デクのヒーローアカデミア 再履修!【完結】 作:くろわっさん
今回から八章の予定でしたが、予定を変更して幕間7.5章からのスタートになります。
今晩から三夜連続投稿しますので、これからもよろしくお願いします!
徒手空拳は拳法じゃない
僕は三人の脳無に限界を超えた力を何度も使い、ギリギリで勝つことが出来た。
しかし翼の脳無はまだ動けたしステインもどさくさ紛れに逃げようとするしで詰めがまだまだ甘かった……インゲニウムがステインを捕まえてくれて良かったよ。
もっと強くならなくてはいけない、そう誓って僕は職場体験を終えたのだった。
「―――そこで刀をガッと受け止めて、奴の胴にドカンっとお見舞いして一撃で仕留めてしまったんだ!そして俺達は救けられたんだよ!」
「おおー!一撃なんて普通考えられないよね!」
「そこはアイツだから…としか言い様がねえな」
賑やかな教室の中から一際大きな飯田君の興奮ぎみの声が聞こえる、なにやら飯田君の話でみんな盛り上がっているようだ。
僕は開いているドアから教室に入る、教室の前の方で飯田君を中心にいつものメンバーが集まって話をしているのがそこでわかった。
やたら盛り上がってるけどなんの話してんだろ?楽しそうだから僕も混ざりたいな!
「俺の時も敵に反撃されてヤバかったところで……俺を庇いながら抱えて救けてくれたんだ」
「私も前に抱えて救けて貰ったなぁ~」
「む?麗日もなのか?」
「まあね!」
今度は轟君が話はじめて麗日さんがそれに乗っかる、そして二人は互いを見合って若干のドヤ顔を浮かべていた。
あれ、この話ってもしかして――――
「デクさんは
「俺にとってもヒーローだ……」
「「デクさん(緑谷)はさすがだなぁ……」」
「「ん?」」
麗日さんと轟君はセリフをハモらせて又も向き合う、仲良しなのかな?
―――って、やっぱり僕の話じゃないか!恥ずかしいから止めてもらおう……悪口よりはマシだけどマジマジ聞いてられるものじゃない…!!
「おはよう!みんななんの話してるのかな!?」
僕は思いきって後ろから声をかける、こういうときは正面突破だ!
きっと気を使って止めてくれるだろう…!本人の前でわざわざ話すことはあるまいし。
「おはようデクさん!」「おはよう緑谷」「おはよう緑谷君!」
「よお、デク。保須じゃ大活躍だったらしいじゃねえか?」
「そんな大活躍なんて…僕は出来ることを出来る限りやっただけで――」
「謙遜するな緑谷君!あのときの君は大活躍といっても過言ではない成果を上げていた!流石だ!!」
みんなが挨拶を返す中かっちゃんが僕に尋ねる、僕はそれを否定しない程度に訂正するが飯田君がそれをさらに訂正する。
「そうだよ!流石はデクさん!」
「略してさすデクだな!」
「おお!さすデクだ!」「さすデクか…いいな!」
「いや、その…ちょっと…」
「「さすデク!さすデク!」」
麗日さんが言ったことをかっちゃんが謎の略語に変えてしまう、そしてみんながそれに乗ってコールを始めてしまった。
なんだこれ!?なんだよさすデクって!!正直恥ずかしすぎるから止めてほしい!!
「お?なんだ?緑谷持ち上げ祭りか?」
「なになにー?さすデク?」
「さすデク!ウェーイ!」
「さす!デク!」
「「「さす!デク!」」」
教室の前で騒いでいるのを切島君を筆頭としたパリピ勢が聞き付けてさらに乗っかってきてしまった。
気がつけばクラス中がさすデクの波に呑まれて、その中心ではかっちゃんが音頭をとり、僕が恥ずかしさで悶えるというなんともカオスな状況が生まれていた。
恥ずかしい!なんだよこれ!!高校生のノリって怖い…!
―――誰か、誰かこの空気を止めてくれ!!
