IS-王と言う名の騎士-   作:osero

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第七話「鈴の覚悟」

鈴は今の目の前の現状がよく認識できないでいた。

 

できないというよりも脳が今の現状が正しいと認めたくなかったのである。目に写るは燃え盛る炎。アリーナの一部から煙がもくもくと上がっている。混乱し逃げまとう生徒。アリーナはパニックに陥っており負の感情で溢れていた。

 

 その元凶は謎の未確認ISであった。通常のISとは違いゴツゴツとしており全身装甲というどこか不気味なIS。全身黒い装甲が一層不気味さを際立たせている。突如空中から流星の如く、遮断シールドを破り現れた。

 

 ぐるりと何かを探す仕草を見せ目標としていた人物を発見できたのかぐるりと周っていた首が止まる。その視線の先には二人目のIS操縦者である木下零。機械でできた腕を振り上げビームを放ったのだった。

 

 普通ならばアリーナの観客席にはISのシールドエネルギーと同等の遮断シールドが作動するはずなのだったが……何故か(・・・)彼の所だけ何故か起動せず生身のまま死という光に呑まれていったという理解しがたい現実が目にやきついていた。思わず息を呑んだ。

 

「な……な、なんで……」

 

 口が震える。手や足、体中がうすら寒い。喉が詰まり掠れた声しかでない。頭が直接鈍器で叩かれているような、頭痛と眩暈が鈴を襲う。

 

 どうして、なんで。と、言葉がはんしょくするも答えは出ない。否定しようにも目に入った情報が正しいと鈴に告げる。

 

 ――――レイは死んだのだと。

 

自分は助ける事が出来る立場にいながら今なにをしていた?ISと言う機体を纏い助けられる位置にいながら、それを呆然と眺めている事しか出来なかった。

 

 さっきまで一緒に食事をしていた。嫌な顔しながらも愚痴も聞いて貰った。想い人に約束を忘れられ傷ついた自分を慰めてくれた。ちょっぴり不安だったIS学園で居場所をくれた。そんな楽しかった日常が一瞬で崩壊したパズルのように非日常に変わった。

 

「な……んで……どうして……ぁぁ……」

 

「鈴!しっかりしろ!!」

 

 彼女はIS越しに苦しそうに両手で頭を押さえる。

 

 認めたくない。認めたくない。認めたくない。だけど、どうして……。違う、違うんだ。と、訴えかけるも先ほどの死という光に呑まれた彼の姿が目に焼きついている。

 いつも皮肉を言う零。嫌そうな顔をする零。常にやる気のなさそうな表情の零。

 

 数々の表情が浮かびは淡く消えていく。もうあの顔は見れないのだと鈴は自覚して……

 

 あの笑顔が自分の当たり前の日常の一部だったんだと今頃理解して……

 

「アァ……ァァッッッァァアアア!!!」

 

「鈴っっ!落ち着け!!」

 

 ――――殺す、殺す、殺す、ユルサナイ!!

 

 ドロドロとした形容しがたい感情が止め処なく溢れ出す。幼馴染の声すら耳に入らず鈴は憎悪の瞳を浮かべ謎のISに突貫した。

 

 どうとでもなればいい。どうなってもいい。ただ、あのISだけは殺すと彼女は獲物を振り下ろした。

 

 

 

 

 

 時はIS襲撃から数時間前に遡る。

 

 朝。朝食を食べ終え鈴と別れた零は部屋に戻り毎日の日課となったお弁当を簪に渡す。「ありがとう」とお礼を述べた簪に気にするなと返事を返しながらもお湯を沸かす。

 

 お湯が丁度いいくらいに沸騰したのを確認し紅茶を入れる。その動作は自然と様になっており、普段から入れなれてるのが理解出来る程。最初からお湯でカップを温めており、お湯を茶葉の入ったカップに注ぐ。

 

 紅茶の基本をしっかりと押さえてる動作であった。

 

