デクのヒーローアカデミア 再履修!【完結】   作:くろわっさん

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お待たせしました!エピローグです!

もうちょっとはそのままの意味で、もうちょっとなんですよ。ドラゴンボールとは違うのです。





エピローグ
平和の象徴の後継者


特異点を超えた死柄木と二つのワン・フォー・オールを携えた僕の最終決戦。自分でも驚くくらいの超常レベルの僕らの戦いは神野区をリングにした激戦だった。

圧倒的なパワーとセンスの死柄木に僕は追い詰められたが、かっちゃんと轟君、そして歴代のワン・フォー・オールのチカラを借りて僕は死柄木を打ち倒し、拳を掲げた。

 

 

 

 

「デク!!」「緑谷!!」

息を切らせながらかっちゃんと轟君がクレーターの崖をかけ下り、僕の元へと駆けつける。

 

二人ともあんなに慌てて…心配してきてくれたのか?これは嬉しい。

 

「奴はどうなった!?勝ったか!?」

「えーっと…気絶してる。あと、ありがとう。二人のおかげで勝てたよ」

「そうだろ?何せ俺はお前の相棒だからな!」

「緑谷の救けに成れたなら、それで俺はいい…」

「んだと半分野郎!喧嘩売ってんのか!?」

かと思いきや早くもいつもの口喧嘩を始めてしまった。周囲は廃墟と化した街だが、なんだか日常が帰ってきたって気がするな。

 

「おいデク!なに笑ってやがんだ!!」

「なにか面白い要素でもあったか…?まあ緑谷が笑顔なら俺は――」

「またそれか!しつけえんだよ、この緑谷至上主義が!!」

「いや、お前にだけは言われたくない…」

「ハハハ……まあ気にしないでよ。さて、死柄木を警察に引き渡さなきゃいけないんだけど…誰か見かけた?」

廃墟に穿(うが)かれた穴の底でかっちゃんと顔を見合わせた。そして互いに苦笑いするしかなかった。

 

こんな状況で、こんなことになるなんて予想してなかったな。いるのか…警察? というか先に死柄木と戦ってたって他のヒーローやオールマイトは大丈夫なんだろうか。起きてすぐ優さんから離れて戦ってたからその辺りの事情がさっぱりわからない…誰も見当たらなかったし……まさか皆、死柄木にやられて―――

 

「デクくーん!」

――などと考えていると、僕らのいるクレーターの上から女性の声が聞こえてきた。幾度となく聞いてきたこの声…聞き間違える筈がない。優さんの声だ。

 

その姿を確認しようと顔をあげて返事をしようとした時には、優さんは既にクレーターを駆け下り、僕に向かって飛び込んできていた。慌てて飛び込んできた優さんを両腕で抱き止める。すると優さんは僕の胸に顔を埋める形で、背中に手を回し力強く抱き締めてきた。

 

暫しそのまま沈黙していると、優さんは胸から顔を離して僕の顔を見上げる。相も変わらず綺麗な切れ長の目。だがその瞳は赤く潤んで、目尻には光るものが浮かぶ。

 

「バカ!心配させないでよ!」

「ア、ハイ!スミマセン!」

突然の叱咤に反射的に片言で返事をして背筋を伸ばしてしまう。いきなり怒られたが、優さんの腕はほどかれることなく、僕の胴体を拘束している。

 

「ホントに心配したんだから!」

「すみません!」

「いきなり訳もわからずやられちゃって倒れるし!」

「す、すみません…!」

「全然目を覚まさないし!かと思いきやいきなり起き上がって颯爽と救けてくれるし!」

「すみませ…え?あ、どういたしまして」

お礼を言われたので返事をすると、調子に乗らない!っと鳩尾に素早く頭突きをされ、「ヴッ…!」という声が漏れてしまう。尚も僕の身体は解放されていない。

 

