デクのヒーローアカデミア 再履修!【完結】   作:くろわっさん

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/] みんなで [\
\Ω 筋肉体操 Ω/

オールマイト(筋肉指導)「みんなで筋肉体操です」

緑谷 出久(雄英生)「………」ムキッ
砂藤 力道(雄英生)「………」ムッキ
障子 目蔵(雄英生)「………」ムキムキッ

<中略>

オールマイト「―――以上、筋肉体操でした」


―――筋肉は裏切らない。


YHK

おわり







雄英高校 VS 開闢行動隊 [後編]

デクの巻き起こした破壊の轟音が闇夜の戦場に鳴り響く。その森に居るもの全てに届く。

 

そしてその音はすべての状況を転じさせていく!

 

 

 

 

――― 障子 side in ―――

 

 

暴走した黒影(ダークシャドウ)に取り込まれた常闇を救うため、俺は自分を囮にして黒影(ダークシャドウ)を光の元へと誘導していた。

 

「こっちだ!」

「ア゛ア゛ァ!逃ガサンゾォ!!!」

 

複製腕を囮にして黒影(ダークシャドウ)の攻撃を躱して走り続けると、火災の光が遠目に見えてきた。

 

もうすぐ常闇を救うことができるだろう……あと一息だ!

 

そう思った瞬間だった。爆発にも似た、何かを砕いたような音が轟いた。

 

「何だ!?この音は!!?」

俺は慌てて音のなった方向へと振り向く。だがその轟音以上に慌てる事態が直ぐに起こっていた。

 

「ソッチダナ!我ガ敵!!絶対に逃ガサンゾォ!!!」

黒影(ダークシャドウ)も先程の轟音に反応してしまい、全速力でそちらへ向かっていたのだ。その方向は火災の光とは真逆で、これまでの誘導が水の泡になる。

 

何だその過剰反応は! まさか今の音を常闇が新たな脅威と感じて、黒影(ダークシャドウ)が更に暴走したのか!?あと少しだったというのに…!

 

「ちょ、ちょっと待て!常闇ぃ!黒影ォォ!!そっちに行くなぁーー!!」

大声で叫びながら後を追うがまるでこちらに反応を示さなくなっている。

 

とにかく今は常闇を放っては置けない。見失う前に追わなくては!!

 

 

―――そして俺は黒影(ダークシャドウ)を追って森の中へと駆け出していく。

 

 

 

――― 障子 side out ―――

 

 

 

 

――― 拳藤 side in ―――

 

 

ガスのヴィランを発見したアタシ達は戦闘を開始した。 だが必殺の絶招歩法を躱され、眼前に銃口を突き付けられてしまいアタシは正に絶体絶命の状況に陥った。

 

 

その時、こんな状況の中でも思わず身をすくめる程の轟音が響いた。

 

「何!!?」

ガスマスクのヴィランが音に気をとられて振り向く。アタシはその隙に一歩後ろに跳ねて距離をとった。

 

「ちぃ!死ねぇ!!」

ヴィランは直ぐに振り向き直しアタシが離れたことに気がつくと、再び銃を構えてその銃口から弾丸を放った。

 

だがその弾丸はアタシとヴィランの間に割り込んだ影に当たり、甲高い金属音を()てて弾かれる。

 

「ったぁ~!」

「鉄哲!」

飛び込んできていたのは鉄哲だった。弾丸が当たった場所を痛そうに擦っているが、無事に見える。

 

「このっ!離せ!!」

「離すかよこの野郎っ!!」

言い争う声に気付きヴィランの方を向くと、切島君がヴィランを羽交い締めにして押さえ込んでいる。

 

「いけぇ!!」

「おおおぉ!!掌打二連撃(フタエノキワミ)!アーーーー!!」

そこに走り込んできた庄田が一打二撃の必殺技をヴィランの頭、ヘルメット型のガスマスクへと叩き込んだ。

ヘルメットが衝撃で砕けて、さらに頭へと衝撃が伝播していく。身体は切島君が押さえているため衝撃が逃げられず、首から上だけがグワンっと大きく揺れたあと、ガクリと下を向くように落ちた。