 入れ終えた紅茶を机に持っていき、二人分のカップを置き零は簪の対面に座る。それをじっと観察する簪。彼女の目からしてちょっと大きい丸眼鏡から覗くブルーの綺麗な瞳が零を映していた。無表情であるが、1ヶ月共に過ごしたのもあり、彼にはなんとなくその表情で何を思っているのか理解出来たので苦笑いしながらその話題を振る。

 

「簪は今日の学年別対抗は行くのか?」

 

「私は別にいいかな……」

 

 ふうふうと紅茶を冷ましながら口に含む簪。まだ自分が思ってたより熱かったのか、はぅ。と舌を出す姿は年相応の反応で普段の様子からは見られないので可愛らしい仕草。思わず苦笑いを零せば、むぅ。と頬を膨らませて睨んでくる始末。謝罪の意味も含めてミルクの入った容器を差し出す。

 

 受け取った彼女はミルクを入れ口に含む。不機嫌そうな顔が和らぎ微かに顔が綻ぶ。それを目にしながら彼も紅茶を一口。上手く出来ているみたいで納得の表情を浮かべ頷く。

 

 最初の頃はそのままミルクティーを簪に出していた彼だったが、仲良くなることに彼女がミルクを入れる前に紅茶を一口味わってからミルクを入れるのが好きだともじもじと恥ずかしそうに発言したために、こうして紅茶とミルクを別に用意するように至ったのである。

 

「レイは行くの?」

 

「そうだな……鈴に見に来いと言われたからな。どうやら織斑一夏を完膚無きまでにぶっ飛ばす所を見て欲しいらしい」

 

 その時の意気込む鈴は闘志に満ち溢れており、その時のことを思い出しちょっとどころか顔をかなり引きつらせる表情の零。それぐらい怖かったのだろう。対してそれを聞いてある言葉にピクリと興味を示す簪。

 

「織斑一夏……」

 

 眉を顰め下唇を噛み締める。零した言葉には憎悪と嫉妬が含まれていた。事情が事情なのだろう。その感情がよく理解出来る零は提案する。彼には簪の過去を知ってるからの気遣いでもあった。

 

「見に行くか?鈴はアイツの自信をへし折ってボロボロにしてやると意気込んでいたし、第三世代同士が戦うから性能を把握出来ると思うが……」

 

「……分かった」

 

 自分をぞんざいに扱った倉持技研。自分の目的を邪魔した織斑一夏。邪魔したにも関わらず自分が乗った機体が如何に贅沢で凄い機体かを理解していない事。その機体を活かそうと理解しようと努力しようともしない事。それが簪にはどうしても許せなかった。初めての男性操縦者であり仕方なくここに来たのも分かるが、そこに至るまでに自分を含み、学園の生徒達がどれだけ血反吐を吐く思いで努力をしていると思って……そう考えると自然と腹が立つのは当たり前であり、彼女だけではなく女子全員の意見でもあろう。

 

 “逝ってしまえ”思わずそう思うのである。今の彼女は鬼の様である。無表情であるが静かに怒りにうち震えていた。だが、零からしたら私怒ってます。そんな風な感じである。要するに可愛らしい感じであった。

 

しかし、あえて触れないようにした。怒った女性が怖い事は彼には経験済みであり、痛い目にあうことをしっかりと過去を通して学んでいるからだ。

 

 暫く、様々な葛藤が彼女の中で鬩ぎあっていたが、第三世代の性能が身近に見れるのは僥倖かもしれない、と思いこくりと頷いた。

 

  今の彼女のIS打鉄二式の整備はまったくと言っていいほど上手く行ってなかった。各部分の出力調整は勿論。武装も全てが中途半端であり、メインの武装であるマルチロックオンシステムについては手つかずの状態である。このままでは……と不安に募らせる簪にとっては息抜きになって良かったのかもしれない。

 

 ――――それがたとえ逃げていると彼女自身がわかってても。

 

「それより、相変わらず美味しい……虚さんといい勝負」

 