「護ってくれたと思ったらすぐに死柄木といなくなっちゃうし!それからドカンドカンと戦ってる音しか聞こえないし!めちゃくちゃ心配してたのよ!!」

「…すみません、たくさん心配かけちゃって……」

「…バカ」

それだけいうと、優さんは僕の胸に再び顔を埋める。無言だったが、その中で鼻をすする音だけが聞こえた。暫くしてから僕は「優さん」と名前を呼び短く声をかける。すると優さんは涙目のしかめっ面で僕の顔を見上げた。

 

「…何よ」

「本当に心配かけてごめんなさい。それと……ありがとうございます、心配してくれて。待っていてくれて。おかげで帰ってこれました。僕が来たってね」

素直な気持ちを優さんへと真っ直ぐぶつけて、僕は笑顔で語りかけた。

 

「プッ…なによそれ。はぁ、全くデクくんは仕方ないわね。無事に帰ってきたし、今回は許してあげるわ。おかえりなさい、デクくん」

「はい、ただいま。優さん」

少しだけ吹き出すように笑うと、その後優しい笑みで僕の帰りを喜んでくれた。僕もまた優さんの元へと帰れた喜びを笑みに乗せて互いに笑い合う。僕は本当の意味で戦いから帰って来たと思えた―――

 

 

 

 

 

 

 

―――ってあれ?もう解放される流れだよね?なんで優さんは未だに僕の身体を離してくれないんだ!?「んーっ」とか言ってまた顔を擦り付けてくるし!なんだこの状態!? いっいけない!冷静になったら滅茶苦茶恥ずかしくなってきた!

 

僕至上最短距離に優さんがいる。

 

物理的な距離はゼロ!髪の毛一本入る隙もなぁい!わぁい!……ん?前にも抱き締められたことが在ったようななかったような…記憶が曖昧だからノーカンだ!とにかくこの距離はマズイ!近すぎるってもんじゃあない。

 

戦いの後で泥くさい筈なのに優さんからはなんかめっちゃ良い香りが漂って僕の鼻孔を擽る。

 

んんっ!頭がくらくらしてきた。それに色んなところが密着しているじゃないか!あんなトコとか、こんなトコとか…ってなに考えてんだ僕!考えるな感じろ! いや、感じるのはもっとマズイ!感触が、柔らかさと暖かさが感じ取れてしまう!!ダメだ!なにも考えず、なにも感じるな。そう、無に成るのだ緑谷出久よ。お前なら出来る…!!!

 

「でもあの化け物に勝つなんて…さっすが私のデクくん!」

優さんはそう言いながら、よりいっそう強く、そしてよりいっそう深く僕の身体を抱き締める。先程よりも全てが近付き、全ての感覚が強まった―――

 

 

 

 

―――武山優。またの名をMt.レディ。現在人気急上昇中の若手ヒーローである。23歳という若さで事務所を立ち上げ、鮮烈なデビューを飾りプロヒーロー業界に名乗りを上げた。彼女の最大の武器は「巨大化」による強力な攻撃。しかし彼女の人気の秘訣はその強さだけではない。誰しもを惹き付ける美貌。痩身で在りながらも高身長、故に生み出される圧倒的なスタイル。そして、何より、そのバストは―――豊満であった。

 

 

 

「いつてめえのになったんだよクソババア……いつまでそうしてるつもりだ!さっさとデクから離れやがれ!」

「誰がババアよ!空気読みなさいよクソガキ!!」

「最大限に読んだ結果だろうがっ!てか惚けてねえで動けデク!!」

かっちゃんの張り手が僕の背中を叩き、軽い衝撃が突き抜ける。

 

――っは!?変な世界にトリップしてた!!救けてくれたのか、かっちゃん!君はやっぱり僕の最高の相棒だよ!!

