THE・HERO!!!!   作:奇述師

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勝利と敗北

 

 仰々しく鳴り響いている筈の電子音は確かに鼓膜を震わせ脳は不快感を感じている一方で、どこか安心しうれしく思っている自分がいた。

 

 

 入り込もうと思えばどこからでも入ることが可能なこの演習会場のたった一つの入り口らしい入り口が開始とともにゆっくり開き、そして目に飛び込んできたのは永久機関こと轟と鳴神だったからだ。

 

 

 だがしかし、鳴神の方はもうすでにこちらにも聞こえてくるほどバチバチと自らの個性を発動しており後ろにいる轟は動く気配を見せずどちらかと言えば覇気がないようにも感じる、早く終わらせろよとでも言いたげに二人はアイコンタクトをとり鳴神は腰元からぶら下げていた手榴弾を模した物体をおもむろに取り出してこちらに向かって投げつけてきた。

 

 

 開始早々に投げつけられた物体を警戒しないはずもない、しかし虚仮脅しにあの負けず嫌い?が考えなしに投げつけてくるとは思えない。

 

 

 だから少し警戒して高さ的にみても十分にある上の空間に逃げ天井の骨組みにぶら下がりながらその物体がどうなるのか行く末を見届けていようと思ったのが、まだ俺が彼女を甘く見ていたのだと気付かせた。

 

 

 本来であればここまで大げさに距離を取ることなんて普通はしないというより今回は避ける必要性は全くなかった、その黒塗りされた楕円形のものは距離的に殺傷することが目的でないのは明らかだったからだ。

 

 

 研ぎ澄まされた聴覚がカチリと何かが作動する音を聞き、それが宙に浮いているあの物体から発せられていることが分かったものだから目くらましの可能性も考えて目を瞑ってしまった、個性のこともあるがそれよりも長く付き合っていた自己防衛の本能にはまだ逆らえずに眩い閃光に備えて目を守る。

 

 

「舐めんな!」

 

 

 次に訪れたのは直視もできないほど強烈な光ではなく、破壊することを目的とした重く鈍い衝撃だった。

 

 

 この感覚は知っている、その瞬間が訪れる僅かな猶予のなかそれに備えて覚悟を決める。

 

 

「~~~っ!!」

 

 

 声にならない音が口から洩れ体はようやくその事実をありのままに受け入れる、内臓をかきまわれるような気持ち悪さと激痛が俺の全てを支配して、それを上回り痛覚を通り越して悪寒に代わり体に力を入れるのでさえ苦痛で、正直もう倒れてしまいたかった。

 

 

 体は正直だ、けれど心はそうじゃない。

 

 

 無理に時間を取って、自分勝手な行動をしたのにも関わらず開始10秒足らずで離脱なんてみっともないとしか言いようがない、八百万の作戦にも影響が出るし不甲斐なさ過ぎてそれだけは嫌だ。

 

 

 掴んでいた天井の骨組みから手が離れる瞬間、今持てるすべての力を指先に集めて今の場所から即座に離れることだけを考える、ここで止まってしまったら終わってしまうような気がしたから。

 

 

 するとさっきまで捕まっていた骨組みの一部が黒い何かに覆われた、おそらく鳴神が何かしたのだろう、だがそれには留まらず黒い何かは空中で為す術もなく移動している俺に向かって伸びてきた、たまたま指をひっかけたときに気持ち斜めに飛んだのが功を奏して別の骨組みを使い何とか窮地を脱する。

 

 

 金属が揺れて出る低音に混じってチッと少し高い音と金属と地面がぶつかったような小気味よい音も響く、だが……だけどもうそんなこと考えている余裕はない、もう油断も隙もなく鳴神を捕縛することだけを考える、轟はいつ動くか分からないからそこもしっかり頭に入れて。

 

 

 先ほど飛んできた何かのダメージは深く、今にも気を抜いてしまったら倒れてしまいそうだ。

 

 

 骨の方は多分何ともないけれど中身は少しヤバいかもしれない、けれどその分頭は冴ているし体も動くには動く、さっき飛ばされたのは何らかの金属で手榴弾らしきものに入っていたのは色とあの操作性から考えると砂鉄って訳か。

 

 