 

ヴィランが気を失ったと同時に、周囲に広がっていたガスが霧散して消え去った。

 

「ガス使いがガスマスクしてりゃ、そりゃ壊すわな」

「どうやら終わったようですね。通用して良かった……」

「切島、そいつ生きてっか?」

「あー、うん。死んでないっ!バッチリだ」

「やったな庄田!」

「いやいや、みんなのお陰ですよ」

「やっぱ緑谷に教わった“ヴィランは数で潰す戦法”正解だな!」

「おう!こっちの被害ゼロでやれたもんな!」

 

アタシが呆けてる間に男子三人はヴィランを拘束しながら談笑していた。

 

なんの役にも立てなかったなぁ…鉄哲も庄田も、切島君も頑張って結果を出したのに。アタシには何も……

 

「大丈夫か、拳藤?」

ひとり落ち込んでいたアタシに鉄哲が声をかけてくる。その額にはアタシを庇ったときに負ったであろう傷があり、そこから血が流れていた。

 

「う、うん。アタシは大丈夫。鉄哲こそ大丈夫?アタシを庇ったせいで怪我してんじゃん…」

「お?マジだ!気付かなかったわー。あの距離だと拳銃でも割れちまうのか。気を付けねえとな」

「あんた撃たれたんだよ?その個性じゃなきゃ死んでたかもしれないのに……アタシがミスったせいで」

自分で自分に嫌気が差して俯いてしまう。もっと上手くやれていれば鉄哲が怪我をすることもなかったのだから。

 

「あー、こんな個性だからこそだ。この個性だから俺は誰かを護る盾に成れる。この個性だから護るために躊躇わずにいられる。だからお前を護れた……俺はそれで満足だぜ?」

「そっか…凄いね鉄哲は。アタシは何にも出来なかったよ」

「はあ?そんなわけねえだろ。今回の一番頑張ったのはお前だ」

「えっ?」

鉄哲の思いがけない言葉にアタシは間抜けな声を出す。

 

「そもそもお前がこのガスの中心を見抜けなかったら、俺ら全員ここに来れてないんだぜ?」

「そりゃそうだ。庄田はまだしも、俺と鉄哲のふたりじゃまず辿り着けなかったな」

「いやいや、僕もこんな状況でそこまで見抜けないですよ。 いつも塾生の皆のことを考えて、まとめてくれてる拳藤さんだからこそ見抜けたんじゃないですかね」

「そんな、たまたま予測が当たってただけだし…!」

鉄哲だけでなく切島君や庄田までもアタシを評価してくれる。アタシはそんな意外な評価にタジタジになってしまう。

 

「それにあいつを見付けてからも、お前が突進でガスを吹き飛ばしてくれなかったら、たぶん見失ってたぜ」

「ああ、なんかガスがやたらと濃くなって視界最悪だったし」

「あれは見事な連携と言えるのではないだろうか」

「いやでもヴィランを倒したのは三人の力だったし―――「あーもう、うっせ!」――ひゃん!」

三人の言ってることが認められずにうじうじと言い訳をしていると、突然鉄哲がアタシの両肩をガッチリ掴んできた。そのせいで変な声をあげることになるアタシ、カッコ悪い。

 

「四人とも頑張って、ヴィランを倒せた!そんでガスで苦しんでた皆を救けられた! それでいいじゃねえか、なあ?」

「う、うん。わかった」

「良し!オッケー!しゃあ、こいつ連れて施設行くか!」

アタシを強引に納得させにきた鉄哲の圧力に思わず首を縦に振ってしまった。そして鉄哲たちはヴィランを担いで歩き出していく。

 

なんか鉄哲にすごい力技で納得させられちゃったな。まあ、うじうじと悩んでてもしょうがないし、切り替えてこうか。

 

「ちょっと鉄哲!そっち逆方向だよ、施設はあっちだっての!」

元気付けられたアタシは直ぐ様、皆の後を追う。そして鉄哲の首根っこを掴んで軌道修正してやると、「お!そっちだったか」なんて明るく返してくる鉄哲。そんなバカなやり取りが今は無性に心地いい。