 話題が変わり簪が吐いたその言葉にレイは飲み終えたカップを置きながら前に彼女から聞いた話を思い出す。

 

「それは確か……布仏本音の姉だったか?かなり真面目な人物だったんだよな?」

 

「そう、布仏虚。しっかりとしてて真面目な人物」

 

「本音とはまたま逆だな……」

 

 同意見を示すように簪も頷く。

 

「まるで正反対。むしろ……どうしてあんなにだらけきってるのがおかしい」

 

 自分の従者に対して厳しく断言する簪。あまりに酷い言い草であるが的を得すぎて、否定も出来ず深く頷く零。もし本人がこの場に居れば酷いよぉっと言いながらペチペチと裾で叩かれていただろう。そんな光景が容易に想像でき零はフッと笑みを漏らした。

 

 彼のそんなあまり表情が乏しい笑みを眺めながら簪は残りの紅茶を飲み干した。

 

 

 

 学年別トーナメントの試合まで後数分。アリーナには続々と人が集まっていた。従来の時よりもその数は異常に多い。原因は勿論初の男性操縦者が戦うからだろう。

 

 織斑一夏。男性でありながらISを動かし世界で慕われるブリュンヒルデの弟であり彼が乗るハイスペックの機体。第三世代の白式を操るのだ。自然と注目が集まるのも当たり前である。特別席には各国のお偉い方も来ており、観客の一部には国に有望視されている2年、3年の代表候補生が多いのも各国がその機体に注目しているからであり、その機体の性能を把握するためでもある。その中にはレイと簪も混じっていた。

 

「盛り上がってるな……」

 

「それほど、皆アレに期待してる……」

 

 一夏をアレ扱い発言する簪。暗く黒いモノが見えるのは気のせいだろうと思いたい。棘があり怖い。よっぽど嫌な出来事だったんだなぁ。と、無表情でありながらそう考え話題を逸らそうと口を開く。

 

「っと、簪の知り合いが手招きしてるぞ」

 

「かんちゃーーん!こっちこっち」

 

「……本音。こんな大勢の中で叫ばないで」

 

「なんでぇー私はかんちゃんの従者だよぉー?」

 

「そういうことじゃなくて……」

 

「試合が始まったぞ」

 

 揉めている二人を余所に試合は始まった。白の機体は白式。開始直後、いきなりのスタートダッシュで先制攻撃を仕掛けていた。しかし、その機体は突然見えない何かに吹き飛ばされた。

 

「あれが……」

 

「そう、中国が作った第三世代の甲龍(シェンロン)が扱う第三世代兵器―――龍咆(りゅうほう)。衝撃を砲弾として打ち出す衝撃砲」

 

 不可視の攻撃にシールドエネルギーを減らす白式。必死に避けるが攻めあぐねているのが目に見えて分かる。

 

「セシリアの奴とは違って燃費は相当いいんだろうな……あれだけばんばん打ってると言う事は」

 

そう、と相槌を打ちレイの言葉に簪は頷く。

 

 鈴が操るシェンロンは龍咆を巧みに使いながら一夏を接近させない。したとしても手に持つ双天牙月(そうてんがげつ)で弾き飛ばしていた。

 

「中国の第三世代は燃費を重視したコンセプト。多分今の攻撃を見るに拡散性を使ってる。一発一発はたいしたことはないけど、戦闘を有利に運べる。そして何より―――」

 

 不可視なのが圧倒的優位を作る。と、その簪の声にレイは思わず納得した。見えない攻撃ほど、厄介な物はない。現に彼の視線には苦戦を強いられる一夏。一発一発の威力はたいしたことはないといっても当たれば吹き飛ばされシールドエネルギーは消費される。

 

 一夏はりゅうほうの餌食になり壁に叩きつけられた。更に追い討ちをかけるように二発、三発と無抵抗な白式に着弾しシールドエネルギーを大幅に削る。ダメージを喰らいながらもかろうじで抜け出す一夏。だが、鈴はそれすらも許さない。抜け出した進路には既に鈴が待機しており双天牙月が白式を叩き潰した。咄嗟に刀で防いでいたが力の入った蹴りが入り再び壁に弾き飛ばさる白式。

