デクのヒーローアカデミア 再履修!【完結】 作:くろわっさん
オールマイトとの決戦、全力と全力のぶつかり合いは演習場を破壊しながら白熱していった。
僕の新技ワン・フォー・オール・プルスウルトラとかっちゃんのアシストのお陰で僕らは二人でオールマイトに勝つことができた。
でも力を使い果たした僕とオールマイトはトゥルーフォームへと戻ってしまい、あろうことかかっちゃんにその姿を見られてしまった。
どうするオールマイト?どうする僕!?
「だからてめえらいったい誰なんだ!デクとオールマイトをどうしやがった…!返答次第ではぶっ殺す…!!!」
かっちゃんは眼を血走らせて僕らを射ぬく、僕らってのはトゥルーフォームになってしまった僕とオールマイトのことだ。
かっちゃん、かなり混乱してるな!まあさっきまで闘ってた相手と仲間が突然消えて、死にかけの痩せ男と馴れ馴れしいチビが現れたらそりゃそうなるよな…
「かっちゃん!信じがたいかも知れないけど、そこに座ってるのがオールマイトで、僕が緑谷出久…デクなんだ!!」
「んなわけあるか!!てめえらとあの二人、似ても似つかな……あぁ?面影は……なくはない……ってどうみても別人じゃねえか!
オールマイトはこんな骸骨みてえなやつじゃねえし、デクはてめえみてえな陰キャっぽいナード野郎じゃねえ!!」
「骸骨……」「陰キャナード……」
かっちゃんのストレートな身体的特徴を捉えた暴言が突き刺さり凹む僕とオールマイト。事実を言われるのが一番辛いとはよくいったものだ……
いやいや!ショックを受けている場合じゃない!かっちゃんの誤解を解かないと僕らはまとめて爆破されてしまう。爆発落ちなんてサイテーだよ!!
「本当に僕らなんだ!かっちゃん!ちょっと力を使い果たして二人ともこんな感じの姿になっちゃってるんだけど…でも僕は僕だ、信じてくれよぉ!」
「なんだその取って付けたみたいな設定は!? そんなもんデクから聞いたことねえぞ!」
「言えなかったんだよ、力を出しすぎると弱くなりますーなんて普通誰にも言えないよ!!どうしたら信じてくれるんだ…」
「まだ言うかこの…!―――じゃあひとつ聞かせろ……俺とデクしか知らねえ筈のことをな。てめえがデクだってんならわかる筈だ」
かっちゃんは猜疑心にとらわれながらも僕にチャンスを与える。よしこれに答えてバッチリ信じてもらおう!!
「俺とデクの約束……今何個目だ?さあ答えてみろや!!」
「えっ…や、約束の数ぅ……?」
やばい!何を約束したかってのはだいたい覚えてるけどその数は覚えてない!うーん、確か前に聞いた気がするんだけど。
……思い出せない!適当は数を言うか!?いや外れたときのリスクがデカイ……ここは素直に答えよう!
「ごめんかっちゃん!覚えてないや……前にも聞いた気がするんだけど忘れちゃって…!」
「またかてめえ!また忘れやがったのかよ!!―――はあ…俺の予想したデクの答えそのものを寸分の狂いなく言いやがって……マジでデクなのか?」
かっちゃんはため息をつきながら呆れたような顔で僕に尋ねる。
どうやらこれこそが正解だったらしい。流石は僕の幼なじみ、僕がかっちゃんの超高校級の幼馴染なら彼もまたしかりだったということだね!
「緑谷少年…マッスルフォームに一瞬でいいから成ってみてはどうかな?ごほっ…私は今ちょっと成れそうにないからさ」
「オールマイト!大丈夫ですか!?そうかマッスルフォームに成れば全部解決じゃないか……」
「おい!俺を無視して訳わかんねえ会話すんじゃねえ!!」
「ごめんかっちゃん!でも今僕がデクだって証拠を見せるから!見ててね……」
オールマイトがかなりきつそうだ、早く保健室に連れていくためにもこの場を収めなくては!
