鈍色の処女達〜ノベライズ版   作:高嶋ぽんず

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chapter:聖應女学院、生徒会室
第1話


 第二次大戦時の英国空母、ユニコーンを模した中型学園艦である聖應女学院艦は、現在東京湾外二十キロ沖の太平洋上を航行していた。

 季節は晩夏を過ぎて初秋を迎えようかという九月初頭。

 あの大洗学園存続をかけた大学選抜戦から一週間ほど経過したころだった。

 二人の女性が、肩を並べて一緒に生徒会室へと向かう廊下を歩いていた。一人は腰までもあるかという銀髪の美しい女性。もう一人が同じく長い黒髪が艶やかな美少女。二人とも平均的な女子高生の身長より頭一つ分高いが、二人ともボディラインの均整がとれていたため、その背の高さを感じさせなかった。

 二人の後ろには、極端に背の低い病弱そうな女の子と、反対に闊達そうなショートヘアの女の子がついてきている。

 先を歩く二人の乙女は、月に一度はエルダーの慣例だからと何かと行事に駆り出され、週に一度は学院の厄介ごとについての相談で呼び出されていた。これももう何度目なのか。指折り数えるのも面倒になったころには、二人ともいろいろと諦めがついていた。

 今回はどのような無理難題を言われるのか、それを考えただけでため息がでそうになる。実際、生徒会からのお願いという名の強制は突飛なものや、経験のないことばかりであまり受けたくないのが真実であった。それでも、それを全校生徒が望んでいて、その全校生徒から選ばれたのが自分なのだ。

 銀髪の乙女は、ふとある時の生徒会長とのやり取りを思い出した。

 そのとき彼女は、お嬢様学校なのだからなにもここまでイベント尽くしにする必要はないのに、と生徒会長に訴えたことがあるのだが、お嬢様学校だからこそこのイベント量なのだと生徒会長は答えたのだ。

 いわく、お嬢様が送る自宅での日常は退屈で何もなく、ただ過ぎ去っていくだけで、だからこそ、そんな彼女たちが通う学校はイベントを大量に開催し、思い出にしようとしているのだと。

 それを聞いてから、銀髪の乙女はそのことについては一切文句を言わなくなった。

 二人は、こつこつと歩を進め、生徒会室の扉の前にたどりついた。

 そして、銀髪の乙女はノックを四回。

「どうぞ、お入りください」

 中からかわいらしい声が聞こえてくる。

「失礼します」

 許可を得て、黒髪の乙女がドアを開け、銀髪の乙女が断りの言葉を紡ぎながら中へと入っていく。

「いらっしゃい、千早ちゃん、薫子ちゃん。あのね、二人には折り入ってお願いしたいことがあるの。いいかしら」

 生徒会長として聖應女学院の学園艦を統括する皆瀬初音は、二人が生徒会室に入ってドアが閉ざされたのを確認すると、そう彼女たちに告げた。

 生徒会長とは違う、学院を代表する生徒であるエルダーシスターである。

 六月末に全校生徒の投票により最上級生から選出されるエルダーシスターは、全校生徒の模範として生徒全員の姉としてシスター、あるいはエルダーと呼ばれ、全校生徒の憧憬と尊敬を一身に担う特別な生徒だ。

 普通なら選出されるのは一人なのだが、本年は票が二人に真っ二つに分かれたため、初の二人のエルダーとなった。

「どんなこと?」

 黒髪が腰まで長い生徒が声を上げる。

 七々原薫子。ナイトの君とも呼ばれる、凛とした雰囲気の生徒で、剣道、フェンシング、戦車道を嗜む。

「エルダーシスターとなった方には、戦車道を履修することを望まれているの」

 と、初音がすまなさそうに二人に言った。

「もちろん、体力がないエルダーは履修を勧められてなかったの。それで、ここ何年か履修できるエルダーがいなかったのだけど、二人なら体力あるでしょう? それに、先の戦車道全国大会での大洗女子の活躍からか、最近はわが校でも戦車道履修者が盛り上がってるようだし、二人にはそのためにもできれば履修してほしいの」

