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「委員長!!やりたいですソレ俺!!」
「オイラのマニュフェストは女子全員膝上30㎝!!」
「うちもやりたいス」
「リーダー!!私しかいないでしょ!!」
「やらせろ!!」
今日のHRは昨日とは違い普通に恒例行事である役員決めが行われた。
さすがはヒーロー科と言うべきか集団を導くトップヒーローを目指している人たちが多い中(一部例外もいるが)例えは悪いがまるで幼稚園児のようにギャーギャーと騒いでいた。
とりあえずの建前上俺も―とは呟いてはいるがそこまで張り切ってはやりたくない、面白みも何もなさそうだし特別な権利が与えられるわけでもない、という訳で俺は昨日の怪我の回復に専念するために後ろで元気よく叫んでいるクラスメイトたちの騒音に耳を抑えている風を装って机に突っ伏した。
席は割と前の方ではあるが昨日のこともあって言い訳は充分に出そろっている。
ただ先ほど怒られた緑谷はシュンとして大人しげだ、美雷と爆豪は相変わらずだけれど。
あとは轟か、この叫び合いに参加していないのは本当に少数で(ヒーロー養成学校と考えれば全員参加するのが妥当なのかもしれないのだが)変な熱血教師であれば絡まれていたかもしれない、その点においては相澤先生で良かった。
言葉を借りるならばこんなことは合理的ではないからだ。
「静粛にしたまえ!!“多”を牽引する責任重大な役割だぞ・・・・・・!『やりたい者』がやれるモノではないだろう!!周囲からの信頼あってこそ務まる聖務……!民主主義に乗っ取り秦のリーダを決めるというのならこれは投票で決めるべき議案!!!」
……そびえ立ってる手を下ろして言えば決まっていただろうに。
案の定バッシングの声と自分に入れるだろうという正論が飛び交うが我らが担任である相澤先生はそそくさと寝袋を取り出し休憩の体勢に入った。
結果……緑谷3票、八百万2票、爆豪2票。
「なんでだよ!?」
「おい!誰だよ爆豪に入れたやつ!?」
「なんで爆豪に一票入ったんだ?」
「お前インチキしてねぇだろうな?」
信じられないような光景を目の当たりにしたのか結果はそっちのけでその誰かを探すが当の本人は緑谷に負けたことがショックみたいで立ち尽くしている
「なんで……俺が……デクなんかに……!!」
入れてやっただけ感謝しろ。
というか本気でいれてもらえると思っていたのか、恐ろしい。
最終的に「デクの下なんかでやってられるか!」と爆豪が辞退し、委員長は緑谷、副委員長は八百万で決定、その後も誰が爆轟に入れたのかという議題で盛り上がったがその様を時には輪に入って議論しながらも俺は楽しく眺めていた。
ただ、同じクラスになり間もないのにもかかわらずそこまで言われる爆豪をちょっと面白くも思ったりした、なんだかんだ愛されているとでもいえばいいのか、初めて見る生物に興味を持ったのも確かなことだ。
2
そして何事もなく時間は経ち昼食の時間へ、ようやくエネルギーを補給できる時間になった。
麗日には誘われたけれど面子的に堅苦しそうな感じだったし(緑谷と飯田)この前の縁もあってか八百万に誘われたのでそちら側に乗ることにした、レディーファーストってやつだ。
八百万とついでに浮いている服の子とピンクの子がいたので(男女比的にまずいことは流石の俺でも解った)静かに教室を出ようとする轟を何とか捕まえたところまでは良かったが、そこで思わぬ奴が現れたのは本当に驚きを隠せなかった。
いたことよりも驚いたのはその言葉と佇まいだったのだが……
「あんたに昼ご飯奢ってあげる、それで昨日のことはチャラ!それでいいでしょ?」
入学初日と昨日は親の仇を見るような眼で見られていたような気がしてならないが今日は少し違って柔らかくなっているのか……この前よりかは話し合いの余地があるようにも思えた。
一方的に拒絶されている訳ではなくて認められた、は言い過ぎかもしれないがそれに近い感触を得てしまったのが正直な感想だ。
なんせ俺も認めてしまっていたから、その思いが一方通行なんかではなくて互いに互いを認め合っていたというのならとてもうれしいことではあった。
昨日の敵は今日の友、そんなあり得ないような言葉が思いつく、敵の敵は味方というのは納得のいく言葉だったが昨日の敵はなんとやらという言葉が現実的に実用性のあってしまうものであるといいものを学べたのは結構な収穫かもしれない。
「それは助かるよ、奢ってくれるというのなら本当に容赦なく食べるけど?」
挑発的に言葉を返す、仲良しこよしでもいいがこいつとではそんな関係は嫌だ。
売り言葉に買い言葉、会話のドッジボールをしていたほうがしっくりくる。
実力も高い志も認めてしまったからこその俺なりの心遣いだ。
「あんた本当に遠慮ってものを知らないのね」
「それはお互い様だろう?」
「それでは行きましょうか」
苦笑いをしながらも八百万が仲裁をしてくれた、最初合った時から思ってはいたが責任感の強いみたいだ、あと言葉遣いから推察するに結構なお嬢様。
現在副委員長という事もあってか面倒見のいい同級生だなぁ。
「轟、昼何食べる?」
「そばの冷たいやつ」
「お、いいね!うどんは?」
「好きじゃない」
「成程な!俺はうどんもそばも好きなんだけど熱いやつだけはダメなんだよ」
