ザラさんに肩をゆすられ目が覚める。短時間であるが、ぐっすりと寝ていたようで疲れはかなり取れている。
「エイナさん、そろそろ起きたほうがいい時間ですよ。あと服を・・・」
言われて気が付いた。私はまだ昨日、倉庫に侵入したときと同じ格好をしているのだった。さすがにフード付きマントと付け耳ははずしているが。
ロッカーに移動して、手早く着替えと身支度を済ませる。ザラさんがちょっと余裕を持って起こしてくれたので、ロッカーにも人は居ない時間で、問題なく支度ができた。
「これからどうします?」
質問に質問で返すのはよくないことではあるのだが、質問しないといけないことがあるのである。
「昨日はザラさんに聞き忘れたんですけど、『根暗の深恨』について教えてください」
また微妙な顔をされた。
「昨日、説明したとおりなんですが、邪教の神に関する事柄が書かれた本です。読むと呪われるとかいう噂があります。
で、まあ、実在するかどうかはともかく、名前自体は、その筋では有名な本なので、偽物でもいいので読んでみたいなぁと」
私は溜息をついた。呪われる本を読みたいとは、どういう精神をしているのであろうか
「あのですねぇ、ザラさん、そんな噂がある本を読もうとしちゃだめですよ。実際そんな本を参考資料にして、実験していたみたいですし。モンスターの拷問も含めて。もう滅茶苦茶ですよ」
ザラさんは、うーん・・・とうなりながらも、神妙な顔になって私の話を聞いている。
「で、邪教の神って言うのがよく分からないんですけど、なんていうか、ある一つの宗教体系からすれば、他の宗教体系の神はすべて邪教の神では? それに付け加えて言えば闇派閥とは違うんですか?」
そう、簡単に言えば、自分たちの子供である信者をたぶらかす余所の神はすべて邪教の神である。わざわざ『邪教の神』といわなくてもよいのではないかと疑問に思ったのである。ザラさんは困った顔をしている。言ってよいのかどうか迷っているようだ。目に力をこめてザラさんに無言のプレッシャーを与える。ザラさんはあきらめたのか溜息をついてしゃべり始めた。
「まあ、噂なんですが、そのう、『根暗の深恨』に関しての邪教っていうのは、闇派閥とかの邪教とは別の意味なんです。エイナさんが言っている神様には邪教の神も含めてすべて一定の共通項かあるんですが、分かりますか?」
いや、分からない。一般的には、神は自分の眷属に対しては基本的に優しい。だが、ソーマ・ファミリアのように眷属に対して無関心な神もいる。
「自分の信者に親切かどうか?」と適当に言ってみる。
「いえ、子供たちである信者が人であるということです」
ふむふむ?
「でも、バルゥムやドワーフやシアンスロープが信仰している神もいるわよ」
予想外なことを言われたが、ヒューマンだけが神を信仰しているわけではない。
「ああ、ここでいう人というのは、ヒューマン、ドワーフやシアンスロープ等全部を含めた人族という意味です」
私が怪訝な顔をしていると、ザラさんは何故か安心したような表情になった。
「うーん、でも神々に付いて書かれている本が何で研究の役に立つのかしら」
「それはよく分からないですね。私も噂で聞いただけですし。神について書かれていなくて、研究の役に立つ内容の本かも知れないですし。」
もう話したくないという雰囲気でもあったので、まあいいかと思い、次の質問をする。
「じゃあ、『名も無き魔術師の書』については? 名前からして、こちらのほうが役に立ちそうなんだけれど」
「ええそうですね。それについては、昨日もいったように、古代の魔術師が魔術に関してのメモをまとめた本です。最近は魔術に関しての研究はあまりされていないので結構貴重な本だとされてます。でも、そこまで珍しい本だというわけではなかったはずです。まあ、実験には確かにこちらの本が役に立つでしょうね」
えっと、ギルドでも冒険者が公表できている魔法についてはできるだけ情報を集めているんだけれど、ザラさんも知っているのでは? 疑問をぶつけてみた。
「魔法と魔術は同一のものであると考える人と、別物と区別して考える人がいて、どちらが正しいとは言いづらいんですよ。区別する人たちの考えは大雑把にはこうです。魔術というものは、魔力を動力源として世界に作用する『技術』。魔法は冒険者の資質が反映される『個人の能力』。
んー、具体例を挙げましょうか。体を透明にする魔法を持っている冒険者がいます。それとは別に体を透明にする魔道具を持っている冒険者がいます。両方とも、結果としては、体が透明になります。そして魔法を持っている冒険者は、その魔法自体を他の冒険者に渡すことはできません。つまり『個人の能力』です。ですが、魔道具は他の冒険者に渡すことができるし、何個も作ることが可能です。つまり『技術』です」
「うーん、分かるような分からないような・・・」
「そして、この例で言う魔道具を魔術に置き換えてもらうと分かりやすいと思います」
うーん、悩みながらも思いついたいことを言ってみた。
「他の人にも教えて習得させることが可能なものが魔術ということ?」
「ああ、そのほうが分かりやすい説明ですね。ただしどちらも発動に詠唱したりアイテムを使用したりするし、結局は魔力を使うので、本当に区別が付かないんですよ。だから一緒でいいんじゃないかと主張する人たちもいます」
なんだか、混乱する。混乱するということは、私は、魔術も魔法も同じ派ということになるのか・・・
ここで、アングリーがギルドにくる時間になったので、本に関しての話をここまでにする。
アングリーをつれてくると断ってから、会議室からでて受付部署に向かう。ごみ調査の件だと告げるだけでアングリーも分かっているので、会議室に移動した。まあ、ブラックに近いグレーな話は他の人には聞かせられないですしねぇ・・・
アングリーへの報告は基本的に私がして、ザラさんが横から補足した。まあザラさんがしゃべることは、一瞬で終わったミノタウロスとの戦闘の部分だけで、それ以外はほとんど無かったけれど。ちなみに掴んだ腕をひねり上げて、体ごと回転させ殴りつけたそうだ。どうやったのか皆目検討も付かない。とりあえず私には無理だ。冒険者なら誰でもできるものなのか?