ワン・フォー・オール―――フルカウル……!!
僕の矮躯に
「マジでか……デク…?」
「マジで僕だよかっちゃん。そんでソコにいるのもマジでオールマイトだ、見ての通り結構重症だから早く保健室に連れていこう。話はそこでいいかな?」
僕は身体に鞭を打って格好だけの変身をする、そしてようやく納得したかっちゃんに問いかけた。
「あの身体がどうなってこうなっちまうんだ…?」
「ちょっ!かっちゃん、擽ったいよ!あっ――」
かっちゃんがペタペタと僕の身体に触れてきて、僕は擽ったさで力が抜けて思わずトゥルーフォームに戻ってしまった。
僕とかっちゃんは気まずくなって黙りこむ。その沈黙にオールマイトの病的な咳払いだけが木霊する。
「……いこうか」
「……おう」
―――オールマイトを乗せた担架をロボットが運んで救急車に乗せる、それを運転するのもロボットだ。ロボット大好きだな雄英高校。
その救急車に乗り込んだ僕とかっちゃん。そして僕はかっちゃんに自身とオールマイトの身体に起こった変化について説明していった。
「―――ほー、個性被りとエネルギー切れによる弱体化のリスクねえ……」
かっちゃんが納得したようなしてないよな声を出して微妙な顔をしている。でも嘘は言ってない、というか僕はかっちゃんにうそがつけない。ついても直ぐにバレるだろうし……
かっちゃんに説明したのは以前からオールマイトと二人で考えていたカバーストーリーだ。
オールマイトと僕はまったく同じような個性を持った、所謂個性被りでそのリスクとして弱体化してしまうこと。そしてオールマイトは過去の怪我が原因で更に弱体化が進んでいるということを。
「今まで言えなかった事情はわかった……特にオールマイトのはな。平和の象徴として抱えるもんがでかすぎる、そりゃ他人にはこんなことになってるなんて言えねえわな」
「そうなんだよ!んで持って僕もその後継者として世間に知られちゃってるわけだから――」
「でもな、デク。てめえは駄目だ!!」
「ええっ!?なんでさ!?」
理解を示してくれていた筈のかっちゃんは僕の言葉を遮ってダメ出しをする。まさかの幼馴染の裏切りである。
かっちゃん、やっぱり僕に実はこんな弱っちい一面があったことを怒ってるのかなあ……そうだよな、今の今まで最強だと思って慕ってた相手が弱く為ります、なんてなったら怒るよな。
「てめえ…そんな重大な弱点があるならなんで俺に言わねえんだよ!」
「ごめん…それは他人には知られちゃいけない秘密で……」
「ああ!?他人には!!?俺はお前の
かっちゃんの怒りの理由は僕の予想とは違うものだった。
「かっちゃん…それってその…どういう意味?」
「――っーー!!あーもうっ!だからな、お前が弱ってる間は俺が守ってやるし、秘密もばらしたりしねえ!というか周りにばれないように手伝うっての!!
……俺はお前の相棒だからよ、お前の秘密も弱さも全部一緒に背負ってやるって言ってんだ。ったくこんなこと言わせんなよ……」
かっちゃんは頭を掻きながら恥ずかしそうに俯く、僕は呆気にとられて口を半開きにしたままだ。
あのかっちゃんがここまで僕を信じてくれていたなんて……僕はバカ野郎だな。こんなことまで言われないと気が付かないなんて…
かっちゃんは前世のかっちゃんとは違うんだ、僕以上に僕のことを信頼してくれている。その想いに答えるには僕も……
「かっちゃん、ありがとうっ!!まさかかっちゃんがぞんなこどいっでぐれるなん゛て゛ーーー!!」
「うおっ!?汚ね!!なんだその涙の量!?」
僕は感激のあまり、眼から滝のように涙を吹き出しながらかっちゃんに感謝する。この身体だと涙腺がぶちギレてるので涙が止まらない…!!
