エイナ・チュールの冒険   作:バステト

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受付もしているアドバイザーさんは大変だと思います。




受付

 ここは迷宮都市オラリオ。その中心部のギルドで私は受付嬢として働いている。ギルドは、迷宮を管理し、迷宮に潜る冒険者に様々な情報を提供し、魔石やドロップアイテムを買い取り、販売している。そしてオラリオの都市としての機能を支えている。迷宮から冒険者がアイテムを持ち帰ることでギルドとオラリオは成り立っているといってもよい。そのため冒険者にはできるだけ協力するように指示が出ている。そして、私も受付嬢であるからには冒険者に協力ができるように日々努力している。

 さらにギルドはオラリオを管理しているわけであるから、冒険者ではない一般市民にもできるだけの対応はするようになっている。つまりは、冒険者に関しての苦情受付などもやることになるのである。そしてそれを受け付けるのは受付嬢なのである。

 

 そして目の前にいる暗い目つき男は切々と訴えていた。いわく冒険者が夜通し悲鳴を上げる、いわく使っている薬品?の悪臭がひどい、いわく怪しい格好で歩いているなどなど・・・陰気な雰囲気を漂わせながらも、よほど不満がたまっているのか延々としゃべり続ける。ずっと聞いているとこちらまで陰気な気分でつぶされそうになる。二時間ほどしゃべり続けてようやく満足したのか、男は、どうにかしてほしいと最後にもう一度訴えて帰っていった。

 それを見送っていると同僚のミィシャ・フロットに声をかけられる。

 

「また苦情だったの、エイナ?」

「ええ、おんなじ内容。死体が叫んでいるような悲鳴が聞こえるからやめさせてくれっていう・・・」

「この苦情、定期的に出てくるわよね」

 それだけギルド内部でも静かな噂になっているのだ。実際、市民からの同様の苦情は今回だけではない。ここ何か月か断続して続いている。冒険者同士のいざこざにはギルドは基本的に不介入であるが、一般市民まで巻き込むとなると話は別である。ここまで長期間にわたって苦情が出続けていると放置するわけにもいかないだろうと考え、私はため息をつくと上司に報告に出かけた。

 

 私がまた例の苦情がきたと報告すると、上司のアングリーはため息をついた

「また例の苦情か・・・仕方ないエイナ君。君にこの件の対応をすべて任せることにする。君の判断でやりたい用にやってくれ。怪物祭までは一時的に受付業務は停止して、しばらくはこの件に集中するように。」

 私は不満を顔に浮かべることはせずに了承した。現在の業務はどうするか訊ねると、受付業務はミィシャとサギリで分担して引き継ぐことになった。怪物祭が近くいつもより業務が増えているのに二人はだいじょうぶであろうか・・・。

 

 まずは苦情の確認である。

 場所と時間、そして定期的に発生しているかどうかなどなど・・・・

 場所はほぼ固定?でオラリオ南西部分で住宅地と倉庫地帯の端の二箇所である。時間は特に決まっていないがやはり真夜中が多い。発生間隔としては・・・・特に決まっては居ないようだ。一月以上間隔があくときもあれば、一週間とあけずに起こることもあった。また三日続けて起こっている場合もある。これは実地調査が必要そうだ。ため息をつく。受付嬢だから苦情を受け付けるのはまだわかる。それに対して実地調査をしなければならないのもわかる。だが受付嬢がする業務だろうか。大いに疑問に思うが、任された以上は仕方ない。とはいえ、一人で調べるようにとはいわれていない。現地を下見した後は、ミィシャに協力を頼むことにしよう。そう考えて、私は今日は現地調査、その後帰宅ということにして、着替えることにした。

「冒険者が絡んでるんだから、くれぐれも注意してね」

 ミィシャが心配して声をかけてくる。あぁ、なんだかいつもと立場が逆だと私は苦笑する。いつもは私が冒険者に心配して声をかけるというのに、これではまるで私が冒険者になったようだ・・・