 

 ―――圧倒的。言うならばその言葉が皆の共通認識であった。

 

 ここまで何も出来ず一方的にやられるという試合展開。

 

 だが、これは必然であった。今の今まで鈴は一夏に勝つために念入りに一夏の修行背景で念入りに動きを観察していた。一夏の独自の癖。射撃を避ける際、右側に避ける数が多いのも把握して。

 

 一方。一夏はどうしてここまでの差があるのか分からない、そんな疑問を抱く。確かに強いとは彼自身、予測範囲内ではある、しかし実際に戦えば強いとは思ったがなんとか喰らいつけると括っていた。なのに何故だろう、戦う事に自分が圧倒的不利に立たされていく事に納得がいかない。今も自分の思考を読んでるかの如く動く先には鈴がいて不可視の砲弾が降り注ぎ舌打ちしながら回避に専念する。まだ諦めてはなどない。この白式の特性。零落百夜が当たれば勝てる。そう自分に言い聞かせ彼は隙を伺い動き回る。

 

 

 

「それにしても、あのパイロットも中々。自分の機体の特性を最大限活かした闘い方をしてる」

 

「だね。だね。離れれば龍咆。近づけば双天牙月がまってる。さすがリンリンだね」

 

 わーい、わーいと何故か自分の事のように喜んでいる本音。

 

「一年で代表候補まで上り詰めた実力者だからな」

 

 レイの言った事に驚きの表情の簪。

 

 1年で代表候補生。それが鈴の経歴である。零が鈴本人に聞いた話によれば、中学2年で中国に戻り3年でISに乗り始め、僅か1年で代表候補生までなったのだ。如何に才能があるか分かる経歴であった。しかし、だからこそ―――

 

「それは……中々の才能。でも欠点がある」

 

「あぁー……まぁ血が昇りやすいんだよな……」

 

 先ほど圧倒的な戦況から急に嘘と思えるほど鈴の動きは単調なもの。

 

「何か会話してたが……恐らくそれでアイツの言葉に何か鈴の琴に触れたんだろうな」

 

「感覚で戦うタイプではアリがちなこと……それに」

 

 ―――何か狙ってる。そう言った彼女にレイも同意見であった。明らかに一夏は何かを狙ってる。それは傍から見ても分かるほど。これはヤバイとレイは視線を細めた。

 

「これは……ひっくり返るかもな」

 

「白式の特性……あれは喰らえば一発で戦闘不能の可笑しい代物」

 

 戦況は鈴が圧倒的優位とはいえ、白式の単一仕様能力―――零落白夜。当たれば対象のエネルギー全てを消滅させるというチート並みの性能である。

 

 頭に血が昇って闇雲に龍咆を放つ鈴。先ほどの動きのキレは微塵も残っていない。だからか砂煙でアリーナを覆っているのも気づかない。そしてついに一夏は仕掛けた。龍咆を完璧に見切ったのだ。

 

「なんで!?」

 

 驚く鈴を余所に一夏は避けた後、瞬時加速。ここぞとばかりの切り札を切った。それは鈴に迫り、零や簪含め、鈴の負けだと思った刹那。アリーナの天井から何かが降り注いだ。

 

 

 

 

「……あれは何?」

 

 突然の乱入者に誰もが呆然としていた。いち早く我に返った簪は疑問を口にする。

 

 ISが備えているシールドエネルギー、それと同様の遮断シールドが突き破られた。それが意味することは観客全員が死ぬ可能性があると言う事だろう。

 

「試合中止!直ちに退避せよ!」

 

 千冬の張り詰めた声に第二アリーナにいる観客はようやく事態を飲み込み、少女達は悲鳴を上げた。もくもくと会場に漂う煙が晴れ、不気味なISをその目で認識したこともあるのだろう。殆どの観客がパニック状態になり会場は混乱状態になる。