「秘密を分かち合って友情が深まったな、少年達…」
「オールマイト!気がついたんですね!!よがっだー!!!」
「うぜえ!泣くのやめろデク!!」
「元気だな君たち……」
そんな一幕のあとオールマイトがかっちゃんに話しかけた。
「あまり緑谷少年を責めないでくれたまえ…秘密を厳守するように指示したのは私なのだ。次代の平和の象徴である彼の最大の弱点だからな、なによりも隠さなくてはと思ったんだよ」
「…わかった。誰にも言わねえし教えたりしねえ、デクだけじゃなくあんたの秘密もな。まあオールマイトにまで俺を信じろとは言わねえけど―――」
「いや、信じるよ。私の弟子が、緑谷少年が信頼して認めている男だ。私も、君を信じる…!」
「……ありがとよ」
そんな会話をして二人は握手する、オールマイトは信念の籠った瞳をかっちゃんに向け、かっちゃんはどこか照れ臭そうに嬉しがっていた。
なんで分かるのかって?かっちゃんもオールマイトの大ファンだからさ!前に言ってたしね!
オールマイトに認めてもらって満足げなかっちゃんは急に身体をクルリと僕の方へむけて含みをもった笑みを浮かべる。
「さてデク…!てめえまだ俺に隠してることあんだろ?この際だ、ここで全部話せ!」
かっちゃんは笑顔で、だがしかし僕に拒否権はないといった雰囲気でそう言い放つ。
なんでわかるんだよ!!身体の秘密だけじゃなく他にも言ってないことたくさんあるけどさぁ!?超能力…?いや、新手の個性か!!?
「えっ!?いや……その――うわっ!?」
僕が言い淀んだところで救急車が停まって後部ドアが勢いよく開けられる。
「オールマイト!あんたなんて無茶してんだい!!自分の限界くらい、いい加減把握しな!」
そこに飛び込んできたのは我が校の保健教諭のリカバリーガールだ、その老人とは思えない機敏さと気迫にオールマイトもたじたじだった。
「あのリカバリーガ―――」
「あんたも弟子ならもうちょい加減しな!ってあんたその身体……かなり限界が近いね。それじゃ治療もできゃしない!寝てな!」
「――ル…かっ!?」
リカバリーガールは早口で僕を叱るとどこからともなく取り出した注射を僕に突き刺す、その瞬間から意識が遠のいていく。
「ババア!話の途中だったのに!」
「ん?あんたは元気そうだね。チユーーー!!っとほら完治だ、相変わらず体力お化けだねあんたは。さあさっさと教室に戻りな!―――」
「ババア!!ソレいきなりやんなっていつも――――」
リカバリーガールとかっちゃんの騒ぐ声を聴きながら僕は意識を失った。
――――目を覚ますとそこはベッドの上だった。臭いからしてたぶん保健室、窓の外を横目でみると日が沈みかけていた。
腕には点滴の管が刺さっていて、その先を追っていくと空になっている点滴パックが見えた。
試験が始まったのが昼前だったから……六時間くらい寝ていたのか。強制的に変身が解けたのは限界突破マラソン以来だな……そりゃこれくらい眠るよな。
―――ハッ!オールマイトはどうなったんだ!? 真剣勝負の結果とはいえ、古傷に思いっきり拳を捩じ込んでしまった!生きてるとは思うけど重症なのは間違いないはず…!!
「オールマイトォォォ!!!!」
「呼んだ?」
「ふぁ!?」
飛び起きて叫ぶと隣から気軽なオールマイトの声が聞こえる、そこには僕と同じくベッドに寝かされていたオールマイトの姿があった。
「オールマイト!大丈夫ですか!?って全部僕がやったせいでこうなってるのか……すいませんオールマイト。今の僕じゃあの傷を狙うことくらいでしか貴方に勝つ方法が思い付かなくて……」
「謝らなくていいよ緑谷少年。今回の闘いは全力の真剣勝負、相手の弱点を狙うのは常套手段さ。それに……よっと、この通り!わりと大丈夫だ!リカバリーガールのお陰でいつも通りの不健康だろ?」
オールマイトはベッドから軽やかに立ち上がり、細腕を振り回しながら僕に話しかける。
「それに君たちは私を打倒した、それは間違いなく事実で誇っていいことだよ。まあ私自身が言うのはちょっとおかしな話かな?
