デクのヒーローアカデミア 再履修!【完結】   作:くろわっさん

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今回ちょっと長いです!いいよって方は続きをどうぞ!


訂正: × 総指伸筋 → ○ 尺側手根伸筋
使う筋肉を間違えていました。申し訳ありません!!


出久(デク)勝己(かっちゃん)

悪意と敵対する雄英一同、多くの戦闘が起こっていたが、皆勝利を掴みとり、この襲撃も終わりに近づいていた。

 

 

 

―――出久がマスキュラーを撃破した少しあとに時は戻る。

 

 

 

 

マスキュラーと脳無を打ち倒し、僕は暗闇の森の中を火災の明かりを横目に走る。 かっちゃんのいる場所を目指し肝試しのコースを駆け抜けていたが、その中継ポイント辺りで虎さんが何者かと戦闘している姿を見つけた。

 

虎さんは傷付いたラグドールを背負って、背から多数の刃物や凶器を生やしたヴィランと片腕だけで戦っていた。そのヴィランの顔を見ると目元は金属のゴーグルのようなもので覆われていて、その頭頂は脳ミソが剥き出しになっている。間違いなくヴィラン連合の脳無だ。

 

「虎さん!援護しますっ!」

僕は両者の間に割って入り、虎さんに振りかかっていたチェインソーの側面を叩き割る。

 

急いでるってのにまだ脳無がいたのか!虎さんも苦戦してるしここは僕が片付けて、ラグドールを助けてもらうのがいいだろう。

 

「オールライト…!」

「虎さん!ラグドールを連れて撤退してください。 こいつは僕がやります!」

「お前その傷でやるつもりか!? 我がやるからラグドールを連れて下がるのだ」

「見た目ほど深くないんで大丈夫です!それに虎さんの“軟体”より僕の方が相性が――いいっ!」

虎さんと話しながらも襲い来る脳無の武器を拳で弾き、叩き折っていく。

 

「それに敵の狙いはラグドールじゃないんですか!?ここにピンポイントでこんなヤツが現れてるんだから!」

「くっ…!確かにそうかも知れぬが」

「なら早く!僕の本領を知ってるでしょ!ラグドールがいたら巻き込んでしまう!あとイレイザーヘッドを呼んできてもらえると助かりますっ!」

「ぐぬぅ…!わかった!すぐに戻るっ!それまで持ち堪えてくれ、オールライトッ!」

「了解ッ!!」

話し合いが済むと虎さんはラグドールを連れて全速力で撤退していく。流石はプロ、状況判断と行動が早い。

 

僕がそれだけ信頼されてるってことかな? でも僕もかっちゃんの元へと急いでるんだ! それにああは言ったけど、血を流しすぎてる…だから相澤先生を待つつもりはない…!多少の怪我は覚悟して―――一気に片付けてやる!

 

「ネホヒャン!」

「くそっ…こんなことなら籠手(ガントレット)でも持ってくるんだったなっ!」

脳無の8本の腕から無数の刃が角度を変えて次々と襲い来る。チェインソー、ドリル、ハンマー、凶器のオンパレードだ。僕はそれらを根元から折ったり、武器の生えた腕を弾いたりして捌いていく。

 

無い物ねだりをしても仕方ない。僕にあるのはこの身体のみ、だが鍛え上げた筋肉は最強の矛になるんだ!唸れ僕の上腕筋群! 刃となれ、尺側手根伸筋ッ!!必殺―――

 

「―――カロライナ・スマッシュ!!」

僕の手刀が脳無のチェインソーを真っ二つに叩き切り、そのまま別の腕をへし折る。だが脳無は腕を背中に引っ込めると、また新たな武器と無傷の腕を生やして襲いかかってくる。

 

再生持ちかよ!脳無の基本個性なのか!?でもそれ以外はそこまで脅威がないと見た。無限に剣が出せるわけでもないだろう?なら品切れを起こすまで叩き折るまでだ!!