「そうか」
「猫舌?それとも個性と関係あり?あ~でも轟は半々だから関係あるのか?」
単純な疑問だった、例えば個性が猫の人であれば熱いものは好まないし野菜より肉を好む、まぁ動物であればわかりやすいが麗日や俺の生物に関係しない個性などを持った場合にはどうなるのだろうというクエスチョン。
しかし、話題の軽さに相反するように瞬間空気が凍り付いた、正確に表現するのであれば冷たくなったというよりかも重くなったという表現の方が正しいのかもしれないが。
全く無意識の質問がほんの一瞬だけ重苦しい雰囲気を作り、空気があまり読めないとよく言われる俺ですらも触れてはいけない部分に触れてしまったのが分かる。
悪気がないのが幸いしたのか轟は直ぐに元のように冷静で澄ました雰囲気に戻り猫舌だよ、とそっけなく返した。
俺はうどん、轟はそばを選んだため少しだけ距離が遠くなる、人が多いのも関連して俺と轟の間での会話は終わる、俺は轟のことを何も知らない。
個性が様々な社会問題を起こす原因であり非常にデリケートな問題であることは知っていたのについうっかり自分の興味を優先させて聞いてしまった、これからは轟に個性に関する話題を無神経にするのは止めよう、出来る限り……
反省はしている、懲りてはいないけれど。
もしかしたらまた興味を優先させて聞くかもしれないがそうであれば仕方がない、だってそんなこと気にし過ぎたら楽しくは無いから。
そういえば美雷の奢りだったことを思い出してうどんを大盛りに、更にトッピングを好きなだけのせてひとまずうどんを席に置く、すごく騒がしくて人が流れるようにどこかに向かっているが背に腹は抱えられないので個性を使って同級生含め先輩方を表現するならなぎ倒すようにして食券売り場に向かう。
いや本当に煩わしい、阿鼻叫喚だ、いったい何があったかは知らないけれど五月蠅すぎる!
そういえば何かアナウンスが流れていたな……えっと雄英バリアがどうのこうのだったけか、サイレンもうるさいしいったい何があったんだ?人の昼食を邪魔する程の事なんてそうそう起こらないと思うけどな。
って、冗談抜きでうるせぇ!避難訓練か何かが行われているのか?こっちは学校で一番楽しみな時間なのに……なんて言っても確かランチラッシュ?だっけか、普通に料理人としてもすぐれている人の料理を学校で、しかも人のお金で食べれるなんておいしすぎるだろう。
密度凄いなぁ、個性使っているから事なきを得ているけれど普通に人ごみに揉まれたらすごいことになっているだろうなぁ。
「痛い!誰だよ押した奴!?」
「押すなって!」
「おい、お前なに肩ぶつけてんだよ?」
「白黒野郎!ぶっ殺すぞ!!」
おお、怖い怖い。
同じクラスの聞いたことあるような声も聞こえてきたぞ……
「大丈―夫!!ただのマスコミです!なにもパニックになることはありません大丈―夫!」
飯田、何しているんだ?
非常口の標識みたいになってはいるけれど、ちょっと怖いぞ。
というか非常口と書かれたランプの上って結構耐久力あるものなんだなぁ。
飯田のおかげで水を打ったように静まり返った食堂内は非常にスムーズに非難が行われた、それもあってかランチラッシュの姿は厨房になく泣く泣く人ごみを押しのけて席に戻ると俺のうどんは既に床に食べられていた。
要は俺のうどんはあの有象無象のせいで無残にも食べれなくなってしまった。
個性を展開していたから分かるがこの気の群れ具合と小ささから判断するにマスコミの類だろう……スクープを取るためならば女性や子供を押しのけるあのハイエナ精神には虫唾が走る、昔も結構酷かったらしいけれどああいうのがいるからヒーローという職業がおかしくなっているらしい。
全部お酒を飲んで溢した姉さんの情報だが思わずこぼれる現場の愚痴というのはインターネットで披露情報よりも確信できるのではないかと俺は思っている。
今は前線から退いてとあるヒーローの手伝いを静かにしていると言っているけど、正直言って今借りている部屋や家電、内装はそういう類の者には興味ない俺にもわかるほど高価なものだと理解できる、今はどんな仕事をしているか頑なに隠しているからそれ以上は追及できないけど現状から考えると少し怖い。
危ない仕事についているのかそれとも高給取りのヒーローのサイドキックかはたまた別の業務か、にこやかに笑ってはぐらかすけれど正直怖い、美雷のように透き通り青みがかった月のような綺麗な白ではなく日に当たれば本物の銀にも負けず劣らず綺麗に伸ばしていた髪が目も当てられない状況になったこともある、命ともいえる顔にも髪では隠しているが傷もいまだに残っている、親というものをよく知らない……記憶にあまりない自分にとっては唯一の肉親でやっぱり心配だ。
けがをして帰ってくることも少なくなかったし何度も病院へ訪れたこともある、今思い返せば俺が車にはねられたときあそこまでこっ酷く説教されたのは納得がいかない。
まぁそれは少し置いといてある程度は嫌な予感というのが鍛えられた、その俄かに信じがたい所謂第六感というのが少しだけざわついていた、昼食が無くなって苛立っているのかそれとも本当にそういう感が働いているのか定かではないけれども、不穏な何かを感じ取ったのは確かだ。
しかしそんな事情なんてさて知らず、渦中の中へ引きずり込まれるのは最早時間の問題だった。