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雄英高校に入学する前に届いた書類の中に個性の概要等を提出、そしてヒーローコスチュームに対する要望を含めた書類が内封されていた、もちろん自分でデザインを考えることもできるし、個性に関する要望を書くとそれに合う機能を付与することもできる。
その道のプロに任せるのかそれとも自分の要望を通すのか、考え方は自由だけれど『ヒーロー』という職業が実際にあるなかでそれの意味は英雄ではなく安っぽい偶像のように成り果てていた、一昔前までのアイドルと全くもって同じ意味合いだ。
だから今後ヒーローとして活動していく自分のトレードマークにもなりえる、名前を覚えてもらう衣装のようなもの。
皆一様に各々が望む機能やデザインを真剣に考えて提出している、憧れや理想を反映するコスチュームを思い描いてそれをできる限り書類に表現して。
最も、事細かに書くものも抽象的に書くものもいるので要望通りであるとは必ずしも限らないが。
燈夜は後者で要望としてはあらゆる衝撃に強く丈夫で例え南極でも灼熱地帯であろうとある程度の時間は難なく動けるあまり派手ではなく出来れば黒に近いカラーリングで、といったものだ。
最後にデザインはプロの貴方にお任せします、と子供らしくない落ち着いた要望だった。
「おお、要望通りだな、すげー!」
「まさか本当にこんな要望が通るとは、さすが雄英専属のサポート会社だな」
ヒーロー基礎学、ヒーロー科特有のカリキュラムの一つで名前の通りヒーローの基礎を学ぶ授業。
ヒーローとして必要となる戦闘力、救助訓練、教養などを鍛え、ヒーローの素地を作っていく授業である。
担当するのは今年教師になったばかりのNO.1ヒーロー『オールマイト』等を含めたプロのヒーローたちである。
もちろんヒーロー科の単位の中で最も大事なものの一つであり、必修科目となっている。
今回はその記念すべき最初の授業であり、もちろんオールマイトにとっても記念すべき最初の授業。
午前中は普通の高校生が学ぶのより少々早く難易度の高いペースで進んだもののヒーロー科メンバーは大抵文武両道をハイレベルで兼ね備えているため普通であれば音を上げるものが大多数である状況で肩透かしを喰らったかのように気を抜かしていた。
一部例外は少なからずいるが……
しかしヒーロー基礎学で初めて自分のコスチュームを目の当たりにした高校生は勿論テンションが急激に上がり、さらに初めてのヒーロー科っぽい授業で尚且つ担当教師はオールマイト、掛け算をも越え三乗程みんなのテンションが上がりオールマイトに促される前に昼休みを迎えた子供のように授業の開始場所へと飛ぶように集まっていった。
テレビで見るインタビューを面白おかしくそつなくこなしていくオールマイトではなく、カンペを見ながらたどたどしく授業を進めていくオールマイトを少しかわいいなと思いながら授業が進んでいく。
授業の内容は屋内対人戦で、ランダムに組まされた二人ペアを作り、それぞれヒーローとヴィランに分かれて訓練を行うものである。
ヒーロー側は制限時間内にヴィランチームを捕まえるか、屋内に設置された核をタッチすれば勝利。
逆にヴィラン側は制限時間内にヒーローチームを捕まえるか核を守り切ることができれば勝利といった形である、そしてランダムに、正義と悪に別れてと言うのにもしっかりとした理由が組み込まれた素晴らしい内容。
そして、それぞれくじ引きをしてペアが決まっていった。
オリエンテーションも何もなかった1-Aにとってはまだ関わったことのないクラスメイトとの交流期間でもあり、親交を深める意味でも授業に対する意識の向上としてもとても良いものだった。
くじ引きの結果、燈夜はパートナーを探すが如何せんまだ名前を知るものは鳴神 美雷と飯田、麗日 お茶子、そして緑谷しか顔が一致しないのだ。
それにフルネームで覚えているのはたった二人だけでさてどうしようかと考えつつも人探しをしていた時だった、すでにペアを見つけた知り合いの中に入っていこうとは思わず取り敢えず誰か探しているような人を探していたときだった。