 

「ゆ、優さん。とにかく今は死柄木をどうにかしましょう…」

ゆっくりと優さんを身体から引き剥がす。僕の意識とは相反して身体は名残惜しそうにしていたが、理性で無理やりひきがす。

 

「むぅ…まあそうね。じゃあ―――後で…ね?」

「――ッツ!」

優さんは上目遣いで僕の眼を見つめながら、そっと人差し指を僕の胸に当て、妖艶な微笑みを見せた。その仕草にドキリと胸がときめく。きっと僕の顔は耳の先まで真っ赤になっていることだろう。

 

「後にしろっ!」

「あいた!」

硬直していたところにかっちゃんが尻を蹴りあげてくる。おかげで僕はようやく動き出せた。やいのやいのと言い合うかっちゃんと優さんを尻目に、僕は倒れた死柄木の元へ向かい、ぐったりとして動かないその身体を担ぎ上げる。そこへおずおずと轟君がやってきて、なにか言いたげな目でこちらを見ていた。

 

「何かな?」

「緑谷…俺も。俺も後で抱き締めていいか…?」

「……えっ?」

轟君の真剣な顔から訳のわからないふざけた言葉が発せられる。意味がわからず、間抜けな声を出してしまった。きっと顔もひきつっていることだろう。

 

どういうことだ…!?いつ?どこで?だれが?なにを?なぜ?どのようにして?5W1H全てがわからない!

 

「あー…その……冗談だ…」

「ああ、冗談ね!ハハハ!!相変わらず轟君の冗談は分かりづらいなぁ!ハハハ…………うん。いこうか」

「ああ……」

僕と轟君の間に微妙な空気が流れる。かっちゃんと優さんの喧騒をBGMに無言で二人してクレーターをゆっくりと登った。そんな一幕もありながら、崖を登り終える。

 

そこには僕が待ち望んだ人がいた。会って話がしたかった人がいた。

 

「オ、オールマイ―「焦凍ォォオオオ!!!」――トォガハァ!」

「緑谷ーーー!?」

ミリオ先輩に肩を借りて立つトゥルーフォームのオールマイトの姿を見つけた。と思った瞬間、猛烈な勢いで駆けてきたエンデヴァーに僕は吹き飛ばされて宙を舞う。ついでに担いでいた死柄木も意識もないのに宙を舞う。

 

「痛た……」

「大丈夫か緑谷!」

「うん、大丈夫だよ。轟君」

「そうか……このくそ親父…!今日という今日は許さねえ!」

「感動の再会だぞ焦凍!さあ父の胸に飛び込んで―――グフ ォ!??」

「これがお母さんの右の力だ…!」

僕を軽く気遣ったあと轟君は素早く移動した。両手を広げて迎え入れるエンデヴァーのがら空きの鳩尾に轟君の渾身の右ストレートが炸裂する。エンデヴァーは膝から崩れ落ち、息がうまくできないのか「コヒュー…コヒュー…」と呻き声をあげていた。 そんな轟親子の仲睦まじい?交流を横目で眺め、僕は改めてオールマイトの方へと向かう。

 

「オールマイト…ありがとうございました!」

「それはこっちの台詞さ。ありがとう緑谷少年。我々の使命を果たしてくれて。そしてヒーローになってくれてね」

「全部、全部オールマイトのおかげです!僕のチカラに全部を与えてくれた。託してくれた。だからこれは僕らで果たしたんです!」

オールマイトは細い腕を振り上げてサムズアップする。僕もそれに合わせて親指を立てて笑顔で返した。

 

「緑谷少年…!」

「オールマイト…!!」

「あの、止めなくて良いんですか、アレ」

「いいよ、ほとんどエンデヴァーの自業自得さ。好きにさせてあげよう」

互いに見つめ合う僕とオールマイト。そして話し掛けてきたミリオ先輩が指差すアレとは、「これは姉さんの分!これは兄貴の分!」みたいなことを言いながらエンデヴァーの頬を往復で張り倒す轟君のことだ。エンデヴァーは頬を真っ赤に腫らしながらも、どこか満足げなのでほっといてもいいだろう。

 

 

「さて、そろそろ警察も事態の収拾に駆けつけるだろう。死柄木を引き渡して終わりにしよう」

「ええ、オールマイト!」

「で、緑谷少年。死柄木はどこに…?」

「……あ…」

オールマイトの質問に僕は答えられない。そう、さっきエンデヴァーに吹き飛ばされたとき、どこかに落としてしまったのだ。

 