とにかく!自信を持ちたまえ緑谷少年!君は私を自らのチカラで超えたのだ、胸を張れよ。次代の平和の象徴、オールライト!」
「…はい! オールマイトっ!!」
オールマイトが僕の大胸筋を軽く叩き、僕はその言葉とオールマイトから伝わる熱に背筋を伸ばして答える。
「そしてついに私を超えたということで……卒業祝を渡そうじゃないか。これは君が勝ち取ったものだ…っと言ってもあまり大したものじゃないんだが―――」
オールマイトは後ろを向いて俯きながらそんなことを言う。卒業祝…?嬉しいけど保健室にそんなもの持ち込んでたのか?たぶんオールマイトも寝たきりだったと思うんだけど……
そしてオールマイトはトゥルーフォームからマッスルフォームへと変身して、画風の違うオーラを纏わせていく。
「食え」
オールマイトは一本の髪の毛を手に、いつも以上に濃い顔で僕へそう言った。
「へあ!?あのオールマイト、僕もう持ってるんですけど……」
「知ってるよ、だからこれはとりあえずの形だけのワン・フォー・オールの継承だ。別に今すぐ君に渡そうとは思ってないよ?五年後かも知れないし十年後かも知れない。
うーむ、君が100%の力を使いこなせるように成ったときに譲渡するのもいいな!総量が200%になってまた倍の修行が出来るかもしれん!そもそも既に持ってる人間に譲渡するとなにが起こるか予想もつかないが……ほら受けとれよ!」
オールマイトはあれこれ考えていたこと口にしながら、最終的に僕の手に髪の毛を少し強引に渡す。
「あ、あの!それなら誰か他の人に渡せば……その…ミリオ先輩とか………」
自分で言っててなんだが虚しくなる。その方が合理的なのは確かなんだけど、僕がオールマイトに認められて得たこのチカラが他の誰かに渡されていくのは……オールマイトを盗られたみたいでなんか嫌だな。
「本当にナンセンスだな君は!このチカラはほいほい誰かに渡していい代物じゃないんだ!私を含めた八人の正義の意思とその積み重ねたチカラの継承…それがワン・フォー・オールだ!
別に通形少年が悪いわけでないが……私は君こそが私のチカラを受け継ぐに相応しい人間だと確信している!君との出会いが、過ごした日々が!君の輝きが私にそうさせるのさ!!」
「オールマイト…」
「それにこれは個人的なエゴなのだが……君がどこの誰とも知らんオールマイトのチカラを使ってこれから活躍するのは……緑谷少年を盗られたみたいでなんか嫌だ!
頭では同じものだということは理解している。でも私の心が、魂が、それらは違うと叫んでいる!
