デクのヒーローアカデミア 再履修!【完結】 作:くろわっさん
前回の内容忘れたわ!って感じですよね?
でも大丈夫、いつも通り前回のあらすじから始まります!
職場体験でグラントリノの事務所に向かった僕は彼にオールマイトの弟子として認めてもらい、修行をしながらも孫のように可愛がられて二日間を過ごした。
そして三日目、僕はグラントリノと共に保須市へと向かう、ヒーロー殺しを捕らえるために。
僕とグラントリノは保須市へ向かうため、駅に来ていたのだが―――
「えっ!?運行休止!?」
「はい、申し訳ありません…保須の方面行きの列車は大型のヴィランとヒーローが戦闘になりまして、その影響で線路が崩壊してしまい、現在運行を見合わせております」
僕が驚きながら尋ねると、駅員は申し訳なさそうに答えた。なんてこった…超人社会だからそういうこともあるだろうが、よりにもよって今日ここで起きるとは……
「只今振替輸送を行っておりますので、一度反対方面へと向かっていただき、別の路線から保須へ向かっていただければと思います。お手数おかけして申し訳ありません……」
「わかりました…行きましょうグラントリノ!少し遅れますが、夕方前には保須に着けるはずです」
「行かないってのは―――」
「無しでお願いします…!」
駅員の案内に従って遠回りで保須に向かうことにする、グラントリノの提案には喰い気味に却下をした。今日いかなきゃ意味ないんだ……奴の被害者が増える前に確実に止める!!
逃がしはしないぞ、ヒーロー殺し“ステイン”…!!
――― 飯田 side in ―――
「今日も平和だね、兄さ…インゲニウム!」
「ああ、そうだな天…2号!」
僕は兄、インゲニウムと並んで保須市のパトロールをしている。互いにコスチュームを着ているためここでは飯田天晴と天哉ではなく、インゲニウムとインゲニウム2号なのだ、間違えてはいけないな!
なぜ僕が兄さんと並んで保須市にいるのか、それは勿論職場体験の為だ、僕が行くならここしかない…!兄さんもそれをわかって指名を入れてくれたのだから。
「いやぁそれにしても怪我が治って良かったね、にい…ンゲニウム!」
「ああ、ホントついてたな。まさか俺の入院してた病院に
「なにか作為的なものを感じるね……」
兄さんは笑顔で僕に答える、対して僕はあまりにも出来すぎた出来事に勘繰りを入れてしかめっ面になってしまった。しかしなぜリカバリーガールが保須に…?ヒーロー殺しの件が結構広まって事態を重く見られていたのか…?
「あんま変に考え込むなよ、て…2号。お前は昔っから視野が狭くなりがちだからな、もっと色んな方向で物事を考えてみろって!
治ったもんは良いことだろ?ならそれを活かしてガンガンヒーロー活動をしてリカバリーガールにこいつを治して良かったなって思われるように活躍しないとな!」
「そうだね、兄さん!」
「今はインゲニウムって言ってるだろ?」
「すいません、インゲニウム!」
兄さんの前向きな姿勢に感心して思わずいつも通り呼んでしまった、兄さんはそれを苦笑いしながら訂正し、僕はそれに直立姿勢で元気よく返事をした。
「よし、じゃあパトロールの続きだ。今日は日が暮れるまで市内を巡回するぞ」
「
「そうだ!地味だなんだと言われても小さなことからコツコツとだ!」
僕は兄さんとパトロールを続行する、ヒーローにとってこれも大事な仕事だからな!兄さんの下に職場体験で来て本当に良かったな。
こうして僕らは
――― 飯田 side out ―――
「なあ出久、一つ聞いてもいいか?」
「なんですグラントリノ?あと今はオールライトって呼んで下さいよ、コスチューム着てるんですから…」
保須市へと向かう迂回電車中でグラントリノが僕に話しかけてくる、二人してヒーローコスチュームなもんだからそれなりに人のいる車内ではシュールな光景が生まれている。
保須市まではあと一駅、この調子なら日が暮れる前には保須へと着くだろう、そしたら奴との決着を……ヒーローとして…!
「バカ野郎、コスチューム着てようが着てなかろうが出久は出久だろ?それともコスチュームを着てなかったら誰も助けねえってのか、出久は?」
「そんなことはないです…!」
「そうだろ?だから出久は何時だって出久なんだよ」
「…!」
グラントリノが少しだけ笑いながら僕へ諭すように話しかける、僕は声にならない声を出す。
グラントリノの言うとおりだ…コスチュームがなくても僕は誰かを助けたいし助けてきたじゃないか!当たり前のこと過ぎて忘れていた…そうだ、ヒーローだから誰かを救けるんじゃない…誰かを救けるからヒーローなんだ!!
