深夜廻 繋いだ手をもう一度 (本編完結)   作:めんりん

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もはや覚えてらっしゃる方いるのか案件で間が空きましたすみませんm(._.)m




第7話: 闇の産声

「千夜崎…琴喪…。間違いありませんか?」

 

 

数々の情報交換の末の質問に、トモコは首肯する。ハルとユイは、時間遡行云々の下りを省き、かつて自分たちがこの町で暮らしていたこと、そこで山の洞窟に住う醜神と対峙したことをトモコに伝えた。そして、夢で見た町の風景と、そこに現れた少女に誘われてこの町に来たこと。

 

 

逆にトモコからは、少女の正体と、二人の過去についての経緯を聞いた。彼女らもまた、二人と同じように神の理不尽による被害者であることも。

 

そして、二度と怪異や神の理不尽で何かを奪われないよう、自らが知る限りで一番強力な神が座す神社で入手したお札を貼り付けた拍鉈で、怪異を狩り続け力をつけたこと。

 

 

「ええ…。あなたが話す身体的特徴は、全て妹…コトモに合致する。そもそも、左目に白い眼帯をつけた年頃の女の子なんて…少なくとも私が知る限りあの子しかいないもの…」

 

 

これでハルの夢にて現れた謎の少女の正体が判明した。

 

 

『千夜崎 琴喪』。夜の街と悪しき神により運命を翻弄された一人。神の生贄として連れ去られた姉であるトモコを救う為、幼き彼女は左目を神に奪われた。

 

 

どこかで聞いた話だと、ハルは率直に思った。トモコとコトモの物語は、ハルに親友と左腕を失ったかつての自分を思い出させた。

 

 

「似たような話ね…。まあ私たちは二人のように直接神を仕留められたわけではないけれど…。…仮に会えたなら、今度こそ八つ裂きにしてやるわ…」

 

 

拍鉈を握りしめるトモコの右手からギシリという音が鳴る。かつて神を打倒せしめたハルとユイには、トモコの気持ちは痛いほど伝わった。抗うことの許されぬ理不尽に奪われる辛さは、二人は何より知っているからだ。

 

 

だが、同時にハルは気になるワードを耳にした。

 

 

「あの、蒸し返すようで悪いのですが。直接打倒したわけではない、と言いましたよね? それってどういう…?」

 

 

「言葉通りよ…。あの時の私は今のようにアイツらを殺す術を持っていなかった…神なんて尚のこと。…だからあの子は必死に私を連れて逃げた…その時になにか一悶着あったみたいだけど…その後にあの子は左目を潰されたのだから、ヤツは死んだわけじゃないわ…おそらくね…」

 

 

トモコの言う通り、あの時幼いコトモは神と対峙した。だがハルのように神から神器を授かってではない。その身一つで、だ。その上で神と悶着した上で姉を救い出したのだ。

 

二人からしても正気の沙汰ではない、仮に自分たちが同じ状況でかつての山の醜神と対峙したと仮定すれば、それがどれだけ奇跡的な偉業なのかが身にしみて実感できた。

 

 

「でも、だとするなら今回の騒動にその神が関わってる可能性は? その時に生贄にし損ねた供物をまた狙う、なんてこともあるのでは?」

 

 

ハルの疑問は最もだ。この異常事態に合わせるかのように消えたコトモ。話によれば生贄となるはずだったトモコを救い出したのだ。逆に言えばそれは神に対する侮辱、供物を掻っ攫うなど、形はどうであれ神がそれを許すはずがない。

 

 

それを原因にして、かつての悪神が今度は彼女を…と言うのは理に叶った想像だ。

 

 

しかし、

 

 

「…いいえ。少なくともアイツは関わってはいないと思うわ…」

 

 

ハルの疑問は、トモコが真っ向から切り捨てた。

 

 

「…私も、あの子が消えて真っ先に向かったのはアイツの社よ。でも何もなかった、コトモの気配はおろか、私に手を出す素振りもない…それどころかもぬけの殻よ…わざわざ出向いてやったにも関わらず、ね…」

 

 

 

ハルの言う通り、トモコもまた同じように考え、コトモが失踪してすぐに彼女はかつてコトモの左目を奪った悪神の社へと向かった。会えばその場で切り刻んでやろうとも思っていたが、生憎と社はもぬけの殻。

 

 

悪神も妹も怪異すらいない、正真正銘のもぬけの殻。以降何度か足を運んだものの、これだけ身を晒しても身を表す気配がないため、今回に限ってはこの悪神は関わっていないと踏んだ。

 

 

「…だから同じように亡霊どもが活性化してる隣町まで来たら…あなたたちがいた…。しかも夢であの子を見たなんて…正真、私はあなたちのほうがよっぽど気になるわ」

 

 

「そうは言っても、私たちだって手がかりなしですよ。ハルが夢で見たって言う女の子も『まってる』としか言わなかったんでしょ?」

 

 

ユイの言う通り、仮にハルの夢に出てきたコトモが本物だったとして、なぜそのようなことを言ったのか。 そもそもどうやってハルの夢に現れるなんて芸当が出来たのか。そしてなぜ姿を消したのか。疑問は尽きない。

 

 

「…うん。そもそも『まってる』ってなんだろう。私をこの町に呼んで何がしたいのか、ってところが分かれば何か…」

 

 

「単純にこの町の夜をどうにかしてーって感じじゃないの?」

 

 

「いや、それなら私たちよりもお化けと戦い慣れてるトモコさんがいるし、コトモさんだって夜を知ってる。なのに私を呼ぶってことは-------」

 

