デクのヒーローアカデミア 再履修!【完結】   作:くろわっさん

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シリアス注意!とか今さら言ってみました。

苦手な方は注意してください。本当に今さらですけど。



004.空に歌えば

地面に沈むオールマイト。それを見下ろし止めを刺そうとしていたオール・フォー・ワン。僕は飛び込んで、ヤツの一撃を打ち消した。

大丈夫、オールマイト。貴方は僕が必ず救けます!!

 

 

 

 

「もうお前の好きにはさせないぞ、オール・フォー・ワン!何故かって?―――僕が来た!!」

「師を救けに来たか、緑谷出久…本当に厄介な男だよ、君は」

拳を構えてオール・フォー・ワンと対峙する僕。オール・フォー・ワンの殺気に呼応するように、僕のワン・フォー・オールの出力が上がっていく。

 

先程オール・フォー・ワンの姿を捉えてからずっとだ。身体の奥底からチカラがどんどん涌き出てくる。しかも溢れるわけでもなく次々と僕の筋肉に馴染んでいくんだ。まるでこのチカラがヤツを倒せと語りかけてくるように……

 

ワン・フォー・オール――99%!!!!

 

「ワシントンッ!スマァッシュ!!」

「気が早いな!―――何ぃ…!?」

チカラを解放した僕の一撃とヤツの放った衝撃波が衝突する。そして僕の一撃が衝撃波を食い破り、驚くヤツへと襲いかかった。衝撃波に飲まれるオール・フォー・ワンだが、その身体に目立った傷は見当たらない。直接殴らなければ通用しない…か。

 

「想定よりずっと強いじゃないか…オールマイトの一撃と遜色無いレベルだ」

「お前を倒すために鍛えたチカラだ、負けるものかよ!お前も、その意志を継ぐ死柄木も、僕が…僕らが倒すんだ!!いけますか、オールマイト!!」

こちらを品定めするオール・フォー・ワンに拳を突き出して宣告する。オールマイトに同意を求めるが、なぜか返事がない。

 

「…オールマイト?」

「ああ…すまない、緑谷少年。我々がやらければならない…そう……なんだな」

オールマイトの返事はやけに歯切れの悪いものだった。傷が見た目より深いのかと心配になってくる。ならひとりでもっと思った矢先にオール・フォー・ワンが高笑いを始めた。

 

「無理だよ、緑谷出久。オールマイトはもう死柄木弔を敵として見れていない。ハハハ!ここまで効くとは思わなかったよ!」

「なんだと!?なにいってんだよ!そんなわけ――」

「――あるんだよ。弔はオールマイトの先代志村菜奈の孫だってことを教えてあげたら、さっきからこの調子さ。まあ、志村ってのは君にとってのオールマイトで、その家族を貶めようとしていたのさ、そこの男は!」

「くっ……」

「嘘…ですよね、オールマイト…?」

「……」

震えながら僕から目を逸らすオールマイト。それは嘘ではないという他でもない証拠となる。

 

そんな…オールマイトの恩師の家族が死柄木で…ヴィランに…? なんでそんなことに――――こいつ…こうなることをわかってずっと前から…それで死柄木を育ててきたのか!?なんてヤツだ…!

 

「それなら僕が二人とも倒す!オールマイトを護るっ!!」

「《衝撃反転》――君の力は全て君に返るっ!」

飛び上がりながらオール・フォー・ワンを直接殴り付けるが、ヤツの個性によってその衝撃が僕の右腕に跳ね返り大きく吹き飛ばされた。

 

直接攻撃じゃなきゃダメージが通らないのに、物理攻撃無効だと!?反則技じゃないか!!……いや、まて、衝撃は無くなったのではなく、返ってきたんだ。なら、攻略法はある…!

 

「はああ!スマッシュッ!」

「バカの一つ覚えかな?―――《衝撃反転》」

「っと見せかけてぇぇ!!」

僕は殴る寸前に拳を止めて、ヤツの伸ばした腕を掴んで腕と胴に足を絡ませていく。そして一瞬のうちに腕を極めた。

 

立ち関節技…腕挫十字固め!!