 あっちは俺の動きを止めて砂鉄で身動きなくせば即詰める、だけど俺は……動きを封じる手段がない、流石に殴ると言うのは気が引けるし……しかし脳を揺らすだけなら殴るにはいらないか、少しばかり強く速く撫でるだけ。

 

 

 条件はイーブン、最初の痛打で状況的にはこちらに分がないけれど勝ち筋は互いに明確だ。

 

 

「仕留めれなくて残念、もうチャンスはないよ」

 

 

「そうかしら?随分堪えているように見えるけど」

 

 

「少し驚いただけさ、痛くないのに痛いと言ってしまうことあるだろ?」

 

 

「そうね、本当に痛い時って痛いなんて言えないものね」

 

 

 お見通しね、俺は普通に話しているだけでいっぱいいっぱいなのに鳴神はいい意味で余裕がある、その牙城を崩すことから始めないと。

 

 

「そうだといいな、それじゃあ第2ラウンドといこうか」

 

 

 精一杯余裕をかました言葉だった、残された時間はもう目的に向かっていくことしか考えない。

 

 

 出し惜しみはもうしないで今上げれる限りギアを上げる、フルスロットルまでは程遠いが今はこれがベスト。

 

 

 本当にありがたい、ここに来れて本当に良かった。

 

 

 隙を伺ったり間を整えたりするつもりは毛頭もない、だから全力全速で強く地面を踏みつけた。

 

 

 

 

 予定通りと言えば予定通りで出来過ぎと言えば出来過ぎだった、砂鉄補給のためとブラフのために作っておいてもらっていた手榴弾(入学時のコスチューム要望に書き込んでおいた)を案の定警戒してくれてわざわざ避けにくい上に逃げてくれるとは思ってもいなかったし、少しの期待しかしていなかったけれども私の望む展開に思い通りに持って行けたと思う、そして飛ばした特殊な合金でできているらしい球を当てれたとこまでは良かったのだけれど、流石というか期待通りというかそう簡単に決めてさせてはくれない。

 

 

 それでも正直あの威力の金属球が腹部に直撃したのに痩せ我慢しているのだろうけど普通を装えることに私も余裕を装ってはいたけれどまったくの想定外で驚きを隠すのがやっとだった。

 

 

もし何かあったらごめんなさい、という覚悟で放った攻撃だけれど安心した半面恐れも感じている、これで一気に底が測れなくなった、個性はバランスのいい強化型でほとんどデメリットもなく使えるようにも思える、私の個性と同じく応用性はすごく高いけれど扱いやすさでいえば断然あちらの方が上だ。

 

 

 油断も隙もあったものではない、私の動揺を見越してか間合いも呼吸もとらないで一直線に攻めてきた、迷いや躊躇なんて一切なく想定を超えた速さで縦横無尽に動き回る、私の個性に冠された名前は電撃、操作性も威力も十分だけれどこうも不規則かつ縦横無尽に動かれると狙いが絞りにくい、砂鉄での防御も一気に電力を上げて硬化しないといけないため対応が遅れるにつれてあいつとの距離はどんどん近くなる。

 

 

─オートではなくマニュアルだからこそ一歩遅れる、だから攻め続けて間違った時が命取りになる

 

 

 なんて思っているでしょうね、そんなの使っている私が一番よく理解しているだから見せてあげる……まだ誰にも見せたことのない奥の手を。

 

 

 できればそれは避けたい、けれどあいつの攻撃の形は限られているのに攻め方はこの短い時間では無限にも感じられるほど選択肢が多い、さっきようやく対応できたと思ったらフェイントを入れ始めたおかげでもう形勢はどう見ても悪い、誰が見てもそう思うことは確か、多分あいつも思っているだろうもうそろそろ終わりが近いことを。

 

 

 勝利を確信した瞬間最も大きな隙が出来る、それは最後の詰めを確実にするため一点に集中力を向けないといけないから仕方のないことだ、その一瞬を逆手にとって私が持つ最大で最も強い電撃を叩き込む、長期戦になれば話は別だけれど貰っている時間は少ないし横やりを入れられるのは嫌だ、轟は性格的に甘くはないからこの度は折れてくれたものの時間が来れば容赦はせずにすぐさまこの会場を氷で覆い勝敗を決めに行く。