「その……私は、合気道などはやっておりましたが、戦車道は……」

 銀髪の大人しそうな印象が強い彼女――正確には、彼なのだが――が、妃宮千早。白銀の姫君とも呼ばれ、妖精のような美貌と静かなたたずまいが、全校生徒を魅了するもう一人のエルダーだ。千早は、さる事情で理事長の承認のもと、女子高であるこの学校に通っている。

 このことを知っているのは一部の教師と、何人かの生徒だけで、表向きは女性として通っている。

「ああ、私はちょっとだけやったことがあるけど、でも経験者っていうほどじゃないよ」

「お願い、できないかな」

 初音が、上目遣いの困り顔でお願いしてくる。二人は、彼女のこのお願いを断れたためしがない。

 が、それでも千早は拒否しようとする。戦車に乗るのは女性、という男性としての固定観念がそうさせているのだろう。

「できれば、私は辞退……」

 いくら女装していてこの学院では女子生徒として通ってるとはいえ、男だ。さすがに拒みたくなるのだが……

「わたし……ちはやがせんしゃにのってるとこ、みたい……」

 千早についてきた栢木優雨(かしわぎ ゆう)が、静かに訴えた。

 彼女は一年生でとある病を患っていたが、夏休み中に手術を受けて今は少しずつ健康を取り戻しつつある。背が低く、小動物のような印象の女の子だ。生徒会長のお願いと同じく、優雨のお願いも断れたためしがない。何かにつけて、そういう弱みがあるのが千早だ。

 基本的に、頼られると断れない性格なのかもしれない。

「千早様、通信手ならお手伝いできます」

 千早の侍女である史が、ダメ押しに訴える。史は、千早が男性であることを知っているはずなのにだ。

――史……どういうつもりですか。

 そう心の中で訴えるも、テレパシーを使えるはずもない彼には史に自分の思いを伝えられるわけもない。

「優雨、史……」

「どうする? 千早。わたしは構わないけど」

 と、薫子。ニヤニヤしているのは、彼女の意地の悪さだろうか。彼女も千早が男性であるのを知っているのだ。

「はぁ……仕方ありませんね」

 深いため息をつく。

「じゃあ、引き受けてくれるの?」

 初音の表情がぱっと花咲かせたかのような明るい表情になった。

 千早は、一度引き受けたら、自身のできる限りその頼みごとを全うするのを知っているからだ。

「ええ……」

「よかったぁ。あのね? うちの学校は、イギリス系ということもあって、戦車はイギリスの戦車のみになってます。で、戦車道受講者は百名ほど」

「そんなにいるのですか?」

 戦車のことをよく知らない千早は、履修者の人数に驚いた。もっと少ないもの――せいぜい三十人とかその程度と思っていた。

「そうよ、千早ちゃん。戦車一台につき、大体三人から五人が必要。で、公式戦は最大二十輌で行われるからそれぐらいはいるの。で、中学からの経験者は五十人ちょっと。エルダーには、センチュリオンmkⅠの車長を務めていただくのが慣例になってるの」

「そっか。じゃあ、千早が車長で私がセンチュリオンの装填手かな?」

 薫子が、んーっと背伸びをしながら言った。

「え? その、私みたいな未経験者が車長やるより、戦車道経験者の薫子さんがやったほうがよろしいのでは?」

「そうなんだけどね。装填手って、あれで車長よりも大変なんだよ。私は装填手もやったことあるし、ここは絶対千早が車長やったほうがいいって」

「かしこまりました。それでは、私が車長をやらせていただきます」

「うちってイギリス系ですよね。ってことは、やっぱり英国面な戦車があれやこれやと……」

 今まで静観を決め込んでいた一年生――宮藤陽向(くどうひなた)が、嬉々としてつぶやく。

 元々中流階級の娘だったが、母親が資産家と再婚してからこの学院に通うことになった変り種だ。水泳部と文芸部の二束の草鞋を履いていて、見た目や普段の言動のイメージとは違い知性派でもある。エルダー二人や、生徒会長、優雨が住まう学院の寮に住む寮生で、彼女もなにかとエルダー二人について回る。

「残念ながらカヴェナンターはありません。あんなの使ったら、乗員か大変な事になっちゃうでしょう。それじゃ、お願いしますね?」

 

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