デクのヒーローアカデミア 再履修!【完結】 作:くろわっさん
この話には劇場版の重大なネタバレになるような要素は含んでいません。でもできるだけ前情報なしでみたいって方は読まないほうがいいと思います。
今回は番外編というより本編の裏話に近いです。勿論、他の番外編と同じく読み飛ばしても本編に影響はありません。
メリッサがこの再履修の世界ではどのように過ごしていたのか。そんなお話になります。
では「Are you ready?」「できてるよ」って方はどうぞ!
これは、一人の少女の日記である。
その少女の名はメリッサ・シールド。“I・アイランド”のアカデミーに通う二年生の16歳、ブロンドのロングヘアーとメガネをかけた整った顔立ちが特徴だ。
そして個性研究で有名な天才科学者のデヴィット・シールドの一人娘である。ちなみにデヴィットはオールマイトと学生時代からの親友で、勿論彼女も面識があることを補足しておく。
ではこれからそんなうら若き乙女で科学者な彼女の日記の一部を盗み見していこうと思う。
――――――――――――――――――
4月上旬のある日
今日はパパの機嫌がとても良かった。理由を聞いてみると、パパの親友のマイトおじさまから久々に連絡があったらしい。
数年前からパパはマイトおじさまの話になると沈んだ顔をしていたから、たぶんなにかおじさまに良いことがあったに違いない!
でもなにがあったんだろう?パパはそこまでは教えてくれなかった。
4月下旬のある日
パパの機嫌が良かった理由がわかったの!
なんとおじさまが弟子をとったらしい。それでその育成に必要な機材を作ってくれないかと頼まれたんだって。今の自分の研究をやらないでそちらに掛かりきりになってるのよね。
それで今回頼まれたのは腕時計。GPSで位置と走行距離が割り出せて、何日も充電が要らないやつで、とにかく頑丈に作ってくれって言われたらしい。
「トシに頼まれて何かを作るなんて何年ぶりか分からないけど、久々に頼ってくれたから気合い入れて開発する」とか言ってもうやる気満々!
でもいくら頑丈だからって超重量の合金で腕時計作ってたから「腕時計なのにそんなに重くしたら不便じゃない?」って指摘したらシュンとしてたのは少し面白かった。
パパったらマイトおじさまの事となると周りがすぐ見えなくなっちゃうから私がついてあげなきゃダメかもね。
5月上旬のある日
この間おじさまに送った腕時計からデータが転送されてきた。でもデータが不可解なのよね……
まず不思議なのが連続走行時間。なんと72時間ほぼ止まらずに動き続けてたらしい。それも似たような範囲を1日ほどかけて回るように走っていた。うーん、自走する何かに取り付けたのかな?でもそれならなんで腕時計に…?
次に不可解なのがその速度。始めの12時間くらいは時折、休憩のように止まりながら、時速40~50キロくらいで動いてた。これだけなら車みたいな乗り物に乗って動いてたと予測できるのだけど……
そこから段々と速度が落ちてきて最後の12時間はほぼ止まらず、時速10キロ以下でゆっくりと動いてたの。スタートからほぼ72時間でスタート位置に戻ってて、それから電源が切られたみたいで、そこで記録は終わってた。
いったいおじさまはあの腕時計を何に使ったのかな?まさか腕につけて走ってたとか……いや、ないない。
6月下旬のある日
最近は定期的におじさまからパパに電話が来る。内容は弟子の育成に関しての相談や簡単な愚痴だ。でもパパはおじさまに何かを教えるのが楽しいらしくて、いっつも楽しそうに電話をしているのを見かける。
なんでも弟子がスランプに陥っているみたいだ。私もパパも研究者でたまにスランプに陥る時があるから、その気持ちはよーくわかる。
そしたらパパが「スランプなんてデカイショックがあれば一発だ!」なんて言い出して、それに同調したおじさまが大規模な特訓を思い付いたって言ってたわ。弟子の彼も可哀想、思い付きで特訓が始まっちゃうんだもの!
