デクのヒーローアカデミア 再履修!【完結】   作:くろわっさん

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大変お待たせしましたぁ!!

ラスボス前まで来てセーブすると、なんか終わらせたくなくなってきて、他のことしちゃうあの現象って創作でも起きるんですね。

そんなわけで、恥ずかしげもなく戻ってまいりました…!エタッてないよ!


今回はMt.レディこと、岳山優視点になります。では続きをどうぞ!



006.アップデート

私たちは拉致された学生を救出した。いきなり涌き出た脳無も倒した。あとは死柄木と連合のボスを捕らえれば終わりと思われたこの作戦。

でも現実は違った。死柄木は人を超えた化け物に姿を変えて私たちの前に降臨した。

 

 

 

 

 

死柄木が光輝く姿に変わってから、放つ威圧感というか纏うオーラみたいなものに気圧されて、身体が震えることすら出来ずに動けない。

 

今の死柄木は腕のひと振りで街を壊滅的に破壊する化け物だ。あんな怪物に人間が敵うわけないじゃない…!

 

死柄木は私たちヒーローに目を付けて遂に動き出す。でもそれに抗う人もいた。

 

「死柄木弔ァァ!!」

それは他でもないデクくんだった。雄叫びをあげて死柄木に向かって突撃していく。

 

デクくんはまだ諦めてなかったんだ。デクくんは私なんかよりずっと強いから、この絶望の中でもいち早く動けたのね。デクくんならあの怪物にだってきっと勝てるわ!

 

―――デクくんさえいれば……なんて私の考えは幻想のようにすぐに打ち砕かれる。

 

死柄木がひと睨みするだけで、デクくんの動きがピタリと止まる。そして、人差し指でデクくんを指差す。するとデクくんはその場で崩れ落ち、地面に倒れ伏せてしまった。

 

「うそ…でしょ……?」

 

信じられない。まさかデクくんが…あの強いデクくんがあんなにあっさりと…?何もさせてもらえず、何をされたかも分からずにやられるなんて。

 

倒れたデクくんはピクリとも動かず、その場で寝転んだままだ。

 

まさか…? 早く立ち上がって!嘘、そんな訳ない!デクくんが…死―――…

 

「死んでないか。ふぅん、殺すつもりでやったんだけど。結構頑丈だな」

デクくんを見下ろす死柄木はつまらなそうにぼやく。その言葉の真偽は定かではないが、一先ず私は安心した。生きているのなら救けにいける。だが続く死柄木の一言が事態を加速させていく。

 

「まあ、でも…こいつだけはしっかり殺しておかないとな」

まるでゴミ捨てを面倒くさがるような言い方で、死柄木はデクくんの命を奪おうとしていた。

 

なんなのよ……ヴィランとかうんぬんの前に人としてこいつは価値観がどうかしてるんじゃないの…!?

 

「させると思うか!?」

「出久は殺させねえぞ、死柄木」

エンデヴァーとグラントリノがデクくんと死柄木の間に割ってはいる。他のヒーローたちも動きだし、死柄木を取り囲むような陣形をとっていた。どうやら数の利を生かしてアイツの破壊力に対抗するみたいだ。

 

私もそれに続こうと巨大化したが、ミリオくんに手で制される。

 

「Mt.レディはデクとオールマイトを連れて離れて。ふたりを頼むよね。サー!さっきの女性の避難をよろしくお願いします!!」

「でも…!」

「この中でふたりを一番護れるのはMt.レディなんだよね。その個性で動けないふたりを庇ってください!」

「……わかったわ。必ず護り抜くから…!」

私が折れるとミリオくんはいつもの笑顔を見せてから死柄木の方へ向き直す。死柄木はヒーローに囲まれているにも関わらずその様子をぼーっと見ていた。

 

「オールマイト…?で、いいんですよね」

「こんな成りでは役に立てないか……すまない」

「いえ、ここからはみんながやってくれますよ。さあ、こちらへ」

オールマイトらしい痩せ細った男が落ち込みつつ謝る。その声でオールマイトであると確信したが、やはり見慣れない姿に動揺はある。しかし、だからこそ今は護るべき対象なのだと実感させられ、すぐに左手に招き寄せて、掌に乗せる。

 