慌てて先程吹き飛ばされた辺りに眼を向ける。そこには抱えあげられた死柄木の姿があった。

 

その光景に緩んでいた空気が引き締まる。その抱えていた人物に僕らの視線が集まり、一気に緊張感が高まっていく。

 

何時の間に?どうして?といった疑問は尽きないが、ソイツはそこに立っていた。

 

「弔をお探しかな…?」

「オール・フォー・ワン…」

「弔はまた負けてしまったね。最後まで君の後継者には勝てなかった」

両腕で死柄木を抱えながら、オール・フォー・ワンはどこか哀愁の漂わせている。顔をオールマイトと合わせながら、しっかりと有りもしない眼でオールマイトの眼を見据えていた。その間に僕たちはゆっくりとオール・フォー・ワンの取り囲むように立ち回りながらその様子を眺めていた。

 

「私達の勝ち……いや、もう勝ち負けではないのだろう。だから終わりにしよう。オール・フォー・ワン…全て終わらせる時が来たんだ」

「終わり…か。あの時終わらせることが出来なかった僕らが、終わらせられるとでも?」

「もう十分足掻き、踠いただろう。お互いにな。私達が終わらせなければ。これからの世界に私達の席はいらない」

「そうか…それが君の考えなんだな、オールマイト。よくわかったよ……」

ミリオ先輩から離れ、ひとりで向き合うオールマイトは落ち着いた口調で話す。オール・フォー・ワンはぐったりと項垂れて、呟くように答えた。

 

「…僕は気がついたんだよ、オールマイト。やっぱり―――全部僕がやらなきゃダメだってことにさぁ…!」

オール・フォー・ワンは俯いた顔を上げ、醜悪な笑顔を浮かべる。その嗤いには強烈な悪意がこれでもかというくらい詰め込まれていた。

 

「NOOOO!!――」

「―――《オール・フォー・ワン(全ては僕の為に)》」

思惑に気がついたオールマイトが手を伸ばし近づくが、オール・フォー・ワンは既に無数の黒い枝のような指先を、死柄木の身体に突き刺していた。そして死柄木の個性を奪い取っていく。あの特異点を越えた混沌の個性を……

 

僕がマズイと思った時にはオール・フォー・ワンは個性を取り込んでいた。

 

「……う…ぐ、ぐおおおおお―――――!!!」

死柄木から吸い上げた個性がオール・フォー・ワンの身体を駆け巡る。オール・フォー・ワンは苦しそうに叫ぶ。その身体は心音のような鼓動と共に異形の形に変化していき、鼓動が揺れる度に衝撃波が辺りに撒き散らされる。そのため誰もオール・フォー・ワンに近寄ることが出来なかった。

 

これは…!?あの個性がオール・フォー・ワンの中で暴走している!?

 

「…オ゛オ゛オ!!――オ゛ールマ゛イト゛ォォオ゛オ゛オ――――!!!」

地を這いつくばりながら雄叫びを上げ、オール・フォー・ワンの身体が異形の化け物へと変化していく。

 

異様に硬化した漆黒の皮膚。その皮膚を引き裂きながら肥大化した筋繊維が隙間から赤黒く見える。歯牙は大きく、まるで(けだもの)のよう鋭い。人としての二足歩行を捨て、四足で地に立つ姿は正しく獣だ。失われていた顔が折り重なる皺により、まるで鬼のような形相を浮かべる。脳ミソが剥き出しの頭蓋……幾度となく相手にしてきた脳無に似た化け物が生まれた。

 

―――“個性”を奪い、時に与え、超人社会の闇の支配した人間は、皮肉にも“個性”に呑み込まれ、醜い化け物へと成り果てた。

 

まるで脳無の親玉だ。これがあのオール・フォー・ワンなのか…?