7月上旬のある日
パパにマイトおじさまからまた依頼が来た。この間のおじさまの特訓に必要な機材を作ってほしいと。
今回のオーダーは発信器。緊急時に使うものらしく、遮断されにくいかなり強めの電波を使って、外部動力要らずで1ヶ月くらい充電せずとも作動する仕様にして欲しいとのことだ。そして頑丈に作ってくれとまたも言われる。
パパは内部に動力炉を組み込んだ、強力な電波を発信し続けられる発信器を設計し始めた。だけど1メートル四方くらい大きさの物が出来そうだったから「外部動力要らずってことは持ち運び出来ないとダメなんじゃない?それに緊急用って言ってるんだから作動した時だけ電波を送受信出来ればいいじゃない」って提案したらショボーンとした顔になった。
結局私の案が採用されたらしく、完成したのはサッカーボールくらいの大きさの発信器だ。球状で衝撃にも強いとパパは豪語してた。
でもパパ、ビルの5階から落としてもピタリと止まるくらいの衝撃吸収構造はやり過ぎだと思うの……
9月中旬のある日
なんと!パパと一緒にヒーローコスチュームを造ることになった!
それを着るのは彼だ。そう、マイトおじさまの弟子の彼!
と言っても昔におじさまが着ていたコスチュームの改良品を造るだけなのだけれども。
それでも昔からの夢だったヒーローコスチュームの製作に携われるのは嬉しい!しかも一流研究者のパパと肩を並べて研究するのは、ひとつの到達点だったので尚更嬉しい。これで私も誰かのヒーローに近付けるかもしれない。
早速送られてきた身体データに目を通すと、彼がかなり逞しい身体なのがすぐわかった。これから予測できるのは、歳は二十代前半、恰幅の良さから純粋な日本人ではなくハーフかなにか、増強系の個性で長年筋肉を鍛え上げている、といったところかな。
たぶんだけど、おじさまは新人のプロヒーローを弟子にとったんじゃないかな?
また9月中旬のある日
コスチュームの改良は大方終わった。元々の機能は削らず、材質を今のおじさまのものと同じにしたり、カラーを指定されたグリーンにしたりするだけなのであっという間だったね。
でも顔を隠せるようにして欲しいというオーダーに苦戦中……
成長するまで誰か分からないようにしたいってことらしい。今時、秘密のヒーローなんて流行らないと思う!
私は認識阻害装置を着けたらいいんじゃないかと提案したんだけど「トシにはそういう高度な技術の精密機器は使いこなせないから無理だな。聞いた話じゃ弟子も似たようなもんらしい」とバッサリ切られてしまった。
悔しかったのでパパのラボに無造作に置かれてたレトロコミックのヘルメットを着けた登場人物が目についたので、「じゃあこんなんでいいじゃない?」と投げやりに言ってしまった。
そしたらパパは「おお!コミックからのオマージュか!いいじゃないか、メリッサもなかなかロマンが判って来たね」と誉められてしまった。
嬉しいけどなんか釈然としない…!
10月1日
今日で私は17歳になった。 アカデミーの皆やパパ達に祝って貰ってとても幸せな日だった。
そんな中でも一番の驚きはいつになく真剣な顔のパパからの言葉だった。
「メリッサ・シールド。トシ…いや、オールマイトの弟子のサポートチームへの君の加入を正式に許可する。アカデミーには私から話を通して単位も出るようにするから、本格的にヒーローのサポートをしてみないか?」
私は二つ返事でイエスと答えた。私の夢への大きな一歩を踏み出せる。新人のヒーローとはいえ、あのマイトおじさまの弟子……断る理由はないよね!
