その運命を守り抜く   作:グラタンサイダー

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 転生ものではありません。


1、スコップとカヴで夜空を

 ――毎日毎日、穴を掘るのが俺達の仕事だ。

 

 一日中洞窟に籠もって、腕が引きつるまで壁面をほじくり返して、何かしらの鉱石を見つけて漸く、その日の給料とタダ飯喰らいのレッテル解除が確保できる、そんな職場だった。

 

 今日の俺は運が良かったらしい。何の鉱石だかは判らないが色は綺麗なんで持って行ったら、この坑道の持ち主が、持ってきた鉱物を鑑定する奴と一緒に目を回していたのだからレアリティは高かったのだろう。日当にもかなりのイロが付いていた。

 日当は全て貯金に回して配給の食事を食べる。中にはわざわざ追加料金を支払って食事の質を上げている奴もいる。バフがどうとか、効率を上げる為らしいが、効果はあったのだろうか。多分ないだろうな。俺が来る前からここにいるんだから。

 

 仕事も食事も芋洗いのような風呂も済ませると、皆タコ部屋で眠りにつく。寝る前に何か話をするといった行動は全く無く、皆部屋に入るなり寝てしまう。フレックスタイム制なのかここには必ず誰かが眠っているし、同じように坑道でも必ず誰かが掘っている。

 

 空いた場所に寝転んで天井を見た。周りの寝息が聞こえてくる。設定でいびきもかけるというがそれに意味があるのだろうか。ないからここは静かなんだろうけど。

 

 ……静かだった。ここで眠っている連中はみんな意識を外にやっているのだろう。要するにログアウトだ。

 

(……寝まーす)

 

 目を閉じる。眠くなる。便利な身体だ。外見も自由に変えられる。なんでかリアルの自分にソックリなものが出来上がってしまったけど。それで通しているけれど。

 

(…………)

 

 眠くなる。眠くなる。ついでにちょっとだけ祈る。

 

 

――明日も起きられますように――

 

 

 ――俺の名前は木ノ崎(きのさき) (あたる)

 

 ログアウト出来なくなっただけの、いちプレイヤーだったりする。

 

 

 

 

 ――目が覚めてもタコ部屋だった。泣きたい訳じゃない。悲しくないし。むしろ現実に引き戻されるほうが問題があるかも知れない。何があるか判らないからね、俺の場合。

 

 今日も穴を掘る仕事を進める。俺以外に誰も使わないからもはや専用と化したスコップを手に取り穴の入り口に向かう。

 

「お前、そこはドリルだろう」

 

 俺のスコップを最初に見た同僚はそう言った。重くて持てないんだよ、格闘値に振ってないから。こうなるならキャラメイク? の時に数字を増やしてたよ。

 

 格闘値イコール筋力だなんて誰も教えてくれなかったぞ。ツルハシだって持てないんだ。

 

 それでも格闘値はちょっとずつ延びている。全体的なレベルは上がってないけど。数値の最高値が確か400だったから、道のりは遙かに遠い。今の数値? 聞かないで。チャーハンの具材を買う為に道端の1円玉を探している段階だから。

 

 高さ20メートルを超える入り口をくぐると、先客というか、昨日から掘り続けている奴の傍を慎重に通り過ぎる。

 何しろコイツ、でかい。当然だ、ロボットなんだから。

 赤いTシャツ短パンを着た色白肌みたいな、いかにも量産の為ですよというようなシンプル造形の、背丈20メートルに届かない程度のロボット。が、武器の光る熱を持った剣で坑道を拡張している。

 

 ――ジム、と言うらしい。

 

 ジムの傍を通って奥に。ジムの役目が坑道を広げる事なら、俺達人間は先に鉱物資源の在処をある程度見つけて置く事だ。

 

 それでレアリティの高いものを見つければボーナス。違っても日当は出る。

 

 ――なんでこんな事をするのかと言えば、皆当然金が欲しいからだ。

 

 欲しいものが高いから。その為に頑張って狩りをしたけど返り討ちにあったから。

 高い買い物をして直後に破産したから。初心者狩りに遭ってすっからかんになったから。

 

 理由は様々。辛いならこのゲームを辞めればいいのに、でも辞めずここで一発逆転を狙ってる。皆が皆そうじゃないけどな。俺みたいな理由の奴が一人でも居るのだろうか。居たら良いな。友達になりたい。

 

 俺はと言えば、ログアウト出来ないから仕方なくというのもある。けどそれだけじゃない。

 

 楽しみたいと思ったんだ。ゲームをするなんて生まれて初めての事だし。ロボットは大っきいし。

 

 それに――

 

 

 

 

 

『スーパーロボット大戦オンラインの世界にようこそ!