 

完全に極った関節技からは力任せでは抜け出せない。それに衝撃を反転しても関節技は相手の力も相手に返る。踠けば踠くほど、衝撃がヤツの腕の中を暴れまわり痛め付けていくのだ。

 

「ぐぁぁ!!離れろっ!」

「離すかっ!」

「くそっ!!!―――解除。ふんっ!!」

ギチギチと極っていく間接の痛みに耐えきれず、オール・フォー・ワンは衝撃反転を解いて、棘のような触手で僕をぶん投げる。

 

くっ!衝撃反転には対抗できるけど、これじゃヤツに止めがさせないのは変わらない…!やっぱり勝つにはオールマイトが要る…!

 

「まだだ!このっ!立って、オールマイト!!二人なら勝てます!」

「しつこいな君は…もうオールマイトは折れたのさ。大事な師匠の家族とは戦えない。僕と戦うってのは恩人の家族の大切な人を奪うってことだから、さぁ!」

「ぐっ!ダメだ!立ってオールマイト!だって―――」

オール・フォー・ワンの攻撃を捌きながら再びを距離を詰めていく。そして再び間接を極めながらオール・フォー・ワンを抑え込んだ。

その最中にもオールマイトに立ち上がれと問いかける。 心の奥底から感情が涌き出て止まらない。ひとりでも戦わねばと考えてはいるのに、心が、身体が、オールマイトが折れることを許さない。

 

そこから先は最早無意識に口が動いていた。まるで何かに突き動かされるように。

 

 

「――本当に大切なら止めなくちゃ!間違った道を歩んでんだから()らが止めてやらなきゃいけない! 受け継いだのはチカラだけじゃなく、意志もだろ!?だから立て!()()ぃーーー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

「アアアアァァァ!!!―――SMAASH!!!!」

失意の底からオールマイトは立ち上がり、チカラを宿した一撃を放つ。生み出された暴風が僕が抑えていたオール・フォー・ワンに直撃し、僕はヤツを盾にして身を守った。吹き飛ばされたヤツはダメージ感じさせる飛びかたで僕らから離れていく。

 

「ありがとうございます……お師匠。そして緑谷少年、待たせたな。これから二人で戦おう!!」

「はいっ!!オールマイト!」

僕とオールマイトはふたり並んで、オール・フォー・ワンに向けて拳を構えて見据える。二人ならもう何も恐れるものはない。

 

「本当に厄介だ……志村も、君たちも。簡単に勝てるなんて思わないで欲しいな。僕だっていなくなった仲間たちの意志を預かってここにいるんだから―――ここからだ!!」

歪な信念を込めた視線が僕とオールマイトを射抜き、オール・フォー・ワンは両手を広げて吠える。

 

 

それからの僕らの闘いは熾烈を極めた。

 

オール・フォー・ワンは炎を燃え散らし、氷塊と共に周囲を凍てつかせ、雷電を迸らせては、衝撃波を放ち、衝撃を跳ね返し、黒き棘や槍の延ばし、時に転移を僕らに施しながら、多種多様な個性で僕らに襲い来る。

 

しかし、それでやられる僕らではない。

 

炎熱を吹き飛ばし、氷塊を砕き、手刀で真空を作り雷電を受け流す。衝撃波を相殺しながら殴り付け、反転されても二人で強引に押し返した。転移されようと振り向いて殴りかかり、槍や棘は叩き落とした。

 

徐々にだが僕らのチカラがヤツを追い詰めていく。短くも長い、光と闇の宿命の闘いは終わりを告げようとしていた。

 

 

「いけるぞ、少年!」

「はい!オールマイト!」

こちらに合図を送りながら駆け出すオールマイトに合わせて、僕もオール・フォー・ワンへと距離を詰める。先程まで周囲に飛び散っていた個性が鳴りを潜め、オール・フォー・ワンは静かに僕らを待ち構えていた。

 

「僕は君達が憎い…!これで決める… 《空気を押し出す》《爆裂》《炎熱》《氷結》《空気圧縮》―――《衝撃反転》……消し飛べ…!――――」

オール・フォー・ワンの前方に掛け合わされた個性の塊が出現し、圧縮され、解き放たれた。これまで見たことの無いような圧倒的破壊力を持ち合わせた大爆発が巻き起こる。

 

僕はそれに向かって更に速度を上げて、前へと踏み出していく。僕の全力を持ってヤツの必殺の技を撃ち破る…!

