深夜廻 繋いだ手をもう一度 (本編完結)   作:めんりん

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平仮名のほうがそれっぽくはありますがやはり読みにくいので漢字も使います(^^;

そして捏造設定てんこ盛り、苦手な方はレッツプラウザバック


*花火の日までの日数の訂正
*前の話で起こったはずの事象の後処理を追加


第2話 : 奇跡と理不尽は紙一重

 

 

「……ユ、イ…?」

 

 

 

 

 

 

あまりの驚愕にハルは目を見開く。思わず体がぐらついたのは決して暑さのせいなどではないだろう。

 

 

 

 

久しぶりに動かした左手がつかむドアノブの感触が、辛うじてハルの意識を現実に押しとどめる。

 

 

 

「もー!まだパジャマだし!それと髪!またそんなぐしゃぐしゃにして」

 

 

 

 

そんなハルの混乱など知るはずもないユイは、扉から出てきたハルの姿を見るなり仁王の如く柳眉を逆立てる。

 

 

 

門を開けてずんずんと進んでいくユイ。そしてハルの目の前まで来ると、背中に背負った小ぶりなリュックの中からブラシを取り出し、いまだ寝癖の目立つハルの髪に当てていく。

 

 

 

 

「しっかりと乾かした?ハルの髪は柔らかいんだから、ちゃんとドライヤーしないと跳ねちゃうよっていつも言ってるでしょ?」

 

 

 

 

まるで姉のような厳しめな口調で言いつつ、手慣れた手つきでハルの髪を整えていく。ブラシで梳かれるれるたびに、あちらこちらに跳ねていたハルの薄い金髪が下に流れ出す。

 

 

 

 

「ねぇ聞いてる?………って……ハル?」

 

 

 

 

いくら話しかけても反応がないことに疑問を持ったユイが、ブラシを止めてハルの顔を覗き込んでくる。

 

 

すると、突然ハルが無言のままユイの頬を両手で挟んだ。

 

 

 

「うにゅ…ちょっと、ハル?」

 

 

 

あまりの唐突さに目を丸くするするユイ。だがそんなことを当のハルは気づく様子もなくただ呆然と目を見開いている。

 

 

 

 

「っハル!?どうしたの!?」

 

 

 

流石におかしいとハルを問いつめようとするユイだが、ハルの瞳にぶわっと涙が溢れ出したのを確認するや否や、慌ててハルの肩を掴み、目と目を合わせる。

 

 

 

 

 

 

「ユ、ユイ…」

 

 

 

「ん?なに?」

 

 

 

泣き出す前の秒読み段階に入りつつも、ハルの頭の中から困惑と混乱は消えない。

 

 

 

 

だがそれ以上に、今こうしてユイと再び出会えたことに、形容できないほどの感動に震えていた。

 

 

 

 

あの時、自ら断ち切った縁が再び結ばれたのか?

 

 

 

 

届かなかった手が、何かをつかむことが出来ていたのか?

 

 

 

 

 

 

いや、理屈などどうでもいい、永遠の別れを告げた親友が目の前にいるこの奇跡が、偽りでないのなら。

 

 

 

 

 

 

「う、う、うあ、あああっ!」

 

 

 

「わぷっ」

 

 

 

飛び込んできたハルを、ユイは受け止める。なぜ今ハルがこのような状況になっているか、ユイにはわからない。

 

 

 

だが、ハルがこうして自分に泣きついてくるのは、決まって何か寂しいことや悲しいことがあった時だ。

 

 

 

そうしてハルが泣き止むまでの数分間、ユイは自分の肩で嗚咽を零すハルの頭を優しくさすり続けた。

 

 

 

*****

 

 

 

 

「落ち着いた?」

 

 

 

ハルの瞳から落ちる涙を指で拭いながら、ユイは優しく微笑む。いまだぐすんぐすんとしながらも、ハルも少しだけ笑いながらユイと目を合わせて口を開く。

 

 

 

 

「うん、ありがと」

 

 

 

「ん」

 

 

 

ごしごしと滲む視界から涙の残党を片付けたハルを見て、ユイもまた笑みを深める。

 

 

 

その笑顔は、まぎれもない本来のユイが見せる優しく暖かみのある笑顔だった。

 

 

 

と、次の瞬間にはその笑顔が跡形もなく消え去り、まるで能面のように無表情となる。

 

 

 

「ところでハル」

 

 

 

「う、うん」

 