 

 このゲームはあなたが様々なロボットを操作して、時に助け合い、時に奪い合い、時には恋に落ちたりするかも知れない? オープンワールドRPGとなっております!

 

 舞台は二つの地球と、地球とは異なる惑星ガイア。その三つの星に加え、その間を結ぶ宇宙までもがプレイエリア! 完全踏破? やれるものならやってみろぃ!

 

 条件さえ満たせばどんな機体も乗り放題! (くろがね)の城に乗って神に悪魔になるもよし! サイコフレームの共振に導かれて(とき)を垣間見るもよし! 全てはあなたのプレイ次第!

 

 プレイアブル機体は順次追加予定! 更には作品の垣根を越えた改造もオールオッケー! あなたの目指す最強をその手に掴め!

 

 さあ! めくるめくスーパーロボットの世界へ! いざ! 発進!!』

 

 

 何を言っていたのだろうかあのお姉さんはと、その時の俺は思った。

 

 なんとも極彩色な女性だった。往来では到底着て歩けないであろうデザインの衣服は所々に発光しているパーツがくっついていたし、髪に至ってはピンク色だった。目もカラーコンタクトだろうか金色。そんな格好をして親御さんは恥ずかしく思わないのだろうかと心配になる。ついでに言 うとテンションも高かった。ちょっとお友達には遠慮したい。

 

 それにしてもと、見渡してみる。

 

 何時も見ていた町並み、現実世界とは遙かに異なる構造物。大きな建物が乱立しているのは判るけど、何故その殆どが屋上を斜めに切ったような形をしているのか。あと全体的に水色。未来的と言って良い。

 

 まるで水面のような地面を見た。どうやら橋のようだけど、スカートの人にこれはキツイだろう、自身の姿がある程度明確に映り込んでいる。セクハラ橋と名付けるべきか。地面に写る自分をみると、先程のお姉さんと似たようなデザインの服を着ていた。これではお姉さんを笑えない。

 

 周囲を見渡す。目に映る面々が特徴的すぎる。中には水着のような、というか水着で闊歩する女性もいた。

 

 ゲームだ。自分は今、ゲームの中にいる。

 

 ゲームなんてやった事がない俺にはその時、どうすれば良いのか判らなかった。ゲームなんて、誕生日にねだっても断固として断られ続けたから。先程振った数字は何の決定だったのだろうかと、振った今でも後悔している。

 

 名前も決めた、外見も決めた、数字の割り振りも言われるがままを反逆して決めた。

 

 いつか友達に教わった事がある。自分が自分のまま異世界に飛ばされる事を『転生』と呼ぶのだと。まさか自分がそうなるとは思ってもいなかったのだが。

 

 

 自分はあれで、()()()()()()()()()()()()()()()。だからゲームの世界に転生してしまったのだろうか。

 

 

「…………」

 

 思う所しかない。あんな理由で自分は死んでしまったのか、って。

 

 そして何より、

 

(あんなのがまさか神様だった……?)

 

 あの極彩色なお姉さんが転生によくあるという神様だったのだろうか。だとしたら随分と世界はアレである。不憫だ。死んでしまったというのにそんな事を考えるのもどうかと思うが。

 

 まあ死んでしまったのは仕方ない、のだろう。思う所が全く解決されていないけれども。

 

 まずは何をするべきだろうか。これはゲームで、ここは大きな町で、だとしたら何かあるだろうと、俺は人の多そうな場所に向かって歩き出した。

 

 ――そう、あのとき歩いてある場所にたどり着いたのが、俺のこのゲーム人生のはじまりだったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『畜生ッッ! 俺のマジンガーを舐めるなよ!?

 

 俺のマジンガーはッ! 俺のマジンガーはッッッ!!