 

―――ワン・フォー・オール――プルスウルトラ!!!

 

「DETROITTTT!!!!――SMAAAAASHHHH!!!!」

迫り来る破壊の壁に向かって、全力を超えたチカラを込めた一撃を放つ。全てが光に呑み込まれていく中で、僕は更にチカラを流し込んで拳を振り抜いた。チカラと爆発が衝突し衝撃が広がって、そして―――

 

 

 

 

―――僕は耐えた。拳は血に塗れ、全身がズタズタになって軋むが、それでもあの一撃を打ち消し、耐え抜いた。

 

目に前には信じられないものを見るように驚愕するオール・フォー・ワンがいた。だが、僕の身体は未だに衝撃によるダメージが続き、動けずにその場に膝から崩れ落ちる。でもそれでいい…!

 

「任せましたよ……オールマイト…」

ヤツを打ち砕くのは、オールマイトに任せたのだから。 僕の後ろで大爆発から逃れたオールマイトが、僕を飛び越えてオール・フォー・ワンへ迫る。

 

「任された…!ありがとう…!!」

僕を越えながらオールマイトは小さく呟く。僕はゆっくりと倒れながらその背を見送った。

 

―――いけ、僕のヒーロー…オールマイト!!!

 

 

「UNITED-STATES-OF-SMAASH !!!!」

 

顔のないオール・フォー・ワンの“顔”に拳が突き刺さる。

 

それは平和の象徴《オールマイト》の揺るぎなき信念の一撃だった。

 

オール・フォー・ワンは地面を何度もバウンドしながら転がっていき、瓦礫と化したビルの壁面にぶつかって止まる。オール・フォー・ワンの頭は垂れ下がり、僕はオールマイトの勝利を確信した。

 

「緑谷少年、大丈夫か!?」

「ええ…なかなか響きましたけど、大丈夫です…!オールマイトこそ…」

オールマイトはすぐに僕を気遣って手を差し伸べてくれた。その手を取りながら立ち上がるが、オールマイトはマッスルフォームの変身が解けかけていて、限界間近といった様子だ。

 

「終わったんですね、ようやく…」

「あぁ、長かった因縁もこれで終わりだ。本当にありがとう緑谷少年!」

僕とオールマイトはゆっくりと、一歩一歩を踏みしめて倒れたオール・フォー・ワンへと近づいていく。瓦礫の山を歩き、静けさが事件の終結を感じさせた。

 

「…やあ、オールマイト……僕の負けだよ。君達は僕が思うよりずっと強かった……弔共々、捕まってしまうのだろうね」

「オール・フォー・ワン、私はもう迷わない。お師匠の家族が過ちを犯すなら、私が止める…」

「そっか…僕もこれでおしまいか……やっと休める……」

オールマイトの宣言に、オール・フォー・ワンは力なく項垂れて安堵の息を吐きながら、ゆっくりと微笑んでいた。

 

 

 

 

だが、その微笑みが……凶悪で醜悪な狂気の笑みへと変貌していく。

 

「だから……君達も一緒に終わらせてやるっ!!!」

「―――ッ!!危ないっ!緑谷少年!!!!」

オールマイトに首根っこを捕まれ、猛烈な勢いで後方へと投げ飛ばされる。

 

直後、僕の目の前で再びあの大爆発が起きる。先のものより規模は小さいが、その破壊力は変わらない。投げ飛ばしと爆発に煽られて僕の身体は宙を舞い、そして瓦礫へと叩きつけられる。

 

「オールマイト!!!」

すぐさま立ち上がり爆発に消えたオールマイトの名を叫ぶ。辺りには爆煙と砂埃が舞い、様子が伺い知れない。僕は腕を振るって風を起こし、煙を払いのける。

 

晴れた煙の先にヤツの姿だけが見えた。

 

「オール・フォー・ワァァァンッ!!許さないっ!よくもオールマイトをぉぉぉっ!!!」

僕は激情に身を任せて、オール・フォー・ワンへと突撃する。そして半分ほど距離を詰めたあたりでオール・フォー・ワンは僕に向かって何かを射出した。

 