 

「うおおおおぉぉぉぉ!!!」

「ネホヒャャャャンッ!!!」

僕の高速のラッシュが脳無の腕と刃を折り続け、脳無も負けじと腕と刃を生成し続ける。

 

数分の時が経つ。幾度なく衝突を続けていき、僕の身体は切り傷が増え更に血塗(ちまみ)れになっていた。だが脳無も段々と機能を落としていき、8本あった腕は今は普通の人と同じく2本しかでなくなっていた。

 

「これで終わりだっ!コロラド・スマッシュッ!!!」

互いに突進するチェインソーを構えた脳無とステゴロの僕。僕は脳無の胴体を狙った回し蹴りを放つ。しかしその蹴りは空振りに終わった。

 

これまで猪突猛進に攻撃してきた脳無が急に挙動を停止してチェインソーを身体に収め、そして踵を返して僕に背を向けて走り出したのだ。

 

「えっ!?なんだよ急に……まさか…!?」

呆気にとられた僕だが、すぐに考えを巡らせひとつの結論に至る。

 

撤退してるのか…!ってことは作戦の目的が達成された…? つまりそれは―――かっちゃんが確保されたってこと!!?

あのかっちゃんがあっさりヴィランに捕らわれるとは思えないけど、こいつの行動はその証拠に他ならない。

 

今なら脳無を倒せる……でも連合の集合地点が前世と同じとは限らない。チカラをだいぶ使ってしまったがまだ100%二発分くらいは残ってるから……こいつの後を追跡して行った方がいい。そこにかっちゃんもいる筈だからヴィランを一網打尽にして救出。よし、この作戦でいこう。

 

―――今後の方針を固めた僕は、撤退する脳無の後ろから気配を消して追いかけていった。

 

 

 

 

 

 

――― 麗日 side in ―――

 

私と梅雨ちゃんは木々の薙ぎ倒された森の中を進んでいく。さっき聞こえた障子君の声と常闇君とおぼしきものを追いかけていた。散発的になにか音が聞こえていたが今は静かになっている。

 

暫く進んでいくと梅雨ちゃんが私の袖を引っ張って話しかけてきた。

 

「お茶子ちゃん見て、あそこに誰か倒れてるわ」

「あれは……障子君!?」

慌てて近寄ると、そこには爆発でも受けたかのような傷を負った障子君が倒れながら身動(みじろ)いでいた。 少し離れたところにはB組の生徒がひとり横たわってるのも見える。

警戒して少し辺りを見回すせば、ヴィランこそいないものの、地面は穴だらけだし、木々は激しく薙ぎ倒れているしで、破壊の爪痕がこれでもかというくらいに残っていた。

 

いったいここでなにが起きたの…!?

 

暗闇の森を見つめる。その時、木々の隙間から遠くの空に見覚えのある光がチラリと見えた。あれは―――

 

「障子ちゃん!大丈夫!?」

梅雨の声ですぐに目の前の惨状に目が戻る。梅雨ちゃんが倒れた障子君を介抱していた。

 

「常闇と轟が……それに爆豪……」

「無理しないで障子ちゃん、今助けるわ」

「俺はいい…皆を……」

障子君は弱々しくこの場に居ない三人の名前を出す。なにがあったのかはわからないが、なにかあったのは間違いない。

 

私は爆豪君とデクさんの力になるって約束したんだ。だったらいかないと。

 

「梅雨ちゃん、二人をお願い」

「お茶子ちゃん…?」

「私、いってくる!」

心配そうに見上げてくる梅雨ちゃんに一言だけ声をかけて私は走り出した。 さっき見えた光の方へと森の中を草木を掻き分けて進む。なんだか嫌な感じだ……

 

 

―――夏の夜の生ぬるい空気を肌で感じながら私は走っていく。

 

 

 

――― 麗日 side out ―――

 

 

 

 

 

 

――― 相澤 side in ―――

 

青山たちを見送ってから暫く経つが、あれ以降生徒の姿は森の中には見えない。ほとんどの者が肝試しのコースを辿っていったのだろう。

 