「ありがとうございます、グラントリノ。その通りですね、ちょっと気が急いていたのかも知れません…」
「わかりゃいいんだよ。そんでもって聞きたかったのがそのことだ―――出久がヒーロー殺しに拘る理由ってのはなんだ?」
「それは……」
グラントリノが神妙な面持ちで尋ねてくる、返答に少し困り僕は言い淀む。僕がヒーロー殺しを追うと決めた理由……簡潔に伝えるなら―――
「―――ヒーロー殺しはオールマイトの信念を歪んだ捉え方をしているからです……奴と僕は同じ人に憧れたはずなのに…!
だから僕が止めるんです、オールマイトの弟子として!」
僕はグラントリノへ自らの考えを伝える、必ず止める…そして奴には一言言ってやらないと気がすまない。
「出久、そいつァ―――」
「――非常停止信号です、列車緊急停止致します!」
グラントリノがなにかを言い出そうとした瞬間に、列車が急停止を始める。そして電車が止まり車内が騒然とする。
「いったい何が起きたってんだ!?」
「これは……」
グラントリノが少しイラつきながら辺りを見渡す、怪我人とかはいなさそうだ。このタイミングでの緊急停止…まさか―――
「保須市で大規模なヴィランの活動が発生したとのことです、当列車は安全確認がとれるまで停車致します。活動現場から当列車までは距離が離れているので、被害が及ぶ可能性は今のところございません。落ち着いて車内で待機をお願い致します…」
落ち着いた声の車内アナウンスが流れる、お陰で車内のパニックはなさそうだ。
ヴィラン連合の襲撃…!ちょっと早すぎないか!?まだ日も暮れてないってのに!!こうしちゃいられない、車掌さんには悪いけど―――
「―――行きましょうグラントリノ!!」
「行くって保須にか!?まだ距離が離れてるって言ってたじゃあねえか、どうするつもりだ!!?」
「決まってるじゃないですか―――走って行くんですよ!!」
それだけ言って僕は電車の窓を開けて外へと飛び出した、グラントリノが慌てながら窓から飛び出し僕はそれを受け止め小脇に抱えた。
「非常事態です、飛ばしますよ!!ワン・フォー・オール、フルカウル90%ォ!!―――」
「おい!?おおおおおおぉぉぉ――――――」
そして
――― 飯田 side in ―――
「兄さん!あの爆発音は!?」
「十中八九ヴィランの襲撃だろうな!緊急事態だ、職場体験は切り上げて事務所に戻ってろ!!」
パトロール中、少し遠くから聞こえた爆発音と微かに見える黒煙。兄さんは僕に短く指示すると即座に行動を始める、こんな時に待ってるだけなんて…!
「―――そうだ、スクランブルだよ!待機中のメンバー連れて市内に展開、戦闘班は現場へ急行!サポート班は避難誘導しつつ頃合いを見て現場へ行くんだ!!スピード勝負だぞ、チーム韋駄天!」
兄さんは無線を通してチーム韋駄天のメンバーへ指示を出していく、その姿は僕が憧れるヒーローそのものだ。
何か、何か僕にも出来ないか!?なんでもいい……兄さんの…いや皆の助けになりたい!!
僕は兄さんの後を追いながら走り、何が出来るかを考え込む。
実戦経験皆無の学生でしかない僕には現場へ行くのは無理だ…避難も僕抜きでも充分に回るだろう…速いだけの僕の個性では………いや待てよ!?――そうだ!これなら!!
「兄さん!僕に個性の使用許可を出してくれ!!」
「なんだ急に!戦闘に参加する気か!?ダメに決まってんだろ!!」
「違う!逃げ遅れてる人を助けたいんだ!大通りとかは他のヒーローや警察が避難誘導をしてるけど、この騒ぎだ。路地裏なんかの普段から人気の無いとこまでは手が回ってないかもしれない……!!
俺の速さなら被害が拡大する前に細かいとこを見て回れるだろ!?……俺も誰かの役に立ちたいんだ!頼む、兄さん……いや、インゲニウム!!」
僕は走る兄さんを見ながら頼み込む、兄さんはチラリとこちらを見ると唸りながら考え込む。
「あーっ!そんな頼まれ方したら断れねえじゃねえか!!
