THE・HERO!!!!   作:奇述師

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電撃的な出会い

 

 

 

 あの入試はつくづく合理性に欠く、あんなイレギュラーでも合格になってしまう。

 

 

 たった三年間で一人前にするにはまだまだ足りない、同業者として背中を任せることになった時、その程度の経験で安心して任せられない、それほどに危険な仕事も多いのだから。

 

 

だからこそ少しでも合理的な訓練、指導をし、壁を乗り越えてもらわないとこの業界では生きていけない、目指すところがそれ相応ならばこちらもそれ相応の対応をしないと失礼だ。

 

 

それに、見込みがないものに無駄に夢を追わせるのは酷だ、だから……

 

 

それが俺なりの優しさだ。

 

 

 

 

 

 燈夜は走っていた、かの 邪智暴虐の王を除かなければならぬと決意した……そんなわけはなく、単純に都会に対応できなかっただけのことである。

 

 

 個性発動は基本法律に引っかかるがそれはあくまで人に迷惑をかける場合においての事、人に迷惑さえ掛からなければいくらでも使用は可能だ、それは常時個性発動をしている異常型個性の人たちの反発から作られたもので個性の規制においてはまだまだ穴も多い。

 

 

 電車の改札口で、地下鉄乗り場で、見知らぬものがたくさんある中戸惑い、混乱し、更には自らに課した鍛錬乃ち個性の常時使用するという行いが積み重なり人に酔い、遂には余裕があったはずの時間も無くなりつつあった。

 

 

 雄英高校ヒーロー科、毎年三百を超える倍率の理由は単純に需要に対して供給が少ないこと、推薦枠を除いてたった三十六人の枠を大多数で争うのだから。

 

 

 いかなる個性にも対応した超バリアフリーともいえる校舎構造は一言で言うと広すぎる、ドアは優に三メートルを超え、一つの教室が小さな公民館くらいの規模で多数存在し、尚且つ最新鋭の設備が整えられている環境まで用意されている。

 

 

 とにかく広い廊下を燈夜は颯爽と走り抜ける、目標は1-A教室。

 

 

 最後の曲がり角を巧みなステップによりスピードをほぼ落とさず曲がり切りその先にある目的地へと気を抜いて歩幅を緩める。

 

 

 酸素を欲した体は下を向くよりも上を向きたがり視界も当然つられて上に上がる、本来であればしていたはずの個性常時発動も気を抜いた僅かな時間、緊張がほぐれ意識していたことによる僅かなゆるみが周囲への警戒を怠らせた。

 

 

 普通はそこにないもの……人の存在に気付かずに、徐々にスピードを落としながら接近、そして、グニャリとした感触が足から伝わり、排泄物が出るような音を立てて何かが飛び散った。

 

 

「……ん゛?」

 

 

 何かいる、と声にならない突っ込みが聞こえないはずなのに木霊する、同じ空間のある一定数が同じことを思うと雰囲気だけでも通じることがある。

 

 

 燈夜はすぐにいやな予感を察した。

 

 

燈夜は下は向かずにドア付近にいた知り合い麗日を発見し目線で尋ねた、俺は何をしたんだ、と。

 

 

「トーヤ君、左下を見てみて」

 

 

 錆びついた蛇口をひねるような重低音が聞こえてきそうなほど重くゆっくり足元を見る、が燈夜の視界には潰れたウイダーインゼリーが無残に残されていた、ふと視界の隅に入った何かに気付いて見上げると顔をゼリーまみれにし眉間にしわを寄せくたびれた男が立っていた。

 

 

「鐙……だったか、いやこれはこの場所にいた俺が悪い、そうだ俺が悪い、そう考えた方が非常に合理的だ」

 

 

「ちょっ、痛い痛い痛い!」

 

 

 細身でくたびれた男は、高校一年生にしては小柄な方の燈夜のこめかみを鷲掴みにし5センチほど持ち上げる、それだけでクラスの全員を戦慄させた。

 

 

雄英高校の教師といえばプロのヒーロー、くたびれた人だとばかり思っていた全員はここは日本最高峰のヒーロー養成所だということを思い出させた、浮ついた気持ちを抑え込むいい機会にもなり相澤は合理的だなと思いそのままつかみ続ける。

 

 

─個性が使えない!?