この日から私の人生が大きく変わる。 そんな予感がした。
10月上旬のある日
完成したコスチュームをマイトおじさまに送ってから1週間が経った今日。おじさまからコスチュームを身に付けた彼とおじさまのツーショット写真が送られてきた。
ヘルメットのおかげで顔は分からないけど、筋骨隆々な若者がそこに写っていた。
同時にヒーローネームも添付されてきたから、「登録し直さなきゃいけないな」とパパがぼやいていた。“大丈夫”って思いの込められた名前…きっとおじさまと同じで優しくて強い人なんだろう。
パパと一緒に自分の手掛けたアイテムがこれから誰かを救ける支えになると思うと喜びで思わず顔がにやけてしまう。
でも最悪なことにその姿をパパに見られちゃった。
パパとの開発の成果を喜んでた、と言うのが恥ずかしかったので「彼にコスチュームを渡すことが出来て嬉しかったのよ」と誤魔化しを言ってしまった。
それを聞いたパパは「娘は渡さんぞぉ!トシィ!」と言って泣きながら部屋を飛び出していった。
……なにかおかしな勘違いをされた気がする。
11月中旬のある日
彼があのコスチュームを着て、既にヒーロー活動をしているとパパから聞かされた。
なんでそんな大事なことを早く言わないのか。パパに問いただすと、おじさまの下じゃなくて他のプロヒーローの下で実戦形式の修行をしているだけだから、自分にとっては本番じゃないと言われた。
そう思ってるのはパパくらいよ!もう!
更にパパを問いただすと、“Mt.レディ”というヒーローの下で相棒見習いをしていることが分かった。
Mt.レディ…調べてみたけど、とっても綺麗な女性だった。ただホームページや彼女が活躍した事件の記事などを見ても彼のことは欠片も書かれていなかった。なんで…?
Mt.レディと彼は歳も近いし、きっと仲良く活動しているとは思う。もしかしたらヒーローと相棒以上の……(この先は文字が消されていた)
でも私には関係ない!そう、関係ないよね。私は科学者で彼はヒーロー。ただサポートするだけの間柄なんだから。
情報が少ないからだろうか。彼のことが無性に気になる。
12月初めのある日
彼のヘルメットが破壊された状態で送られてきた。
中身を知らずに箱を開けたら、明らかになんらかの衝撃で砕けたヘルメットが入っていたのだから。その時の私の動揺は酷かった。
軽さと視界の確保に重きを置いた構造をしていたとは言え、硬度に不足は無かった筈で、少なくとも人の頭蓋骨よりは頑丈に作ってあったヘルメット。それが重機で潰されたように壊れていれば、同時に彼の頭も……っと想像してしまったのは当たり前のことだろう。
しかし彼が亡くなったとか重症を負ったなどの情報はこちらには来ていない。急いでパパに問い合わせをしてもらったけど、早くても明日の朝にならないとわからないらしい。
……無事でいてね、私の―――
12月初めの次の日
呆れた。彼の容態が分かったんだけど、全くの五体満足で無事だった。呆れたのはヘルメットが壊れた原因。
なんでも戦闘訓練中にヘルメットごとヘッドバッドしたら、ヘルメットだけが粉々に砕けて、彼自身はかすり傷程度しか負わなかったとか……
どういうことなの!!?増強系ってそこまで強くなれるもの!??
パパに聞いたら「私も昔はよく、トシに渡したアイテムを壊して返されたもんだよ。並の強度じゃパワーについてこれないんだ。まさか弟子までそうなってるとはなぁ、ハハハ」と笑って返された。
もしかしたらと思い、おじさまの動きを元に開発したアイテムをパパに見せたら、おじさまが三回くらい全力で使ったら壊れるかもしれないと言われてしまった。強度には自信を持って作ったものだったのでかなりショックだった。
とりあえずヘルメットの強度は倍にして送り返すことにする。
12月下旬のある日
彼は今、様々なヒーローの下で相棒として貸し出されて、経験を積んでいると聞いた。
パパにおじさまから「彼は私の弟子なのに皆返してくれないんだ!」みたいな愚痴の電話がよくかかって来るようになったらしい。
パパもパパで「私もメリッサが他所のラボに入り浸ってたら盗られたみたいで嫌だから、気持ちはわかる」と言っていた。
なので「私もいつか他のヒーローの専属になったり、はたまたどこかにお嫁にいったりしたらここを出るときが来るかもよ?例えば―――彼とか」と冗談混じりに返した。
そしたらパパは「ぐおおお……娘はまだまだやらんぞ!トシィ!!」と言って泣きながら部屋を飛び出していった。デジャブ……
私は彼の顔も知らない、あくまで科学者と顧客。そんなことある筈ないのに。
そういえば彼のことってそんなに知らないなと思ってパパに聞こうと思ってたんだけど、この調子じゃ教えてくれないかも。
PS:深夜に目が覚めるとリビングからパパの話し声が聞こえたのでこっそり様子を見たら「あぁ…メリッサがぁ……俺のメリッサがぁ……おい、トシ、わかるか?わかるよな!?」とか言って号泣しながら電話をしていた。私はそっとリビングのドアを閉めて見なかったことにする。パパのバカ……
・
・
・
・
・
・
2月下旬のある日
衝撃の事実が発覚した!なんと彼は学生だった!!しかも私より2つも年下らしい!