いいか天哉、救助と避難だけだ!それだけなら個性の使用を許可する、戦闘は絶対禁止だからな!!」
「兄さん…!!わかっているさ!」
「―――なら行け!インゲニウム2号、その速さで誰かを救けるために!!」
兄さんは少しジタバタしながら僕の願いを了承してくれた、そして肩を叩いて僕にエールを送ってくれる。
兄さんに少しでも近づく……そして救けるために、いくぞ!!
僕と兄さんは個性のエンジンを唸らせてそれぞれ別の方向へと加速して走り抜ける、闘うため、救けるために―――
――― 飯田 side out ―――
―――走ること約5分、僕とグラントリノは保須へと辿り着いた、既に街には火の手が上がっておりヴィランによる襲撃が始まっていることが改めてわかる。
「くっそ!始まってる!!――てことはもうステインもここにいるはず…!」
「おい出久、いい加減下ろせ!もういいっ!」
「すいませんグラントリノ!」
辺りを見渡す僕にグラントリノが怒鳴る、かなり強引に担いできてしまった…!そりゃ怒るよな……でも今はそれどころじゃない!!
「急ぎましょうグラントリノ!」
「どこへ行くつもりだ!?」
「どこって…現場ですよ!ヒーロー殺しも確実に来ています!」
僕らは話ながらビルの上を跳ねていく、まさかとは思うが飯田君がステインと出会ってるなんてことになってないか心配になってきた。
「―――!!あれは!」
「なんでぇあのヴィランは!?」
僕らが跳ね飛ぶビルの更に上、そこに翼の生えた脳ミソ剥き出しのヴィランの姿が見える。あれは脳無!やっぱりこの騒動の原因はヴィラン連合か!!
今は相手にしていられないってのに!でも既に被害が出てきてしまっている以上、放置は出来ないか……なら!!
「モンタナ・スマァッシュ!!」
「―――ブゴォ!!?」
僕はビルの屋上を強く踏み込んで回転しながら翼の脳無に接近し、その背中に踵落としを放つ。僕の急襲に反応できなかった脳無は叩きつけられた踵の勢いによって地面へと落下していった。
その様子を確認しながら僕はグラントリノのいるビルの上に着地した。
今の一撃で無力化出来たとは思わないがダメージにはなっただろう!脳無たちによる町の混乱もどうにかしないと…!
「グラントリノ!今のヴィランを追ってください!!それとこれだけ大きな騒ぎです、おそらく他にもヴィランがいるはずなのでそれらの対処を!!」
「そりゃもちろん行くが、出久はどうすんだァ!?」
「このままヒーロー殺しを叩きます!!じゃあまた後で合流しましょうっ!!」
僕はグラントリノにヴィランの対処を託す、驚いたグラントリノを短いやり取りをして、僕は再びビルの屋上を蹴って日の落ち始めた街へ繰り出す。ヒーロー殺しを捕らえるために…!
「おい!!―――いっちまいやがった…!ったく強さだけじゃなく自分の正義を信じて突っ走るとこまで俊典に似やがって!!この
――― 飯田 side in ―――
「誰かいますかー!!」
僕は路地裏に向かって大声で叫ぶ、それに対する返事はなく誰もいないようだ。
既にいくつかの路地裏を見て回ったが今のところ逃げ遅れた人はいなかった、やはりこんなところに行く人はいないのだろうか……いやいや、他のところには居るかもしれない!兄さんや他のヒーローも頑張っているんだ、僕だって諦める訳にはいかないだろう!!
僕は走って離れたところにあった路地裏を覗く、そこには二人の人影が見えた。
「お―――ッ!!?」
避難をしてもらおうと声をかけようとしたが、その内の一人の姿を見て僕は言葉を失い、咄嗟にビル影に隠れた。
血のように赤い巻物と全身に携帯した刃物、もう一人の頭を鷲掴みにして刃物を抜いている。
もう一人は黄土色の全身スーツに派手な飾り付け、おそらくプロヒーローだろう……つまりアイツが“ヒーロー殺し”で間違いない…!!