「昼間に悲鳴が聞こえることはないみたいだから、今は大丈夫と思うよ。それに冒険者が原因としても今現在はダンジョンに潜っているはずだし」

 グレイの帽子をかぶり、耳を隠しながら答える。悪いことをしているわけではないのだが、一応は身元がすぐにはわからないようにしておいたほうがよいだろう。何が起こるかわからないのだから・・・

 

 

一箇所目

 

 そしてエイナはオラリオの町中を歩いていく。目的地は、オラリオ南西部エリア。住宅地と工場地域の境目という、いわば両者が混ざり合った場所である。ここを最初の目的地にしたのは簡単な理由。ギルドから近い場所だからである。三十分ほど歩いて、最初の目的地に到着する。このあたりは倉庫が住宅街の中にいくつか立っている場所である。何人か作業者が荷馬車に荷物を積み込無作業をしている。他にもすでに今日の仕事を終えたのか、ぶらついている作業者も居る。その中の一人がエイナに絡んできた。

「こんな所を女一人で歩いているとは珍しい、道に迷ったんじゃねえか」

 普通の女性だったらすこしびびったりするのであろうが、あいにくと私は受付嬢。この魔石はもっと高く売れるだろうなどどわめきたてる冒険者に比べれば、この作業者はヒヨコのようにかわいいものだ。落ち着いて私は答える。

「この先のハビタットさんの所(倉庫)に用事があるんですけどね。迷っていないので大丈夫ですよ」

 これ以上邪魔をしないでほしいなぁと思いつつ、にっこり笑う。

「いやいや、ハビタットさんところは俺もしってるけど、一個道を間違えてるぜ、案内してやるからついてきなよ」

 にへらにへらと笑いながら相手は答える。。

 だが相手の男にとっては幸運なことに別の人物が介入してきた

「おやおや、どうしたんですか、お二人さん」

 身長170Cぐらいの優男風の黒髪の人物がエイナに声をかけてきた。それはエイナとは顔なじみであったというよりも、エイナが担当している冒険者の一人であった。

「いやなに、道に迷っているみたいだから案内してやろうってんだよ」

 お前は引っ込んでなと表情で脅しながら作業者が言う。

「んー、ハビタットさんところでしょ、じゃあ、こっちであってるじゃん。適当なこと言ったらだめだよ、お前さん」

 冒険者がいい、作業者に近づくとなにやらぼそぼそと耳打ちした。

「ん、ああ、俺の勘違いだったみたいだな」と手のひらを全力で回転させる態度で作業者は仲間のところに戻っていった。

 それを見届けて冒険者はエイナに顔を向ける。

「昼間のこんな時間がら街中にいるとは珍しい、お休みなんですか?」

「いえいえ仕事なんですよ」

 エイナは営業スマイルを浮かべてこたえる。

「じゃあ、付き合います」

 その言葉に何を言ってるんだろうという表情を浮かべるエイナ。

「まあ、護衛と思ってください。邪魔はしませんから」

 にこやかにほほ笑む冒険者。一応は私の担当している冒険者である。名前はザラ・イェール・キッシンジャー。優男の外見であるがこう見えて女性である。そして彼女はレベル3と上級冒険者なのである。ときどき無茶をすることがあるが、それ以外の点ではだいたい信頼できるという普通の実力ある冒険者である。まあレベル3が普通かどうかはおいておくが。

「まあ、いいですけどね・・・」

 苦笑しながら私は答える。本来ならばギルドの仕事に一ファミリアを関係させることは、そのファミリアに肩入れしているという疑惑を呼ぶので敬遠される事である。だが、苦情を言う市民の『死んだときのような声』という表現が気になっていた。エイナ自身はモンスターと一対一で出会ったことはもちろんない。荒事にもほぼ無関係で生活している一般人である。そのため冒険者相手に面倒ごとになったらという不安があり、護衛をしてくれるという申し出は、実を言うとありがたかったのである。また上司のアングリーからの白紙全権委任に近い『この件の対応をすべて任せる』という言葉もあるので問題はないだろうという判断であった。

