デクのヒーローアカデミア 再履修!【完結】   作:くろわっさん

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相も変わらずお待たせしております。

振り絞った結果の最終章最終話です。独自設定全開ですのでよろしくお願いします!




008.ピースサイン

僕の中のワン・フォー・オールの世界。そこで僕は答えに辿り着いて、チカラを改めて託された。

優さんも、オールマイトも、皆このチカラで救けてみせる。さあいくぞ、死柄木弔!

 

 

 

 

 

――― third side in ―――

 

 

「こりゃ酷いな…神野区が半壊してるじゃないか……」

「なにぼさっとしてんだ!大スクープだぞ!早く撮れ!!」

夜空を飛ぶ報道ヘリの中で、テレビ局のクルーたちが神野区の惨状を取材していた。崩壊する街並みに現実感の喪失があるのか、ディレクターはどこか興奮ぎみだ。カメラマンは冷静に開いたドアから廃墟の群れを見下ろしながら撮影し始める。

スタジオからこちらへと中継が繋がるという指示を受けて、狭いヘリの内部が慌ただしくなる。そしてADの合図で現場中継が始まった。

 

「見えますでしょうか!神野区が、崩壊しております!普段なら大勢の人で賑わう繁華街も今は見る影もなく、全てが瓦礫と化しています!詳細はわかりませんが、警察からの発表によりますと、これらはヴィランの集団的暴動による被害だということです!」

リポーターが感情を乗せた声で現状を伝えていく。それに合わせてカメラがぐるっと大きく見回すように動いて、崩れた街の全貌を捉えようとした。 その時だった。崩壊した街の中に瞬き光る何かが動き、カメラを横切ったのだ。

 

カメラマンは「今なにか…」と呟きながら、カメラを横切った謎の物体を追った。そしてついにカメラがその姿を捉える。

 

「おい見ろ!あれはなんだ!?人か…?」

「速すぎてよくわからない!」

辛うじてカメラが捉えていたのは高速で動き、時折衝突する稲妻のような人影と光のような人影だった。その動きが速すぎてズームした状態では見逃してしまうため、かなり引きの撮影をしていたのでそのようにしか見えない。

 

二つの人影は幾度なくぶつかり合い、緑の稲妻と白い光の残像が軌跡を描いていく。

 

突如、白い光がヘリに向かって急接近を始める。瞬く間に距離を詰め、ヘリの真横に空中で立ち止まった。そしてカメラに映し出されたのは、白く輝く白髪の男の姿だった。

 

「ヴィ、ヴィラン…!?」

カメラマンは身体の底から湧き出る恐怖からか、思わず相手が何かも分からないのにそう決めてつけて呟いてしまう。その男から放たれる雰囲気が、クルー達の心を絶望に染め上げて恐怖させた。

 

白い男が無表情のままヘリに向けて掌をかざす。クルー達は本能的に自分達の死を悟った。このまま呆気なく、なんの感情すら持たれないまま羽虫のように潰されてしまうのだと。

 

だが、それは現実にはならなかった。緑の稲妻が轟くように走り、そのまま白い男を吹き飛ばしたからだ。カメラに撮られた映像には白い男と入れ替わるように、緑色のコスチュームを纏った筋骨隆々な緑髪の青年の姿が映し出される。それも一瞬で、すぐに白い男を追うように消えてしまった。

 

脅威が現れては消え去り、茫然とするクルー達。暫しの思考停止からいち早く立ち直ったのはクルーの中でも一番若いリポーターだった。自らの職務を全うすべく、ヘッドセットマイクの位置を調整して、力強く喋りだす。

 

「ご覧いただけたでしょうか!?街を破壊したと思わしき白いヴィランの姿を!そしてそれと闘う、緑のコスチュームのヒーローの姿を!――ヒーローが…ヒーローが闘ってます!!」

 

 

 

 

 

全国に中継されたその映像は、彼を知る者の元へと届く。

 

 

「いっけえ!緑谷!筋肉のチカラを見せてやれ!」

 

「共に鍛えた筋肉はお前を裏切らない。勝てるぞ、緑谷!」

 