「随分と勝手に話してるけど、緑谷出久を逃がすわけないだろ?どれだけおめでたいんだ、お前らの頭ん中は……」

死柄木は呆れたように話し出す。いつ仕掛けてくるかも分からない爆弾のような存在だ。だが、そんな死柄木をヒーロー達の無数の視線で睨み、一挙一動を見逃さないようにしている。緊張感が辺りを支配する。

 

私が動き始めた時……デクに手を伸ばした時が始まりの時になるのよね。落ち着け、私。 皆が援護してくれる。だから大丈夫…! さっと手を伸ばしてデクくんを拾い上げたらすぐに離れる。それだけよ…!よし…いくわよ―――

 

恐怖を抑え込んで、私は気合いを入れてデクくんに向かって手を伸ばした。

 

「かかれぇー!!!」

エンデヴァーの号令と共にヒーロー達の一斉攻撃が始まった。 エンデヴァーの炎は勿論のこと、ガンヘッドのガトリングを始めとした遠距離攻撃、それに力自慢のデステゴロの投げた瓦礫の塊などの様々な攻撃が一挙に死柄木に襲いかかる。

 

私はその隙にデクくんを無事に拾い上げ、胸に抱えてそのまま踵を返して走り出す。

 

「走れぇ!Mt.レディ!!」

「―――ッ!!」

走り出した直後、シンリンカムイの声が後ろから響く。言われなくても走ってるわよ!

 

私は巨大化したまま全速力で走り出す。この場から少しでも離れるために。

 

なぜなら、背中には未だに刺すような視線と、あの威圧感が伝わってきているからだ。

 

あれほどの波状攻撃に包まれながらも死柄木は生きている。確実にこちらを捕捉して、いつでも追い掛けて来るだろう。

 

絶対に二人を護って、逃げ切って見せる!!

 

―――ヒーロー達の援護の下、私の死柄木からの逃亡劇が始まった。

 

 

 

 

 

 

――― 爆豪 side in ―――

 

「ここまで来れば大丈夫だろ」

「そうだな、爆豪。あとは警察に合流すればいいのか?」

「まあそうなるわな」

俺の隣で少し息を切らせながら轟が辺りを見回す。周囲には人影はなく、休日の繁華街とは思えないほど閑散としていた。

 

それもその筈、この非常事態に警察は神野区全体に避難警告を発令したのだ。さっきからうるさいくらいに防災無線のサイレンと放送が繰り返されているからすぐにわかった。

 

「ヒーロー達は勝ててんだろうな?」

「あぁ!?勝つに決まってんだろ、デクがいんだぞ。それにオールマイトだっている。どんな敵でも楽勝だわ!」

「そうか…お前の緑谷への信頼は凄いな」

「っ!…信じてなかったらこんなとこまで逃げてきてねえわ」

轟の発言を受けて思わず顔をそらしてしまった。なにも間違ったことは言われてねえが、指摘されるとムカつく。半分はこいつのせいでこんなことになってるというのに……

 

謎の泥に呑まれて転移した後からはドタバタしていた。目の前にはデクとオールマイト、そしてラスボスと思わしきスーツ姿の工業地帯みたいなマスクをした男。 同時にわき出るヴィラン連合のメンバーと大量の脳無ときたもんだ。

そこにヒーロー達が駆けつけて、脳無と連合メンバー対ヒーロー達の合戦が始まった。そのどさくさに紛れて、ヒーローに促されるように俺と轟は逃げ出したんだけどな。

 

ヒーロー達と脳無達の戦いも激しかったが、それ以上にデクとオールマイト対ラスボス野郎の闘いの激しさがヤバかった。 あれに巻き込まれないためにも、俺と轟は速やかにその場を離れたんだ。さっき轟に言ったようにデクの迷惑になるから。

 

「さっきのでけえ爆発音が聞こえてから急に静かになった」

「ああ、もしかしたらもう終わったのかもな…」

「アイツのことだから心配することはねえし、さっさといくぞ」

きた道を気にする轟に声をかけて先を急ぐ。俺たちの無事こそがデクやヒーロー達の勝利条件なんだ。まずは安全を確保しねえことには始まらねえ。

 

 

 

 

それは一瞬の出来事だった。俺と轟は閑散とした誰もいない歩道を歩いていたはずだった。

 

―――気が付いた時には天地がひっくり返り、俺の身体は空中に投げ出されて吹っ飛んでいた。

 