 

そこまで言って、ハッとした。そうだ、もし夜に関する何かをしたいのであればコトモ自身で動くはずだ。それが出来るだけの経験と、何よりあの怪異をものともしない姉のトモコがいる。

 

 

わざわざ遠くにいるハルを呼ぶ意味がない。しかし、逆にそこに理由があるとすれば、

 

 

 

「…コトモ自身では出来ない理由がある、ということ?」

 

 

トモコの言葉に、ハルは頷く。

 

 

「あくまで可能性の話です。ですがコトモさんが失踪した理由が、そこにあるのなら…コトモさんは恐らく」

 

 

もし、コトモ自身では出来ない事情があるとするなら。もし、そこにコトモが失踪した理由があるとするなら。導かれる結論は、

 

 

「…あの子は…攫われた…っということになるわね。それも人ではない何かに…」

 

 

ギリっと奥歯を噛み締めるトモコの答えに、ハルは頷く。

 

 

「でも仮に攫われとしてさ、何に? トモコさんの話通りなら、一番ちょっかいかけてきそうな神様は外れでしょ? それに捜索範囲をこの町に広げてるならトモコさんが住んでる町にはいなさそうだし、 この町の悪い方の神様はもういないしで、現状手詰まりじゃない?」

 

 

ユイの言葉はごもっともだ。トモコの話によれば、コトモは事件後も身一つで夜の町を駆け回っていたそうだ。今更そこいらの怪異に遅れを取るとは思えない。

 

 

 

「…ハルちゃん、でいいかしら。なにか…知らない? コトモを攫えそうなやつとか」

 

 

「そうは言っても…話を聞いた限りじゃコトモさんは私たち以上に町に慣れてます、そんなコトモさんをどうにか出来そうなお化けなんて…」

 

 

 

時間遡行する前の記憶を遡っても、やはりハルの記憶にコトモをどうにか出来るような怪異はいない。いくつか強力なものもあるが、どれも幼きハルの機転で潜り抜けられた相手だ、成長し、経験を重ね続けてきたというコトモがそうそう攫われるようには考えられない。

 

 

しかし、ここで立ち止まっていてはなにも始まらない。

 

 

「…結局は、この町でも虱潰しに行くしかないわけね…」

 

 

心なしか、ため息混じりにトモコが吐き出した言葉にハルも頷く。

 

 

「はい。危険ですが、私が知ってるいくつかに特殊なお化けがいた場所があります、まずはそこから-------」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その必要、ないよーー?」

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

突如して聞こえた声に、三人は振り向いた。この怪異ひしめく禍つ夜に相応しくない、場違いなほどに明るい声に。

 

 

「やっと来たね、ハルちゃん。そっちはお友達のユイちゃんだよね、ほんとに仲良いね。あ、お姉ちゃんもいる、久しぶり、元気だった??」

 

 

 

「…こ、コ…ト…モ…?」

 

 

目を見開いて驚愕する姉を、満面の笑みで見つめる少女。首筋辺りで揃えた暖かな色合いの髪に可愛らしく整った顔立ち。黒いストッキングとは対称な真っ白なダッフルコートには襟と袖に同色のファーがついている。

 

 

そして何より目を引く、左目を覆う白い眼帯。

 

 

「そうだよお姉ちゃん。他の誰かに見える?」

 

 

驚愕する三人なんてその、どこまでも明るい声音で笑いかける少女…コトモ。

 

 

「…コトモっ!!」

 

 

駆け寄って妹を抱き締める姉。そんな姉を優しく抱き締め返す妹。トモコの瞳からは絶えず安堵と喜びの涙が流れている。側から見たら美しい光景だろう。

 

 

 

「…よかった…よかった…っ!私、またあなたがアイツらに何かされてしまったかと思ってずっと…ずっとずっと…っ!!」

 

 

自分を抱き締めて嗚咽を流す姉に、コトモもまた優しく語りかける。

 

 

「ごめんね、黙っていなくなって。私もずっとお姉ちゃんに会いたかったよ」

 

 

側から見たら美しい光景なのだ。しかし、ハルにはどうにも拭えぬ疑念があった。何かがおかしい。目の前の光景を、ただよかったねと祝福することができない。

 

 

見落としか、勘違いか。ハッキリとしない悪い考えが頭から離れない。嫌な予感がしてたまらない。本当にこれでいいのか? わざわざこの町に誘われてまでしてこれで終わりか? そもそも

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

(っ!?)

 

 

その考えに至った時、弾かれるようにしてハルはコトモを見た。そうして上げた彼女の視線の先には、

 

 

 

 

三日月のような口で()()、何かがいた。

 

 

「ずっと会いたかった、会いたかったよお姉ちゃん……もう……()()()()()()()()

 

 

瞬間、コトモの背後で無数の何かが蠢いた。街灯にも月明かりにも照らされていない闇の中で蠢くなにか。涙を流して妹を抱き締めるトモコは、それに気づけない。

 

 

 

「ユイっ!!」

 

 

「分かってる!!」

 

 

ハルが叫ぶと同時に、ユイが持てる脚力を全開にして駆ける。何が起こってるのかはまだ分からない。しかし、良くないことが起きていることだけは確かだ。何も解決などしていない、何も終わってなどいない。

 

 

あの少女が今ここに現れたことは、決して良いことなどではない。

 

 

「…一緒に行こうよ、お姉ちゃん?」

 

 

夜に広がる絶望が、これまでと比すること出来ない巨大な闇が、産声を上げた瞬間だった。

 

 

 

 

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