筋肉の盟友は彼の筋肉を信じている。鍛え上げた筋肉は誰にも負けないことなによりも信じている。

 

 

「マンダレイ…マッチョマン大丈夫だよな?勝てるよな…?」

「大丈夫よ洸汰。オールライトは…あの子ならきっとどんな敵にだって勝てるわ」

「だよな!頑張れ!マッチョマン!頑張れー!」

 

彼に救われた少年とヒーローは再び彼が勝利し、救うことを願っている。

 

 

「どんな個性つかってんでしょうか?帰ってきたら詳しくじぃーくりと聞かせてもらいましょう! ……だからちゃんと帰って来てくださいよ…筋肉の人……」

 

発明好きの少女は彼の帰りを待ち望んでいる。自分の為に、彼の為に。

 

 

「すごい!スゴすぎるぞ緑谷君!!」

「あれが天哉の言ってた友達か?強すぎんだろ、ホントに高校生かよ…」

「勿論!彼は雄英を代表する……いや、僕の最強の友達さ!兄さん!」

 

彼の級友は疑わない。彼こそが最強であることを。自らが目指すべき頂点であることを。

 

 

「やっぱ緑谷君ハンパないなぁ。戻ってきたらもっと鍛えてもらわなきゃ。一緒に……」

 

彼に憧れる少女は熱くなった身体を持て余しながら、ひとり彼の帰りを待ち続けている。

 

 

「出久…お母さん知ってるんだからね。いつもそうやってボロボロに成ってるってこと。なにもないように装って帰ってきてるって……だから今回も何もないように帰ってきて」

 

彼の母は知っていた。それでも静かに涙を流しながら、我が子を信じて帰りを待っている。

 

 

「デクさん―――」

 

少女は只一言、名前を呟く。複雑に絡まった想いを込めて。彼女は祈っていた。彼を想って、静かに、ただただ祈っていた。

 

 

 

――― third side out ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――WASHINGTON(ワシントン)-SMASH!!!」

僕の一撃が死柄木の放った白い光の壁を砕いていく。壁を砕ききり、死柄木に拳が届くかといったところで、勢いが殺され死柄木は宙を舞って離れていく。

 

くっ!また逃げられたっ!!あと少しなのに…!

 

死柄木が離れる。僕が追う。再び死柄木が離れる。先程からこの繰り返しだ。

 

精神世界から覚醒した僕は、優さんや倒れた皆を巻き込まないために、すぐさま死柄木を突き飛ばして空中戦を始めた。 自由に宙を舞う死柄木に追い付くため、ニューハンプシャースマッシュの応用でチカラを背面の筋肉からジェット噴射のように放出し、僕は空を飛んだのだ。

 

超高速の戦闘は空中地上を縦横無尽に飛び回りながら続き、互いに致命的な攻撃を与えれずにいる。それまで死柄木が見せていた謎の技も使われたようだけど、全身から溢れるチカラが全て弾き返してるみたいで、直接的な攻撃の応酬だ。

 

ここまで戦ってみてわかったのは、遠距離では死柄木に、近距離では僕に分があるってことだ。 今も死柄木はバレーボール大の光球を連続で僕に放ちながら逃げ回り、僕はそれをチカラを纏わせた手足で弾きながら近寄っている。

 

「SMASH!!」

左腕を振り抜き、チカラを練り込んだ竜巻を死柄木へと放つ。だが死柄木は光の壁を貼ってチカラの奔流からいとも簡単に逃れた。

 

やっぱり僕の遠距離攻撃はあまり通用しないか…当たればダメージにはなりそうだが、ほぼ確実に防がれるな。

 

逆に近づいて一撃でも直接殴れれば状況が一転するはずだ。その証拠に死柄木は僕の接近を恐れて大袈裟なまでに距離をとっている。

 

そんな中、逃げ回っていたその場に死柄木が静止した。僕は何か仕掛けてくるのかと思い、警戒して少し距離をとる。

 