「――っな!!?」

僕はそれを薙ぎ払おうと腕を奮うが、飛んできていたのはU字ロックのような形をした黒い杭だった。腕を手首から拘束され、慣性に引っ張られながら後ろへと持っていかれる。抵抗をしようとした矢先に続けて二発目、三発目と杭が飛んできて、首と胴体。そして四発目の杭で左手を拘束され、瓦礫の山に吹っ飛ばされて、そのまま磔にされる。

 

拘束だと!?時間稼ぎのつもりか…!ふざけるな!!

 

ワン・フォー・オール――フルカウル!プルスウルトラ!!

 

「――嘗めんなァ!!!」

僕は全身にチカラを巡らせて、強大な膂力(りょりょく)で腕の拘束を強引に引き剥がした。そして首の拘束を手で引き千切りながら正面を見据える。

 

煙が完全に晴れて、オール・フォー・ワンの手前の右側…… 僕とヤツの中間辺りにオールマイトの姿が見えた。トゥルーフォームに戻り、息も絶え絶えだが確かに生きている。怒りに満ちていた頭の中がすっきりと穏やかに、それでいて冷静になった。

 

オールマイトが生きてる…!なら後はオール・フォー・ワンを倒して、そしてオールマイトを救け――

 

「救けて……」

弱々しい女性の声が微かに聞こえた。その正体はすぐにわかる。 オールマイトとは反対側、僕の左手のオール・フォー・ワンとの中間辺りに瓦礫に挟まれた女性が見えたから。

 

 

気が付いたときにはもう手遅れだった。僕は既に詰んでいた。オール・フォー・ワンによって()()()()()いた。

 

 

オール・フォー・ワンはこれまでに見たどの人間よりも醜悪に、狂喜的に、そして楽しそうに口元を大きく歪ませて嗤った。

 

そしてその両腕を枝にも槍にも見える黒きモノに造り変える。かつて僕とオールマイトの命を奪ったあの“槍”だ。

 

「止めろぉおおおお!!!―――」

叫びながら胴の拘束を引き千切り、前に踏み出した。それと同時にオール・フォー・ワンの槍がオールマイトと瓦礫に挟まれた女性に向かって伸びる。

 

僕の頭が普段とは比べ物にならないほど超高速で回り、思考のスピードが身体の動きを凌駕する。まるで世界がスローモーションに見えるほどに。

 

どうする?どうすれば止められる!?ふたりを救えるんだ!!? 考えろ、考えろ考えろ!!

 

オール・フォー・ワンを直接殴ってブッ飛ばせば、槍はふたりに届かない。でも僕らの位置関係じゃ僕がヤツを殴る前に槍がふたりを貫いてしまう。ダメだ!

 

ここから拳を振り抜いて暴風で槍を弾き飛ばすか? 槍が風圧で軌道を変える保証がどこにもない!ダメだダメだ!やっぱり直接触れなきゃ確実には止められない!!

 

何か物理的な干渉を…!くそっ!小粒な瓦礫しか周囲にはない!!これをぶつけても槍が止まるとは限らない…!ダメだ!どうすれば!!?

 

 

僕の焦りをオール・フォー・ワンは嘲笑うようにこちらを見ている。言葉にはしていないが「さあ選べ」、そう言っている気がした。

 

 

右にオールマイト、左に女性。槍は僕から見て、奥から手前へと伸びている。どちらかに走り込めばこの手で直接槍を弾き飛ばせる距離と速さだ。 それを選べと…!?オールマイトか女性かどちらか一人しか救けられないと。

 

僕に両方救う手立てはない―――僕は選択を迫られる。

 

 

どっちだ?どっちを救ければ…!どっちを選べば…!!

 

瀕死のオールマイトか?それとも瓦礫に挟まれた女性か? ずっと救けたかった憧れの存在か?はたまた巻き込まれただけの見ず知らずの存在か?

救けたいという私情か?救けなければという使命か?

救けるのは…救かるのは……デク()か?オールライト(ヒーロー)か?