 

 

 偶然か必然かあいつの動きが一段と速くなる、さっきのがトップギアじゃなかったのは敵ながら天晴れというべきか……そして轟への牽制も忘れずに、轟も余裕綽々と応じているのに腹が立つけれどその間にも結局私が攻勢に出ることは出来ずにいた。

 

 

 いや、しなかった、少し遅れたのを隠さずに焦らず手を引く、今はこれが最善策。

 

 

 あいつがこの変化を見逃すはずがない、だからそこに勝負をかける。

 

 

 あそこまで猛攻を仕掛けてくるという事はあっちにも何らかの制限があること、なんにせよ勝負を決めに来る一瞬で勝勢になり逆転するのだからそこまでの我慢。

 

 

 正誤しきれない砂鉄が宙を舞い、あいつの飛び跳ねる音の中にジャリと異物が混じってその回数が多くなる、個性の操作はどんどん稚拙に、でもまだその時じゃない気がして大雑把だけど堅実に守りを固め当たってくれると信じて適当に砂鉄での攻撃も加える。

 

 

 強烈な蹴りが砂鉄の防御壁を突き破って私の左脇腹に迫った、奥の手は使える、発動条件はもう整っているけれど今見せてしまっては決定打になりえない、距離設定のプログラミングの誤算が大きな痛手となったけれどもうどうしようもない、苦し紛れの防御と個性による砂鉄操作で大きなダメージは受けなかったけれど攻撃が掠っただけなのに血が流れ出ているかのようにジンジンという感触は確かに残っている。

 

 

「よく避けたな」

 

 

 最初とは雰囲気が全然違う、さっきまでは語り掛けてくる口調だったのに今はもうつい出てきた感想なようなものとなっていた、私も軽口を挟もうと思ったけれど呼吸を整えるので精いっぱいだ。

 

 

「おい、鳴神」

 

 

「分かっているわよ」

 

 

 轟がこちらに向けてそう言ったという事は残りは一分近くという事、それ抜きにしても次のやり取りで白黒つくと感が告げていた、それはあちらも同じようなことを感じているのだろう、目に見えて分かるくらい闘気と言えばいいのだろうか、それがこの限られている空間に充満している。

 

 

 熱いお風呂に飛び込んだ時のようにピリリと肌がひりつく、丁度そのまま湯船につかったかのように今にも逃げだしたい気持ちになるがこれはあくまでイメージであり、体感ではないのだから。

 

 

 だから逃げ出す必要なんて一切ないと鳥肌が立ち武者震いなのか怯えなのか見分けのつかない震えを収める、血の巡りは至って良好、だから恐怖を感じているなんてことはない。

 

 

 そう言い聞かせて心を静めて研ぎ澄ます、瞬きほどの刹那的な動きにも目を配り触れたら皮膚を切り裂いてしまう刃物のように鋭く薄く擦り合わせるように理性と本能を制御する、ゆらゆらとしながらゆっくり近づいてくるあいつの一挙一動から目を離してはいけないと全身が叫んでいる。

 

 

 普段よりも多い情報を必死に処理する脳が目の前に広がる世界の時を圧縮させ、本能が逃げろとささやき理性は逃げるなと呟いていた。

 

 

 無限にも等しく感じられた瞬間の中、確かに聞こえた。

 

 

いくぞ、と。

 

 

 だから応えた、言葉ではなく行動で。

 

 

 奥の手にとっておいた残りの電力をすべて振り絞りひねり出す、手加減だなんて甘いことするつもりも余裕もない、あいつがあの状態から攻撃動作に移るまでこちらにある速さという絶対的アドバンテージを生かして。

 

 

 

 意識が遠くなったのは容量超過のためかそれともそう言った結果なのか、状況を把握することもできず波打つ感情の起こりも何も感じられないまま私は迫りくる暗さの波に身を委ねた。

 

 

 

 

 鳴神 美雷、その名前を俺は知っていた。

 

 

 彼女の親御さんは海外で活躍しているヒーローで名前は日本の3割程度しか知られていないがとても優秀なヒーローだ、その親御さんですら3割しか知られていないとなるとその子供となると大衆の関心はほとんどない、ただでさえ国内のヒーローのことで忙しいのに細かい(と言えば失礼にあたるが)ことなんて興味はないのだろう。