 

「あの機体は……篠ノ之束!!」

 

 そんな中で突如乱入した機体に思わずレイは声を漏らした。その音色は憎悪で埋め尽くされていた。余りにも見覚えのある機体だったから。自分の仲間を奪った元凶。それが今目の前にいる、思わず本能的に動きそうになるが、彼は止まった。

 

「……大丈夫か簪」

 

「ちょっと足を挫いたみたい……」

 

 逃げまとう生徒に突き飛ばされたのか彼女は足を挫いたのだ。足の具合を確かめたが、簡単に歩けるほどの状態ではなかった。

 

 それだけならまだ良かったのだが、隔壁が全ての観客席に発動しアリーナの元凶から視界を渡る。がしかしレイと簪の場所だけ隔壁が降りてこない。

 

「……何故だ」

 

 依然として、レイと簪の視界には黒いISが佇んでいる。黒いISは何かを探すように不気味に周囲を首がぐるぐると回りこちらに気づき、止まった。

 

(まさか……狙いは俺か!?でも、何故)

「なんで……」

 

 疑問で一瞬思考が空くが相手が腕を突き出す仕草ですぐさまレイは行動する。足を挫いて動けない簪。周りを見れば既に自分と彼女だけ。

 

(間に合え!!)

 

恐怖に歪む彼女を抱えて、ISを展開してからじゃ、遅すぎる。そう判断した彼は腕だけを部分展開し少し離れた場所で心配そうに此方を見ていた本音に向かって彼女を投げた。

 

 しっかりと本音に受け止められた彼女を見て助けられた事に安堵の表情を浮かべる。

 

 良かった。

 

 そう思った直後―――レイは慈悲もなく光に呑まれていった。

 

 

 

 

「アァァアアアッッア!!」

 咆哮と共に未確認ISのレーザーを避けながら獲物を振り下ろし相手を吹き飛ばす鈴。まだ生ぬるいとばかりに鈴の砲身が一瞬煌くやいなや龍咆を連続で発射。一発、二発と叩き込みISを押し潰す。

 

 慈悲もなく、容赦なく、無慈悲に黒いISを破壊していた。

 

 勿論、黒いISも無抵抗ではない。分厚い装甲に任せて突撃する。肩の小型レーザーや腕の先にも同類のが着いており、距離を縮めながら弾幕を放つ。

 

 上空に逃げ回避する鈴。熱波がジワリと肌を焦がすように感じた。

 

 負けじと追いかける黒いIS。暫く避ける鈴だったが、すぐさま急な方向転換。かかる重力を歯を食いしばり耐えながら双天牙月の連結をとき、ぶん投げる。黒いISは二本の青龍刀を右手と左手で器用に弾き、腕の先からビームを放とうとエネルギーを貯めていたがすぐさま龍咆を感知し、位置を横にずれることにより避けられるが同時に俊敏な動きでシェンロンの膝蹴りが中心部分に入り、くの字の如く体を曲げアリーナの地面に叩きつけられる黒いIS。

 

 止めとばかりに雨の如く龍咆が降り注いだ。

 

 煙がアリーナに蔓延る。

 

「なんだよ……これ」

 

 一夏はあまりにも圧倒的な戦闘に思わず声が出た。それほどにまでに幼馴染の操るISが先ほどと自分が戦っていた時とは別人であったから。

 

「どうしたんだ……一体……」

 

 突如、激昂して突撃したかと思えば、黒いISを圧倒する鈴。動きが最早別次元である。容赦が無い程の苛烈な攻撃。援護しようにも逆に巻き込まれそうでただ眺めるしかない。現に今も、龍咆がアリーナに降り注いでいる。黒いISは必死に逃れようと抵抗を試みているも雨のように降り注ぐ龍咆にその場を抜け出せず衝撃の砲弾に呑まれ装甲の傷を増やしていた。

 

