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言うなればなんとなく、その表現が一番似合っていると思う。
睡眠の質に関して結構な自信を持っていたその当時夜中、または早朝に目が覚めることなどこのケースを除いて無いに等しい。
そのくらい記憶に残っているのか、この一回が例外だったのか今となっても覚えていることは確かなことだ。
寝室とリビングを分け隔てる襖の奥には犬のお巡りさんがいた、その横に骸骨のような男が座っていた、机には2つの高さ30cm程の包みが布に包まれて置かれている。
骸骨のような男…ひょろい風貌、白目の部分が見えなく黒く見えるのは、やせ衰えすぎて影になっているから…それと上から照らす光の影になっているからか。
それでも瞳だけは強い矜持で輝いていて、俺は積極的にその中を覗こうとはしなかった。
しかし
「…助けられなかった、そして隠すために、平和のために返すのが遅くなってしまった」
その声は、震えていて、目は強い矜持で輝いていたけれど、その人は唇を強く咬み、涙を流した瞳は鈍く光っていた。
俺には親がいない、いなくなったという表現の方が当てはまっている。
4年前、いや3年前のことだったのだろうか定かではないけれどいつの間にか姉さんと2人で一緒にいることがとても多くなっていた。
後にも先にも初めて姉さんが泣いているのを見た、人一倍負けず嫌いで正義感が強く、男勝りな人が。
口癖は、というより小さい頃俺がいわゆるガキ大将とやらに弄られて泣いていたときよく
「涙は嬉しいときに流しなさい、悔しかったり、痛かったり、悲しかったりしたときに出そうになる涙はみっともないから」
と言っていたほどの拘りを持っていたのにだ。
その当時この言葉を聞いた俺は確か幼いながらそれなりに理不尽は感じたはずだ、でもニッコリと笑う姉さんを見て、要するに笑えということだな、と勝手に自己解釈もしていたりした。
そんな姉さんが泣いていた、深々と頭を下げる2人は姉さんが泣き止むまで、決して頭を上げなかった
一通り泣き終えたあと、俺を寝ているかどうかを確認するといって姉さんは席を立つ、静かに急いで布団に戻り枕元にあるデジタル時計を見ると、AM4:49と表示されている、子供はもう寝ているはずの時間だ。
俺は急いで狸寝入りをしてその場をしのぐ
その後、3人が何やら話している様子は伺えるけど寝ている子供を気遣ってか、ボリュームが小さくて聞こえなかった。
最後に犬のお巡りさんとひょろい男が家を出ていくとき、姉さんの言葉が印象的だった。
「貴方のしたことは間違っていないけれど正しくもない、多分私がこの件に関わっていなくてその事実を知ったら貴方の言うことに全て賛同していたと思う。
けれど、私は、どんな理由があろうと、たった数人しか知らない世間を揺るがす事実と証拠を見せられても、これだけは譲れない。
ヒーローとしての貴方は許せても、私は貴方を、八木 俊典
最後の方は泣きながらやっとかっと絞り出したような声で、その後姉さんは泣き崩れる。
「…すまない」
ひょろい男、多分八木 俊典さんの声が静かに、哀しく、俺のところまで響いていた。
そんな姉さんが泣くほどの大事だったのに、直ぐに弟を気遣って声を押し殺す様は幼いながらに自分の無力さを突きつけられたような気がした。
先程もいった通り、4、3年前の話だ。
1
志望校…雄英高校
志望学科…ヒーロー科
理由…プライバシー保護のため省略
将来就きたい職業…プライバシー保護のため省略
多分そう書いたはずの俗に言う進路希望調査書、書いたのはいつだったか忘れていたけど入学してから今までずっとそうやって書いてきているから間違いは無い。
今は7時間目の総合的な学習の時間、生徒一人一人が先生と1対1で話し合うと言うなるべくやりたくないイベントを俺は渋々やっていた。
「…
「ははは、良かったな、その間違いにようやく気付けて」
トントンと進路希望調査書の1番上、志望校の場所をこれでもかと言うくらいに見せつけて先生は大きくため息を吐いた。
「お前は…紛れもない大馬鹿野郎だ」
「…はい?」