事の発端は彼が日本のヒーロー育成の名門“雄英高校”に入ることになったという、おじさまからの報告だ。
教師でも始めるのだろうか?という疑問を抱き、詳細を聞いてみると……生徒として現役で合格したとのことだった。
完全に二十代前半の新人のヒーローだと思い込んでいたので、その実力と年齢のあまりのギャップに暫く理解に苦しんだ。
証拠と言わんばかりにメールには写真が添付されていた。
そこには照れ臭そうに合格通知の用紙を持つ筋骨隆々な若者の姿があった。彼の素顔は二枚目とは言えないが、優しそうな安心感のある顔をしてるなあ、という感想。
他にも写真には彼と蟹鍋を囲むように何人かの人物が写っていた。
おじさまと元相棒のサーナイトアイ、それに学生らしき男女三人組。そしてどこか見覚えのある金髪の美人なひとがひとり……記憶を辿ってそれがMt.レディだということに気がついたんだけど……なぜ彼女が?
彼女と彼の繋がりがイマイチよくわからない……いったいどういう関係なんだろう…?
3月上旬のある日
彼からコスチュームの改良の依頼が来た。しかもおじさまを通さず、直接私達サポートチームに対して。
おじさまには入学祝いとして許可を貰ったとのことで、無断ではないらしい。
依頼の内容はマントを火に強い材質に変えて欲しいと言ったもので、注釈には爆発にも耐えられるくらい頑丈にして欲しいと書いてあった。やっぱり頑丈さを重視してるのね。
そしてパパからは「メリッサ、これをひとりで開発してみないか」と提案された。これはオプション扱いの品だからと、私に研究の機会を与えてくれた! 私は当然イエスと答える。
パパの信頼と彼の信用を裏切らないように全力で取り組んで、完璧なアイテムを造るんだから!!
3月上旬のある日
あれから1週間、最初の試作品が完成した。完成したのだが完全にやらかしてしまった……
私はこの1週間、研究を続けた。調理グッズから宇宙開発まで多くの耐火耐熱素材を調べあげて、とにかく熱に強く、燃えにくく、衝撃にも強い、そんな材質を見つけてはマントに組み込んでいった。
そして出来上がったのはビルの発破のダイナマイトでも破れることよないような強靭な対爆マントだ。確かに申し分ない性能を誇ると自負している……だけど問題が一点。重すぎるのよね……
耐熱、耐衝撃、難燃の3層構造のこのマントはその性能と引き換えに重さ約35キロの超重量マントと化した。一般人の女の子でしかない私には器具を使わないと運ぶことすら出来ない重さ。
持ち運びに手間取っていた私を見たパパが「どうしたんだい? えっ?マントが重すぎる? まあパパに任せなさい、たまには運動しないとな」とか言って持ち上げようとした瞬間、一発で腰を痛めた。
あの時のパパの「ふんっ―――んぬぅふぅ!?」という声は暫く忘れられそうにない。
とりあえず試作品の完成と仕様をまとめた報告書を彼に送っておく。どういう風に改良するかは彼の判断を仰ごう……
次の日
彼からすぐに返事が来た。「その仕様で大丈夫です、それくらいの重さなら問題なく動けます」って正気…?
彼がいいと言うのだからその仕様で仕上げることにはする。着脱を容易にしておいて……
カラーは……彼の緑に映える赤にしよう。黄色も考えたのだけど、なんか脳裏にMt.レディが浮かんだので却下した。
そして彩飾したマントをあくまで試作品として彼に送る。きっと使い勝手の悪さに改良を求めてくるに違いない!