「鬼ごっこは終わりか、死柄木?」

「まさかお前がこの領域まで至るとは思ってなかったからな……緑谷出久。だから、ちょっと警戒して戦ってみてたんだ 」

「そうかい、それはお互い様だ」

「だろうな。俺も、お前も、きっとこれまでの超人社会を過去にしちまうような……新しい存在に成ったんだろう。 正直ちょっと嬉しかったんだ。一人っきりの世界におんなじようなヤツが現れたってな。まあ皮肉にもそれがあれほど憎かったお前だったんだけど」

死柄木は苦笑いを浮かべながらヘラヘラと語る。まるで僕のことを敵として見てないような発言をしているが、僕の本能はヤツが僕の敵だと叫んで止まらない。

 

「それじゃお友達にでもなるかい? これまでのことは水に流してさ」

「冗談が下手な奴だな…まるで笑えないぜ。お前と友達なんざ死んでもお断りだ。 俺とお前が頂点なんだ、ヴィランとヒーローの。 俺に傷をつけられるようなヒーローなんてお前以外に居ないし、お前を倒せるヴィランも俺しか居ない。だからだ……だからこそ、俺はお前を殺す。お前を殺して俺が…俺ひとりが頂点となってこの腐った社会を変えてやる…!」

「させないぞ、僕がお前を止める。オールマイトとの約束は今度こそ違えない…!」

互いに譲る気はなく、気迫を込めて睨み合う。そして死柄木が動いた。 しかしそれはこれまでのような逃げ回るようなものではなく、まっすぐと僕に向かって接近してくる。

 

「ハァッ!」

死柄木は驚くことに自らの拳で僕に殴りかかってきた。僕も負けじと拳を振り抜き迎撃する。そのパンチは僕の想像以上に鋭く、チカラの籠められた僕の拳と死柄木の拳は激しく正面から衝突した。

 

チカラ比べとなった勝負の軍配は僕に上がった。死柄木は空中を滑るように回転しながら弾かれた勢いをキレイに殺していって止まる。そして拳を見つめながらぶつぶつと呟きながらシャドーをしていた。死柄木はどうやら納得いかないようだが、僕は拳に残る感触に戦慄していた。

 

バカな。さっきまで素人パンチしか打てなかった筈の死柄木が、こんなに重いパンチを放てるなんて。 奴の混沌のチカラも勿論籠められていたが、なによりモーションも速さも狙いもかなりの精度だったし……あれは僕のスマッシュにあまりにもよく似ている。 まさかこれまでの戦いで覚えたってのか?この短時間に!?才能マンかよ!

 

「だいぶわかってきたぜ……そら、もう一回だ!!」

「ッ!?――SMAASH!!!」

死柄木は光弾をいくつも飛ばしながら再び僕へと向かってくる。僕はその弾を弾き飛ばしながら先程よりも本腰をいれた迎撃の一撃を放った。弾けた光に照らされながら、先程の繰り返しのように僕と死柄木の拳がぶつかり合う。

 

そして、互いに振り抜いた拳の衝撃が()()()()()()、周囲に撒き散らされる。

 

「ハハッ!やった…!これで完成だ。どうだ緑谷ァ!お前の一撃…ものにしてやったぞ!!」

「たかだかパンチを覚えたくらいで…!」

拳を合わせながら死柄木は笑顔で凄む。僕も言い返すが、もはや只の負け惜しみのようになっている。 この短時間でパンチを覚えられたということは、戦いが長引くほど僕の技を盗まれるということ。つまり、僕に分があった近距離戦すら同等になるということに他ならない。

 

これ以上技を盗まれる前に一気に畳み掛けて、速攻で決着をつけるしかない!!

 

僕は死柄木が距離をとるよりも早く拳を振り抜く。一撃では終わらせず、何度も拳を振り抜いていく。対する死柄木も僕の拳に超速の反射で拳を合わせて迎え撃つ。

 

HAWAIIAN(ハワイアン)-SMASH-RUSH!!!」

僕はラッシュの速度を段々と上げる。そして一撃一撃に籠めるチカラも多くしていく。すると互角だった僕と死柄木のラッシュの均衡が崩れていき、僕の拳が死柄木の身体に届き始めた。 勝機を見いだした僕はそのまま拳を放ち続けて畳み掛けていく。

 

「ハアアアァァ―――!!」

ラッシュ対決に押され続け追い込まれていた死柄木。だが手数が足りないと見ると奴は背後からソフトボール大の光球を大量に生み出し、ラッシュを振るいながら同時に打ち出してきた。 襲いくる光球に対抗するため、勝ち越していた分の拳を死柄木の身体から光球へと狙いを変えるしかなかった。

 

おいおいおいおい!ちょっと待て!!この光球、段々と数が増えてないか!? 只でさえ手一杯だってのに!!!