 

 

ありがとね鉄哲。あんたのそういうとこ―――嫌いじゃないよ。

 

 

――― 拳藤 side out ―――

 

 

 

 

――― 麗日 side in ―――

 

少女のヴィランと対峙した私と梅雨ちゃんは戦闘の後に、少し話をして揺さぶられたが、なんとか捕縛に成功した。

 

仕上げに梅雨ちゃんのベロで拘束しようとしたその時だった。身体に響くような轟音が聞こえて時間が停止したような感覚に陥る。

 

「痛っ!?」

突如左足に痛みが走る。そこには少女の手によって注射器のようなものが突き立てられていた。

痛みに気を取られている間に、少女は身体を捻るように私を弾き飛ばして抜け出す。

 

「逃がさないわ!」

「梅雨ちゃん! 梅雨ちゃんも血ぃ流そ?」

梅雨ちゃんがすぐに舌を伸ばして捕らえようとするが、少女は舌をナイフで切りつけて避け、そしてコードのついた注射器を梅雨ちゃんに投げつけた。

梅雨ちゃんは舌を引き戻しつつ、左手で注射器を防ごうとするが、鋭い針が腕に突き刺さる。

 

「チウチウ、梅雨ちゃんカアイイねえ。血が出たらもっともーっとカアイくなるよね」

少女は追撃をかけるため、梅雨ちゃんとの距離を詰めようとしていた。

 

「いかせない!!」

私は右足で大きく地面を踏み込み少女へと跳ねる。そして首もとを(おお)う物々しい機械に手が届いた。

強引に引き寄せようと力を込めるが、手に伝わってきたのはすり抜けるような感覚だった。

 

()()、可愛くないし邪魔だから麗日さんにあげるね」

目の前に立つ少女は機械を脱ぎ捨て身軽になって抜け出していた。軽口を叩きながら少女はヒラヒラと離れていく。

 

「麗日さん、思ったより強かったし今日は帰るね。バイバイ」

少女はそう言い残し、軽くなった身体で暗闇の森の中に消えていく。

 

「逃がさない!」

「待ってお茶子ちゃん、危険よ。どんな個性を持っているかもわからないわ」

「……っ!そうだね。梅雨ちゃん怪我は大丈夫?」

「そんなに深い傷じゃないわ。お茶子ちゃんこそ大丈夫かしら?刺されてたんじゃ……」

「大丈夫だよ、痛むけど動けないほどじゃない」

お互いの状態を確認して周囲を警戒するが、少女の気配は既にない。

 

その変わりに離れたところから別の声と何かを砕いた薙ぎ倒すような音が聞こえてきた。

 

「ア゛ア゛ア゛ァァァ!!!」

「止まれーー!黒影(ダークシャドー)ォーーー!!」

 

私と梅雨ちゃんは互いに顔を見合わせた。

 

「今のって……」

「障子ちゃんと……黒影(ダークシャドウ)ってことは常闇ちゃん?」

「確かめよう!」

「そうね、障子ちゃん達が危ないかもしれないもの…」

 

慌てた障子君の声。激しい破壊の音。いったいなにが起きてるの…?

 

 

 

―――私と梅雨ちゃんは周囲を警戒しつつ、ゆっくりとその後を追う。

 

 

――― 麗日 side out ―――

 

 

 

 

――― 爆豪 side in ―――

 

 

俺と轟、刃のヴィランとの戦闘は未だに続いていた。先程響き渡った轟音で一瞬両者の動きが止まったが、この硬直状態は解消されなかった。

 

 

「ガスが消えた!おい、轟!一気に決めんぞ!!」

「まだ森に火が着くじゃねえか!?それに視界が潰れたら不意打ちでやられちまうぞ!」

「俺が全力でブッ飛ばすから、森をヤツごと一気に凍らせろ!反撃できねえように一撃で決めるっ!!」

「…っ!やるしかねえか…!」

俺の言葉にどうやら轟も覚悟を決めたらしい。

 

小爆破で小刻みに動いて裂けた刃を避けながら気を見計らう。

 

やることはシンプルだ。ヤツの刃が大量に伸びきった瞬間に懐に飛び込んで、打ち上げるようにブッ飛ばすっ!刃が縮んでる間がヤツの最大の隙だ。再度伸ばしてきたらまとめて爆破すりゃ問題ねえ!