「こちら2号。インゲニウム、聞こえますか?」
「“どうした2号、要救助者を発見したのか?ならサポートチームを―――”」
「違うんだ!ヒーロー殺しを発見した!」
僕はヘルメットに内蔵された無線を兄さんに繋げて小声で話す、まさかこんなことになるなんて…
「“何!?お前、いま何処にいる!!?”」
「ポイントXXX-xの路地裏にいるよ、もうヒーローがやられそうだ…!」
「“了解、10分で向かう。戦闘は避けて監視に徹しろ、スグに行くからな!!”」
「でも……」
「“でもじゃない!お前、殺されちまうぞ!!俺らが行くまで絶対手を出すなよ、危険を感じたら全力で逃げろ。お前なら逃げきれるはずだ”」
兄さんがこちらに急行してくれるらしい、しかしもう目の前でヒーロー殺しの犯行が……だが兄さんの言うとおりだ。兄さんがチームで挑んで敵わなかったヒーロー殺しに僕が何か出来る訳がない…!ここは指示に従うしかないか……
「了解、インゲニ―――」
兄さんにそう告げようとしたその時、ヒーロー殺しか行動を起こした。手に持ったその刃を振りかぶり、ヒーローに止めを刺そうとしている。
目の前の光景に僕は気が付けば考えるより先に身体が動いていた。
「やめろぉぉおお!!」
叫び声を上げながらヒーロー殺しへと駆け出していく、ヒーロー殺しの腕が止まりこちらをジロリと睨んできた。
ジリジリと肌が焼けるような殺気に足が止まりそうになったが、それを堪えて進み続ける。
「“天哉!早まるんじゃねえ!”」
無線から僕を制止する兄さんの声が聞こえてくるが、一歩また一歩と足を進めていく。あと一歩で僕の蹴りの間合いに入る、というところでヒーロー殺しが動き出す。
ヒーローの頭を左手で鷲掴みにしたまま、右手に持っていた刃を返して僕の方へと向けて振り抜く、その動作は僕があと一歩を踏み出すよりも速い。そしてその刃の狙いは僕の首だった―――
「“天哉―――”」
僕は上半身を反らして刃を避けようとする、おかげで首を落とすことは避けれたが、刃は僕のヘルメットに食い込んでそのままヘルメットを弾き飛ばされる。その衝撃で僕は尻餅を突いてしまった。
ヘルメットの無線から聞こえていた兄さんの声が無くなり、本当に一人でヒーロー殺しに立ち向かわなくてはならなくなってしまった。
「スーツを着た子供……何者だ?」
刃を僕の眼前に突きつけ、明確な殺意を宿した眼で僕を睨みながらヒーローが尋ねてくる。
生まれて初めて向けられるおぞましい感情、僕はその殺意に当てられ身体が思わず固まり全身に鳥肌が立つ。
「…ハァ……消えろ、子供が立ち入っていい領域じゃない」
ヒーロー殺しはそれだけ言うと刃を下げて見知らぬヒーローの方へと振り向いた。視線が逸れた瞬間に僕に当てられていた殺気が消えた、僕はそこでようやく自分の身体が震えていたことに気が付く。
怯えていたのか、僕は…ヒーロー殺しはそんな僕を見て只の子供だと思ったのか?……でも助かった、これで―――
『兄のように人々を導き守れるヒーローに成りたいと、心の底から思っている。』
―――いいわけがない…僕はかつてなんと言って
……そんなはずはないっ!!
「―――待て、ヒーロー殺しステイン!俺が何者かと尋ねたな?なら教えてやる!!」
「……ハァ…口の利き方に気を付けろ。場合によっては子供でも標的になる」
俺は素早く立ち上がりヒーロー殺しへと叫ぶ、奴は気だるそうに振り返ると再び殺気を飛ばしながら告げてくる。
「――ッ!俺は……俺は
俺はヒーロー殺しの殺気を押し退けて名乗りを上げた、そう俺はもうヒーローとしてこの場にいるんだ!
「ヒーローを名乗るか……ハァ…そうか、死ね」
ヒーロー殺しが眼を細めながら呟き、俺に向かって刃を振り下ろす、俺は大きく後ろに跳ねてそれを躱した。こいつ本当に人を殺すことに躊躇がない…!
「レシプロバーストっ…!」
俺はエンジンを暴走させて最速でヒーロー殺しに接近する、しかしヒーロー殺しが対応に遅れることはなく俺の胴に向かって刃を薙ぎ払う。俺は奴の間合いに入らないギリギリの半径の弧を描いた軌道で後ろへと回り込む、だが奴の視線は振りきれない。
「なかなか速い…!」
ヒーロー殺しは一言呟くもしっかりと俺を捉えている、俺は一気に切り返し敢えて真っ直ぐ奴に突撃する。意表を突かれたのか奴の眼が見開かれる、それでも奴は刃を既に返しており俺の眼前には鈍色の光が迫っていた。
「―――そこだぁ!!」
俺はヒーロー殺しの左側へと姿勢を落としながら刃を避ける、躱しきれず頬を刃先が切り裂くもかすり傷だ。俺の狙いは最初から奴への攻撃
ヒーローを奴の手から奪い去り、そのまま路地裏からの脱出を目指す。レシプロの馬力なら五歩も走れば大通りへと抜けられる筈だ!!