 

 

 俺が知っていたのは親の職業柄たまたま目に入ってきた程度のものでどこから入手したか分からない資料を眺め、あいつが「鳴神……そうか、いい実験材料だ」と呟いていたことから彼女の父親はそれなりの実力を持っていたのだろうと思われる。

 

 

 だからどの程度のものなのか、その彼女がそこまでして目の敵にする相手はどうなのかも気になってこの訓練も一番マークしているやつがとりあえず見方だし俺の個性さえ使えば簡単に制圧できるだろうと思って提案に乗ると促されるまま倉庫の中へ連れ込まれ個性使用が可能な戦いを事情も呑み込めないまま感染する羽目になったのだが……

 

 

 目の前で繰り広げられた状況は息をのむ間も瞬きする間も惜しいと思ってしまった、現実とは思えない映画の中だけでしかありえないと思った先頭風景に俺は魅せられてしまっていた。

 

                                     

 

 だから、時間の関係で勝敗がつかないのも気持ちが悪かった。

 

 

「おい、鳴神」

 

 

「分かっているわよ」

 

 

 彼女の返答は早く、その先の言葉を俺は伝えることが出来ないが、感覚的なものでもう終わりは近づいているとわかってしまった。

 

 

 昔この国にいた侍が真剣勝負の時に互いの間合いを、状態を探り合う。

 

 

殺伐とした空気が全身を包み込み最終強権に差し掛かっており、これが最後の攻防であると確かな予感を感じさせて二人はぶつかった。

 

 

迸るスパーク、蠢く砂鉄。

 

 

舞い上がる砂煙、力強く響く跳ねる音。

 

 

視界を白く染める光が一瞬現れた後、俺は思わず目を疑う。

 

 

 何故ならあそこまで優しく、敵を制圧する方法を未だ嘗て目の当たりにしたことがなかった。   

 

 

 撫でるように顎をかすめたこぶしは目的を遂げた後、弛緩し地面にぶつかるだけの肉体を優しく抱きかかえて音もなく傷つけぬよう繊細に床に寝かせる。

 

 

獣のように鋭く光っていた眼光は蛍の光のようにやさしく慈しむように、それでも勝者らしく高みから、戦いの余韻を噛みしめるかのように数瞬ではあるが瞼を落とした。

 

 

「お前ともやりたいが……もう時間だ。こいつを……美雷(・・)を頼んだ」

 

 

 そう言うと鐙は懐から何故か真っ赤に光るこけしのようなものを取り出し俺に向かって投げつけた。

 

 

 とっさに個性で停止させすぐに注意を向けるがそこに鐙の姿はない。

 

 

 高い音が氷の中で発生し僅かながらお母さんの個性でできた氷結に罅を入らせるがこけしかと思ったのはマトリョーシカであることぐらいしか情報は得られない。

 

 

 ちゃっかりと鳴神には捕縛テープが巻き付けられていて、戦線離脱。

 

 

 その後、八百万と鐙と核の取り合いになったが予想以上に鐙の消耗が激しくお母さんの個性があいつらの想定の範疇から超えていたのもあって辛くも形式的に勝つことが出来た。

 

 

 久々に濃ゆかった一日を日課のトレーニングを終えた後+αの鍛錬を続けながら思い返す、あの時感じた気持ちを信じたくなくて、それでもどういうわけか羨ましくて。

 

 

 あいつをあいつの力を使わないで超すために、必要のない不純物を取り去るために先の見えない夜道を全力で走り続けていた。

 

 

 予定も見通しもなく、逃げるように。

 

 

 

今目の前にあるものは何だかとても眩しくて、目的を見失いそうだったから。

 

 

 

トップでないと何の意味もねぇ、お母さんの力だけでなってやる、あいつを超えてやる。

 

 

 

何度も何度も染み込ませるように心のなかで繰り返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




視点を変えると心情を描けたり、同じ場面でもキャラクターによって違うこと捉え方なんかを表現できるから楽しい、難しいけど。

稚拙な文章ですが今後ともよろしくお願いします。

ご精読ありがとうございました!

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