 

均衡していた僕のラッシュと死柄木の拳と光球のバランスが崩れていき、僕の身体に光球が直撃し始める。身に纏ったワン・フォー・オールを貫くことはまだないが、徐々に剥がされているのがわかる。このままではじり貧になることは間違いなかった。

 

「――KANSAS(カンザス)-SMAASH!!!」

僕は被弾を覚悟して左腕で防御をしながら低い姿勢で踏み込み、右腕を振り抜いて拳を死柄木の鳩尾目掛けて放った。光球が身体のいたるところに直撃し、バチバチとワン・フォー・オールの弾ける音と衝撃が伝わるが、強引に拳を押し込む。 拳が死柄木の胴体を捉えていき、奴の纏うチカラと僕の拳に籠めたチカラが反発と共に削れていく。そして僕の素の拳が死柄木の鳩尾に捩じ込まれ、その身体を大きく吹き飛ばした。

 

吹き飛んだ死柄木は空中で姿勢を制御してふらつきながら止まり、苦しそうな顔でこちらを睨み付ける。僕も額から流れる血を拭いながら、肩で息をしつつも死柄木を睨み返した。

 

「痛ってえ……かなり効いたぜ。でも今のでわかった。緑谷出久、お前は俺に敵わない。チカラは拮抗してるみたいだが、個性の自由度が段違いだ。 惜しかったなぁ…あと一歩及ばず、お前は俺に敗れるんだ!ハハハ!!」

「くっ…まだだ!まだ終わってない!!」

「いいや終わりさ!お前に何が出来る!? そのチカラ、オールマイトのだろう? あぁ!? そんなチカラも足りない!頼みのオールマイトの瓦礫の藻屑!他のヒーローどもだって倒れた! お前ひとりじゃ俺には届かないんだよ!!――終わりだ!緑谷出久ゥ!!」

言葉の終わりに死柄木が両腕を大きく広げたと同時に、死柄木の周囲に無数の光球が生まれて視界を埋めつくす。そしてそれらは一斉に僕に向かって降り注いできた。

 

「SMAAAASHHHH!!!」

対して僕はチカラを最大限に籠めた拳を振り抜き、チカラの暴風を放った。竜巻と化した風と光球が周囲に衝撃を振り撒きながらぶつかり合う。だが僕の竜巻を引き裂くように光球の渦の中から巨大な柱のような光線(ビーム)が伸びてきた。 僕は反対の腕にチカラを籠めてビームをアッパーカットで殴り付ける。するとビームの軌道が真上へと逸れていく、と同時に僕も腕を大きく上へと弾かれた。

 

「もらったァ!!」

「しまっ―――」

なんとか殴ってどうにかなったと思った矢先に、逸れたビームの影から死柄木の姿が迫ってくる。凶悪に歪んだ笑顔を浮かべながら死柄木は僕へと拳を振り抜く。先程のビームにより体勢を崩された僕は防御することも叶わず、混沌のチカラの籠った拳によって殴り飛ばされた。

 

建物だった物の残骸を砕きながら地面を転がり、数百メートルほどぶっ飛んだ後、瓦礫の山に埋もれて止まった。

 

いたた…なんて強引な戦い方だ! 殴られたのが胸で良かった。大胸筋が奴のパンチを止めてくれたおかげで肋骨も内臓も無事だし。でも鍛えてなかったら心臓を抉り取られてたな…!