 

 

そのまま暫くバタバタしていた燈夜だが、次第にその動きは次第に減り、力尽きぐったりとしたところようやく手を離し、ポイっと廊下に投げた。

 

 

「はい、静かになるまでに十八秒かかりました、大人しくなるまで三十二秒かかりました、時間は有限、君たちは合理性に欠けるね。君たち1-Aの担任相澤消太だ、よろしくね。早速だが君たちに最初の試練を与えよう、体操服に着替えて運動場に来てもらおうか」

 

 

 クラスの大半の生徒はほとんど見ず知らずの燈夜の身を案じて手を合わせたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぼ……俺は私立聡明中学出身飯田天哉だ、大丈夫かい?」

 

 

「飯田……俺、この戦いが終わったら」

 

 

「それは言ったらいけない!」

 

 

 こうしていつもと変わらずハチャメチャに燈夜の雄英高校生活は元気よく始まりを迎えた。

 

 

 

 

「そういえば、入学式出なくていいんですか?」

 

 

誰かがふと思いついた疑問を口にする、最初から騒がしく半ば流される形で運動場まで出てきたものの冷静になってみると初日から運動場へ出て何かするというのは常識の範疇では考えられない。

 

 

「ヒーローになるなら、そんな悠長な行事、出る余裕ないよ、雄英は自由な校風が売り文句。そしてそれは先生側もまた然り。ソフトボール投げ、立ち幅跳び、50m走、持久走、握力、反復横とび、上体起こし、長座体前屈。中学の頃からやっているだろう? "個性"禁止の体力テスト、鐙、お前ソフトボール投げ、何メートルだった?」

 

 

「ウチの中学ハンドボール投げでした」

 

 

 高速で二度見をする麗日の横で燈夜は息を吐くように嘘をついた、学校名を知っていたところで通知書には体力測定の結果なんて書かれてはいないだろうという憶測と、先ほどやられたことで芽生えた可愛くない反抗心。

 

 

 相澤はそんな意志も気にせず、それじゃあとばかりに他へ話を振った。

 

 

「爆豪、お前ソフトボール投げ、何メートルだった?」

 

 

「……67m」

 

 

「じゃあ、個性使ってやってみろ。円から出なきゃ何しても良いから、思いっきりな」

 

 

 爆豪 克己、個性:爆破。

 

 

掌の汗腺が変異していて、そこからニトロのようなものを出す事ができ、それを自由に着火して爆発させる、その爆破の勢いをボールに乗せて思いっきり振り切る、地肩や身体能力さながら個性使用のタイミング共にほとんど完璧にこなしボールはあっという間に彼方へ消えゆく。

 

 

「まず自分の『最大限を』知る。 それがヒーローの素地を形成する合理的手段」

 

 

相澤が手に持つデジタル機器には「705.2」

 

 

 記録よりも生徒の記憶に残ったのはその数字ではなく、個性使用が許可され思いっきり使えること、羽をもった鳥が大空にはばたくように嬉しそうに燥ぐ、彼らとてまだ15歳の子供なのだから。

 

 

「スゲー!面白そう!」

 

 

「個性思いっきり使えるんだ!さすがはヒーロー科!」

 

 

「……面白そう、か。まさかとは思うがヒーローになる為の3年間、そんな腹づもりで過ごす気でいるのかい?…………よし、トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し、除籍処分(・・・・)としよう、生徒の如何は先生おれたちの〝自由〟。ようこそ、これが、雄英高校ヒーロー科だ」

 

 

 

2

 

 

 

「最下位除籍って…!入学初日ですよ!?いや初日じゃなくても…理不尽過ぎる!!」

 

 

誰かが言った、確かに普通の高校では入学式もガイダンスもせずに除籍は重過ぎる、だがここは残念ながら普通ではないのだ。

 

 

 相澤は大きくため息をつき、聞き分けの悪い子供に諭すように告げた

 

 

「自然災害…大事故…身勝手な(ヴィラン)たち…いつどこから来るかわからない厄災、日本は理不尽にまみれている。そういう理不尽(ピンチ)を覆していくのがヒーロー。放課後マックで談笑したかったならお生憎、これから3年間雄英は全力で君たちに苦難を与え続ける

 

 

"Plus Ultra"(更に 向こうへ)さ、全力で乗り越えて、来い。さてデモンストレーションは終わりこっからが本番だ」

 

 

 個性を最大限使い、個性なしの記録と比べて伸びしろを見れば「何が出来て」「何が出来ない」のかが嫌でも浮き彫りになる、個性を最大限使うということは、自分の個性をどう使うか創意工夫につながる。

 

 

第一種目:50メートル走・第二種目:握力・第三種目:立ち幅跳び・第四種目:反復横跳び・第五種目:ボール投げ・第六種目:1500メートル走・第七種目:上体起こし・第八種目:長座体前屈・

 

 

 走力、筋力、敏捷性、投力、跳躍力、全身持久力、筋持久力、柔軟性、それぞれの分野を測定する純粋な人体能力に個性という各々が持った特殊能力を上乗せして自身の性格に合った個性の使い方、どれだけ個性を使うことを想定していたのか、いかにして使いこなすのかを見るには非常に合理的な手法である。

 

 

 最下位除籍の宣告もほとんどの生徒には空しく、というよりかは確固たる自分はそうなるの自分ではないという自信を持ち、寧ろやってやるとばかりに気持ちを高めて。

 