君は
オールマイトは拳を握りこんで力強く叫ぶ、僕にはその熱意が痛いほど伝わってきた。似たようなこと考えてとは…嬉しいな。
「ありがとう、オールマイト…!大丈夫、僕は貴方の弟子です。そして貴方の後を継いで、必ず平和の象徴に成って見せます。だから――大丈夫です!」
僕はオールマイトへ笑顔でそう告げた。そして渡された髪の毛を口に含み一息で飲み込んでいく。
今いるオールマイトは僕があの時救けられなかったオールマイトではないかもしれない、というか違う人間なのだろう……それでも僕はオールマイトを救けたい。過去への後悔や贖罪だけじゃない、僕はオールマイトの未来を守りたいんだ。
オールマイトだけじゃない、このやりなおしの人生で出会った人たちは前世で僕が出会った人たちと同じようで違う人なんだろう。
この二回目の人生で積み上げた努力も、育んだ友情も、結んだ絆も、全てが僕を支えて作り上げていると感じている。
だからこれは敷かれた運命のレールを再び走るだけのやり直しじゃない。
再び運命の道を、
僕は
全てを――――
「大丈夫かい、緑谷少年?さっきからずっと黙り込んでしまっているが。もしかして髪の毛クソ不味かった!?ヘアケアはしっかり行っていたつもりだったんだが……」
「いえ大丈夫ですオールマイト!初めてではないので…!ただ少し考え事をしてて」
「悩み事かね……折角だ、私に話してみないか?」
オールマイトは考え込む僕に助け船を出すように語りかける。
僕のことだけじゃ駄目だと思う、このチカラ……オールマイトのチカラを授かったことも。
オールマイトに聞こう、これだけは僕だけの問題じゃないからな。
「オールマイト…僕、かっちゃんに全部話そうと思ってるんです」
「全部…とは?」
「僕の
「そうか……」
オールマイトは僕の言葉を受けて俯きながら考え始めたのだが―――
やはりダメだろうか、オールマイトがその師匠から受け継いだ大事なチカラのことだ。既に僕が持っていたとはいえそのチカラを授かる資格を得た直後だし……
「私はいいと思うよ、話してしまっても」
「ええっ!?そんなあっさりと!?」
「うん、そもそも君が今日まで鍛え抜いてきたチカラは君自身が持っていたものだし、私がとやかく言うことじゃないよ。
それにかくいう私も相棒であるナイトアイには全部話しているしね!」
僕の心配していたことなど全くの杞憂、オールマイトは飄々と言葉を続けていく。
「なによりも君が話したいと、伝えたいと思ったのだろう?ならばそうするべきだ。
まだ私は君にこのチカラを譲渡してはいない。だがこのチカラを授けようと思ったその時から、その秘密も、その先の行方も、全部君に託したんだよ。だから私から止めることも奨めることもない。
ただひとつだけ君の師匠として言えるのは―――君が信じた相手なら…私も信じている。ということだけさ!!」
オールマイトは力強い笑顔で僕にそう告げた。僕はその言葉に思わず涙を流しそうになるが、ぐっと堪えてオールマイトへ無言で頭を下げた。
オールマイトは足踏みしていた僕の背中を押してくれた。ならその期待に答えなきゃな…!!
その後、 僕はオールマイトと別れて家路に着いた。かっちゃんへの連絡を入れながら―――――
――――時刻は夜10時、僕はかっちゃんを携帯で呼び出してひとり公園で彼を待つ。昔はこの公園でかっちゃんとよく遊んだものだ。
「よおデク!お前がこんな時間に呼び出すなんて珍しいな」
「やあかっちゃん。ごめんね、こんな遅い時間に…でも大切な話があって、直接会いたかったんだ」
かっちゃんはやや息を切られせながら公園に現れた。どうやら走ってきたみたいだ、なんだか急かしてしまったみたいで申し訳ない。
まあ僕も気持ちが落ち着かずランニングしながら来たのだが。
「なんだそのマジな顔は?もしかして告白でもするつもりかぁ?」
かっちゃんは冗談めいた話し方で僕に尋ねる。かっちゃんに言われて気がついたが僕の表情はかなり余裕のないものになっていた。
これから僕がかっちゃんに話すのは僕の隠し事の全てだ、それを察して告白という表現をしたのだろうか?かっちゃんはやっぱり鋭いな。
「告白か……確かにそうとも言えることかも知れない」