 

「■■■■■■■―――!!!!」

オール・フォー・ワンだった化け物は言葉にならない叫び声を上げる。僕はその様を冷めた目で見つめていた。

 

「オールマイト……あれにはもう…」

「あぁ、何の理性も知性も感じられない。奴は個性に呑まれて人であることを辞めてしまった……」

「ええ…僕らで終わらせましょう」

僕とオールマイトは寂しさすら感じた。あのオール・フォー・ワンがこのようなことになり、終わっていってしまうとは思わなかった。

 

僕は一言「手を出してください」とオールマイトに告げる。オールマイトは怪訝な顔でゆっくりと差し出した手を力強く握る。そして僕は―――チカラを譲渡した。

 

「こ、これは!?」

「このチカラはお返しします。まだその時じゃない……と思ったので」

驚くオールマイトに、僕は微笑みながらオールマイトから貰ったチカラをそのまま受け渡す。オールマイトの身体が骸骨のような痩せ細ったものから、筋骨隆々で大木のような太さへと変化していく。返されたチカラによってオールマイトは再びマッスルフォームへと変身したのだ。

 

僕とオールマイト―――二つの筋肉が、今再び並び立つ。受け継がれた正義を乗せて、僕らの筋肉が躍動する。

 

「さあ、いきましょう!僕らが!この筋肉が!!」

「ああ!我々の筋肉で全てにケリをつけよう!いくぞ少年!」

「はい!オールマイト!!」

 

雄叫びを上げる化け物へと向かって、二人の筋肉がチカラを迸らせながら突撃していく。同時に拳を大きく引き、勢いを増しながら距離を詰めていく。

 

 

 

―――二人の筋肉。

 

 

―――幾つもの正義。

 

 

―――全てが籠められた二つの拳が振り抜かれた。

 

 

 

 

「「―――W-UNITED-STATES-OF-SMAASH《ダブル・ユナイテッドステイツオブ・スマッシュ》――――― !!!!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後の世に神野区の()()と呼ばれる事件は幕を下ろした。

 

事件の元凶となったヴィラン連合の面々は全員が個性を失い、無個性となり逮捕された。そしてすべての黒幕であったオール・フォー・ワンは暴走した個性の反動で、意識の戻らない植物状態となり、現在も医療刑務所に収監されている。

 

神野区が半壊し重軽傷者多数。復興の目処も立たない程の大事件だったが、警察ならびにヒーロー達の懸命な活動により死者はゼロ名だった。これは神野区の()()と呼ばれ、悪夢とともに語り継がれている。

 

この事件を機にナンバーワンヒーロー“オールマイト”は、おおよそ二年間を目処に引退を示唆。その弱体化と相まって世間を騒がせた。

 

 

それからの僕の日常はあっという間に過ぎ去っていった。

 

学生的でヒーロー的な授業に課外活動。騒ぎ走り回った文化祭に、再びの体育祭。休み時間や放課後の何でもないような交流。大波乱の修学旅行。

 

様々な思い出を仲間達と積み重ね、忙しくも色濃く輝かしい高校生活を送っていった―――。

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

そして訪れる別れの季節。雄英高校卒業の時―――――…

 

 

「―――それで、話って何かな……麗日さん?」

 

桜舞う学舎の影。僕と麗日さんの二人きり。彼女はゆっくりと、だが手短に僕らの思い出を振り返って語る。そして核心へと至ってゆく―――

 

「―――デクさん!…私、ずっとデクさんのことが――――」

 

「麗日さん……僕は―――――…」

 

吹き抜ける風と共に僕は答えた。木漏れ日に照らされながら、麗日さんは頬を濡らしながら太陽のような笑顔を見せた―――――……

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

あの事件から随分と月日は流れ、今日はオールマイトの現役引退の日だ。僕は今日という日を忘れることはないだろう。

 

 

「―――私、オールマイトは本日を持ちまして…プロヒーロー活動の第一線から退きます。事実上の現役引退……とでも言いましょうか…」

様々なメディアの記者で溢れる超満員会見場。ホールを貸し切り行われたのはオールマイトの引退会見だ。カメラのフラッシュに照らされる壇上で、オールマイトは言葉に詰まり苦笑いを見せる。

 