 

そんなことを考えていると熾烈な殺気を感じ、咄嗟にワン・フォー・オールを前面に押し出して防御体勢をとる。直後、一面が光に包まれ、僕の埋もれていた瓦礫が光に熔けていった。光が止み、瓦礫の中にぽっかりと空いた穴の中から空を見上げると、にやけた面の死柄木の姿が見えた。

 

「やっぱり生きてたか。なんとなくそんな気はしてたけどな」

「生憎だけど、お前を倒すまで死ねないんでね」

「減らず口を…」

強がりを言ったが今の一撃を防ぐ時にかなりワン・フォー・オールを削られた。もう一度今のを食らって畳み掛けられたらやばいだろう。 だが死柄木は既にまるで太陽のように光輝く巨大な光球を頭上に出現させて、更にチカラを高めていた。あれはホントにまずい…!

 

「いい加減楽にな―――ッ!?」

死柄木が僕へと腕を振り下ろし、その強大なチカラの塊が射出されようとした。その時だった。爆炎を纏った巨大な氷塊が死柄木に向かって飛来する。予想外の急襲に動揺した死柄木はその氷塊を避けることも出来ずに、圧倒的な質量と速度に負けて吹き飛ばされていった。 死柄木の集めたチカラが霧散したのを確認してから、僕は氷の飛んできた方へと向く。

 

「よお、デク。大丈夫か?」

「救けにきたぞ、緑谷…!」

「かっちゃん…!?それに轟君まで!」

死柄木に一撃を加えてから、そこに現れたのは避難してこの場にはいない筈の二人だった。なぜここに!?という疑問が湧いてきたが、口振りから僕を救けにきたのは明白だ。

 

「救けに…ってダメだよ!ここは―――」

「――危険だ。って言うんだろ?わかってるぜ、デク。そんなことは分かりきってんだ。それでも救けたいって思っちまった……だから俺達はここにいる」

「だからって……」

「緑谷…俺達は救けたいんだ。いや、救けるって決めてたんだ。お前に救けられたあの時から……」

「デク、お前言ってたよな?余計なお世話はヒーローの基本って。 だからよぉ……しにきたぜぇ?余計なお世話って奴をなぁ!!」

真剣な顔の轟君と不敵に笑うかっちゃんは僕に近づいてきて並び立つ。僕の返事など待つことなく動く彼らを止めることが出来ない。なぜならそれらは僕が幾度となく行ってきていたことで、そこに間違いなんてなかったと僕自身が思いたかったからだ。

 

 

「―――くそがぁ!! 雑魚が今さらワラワラと涌いてきやがって!!」

吹き飛ばされていった死柄木が、怒り心頭といった具合で飛んで戻ってきた。怒りの対象はかっちゃんと轟君で間違いないだろう。つまり、彼らも死柄木の殺意の対象になってしまったわけだ。

 

「さっさと消し飛べ!!」

死柄木は極太のビームを放つ。そしてビームを中心に数えきれないほどの光球を同時に放ってきていた。対する僕はビームだけでも弾き返そうと、チカラを籠めて右腕を引き絞って駆け出した。駆け出した僕の背後から巨大な氷塊が二つ、追い越しながら生えてくる。そして氷塊はなにかに爆破されたようで、粉々に砕けて散弾のように僕の目の前に広がり、迫っていた光球の殆どを打ち消していった。

 

IOWA(アイオワ)-SMASH!!」

僕は残るビームにチカラを押し付けるように勢いよく殴り付けてやった。するとビームが僕のチカラに負けて中心から掻き消される。スマッシュの余波と氷塊の欠片が入り交じり、礫の嵐となって死柄木を襲う。しかし、死柄木はバリアのようにチカラの塊を張り巡らせすべての礫を防ぎきっていた。

 

「それでデクさんよぉ?困ってるんじゃねえのか?」

「俺たちだってヒーローだ。困ってる人がいれば救ける。だろ緑谷?」

自分達の思惑通りに事が進んで上機嫌なかっちゃんと、尚も真剣な眼差しを向けてくる轟君。全ての状況を加味して僕は口を開いた。

 

「……実を言うとちょっと困ってる。救けてくれるかい、二人とも?」

「任せろ!今度は俺がお前を救けてやる!約束だからな!!」

「あぁ!あのときの借りを返す…救けるぞ!」

僕たち三人は揃って、宙に佇む死柄木と対峙する。 そうして()()と死柄木の戦いが始まった。

 