「えっ!?……いやいや急にそんなんなられても困んだろうが……」
かっちゃんは自分の言ったことなのに復唱しただけでなぜか動揺していた。……ん? どういうことだ?まあいい、話せば全てが始まる。
「かっちゃん、僕はこれから突拍子も無いことを言うよ。にわかには信じられない話かもしれないけど、かっちゃんには信じて欲しいんだ。他でもない相棒の君だから――――」
そうして僕はかっちゃんに全ての隠し事を打ち明けた。
オールマイトの下で修行をしてきて、ヒーローとして成長してきたこと。
オールマイトからワン・フォー・オールを受け継いだこと。
未来から過去へと戻り、
そして……僕とオールマイトは近い将来殺され、命を落とす運命にあるということ……全てはそれに抗うためだったということを。
かっちゃんは始めは冗談だと思っていたのか、にやけた顔をしていたが……段々とその表情は固くなり、そして真剣な顔になり、最後には項垂れるように俯いて話を聞いていた。
「――――これが僕の全てだ」
全てを明かした僕は俯いたままのかっちゃんを見据えながら立ち尽くす。
暫く沈黙が流れた後、かっちゃんは俯いたまま話始めた。
「……これで全部か?これだけのことを今の今まで俺に隠して生きてきたってのか…!おい!答えろデクゥゥウウ!!!」
かっちゃんは顔を伏せたまま僕へと怒鳴り込む。
かっちゃんが怒るのも当然だろう……強いと思っていた、そして慕ってた僕が。
「ごめんかっちゃん……そりゃ怒るよね。今までこんなズルみたいな方法で君に勝ってしまっていて。本当なら君は僕なんかが及ぶような相手じゃなかったのに。
でもオールマイトを救うためになりふりを構っていられなかったんだ……だからごめ―――」
「ちげえよアホっ!!俺が怒ってんのはそこじゃねえ!!!」
「ええっ!?じゃあオールマイトの秘密を僕だけが知ってたことに怒って――」
「んなわけあるかボケェ!ぜんっぜんちげえわ!マジでデクだなお前は!!」
かっちゃんは僕の謝罪と答えを聞いて更に熱を上げてぶちギレる。僕には最早なにが悪くてなにがいいのかわからなくなっていた。
「なんでもっと早く俺に言わなかった!?なんで俺に助けを求めなかった!!?」
「その……言っちゃいけないこともあったし。なにより信じてもらえないと思ってたし……」
「バカ野郎!信じるに決まってんだろうが!!何度も言うが俺はお前の親友で相棒だろう!!?」
かっちゃんは僕の胸ぐらを掴みながらキレ続ける。
「僕が実は弱かったってことに怒ってないの…?」
「そんなんはどうでもいい!いいかよく聞けデク。俺は前世とやらでのお前なんてのは知らねえ!そしてお前が出会ってた爆豪勝己とかいうやつも知らねえ!!
お前にとっては同じ顔の同じ人間に思えるかもしれんが、俺は……今ここにいる俺は!この世界で生きてきたお前と過ごしてきた俺だ!
お前を認めて、お前に認められた、そんな俺なんだよ!どこぞのクソを下水で煮込んだみたいな奴と同じにすんなよ!!」
僕は本当にバカ野郎だ……オールマイトにもかっちゃんにもおんなじことを言われてしまった。僕もそれを信じてここに来たというのに……
「じゃ、じゃあかっちゃんはなんでそんなに怒って…?」
「ああ!?だからいってんだろ!お前が俺に助けを求めなかったからだ!
お前の話を信じるなら……お前は近いうちに死んじまうかもしれねえんだろ? だったら言えよ、俺に!運命に抗うために救けてくれって、力を貸してくれってよお!!」
「かっちゃん……」
「俺はそんなに頼りないか…?俺は命を預けるに値しないような相棒なのか…?なあデク……」
かっちゃんは普段絶対に見せないような、むしろ今まで見たことがないような、すがるような、悲しむような、寂しいような……そんな眼で僕を見つめる。
「そんなこと……そんなことないよ!僕はかっちゃんを信じてる!だから今だって全部話そうって思えたんだ。全部話せたんだよ!
隠し事の多かった僕だけど、嘘はつかない!かっちゃんは僕の一番の親友で、最高の相棒だよ!!」
僕はかっちゃんにありのままの思い浮かんだことを伝える。そこには一切の嘘偽りはない。
「デク……ありがとうな。わざわざ口にさせちまったが、俺もお前を信じる。俺はお前の相棒だからな!