鬱蒼とした草木を避けながら進んでいくと、誰かの話し声が聞こえてきた。

 

「Mr.コンプレスが早くも成功だってよ! 遅えってんだよな!」

「脳無も戻したし、俺たちも早く回収地点にいこう。緑谷出久と遭いたくないからって離れすぎた」

「慎重なのは悪くない! ビビりすぎだっての!!」

「そうかもな」

 

会話を聞く感じ、二人か…ヴィラン連合の作戦は成功しただと? 撤退の最中だったみたいだな……ならこいつらを逃がすわけにはいかない。

 

身を潜めていた俺は一気に距離を詰める。身体が当たって草木が乾いた音を発てると、こちらに気が付いて慌てた様子の二人に目掛けて捕縛布を伸ばす。 マスクを被った全身タイツの男を捕縛することが出来たが、もう一人の顔面継ぎ接ぎの男は掌から炎を出して布を燃やして回避した。

 

「トゥワイス!プロヒーローだ!!」

「荼毘、早く助けてくれ! 俺はいいからさっさと逃げろ!」

「逃がさねえ…!」

トゥワイスと呼ばれた拘束できた方のヴィランが仲間を逃がそうと叫ぶが、荼毘というヴィランは俺に向かって来た。そして掌を俺に向けて個性を発動させようとする。

 

「出ねえよ」

「何!!?」

荼毘を視線で射抜き俺の個性で相手の個性を消した。その事に動揺している隙に捕縛布で荼毘を拘束する。 捕らえた二人を更に一纏(ひとまと)めにするように捕縛布でくくりつけ、きつめの尋問の用意を整えた。

 

イカれた言動の多いトゥワイスとか言う方はとりあえず無視だ。荼毘のほうにいろいろ聞くとしよう。

 

「さて、どこに逃げようとしていた? 人数・配置・目的を言え」

「やっぱ強いなプロヒーローは。だからって答えるとでも―――「時間が惜しい」――ぐあっ!」

「おいやめろっての!それでもヒーローか!! そいつならいくらやってもいいぞ!」

「次は左だ、早く答えろ」

荼毘の右肩を蹴り潰しながら怒気を強める。横やりを入れるトゥワイスの言動は、予想通りあべこべのことを繰り出す訳のわからんものだった。

 

「痛えな…もう手遅れだぜプロヒーロー。 既に目的は―――があっ!!」

「だからそれを早く答えろって言ってるんだ。足までかかると護送が面倒だ」

「そろそろ限界だ。トゥワイス、逃げられそうか?」

「無理に決まってんだろ! なんとかなる!諦めんな!」

「質問に答えろっ!」

左を砕いた後も荼毘は質問に答える素振りはなく、トゥワイスと謎の会話を始めた。 俺は靴の底で荼毘の顔面を思い切り蹴り抜く。 すると荼毘の顔面…というより身体が泥のように弾けて消えてしまった。

 

なにが起きた?炎の個性じゃなかったか…? いや、さっきの会話から察するにこれはこいつの個性じゃない……はぁ、トゥワイスの方に聞いてみるしかねえのか。

 

「おい、これはなんだ?」

「言うわけねえだろ! 教えてやってもいいぜ、逃がしてくれるならな!」

「よく回るわりに役に立たない口だな……潰すぞ」

トゥワイスの顎に手をかけながら眼力と言葉で脅してみる。意外にもこの行為はトゥワイスに対して効果があった。

 

「おいやめろ!マスクから手を離せ!! 触るんじゃねえ!」

「邪魔そうなマスクだな。こいつが無ければお前の口も素直になりそうだ」

「やめろっての!! やめてくれ!」

「ようやく意見が統一したなっ!!」

俺はトゥワイスの覆面のようなマスクを、顎の下から手を突っ込んで一息に引き剥がした。 マスクの下には無精髭の目付きの悪い男の顔があり、その額には大きな縫い跡が目立つ。

 