 

―――僕は……どっちだ。

 

 

 

どちらも選べずにただ歩みを進める僕。選びたくない、そんなことを思い始めた時だった。

 

こんな僕に。こんな僕の為に。こんな僕だからこそ……オールマイトは最期の道を示した。

 

 

 

ごめん…ごめんなさいオールマイト。僕がひとりで選べないから…!!

必ず救けるって言ったのに!皆を笑顔で救ける最高のヒーローに成るって言ったのに!約束破ってごめん…!嘘ついてごめん……オールマイト…ごめんなさい……

期待を裏切ってごめん…!ごめん!オールマイト!!

 

僕は選び、駆け出した。救ける為に。

 

オールマイト、オールマイト。オールマイト!!救ける、救けるよオールマイト!僕、救けるよ……必ず救けるから…ありがとう、オールマイト。

 

 

「――――スマァァッシュッッ!!!」

 

僕の振り抜いた拳が黒き槍を捉えて弾き飛ばす。

 

 

―――僕のこの腕はかけがえの無いただひとつの命を救け、守り抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――― オールマイト side in ―――

 

 

我々が勝利を確信した時、オール・フォー・ワンの顔が醜く歪んだ。あれは間違いなく、悪を為す人間の顔だった。

 

咄嗟に緑谷少年の首もとを掴んで、ここから離れるように投げ飛ばした。その瞬間、オール・フォー・ワンは最後の力を振り絞り、全てを呑み込む大爆発を起こしたのだ。

 

私は限界の身体に鞭を打ち、ワン・フォー・オールを滾らせて防御した。私は光に呑み込まれていく―――

 

 

 

 

―――目を覚ますと目の前には瓦礫の山が広がっていた。右を見ればオール・フォー・ワンが勝ち誇った表情をしている。なにを……嗤っているのだ。左を見れば緑谷少年が瓦礫に黒い何かで身体を拘束され踠いていた。

 

「救けなければ」と思い、立ち上がろうとしたが、身体が動かない。マッスルフォームの変身が解け、脆弱なトゥルーフォームになってしまっているようだった。

 

「救けて……」

弱々しい声が正面から聞こえた。瓦礫に挟まれ動けなくなった女性が救いを求めていた。救けるぞ、今救ける…!

 

だが身体は動いてはくれない。限界を超えた反動が一身に響いているためだろう。

 

直後、オール・フォー・ワンからおぞましい邪気と殺気が放たれ、嫌な予感と共にヤツの姿を確認する。ヤツの腕が黒き槍に変化し、切っ先が私に向かって伸びてきていた。あれに貫かれれば、私は死ぬだろう。

 

 

瞬間、世界が制止したような感覚に陥る。そしてこれまでの人生の思い出が瞬く間に脳内へと浮かび上がった。

 

あぁ、これ……走馬灯ってやつかぁ……

 

幼き日の思い出、学生時代の決意と後悔、お師匠との約束、平和の象徴として駆け抜けた日々……そして緑谷少年と過ごしたこの一年のこと。 思えば君には驚かされてばかりだったな。

 

緑谷少年と初めて出逢ったあの日、最初に懐いた印象は「破天荒な少年だな」だった。 やたらとガタイがいいし、一人でヴィランに立ち向かっているし、かと思えば私の顔を見て失神。 起きれば飛び立つ私に飛び付くわ、後をついてきた筈なのに追い越していなくなるわ、あげく友達を救ける為にヴィランに突撃するわで、もう滅茶苦茶だったな。

 

スカウトしようと声をかけたのに、君はとんでもない話を次々と語ってきた。それもボロボロと涙を流しながら、必死の形相で。そして決心した顔で「貴方を救けにきた」だもんなぁ……長いことナチュラルボーンヒーローやってきてた私にとっては、まさかそんなことを言われる日が来るとは思ってもみなかった。 そんな君だからこそ弟子として育てようと決意できたんだが。

 

弟子になってからも君は全くブレなかった。私とナイトアイの与えた過酷な課題に対して嫌な顔ひとつせず、全て全力でやり抜いて見せた。限界を超え恐怖に苛まれても“救ける”、という一心で乗り越えてきた。 まあ流石にあの無人島生活は無茶振りが過ぎたと反省しているよ。君があそこまで強くなったという一点を除いてね。

 

君はあっという間に仮免を取得して、Mt.レディのサイドキックとして大活躍し始めた。あのときは恥ずかしい話だが、思わず嫉妬してしまったよ。君の活躍する姿を一番近くで見ていたMt.レディにだ。私の弟子で私のサイドキックなのに!

