鈍色の処女達〜ノベライズ版   作:高嶋ぽんず

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chapter:櫻館談話室
第3話


 三人はその後、戦車道受講者と顔合わせをし、千早と史は戦車の基本的な操作について簡単なレクチャーを受け、薫子はセンチュリオンの装弾や車内での立ち回りについての詳しい規則を学んで終了となった。

 初秋であるにも関わらず、残暑厳しい中で戦車道の練習なのだから、三人はあっという間に汗みずくになり、とるものもとりあえず、学院の敷地内にある生徒用の寮、櫻館にまで戻ってきた。もちろん、その場のシャワー室で汗を流すこともできたのだが、千早が男性という事情もあり、下手なところで汗を流すことができないので、寮まで戻ってきた次第だった。

 そして、寮に戻るや否や、薫子と史は遠慮する千早を無視して一番に風呂に叩き込み――千早はもともと汗を極端にかくような体質でもなく、体臭がきつくないのだが、やはり何かの間違いで男性と感づかれてはまずいと、遠慮する千早を無理やり先に入らせたのだ――、その後でゆっくり薫子と史が湯船につかった。

 三人は、そうやってなんのかんのとやることを済ませ、晩御飯も終わらせた。

 千早はそのまま、寮の談話室で全国高校戦車道大会の決勝ダイジェストを見ながら、一人あることに思考を巡らせていた。

「どうしたの? ずいぶん難しそうな顔して本読んでるけど。眉間のシワ、残っちゃうよ?」

 晩御飯のあと、部屋で宿題をかたずけていた薫子が、宿題を終わらせたのかそれとも休憩か、談話室へと出てきた。

「ああ、薫子さん。戦車道の件について、ちょっと考えてました」

「どんなこと?」

「センチュリオンの乗員についてです」

「あ……」

 即答した千早の言葉に、薫子は言葉を失った。

 自分ではどうにもできないことと決めつけて考えないようにして、忘却しようとしていたのに、千早は帰ってから対策を考えていた。それを気づかされたからだ。

 テレビ画面には、ポルシェティーガーを先頭に、煙幕をたなびかせながら小山を降りていく大洗学園の様子がうつっている。

「一人足りないのですが、それを美作さんにお願いしようと考えたのです。ですが、美作さんは恐らく、生徒たちをまとめるだけで精一杯のはずです。あの方の決意を無視するわけにもいきません。センチュリオンに乗っていただくのは流石にためらわれます」

 千早は、そんな薫子の考えなど気にせずに、思索していたことを吐露する。口に出して、思考していたことを明確にしているのだろう。

「かといって、ことがことだけに誰かに簡単に頼るわけにもいかない、か」

「そうです。乗員の役割を確認したところ、車長、装填手兼通信手、操縦手、砲手の四名となっています。車長は私、装填手は薫子さんにお願いするとして」

 千早が言葉をとぎらせたところで、史がティーカップとシナモンスティックを入れたガラス容器、それに紅茶の入ったプランジャーポットを盆にのせてやってきた。

「千早さま、薫子お姉さま、紅茶をお煎れ致しました」

「あ、いい香り」

「薫子お姉さまのぶんもあります」

「ありがとう、史」

「さっすが史、気が利くぅ」

「あら、いい香りね。シナモンティー?」

 用事があったのか、今まで外出していた寮生の神近香織理(かみちか かおり)が戻ってきた。大人びていてミステリアスな雰囲気と、学院の生徒の中ではちょっと異質な知識を持っているため、その手の悩みを抱えている生徒のよき相談役となっている。

 以前は下級生に手を出したりしていたが、最近はそんな悪癖もなりを潜めている。

「香織理さん、お帰りなさい」

「ただいま、千早」

「千早さまがお悩みになられていたので、気分転換にと。香織理さまもお飲みになられますか?」

「お願いできる?」

「かしこまりました、少々お待ち下さい」

 史はそう答えると、キッチンへと戻った。

「それでどうしたの? 随分難しい顔をして」

「エルダーの慣例ってことで、いきなり戦車道やることになったんだけど、戦車の乗員でちょっとね」

 薫子が、頭を悩ませている千早の代わりに答えた。

「ああ、センチュリオンの乗員が一人足りないってこと?」

「どうしてわかったんですか? 香織理さん」

 千早がちょっと驚いて、自分の悩みを知っていた香織理に尋ねる。

「日陽(ひなた)が昨日から煩いのよ。お姉様と戦車の取り合わせがー、とか、センチュリオンがー、とか、耳にタコができそう」

「ははは……」

 薫子は、寮で香織理の妹として身の回りの世話を担当している陽向がどんな風に香織理にそのことを教えたのか、想像して乾いた笑いを漏らした。

「香織理さん、誰か心当たり無いかしら」

「んー……流石に戦車道をやってる知り合いはいないわねぇ。初音に協力してもらったら?」

「それも流石に。私たちや生徒会長が募集したら、ちょっと大変なことになりそうだから」

「それもそうかぁ。じゃあ、陽向に誰かいないか聞いておくわね?」

「香織理さま、お待たせいたしました」

「ん、いい香り。史。相変わらず上手ね。陽向もこれぐらいできてくれたらいいんだけど」

「ありがとうござます。ところで千早さま、戦車道の選手の件ですが、御前に協力を仰がれてはいかがでしょう」

「雅楽乃に? あの娘に、そんな知り合いいるかしら」

「ここで眉間にシワ寄せて唸ってるよりはましだと思うよ」

 薫子は、紅茶をシナモンスティックでかき混ぜながら他人事のように言った。

「そうそう、千早の眉間、シワの後できてるもの。可愛い妹たちが見たら、心労で卒倒し兼ねないわね」

 と、香織理がちゃかす。

「そんなに難しい顔してたかしら」

「してたしてた。もう、戦車のわだちかってぐらいくっきり。明日からは、私も誰かいないか探してみるから」

「お願いね、薫子さん」

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