撫でるような柔らかくこそばゆい感触が背中を撫で、その方向に顔を向け少し戸惑ったような顔で見上げられていたのを確認しようやく理解した。
「よろしく、えーっと……」
フレンドリーに声をかけようとするもまず露出の激しい女の子を直視するわけにいかず……というよりは不足の事態に寧ろ凝視してしまいこの時点で計画は破綻。
次の手を探そうにも見つからず言葉に詰まった。
「八百万 百、ですわ。よろしくお願いします」
綺麗なまでに佇んだ雰囲気に少しばかりそう遠くはない懐かしさを感じでながらも少しだけ感じた強さの中にある弱さと、揺れている気を不思議に思いながら言葉を慎重に選んで返した。
そして最初に行われた訓練のペアはヒーロー緑谷・麗日ペアとヴィラン爆豪・飯田ペアで燈夜は八百万とペアで敵側、相対するのはは轟・鳴神ペアであった。
皆が食い入るように見ていて、八百万が饒舌に解説するなか燈夜と美雷の間に不穏な空気が流れたのは言うまでもない(一方通行だが)
そんなこんなで訓練は進み、初戦で勝利したのはヒーローチームの緑谷・麗日チームである。
緑谷が爆豪を核の真下の位置に固定し続け、お互いの大技の打ち合いであえて真上に粉骨砕身の個性をぶつけることで核を守っていた飯田に隙を作り、その間に麗日が核にタッチした形で勝利は緑谷・麗日ペアが掴んだ。
しかし、勝利はしたもののヒーローチームは核をも巻き込んだ大雑把な攻撃は訓練だからという甘えによってつかんだ勝利だと指摘された、ただ勝ち負けではなくヒーロー的に勝つことの難しさを今度は美雷が解説し、オールマイトが悔しそうに「そ、その通りだよ。流石は鳴神少女……パーフェクトだ!ハハ、ハハハ」と威厳も何もない顔でまたもやみんなの親近感を掴んだところで八百万がふと隣にいる燈夜に声をかけた。
「どうかしたのですか、鐙さん?」
「トーヤでいいよ……緑谷の個性なんだけど、おかしいんだよ」
「おかしい?」
「ああ、俺の個性はまぁ……人の身体エネルギーを感じることができる訳なんだけど、普通は一つの体に一つしか感じないんだよそれが大きくても小さくても関係なしに、でもあいつはあの身体の中には緑谷のも含めて合計二つ感じるんだ」
「それは…緑谷さんは二人の力を持っていると言うことになるのでしょうか?」
「いや……緑谷の中に感じる身体エネルギーの片方が少しずつではあるけど馴染んでいるんだそれもとてつもない量のものが」
「それはつまり……緑谷さんが誰かから力を貰ったような言い方ですわね」
「あ~、その線もありえるな。それに似ているんだよあの感じは」
「と言いますと?」
「個性を発現したばかりの子供と……」
燈夜は顎に手を当て八百万は小さく首をかしげて考え込むがオールマイトから「鐙少年!八百万少女!次は君達の番だ!さぁ早く定置に!」と促されその件に関しては考えるのを一旦放棄し目の前の事に集中する。
大破したビルではなく比較的綺麗なまでに場所にたどり着く、先ほどとは違ってもっと簡易な作りの倉庫のような場所だった。
『それでは5分間シンキングタイムといこうか!』
さっきのことは置いといて真剣にやらなくちゃな、そう思い燈夜は無理矢理さっきの思考を放り投げた。
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「さて、それじゃあ俺たち個性を一度整理するか。俺の個性は身体能力の向上……まぁありきたりな強化の個性でコンクリートの壁くらいなら余裕で壊せるくらいかな……詳しいことはさておき比較的応用は利きやすい個性だといった感じ」
「私は創造です、あらゆる物を自分の体内で創り出し、取り出す事が出来ますわ。
創り出せる物は衣服、ネット、絶縁シート、刀剣など私の知識で理解っているものなら何でも……しかし大きな物を創るにはそれなりに時間が掛かってしまいます」
「創造か…何か出してもらっていい?」
快く返事をしたあと掌からマトリョーシカが飛び出した、なぜ?