「この業界から去るわけではないのですが……ハハハ、言葉を選んでしまう。とにかく、今日という日をひとつの区切りとさせていただきます。この場を借りて、一先ずはこれまで私を支えてくれた全ての人々に感謝を―――ありがとうございました…!」

大きなお礼の言葉と共に頭を下げるオールマイトに、万雷の拍手が送られ、眩い程のフラッシュが一斉に浴びせられる。

 

オールマイトは頭を下げ続ける。トップヒーローとして幾年も駆け抜けてきた日々を支え続けてくれた人々へ。オールマイトを認めてくれた、ヒーローにしてくれた人々へ。幾重にも積み重ねた感謝を表すように、頭を下げ続けた。

 

そしてオールマイトはゆっくりと頭を上げ、いつもの最高のヒーローの笑顔を見せた。

 

「HAHAHA!!堅苦しいのはこれくらいにしておこうか!!さあ!皆様お待たせ致しました!!サプライズの時間だぁ!……っと言っても皆、今日は私の引退会見だけじゃあないって薄々勘づいてたんじゃないのかい?」

空気が一転し、オールマイトはアメリカンなトークをスタートする。記者達からもおおっという声が上がり、会見場がざわつき始めた。

 

「なんと本日!私の後を継ぐ新たなヒーローがデビューするのさ!!では登場してもらおう!―――come-on!オールライトォ!!」

オールマイトが大袈裟に手振りをし、直後会見場が暗転する。

 

よっ…呼ばれた…!行かなくちゃ。うぅ…緊張する。だがここで引いてちゃ始まんないな!よし、いくぞ!!

 

「Are you alright? もう大丈夫!何故かって?―――」

引き上げられた緞帳のさらに上、照明やらの近くのキャットウォークに待機していた僕は、名乗りを上げながら飛び降りて膝と拳を着きながら着地する。所謂“スーパーヒーロー着地”だ。

 

「―――僕がきちゃ!…………来た。です…」

 

僕は大事な決め台詞で噛んだ。

 

余談だが、顔を上げながら「僕が来た!」っていうところが決め所である。

 

会場には疎らな拍手と失笑が広がる。ウケもスベりもしなかったという最悪のパターンだった。僕は相も変わらずユーモアのセンスがなかった。

 

やっ、やってしまったぁ!緊張しすぎて口がカラカラだったからか!?くそっ!本番前に水を飲んでおけば…!それか大人しくサイドバイセップスかフロントマスキュラーのポージングを決めとくべきだったか!筋肉は裏切らない……って今は後悔してる場合じゃない!

 

「HAHAHA!登場から噛むとは飛ばしてるじゃあないか!というわけで改めて紹介しよう。我が弟子、オールライトだ!」

冷めきった空気を盛り上げるため、オールマイトがずいっと身を乗り出して僕を指した。またしても救けられてしまった…!でもありがとうございます、僕のヒーロー!!

 

「ええっと…紹介に上がりました、オールライトです。本日よりプロヒーローとしてデビューと相成りました。これからよろしくお願いします」

僕は無難で簡単な挨拶をして頭を下げる。先程はいろいろやろうとして失敗したのだ。これくらいシンプルなほうがいいだろう。

 

だが会場のざわつきは収まらない。それどころかよりいっそうざわめきが大きくなりつつあった。

 

「えっ…終わりですか?」

「なにかもっと…!一言ください!」

「というか、緑谷出久君ですよね!雄英高校体育祭三年連続優勝の!!」

「緑谷クン、コメントを!これじゃあ帰れんよ!」

記者の中からあれやこれやと僕への質問やヤジが飛び交い始めた。ヤバイ!なにか答えないと収まりそうもないぞ…!