「あぁああ!!裂ける…!割れる!俺が別れちまう!!分裂が…分裂するぅ!うわぁぁああああ!!」

「―――やってみろ」

「あ…?」

俺は個性を消すためにトゥワイスを目線で射抜(いぬ)く。トゥワイスは不思議そうに周囲を見渡した後に、俺の顔をじっと見つめていた。

 

「増えない…?包んでないのに?………………フフフ。ハッハッハー!!やったぁ!!!俺は!俺は俺だったんだ!やった、やった、やったーーーー!!!俺が俺だった!」

「……おい」

「あんた何したんだ? まあいいや!俺は俺だったんだよ!ハハハ!最高だぁ!」

「そりゃ良かった。なら俺の質問に答えろ。お前らの目的はなんだ!!」

「目的?……目的!!俺が俺である証明だよ!!叶った!叶ったぁぁああ!!それが俺の目的!他のことなんて知らねえ!やったぁぁあ―――「もういい!」――あがっ!……」

こいつからはなにも引き出せないと判断した俺は、顎目掛けて蹴りを入れる。 今度はしっかりと足に衝撃が伝わり、トゥワイスは狂った笑顔のまま気を失った。

 

「イカれ野郎が……」

 

結局なにも判らず終いか……しかもこいつらに時間をかけすぎた。

 

周囲に響いてた散発的な戦闘の音は既になく、静けさに満ちた森が燃え上がっているだけだ。

 

 

―――俺は全員無事でいてくれと祈るしかなかった。

 

 

 

――― 相澤 side out ―――

 

 

 

 

 

 

――― Dark side in ―――

 

 

宿泊施設から離れた森の中、開闢行動隊の回収地点にひとり残っていた荼毘が、他のメンバーの帰りを待っていた。

 

「ここは火事とガスで見えにくい筈だったんだが、ガスが晴れちまってる。 トゥワイスも俺の分身と出ていってから戻って来ねえ……何人やられたんだ…?」

荼毘は現状を確認するように指折り人数を数えながら独り言を呟いていた。

 

Mr.コンプレスから作戦成功の通信があってから3分は経過している。そのコンプレス自身もまだ戻らない。 荼毘が思案を巡らせていた時、草影一人の人物が飛び出してくる。

 

「ついたー。あれ?私が一番乗りですか?仁くんは?」

「トガか。お前以外誰も戻ってきてねえ……トゥワイスもだ」

「そーですか」

「お前は何人分採ってこれたんだ?…あぁ?というかあの変な機械は?」

「捕まりそうだったんで置いてきました!なのでゼロ人でーす!」

「おいおい、最低でも三人は採ってくる筈だったろ」

「お茶子ちゃんが思ったより強くてぇ……ああ、お友達になりたかったのになぁ」

「……」

あまりにもマイペースなトガに荼毘は言葉を失う。だがあくまでもトガの任務はサブ。戻って来たのだからこれ以上責めるのも面倒なのでなにも言わなかった。

 

そして次に人が来たのはその2分後……つまり回収時刻になった時だった。 黒いモヤモヤがその場に出現する。

 

「お迎えに上がりましたよ皆さん……ってあれ!?なんで二人しか居ないんですか!?」

現れたのは回収係りの黒霧だ。しかし作戦成功の知らせを受けたのにコンプレスがいないことに兎に角驚いていた。

 

「全然戻って来ねえんだよ。 お前こそスピナーとマグ姉は?回収地点から遠いからって先に集めて来るんじゃなかったのか?」

「二人は居なかったんですよ……恐らくヒーローどもに捕らえられたかと」

「そうか……しかしコンプレスが居ないとなると―――「長らくお待たせ致しましたってか? 悪い、遅くなった」―――お前なぁ……あぁ、やるじゃないか」

作戦の失敗を荼毘が懸念したその時、木の陰からコンプレスがひょっこりと顔を出してきた。

 

荼毘はコンプレスの成果をみると小言もいう気も無くなり、不敵な笑みを浮かべる。黒霧も「ほお…」と感嘆の声を漏らしていた。

 