「おぉ……凄いな。それと轟の個性はわかる?鳴神のはわかるんだけど知らなくて」
「轟さんの個性は主に氷結……だと思います」
「ん、だと思いますということは他に何か気になることがあるんだよね?」
「はい……氷結を自分で溶かしていましたし、もしかしたら熱に関しても使えるかもしれないかと」
「ふーん、なるほどなるほど。半冷半熱という可能性も無きにしもあらずな訳かぁ」
なんというか、正直勝てる気がしない。
だって半冷半熱って最強じゃん、使いまくれるじゃん、生きる永久機関かよ。
「ただ……熱の方は何故か使いたがらない傾向があります」
「それはどういうこと?」
「推薦入試の時には氷結しか使っていませんでしたもの、半身に霜が相当降りたのにも関わらず……試験が終わるまで」
不確かな情報だ、信用性も薄い、けれど今は一番確実で大切な事に変わらない。
信じるという事に賭けるしか他はない。
そのあと鳴神の個性と性格傾向を説明し、ある程度情報が集まったので勝ちにいくために最善を尽くす、敗色が濃い難敵だからこそ感じるゾクゾクする感じがたまらない。
俺が求めた楽しみはこういうことだ、全部持てるものを絞り出してそれでも難しい事に立ち向かう、しかし今回においては時間制限があるため形上の勝利はあるがそれでは味気ない。
「八百万、今回は俺に預けてくれないか?」
ここで表情が強張る、納得のいかないまま小さく頷いてくれた。
多分八百万も自分なりの作戦を考えたのだろう、俺と同じく勝つために。
それを聞かれるまでもなくどちらが優れているかも判断する前に却下されたのだからそれは当然だ。
寧ろそのような提案を表情を強張らせただけでいてくれたことに自分が子供だと……我ながら幼いなと思った、勝手に突っ走っていく俺を許し尻拭いをしてくれるというのだから。
「いや…ごめん、言葉が悪かった。最初の五分間だけ預けて欲しい、その時どちらか一人捕縛できたら俺の作戦を続行、もし出来なければ即座に八百万の作戦に従事する、だから五分間だけ俺にくれないか?」
全面的に俺が悪かった、そもそも立てた作戦は八百万がいなければ成り立つものでなかったのに自分勝手に話を進め勢いそのままに納得させた、会話のペースが自分にあると知りながら、まだ遠慮がちな彼女の優しさに突け込んで。
気が早すぎて冷静になれていなかったな、俺の力では制限時間全部もらうのには釣り合えていない。
「え!?でも鐙さんの方が……その、私よりも」
どこか感じていたやりにくさとズレにようやく気付けた、理由は定かではないけれどなんか嫌だなこういうのは。
「トーヤでいいよ、理由はわからないけど俺に遠慮する必要はない、どっちが上でどっちが下だなんて決まっていないし決めたくない、そんなのはおかしいし」
「でも……」
「とにかく、5分間だけは俺がもらう、だから後は頼んだ。だから作戦を教えてくれ」
「それでは────」
「なるほど……確かにそれは手堅くて結果的勝利は得やすいな、よしそれじゃあ5分経ったら何か出来れば大きな音や衝撃で教えてくれるとありがたい、ちょっと集中すると熱くなって自分勝手に動いてしまうから」
「それでしたらこれをどうぞ」
またもやマトリョーシカを創造して渡される、さっき出したものと何の変哲もないように思える。
「どんな仕組み?」
「4分たつと点滅して5分たつと破裂しますわ……あ、正確には6分7分ですわね」
「そうか、じゃあ配置につくよ……勝とうな!」
威力はわからないけど怖いな…、八百万の事だおそらくそういった気配りは出来ているだろう、していて欲しい。
もちろんですわ、と大きく頷いてくれたのを見送ると身体を解しながら下へと降りる。
コンディションの最終チェックと闘争本能のスイッチを入れながら。
「燈夜さん、ご健闘を祈りますわ!」
そんなエールを背中で受け止めて、俺は拳を気持ち上に掲げた。
「轟、あなたが強いのは十分にわかっているわ。その気になればすぐに制圧できることも難しくないでしょうね」
「何が言いたい?そんな怖い顔をして」
「私には今少しだけムカつくやつがいる、手を抜いて実力を全部出さず透かした態度をとっているあいつと、半分しか力を見せないあんた」
「俺は………いや何でもない」
「最初の5分間だけ、私にちょうだい。あんたにもあいつにも私のことを認めさせてやるから」
「わかった、好きにするといい。その代わり5分経過したら俺も取りに行くぞ」
「オッケー、交渉成立ね。それじゃあ行くわよ!」
「俺も中にいくのか?」
「当たり前じゃない!」
「……はぁ、面倒だ」
『それでは──始め!』
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