それにヘドロから救けてもらったときのこと覚えてるか?今一度言うぜ―――」
かっちゃんは先程までと打って変わって自信に満ちた表情で話していく。
「―――次は俺がお前を救けてやる!!」
かっちゃんは笑顔で僕にそう告げて、拳を突き出してくる。
僕はかっちゃんに負けないくらいの笑顔で拳を突き出し、正面から合わせた。
―――かっちゃんが僕を救けて、支えてくれると言ってくれた。僕にはこんなにも素晴らしい相棒がいるじゃないか!
いや、かっちゃんだけじゃない。オールマイトも、サーナイトアイも、Mt.レディも、ミリオ先輩達もオールマイト杯のみんなも……僕を育て支えてくれた。
――――僕は本当に人に恵まれた。僕だけのチカラじゃない……この筋肉と、皆の力をひとつにして、必ず運命に打ち勝って見せる!!!
「デク、もう隠してることはねえよな?」
「あー、ないんじゃないかなぁ」
「いや待てよ……そういえばお前が死んじまうかもしれん事件のきっかけを聞いてなかったな。それさえ潰せば案外いけるんじゃねえか?」
かっちゃんは閃いたようで、僕に尋ねる。
あの事件のきっかけ……神野町に僕とオールマイトがいたのは……
「いや、その……それは……ごめん、言えな―――」
「デク。もう隠し事は無しにしよう……なあデク?」
またあの眼だ。困ったような、情けなくも見えるような、でも真剣なかっちゃんの眼。 僕はどうやらこの眼に弱いらしい……
――――僕はこの時のことを
「わかった、話す。話すよかっちゃん」
「それでこそデクだ!」
僕が根負けすると、かっちゃんはいつもの勝ち気な顔に戻る。こりゃやられたかな。
まあいい、かっちゃんならきっと信じてくれる。わかってくれるはずだ。そうならないために協力だってしてくれるだろう、だから正直に話そう。
「かっちゃん、よく聞いてくれ。あの事件のきっかけは……これから行われる予定の林間合宿にヴィラン連合が襲撃してくることから始まる。
USJの時とは違って生徒にも多くの被害が出た。そして……かっちゃんはヴィラン連合に拉致されてしまったんだ。
オールマイト達トップヒーローが集結してかっちゃんの奪還作戦が神野町で行われてね。当時、僕は轟君や切島君らと一緒に極秘の奪還作戦を実行して神野町にいた。
そしてそこにヤツが現れたんだ……諸悪の権現、最悪のヴィラン、連合の親玉、オールマイトの宿敵、オール・フォー・ワンがね。」
僕はヤツの姿を思い出しながら力強く拳を握りしめた。
「ヤツの登場でヒーロー達はほぼ壊滅的、オールマイトだけがヤツに立ち向かったんだ。でも僕らは戦場の混乱に乗じてなんとか、かっちゃんの救出に成功したんだけど……僕は止まれなかった。劣勢だったオールマイトを救けたい、そんな一心でほぼ無意識で戦場にひとり戻ってたんだ。
力もないのにそんなところに向かうべきじゃなかった…今だから言えることだけどね。
その結果僕を庇ってオールマイトは死んだ。そして僕もついでに殺されて……さっきの話に繋がるんだよ」
僕は愚かな自分の過ちを語りきった。今口にしても酷いもんだな……
僕の話を黙って聞いていたかっちゃんは気がつけばまた俯いていた。故にその表情は読み取れないが、肩が震えているのはわかる。
「それが真実なのか……」
かっちゃんは俯いたまま僕へ問う。
「そうだよ……これが愚かな僕の過ちの全て―――」
「なにがお前の過ちだ!!全部、全部俺じゃねえか!!全部のきっかけが俺から始まって―――俺がお前を!オールマイトを終わらせちまってんじゃねえか!!!」
かっちゃんは顔をあげると、眼を泪で滲ませながら叫ぶ。
「それは違うよ!悪いのは僕だ、思いのままに飛び出した…僕が悪いんだよ!」
「ちげえだろうが!!なんでだよ!どうしてお前は俺に関われんだよ!俺が捕まらなきゃ…俺さえ見捨てればお前は死ななかったのに!オールマイトもだ!!