「――ッ!!」

爆破を使って空中で咄嗟に体勢を立て直す。 真上を向くと、巨大なコンクリートの塊が迫っていた。

 

「クソがァ―――!!」

両の掌から爆破を放ち、斜め下へとぶっ飛び瓦礫の塊を間一髪で躱す。躱したはいいが、下方向へと加速したため今度は地面が一気に迫りきていた。 真下に向けて爆破して、速度を殺すが、減速しきれず転がるように地面に着地した。

 

転がり終えて体勢を立て直し、再び上を向く。眼前に迫るは大小様々な瓦礫。意思を持っているわけではないが、狙い済ましたかのように俺に向かって降り注ぐ。

 

やべえ、爆破じゃ全部は消し飛ばせねえぞ…!!

 

「爆豪ォ!!」

耳に轟の声が飛び込んでくる。 振り向けば轟が氷を屋根のようにして瓦礫の礫を凌いでいるのが見える。だがその頭上には巨大な瓦礫が迫り、あれが当たれば氷の屋根ごと潰されてしまうだろう。でもそれは轟がひとりだった場合だ。

 

「目ェ一杯氷厚くしとけェ!!――オラァ!!!」

爆速ターボで接近し、両手で限界ギリギリの最大火力の特大の爆破を放ち、迫りくる巨大な瓦礫を吹き飛ばす。全てが塵になったわけではなく、塊は細かな(つぶて)に姿を変える。それはさながらショットガンの散弾のように俺へと向かってきた。 俺は死の礫から逃れるために轟の作った氷の屋根へと滑り込んでいく。

 

轟は氷塊を右から出し続け、氷と瓦礫が衝突し激しい音が数秒にわたって響いた。

 

「――ハァ…ハァ……」

「終ったか…?」

轟の脚から氷の噴出が止まる。それと同時に周囲が静けさに包まれた。どうやら瓦礫の雨は止んだようだ。だがこの屋根もいつ崩れるかわからねえ、移動しねえと。

 

「左のチカラ使えるか…?」

「あぁ…大丈夫だ」

チカラを使いすぎて全身に霜が積もる轟に肩を貸しながら屋根から出る。轟の体に熱が奪われたことで背筋が冷え込むが、すぐに轟が左の炎を灯して暖まってきた。

 

屋根から飛びだして辺り見渡す。さっきまで歩いていた筈の繁華街は見る影もなく、ビルや店舗()()()()()の瓦礫だけが一面に広がっていた。 よく見るとこの惨状はある一点から放射状に広がっていることがわかる。 その一点とは、俺たちが逃げ出してきたあの戦場の方向だった。

 

「おい、アッチって…」

「クソ、こんなことが出来る化けもんが現れたってことかよ…!」

「…!ヒーローが…緑谷がやばい…!!?」

「待て!何処いくつもりだ!!」

「緑谷のとこに決まってんだろ!!」

「行ってどうする!?何にも出来ねえだろうがっ!!」

「……ッ!」

轟の肩を掴んで止めると、轟は悔しそうに歯を食い縛っていた。気持ちは痛いほど分かる。だが、俺たちが行ったところでなにも変わらない。 こんなことが出来るヴィランが現れた時点で俺たちがどうにか出来る範疇を越えているのは明白だからだ。

 

俺は積み上げられた現実を前に理性的な考えを打ち出し、即座に行動に移そうとする。

 

 

それでいいのか……?俺は? ちげえだろ、やるべきことと、やりたいことはちげえよな。 なら俺は……どうする。アイツなら?俺の憧れたアイツの姿は―――いつだってやりたいことをやり抜くために動いていた筈だ。

 

「轟ぃ……いくぞ…!」

「爆豪っ!でもよ…!」

俺は俯きながら轟の肩を両手で掴みなおす。思わず力が籠ってしまうが、轟は気にする様子もなく、振り向こうとしていた。

 

「勘違いすんな…!行くんだよ―――デクんトコヘよぉ!」

「……ああ、いこう!」

俺と轟は来た方向へ引き返すようにして道なき道を走り出す。目指すはデクの元、戦場の真っ只中だ。

 

 

―――待ってろデク…!おまえをひとりにはしねえ!