 

二人の手助けによって戦況は大きく好転した。先程のように細かな光球等の遠距離攻撃は二人が防いでくれる。おかけで僕はデカイ一撃と、死柄木本体に集中することができる。更に死柄木に集中することで、二人を狙う必殺の攻撃も僕が防ぐことが出来ていた。戦況は再び拮抗し、光と稲妻、炎と氷と爆発が入り乱れて辺りを掻き乱す。正に混沌の戦場に迸るチカラは次第に激しくなっていった。

 

 

「危ねえ!避けろデクゥ―――!!」

互角の戦いが続いて暫くした時だった。背後からかっちゃんの声が響く。僕は既に死柄木に直接殴りかかっており、視線だけを送って背後を見た。そこにはかっちゃんの爆破が僕の背中を焼き付くさんと迫っていた。おそらく死柄木の攻撃によって爆破の進路をずらされたのだろう。僕のパンチを両腕で受け止め、逃がさないと言わんばかりにがっちりと押さえているのがなによりの証拠だ。

 

避けられない僕は背中からワン・フォー・オールを噴出し、爆破に備える。爆破が僕の背を吹き飛ばすと思われたその時、不思議なことが起こった。かっちゃんの爆破が僕の背中に吸い込まれるように消えたのだ。何が起きたかわからず一瞬の混乱。直後、背中から溢れていたワン・フォー・オールが流れに沿って爆発し、その爆風によって超加速した僕。結果、僕の拳を掴んでいた死柄木はその爆発的な勢いに負けて、すっ飛んでいった。

 

今のはいったい…!? まるでかっちゃんの爆速ターボみたいに背中から出た爆破で加速したぞ!?

 

途端に熱くなる胸の奥。そして頭の中にあの世界で聞いた初代の言葉が浮かんできた。

 

『――ワン・フォー・オールは違う。透明なんだ。何にも染まらず、なにとも反発しない。チカラの塊としてあるだけなんだ―――』

 

あのときの初代の言葉…!ワン・フォー・オールは純粋なチカラの塊だから、他の個性と反発せずに一時的に取り込めたのか?それに混ざりあってから増強して出て来たってのか! 理屈はわからないけど、今はこの技を使わない手はない!!

 

「なんだ今のはァ!?ふざけるな!とるにとらない雑魚が!至ってもいない凡人風情が!俺の邪魔をするんじゃねええぇぇぇ!!!」

素早く舞い戻ってきた死柄木は怒りを露にして大声で喚き叫んだ。そして、無数の大小入り乱れた光球を出現させていく。それは遊びを無くした死柄木の、間違いなくこれまでで最大級の攻撃だった。

 

「轟君!君のチカラを!!」

「…任せろ! 受けとれぇ!緑谷―――!!」

僕は大きく両腕を伸ばして掌を背後にいる轟君へと叫ぶ。強大な冷気と熱気が背後から迫り、チカラを籠めた両腕に直撃し、そのチカラを呑み込んでいった。轟君がエンデヴァーとお母さんから受け継ぎ身に付けたチカラが、僕の両の腕に蓄えられ僕のチカラと混ざりゆく。

 

「消えろ!消えろ消えろ消えろぉぉおおおお!!」

怒りと憎しみの籠った叫びと共に死柄木は、天を覆うかの如く出現させてた光球を一斉に僕らに向かって放った。僕はそれに立ち向かうため、両腕を後ろに大きく振りかぶり―――

 

VIRGINIA(ヴァージニア)!!――SMAASHHH!!!」

―――左右同時に振り抜いた。僕のチカラによって極限まで威力の増した炎と氷が、振り抜かれた腕の発した暴風に乗って射出される。炎の竜巻と氷の竜巻はうねりをあげて混じり合い、熱気と冷気とチカラが入り乱れてた嵐を生み出した。嵐は死柄木の光を悉く呑み込んでいき、その輝きを散らしていった。

 