「…狙いは最初からそいつを救けることだったか……」
一歩、二歩、三歩と大きな歩幅で走り抜ける、しかしヒーロー殺しが追ってくる気配はなく、奴はその場で呟くだけだった。
「―――だがあと四ミリ、踏み込みが足りない…!!」
ヒーロー殺しの意味不明な呟きを余所に、俺は四歩目を踏み込もうとした、その瞬間全身が硬直する。自らの加速した勢いに乗って俺は無様に地面を転がっていく。
身体が動かない…!?これは―――しまった、奴の個性か!!
「いきなり子供が邪魔をしに来て只の殺気で震え上がる……かと思えばヒーロー名乗って人助けとは…ハァ…面白い…!」
「…ぐっ…くそぉ…!」
ヒーロー殺しが不気味に笑いながら一歩ずつ悠々と近づいてくる。なんとか身体を動かそうとしてみても、首から下が全くといっていいほど動かない、これが奴の個性……兄さんから話は聞いていたのに!!
「……ハァ…危険を省みず人を救けようとする勇気と…そして貴様の研鑽された速さ……及第点といったところだな」
ヒーロー殺しは僕らの下までたどり着き、襟首を掴んで路地裏の暗がりへと引き摺っていく、その間も奴の独り言は止まらなかった。
「貴様には本物の可能性を感じる……この偽物と違ってなっ!!」
ヒーロー殺しは奥まで進むとそれまでの呟きとは打って変わって語気を強めてヒーローをぶん投げた。
くそっ!なにもできなかった!!兄さんの話をもっとよく聞いていたら…あの時刃を完璧に避けてさえいれば…!邂逅の時にヘルメットを弾き飛ばされていなければ…!!
そんなたらればの想像をしたところで最早すべてが
「今日のところは貴様は見逃してやる…ハァ…本物の英雄を目指して精進するといい―――」
「いったい何を言っているんだ…!?」
俺はヒーロー殺しの呟きに口を挟む、ヒーロー殺しは舌を這いずらせて言葉を続ける。
「―――この偽物は別だ、こいつは今ここで殺す」
ヒーロー殺しは殺気を撒き散らしながら、気を失っているヒーローを睨み付ける。ダメだ、そんなことはさせない!そう思ってみても身体は全く動かない、結局の所最初から何も出来ないことは判っていた…だがそれでも俺は止めたかった、救けたいんだ!
「やめろ!おい!!ヒーロー殺し!やめるんだ!!」
唯一動く口を使って必死に叫ぶ、ヒーロー殺しはそんなこと構わないといった様子でヒーローの顔を掴んでその首筋に刃を添わせていく。
俺は無力だ……こんなとき兄さんならもっと上手くやれたんだろうか……
俺の最強の友人……彼ならこんな時も笑顔で全てを解決してしまうんだろうか……
虚しい後悔と想像だけが俺の頭を埋め尽くす、眼からは涙が滲み出て視界がボヤけていった。
「じゃあな、正しき社会への供物―――」
ヒーロー殺しが最後を告げるセリフを吐いてヒーローの首に刃を当てる。
ちくしょう!ちくしょうっ!!許さない……許さないぞヒーロー殺し…必ず…必ず―――
「――インゲニウム。この名を生涯忘れるな!お前を倒すヒーローの名だ!!」
―――必ずお前は俺が…俺達が捕まえてみせる!!
「…ハハァ……それは楽しみだ…いつでも来い―――だが偽物として来た時は……俺がこの手で殺してやろう…」
―――俺が自らに誓い、ヒーロー殺しがそれを嘲笑ったその時、それは空から落ちてきた。
一迅の暴風が路地裏に吹き荒れ、俺もヒーローもヒーロー殺しも巻き込まれて飛ばされた。
俺は壁に背を打ち付けながらも眼を見開く、そこに映るのは見慣れた緑色の癖毛と筋骨隆々な肉体の持ち主。
「もう大丈夫!僕が来た!!……なんとか間に合ったかな?―――救けに来たよ、飯田君!」
颯爽と現れて笑顔で話しかけてくる俺の最強の友人、こんな状態なのに俺もつられて思わず笑みが溢れてしまった。
―――彼はどんな困難も窮地も全てを壊していく、そして前へ前へと進んでいく、そんな“ヒーロー”だ。
「―――まったく…ホントに君はなんでもぶち壊していくな、緑谷君!」
――― 飯田 side out ―――
更新がない間もじわじわとアクセスが増えている…こんなに嬉しいことはない…!
というわけで正月休みも終わったんでこれからまたペース上げて更新していきたいと思いますので、応援よろしくお願いします!