 

 

――― 爆豪 side out ―――

 

 

 

 

 

 

 

デクくんとオールマイトを抱えてこの戦場から離れる。それだけのことが今は無理だと悟った。

 

ヒーロー達の足止めによって、死柄木から逃げ出して逃亡劇が始まる()()()()()

 

 

「……先輩? 嘘でしょ…」

振り返った私の目の前に広がるのは破壊の痕と散りぢりに倒れ付したシンリンカムイやエンデヴァーを始めとしたヒーロー達だ。

 

一瞬。あまりも一瞬だった。空気の爆ぜる音と背中に衝撃を感じて振り返れば、この光景が広がっていた。

 

なにをしたのかも、何が起きたのかもわからない。私の中の常識が音をたてて崩れ去り、理解の範疇を大きく越えている。

 

「んー、誰も死んでないかぁ。いまいちヤル気が起きないな…」

死柄木は背筋を伸ばしながら、気の抜けた声で呟く。あまりにも当たり前に人の生き死にを語るその姿に私は恐怖し、気が付けば手が震えていた。

 

そんな絶望に震える私の掌から、ひとりの男が飛び降りた。

 

「何をしたんだ、死柄木…?」

平和の象徴、オールマイトだ。死柄木を見上げるようにして見据えて、冷静に話しかけている。オールマイトは骨と皮だけの姿になっても依然として平和の象徴だった。

 

「何をしたか…かぁ。先生はさ、お前らヒーローに絶望感を与えるために個性を教えてたんだよな。本来ならひとりにひとつしかない“個性”。それを無数に持っているという事実を突きつけてやるためにさ。 でもお前にはどうも効かないっぽいから……教えてやらない。訳もわからずヤられてしまえばいい」

「…ならその姿はなんだ?まるで神様じゃないか。それもオール・フォー・ワンの計画通りか?」

「はっ!神様ときたか。俺の大っ嫌いな言葉だね、神様なんてのは。祈っても助けてくれない、あんなクソッタレになるわけないだろ。 そうだな……強いて言うならアップデートだ。人として…生き物として俺はお前たちより上の存在になったんだよ。先生がここまで予想してたかは知らないけどな」

オールマイトの問いかけに対して悠々と語る死柄木。自分が微塵も負けるとは思わない、圧倒的強者の余裕のようなものがそこにはあったように見える。話すに値するのがオールマイトだけなのかも知れないけど……

 

「やけに質問が多いなオールマイト。何を考え―――」

私たちを見下ろす死柄木だが、その身体が急に旋回して後ろを振り向く。 理由はすぐに分かる。背後からミリオくんが奇襲をかけていたのだ。けどその奇襲にすら死柄木は反応して、襲いかかっていた拳をか細い腕で楽々と受け止めていた。

 

「―――まあ、時間稼ぎだよな。透過の男か、緑谷の次に厄介な奴が釣れてよかったよ」

「……ぐっ…!」

「こんな感じでやればいいか?」

「っぐわぁぁぁああああ―――!!!」

直後死柄木の腕から電気のようなものが走り、ミリオくんを蝕む。ミリオくんは苦痛に絶叫したのち、死柄木の手から離れてその場に頭から崩れ落ちた。

 

「さて、ようやくだな……緑谷出久を渡せ。そうしたら見逃してやる」

「いかせると思うか…!――DETROIT-SMAASH!!!」

オールマイトの右腕だけが筋肉質の太いものへと変化し、その腕で死柄木に殴りかかる。だが死柄木はそれを人差し指一本で防いでしまった。衝撃など一切なかったかのように、ニヤリと死柄木は嗤う。

 

「お前にもう用はないんだよ。退いてろロートルが」

死柄木が軽く手を払うとオールマイトの姿は瞬く間に消える。廃墟の山が砕ける音が響くことで、オールマイトが吹き飛ばされたことに気が付いた。

 

オールマイトでも敵わないなんて……私は…私にはどうしようもないじゃない…でもデクくんが…!私が…!!

 

「…い、いかせない…!」

私は精一杯の勇気を振り絞り、膝立ちで両腕を広げて死柄木の前に立ちはだかった。手と膝も震えたまま、涙目で死柄木を睨み付ける。

 

「どけ、お前も殺すぞデカブツ」

死柄木から放たれる殺気と威圧感が私の心を押し潰し、身体の動きを止めた。重圧で動けない私に死柄木はすっと近づいてきた。その距離が1メートル、また1メートルと近寄る度に恐怖で身体が縮み上がっていく。

 

そしてその距離が0になり――――死柄木は私を通り越して真横を抜けていった。

 

身体中からどっと冷や汗が流れ出て、心が安堵する。

 

た、助かった…?見逃されたの……?