 

 

そしてハルはこのユイの無表情を知っている。

 

 

 

 

これは、お説教が飛んでくる前触れだ。

 

 

 

 

 

「ちょっとくさい」

 

 

 

「ええっ!?」

 

 

 

 

そして予想正しく、いやその上をいく辛辣な言葉がハルの胸に突き刺さった。思わず仰け反って自分の腕やら着ているパジャマに鼻を当てて匂いを確かめるハル。

 

 

 

 

「怖い夢でも見たの?いっぱい汗かいたでしょ」

 

 

 

「ぎくっ」

 

 

 

まるで見てきたかのように図星を突いてくる親友を前に、ハルの心は次第に萎んでいく。その勢いは、封を切られた風船もかくやという勢いだ。

 

 

 

「そんなんでお出かけなんて出来ないじゃん、ほらいくよ」

 

 

 

言うや否や、ユイはハルの手を引っ張り玄関へと入っていく。呆気にとられたハルは慌てて扉を閉めて扉の鍵をかける。

 

 

 

そして靴を脱いだハルは、同じく靴を脱いで廊下を歩くユイに引っ張られるがまま浴室へと連行された。

 

 

 

「とりあえずシャワー浴びてからだね。朝ごはんは?」

 

 

 

「ま、まだ食べてない…」

 

 

 

もはや完全に主導権を握られたハルに言い訳の余地はない。しどろもどろと呟くハルに、ユイはため息をつきながらもせっせとやることを頭に入れていく。

 

 

 

「わかった。じゃあとりあえずハルはシャワーを浴びて汗を流して。上がったらちゃんと髪乾かして整えること。朝ごはんは簡単なの用意しとくから。わかった?」

 

 

 

 

これが本当に同い年の女の子とは到底思えない。一体どれだけ自分が甘やかされて育てられているかを痛感しながらも、ハルは敗者の常として大人しく首を縦に振った。

 

 

 

 

「は、はい…」

 

 

「ん、よろしい」

 

 

 

ハルがパジャマのボタンを外し始めると、ユイもまた浴室の扉をくぐり外へと向かう。

 

 

 

いまだに状況の整理はつかない。ただこうして再び一緒にいられるなら、それ以上ことはどうだっていい。

 

 

 

それだげで、もう何もいらない。

 

 

 

 

久しく満ち足りた気分の中、ハルはシャワーの蛇口を左手で捻った。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

浴室をでたユイがまずはじめに向かったのは二階にあるハルの自室だ。そして見慣れた部屋のタンスから変えの下着と服を見繕うと、再び一階へと降りていく。

 

 

 

ちなみに下は可愛らしいスカートをチョイスしたかったが、この後の予定を鑑みて泣く泣く半ズボンを引っ張り出すことにした。

 

 

 

 

それらを浴室にある洗濯機の上に置くと、今度はそのままリビングへと入っていく。

 

 

 

 

 

 

「わっ…と。ハルったらまたやってるし」

 

 

 

 

だがリビングへ入りキッチンに足を向けたユイの目に、粉々に散乱したガラス片が写り込んだ。一緒に溢れている中身の液体から考えるに、水を飲もうとして手を滑らしたのだろう。

 

 

すでに見慣れた親友の少々ドジな一面にまた一つ溜息をこぼしつつも、見たところ怪我はしていないようなのでひとまずは良しとしておく。あとで一言二言お説教することには変わらないが。

 

 

 

 

「えっと…たしかここらへんに……あ、あった」

 

 

 

 

ユイは散らばるガラス片を小さく飛び越え、キッチンの奥に立て掛けられた小さな箒とちりとりを取り出すと、そそくさとガラス片を集める。集めたガラス片を古い新聞紙で包み、ゴミ箱の横にわかるように置いておけば片付けは終了だ。

 

 

 

 

 

ガラス片を片付け終わったユイは、本来の目的である朝ごはんの支度に取り掛かる。戸棚から必要な調理器具を引っ張り出し、冷蔵庫から牛乳と卵を2つ取り出す。

 

 

 

 

 

小さめのフライパンを火にかけ熱を入れていく。取り出した卵を即座に割って、それをボールに入れたら、菜箸でかき混ぜる。その様子はもはやそこらの主婦となんら差はない。

 

 

 

 

混ぜた卵に牛乳と砂糖を適量放り込み、さらに軽く混ぜる。そしてボールに食べやすく四つ切りにした食パンを浸すと同時に、煙が立ち込めてきたフライパンに油を垂らし、それをフライパン全体に伸ばしていく。