 

 衝撃Z編仕様だ!! こぉぉう()子力ビィィィィィィィィィィィィィィムッッッ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――そう、格好良かったんだ。あの時ふらっと入り込んだ闘技場。黒いロボットの目の部分から飛び出した光線を弾き飛ばし、その胴体を尖った体当たりでぶち抜いたあのロボットの姿が。

 

 目に焼き付いて離れないあの姿。それで俺も乗りたいと思ったんだ、ロボットに。

 

 このゲームならそれが出来るって知ってて、辞めるなんてできないだろう? 俺の場合ログアウトができないんだけど。

 

 ついでに言うと皆には初期機体があったって言うんだ。ジムなんかがそう。ガチャとかルーレット? そういうので少なくともロボットが一機無料でもらえたらしい、それも必ず。最低でもジムとかザクとかいうのが。

 

 俺は出なかったよ。出たのは指輪型のコンピューター。画面が空中に出て色々と教えてくれる優れもので、装備の画面では「スパロボ図鑑」って名前だった。

 

 これは助かってるんだよ。俺、ロボット全く知らないし。そのせいで学校ではハブられてたくらいだし。でも皆みたいにロボットが手に入っていればもっと楽に金稼ぎが出来たと思うんだ。

 

 おかげで俺はスタート時点で金欠。聞きかじりでは「吹き溜まり」とすら言われているこの場所で、ドリルもツルハシも持てずスコップを手に鉱物探しだ。

 

 このゲーム、俺にだけ厳しすぎる。あと後ろを通ったお前、何だよユ○ボルって。図鑑に載ってないぞ。何の話だ教えてくれよ。

 

 

 

 

 何時間坑道に潜っていたか思い出せない。最後に時計を見たのはいつだったか、体力はともかくやる気が削げてきた。ここらで一休みするべく俺は集会場に向かう事にする。集会場と言ってもただ単に掘り進んだら空洞があって、ちょうどいいから利用しようとだれかが言い出したってだけの話だそうだ。

 

 空洞に入る。先客が何人か駄弁ってたり、おにぎり型のドーピングアイテムを掻き込んでいる姿があった。

 

 この「吹き溜まり」とよばれる坑道。名前の通りにやる気の無い奴もいる。そういう奴はその辺で身体をログアウトされたまま放置されてたり。怖いんだよ。毎日忘れた頃にビクッ! って動いてその後またログアウトで放置。怖いんだよ。何の意味があるんだよ。

 

 後は邪魔してくる奴とか、そこらで遊んでる奴とかもいる。ゲームの中でもサボるのか。現実でもサボってんじゃないだろうな。仕事か勉強しろよ。心配になるからな、余計なお世話だろうけど。

 

 そういう連中は大抵が寄り集まって何かしている。お前らも現実で以下略。

 

 今連中は良く判らない機械を動かすのに躍起になっていた。いや本当に良く判らない。なんだアレ。

 

 色は全体的に汚れてカーキ色。カブとベスパを足して2で割って、タイヤの代わりに細長い手足をくっつけたような形状の……、何だアレ。膝が逆向いてるぞ。歩けるのかこれで。

 

 指輪型の図鑑をかざす。図鑑はウィスパーモードという、俺にだけ聞こえる状態の音声で機体説明を読み上げてくれた。

 

『カヴ。Bオリジナル。

 

 OVERMANキングゲイナーに登場したシルエットマシンの一種。シルエットエンジンとも呼称される。

 一般的に広く流通されており、走破性能と積載量に優れ、これで大陸を横断した者もいるとか。

 但し、該当機はスーパーロボット大戦オンラインの為に許可を得て作成されたものであり、作品中に似た機体の登場はあるが、該当機は出演していない』

 

 ――要するにこれもロボットらしい。というかカヴって。良いのか名前。ほぼまんまだぞ。

 

 俺が見ている事にサボりの連中は気づいた。「おい、スコップ」

 

「アタルだ」いつしかなんとも不名誉なあだ名が付いていた。「金稼がないのか?」

 

「素手でやるなんて非効率だろ。コイツにツルハシ持たせて楽しようと思ったんだが動かねえ」

 

 見れば俺と会話している奴とは別の奴がしきりにペダルらしきものを踏んでいる。そういう所までバイクのようだ。余計に手と足になんの意味があるのか判らない。バイクじゃダメなのか。

 

「っていうか誰のだよ、良いのか勝手に」

 

「俺らがここに落ちぶれる前からあるらしいぜ。親方からの許可も貰った。コイツを動かしたヤツが貰って良いってさ」

 

「へぇ」

 

 動かせばタダで機体をゲット。アーサー王の聖剣みたいだ。違うかな?

