

 

 零は自作の弁当。鈴は朝から豪快にラーメンを啜っていた。

 

「朝からラーメンか。それより結局試合当日まで仲直り出来なかったんだな……」

 

「う、うるさいわね。アイツが鈍感すぎるのが悪いのよ!あ、卵焼き貰うわね。んーー相変わらず美味しい!料理も美味しいなんてあんた生まれてくる性別間違えてんじゃないの?」

 

 この数週間、鈴は思い人の一夏と喧嘩をしたらしく、こうして朝は毎日二人で食事を取るのが日課となっていた。

 

 今もその話題で不機嫌になったが、零の卵焼きをひょいっと箸で摘み口に含み笑みを浮かべながら失礼な一言。そんな言葉に慣れているのか平然と言葉を返す。

 

「朝、キッチンを貸して貰っているからな。仕込み中の合間に食材の味付けや、お弁当の見栄えの色分けなど詳しく教えてくれてるんだ。あの人に教えて貰えれば誰でもこれくらい作れる」

 

「ふぅーん。それより朝、弁当二つ作ってるけど誰にあげてるの?」

 

「同じ部屋のルームメイトだな。四組の更識簪だ」

 

 その言葉にピクリとラーメンを食べていた鈴の箸が止まった。

 

「あんたも女子と同部屋なの?どうなってんのこの学園は」

 

「俺もそれにはまったくもって同意見だ。もし何かあった時どうするつもりなんだろうな」

 

「まぁ、今の風潮で男子が大胆な事は出来ないって思ってるんじゃない?それより更識簪って……日本の代表候補生じゃない」

 

「知ってるのか?」

 

「知ってるわよ。クラス対抗戦で出るクラス代表者の試合記録は全部チェックしたわよ」

 

 そう言って豪快にラーメンの皿を両手で持ち上げ豪快に汁を飲み干し口を腕で拭った。その目は勝気の鈴にしては珍しく、不安の色が宿っていた。

 

「さすが、IS操縦者が多い日本の代表候補生なだけはあるわ。他の代表候補生より、練度が高い。どの距離でも対応出来る適応力に空間把握能力がずば抜けて高わね。射撃も近接も総じて能力が高い万能型」

 

 鈴が素直に人を褒めることは珍しいことだった。それほど簪のレベルが高いのだろう。

 

「よく調べたな。実際に見たのか?」

 

「まぁ、代表候補生ともなるとそういうISの戦闘記録があるし、動画が見れるのよ。もちろん見せたくない物は見せないけど、アピールするためにISの戦闘記録が見れるやつもあるのよ」

 

 そう言って、忌々しそうに鈴はその動画を思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 実際に鈴が簪が操るラファール・リヴァイヴの戦闘記録を見たのは三日前。それまでは次の対戦相手、織斑一夏が操る白式の動きを観察していた。実際に稽古訓練でだいたいの白式のスペックと一夏本人の技量を把握し終えたために部屋で記録を見ることになったのだが、そのビデオは簪が日本の代表候補生を決めるための試合であった。

 

 相手は打鉄を操る操縦者。もちろんレベルは低い訳がなく、候補生レベル。試合展開はレベルが高かった。

 

 最初に攻撃を仕掛けたのは打鉄を操る操縦者。

 

 すぐさま間合いを詰めに入る。しかし、簪もそれは読んでいる。すぐさま後退しながらアサルトライフルを呼び出し放つ。無論相手も候補生の候補、やすやすと当たる訳はなく、回避し、ジグザグな動きで標準を定めさせない、不規則な機動をえがく。一発、二発と正確無比な銃弾をかわしきりそのまま瞬時加速。

 

「はぁ!!!」

 

 自身の刀の間合いに入った。相手は簪の懐に入り鋭く刀を振るう。だがそれは当たることはなく空を切る。

 

「甘い……」 

 

 簪は完璧な見切りにより、ほんの少し後退することによってその攻撃を避けていた。それと同時に左手には連装ショットガン「レイン・オブ・サタデイ」がすでに展開されており火を噴いた――――――が絶妙なタイミングで放たれた攻撃も、相手はしっかりと左手の実体シールドでしっかりと防ぎきっていた。

 

 しかし、全てを防ぎきることは出来ず多少は被弾しつつシールドエネルギーを消費したが気にせず距離を詰める。

 

 やすやすと自分の得意な距離から逃がすほど甘い相手ではない。

 

 上段からの振り下ろし、突き、すかさず返しの太刀と逃がさないとばかりに怒涛のラッシュで攻め立てるが、簪は冷静だった。初撃の太刀を距離を取って避け、胸に迫る脅威は体を半身にして最小限の動きで避ける。最後の返しの太刀は右手のアサルトライフルで太刀の側面に当てて攻撃を受け流す。そして体制を崩した所にカウンターを叩き込んだ。

 

「グッッ……!!」

 

「リヴァイヴだからって近接戦は出来ないとは限らない……今度はこちらから行く」

 