「ネホヒャン!ネホヒャン!」

「お、帰ってきたか。俺の脳無……ってなんでラグドールを持ってきてないんだ?失敗したのか?」

「こちらは上手くいかなかったようですね…」

元気な奇声を上げながら脳無も回収地点へと戻ってきたが、当初の目標であったサーチの個性“ラグドール”を連れ帰っていなかったことに荼毘も黒霧も落胆する。

 

「あとは―――」

残りのメンバーの名を上げようとしたその時だった。

 

「ネホヒャッ!!!」

「―――何だ!!?」

突如上空から降ってきた何かに脳無が潰され、辺りに突風が巻き起こる。混乱する行動隊の面々だが、その正体はすぐにわかった。

 

「そこまでだ……ヴィラン連合!!」

「緑谷…出久っ…!!?」

「くそ!脳無を追けて来やがったのか!!」

出久の急襲に動揺する黒霧と荼毘。言葉こそ出ないがコンプレスも同じ気持ちだっであろう。 この事態を回避するために様々な手を打ったというのに、全くの無意味だったと実感させられる。

 

だが若干一名……トガだけは別の反応を見せていた。

 

「緑谷、出久くん?出久くん!出久くうぅん!カッコいい!血塗れでボロボロで…カッコいいよぉおお!出久くぅんっ!!」

「「はあ!?」」

黒霧も荼毘も、奇襲をかけた出久でさえもトガの意味不明な言動に呆気にとられていた。 トガは衝動のまま動きだし、出久向かってナイフを片手に突撃する。

 

「トガです!出久くんっ!!もっと、もぉぉっと血ぃ流した方が絶対カッコいいよ!だから刻むね♥ ねっ♥」

「ちょっ!!?危っなっ!」

出久はトガのナイフの刺突を半回転して躱し、身体が通りすぎようとしたところで、首に腕を回して絞める。

 

「―――アッッ♥ッ♥………」

出久の鍛え抜かれた太い腕がトガの首を裸締めして、頸動脈が圧迫されたことにより、トガは一瞬の矯声を上げたあと意識を失う。 出久はトガの意識が無くなったことを確認すると、真横の茂みに後ろ手でそっと投げ捨てた。

 

 

「ん゛んっ!……さあ、次は誰だ?」

仕切り直すように咳払いをしたのち拳を構える出久。 再び緊張が走る。 そしてヴィラン連合が様子見する間も無く、素早く出久は拳を引いた。

 

「やっぱ纏めてブッ飛ばしてやる!100%!デトロイト―――」

出久がフルパワーの拳を振りかぶり、自らの勝利を確信したその時だった。

 

 

 

 

―――スマッシュが放たれるよりも早く、出久の身体を()()が包み込んだ。

 

 

 

――― Dark side out ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――スマッシュを放とうとした瞬間。身に覚えのある爆発が目の前に広がる。

 

僕は咄嗟に腕をクロスさせて防御体勢を取りながら後ろへと跳ねる。 爆発の勢いに逆らわず流されたことでほとんどダメージを負うことなく身を守れた。

 

くっそ、なんだよいったいこの爆発は…!

 

爆煙を振り払うように腕を振るう。 晴れた煙の先にヴィラン連合の姿が見えた。逃げられてはいない、でもそこに見える光景に、僕は眼を疑いたくなる。

 

「嘘だ…なんで……?どうして…そんなとこにいんだよ―――かっちゃん!」

 

ヴィランたちと並び立つようにこちらを見据えるかっちゃん。 嘘みたいな光景だった。

 

「今ので無傷とかマジでやってらんねえな。 スーツもマントもねえってのによぉ」

「何いってんだよかっちゃん? 爆破する相手が間違ってるじゃないか…!」

「いいや?何も間違っちゃいねえ。 俺はお前をブッ飛ばす為に爆破したんだよデク。 いや、緑谷出久!!」

かっちゃんはいつの日かの様に、掌にバチバチと爆破を滾らせながら僕を睨み付けていた。

 

何が起きてるんだ!?なんでかっちゃんがヴィランの側にいて、僕を攻撃してくる? 夢か、幻か?…幻覚を見せる的な個性か! いや待て、熱も風も本物っぽいし何より爆煙が手で払えたってことは現実だろ。 ってことは…かっちゃんは敵に洗脳されてるのか? だとしたら納得がいく。でもそんな個性のヤツが連合にいたか…? もっと他の可能性は……そうか、偽物だ!あの継ぎ接ぎの男、さっき僕が倒したヤツだ。ってことはあの泥のコピー人間みたいなのを作れる個性のヤツがいる筈!!