「確かにお前はバカではない、それは素行を俺の慈悲でひた隠しにした書類上の判断だが…かといって頭も飛び抜けていい訳じゃない、余計なお世話だが…個性的にも厳しいと思う、悪いことは言わない志望校、どうしてもここじゃないとダメか?」
「そりゃもちろん、最高峰なら一番厳しい道が用意されているだろ?」
「敬語」
「用意されておいででございますよね?」
「下手くそか、まぁいい、でこのプライバシー保護のため省略ってのは、何だ?」
「どうした?俺の頭つかんで、え、痛いちょっと個性使用禁止じゃ…痛い、いやマジ」
にこやかに口だけ微笑んで容赦なくアイアンクローを仕掛けてくこの男、通称
個性、筋肉。
脳みそから髪まで筋肉でできている主食がささみのヤバイやつ、昔はヒーローとして活動してたこともあるらしい。
「おい、今変なこと考えただろう?」
「まっさか~こんな状況で先生が密かに気にしているニックネーム、
いつも通り愛の鞭と自称するアイアンクローの衝撃に備えるのにも関わらず、不思議と痛みはやってこない。
そして独特なリズムのベルが鳴る、授業終了の合図でありパツキンとの面談の終わりを告げていた
「オールナイト、エンディバー、トップヒーローになるための登竜門雄英高校ヒーロー科、倍率は裕に300を越える選ばれし者が入れる…そんなところに入ろうとする大馬鹿者が俺の教え子にいるなんてな…って出ていくな話は終わってない」
「なんすか?」
席を立って入ってきたドアを開けようとしたときにパツキンが声をかけてきた、意味のない会話はあまり続けたくはないがディスってくるにしても真剣な感じなようなので一先ず立ち止まる。
「仮にも教師で元ヒーローだ、若者の夢を否定することはしないよ。…ひとつだけ聞いていいか?」
「どうぞ」
「何がお前をそこまでさせるんだ?どうしてそこまで揺るがないんだ?」
1つじゃなくてそれは2つだ…細かいことはさておいてそれは純粋な質問だったと思う。
俺がここまで雄英高校にこだわる理由、か
それは4年前位から変わらない
「未だ見ぬ憧れを、必死に追いかけている…そんな感じですね」
平和の裏に隠れている何かを知りたい、虎穴に入らずんばなんとやら、両親ともに雄英高校出身らしいし虎穴に入ってみようと。
それに、その裏に本当に知りたいことが在る気がするか
ら。
「でも結局、俺は自分が楽しみたいだけなのかも、自分が本当に知りたい事がどうしてもあるって言うだけで」
そうか、と短く言葉を区切り俺の退室を促すパツキン、これから忙しくなるなと小さく漏れた本音はどこか嬉しそうだった。
俺は楽して生きるより、楽しく生きたい、そこだけは絶対に譲れない
今はまだ憧れを追いかける俺の物語、オールマイト等といった名だたる英雄に憧れてそこを目指したわけじゃない、ただ漠然と何かに導かれるように迷うまでもなく選んだこの道に一切の疑問も抱かなかった。
子供が命を助けてもらった医者に憧れ志すように、勇気をもらったアスリートを目指すように、俺も姉さんの背中を必死に追いかけていたのかもしれない。
2
個性の話だ、俺の個性は回復…書類上の個性はという話ではだけど、体が疲れていても驚異のスピードで回復する。
正確には回復ではなくて超回復だと思うけれど本質はまだ今現状では把握できない。
体がとてつもなく疲れているとき8~12時間くらいの休息をとることによって休息の間に前の自分よりも強くなる、ただし、強くなるといってもそこまで強くなる訳じゃない、階段を飛ばすわけではなく一歩づつ確実に段階を踏む感じだ。
中学に入って約2年と3ヶ月程、トレーニングを必死にやってきてようやく、常人を超える力は身に付いた。
それでもあくまで常人をだ。
そこら辺の(言い方は失礼だけど)没個性の人達には勝てる気がする。
今や俺の貫手はブロック塀を貫き、蹴りは小さな街路樹程度であれば真っ二つにへし折れる程度には成長した。
けれども結局、世の中ゴロゴロ超人がいるなかで常人を超えただけでアドバンテージもくそもない、ただ同じ土俵に上がることをやっとかっと許されただけ。
超回復だけではないと思ったのには一つ理由がある、自分のエネルギー、生命エネルギーの流れがなんだか知らないけどわかる。