 ショットガンを直に食らった相手は衝撃で吹き飛ばされ距離が開く。その隙を逃さず簪はさらに追撃を仕掛けた。

 

「早い!?ラピットスイッチまで……」

 

 相手が苦痛を浮かべて一瞬目を離したときには既に簪の手にはマシンガンが二挺握られ弾が放たれていた。

 

 それに対して相手は状況を立て直すために被弾しながらもそのダメージを最小限に留め、その場から空中に逃げる。簪の逃がさないとばがりに近すぎず遠すぎない絶妙な距離を保ち攻め立てる。

 

 そこからは確実な動きで簪は相手のシールドエネルギーを順調に削っていく。相手は距離を取ることも近寄ることも出来ず苦戦を強いられていた。近づけば手数が足りず受け流されショットガンの餌食。中距離と遠距離に逃げればマシンガンとアサルトライフルの餌食と空中戦は明らかにリヴァイヴの機動に翻弄されっぱなしであった。

 

 不利を悟った相手は空中戦をやめ地面に降り立つ。もちろん簪は上から弾を放つが、相手は器用に交わしていく。

 

 回避だけに専念した相手を見て、空中からの攻撃は当てにくいと悟った簪は同様に降下し、対面に降り立つ。

 

(いちかばちか突破するしかない!!)

 

 このままじゃ埒があかない、そう判断し相手はエネルギーを爆発させ実体シールドを掲げながら突撃を図る。銃弾の嵐が打鉄を襲いシールドエネルギーを削る。それでもマシンガンの嵐を潜り抜け両手にブレードを掲げ襲い掛かる。

 

 懐に入られた簪は左右から迫り来るブレードを器用かつ流麗に受け流すがついに捕られた。アサルトライフルを切り伏せられもう片方のブレードが簪を弾き飛ばす。弾きとばされながらも右手のショットガンを相手に向けたが相手はそれを左手に持つブレードを投げ破壊。

 

(行ける……これで終わり!)

 

 吹き飛ばされ武器を破壊し体制を崩したリヴァイヴを見て、勝てる確信を持つ。すかさず間を詰めとどめの刺突を放つ。

 

 鋭く、速く、完璧なタイミングでの刺突。不利な体制であり、武装も手元にはない、受ければ絶対防御が発動し勝負が決まる逆転の一撃だった

 

が――――――

 

 

 

「更識流――――秋燕」

 

「え…………」 

 

 必中を確信した技は見切られ、気づけば打鉄を操る相手は仰向けに倒されていた。

 

「な……なんで……わ、わたし、倒れてる」

 

 呆然と吐く疑問に簪は簡潔に答えた。

 

「回避と攻撃の両方をいっぺんにしただけ」

 

「でも、私には何がされたか分からなかった……」

 

「ISだからって全方位を把握出来る訳じゃない。集中して攻撃するとき、視野は狭まる。私はただ貴方のブレードを見切ると同時に攻撃しただけ」

 

 あの時、簪は迫り来る攻撃を紙一重で避けると同時にラピットスイッチで右手に近接武装、ブレッドスライサーを展開しアッパーの要領で下から顎にカウンターを決めていた。

 

「あと……派手に吹き飛ばされたのは攻撃を誘うためのフェイク」

 

「なぁ……!?」

 

 最後の試合を決めた簪の動き。

 

 更識流――――秋燕

 

 回避と死角からの攻撃を同時に行う高等技術。使える時は相手の攻撃を制限し、なおかつ、相手の動きを把握すること。使える場面は限られるが、その代わり効果は絶大である。相手が攻撃を行ったときすでに相手は見えない攻撃で意識を落とすのだから。

 

 だから簪がわざと吹き飛ばされたのも、体制を崩していたのも全てが相手の行動を制限しその技を使いたかったのが理由だった。

 

 IS戦であるために意識こそ落とさないが、衝撃は伝わるに合わせて意識外からの攻撃もあってIS戦でもその技は有効であった。

 

「それでも最後の攻防は危なかった……」

 

 一言そう呟き会場を悠然と立ち去る。

 

 そこで映像は途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(やっぱり今思い出しても、レベル高いはね……それでも私は負けられないけど)

 

「おい、大丈夫か?」

 

「あぁ、うん。ちょっとその試合内容思い出してね」

 

「まぁ、後のことを考えるのはいいが、まずは目先の試合に集中したほうがいいと思うがな」

 

「そうね、後のことはその時考えれば良いわね」

 

「その方が鈴らしいな」

 

 らしくない態度は似合わないといつもの調子に戻った。今はこれからある試合に備えようと気合十分の鈴。

 

 それを確認しながら湯気が立つお茶を口に含める零。

 

 二人の朝はいつも通りの光景であった。

 

 

 

 




とりあえず投稿しました。


これからもこれぐらいで投稿できたらいいなと思います。

さてアリアの方書くか……
 
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