 

 とにかく動かせれば良いのだ。動かせれば。

 

「お前やってみろよ」

 

「俺ぇ?」なんで俺が。

 

「俺たち全員でダメだったんだ。感じシルエットエンジンだからどこを触って良いかもわかんねえ。だから初期機体も持てなかった可哀想なアタルちゃんならもしかしたらいけるんじゃねえかなあ?」

 

 途中で嘲りに変わりながら俺に「乗れ」と言ってくる。良いのか? おれがゲットしたらもうここに戻ってこないぞ? 馬鹿にする相手がいなくなるぞ? 新機体を買うまで貯めこんでんだから、移動の足がないだけで稼ぎは十分にあるんだから。幸運400舐めんな。

 

 相手の思い通りにカヴに近づき、触れてみる。冷たくない。あと硬くない。なんというかスベスベでペチペチしている感じだ。

 

 ステップに足を掛けて跨がった。高い。膝が逆になった足のせいだ。中途半端に足を曲げやがって。しゃんとしろ。

 

 小さいなりにロボットのような操縦桿があるのかと思えば、何のことはない。普通のバイクと殆ど変わらない。ボタンの数が多めかなってくらいで。

 

 ボタンらしき部分をいくつか押してみる。反応はない。みんな試してんだろうな、もうな。

 

「ペダルだ」

 

「おう」

 

 勧められた通りにペダルに足を掛ける。その瞬間、

 

 

――触れた先から何かが染みこんできた気がした――

 

 

「っ――!?」

 

 鳥肌の様な感覚。驚いた俺はのけぞり、レバーを握っていたからか力一杯ペダルを踏み込んでいた。

 

 視界が揺れる。尻が揺れる。――尻?

 

「……マジか」サボリの男が呆然と呟いた。

 

 何人も試したんだろうな。それでだれも動かせなかった訳で。

 

 だから驚いた訳だ。――俺が動かしたから――

 

「マジか」今度のマジかは俺。

 

 すごい。何がすごいって達成感? やってやった感というか、この鳥足バイクに選ばれた感がすごい。これはもう笑うしかない。この場にいた連中がこぞって俺と、俺が動かした、薄汚れたカヴを見ている。

 

(見ろよ、もっと見ろ。お前らに出来なかった事をやってやったぞ)

 

 ――なんて事は言わない。もうギャラリーの中にはこの見た目ポンコツなカヴが動くと知るやなんというか、俺を殺して奪い取ろうとしているような目線がチラホラと窺える。

 

「じゃあ動かしますか!」

 

 動くのであれば動かすしかない。最初は歩いたりして練習するべきなんだろうが、

 

 最初っからぶん回した。

 

「さようなら吹き溜まり! さようなら!」

 

 坑道の中を駆け抜ける。荷物を取りに行く必要も無い。最初っからインベントリってヤツの中に全部入れておいたからだ。

 

 速くてとても気持ちいい。作業服にタンクトップという格好だからか少し肌寒い気もする。

 

 当然だった。高さ20メートル程の出入口から見える空は暗かったんだ。月が空に見えている。夜だったのか。どんだけ潜ってたんだ俺。

 

 俺を、俺とカヴを止めるヤツは誰も居ない。この場の殆どが自分の機体をなくしてここまで流れてきたからだ。

 

 駆け出す。カヴが段差の所で大ジャンプ。坑道を飛び出して道を下り、俺を外の世界へ連れ出してくれる。

 

 欲しいものとは違うが、これもまたゲームなんだろう。わらしべ長者かは判らない。いっそコイツだけを乗り回しても構わない。

 

 それだけ俺は、この時はもう、コイツに心底惚れ込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――こうして俺は自分だけの機体を手に入れて、漸くこの世界を走る事が出来るようになった。

 

 ここでもう一度自己紹介をさせて欲しい。

 

 俺の名前はアタル。ゲームの中でも外でもアタル。

 

 これは俺の、もう一度の物語だ。




 一度思いついてしまい、吐き出さないともう一つの方に集中できないという。

 こちらも続ける予定ですが、もう片方以上に不定期になるかもしれません。
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