 あとは、まあ、ザラには失礼な話ではあるのだが、一見男にしか見えない彼女の風貌、だけど実際には女というのもありがたかった。やはり、女だけというのは時々相手に軽く見られるのは、悔しいことではあるが事実であった。かといってこれが男の冒険者が護衛をすると、いろいろと勘違いをするかもしれないので、後々別の意味でこれまた面倒なのである。それらを考えるとザラが護衛をしてくれるというのは大変にありがたかったのである。ちょっと心細かったということは断じてないのである。

「で、さっきの男になんていったんです」

「ん、ああ、ハビタットさんの知り合いかもしれないからトラブルの元になるようなことは止めたほうが良いよって言っただけですよ。ハビタットさんのお得意さまだったらお互い困ることになるんじゃないと。たぶん彼の上司がハビタットさんだろうし・・」

「まあ、助かりましたけどね・・・」

 

 

 さて、聞き込みで叫び声がどこから聞こえてくるかを確認しないといけない。

 まずは適当に家を選んで事情を聞き始める。最初の家で出てきたのは中年の女性。噂話が好きなようで、水を向けると楽しそうにいろいろと教えてくれた。いわく、叫び声が良く聞こえる、どこから聞こえてくるのか外に確かめに出ると(ちなみに本人ではなく旦那さんが外に出たそうだ)、いやな気配がする光がうっすらと見える、不愉快なにおいが時々昼間でもする、挙句の果てには近所で不穏な気配がする(はっきりと見ていないが、モンスターでも居るんじゃないのか?)だのだの、本当かどうか眉唾物の話まで、いろいろと話してくれた。情報量が多すぎて、嘘なのか本当なのか混乱してくる。たぶん、この女性もいろいろと話を聞いているうちに自分でもすべて本当だと思い込むようになっているんじゃないだろうか。

同じ話をまた繰り返し始めたところで、時間も押し迫ったことですしといって話を切り上げ、礼を言って退出する。ザラさんもまじめに話を聞いている。

 そしてさらに追加で何箇所かで聞き込みをする。幾つかの事務所では忙しいのでと相手にしてもらえなかった。まあ昼間なら、それぞれに仕事があるだろうから仕方がない。だが個人宅では親切に対応してもらえた。主に私が話を聞き、ザラさんは後ろで控えている。

 

 

 お昼ごろまで聞き込みをして分かったことは、叫び声が聞こえるがどこからかはよくわからない。つぎに、妙な気配がする光。そしてこの光はどこから出ているのかわからない。関係はないと思うが昼間でも夜でも時々嫌な臭いがする。苦しそうな叫び声がかすかに聞こえる。あとあまりにも馬鹿馬鹿しいのであるが、人間じゃないものの視線を感じる。。。人間じゃないものと書いたが最初の家と最後の家ではモンスターの視線とはっきりいわれた。街中にモンスターが居るわけがない。それはまあ、怪物際やテイムされたモンスターなど例外があるが、それは、あくまで例外である。モンスターをダンジョンから連れ出してどうするというのだ。

 

 

 叫び声が聞こえる日時は、ギルドでまとめた資料とほぼ一致している。声の大きさなどを脳内マップに記入していき、叫び声の発生源と思しきところを絞り込む。先程名前を挙げたハビタットさんの倉庫周辺であった

 とりあえず、一箇所目としてはこれで十分な調査結果であろう。私は次の場所に移動することにした。

 私自身はやりたくないなぁと思っていたことを、ザラさんが口にする。

「音の出所を探すためには実際に夜に確かめにきたほうがよさげですね」

 たしかにザラさんの言うことももっともである。でも、誰が好き好んで、真夜中に悲鳴の出所調査をやりたがるというのだろうか。私はやりたくないが、ザラさんはやりたい様だ。顔に書いてある。