 

「お前…かっちゃんの姿を模した偽物だな!僕を騙そうたって―――」

「ちげえ、俺は本物だ。ついでに言えば幻覚でもないし、洗脳されてる訳でもねえ。 俺は俺で、俺の意思でここにいる!」

「なっ…!?」

「図星って顔してんな。 おめえの考えることなんて手に取るようにわかんだよ、俺にはな!」

「う、嘘だ!そんな筈ない!!君がかっちゃんな訳がない…」

「おいおい、俺がわからねえのか?つい昨日72個目の約束したばっかりじゃねえか…なあ親友?」

僕の考えを全て見透かし、僕ですら分からなかった約束の数まで当ててくる目の前の人物。 最早かっちゃんでないことを証明するほうが難しかった。

 

「だとしたらなんで! なんでヴィランなんかと一緒にいるんだよかっちゃん!!」

「俺はやりたいようにやりたくなったんだ。理由なんてそれだけだ」

「なんだよそれ!ワケわかんないだろ!!」

「分かるだろ、お前には……俺が元よりそういうヤツ()()()ってことが」

含みを持たせたかっちゃんの言い分。それは前世のかっちゃんが粗暴な性格のせいでヴィラン連合に拐われたことを意味していたのだろう。 僕の頭はどんどん混乱していく。だがやるべきことは変わらない。

 

「だとしても…僕は……僕は君をヴィランの元へなんて行かせやしない!力ずくでも止めてやる!!」

「まあそうくると思ってたぜ……」

「やる気?……かっちゃんが僕に勝てるとでも?」

「勝てねえだろうな。でも戦う必要すらねえってことだよ」

言葉の意味はわからないが、かっちゃんは僕の眼を見て、僕の嫌いな顔でニヤリと笑っていた。前世で僕を虐めていた爆豪勝己のような笑顔で。

 

「こっちは轟と常闇を捕らえてる。 おいお面、常闇出せ!」

「は、はあ? まてまて俺の成果のひとつだぞ!?そう簡単に渡せるか!」

「轟君だって?嘘だ! お前らの目的はかっちゃんの筈だろ!?」

「ああ、お前は知らなかったんだっけな。 こいつらの第一目標は轟の拉致。そんでオマケに俺の勧誘だったんだとよ」

かっちゃんは親しげに仮面のヴィランに話しかけながら、衝撃の情報を提示する。

 

いや、そんな筈はない……これは、ブラフだ!僕に手を出させない為の嘘に違いない!

 

「騙されないぞ…!僕はヴィランと一緒に君を倒す。これからの話はベッドで聞せてもらうっ!!」

「早くしろお面!ひとり残らず皆殺しにされてえのか!!さっさと――寄越せ!」

「おい!!」

かっちゃんは仮面のヴィランのポケットからビー玉のような物を取り出すと僕に向けて投げつけてきた。 僕はそれを警戒し、一歩右に避けるとビー玉はスッと通り抜けていく。

 

「コンプレス!確認だ、あっちだけ“解除”しろ!」

「ったく…俺のショウが台無しだぜ!」

コンプレスと呼ばれた仮面のヴィランが指を弾くと、僕の後ろから人が地面を転がったような音と咳き込む声が聞こえる。

 

「ゴホッ…ここは何処だ…?」

振り向くと、そこには眼を白黒させた常闇君が横たわっていた。

 