ちなみに他人の生命エネルギーの反応も僅かながらに…強者のみといったところだろうかだろうか、大きなものははっきりと認識することができた。
例えば、八木 俊典さん、あの人のは常人の何倍ものエネルギーを保有していたはずだ、ちなみに姉さんも八木 俊典さんほどではないが結構なものを持っていたな。
パツキンの言葉を反芻しながら教室までの帰路をたどっていた。
俺が教室に入ると直ぐにHRが始まる、運命の歯車は容赦なく俺の意思なんて無視して確実に、勝手に動き始めていた。
「おい、
「ん?」
帰ろうと机の中身に鞄の中身を詰め込んでいるとき、学級委員長が声をかけてきた。
その様子を見ると、若干怪訝そうな態度で、俺の耳に顔を近付けてくる
「お前…置き勉すんなよ。と言うか何であの娘と知り合いなの?」
いつになく真剣に俺を睨んでくる、この前こいつの彼女が作ってきた弁当を勝手に食べたとき以来だ。
なんのことか分からずにそいつが指を指している方向をたどる、教室の後ろのドアを指していた
「は?誰もいないけど…お前疲れているんじゃないか?少なくとも俺には何も見えん
ん、どうした委員長、そんなに鼻の下伸ばして?」
「お、お、お前後ろ見てみろよ!」
仕方なく、首を180度傾かせて後ろを見てみる。
茶色くて丸いものが、人が立っていた。
「ごめんね、山田君、折角頼んだのに…ちょっと待ちきれなくて」
いやいやいいっすよ、とデレデレで返答する委員長を他所にそいつがどんな奴か確認。
前髪の両端が長い茶髪のショートボブのような髪型、そして丸い愛嬌のある顔、う~ん見たことねぇ
「なぁ、委員長誰この人?俺面識とか全く無いんだけど、俺もしかして割りと有名人?」
「ああ、お前は有名人だ、悪い意味でな」
ほう、初耳だ、心当たりありまくりだけど。
「近くで見るとこんなに明るい色なんだ、あ、どうも初めまして、麗日 お茶子って言います、久し、はじめまして
「ん、宜しく、トーヤでいいよ、短いしそっちの方が気に入ってる、てか何で俺のこと知ってんだ?この学年400人くらいし、久しぶりって言われてもごめんな覚えていないんだ。俺等どっかであったことあるっけ?」
「やっぱり覚えていないか、そりゃもちろん知っているよ…だって有名人だもん、多分みんな知っているよ、ほらこの前だって」
この前…何をしたっけ?恋のキューピットごっこか?学校のラインカーで錬成陣を運動場に書いたことか?
心当たり有りすぎて分からない
「お弁当忘れて、1組から8組まで回ってお弁当作っていたし…それと、ほら学校にホットプレート持ってきて何人かと校庭で焼肉してたよね!それと…」
「…きりがないな、そんで麗日、用事ってなんなんだ?」
「ごめんね、トーヤ君の話思い出してたらすっかり忘れてとった!突然で悪いけど…一緒に帰らない?」
「「は?」」
気の会うことがなかった、例えるなら水と油の俺と委員長が初めてシンクロした瞬間だった。
「トーヤ君も雄英志望なんだよね」
「とりあえずはな、パツキンがいってたもう一人って麗日のことだったのか。まぁ麗日は大分余裕そうだし羨ましいよ」
「勉強の方はね、私も2組に1人いるって聞いて、まさかトーヤ君とは思いもよらなかったんやけど…」
「ま、普段の俺の素行を見たらこんな奴が雄英に行くとは思わないよな…なぁ麗日、聞きたいことがあるんだがいいか?」
「うん?なんでもいいよ」
「何でヒーローになりたいの?」
夏の終わりだと言うのに日差しが容赦なく俺たちを射抜いていた、蝉の大合唱の中、麗日は単刀直入に理由を告げた。
「金、ねぇ」
わからなくもない、別に悪いことではない、ヒーローと言う職業が人気なのは、名誉、金、社会的地位が全て手に入るからだろう。
ある程度大きい事務所に入れば収入は高水準で安定する、確かに人生を考えると妥当な判断だ。
「究極的に言えばなんだけど…」
俺たちは帰路につきながら話を始めた、意外にも、方向は同じだったようでいつも通る大きな一本道を俺たちは歩いていた。
日差しは午後4時を過ぎたのにも関わらず、寧ろ強まったように照りつけている。
麗日の頬は日差しのせいか、それともそれ以外か俺には計り知れないけれど赤く染まっていた。