 

「緑谷ではなく、オールライトです!はじめまして!!」

「いや緑谷君だよね!?」

「今日からはオールライトでお願いします!」

「ではオールライトさん、先程の挨拶の意味は?ご説明お願いします」

「それ本人に真っ向から聞きますか!?名前のオールライトと大丈夫をかけて、オールマイト風に登場したかったんです!言わせないでくださいよ、恥ずかしい…!」

「何かアピールポイントはありますか?」

「この鍛え上げた筋肉です!」

「趣味は?」

「筋トレとオールマイトです!」

「オールライトさん―――…」

 

僕が質問に答え始めたことを皮切りに、会見場は僕への特設質問コーナーへと変貌をした。僕は迫り来る質問の波を千切っては投げ、精一杯捌いていった。答えちゃダメなこと以外は大体答えてしまい、なかなか恥ずかしい思いをすることもあったがそれでも僕は答え続けたのだ。

 

30分程僕への質問は途切れることなく続き、最終的には大喜利のようになっていたが、僕は気合いと筋肉で乗り切った。

 

「―――筋肉です…!!」

 

そしてついに記者達の質問が尽き、僕の声だけが会見場に響いた。

 

やりきった…!僕は答えきりましたよ。そんな顔でこっちを見ないでくださいよ、オールマイト。僕だって必死だったんです……

 

 

でもまだ終わりではなかった。中年くらいのひとりの記者が挙手をし、質問を投げ掛けてきたからだ。

 

「オールライトさん。平和の象徴と謳われていたオールマイトの後を継ぐということですが……貴方にそれが果たせますか?成れるんですか、平和の象徴に。この国の希望に」

 

空気が一転し、あれほどざわついていた会場がシーンと静まり返った。僕も問いかけに対し言葉に詰まり、それまでのような即答は出来なかった。

 

それでも答えるべきことはある。伝えなくてはならないことがある。僕の想いを言葉にする必要があるんだ。

 

僕は一度深呼吸をしたのちに前を向き、その記者を…会場全体を見据えて答え始めた。

 

「オールマイトは偉大なヒーローです。この場では語り尽くせない程の功績と信頼を積み重ね、この国の平和に誰よりも貢献してきました。それは皆様ご存知でしょう。そんなヒーローの後を僕のような“ぽっと出の若者が継げるのか?”そう思うことでしょう。それは一切否定しません……今の僕にオールマイトの後を継ぐなんて大それたことは言えません」

僕の弱気にも聞こえる宣言に会場からは落胆のざわめきが聞こえてくる。そんな中、僕は言葉を続けた。

 

「僕一人では出来ません。だからこそ皆の力が必要なんです。オールマイトが作り上げたこの平和を僕たちが継ぐんです! 僕はオールマイトからたくさんの勇気と元気をもらいました。オールマイトは僕にたくさんの正義を見せてくれました。みんなもオールマイトから貰ってきたんじゃないですか?見てきたんじゃないですか?…なら今度は僕らの番なんじゃないですか!?」

次第に言葉に熱が籠っていき、僕は立ち上がりながらさらに話を続ける。

 

「出来ることがあるじゃないですか。小さなことでもいい…困っている人がいたら笑って話しかけるような……そんなことが出来たら、それでいい。決してみんながみんな強くある必要なんてない。戦いだけが平和を守る手段じゃない。

戦う必要があるなら、僕達ヒーローが戦います! 僕がオールマイトの後を継ぐならば、誰よりもその先陣を切り戦って護ります。 着いてきてください。オールマイトがくれた平和の道を共に歩み、これからも残していきましょう!だから―――」

僕は声を大にして叫ぶように語り続ける。

 

そして目の前を大きく指さした。

 

 

「――そこにいる貴方が!」

 

 

「――画面の向こうのキミが!」

 

 

「―――平和を愛する全ての人がオールマイトの…!平和の象徴の後継者ですっ!!」

 

 

 

 

 

―――僕は今日という日を忘れることはないだろう。

 

 

――――この日、僕は……()()は平和の象徴の後継者に成ったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

第二部 《 平和の象徴の後継者 》

 

 

 




きっと誰もが、誰かの“ヒーロー”―――――


詰め込みまくってみました!カオスwwwってなってくれたら嬉しいです。

UA60万突破!皆様お読みいただき、ありがとうございます!


次回、最終回。更新はこの後すぐ…!23時です!最後までよろしくお願いします!!

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