「騒がしいんだよA組!!もうすぐ授業だってのにろくに準備もせず騒ぐのが君たちのやり方なのかい?
まったく…なんで君たちみたいなのが世間から持ち上げられてるんだか…」
教室の後ろのドアを大きな音をたてるように叩きながらB組の物間君が空気に水を差すように入ってきた、おかげで教室中がシーンと静まり返る。
普段なら死ぬほど空気が読めない物間君だが正論を言わせるとこんなに刺さるのか!でもありがとう…このよく分からない空気を止めてくれて!
「まあこんな調子ならすぐに僕たちB組が君たちを置き去りにしてしまうだろうね。いいか?スゴいのは君たちA組じゃなくて緑谷君個じ―――んがっ!?…………」
「ふぅ、なんで注意しに行ったのに煽ってんだよ」
相変わらずのA組への煽りを発揮していた物間君、それを気絶させて止めたのは勿論拳藤さんだ。
恐ろしく速い手刀、僕でなきゃ見逃しちゃうね。
「悪いなA組、でもさっきのは流石に騒ぎすぎだと思うよ。こっちの教室までさすデクコールが響いてたんだから」
「ご、ごめんね拳藤さん……僕が始めた訳じゃないけど…ごめん」
「いやいや!この感じ緑谷君も被害者って感じでしょ?」
「あ、うん。そうなんだけど…でも原因は僕だから……」
「とにかく!あんまり騒ぎすぎなきゃうちらも気にしないから、緑谷君もそんな
僕が物腰低く謝り続けているので拳藤さんも言い過ぎたと思わせてしまったのか少し困った顔をしてしまい、僕と拳藤さんの間になんとも微妙な空気が流れる。
クラスの皆も自分達が騒いだのに僕が謝っているという罪悪感からか静かにこちらを見守っている、かっちゃんに至っては自分の煽りのせいでこんなことになってさぞや気まずいと思っているだろう。“あれとってくれ”で醤油を渡せるレベルの幼なじみの僕にはわかる。
前にも拳藤さんとこんな空気になった気がするなぁ……そういえばその時、拳藤さんとなんかあったような……体育祭の昼休みに麗日さんと発目さんもいて………はっ!思い出した!!
「拳藤さん!話したいことがあるんだ、今日の放課後空いてるかな!?」
「へ?」
僕の言葉に拳藤さんはすっとんきょうな声を出してそれまで襟首を掴んでいた物間君を床に落とした。
「はあああああああぁぁぁ!!?――――」
白目を剥きながら床に転がる物間君、赤く染まった頬を隠すように手を添えて動揺する拳藤さん、絶句するクラスメイト、そんなカオスな教室に麗日さんの絶叫が響くのだった―――――
――――時は放課後、
「それでデクさん、わざわざ放課後に呼び出してまで拳藤さんに話したいことって何かな?」
「いや麗日さんにはあんまり関係な――」
「それとも私がいると言いにくいことでも話そうとしてたの…?」
「いえ、同席してもらって結構です!」
僕に詰め寄る麗日さんの迫力に負けて二つ返事で了承してしまう、ちなみに学校を出たときから麗日さんはこんな調子で落ち着きがない。
誰かに助けを求めたいがここにいるのは―――
「ファミレスの呼び鈴ってこんな風になってるんですね、シンプルな構造…面白味がないです!」
「ちょ、発目さん!お店のモノ壊しちゃまずいって!」
「壊してませんよ?ちょっと私なりに手を加えようとしてるだけです」
「それがまずいんだって……自分のモノじゃないんだから。いいから早く元に戻しな?」
「ふーん、まあそれもそうですね。いずれは私が開発したモノを使ってもらうとしましょう」
」
「なんか大きいんだか小さいんだかよく分からない野望……」
―――自由奔放な発目さんとそれを止めるので精一杯な拳藤さんだけだ。というか発目さんはホントにぶれないな…!
轟君も飯田君も麗日さんの迫力に負けて来なかったし、同盟の二人は生暖かい目で見送るだけだったし、頼みの綱のかっちゃんは用事があるとかで帰っちゃうし!