4月中旬のある日
彼からマントが大変役に立ったとお礼のメールが来た。そうかそうか、それは良かったっと思って内容を確認すると……
「―――おかげでビルの側面を半分吹き飛ばすような爆破の直撃にも耐えられました」ってバカ!!あのマント自体は爆破に耐えられても着用者への衝撃は緩和されないんだから!!なんでそう変な方向にばかり思いきりがいいのよ!
それに無傷で耐えきったとメールにはあった。いったいどんな身体をしているのか……あまりの規格外さに頭が痛くなってきた。
「どうしても負けられない相手に勝てたので、本当に助かりました」とのこと……彼がそこまで言う相手…余程凶悪なヴィランと闘ったのね。
この件は少しでも役に立てたと思って、良しとしましょう。
5月上旬のある日
雄英高校にヴィラン襲撃の事件があった。オールマイトと生徒の活躍により、大した被害はなく鎮圧されたらしい。
その生徒の中には彼も居た……もう何があっても驚かない気がしてきた。
感覚が麻痺してるのかも。
5月中旬のある日
雄英体育祭の中継をパパと一緒に見た。 勿論彼の出場する一年の部を。
壇上に立ち、その場の誰よりも堂々と宣誓と宣戦布告をする姿はとても15歳の高校生には見えなかった。
ちなみにパパの感想は「私の地元の元州知事みたいな声してるなあ」だった。それって確かアーノルドとかいう人のことだよね?そんなに似てるのかな?
競技が始まったあとは、圧巻の一言に尽きる。障害物競争では人助けをしながら一位を獲得し、騎馬戦は大暴れしたのち最後の最後でぶち壊すし、トーナメントでは決勝で現れたと思えば二人を相手に圧勝するし……
もう何があっても驚かないと前に書いたけどあれは嘘だ。
こんなもの見せられて驚かない訳がない。それに決勝で戦っていた二人の生徒はプロでも十分に通用するだけの実力があったように見えた。それを相手に笑いながら完勝するなんて、規格外にもほどがあるでしょう……
締めの挨拶でおじさまが彼のことを自分の弟子であると明かした。彼はこれで有名人だろう。まあそれを抜きにしてもあの活躍は有名にならないほうがおかしいけど。
「あの破天荒さ……トシの若い頃によく似てる。こりゃ間違いなく将来オールマイト並のヒーローに成るな!やったなメリッサ、このままいけば日本のトップヒーローのサポーターに成れるぞ!」とパパは他人事みたいに言っていた。それはパパがおじさまから受けた仕事だったはずなのに…
もしかしたら私はトンでもない仕事を引き受けたのかもしれない。
6月下旬のある日
アカデミーの友達から今日本で話題になっている“ヒーロー殺しステイン”というヴィランの動画を見せてもらった。
まるで悪のプロパガンダのような動画だったが、私の目に止まったのはそのヴィランではなく、少しだけ写っていた緑のコスチュームのヒーロー……彼の姿だった。
家に帰って、無編集の元動画を探すとすぐに見つかった。
そこには満身創痍ながらも叫びながらヴィランに立ち向かう彼が映っている。結果的にヴィランは別のヒーローが捕らえたみたいだったが、それでも戦い続けていた彼はまさしくヒーローだ。
血にまみれて、おそらく手足もまともに動かせず、それでも正義を貫く。体育祭の時の完璧超人のような姿とはうってかわって泥臭く、一見惨めにも見えるような姿だったが……私はその姿に心打たれた。
この人を支えたい。
私は彼のヒーローに成りたい。
7月中旬のある日
来月の頭に“I・アイランド”で行われる祭典“I・エキスポ”におじさまを招待した。仕事の都合がつけば来てくれることらしい。
来てくれるといいな。おじさまに久々に会いたいし、彼のことを聞いてみたいから!
7月下旬のある日
彼のコスチュームが激しく損傷した状態で送られてきた。 事前の連絡なく送りつけてくる製造会社はいったいなにを考えてるの!?彼の悲報などはないから無事だと思うけど。
詳しい話を聞こうとパパのとこへ行ったら、同じような箱がパパにも届いてて、それはマイトおじさまのボロボロになったコスチュームだった。「最高傑作だぞ…!?嘘だろトシ……」と唖然としているパパ。どうやら私と同じらしい。
急いでパパがおじさまに連絡すると「HAHAHA!期末試験で二人して全力で闘ったら壊れちゃってさ。ゴメンゴメン!」とめちゃくちゃ軽く言われた。どんな試験よそれ!