 

「もう我慢出来ないぃぃいい!肉面見せろォォおお!!」

俺の動きに翻弄されていたヤツがついに痺れを切らして、今までとは比べ物にならない程の量の刃を伸ばしてきた。

 

「そいつを待ってたぜ!!」

爆破で加速し、身体を捩り、刃と刃隙間に身体を捩じ込ませるように前進していく。無数の刃が髪や頬を掠めるが、どれひとつ刺さることなく完璧に避けきった。

 

来た!このタイミングだ!!

 

地面等に突き刺さった刃が引き戻されていく。俺はそれに合わせて突き進もうとしたその時だった。ヤツの背後の雑木林が激しく吹き飛んで、大きな黒い影のようなものが現れた。

 

何処(ドコ)ダァァァアア!!!」

影の化け物は叫びながら此方に向かって木々をなぎ倒して進む。

 

なんだよあの化け物は!!? ここに来て敵の増援なんて笑えねえぞ!

 

「あれは僕の肉だ!邪魔をするなぁあああああ!!」

ヴィランは俺たちに背を向けて影の化け物に向かって枝分かれした刃を伸ばして、その腕を貫いていった。だが貫いただけで、化け物の進行はまるで止まらない。

 

退()ケェ!三下ガァァァ!!!」

刃が突き刺さることも厭わず、化け物はその巨大な腕を伸ばしてヴィランを薙ぎ払う。バキバキと木々が砕けていく中、それに巻き込まれる形でヴィランは抵抗することすらかなわずボロボロに成りながら吹き飛ばされていった。

 

「暴レ足リンゾォォォォ!!」

「うおおお!!とまれェ!!黒影(ダークシャドウ)ーー!!」

化け物が再び歩を進めようと此方に振り向いた。だがその後ろの方から聞き覚えのある声が聞き覚えのある名前を呼んでいた。

 

「この声…障子か!?黒影(ダークシャドウ)ってことはこれが常闇だと…!?」

俺の後ろで轟が驚いたような声をあげる。そして化け物は少しずつ加速しながら俺たちに迫ってきていた。

 

あ?常闇?黒影(ダークシャドウ)…?つーことはこのバカでけえ化け物は鳥頭のクソ影か?……んだよ、味方か。ならやることはひとつだな。

 

「我ガ(ミチ)(ハバ)ムトハ(オロカ)ナ!!――」

化け物の巨腕が俺に向かって伸びる。だが俺は身動(みじろ)ぎひとつすることなく、掌を軽く合わせて棒立ちでいた。

 

閃光弾(スタングレネード)

「――ひゃん!」

掌から強烈な光を放つと荒れ狂うように暴れていたクソ影は甲高い声をあげて鳥頭の中にシュルリと収まった。

 

あんなに無敵じみた強さしてんのにこれだからな……つくづくこいつと俺の相性が残念だぜ。

 

「ぐっ……助かった。礼を言う……」

「…おう」

「大丈夫か常闇!」

膝を着きながら息を切らす鳥頭に適当に返事をして、その後から来たタコの障子の元へと歩く。鳥頭には轟が駆け寄っていたから問題ないだろう。

てかあいつB組のやつその場に置いていきやがった…!