「悪いことじゃないだろ、俺なんか楽しそうだから受験しようとした奴だぜ、第一そんなこと笑うやつなんていねぇよ。ま、意外ではあったけど」
「ウチ建設会社やってるんだけど…全っ然仕事なくってスカンピンなのこういうのあんま人に言わん方が良いんだけど…」
「確かに、名前聞いたことないもんな…」
俺は無神経に聞いてしまったことへの後悔で麗日は頬を膨らませ言うなれば「ブー垂れる」という表現が似合っていると思う。
気まずくなって少しの沈黙が流れる、正直この雰囲気苦手だ。
麗日は突然走り出して、何処かへ向かった、どうやら目的地には段ボール箱が置いてあるようだ。
猫だろうか、ニャーオと可愛く泣いたのが聞こえた。
「だから私は絶対にヒーローになってお金稼いで父ちゃん母ちゃんに楽させたげるんだ」
父さん、母さん、か。
俺ももしいたら麗日と同じようにきちんと親孝行出来ただろうか…はにかんだ笑顔がとても眩しかった。
やっぱり羨ましい、そう思った。
そして運命とやらは俺の都合や周りの状況なんて一切気にしないで突然やってくる、不意討ちのように俺が思考する時間も与えてくれないまま手加減なんてしようともしないで。
夕陽に照らされた麗日と愛らしい子猫にガードレールを簡単に突破しながら突っ込んでくるトラックが太陽に照らされて綺麗だなって趣を感じた。
突っ込んでくるトラックが、太陽に照らされて…
『麗日!危ない!!』
そう言ったつもりだったけれど、その声は届いてなんていなかった。
無情にもトラックは止まる気配を見せないでもうすぐそこまで迫っている。
その時、俺は、既に駆け出していた。
色々理屈はあった、自分は理屈で動く人間だと思っていた、俺はそういう人間であると勝手に思っていた。
けれど、そのときばかりは考えるより先に体が勝手に動いていた。
死ぬ、その局面に対面したときその時は気付かなかったが不思議な感覚に身を包み込まれた。
おいおい、どうしたんだよ一体…なんで飛び込んだ、なぜ勝手に動いた…クソッもうトラックが目の前じゃねえか…2tくらいの大きさはあるな、ヤバイ確実に死ぬ、でももう成るようにしかならない。
まだまだやりたいことたくさんあったのに、知らなければいけないことがあるのに、まだ道の途中なのに、楽しみたいことがたくさんあったのに…
それでも、麗日を助けたってことは、俺は心のそこで麗日を守りたかったってことなのかな。
どうせ死ぬなら…か。
命を賭けた賭けに出よう、死に際の集中力というのか考える体感時間は充分すぎるくらいの思考時間を与えてくれた。
エネルギーの流れがわかるなら操作もきっと出来るはずだ、全てのエネルギーを背中へ集めて…
足には確かに麗日を蹴飛ばした感触が残る、その罪悪感にも似た感触の余韻を味わう間もなく大きな衝撃が体を襲い、鈍い音をたてて、それと同時に意識が吹っ飛ぶ。
再び我に返ったのは、撥ね飛ばされたあとで、体は宙に舞っていた、全身が焼けるようだったけど痛みは不思議となかった、突き飛ばした麗日が俺を見て叫ぶ姿が視界の隅に入った。
安堵を感じたのと同時に緊張の糸が切れたのか、俺はそこで完全に意識を手放した。
3
「バカ、馬鹿、ばか、何で…」
誰かの声で目が覚めた、体は車に跳ねられボロボロなはずなのに体は別人のように軽く、今までと比べ物にならないくらいエネルギーが満ち溢れている。
視界を開けると見知らぬ天井…はなくて、真っ白な世界が広がっていた、周囲の状況を確認しようととりあえず体を起こす。
「え、え?えぇええええ!!?」
カチカチカチカチとボタンを押すような音が聞こえる、ナースコールのボタン?てかどんだけ押してるんだよ。
顔にかかっているのは何だろう、白い布か、道理で視界が真っ白だったわけだ。
接着力があるものが張られていたらしくてベリッと独特な感触を振り払って目を開けた、暫く焦点が合わなかったが段々と目の前にある情景が網膜に映し出された。
「…麗日、どうしたんだ?そんな酷い顔をして、泣くのか笑うのかどっちかにしろよ」
麗日の顔は目が腫れていて、呆気にとられているようで、笑顔が混じっていた…ような気がする、よく見ると大分やつれていて隈も凄かった。
少なくとも俺のボキャブラリーには存在しない表現のしようがない表情をしていたが
「…トーヤ、君?」
