短いですが、お暇なときにでもどうぞ。
森久保乃々は自分を変えたかった。
森久保乃々はアイドルである。
なりたくてアイドルになったわけではないし、自分に自信を持つことができず引っ込み思案でおしゃべりも苦手な自分はアイドルに向いていないと常々思っている。親戚の叔父さんに頼まれて代役として出演して以降、プロデューサーに引っ張られる形でアイドルを続けているのが現状である。
すぐ「無理」といって逃げだそうとしてしまう自分をアイドルとしてまっとうに活動できるように手配してくれるプロデューサーには迷惑をかけっぱなしだと感じている。
そんな乃々だが、最近はユニットでのライブや楽曲作りやイベントなどもあり、アイドル活動も少しだけ楽しく感じられるようになってきた。
だからこそ、普段お世話になっているプロデューサーの負担を少しでも減らせるよう前向きになりたいと思ったのである。
さて、自分を変えたいと思ったはいいが、何をすればよいのだろうか。
当然、いきなり性格を変えることは不可能である。とはいえ、机の下メイトであり仲が良い星輝子のように見た目から変えることも難しい。
確かに輝子は普段はおとなしめな雰囲気だがライブ時などはメタルファッションに身を包み、その性格すら変わってしまっている。
乃々も同じように見た目から変えることも不可能ではないと思えるかもしれない。しかし、そんなことをすればプロデューサーを心配させることが目に見えている。プロデューサーの負担を少しでも減らすために自分を変えたいのだから、それでは本末転倒である。
それに輝子の場合、普段はおとなしくても実際はメタルな内面を抱えており、普段の生活でたまった感情をメタルファッションに身を包むことで一気に爆発させているらしい。自分にはそういったメタルな内面はないのだから、輝子のマネはしたくてもできそうにない。
そんなことを考えていて、ふと思いついたことがあった。
それは
自分でもどうしてそんなことを思いついてしまったのか分からない。冷静に考えれば、その行為と前向きになるということに何の関連もないことは分かるはずである。しかし、自分が変わるきっかけになるのではないかと思ってしまったのだ。
だから、乃々はその日ノーパンになることにしたのである。
ノーパンになることにした乃々であるが、現在の居場所はプロデューサーの机の下である。
幸いといって良いのか机の下メイトである輝子や佐久間まゆは不在にしており、プロデューサーもいない。というより現在プロデューサーの机周辺には乃々しかいない。そもそも机の下ということもあり、例え周りに人がいたとしても誰からも見られる心配はない。
つまり、今ここでパンツを脱いでノーパンになることが可能な状態といえる。
とはいえ、更衣室でもないこんな場所でパンツを脱いでしまっても良いのだろうか、という当然の疑問が一瞬頭をよぎった。
しかし、乃々は自分のネガティブな性格を熟知していた。もしここでやらなかった場合、あらためてノーパンになろうとしても二度とできないだろうことは想像に難くない。やるなら今この場でやる必要があると思ってしまった。
さらに、本日は比較的長めのスカートをはいている。この格好でこれまでにパンツを見られた経験もないので、パンツをはいていなかったとしても中を見られる心配も少ないだろう。
そんな状況だからだろう。乃々の思考は「ノーパンになるのは今しかない」と思い込んでしまったのだ。
乃々とて現役のアイドルである。いざというときの行動力はもちろんある。やると決めたからには一気にやるだけの行動力はあるのだ。そして、アイドルとしてノーパンはダメだというツッコむ人もいないという状態で乃々の思考は極論に走ってまったのである。
その決意のまま、顔を真っ赤に染めて目をグルグルにしながらスカートの中に手を入れはいているパンツを一気に脱ぎ去ってしまったのである。
「うぅ……。スースーします……」
パンツを脱いだことで直接感じる空気に、妙な開放感を感じた瞬間だった。
「お疲れ」
「ひぅっ……!」
プロデューサーが事務所に帰ってきてしまった。
思わず変な声を上げ、脱いだばかりのパンツをプロデューサーの机の引き出しに隠してしまった乃々にプロデューサーが声をかけた。
「おう。今日は森久保だけか。ん? どうした? いつもより顔が赤いぞ?」
「ひあっ! い、いえ……なんでもないです」
プロデューサーにいきなり声をかけられびっくりした乃々だが、とっさに何でもないと返答することはできた。乃々の性格を考えれば、ノーパンという状態でこう返すことができただけでも上等だといえるだろう。
とはいえ、パンツを机の引き出しに隠してしまったこともあり、もはや今からパンツをはき直すことは不可能な状態である。さらにいえば、今は部屋にプロデューサーがいるのだからその目の前でパンツをはくなんて乃々にはできないのは自明の理だろう。
「そうか? まぁもし体調が悪いのなら無理はするなよ。森久保は大切なアイドルなんだから」
「む、無理をするなって、いつも無理なことばっかりいってくるのに……」
「はっはっはっ! それはおまえが無理じゃないことも無理とかいって嫌がるからだ。森久保は自慢のできるアイドルだからな。本当に無理なことはさせてないぞ」
「き、急にそんなこというなんて、それこそむ~りぃ~」
そんな状態の乃々だが、プロデューサーとの会話を通じてある程度いつもの様子が戻ってきた。もっとも、予期せぬプロデューサーからのできるアイドルだという発言にノーパンであることとは別に顔が赤くなってしまうのも感じていた。
「それはそうと、今日は森久保の予定はなかったよな。一日中俺の机の下にいるつもりか?」
「と、特に何も決めていませんけど……」
プロデューサーの言うとおり、本日の乃々の予定はレッスンなども含めてなかった。そして、だからこそノーパンになろうと思えたともいえる。
ちなみに乃々の所属する346プロではプロダクション内にレッスンスタジオも構えていることもあり、プロデューサーによる指示以外にもアイドルが自主的にレッスンを受けることも可能である。予約は必要であるものの比較的自由にレッスンを受けることができるのだ。もっとも、直近にライブを控えているメンバーが優先して行うことになっていることもあり先日イベントを終えたばかりの乃々はレッスンを受けるつもりはなかった。
「特に予定がなく机の下にいるつもりなら別にオフにしても良かったんだが。よし。それなら俺の営業に付いてこい」
「……え? プロデューサーさんの営業に付いて行くんですか?」
プロデューサーにそう言われたものの、乃々としてはそれはハードルが高い。何せ今はノーパンなのだ。プロダクション内で過ごす程度であればまだ大丈夫かもしれないが、外出するとなると話が違う。
「こ、ここでプロデューサーさんの無事を祈ってますので、もりくぼには構わずに行ってください」
「何をいってるんだ。一日ここにいるのなら俺といても一緒だろう。ほら行くぞ」
「いや……、その……。このまま行くなんて……」
しかも状況が悪いことに、脱いだパンツは先ほど机の引き出しの中に隠してしまっている。せめてスカートのポケットにでも入れていれば途中のトイレなどでパンツをはくこともできるのに、このままではそれもできなくなってしまう。
しかしそんな乃々の思いに関係なく、プロデューサーは乃々の手をとりそのまま引っ張って連れ出してしまったのである。
なお出先ではどうにか無事に過ごせたものの最終的にプロデューサーにノーパンであることがバレてしまい、その後しばらく机の下から出てこなくなったのは余談である。
特に続きはありません。