炎に向かって廃材を投げ入れる。チリチリと火花を咲かせながら、天を目指して燃え盛る。
季節は恐らく春頃。公園だった場所で、焚き火をしながら少女達は震える体を暖めていた。少しでも身体を寒さから守ろうとコートを重ね着し、固形食料は棒に刺して焚き火の近くに。スープは鉄の容器に入れて火の上に置いている。
少女は時々、手を火に近づけて温まったら離すを繰り返し。ユリナも少女に寄り添って暖を得ている。
「夜空が綺麗だ」
上を見上げれば満天の星空。人類が沢山いた頃には見れないような綺麗な輝きを放っている。でもそれは人類の滅亡を表しているようで、悲しくなる。この旅を始めて人の様なナニカには会っても、人類には遭遇出来ていない。町のシステムが死んでいないという事は何処かにいるはずなのだが、一体いつになったら出会う事が出来るのだろうか。ちょっぴり不安である。
「焼けたみたいだね。ユリナ食べるかい? きっとホクホクで美味しいよ」
表面がトロリと溶けたチーズ味固形食料を、ユリナに近づける。けれどユリナは無い鼻をふんっと鳴らした。
「それ、私の現状知ってて言ってます? なら笑えねぇクソジョークですね」
「いいじゃないか。一人で食べる時ほど寂しいものはないんだ。気分だけでも、ね」
「はぁ……分かりました。いただきます」
「うん。いただきます」
カプリと齧り付くと、口の中でチーズの味がふわりと広がった。
美味しくて、とても懐かしい味だ。
この公園に着いたのは夕方、階層は不明だが目標もなく走っていた時だった。遊具が少なく、邪魔になる物がない事から、ここを今日のキャンプ地に決めた。幸い、巨大なテントを確保した直後の事。設置方法を確認するには絶好の場所だったのだ。
多少歪なテントになってしまったが妥協点。ユリナからも花丸をもらえた。
「それにしても今回は奇妙な街に来ましたね。ダムを中心に栄えたとは、初めて見たときは驚きましたよ」
「ダム、というか水槽に近いと思うよ。巨大な円柱をくり抜いて水を入れましたーって感じかな、あれは」
ほどよく温まったスープを一口。息を吹きかけ、冷ましながら飲む。吐いた息は白く、すぐに寒空の中へと溶けていく。
「放水口が複数あった事が気になりますね」
「ふぅ……あれだけ大きいんだ。放水口がいくらあっても不思議じゃないだろう?」
「でも、多過ぎませんか? 壁を埋め尽くさんばかりでしたよ」
階層を上がるリフトの中。視線の先に見えたのは巨大な水槽だった。ダムのようにコンクリートの壁ではなく、分厚いガラスで覆われて。
放水口は確かに沢山あったが水槽の大きさもある。妥当な数ではないかと、その時思ったのだ。だがユリナはそうではなかったようで、うーん……と唸っている。
「心配性だなぁ」
「こんな世界なんですから、心配して損はないと思いますよ」
「そうなんだけどさ。今日はそういうのは抜きでいこうよ。久しぶりにゆっくりできるんだから」
「そ、そうですね。今日は……ってあれ?」
「雨、だね。全くタイミングの悪い」
先程まで綺麗な夜空を写していたのに、真っ黒な雲に覆われて、不機嫌そうに唸り声まで上げている。少女達が何か気に触る事でもしたのだろうか。ポツポツと水滴が地面へと落ち始めた。
いそいそと焚き火に水をかけて、残りのスープと固形食料を口へと放り込む。ユリナをテントの中へと運び、少女もそれに続いた。
「強くなってきましたよ」
「ありゃ。これは明日も止みそうにないね。ここで1日過ごす事になるかな」
中へと入った瞬間、雨が強くなりテントを大粒の水が激しく叩きつける。この様子だと明日も雲に覆われている事だろう。幸い食料も水もある、時にはダラダラ過ごすのも大事なことだ。
最近拾った本を読むのも良い、この時代の字は読みにくいのが難点だが、進めていく内に慣れるだろう。ユリナと一緒でもいいかもしれない。
「ふわぁ」
欠伸が出た。壊れかけの腕時計を見れば、8を指している。少し早いが寝袋を準備しようとしたところ、雨音を消し飛ばす、けたたましい音が響き渡った。
『街にお住いの皆様にお知らせ致します。中央水槽の容量が今回の雨により限界に達しました。この為、街への放水と浄化を開始いたします。屋外、屋内にいる方は至急共用シェルターへと避難してください。繰り返しますーー』
無機質な声は耳にへばり付いた。身体を休めている場合ではない、今すぐここから逃げなければ。共有シェルターの場所もわからない、ある可能性も低いのだ。
「ユリナ」
「分かっています。時間の余裕がどれくらいあるか分かりませんが、出来るだけ遠くに行かなければなりませんね。このテントは……」
「諦めるしかないね。解体してる時間も惜しいよ。荷物は……今、ユリナに括り付けている分だけ。また食料探しが主になるけど、いいかな?」
「ええ、大切な事ですから。燃料も忘れてはいけませんよ?」
「もちろんさ」
ユリナと共に外へと歩き出す。雨が降っている為、フードは忘れない。バイクのボディにはモロに雨が打ち付けられるため、ユリナは不機嫌そうだ。
目的地はなく、ただただ水槽の逆方向へ。
『ウィイイイイイイイ』
危機感を煽るサイレンが聞こえてきた。タイヤが泥水を巻き上げ、周りへと撒き散らす。そのまま出口へと走り、狭い路地へと入った。スピードも申し分ない、このまま行けば波に飲まれることもないだろう。だが、ユリナが急にブレーキをかけた。
「どうしたんだい?」
「アレを……」
背後を見るように言われ、素直に従った。
巨大な波が唸りを上げながら、此方に向かってきていた。お前らを呑み込んでやるぞ、とばかりの猛スピードで。
「どうしよう? ボクここで終わるのかな」
「諦めるの早すぎです! 私に捕まって、早く!」
ユリナに腕を回しガッシリとしがみつく。更にコシのベルトを部品へと縛り付けた。これで離れる事は嫌でも出来ない筈だ。
あと数秒で乗り込まれるだろう。だったらと少女は、ユリナに感謝の言葉を送った。
「今までありがとう」
「縁起でもーー」
ユリナの言葉は最後まで少女の耳に届く事はなかった。波に飲まれ、ぐるりぐるりと身体が回転する。肺の空気も無くなって意識が朦朧としてきた。あぁ、前にも似たような事があった気がする。これよりもっと苦しかった記憶がある。
アレはいつだったか、思い出せない。コレは本当に自分の記憶なのかも、曖昧だ。
『ゴポッ』
最後の空気が水の中に溶けた。同時に少女は意識を失い、そして
懐かしい場所に立っていた。