「常闇君…?マジか、かっちゃん…?」

「マジもマジだっての。 動くなよ?お前が仕掛けると判断した瞬間、轟の方を爆破する。 おい、轟貸せ」

「やだよ、爆豪君怖いっての。 危なく全部台無しになるとこだったんだぜ?」

かっちゃんが再びコンプレスのポケットに手を伸ばすも、コンプレスはそれをヒラリと避けて一歩後ろに下がっていく。

 

「人質がいるうちに緑谷出久を処理したほうが良いのでは?」

「そうだな黒霧。こんなやべえやつは殺れるときに殺っといた方がいい」

「止めとけ。おまえらごときじゃ隙を見せるだけになっておじゃんになんぞ?」

「そうとも限らんだろ爆豪君。こっちは四人、相手は人質付きの一人。いくら強いっていってもねえ」

「わかってねえなお面。轟もろとも全員ヤられるっていってんだよ。只の子供とかなら未だしも、ヒーロー志望の男だぞ? 犠牲も覚悟の上だろうし、そもそも人質として弱えだろ。轟はこっちの最終目標だろうが、あっちはそうじゃねえってことだよ」

かっちゃんはヴィラン達の会話に割って入り、僕の考えをまたも読んで速やかに(なだ)めていく。その姿が実に馴染んだものに見えてしまった。

 

僕とかっちゃん、そしてヴィラン連合の睨み合いは続き、暫く一髪触発の状態が続くが、そこに新たな乱入者が現れたことでその均衡が破れる。

 

「デクさん!!…常闇君!?それに爆豪…君……?何を…?」

僕の名を呼びながらこの空間に飛び込んできたのは麗日さんだった。 かっちゃんがヴィランの側にいることに疑問を覚えずにはいられないようで、かっちゃんの名を呟いていく。

 

「ちっ!変なタイミングでノコノコ現れてんじゃねえよ丸顔ォ! おい、黒モヤ!さっさとゲート出せ、撤収だ」

「なに仕切ってんだよ、勝手に決めるな」

「ツギハギ、お前バカか? こんなどんくせえやつがここに来たってことは、直ぐにでもプロが集まって来るってことだ。 イレイザーが来たらその時点で詰みだぞ?分かってんのか?」

「彼の言う通りです、撤収しましょう。それではさようなら緑谷出久。出来れば二度と会うことがありませんように…」

かっちゃんの指示の元、黒霧がゲートを複数出現させ紳士のような礼をして消えていく。他のメンバーもこちらを警戒しながらもゲートに次々と足を入れていく。

 

「待て!待てよかっちゃん!!まだ戻れる!来いよっ!」

「悪いなデク…俺はそっちにはいかねえ。お前の事情は呑み込んだ。その上で俺は行くんだ。俺は俺のやり方でやらせてもらう」

「だから待てって言ってるだろ!」

「轟のことなら心配すんな、俺が責任を持って処理してやんよ。だから俺は素直にコイツらに付いていくことにした。お前ならこの意味、分かるよな?」

「かっちゃん!かっちゃんっ!!!」

「じゃあな……デク―――」

 

 

かっちゃんは影の中へと消えていく。すがるように弱々しく伸ばした僕の手は当然届かない。 影は霧散して消え去り、僕の掌は空を切った。

 

 

「――――、―――!!」

「―――――、――」

誰の言葉も耳に入らない。 聞こえていても、聴こえなかった。聴こえるのは自らの慟哭だけ。

 

 

僕は溢れかえる感情の波を押し付けるように何度も、何度も、地面を殴り付ける。

 

 

―――前世(むかし)に敗北した林間合宿。僕は再履修(やりなおし)の人生でもかっちゃんの裏切りという最悪の形で敗北を喫した。

 

 

 

 

 

―――――かっちゃんと喧嘩をしたあの夜。 あのとき黙り通していれば、適当な嘘でもついておけば、こんなことにはならなかったのに。

 

 




消えた爆豪。出久、再びの完全敗北――――――



次回で第九章も終わりです。それでは次も応援よろしくお願いします!

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