 

 個性使用許可、それはまるで魚に水を与えるようなもの、極少人数を除き生き生きとし始めた。

 

 

 そう、極少人数は除いて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んじゃ、ぱぱっと結果発表。トータルはもちろん各種目のトータルだ、口頭で発表するのは面倒くさ……時間の無駄なので一斉に開示する。あ、ちなみに除籍は嘘、君らの最大限を引き出す合理的虚偽」

 

 

「「「はーーーー!!?」」」

 

 

 

「あんなの嘘に決まってるじゃない・・・。ちょっと考えればわかりますわ・・・」

 

 

ガイダンス等で配布された資料は各自の机の上に置いてあり、そのまま自由解散、波乱万丈に怒涛の一日目は終わりを迎えようとしていた。

 

 

 

 

 

「ねえ、ちょっといいかしら」

 

 

「………」

 

 

「ねえ、聞いているの?」

 

 

「………………」

 

 

「ねえ、ねえってば!」

 

 

「………………………」

 

 

「いい加減こっち向きなさいよ!」

 

 

 

「………………………………」

 

 

「こっち向けっつってんでしょ!このっ!」

 

 

 オレンジ色に染まる空を背景に一筋の光が走り刹那破裂音を聞いたころにようやく燈夜は自分の世界から帰還した、そして懐かしく忌まわしき衝撃が稲妻のように燈夜を襲い苦痛に顔を歪ませながら後ろを振り向く。

 

 

「痛っ!誰だいった……い」

 

 

「久しぶりね、あんた」

 

 

 そこには見目麗しく、化粧がいらない程度には整った綺麗な顔立ちで、肩まで届く短めの髪形、夕焼け色に染まる青みを帯びた綺麗な白髪を個性使用によって靡かせる雄英高校の制服に身を包んだ女の子が燈夜を睨みつけていた。

 

 

 陶磁器のように澄んだ肌、髪の色と同じくらい綺麗な色に染まる茶色い瞳は烈火の如き思いを秘めまっすぐに睨みつける、そしてスラリと伸ばした手には燈夜が忘れていったガイダンス等のプリントの束が握られていて、それを燈夜に向けて突き出した。

 

 

「プリント、持ってきたんだけど!」

 

 

「あぁ、悪い、ありがとう…それで何の用?あとどこかであったことある?」

 

 

 先ほどの放電によりくしゃくしゃになったプリントの束を受け取ると、デジャヴを感じふと思い出す。

 

 

「もしかして、試験の時の?」

 

 

「そう、そしてクラスメイトの鳴神 美雷!」

 

 

「オッケーオッケー、鳴神ね。しっかり覚えたサンキューな、それで何の用があってここまでついてきたの?プリント届ける以外にも何かあったんだよね」

 

 

「ええ、言いたいことがあるの」

 

 

「へぇ~、ただならぬ雰囲気だけど…」

 

 

「先ずは入学おめでとう、そして今日の体力測定一位おめでとう」

 

 

「ん、ありがとう」

 

 

ただならぬ雰囲気を感じ取り臨戦態勢とまではいかないが、警戒を怠らない、いまにも殴りかかってきそうな気を感じ取っていた。

 

 

「圧倒的なポテンシャルを秘めていながら全力を出すことは無く手抜きで人の上に立つのはさぞ気持ちいことでしょうね」

 

 

「は?」

 

 

「全力を出さないで、一位を取って澄ました態度をとってクールぶるのも今日で最後なんだから!私は最高のヒーローになるために、もう誰にも負けないんだから!」

 

 

「いや…だから」

 

 

「宣戦布告、あんたというハードルを絶対越してやるから覚悟しなさいよ!」

 

 

 そこまで言い切ったあと急に恥ずかしくなったのか、個性を無意識のうちにつかってしまい再びそれが燈夜を襲う、こうして出会うべくして出会った燈夜は文字通り、物理的に電撃的な出会いを一方的に経験することとなった。

 

 

 言わなければいいのにと思ったがその突込みは彼女の覚悟に水を差す、燈夜は自分に背を向けて立ち去ってゆく背中に向けて返答を力いっぱい投げかける。

 

 

 

 

 

─個性は身体機能の一部、ねぇ

 

 

 

燈夜の疑問の答えは一日中思考するものの答えは出ず、やっぱりわかんないや、とばかりに星が光はじめる空を扇いだ。

 

 




参考までに

鐙 燈夜

第1種目:50m走 3,50秒

第2種目:握力 230kg

第3種目:立ち幅跳び 25m

第4種目:反復横跳び 90回

第5種目:ソフトボール投げ 540m

第6種目:1500走 95,2秒

第7種目:上体起こし 80回

第8種目:長座体前屈 79cm
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