「えーと、ザラさん、今日の予定とかはないのですか。結構時間をとらせてますけど大丈夫?」

「ああ、大丈夫ですよ、昨日ファミリアでの遠足が終わって、今日から暇なんですよ」

「遠足じゃなくて遠征ですよね」

「いやいやいやいや、うちでやってることは他のファミリアに比べたらめっちゃ小規模ですから、遠征とか言うのもおこがましいですよ。せいぜい18階層まで行って帰ってくるぐらいですから」

「いや、18階までいけるのでも結構実力が必要ですからね。間違えちゃいけませんよ」

「はいはい。とはいうものの、全員レベル2にはなってますからねぇ・・・まあ、それはともかく遠足の後始末はだいたい終わってますし、終わってない残務はぼちぼやれば良いですからね」

 いや、なんと言うか・・・他のファミリアの場合は、遠征から帰ってくると、ドロップ品の売却やら補給やらでいろいろと大忙しのはずなのだが、ザラさんのファミリアは何でこんなにのんびりなのであろうか。あきれている私の感情を呼んだのかザラは肩をすくめた。

「まあ、冒険者の数が少ないですからねぇ・・・しかも全力で冒険者しているっぽいの私一人ですからねぇ・・・」

 うん、確かにそうだった。確か20人いかないぐらいの、零細というわけではないが、小規模なファミリアだった・・・・しかもよくダンジョンにもぐるのはザラさんぐらいで、後のメンバーはファミリア内の事情でギルドでもあまり見かけないのである。

 話題を変えるためにも、今回私が実施調査をしている今回の件の話を説明する。

「へぇ、全権委任とは、信頼されてるんですね! 凄いじゃないですか」

 こう素直にほめられるととても嬉しく、顔が緩むのが自分でもわかる。

 ほかにも噂で聞いた新しく開店した店の噂話、ザラさんのダンジョン探索の話などをおしゃべりしながら移動を続けた。

 

 

 

 

 二箇所目の場所につく。

 こちらは住宅地とはいうものの、結構寂れた場所である。オラリオにこんな雰囲気の場所があるとは私は知らなかった。

 まずは適当に家を選んで事情を聞き始める。先程と同じで私が話を聞き、ザラさんは後ろで護衛っぽい態度のまま静かに話を聴くのである。話されることは最初の場所とほぼ同じ。嫌な臭いがする、妙な気配がする、怪しい光が現れる、時々だが声が聞こえるである。ただし声と入っても悲鳴ではなく、もっと別の喋っているような歌っているような声だそうだ。

 先程と同じく声の大きさなどを脳内マップに記入して見るが、データが少ないのでどこから聞こえてくるのかは分からない。これ以上ここで聞き込みをしても同じだろう。

 しばらく歩いた後で見つけた喫茶店に入り、ザラさんとこれからどうするか相談する。もう午後も遅いというよりも、もうそろそろ早い夕食でも・・という時間である。なのでいったん戻って、夜に再度出向いたほうが良いのか・・・このまま夜まで休憩なしに調査を続けるのはちょっときつい。いったん戻ることにしようか・・・ただ・・・・

「うーん、このまま適当に休憩しながら食事して、夜になったら調査っていうのが良いんじゃないですかね」

 ふむ、休憩に戻るということも考えていたが、たしかに現地で休息するという方法もある。盲点だった。その方法に賛成する。

 

 

 

 




補足

エルフの特性
優れた魔法能力と五感の鋭さに代表されるエルフ種全体の特性である。魔法能力の高さは、多種族の追随を許さないものがある。またドワーフ同様に可視光線の波長領域が、ヒューマンのそれよりも広範囲であり、多種族にとっての暗闇はエルフとドワーフにとっては暗闇たりえない。ただしダンジョン内部ではうっすらと明るいし、うっすらと霧がかかっていたりするので特に意味はない。この特性はハーフエルフにも備わっている。
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