そして最後に日誌を見せて、すぐに調査隊を送る必要があると私は主張した。アングリーはしばらく目を瞑って考えていた。何を考えているのかは推測するしかないが、考えていることのひとつには、今調査するか、それとも怪物祭が終わってから調査するかであることは間違いない。今は人手が足りない時期であるが、怪物祭が終わるまで何も起こらないという保証は無いのである。後一点は、倉庫だけを調べるか、蔦屋敷も調べるかということであろうか。
私とザラさんが静かに見つめるうちにアングリーが決断した。
「わかった。ガネーシャ・ファミリアに協力要請しよう。それと」
そういってアングリーはザラさんに視線を向ける。
「わかってますよ、乗りかかった船ですから、協力しますよ」
肩をすくめながらザラさんが言う。だが、『根暗の深恨』をドサクサ紛れで懐に入れようと考えているように見えて仕方が無かった。だって、鍵空けも含めて泥棒スキルが高いんですよ・・・・
「正直助かる。
それからシルバートワイライト協会には事情聴取のためにギルドにきてもらうように連絡しよう。信者のハビタット氏に関して情報を持っていないか確認したいということで。これなら断らないだろう」
アングリーから正式に連絡を入れて、ガネーシャ・ファミリアからメンバーを出してもらう。昨日作成しておいた資料をそのまま送付する形になる。しばらくするとイブリ・アチャー氏を代表としたメンバーが着たので、二部隊に分ける。ひとつは倉庫に、もうひとつは蔦屋敷に向かうのである。とはいっても蔦屋敷に送られる部隊は、事情聴取の協力要請である。相手を警戒させないことも重要だということで人数自体は少ない。だが、実力行使の必要が出てくる可能性もあるのでイブリ・アチャー氏に蔦屋敷に向かってもらう。
ザラさんには、オブザーバーとして倉庫に向かう部隊に同行してもらう。
本当は内部構造が分かっていない蔦屋敷に向かうのは、スキルで内部を把握しているザラさんがよかったのである。だが、倉庫のほうは地上部分の通常の入口と地下道と二つ出口がある。ザラさんならば地下道入口で待機しながら、スキルで正門側の様子を伺い、状況によって地下室から内部に入ることができる。さらにガネーシャ・ファミリアからの参加メンバーでレベル2以上の人はイブリ氏のみで戦力のバランスの問題もある。もっというと、蔦屋敷では、ギルドへの任意同行を求めるだけであり、建物内部に入る必要は無いのである。これらの理由でザラさんが倉庫に向かうことになったのである。
ザラさんには、蔦屋敷の構造をできるだけ詳細に見取り図として書いてもらい、さらにイブリ氏へ出来るだけ詳しく説明してもらった。何が起こるかわからないが、内部に入る必要が出てきた場合の念のためである。ザラさんは楽しそうであったが、『根暗の深恨』を読めると期待してるんだろうなぁ。うん、調査が終わった後は『根暗の深恨』を見せるのもいいかも知れない。もちろんギルドの会議室でだけれど。
ちなみに私は、倉庫側メンバーである。
そしていよいよ出発。倉庫側には私とザラさんを含めて全部で8名。蔦屋敷側に行くのは、ギルド職員一人とガネーシャ・メンバー二人。そのうちの一人はイブリ氏である。ギルド員がいないとファミリアが横暴を働いているように見えますからね。人数が少ないと思ってしまうが、戦いというものは、量ではなく質なのである。こちらは恩恵をもった冒険者で構成されていて、その上各部隊に一人は上級冒険者がいる。欠点としては、ギルドメンバーが恩恵をもらっていないことであるが、こればかりは仕方が無い。
対して、相手側であるが、ミノタウロスを捕獲していることからレベル2以上の冒険者がいることは推測できる。だがレベル3以上の冒険者となると人数が少なく、ギルドでもほぼはメンバーを把握できている。おそらく、相手側には入っていない。ならばレベル3冒険者がるいるこちら側が断然有利である。この判断は後から考えるとあまりにもうかつであったのだが、このときの私には思い至らなかった。いや、私だけではなくて、この場に居る全員だったのであるが・・・
こうして準備が整い出発の時間になった。イブリ氏にくれぐも無茶をしないように釘をさして、全員出発した。
今回の前半部分は、話の本筋とまったく関係なかったですね・・・・
あと、ガネーシャ・ファミリア、動かしやすいです・・・