この状況をなんとか出来るのは僕しかいない、てかわざわざ二人を呼び出したんだから本題に移ろう、そうすれば麗日さんも落ち着く筈だ――――
「「「―――ヒーロー科A・B組合同の自主練!?」」」
麗日さん、発目さん、拳藤さんが声を揃えるが、その表情は疑問だったり、ワクワクしてたり、驚いたりと三者三様だ。
「そう!近接格闘を主体とした人達のね。体育祭の時やるって約束してたよね?」
「あー、ありましたねそんなこと。すっかり忘れてました!」
「緑谷君覚えててくれたんだ、アタシだけかと思ってたよ」
「うーん、言ってた様な気もする……覚えとらん…!」
拳藤さん以外の二人は忘れていたらしいが僕も正直なところ今朝拳藤さんの顔を見るまでは忘れていた。よく覚えてたなぁ拳藤さん、流石はB組の姉御的存在だ!
「期末試験も一ヶ月後に迫ってるし、やるなら今かなって思ったんだよね」
「試験対策かぁ……でも緑谷君は自分の特訓とかはいいの?アタシらに教えながらじゃ厳しんじゃない?」
「人に教えるのって自分でやるときより見方が変わるし復習にもなるしね!それに他の人から新しいインスピレーションを得られる気がするんだ」
「そっか、じゃあお願いしようかな!」
「任せてよ、オールマイト流で教えてくからね!」
僕と拳藤さんはそんな会話をしながら話を進めていく、僕はオールマイト達に教わってばっかりだったしきっとこれは現状を打開するきっかけになる!!……筈だ…
―――その日は細かい段取りなどは決めず、僕がA組、拳藤さんがB組の人達に声をかけるということだけ決めて解散となった。
A組の近接格闘タイプの人……筋肉同盟の二人は当然として、あとは飯田君、切島君か?意外と少ないな。
次の日、僕と拳藤さんは職員室を訪れていた、自主練をやる場所…演習場か運動場の使用許可を先生に取るためだ。
「1-Aの緑谷です、入ってもいいですか?」
「1-B拳藤もいます!管先生いますか?」
僕はドアをノックしてから名乗り、拳藤さんもそれに続く。管先生……ブラドキングに頼むつもりなのか、僕話したことないんだよなぁ。
「緑谷か、それに拳藤もいるんだな?わかった、そこで少し待て―――」
ドアの奥からブラドキングの声が聞こえる、少し待てってことはオールマイトがトゥルーフォームでいるんだろう…今日も朝から大活躍だったらしいし活動時間を使いきってるに違いない。
「―――いいぞ、入れ」
「「失礼します!」」
「俺になにか用か?緑谷…!」
ブラドキングの指示に従って僕らは入室する、そこには椅子に腰掛けながら僕を睨みつけるブラドキングの姿があった。なんで威圧されてるんだよ…
「あの…個性を使った自主練をしたいので演習場か運動場をお借りできないかと相談しにきました!」
「…なぜ相澤先生ではなく俺に聞きに来た?」
「えーと……」
僕がブラドキングに尋ねると彼は眼光をさらに鋭くしながら尋ね返してくる、だからなんでそんな怖い顔してんだよ…!
「はい先生!それはアタシから説明させてください!」
「ほう…拳藤、どういうことだ?」
「アタシが緑谷君に訓練をお願いしたんです、そしたら緑谷君はアタシだけじゃなくB組のみんなにも一緒に教えてくれるといってくれたので、是非ともお願いしたいんですよ!!」
訝しげな顔のブラドキングに拳藤さんが元気よく説明をしていくとその険しかった表情が段々と解れていった。
「なるほど、事情はわかった。だが緑谷にひとつ聞きたい、なぜライバルである我々B組に協力を?」
「きっかけは拳藤さんへのお詫びだったんですけど…B組の人達と話したことってあまりなかったのでこれを機に仲良くなりたいってのがひとつですね。
それに……僕らは
僕はブラドキングの質問に答えていき、その最中で段々と言葉に熱がこもっていった。
「緑谷……お前ってやつは―――」
「――はっ!?すいません!生意気言って……」
気がつけばブラドキングは俯いて肩を震わせていた、僕は慌てて謝るも手遅れかもしれない……まずい、怒らせてしまったか?