 

 

 

 

十分に油を塗ったフライパンに、卵に浸した食パンを順番に乗せていけば、こんがり焼けたフレンチトーストの完成。

 

 

 

それを取り出した皿に乗せ、最後に冷蔵庫に貼り付けられた小さなホワイトボードに〈卵2、牛乳少し、フレンチトースト〉と書き込んで、とりあえずの作業は完了である。

 

 

 

 

 

この冷蔵庫に鎮座ましますホワイトボードは、ハルの自宅で料理をすることが度々あるユイのために、この家の真の主であるハルの母親が用意したものだ。

 

 

 

 

共働きで家を留守にしがちなハルの両親が、いかにして1人になってしまうハルを守るかと試行錯誤した結果、生まれたのがこのホワイトボードだ。

 

 

 

 

普段ならハルが学校から帰って帰ってくる前か少し後には母親が帰宅できるために心配はないのだが、現在の夏休みなどの長期休暇などに入ると、どうしてもハルが1人になる時間が増えてしまう。

 

 

 

 

そこで見出されたのがユイ。小学生にして主婦レベルの家事能力を持ち、なおかつハルと最も親しい友人。

 

 

 

ハルの母親は、ユイに気が向けばでいいのでハルと一緒にいてあげて欲しいと頼んだのである。

 

 

唯一の親友であるハルとさらに一緒にいられるならと、ユイはこれを快諾。以後1年以上にわたり、ユイはハルの親友兼第三の保護者としての立ち位置を確保し続けている。

 

 

つまりこのホワイトボードは、ユイが冷蔵庫の中身をなんのためにどれだけ消費したのかと言うことをハルの母親が把握するためのものだ。

 

 

 

ちなみに、ハルとハルの父親は料理がてんでできないためこのホワイトボードを使うのはユイとハルの母親だけである。

 

 

 

 

 

 

 

とは言ったものの、ハルの母親はただでユイにお願いをしているわけではない。日頃お世話になっているユイを、ハルと一緒にランチに連れ出したり、おやつにケーキを振舞ったりと、互いにウィンウィンな関係を維持していたりする。

 

 

 

 

 

ちなみに、ハルの父親もまたユイのことは信頼しているようで、夏休みの朝っぱらからユイが自宅のキッチンで作業していてもまるで気にしない。それどころか、夫婦揃って2人に行ってきますを言う日すらあるぐらいだ。

 

 

 

 

これは、ユイの家庭環境があまりよろしくないことを把握しているハルの両親が、少しでもユイを危険から遠ざけられればと考え出した結果でもある。

 

 

 

 

 

 

閑話休題

 

 

 

もはや家族ぐるみはおろか半ば以上に家族となっているように見えないわけでもないユイは、今日も今日とてハルの姉のように面倒を見ている。

 

 

 

 

余談ではあるが、ハルの母親の格言である

 

 

 

 

 

「台所に立つ人間が最も偉い」

 

 

 

 

という制度にのっとり、この家でのカーストは上からハルの母親、ユイ、そしてハルの父親が最下位とまさかの位置付けをなされている。

 

 

 

 

 

 

ちなみに、ハルはこの序列からは除外されている。

 

 

 

 

 

理由は単純、小動物に包丁を握らせるわけにはいかないという3人の静かな決意が表面化しただけである。

 

 

 

「よいっ…しょ」

 

 

 

コップを2つ取り出し、それらにお茶を入れたものをフレンチトーストが乗せられた皿と一緒にテーブルに置く。

 

 

 

そして、リビングでやることを片付けユイは、座って待つか浴室へ向かうべきか数秒悩んだ末に、後者を選択して再び浴室へと向かう。

 

 

 

 

「あ、ユイ」

 

 

 

 

が、ユイが椅子から立ち上がるとほぼ同時に、着替えを済ませたハルがリビングへとやってきた。まだ三つ編みにはしていないため、長い金糸のような髪が、時折吹き抜ける風に揺られてなびく。

 

 

 

 

「おー偉い。早かったね。髪もちゃんと整ってる」

 

 

 

 

 

本当に驚いたのだろう、ユイは目を丸くしてハルを見た。対してハルは僅かに表情を歪めるが、即座に笑顔を作る。

 

 

 

 

「う、うん!多分お腹すいてたから急いだのかな」

 