 

まあいい、暴走してたっぽい鳥頭に話を聞くよりタコに話を聞いたほうが正確な情報が手にはいんだろ。長いことヴィランと戦ってたから他所の状況が知りてえ。

 

「おいタコ!なにやってたんだよ…」

「ハアハア…爆豪か、助かったぞ常闇を止めてくれて。俺たちは口から刃を出すヴィランに襲われてな、それで常闇の個性が暴走した。火災現場に誘導しようとしてたんだが、先の轟音に黒影(ダークシャドウ)が釣られてしまって……ここまできてしまったわけだ」

「ちっ!お前も大して情報持ってねえか…てかそのヴィランならついさっきクソ影が撥ね飛ばしたぞ」

「何!!?……厄介な敵だったから結果オーライということか」

「そーなるわな。しっかし個性の暴走とかガキじゃねえんだぞ……バカが…!」

思ったより情報がなかったことと、不甲斐ない鳥頭にイラつき悪態をつくが、早急な脅威が無くなったと考えると微妙な気分になる。

 

俺が手こずるヴィランを瞬殺…あの個性はやべえ。体育祭の時にデクが条件次第じゃ無敵に近いっつってたのも納得できる。クソが。

てかデクはどうしてるんだ?さっきのバカでけえ破壊音は間違いなくデクが発信源な筈だが、その後の動向が読めねえ。クソカス連合のヴィランどもを片付けて回ってるとは思うが……

 

 

「おい、デクが何やってるか知ってっか?」

「緑谷か……すまない。俺も自分達のことで手一杯で何も知らない」

「だと思ったぜ……」

「……なんで聞いたんだ…」

「うっせえ!」

とりあえずタコに聞いても返事は予想通り。こうなったのもあのヴィランと……鳥頭のせいだな。間違いねえ。

 

「おい!鳥頭ぁ!!てめえは――――あ?」

この苛立ちをぶつけようと鳥頭の方へと振り返り、そこで言葉が途切れる。

 

なんの気配も異変もなかった筈だ。なのに、いつの間に、なんでこんなことが起きやがる!?

 

「誰だてめえ…あいつらをどうした?」

「嫌な顔してるなぁ。 俺の名はコンプレス、二人なら俺のマジックで()()()()()()()

コンプレスと名乗る仮面を着けた手品師(マジシャン)のような男は、愉しげな声で語る。その手には二つのビー玉のようなものが光輝いていた。

 

十中八九ヴィラン連合の手先だ。個性はなんだ?なんで音もなく二人が消えたんだ?ワープ系の個性……いや、それならヤツがこの場に居続けるのはおかしい。

そもそも目的はなんだ?「貰った」なんて言うからには二人は殺されてないだろう。殺害じゃなく別の目的が…?それが奴等の襲撃の目的なのか?

俺の拉致が目的……ならなんで俺は今無事なんだ?あれほど気配もなく二人をやれたならその前に俺を消せただろうに。

 

思考を巡らせながらいつでも爆破を食らわせられるように掌をヴィランに構えていると、再びヴィランが話だした。

 

「なんで?って顔してるな」

「はっ!聞いたら教えてくれんのかよ」

「いいよ、爆豪君には特別サービスで教えてあげよう」

コンプレスは大したことでもないように軽い口調で俺に告げる。

 

なに考えてやがるこの野郎…!それすら目的の内か?それとも時間稼ぎか?わからねえ……兎に角情報を引き出させるしかねえ。

 

「この二人を貰ったのは簡単な理由さ。轟焦凍を連れ帰ることが俺たちの第一目標だったから。 意外にあっさりいって安心してるよ。 あぁ、もうひとりの彼?良い個性だったからさ。ムーンフィッシュ……歯刃の男な。あれでも死刑判決を控訴棄却されるような生粋の殺人鬼だったんだが。それをああも一方的に蹂躙できる暴力性、彼も良いと思って……貰っちゃった」

コンプレスは身ぶり手振りを加えながら、自らのショータイムと言わんばかりに悠々と語る。

 

「ふざけるなぁ!二人を返せ!!」

俺の後ろで話を聞いていた障子が憤りを隠さずコンプレスに向かって飛び出す。対するコンプレスは逃げることもなく、掌を障子に向けた。

 

早まりやがって…!あれが個性の発動方法…あれはやべぇ!