 

緊張状態から解放され、心が休まる。だがすぐに冷静になり、何も解決してないと思い直した。

 

助かってないじゃない…!救けてないじゃない…!!私は!私が護るっていったんじゃない!!

 

 

『 私はそんなデクくんを救けるわ。皆を救けるその背中を私が護ってあげる!』

 

 

私が護る、救ける。あの優しくて大きな背中は絶対に奪わせない!ヒーローだ、私はヒーローなんだ―――!!!

 

 

「いかせるかぁぁあああああ!!!」

私は無我夢中で振り返り、がむしゃらに腕を伸ばして死柄木の身体を掴み取った。

 

「おお!すごいすごい、まるでジェットコース―――」

「っらぁ!!」

「―――ターみたいだ…」

私の手の中ではしゃぐ死柄木をそのまま地面へと叩きつける。だがその手の下からまだ死柄木の軽口が聞こえてきた。

 

「ああぁあぁああぁぁぁあ―――!!!」

私は叫び声を上げながら、両手を死柄木目掛けて振り下ろす。一度ではなく何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も何度も叩きつける。その度に地面が少しずつ陥没していった。

 

こんな風に個性を使って暴れることなど始めてだった。それでも目の前の敵を倒すため、護るために手加減などせずにチカラを振るい続ける。

 

「――飽きた。もういいや。殴られたらどうなるかなって思ったけど、なんもなかったな…」

叩きつけた拳の下からあの気の抜けた声が再び聞こえてくる。さっきから何も変わらず、私の鉄槌などなかったかのように。

 

「きゃあぁぁああああ!!」

突如、手の下から電流のようなものが流れて全身を走り抜ける。言葉に出来ないほどの苦痛が私を襲い、断末魔のような声をあげてしまう。そして巨大化を維持できず、身体を捩りながら小さくなって地面に倒れ付した。

 

「デク…くん……」

目の前にはデクくんが倒れている。私は痺れる身体を引き摺ってデクくんの元へと進んで、辿り着いた。

 

「退けって言ってるの、わかんないかなぁ」

「絶対に…渡さない…!死んだって離さないわ…!!」

死柄木は宙に浮かんで私を見下しながら呆れたような視線を送ってくる。私は気を失って動かないデクくんを両手で抱えるように庇いながら、全力の強がりを吐き捨てた。

 

「そっか……そんなに大事なら、一緒に殺してやるよ」

死柄木は私に興味を失った。そして殺気のない瞳で呟き、少し距離を取りながら腕をこちらに構える。デクくんを抱き締める腕に力が籠っていく。

 

「さっきまでのはイマイチ効果がわかりにくかったし、今度は塵ひとつ残さず消し去ってみるか」

死柄木の構えた手の先に光輝く光球が生み出され、徐々に輝きが強くなり、大きくなって力が高まっていくのがわかる。

 

あれにやられたら死んじゃうんだろうな…それにもう逃げ出すことも出来ないわね。

 

頭の中で様々な考えと思い出がぐるぐると回っていく。気が付けば考えたことを口にだしていた。

 

「ごめんなさい、デクくん。貴方のこと護ってあげられなかった…」

瞳からは涙が流れて抱き締めたデクくんの顔に溢れ落ちる。尚も光球は高まり続けて、自らと腕の中の彼の死を確実なものにしていく。

 

最期をデクくんと過ごせるなら。これで最期なら……全部言ってもいいよね…?

 

 

 

 

 

 

「―――好きよデクくん。大好き……愛してるわ」

死を誂えた光に照らされながら、私は心の奥底にしまいこんでいた想いを告げた。届くことのないと知っていても、それでも口にしたかった。もう、最期なのだから。

 

 

すべてを消し去るような白の輝きが私たちを包み込む。

 

 

―――あぁ、やっと…言えた―――……

 

 

 

 

006.アップデート

 




後悔したくないから言うよ。好きだ。君が大好きだよ――――


待ってくださっていた皆様にはありがとうとしか言いようがありません。必ず完結させますので、もうしばらくお付き合い下さい。

次回もよろしくお願いします!

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