 

……あ、そうそう、初めて君を連れてヒーロー活動をしたあの一週間。君が手を出す暇もなく、一撃でヴィランをやっつけてしまった時のことだが…あれは君の実力を心配していたわけじゃなかったんだ。 ただ自分の弟子に良いところを魅せてやりたくて、ハリキリ過ぎただけだ。思えばすまないことをしたと…まあ、後悔はない。

 

オールマイト杯を経て、更に皆のサイドキックとして忙しなく動き回っていた三ヶ月は、忙しすぎてよく覚えていない。君もそうだったんだろ?そういうことにしといてくれよ。

 

雄英に来てからは目立ちに目立っていた。入試でも入学してからも身に付けたチカラを存分に振る舞い、私以上に注目の的だったんじゃないか? 体育祭で様々な逆境を乗り越えて一位を獲得した時、私は自分のことのように喜んだ。つい、メディアのことを忘れて弟子であることを公表してしまった。あの瞬間の君の顔は今でもたまに思い出して笑ってしまうくらい面白い顔してたな。

 

そして君は闘った。USJでも保須でも合宿でも、誰よりも勇敢にヴィランに立ち向かい、闘って勝って……そして救けた。学生時代から逸話を残したヒーローは数多くいるが、これほどのことをやってきたのは君くらいだろう。私にだって無理だ。

 

ホントに君は私なんかには出来すぎたくらい、最高の弟子だよ。

 

 

最期に緑谷少年の姿を眼に焼き付けようと様子を見る。いつにもまして必死な形相で駆けていた。その目は右へ左へと泳いでいる。

 

おいおい、なんて顔してるんだ……って、そうか…君は救けようとしてるんだな。私を…そして、目の前のお嬢さんを。

 

私とお嬢さんに向かって伸びる槍。緑谷少年の位置からでは同時には止められないだろう。おそらくそうなるようにオール・フォー・ワンが仕組んだのだ。

 

緑谷少年は迷っている。いや、私が迷わせてしまっているのか。この身体が動いてさえくれれば……無理だ、あの反動はこの刹那には抜けきらない。

 

君が悩んで迷っているなら、私が導いてあげなければ…!私は君の師匠なのだから…!!

 

 

『限界だーって感じたら思い出せ』

 

 

ワン・フォー・オール…!お師匠、私は―――…

 

私はチカラを振り絞り、限界を超えた身体を動かし、最期の道を指し示す。「救え」緑谷少年……我が後継、オールライト。

 

緑谷少年は私の指の先を見ると大きく目を見開き、大粒の涙を流しながら覚悟を決め、大きく()()と踏み出していく。

 

そうだ、それでいい。君は“ヒーロー”に成れる。

 

見なくてもわかるぞオール・フォー・ワン。今お前は悔しいだろう? 緑谷少年を追い込むために選択を迫ったのだろうが……彼は私の死を持って完成する。かつて私がそうだったように。これで新たな平和の象徴が生まれるんだ。正義は何時だって悪から誕生する…皮肉なものだな。

 

 

さて、最期の仕事だ。 私のチカラと意志、全てを君に託す…! 受け取れ、緑谷少年……君が新たなる希望だ!!

 

私の眼前に死が迫る中、緑谷少年が一本の槍を殴り付けて女性の命を救ける姿が見える。

 

 

これで良い。ですよね、お師匠―――……

 

 

 

 

―――さらばだ オール・フォー・ワン。

 

 

―――さらばだ ワン・フォー・オール。

 

 

 

――――さらばだ…緑谷少年……君に出会えて本当に良かった…―――悔いのない、いい人生だったな――…

 

 

 

 

「――――オールマイトォ!!」

 

 

 

――― オールマイト side out ――――

 

 

 

 

004.空に歌えば




終わらすには失くしすぎた。それ故、足掻け―――――



次回もよろしくお願いします!

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