「おう、大丈夫か?」
今度はポロポロ涙を流す、麗日はコロコロ表情が変わる奴か、そんなことを考えていた。
「ごめんなさい…私がよそ見なんてしていたから」
「こっちこそごめんな、気付いていたのに先に知らせてやれなくて」
「嘘が下手やね、聞いていいかな?何で、私を助けてくれたの?命を賭してまで」
理由、色々理屈はあった、だけどその時は、ただただ体が勝手に動いただけ、そこに理由をつけるとするならば、か。
「やりたいことをやっただけだ、としか言えない」
何故なら俺の行動に理由なんてものはついていなかったからだ。
静かな沈黙のなかに、すすり泣く声が暫く。
ありがとう、ごめんなさいと繰り返し呟くように言う麗日を宥めてやることしかできなかった。
「燈夜!だいじょう…失礼しました」
「ちょっと!気不味い物見たみたいな反応やめて」
麗日はその後寝落ち、後で病院の先生の話によればここ2日病院にいたらしい、跳ねられたのが金曜日で今は日曜日、金曜の夜から今までずっと寝ていないそうだ。
それで爆睡、姉さんが気まずいものを見たと勘違いしたのは些か焦ったけど、無事に解決へ進みほっとしている。
その後無事に親が引き取りにき、姉さんが対応してくれたらしく、麗日は無事に家へ、俺と姉さんは麗日ペアレンツに充分過ぎるくらい頭を下げさせてしまい(終いには土〇座しようとしたので)病院側から直接退去命令を出してもらい、とりあえず平穏が戻った。
「まぁ色々置いといて、…歯、喰い縛って」
姉さんさえいなければ…そのあとそんな細腕に宿る力とは思えない威力のビンタ喰らった後お説教、自分を大事にしろと強く言われた、『たった一人の家族なんだから』その言葉は強く刺さった。
反省はしている、まだ懲りてはいないけど
麗日の件は俺の中での何か変える決定的な出来事だったし、姉さんがいかに俺のことを心配しているか分かったし、自分自身を見直すにはいい機会だとは思っている。
その後1週間検査続き(興味を持たれて)で病院軟禁状態、友人が来てくれたお陰で退屈はしなかった(初日のみ)、五月蝿すぎて病院からもう来るな、とのことでした。
麗日ファミリーが来たときは本気で焦った、笑えないブラック過ぎるギャグをバンバン連発して場を和ませようとしてくるし笑わなかったら更にブラックで笑えないジョークを飛ばしてくる。
また麗日家の家の事情をブラックジョークで事細かに知ってしまい、平凡な生活をしている俺からみても高級なお礼だと一目でわかる代物だったため受け取りづらかったけれども気持ちを踏みにじることは出来なかった。
受験が控えたとある日、麗日に聞かれたことがあった。
「お前、毎日来てるよな」
「ちゃ、ちゃうよ!ほら、あれ、ここクーラー効いているから、勉強しやすいだけだよ、だから毎日来ているわけで…」
超食いぎみに否定、まぁアニメや漫画みたいに上手くいくはずもないがそこまでは完全に否定されるとちょっと凹むな
「トーヤ君何で私を助けたの?やりたいことやっているだけ、は無しで」
「は?」
「いいから答えて」
真剣で俺に有無を言わせぬ迫力をその目の中に秘めていた。
やりたいことやっただけが駄目なら何を言えばいいんだろう、嘘をつくのは苦手なようで思ったことをそのまま言葉にすることにした、せざるをえなかった。
「理由なんてないよ、あの時危ないって叫ぼうとしたんだけれど、声でなくってさ、そう思っていたんだけどそれとは別に…なんつーかそう思っていたときには体が勝手に動いていた」
「やっぱり、トーヤ君は昔からそうだったもん」
「昔から?」
「うん、その時は今回とは大分状況が違ったけど、これでも私トーヤ君に助けられていたんだよ、ずっと前の話になるけど」
「へ…へ~」
悪いが…心当たりが一切ない、少しだけ惜しいという気持ちがあるけれど忘れてしてしまったものはどうしようもない。
「トップヒーローはね逸話の最後をこう締め括るんだ『体が勝手に動いていた』って。トーヤ君もそうなる資質があるんやろうね」
「バカ言うな、そんなに大した人間じゃねぇよ」
「はいはい、照れんくてていいから」
「照れてねぇよ、呆れただけ」
これはまだ英雄の物語じゃない、まだスタートラインにすら立てていないのだから。