「――いいやつだな!すまない、お前は自分だけが圧倒的に強くて、力を鼻にかける奴だと勝手に思い込んでいた!
オールマイトの弟子とはいえお前はまだ子供だしな、その時は矯正してやろうと日頃から思っていたのだが……まったく俺の落ち度だ、彼は師としても一流なんだな!!」
「えっ、あ、ありがとうございます」
ブラドキングは顔をあげると僕の肩を掴んで職員室中に響くような声で話す、そして豪快に笑いながら僕の肩をバシバシと叩いて話を続けていく。
「で、演習場が借りたいんだったな、緑谷!俺に任せておけ、γでもβでも好きなとこを借りられるようにしといてやる!
それに監督役がいるなら俺が引き受けよう!拳藤、B組連中を頼むぞ、みんなで強くなれ!!」
―――こうして、やたら熱血なブラドキングのおかげで僕らは自主練のために演習場を借り放題になったのだった。
そして翌日から僕らの“AB組合同近接格闘自主練会”が始まった。
「これで全員かな?」
「ええ、みんな集まったよ!」
僕は隣に立つ拳藤さんに尋ねると、拳藤さんは明るい声で答える。
僕らの前には集まってくれたAB組のみんながいる、その面子は……
A組
障子君、砂藤君、飯田君、切島君、麗日さん。
B組
庄田君、鉄哲君、拳藤さん。
それとサポート科から発目さん…以上で9名か、思ったより多いかな?
「あれ?B組ってもう少し近接格闘のやついなかったか?」
「あー、体育祭で緑谷にトラウマもっちまったやつが結構いてな…これたのは俺と庄田くらいだ」
「気合い入ってんな、男らしいぞ!!」
人数を数えている最中、切島君と鉄哲君がそんな会話をしているのが耳に入る。
体育祭のトラウマ……十中八九騎馬戦だろう、序盤、中盤、終盤、隙なくB組の人達を蹴散らしてしまったと思う……ごめん。
にしてもそんな中でも庄田君は来てくれたのか、前世でのトーナメント直前でも男らしく棄権していたし彼はホントに強い人なのだろうな。
ん?棄権といえばなんか忘れているような……まあいいか、思い出せないってことは大したことじゃないんだろう!
「集まったみたいだし、じゃあそろそろ始めようか―――」
「おーい!ちょっと待ってくれ!!」
僕が開始の号令をかけようとしたその時、少し離れたところから大声で待ったがかけられた。
出鼻を挫かれてしまったな、いったいなんだっていうんだ!?
「どうして誰も俺に声をかけてくれなかったんだ!!?」
「あ、尾白君!そういえば忘れてた!!」
「忘れられてたのか……」
声をかけて来たのは焦りが顔に出ていて動揺した尾白君だった。
そう…僕らは誰一人尾白くんの存在を思い出すことなくここに集合していたのだ、武闘ヒーローテイルマンといういかにもな近接格闘タイプのなのにも関わらず、尾白猿夫君のことを誰も思い出せなかったのである!
ごめんね尾白君、でも逆にすごいよ…!
「と、とにかく!尾白君も一緒にどうかな?」
「あ、ああ、勿論一緒に鍛えさせてくれよ!俺ももっと強くなりたいんだ!!」
「うん!じゃあ気を取り直してこれから1ヶ月、頑張っていこう!」
「「おーーー!!!」」
なんとか勢いに任せてその場を凌いで、尾白君も含めた全十名で僕らの自主練は始まった。
―――これが後の世に“緑谷塾”と呼ばれる雄英高校伝統の近接格闘を主体とした徒手空拳の生徒団体、その設立の瞬間になることをこの時の僕は知る由もなかった。
影の薄すぎる男、尾白猿夫。教室では葉隠さんより存在感がない!―――――
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