 

 

ハルとしては、ユイに褒められたことは嬉しい限りなのだが、それはユイが死んで自分一人でやるようになったからでもあるので、その心中はやや複雑だ。

 

 

 

「まったく…まあいいや、ご飯できてるよ」

 

 

 

じゃーんと手を広げながらユイはテーブルに置かれたフレンチトーストを示す。

 

 

 

 

「わぁ!ユイのフレンチトースト!」

 

 

 

目の前のハイスペック極まりない親友の作る味は身にしみて知っているが故に、目を輝かせてハルはテーブルに着席。

 

 

 

迎えに座ったユイの言葉を今か今かと待つその様子は、まてをされている子犬のようだ。

 

 

 

 

「ん、召し上がれ」

 

 

 

「いただきます!」

 

 

 

言うや否や、ハルは箸で掴んだ四つ切りされたフレンチトーストの一角にかぶりつく。かぶりつくと言っても、手や口がミニマムサイズなためにせいぜいパクつくと言った表情のほうがむしろ適切なのかもしれない。

 

 

 

やれやれと言った様子のユイもまた、その顔には年不相応の母性的な笑みが広がっている。

 

 

 

長年の付き合いのユイのひいき目を抜きにしても、小さな口を夢中でもきゅもきゅと動かす目の前の小動物は、十分に見てて微笑ましい。

 

 

 

 

「あ、そうだハル。この後どうする?」

 

 

 

ハルが最後の一切れを掴もうとする直前、ユイが思い出したかのように口を開く。

 

 

 

 

「この後?」

 

 

 

ハルはきょとんとしたように首をかしげる。目覚めて早々、現在進行形で理解不能な状況にあるハルとしては、この後どころか今がどういった状況なのか知りたいと言うのが正直なところである。

 

 

 

一旦手を止めて、ハルは意を決してユイにその問いを投げかけることにした。

 

 

 

 

「あ、あのね、ユイ…できれば怒らないでほしいんだけど……」

 

 

 

ズボンをぎゅっと握りながら、ハルはおそるおそる口を開く。

 

 

 

 

「ん、なぁに?」

 

 

 

そんなハルの混乱などカケラも知らないユイは、いつもの様子でハルを見る。

 

 

 

 

「…え、えっとね…今日この後ってなにするんだったっけ?てゆうか今日はいつ……なの…?」

 

 

 

 

だが、ハルのこの言葉を聞いた瞬間、ユイは口ではなく真っ先に手を動かした。

 

 

 

思わずびくっとして目を瞑るハル。しかしおでこに触れる暖かい感触におそるおそるといった様子で目を開くと、そこには先程とは違った意味で目を丸くしたユイの姿があった。

 

 

 

 

「大丈夫、熱はない?!痛いとことかは?!」

 

 

 

強いて言うなら色々あり過ぎて頭が痛い。

 

 

 

なんてことを口走るわけにもいかず、ハルは慌てて横に首を往復させる。

 

 

 

 

「だ、だいじょうぶだよ!ただ凄く怖い夢見て……それで…」

 

 

 

自分で言って苦しいと思いながらも、これ以上のことは何も言えないハルはなんとかそれだけ口にした。

 

 

 

まさか目の前の親友に向かって

 

 

 

 

なんで生きてるの?

 

 

 

などと口が裂けても言えないし、絶対に言いたくもない。

 

 

 

 

そんなハルの言えない苦しみを全て察したわけではないだろうが、とりあえずは安心したらしいユイは再びやれやれといった表情になりつつ口を開く。

 

 

 

 

 

「まったく……しょうがないんだから」

 

 

 

そんなユイを見て、ハルもまた胸を撫で下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが次の瞬間には、ハルは目覚めて色々あったなかでも、間違いなく最大級の理不尽を叩きつけられることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「下見だよ、裏山に隣町の花火が見られる場所とリスを探しに行くんでしょ?」

 

 

 

 

 

溜息をつきそうなユイの言葉に、今度こそハルは言葉を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

なんのことはなかった。ハルの左腕が今もなお存在する理由も、ユイが生きている理由も全て同じ理由だったのだ。

 

 

 

 

むしろ、今ここに至ってはそれらが存在するのが当然だ。

 

 

 

 

 

 

何せ今は、ハルが己の左腕と引き換えにユイを弔ったあの日から、2週間以上も前の日なのだから。

 

 

 

 

 

 

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