混沌の光は全て消え去り、満天の星空が夜空に浮かぶ。その中心にはまだ死柄木がいた。僕は死柄木に向かって拳を振りかぶりながらチカラを全開で滾らせて跳躍していく。

 

「頂点に立つのは俺なんだァ――!!」

自らの攻撃を打ち消されても死柄木は未だに余力を残していたらしく、迫りくる僕を阻むように特大の光壁を張った。僕はその壁に向かって真っ直ぐに突撃し、拳を突き立てる。チカラとチカラが凌ぎを削り、バチバチと周囲に散っていく。壁は厚く固かった。突進の勢いに追加して、背からワン・フォー・オールを噴出させて加速する。壁に大きく亀裂が走る。だがそれでも貫くまでには至らなかった。

 

―――くっ!チカラが…足りない…!!

 

そう思ったとき、僕の背後からド派手な爆発音が聞こえて、背中に強烈な爆破が浴びせられる。僕のチカラがその爆破を受けて、余すことなく吸い込んでいく。つまりその爆破が個性によるものだということだ。言葉を交わすことなく、目線すら合わせずとも、最高のタイミングでチカラを貸してくれたのだ。

 

かっちゃん、君はやっぱり僕の最高の相棒だよ!!

 

KILAUEA(キラウェア)!!-SMAASH!!!」

背中に籠められた親友のチカラが僕のチカラと結合し、爆裂しながら噴出する。まるで火山の噴火のような勢いで、僕の拳は再び加速した。そして僕の拳は立ちはだかる壁を砕き貫き通す。それでも僕らの勢いは止まらず、死柄木に向かって突き進んでいき―――僕の拳が死柄木に届いた。

 

腕を交差して防御する死柄木に、真上から拳を振り下ろした。僕らの合わせたチカラがついに死柄木を地に堕す。

 

「「いっけえええええ―――!!」」

かっちゃんと轟君の声が僕の背中を押す。地に堕ち、僕を仰ぎ見る死柄木に向かって、拳を引き絞って突撃する。

 

「これで終わりだ!死柄木ぃぃい!!!」

全身から溢れてだすチカラが僕の身体を突き進める。僕の中の正義の意志が激しく燃え盛り、僕にチカラを与えてくれた。

 

 

――ありがとう、ワン・フォー・オール。

 

 

―――ありがとうごさいます、オールマイト。

 

 

――――さらば、僕らの宿敵、オール・フォー・ワン。

 

 

 

「――緑谷ァ!出久ゥウウウ―――!!!!」

死柄木は僕の名を叫びながら、最後まで抗うためチカラの壁で僕を阻もうとする。その光は今まで一番淡く、死柄木の振り絞った僅かなチカラだということが見てわかった。それでも僕は全身全霊、渾身のチカラを全身の筋肉から引き出し、真正面から打ち砕くための拳を放つ。

 

これが今の僕に撃てる最高最強の一撃。

 

 

ALL-OVER-THE-WORLD-SMAASHHHH !!!!

 

光の壁を突き破り、悪の化身“死柄木”の顔に拳が突き刺さる。

 

それは遥か昔から受け継がれてきた、揺るぎなき正義の信念の拳だった。

 

天から降り注ぐ雷の如く、緑の稲妻が地に落ちる。 稲妻の衝撃は大地を陥没させ、周囲に暴風を撒き散らした。そして静けさが辺りを包み込む。

 

 

「先…生……俺は―――…」

クレーターの底で死柄木は力無く倒れた。最後まで僕に向かって手を伸ばしながら。

 

熱くなった胸に掌をかざし、ゆっくりと目を瞑る。静けさの中に風を切る音が聴こえてくる。僕は自らの最後の仕事を思い出し、胸を張り、拳を再び握りしめる。

 

 

 

――僕は平和の象徴を継ぐものとして、力強く拳を掲げた。

 

 

 

――――()()が僕の…いや、僕らの――……

 

 

 

008.ピースサイン

 

 

最終章 ONE FOR All, All FOR ONE.

 




さらば掲げろピースサイン。転がってくストーリーを―――――


最終章はこれで終わりですが……もうちょっとだけ続くんじゃ。

次回、『エピローグ』。よろしくお願いします!

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