しかもおじさまは彼に負けたらしい。オールマイトが誰かに負けるって一大事だと思うんだけど、なんでパパもおじさまもそんなに上機嫌なの?
彼はどこまでいってしまうのか。私も置いていかれないように頑張らなきゃ!
I・エキスポ前日
明日のエキスポにおじさまが来てくれると連絡が来た。
でも「――というわけで、弟子も連れていくからヨロシクね!」としれっと彼も来ることを告げる。
なんでそんな大事なことを前日に言うの!?彼には会いたいと思ってたけどなんの準備も出来てない!
明日何着ていけば!?美容室、朝からで間に合うかな?聞きたいこととかまとめなきゃ。それに見せたいアイテムもあるのに整理できてないよ!!
時間が足りない……もう、おじさまのバカーー!!
――――――――――――――――――
これが彼女、メリッサ・シールドの最新の日記だ。
そして今日はI・エキスポ当日。オールマイトとその付き添いの1名は既に会場に到着しており、出迎えに来たデヴィットとメリッサとの邂逅を果たしていた。
「ようデイブ、元気だったか!」
「ああ、トシ。そっちこそ!」
昔からの親友であるオールマイトとデヴィットは久々の再会を喜び固く握手を交わす。
「メリッサ、大きくなったなぁ!もうすっかり
「お、お久しぶりですおじさま。会えて嬉しいです!」
「なんだ緊張してるのかい?昔みたいに飛び付いてきてくれても良かったのに。HAHAHA!!」
返事が一瞬裏返るメリッサ。明らかに緊張しており、オールマイトがその頭を軽く撫でる。だがオールマイトはその緊張の原因が何なのかわかっていなかった。
そしてオールマイトは緊張の原因に話しかけた。
「紹介しよう少年、こちらは―――」
「デヴィット・シールド博士ですよね!!個性研究の第一人者! 天才科学者と呼ばれる大物で、オールマイトのコスチュームやサポートアイテムの開発を担っててその成果は―――「ごほんごほん!あー、少年。今はそのくらいにしとこうか」あ、すいません……つい…」
「紹介の必要はなかったかな?デヴィットだ。よろしく」
「はい!よろしくお願いします!」
少年のいつもの悪癖をオールマイトが止めて、二人は握手を交わす。その屈強な筋肉の塊みたいな身体とは裏腹に、彼の元来の気質はそういうものなのだ。
「こっちが娘のメリッサだ。さあメリッサ、挨拶を」
「はじめまして、メリッサ・シールドです。貴方のコスチュームの開発改良に携わってて、あなたに聞きたいこととか見せてもらいたいこととか見せたいものとか採りたいデータとかホントにたくさんあって――「ストップストップ!メリッサ、そういうのは後にしよう。まだ彼の自己紹介も済んでない」あっ、ごめんなさい。つい……」
緊張からメリッサは普段は初対面の人に見せないような態度をとってしまった。デヴィットが止めなければどこまで話していたかわからない……かくいう彼女の本質も科学者として当たり前のようにそっち側なのだろう。
「じゃあ少年、改めて自己紹介を」
「はい!」
オールマイトが弟子を促し、彼は一歩前に出て胸を張る。
「はじめまして!デヴィット博士、メリッサさん!僕は――――――」
―――――これは無個性
このあと滅茶苦茶エキスポを楽しんだ―――――
というわけでオールマイトのトンでもアイテムとデクさんのコスチュームの出所の設定が明かされました!(後付け)
劇場版を見て、メリッサとデヴィットの設定を知ったときにこれは組み込むしかない!と思って書いてみました。
日記形式っていうのに初挑戦してみましたが、淡々となりがちで難しいかったですね。少しでもお楽しみいただけたなら幸いです。
そして日間ランキング4位ありがとうございます!たぶん今までで一番高いところにこれたと思います。すべては応援してくれる読者様のおかげでございます!
これからも応援よろしくお願いします!
あと二回くらい更新したらこの番外編は八章の終わりに組み込みます。