 それを見て現状待機。それが一夏の決めた判断だった。いつでも用意出来るよう白式の刀を力強く握り閉めた。

 

 

 

 澄み渡る程、頭が冴え渡っていた。自分でも驚く程に。

 

 殺す。ただそれだけを意識した瞬間彼女の頭はそれだけに体が動いた。

 

 腕が迫る。いつもなら回避で精一杯のはずのもの。それを紙一重で躱しカウンターで予備で出した青龍刀で反撃する。振り下ろされた刃は装甲に罅が入る。さらにとばかりに蹴りを入れた。

 

 面白い程の転がる黒いISが見える。

 

―――見える。―――軽い。

 

 どうすればいいのか、どう動けばいいのか、頭で考えるより体が勝手に動く。本能と言うものだろうか。

 

 レーザーが迫る―――遅い、遅すぎる。

 

 ひらりと体を捻り瞬時加速。本来の彼女なら出来ないであろう技。

 

 それをも容易く出来た。今なら出来て当たり前と本能で何となく理解していた。

 

 驚異的な速度での強襲。何とか黒いISは反応するも、既に遅し。

 

 すれ違い様に鈴は右手の青龍刀で右の拳を弾き左手の青龍刀で右から左に斜めに大きく切り裂いていた。ギギィと異音を発し活動を停止するIS。

 

 目標を達成したことにより殺意がなくなり、それと同時に悲しみが去来する。

 

「あ……」

 

 先ほどの自分の行動など彼女は最早どうでも良かった。滝の如く心に流れ込むのは悲しみ。

 

 心が凄く痛い。

 

 止め処なく溢れ出る感情が制御出来ない。

 

 痛い、苦しい、胸に奔る鋭い痛みが心臓を抉るようだった。

 

 「鈴!まだだ!」

 

 「え……」

 

 幼馴染の切羽詰まった声に気づいた鈴。背後を振り向けば腕を振り下ろそうとしている黒いISが目に入った。

 

 防御しなきゃいけない、そう思ったが上手く体が動かせず凄まじい衝撃と共に鈴は壁に叩きつけられた。

 

「ッッカハ!」

 

今度は別の痛みが襲う。肉体的な意味で衝撃に肺から空気が漏れる。

 

「鈴!そこをどけIS!」

 

 今まで機を伺ってたであろう一夏が間に割り込みなんとか危機を脱することに成功するが。

 

「鈴、動けるか?」

 

「……なんとかね」

 

「さっきみたいに戦えるか?」

 

「多分、無理。怒りであまり覚えてない……それにかなりエネルギーが消費されてる」

 

 シールドエネルギーを一瞬だけ視野に入れ一言。三分の一を切っていた。一夏もなんとなくではあるがそれを理解していたらしい。

 

 あれだけの戦闘。かなりのエネルギー消費は納得出来た。

 

 今の鈴はどこか情緒不安定で感情が揺らいで危なかしいので一夏は策を提案する。

 

 断られたらどうしようと思った一夏だったが、いいわよ。とその言葉に思わず安堵した。余りの無茶苦茶な作戦にジト目で見られたが、承諾して貰えた。

 

「じゃあ行くか」

 

「アタシが龍咆で援護。アンタが隙を窺って切りかかる」

 

「おう。背中は任せたぞ」

 

 今度は一夏を加え、黒いISと再び戦闘を開始した。

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




更新遅くなってすいません。


まったく、手が進まない状態に陥ってました。

書きたい事は山ほどあるんですが、如何せん上手くかけなく、自分で読んでても面白く感じられない。他の方の小説を読むと凄い小説が書きたくなるんですが、いざ、書いて読んでみると何故だが面白く感じられない。

 
 キャラの感情の描写が上手くかけてないのか、もっと状況を説明する背景描写がかけてないのか、そういうアドバイスが欲しい所です。

 それより息抜きにネギマの方も投稿したので、漫画見てた人は興味があったら覗いてください。

ラウラと簪と楯無が早く書きたい。

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