鈍色の処女達〜ノベライズ版   作:高嶋ぽんず

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chapter:聖應女学院、温室
第4話


 かなりの大きさを持つその施設は、多品種の観葉植物が栽培されていて、園芸部が中心となって管理運営していた。

 ここで育てられた観葉植物は、なにかしら大きな学院の行事があったり、あるいはエルダーの誕生日がきたりすると、育てた観葉植物を使い学院を飾ることになり、わりと重要な施設となっている。

 質の良さから、たまに業者が仕入れたいと申し出てくるのだが、よそにわたせるほど余裕があるわけではないので、その度に断っているという。

「姿子(しなこ)さんの話だとこちらにいるはずなのだけど――雅楽乃はいるかしら」

 千早は、その温室へとある人物を探してやってきていた。姿子とは園芸部の部長で、観葉植物の温室はもちろん、野菜などを育てている工場なども統括する優秀な生徒だ。

「はい、お姉様、こちらです」

 名前を呼ばれた生徒が、言葉を返してくる。

 藤棚の下にしつらえられた棚の奥からやってきた。黒髪の長い、くりくりとした瞳と丸顔が印象的なかわいらしい容姿の二年生だ。

 哘雅楽乃(さそう うたの)といい、その動じない姿勢や落ち着いた物腰は年齢にしては不相応なほど大人びていて、それゆえか御前とあだ名され、なにかにつけて同級生や下級生、たまに上級生からも相談事を持ち掛けられている。

 さらに教師からの信頼も厚いためか、次期エルダー候補の筆頭と目されていた。

「ああ、ここにいたのね、雅楽乃。ちょっと相談したいことがあったのだけど、今は大丈夫かしら」

「お姉様が? 私がお役に立てられるのでしたら、是非」

 心から尊敬し、敬愛する千早からの相談だ。

 雅楽乃は、そんな千早に頼られることがうれしいのかにこやかに頷いた。

「実はね、雅楽乃。私と薫子で今度、戦車道を受講することになったのだけど、一人欠員が出てしまって、どうしても受講者以外から選手を探さなければならなくなったの」

「その一人に心当たりがないか、という事ですね?」

「ええ……無理なお願いなのはわかっているのだけど」

 千早は、すまなさそうに雅楽乃の問いに頷いた。

「ふふ、ところがそうでもないのですよ、お姉様」

「え? あてがあるの?」

「あるんですよ。実はもう、お姉様が戦車道を受講するというニュースはすでに学院中に流れていて、私のところにも話が流れてきているのです。そして、なにかお手伝いができないか、と私に相談してくる方が何人かいらっしゃってます」

「では、その中に戦車道の経験者がいるのですか?」

 雅楽乃は、ふふ、と笑うと首を左右に振った。

「残念ながらいませんでした。ですが、それとは別に一人だけ、経験者がいたのです」

「その経験者とは、どなたなのですか?」

「ケイリさんです。確か、そろそろこちらに来る頃です」

「Speak of the wolf and he will appear.

 日本では、噂をすれば影がさす、だったかな? ごきげんよう、二人とも」

 そんなセリフとともに、背の高い生徒が顔を出す。

 モデル体型で、ハーフである彼女の容姿は在籍する二学年のなかでも異質なほどに美しい。

「今、ちょうどケイリさんの事が話題になったところでした」

「ケイリ……」

「どうやら千早はお困りのようだね。どうかしたのかい?」

「戦車道をやることになったのですが、乗員が一人足りないのです。ケイリ、先ほど雅楽乃から戦車道をやっていたと伺いました。手伝って頂けますか?」

「千早にしてはまた珍しく話が急だね。もう少し詳しく説明してくれるかな」

 ケイリは、千早の性急な態度を落ち着かせるように問い直した。

「そうですね……失礼しました。ケイリももう知ってると思うのだけど、私と薫子が戦車道を受講することになったの。それで、エルダーはセンチュリオンに乗るのが慣例らしくて、センチュリオンをつかうことになったのだけど、どうしても一人、乗員が揃わなくて……」

「薫子も探してたようだけど、どうして戦車道受講者に頼まないんだい? その方がよほど簡単で早いと思うよ」

「それは、彼女たちの矜持のためです」

「矜持?」

「ええ。美作さん――戦車道隊長さんは、こうおっしゃっていました。『戦車とは、戦車が強いのではない。戦車乗りが戦車を強くするのだ』と」

「千早?」

「戦車を強くするのも弱くするのも、乗員次第。彼女たちは、今乗っている戦車をより強くするため、今自分たちが乗っている戦車に集中させてほしい、と言いました。私は、その思いを無碍に扱いたくありません」

「そういう事なら納得するよ。それに、他でもない千早の頼みだ。断るわけにはいかないかな」

「感謝します、ケイリ」

 最初の問題がクリアされ、千早はほっと安堵の吐息をつく。

「それなら私もお姉さまを、別の方向からお手伝いできるかもしれません」

 そう言って、雅楽乃はどこからか携帯を取り出して電話をかけ始めた。

「雅楽乃、それはどういう意味でしょう」

「私、華道の関係で五十鈴流と面識があるのです」

「五十鈴流?」

「はい。大洗女子の戦車道チーム、あんこうチームの五十鈴華さんのお母様が家元の華道の流派です」

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