なんでそんな人間と人生やり直した先で仲良くできんだよ!!?
わからねえ! 理解できねえ! 意味わかんねえんだよ!!!」
「違うっていってんだろ!!!かっちゃんこそなんで分からないんだよ!」
僕とかっちゃんは互いに譲らず、ただただ言葉のぶつけ合いが加熱していく。
「かっちゃんだって言ってたろ、前世の君と今の君は違うって!!」
「てめえがさっき言ってたろ!この世界でも前世の運命を辿ってるって!!だったらそれは、その運命のきっかけは変わらねえ!全部俺から始まるんだろ!?――運命を覆すんじゃねえのか!?なら
「見捨てるわけないだろ!僕が!君を!! 僕は運命なんかに負けない!オールマイトだって救けてみせる、君も僕が救けるんだ!!そのためだったら僕の命なんて―――」
「ふっざけんなぁああ!!!!てめえ!自分の命より大切なもんなんてあるわけねえだろ!一度はやり直せたって、次があるとは限らねえだろう!!? イカれてやがるよ、てめえはっ!!!」
かっちゃんは怒りに任せて僕の胸を強く叩く。だが鍛えぬかれた僕の身体はその拳では倒せない。
「……こんなに強くなってんだろ?俺なんか見捨てればお前は生き残れるじゃねえか……オールマイトだって救けられるだろうが……」
「駄目だ。僕はもう諦めないって決めたんだ。手の届くもの全てを救けていくって……決めたんだ」
かっちゃんは涙を流しながら今度は弱々しい拳で僕を殴る、そこにはもう先程までの勢いはなかった。
「話が平行線だな……」
「……」
「今日はいろいろ有りすぎて、俺にはもうなにが正しいのかわからねえ……暫くひとりで考える……」
かっちゃんはそう言うと目元を袖でゴシゴシと拭って、僕に背を向けて歩き出した。
そして公園の入口まで歩いたところで立ち止まり、此方へと振り向く。
「じゃあなデク――――もう俺に関わるな……」
かっちゃんは悲しむような、寂しいような、でも真剣な眼で僕に一言だけ告げて、その場を後にした。
僕は拳を固く、固く握りその場に立ち尽くすのだった―――――
――― Mixes side in ―――
オールマイトは一人、ベッドの上で静かに窓から月を見上げていた。
――緑谷少年についに資格を渡せた。そしてチカラを譲渡する時もそう遠くはないだろう。そして私のチカラを継いだとき、彼は平和の象徴となる筈だ。
オールマイトは一人、己に誓う。
――例えこの先ヤツがどれだけ手を伸ばそうと、私の命が尽きようとも、緑谷少年……君だけは――――
爆豪勝己は独り、夜道を歩きながら空に一際輝く一等星を見上げる。
――デクの話した突拍子もない秘密。おそらくあれは全部本当のことだ、俺がデクの嘘を見抜けない筈がないからな。
だからこそ……アイツに嫌われようと、なんだろうとあいつを俺から引き離さなきゃならねえ。絶対に救けたいなんて思わねえように。
爆豪勝己は独り、己に誓う。
――例え俺がどうなろうと…デク、お前だけは――――
緑谷出久はひとり、夜の公園で満天の星空を見上げる。
――かっちゃん……僕は君にどれだけ嫌われようと、拒絶されようと、僕は構わない。いくらでも手を伸ばし続けよう。
運命が僕らを呑み込むのならいくらでも足掻いて、乗り越えて見せよう。
緑谷出久はひとり、己に誓う。
かっちゃんを―――そしてオールマイトを――――
―――――“
――― Mixes side out ―――
救けたいから、想いは交差していく!――――
この物語もいよいよ終盤に差し掛かってきました。
第八章はこれで終わりです。
ひとまず、ここまで読んでいただきありがとうございました!これからも応援よろしくお願いします!!