 

「させっかよっ!!」

俺は構えていた掌から大規模な爆破を放つ。爆炎が広がりコンプレスの身体を包む―――と思われたが、俺の爆破はまるで切り取られたかのようにコンプレスの目の前から消えた。

 

余裕のコンプレス、その掌には新たな玉が握られていた。

 

「おお、怖い怖い。若さってのは」

コンプレスは怖いなどかけらも思ってなさそうな口調で、先程の手に入れた玉を指で弾いて此方に飛ばした。

 

直後、巻き散らかしたかのような爆炎が俺の目の前に広がる。

 

「危ない!爆豪!!」

俺の前に走り込んでいた障子が踵を返して、俺の盾になるように爆炎をその背に受けた。 至近距離での爆破を一身に食らった障子はゆっくりと膝を着くようにしてから、うつ伏せに倒れる。その呼吸は弱々しく、すぐに立ち上がれるような様子ではなかった。

 

「まだ話の途中だってのに割り込むから……さて、続きだ。 俺たちの目標ってのはもうひとつ有ってさ。爆豪君、君のスカウトだ」

「……はあ?スカウトだぁ…?」

「そ。君さ、本当はもっと荒々しくて、暴力的な人間だろ? ヒーローとか学校とか、もっと言うと社会とか…そういう枠組みに囚われてて息苦しいと感じたこと、あるだろ? 俺らはそんな(しがらみ)から抜け出したいと思って活動してるんだよ。 そこでだ、君も一緒に俺たちの側へ来ないかい? ―――爆豪勝己君?」

コンプレスは長々と高説を垂れるように語っていく。そしてある程度話し一区切りを着けたとき、掌を此方に向けて名前を呼んできた。

ヤバイと感じた俺は咄嗟に爆破まで使って後ろに跳び跳ねる。 先程まで俺が立っていた地面がくり貫かれたように半円状に無くなっていた。

 

こいつ……指定した場所を切り取る個性か?いや、さっきの爆破の広がり方から見て、圧縮と解放って感じだな。視界を潰せば対応はできる筈だ。

 

「てめえ!」

俺は爆破でコンプレスをブッ飛ばす。爆炎が晴れたあと、そこにコンプレスはいなかった。

 

「あれまあ、交渉は決裂かな?」

「人を強引に捕まえようとしてなにが交渉だ!」

「おいおい、こっちのタネまでバレてらぁ。君はあくまでついでだったし、まあいいか。ヒーロー候補生、しかもトップクラスと戦ってなんかいられるかよ」

コンプレスはいつの間にか木の上に立っており、此方を見下しながら笑っていた。

 

開闢行動隊(かいびゃくこうどうたい)!目標達成だ!! 短い間だったがこれにて幕引き!! 予定通りこの通信後5分以内に回収地点へ向かえ!」

コンプレスは耳元に手を当ててどこかに通信をするような仕草をとり、わざわざ俺にも聞こえるように叫んだ。

 

「幕引きだぁ?ふざけてんじゃねえよ!逃がすと思ってんのか!?」

「逃げれるさ、俺は逃げ足と欺くことだけが取り柄でな! それとも爆豪君、君も一緒に来るかい?」

「てめえ……」

真剣味のない声色でコンプレスは(あざけ)る。完全に嘗めきられている証拠だった。

 

 

この野郎……ぜってえぶっ殺す。だがどうする…? 口振りから俺を振り切るのは容易と考えるべき。 この場で仕掛けて潰し切れるか? ここには倒れた障子とB組のやつもいる、派手な立ち回りは厳しい。こいつらの保護を優先するか…いや、それじゃ轟と常闇をむざむざと敵に渡すことになっちまう。

どうする、どうするべきだ?こんな時にデクなら……くそっ…だからデクは来ねえ。この場にいるのはデクじゃなくて俺だ。俺だけなんだ。

だったら俺がやるしかねえだろ…!全員を救うために俺がとるべき行動は。

 

 

デク……俺は――――――

 

 

 

 

――― 爆豪 side out ―――

 

 

 

 




爆豪勝己、選択の時間(とき)―――――


UAがなんと50万件を突破しました。こんなにもアクセスが増えるとは思っても見ませんでした。皆様にはいつも感謝しかありません!

次回もよろしくお願いします!

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