エイナ・チュールの冒険   作:バステト

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エピローグ 

 さてあの事件の後、私はギルドの通常業務に戻った。受付業務を再開した訳ではなく、まずは怪物祭である。

 ここ数年のことであるが、ガネーシャ・ファミリア、ギルド、オラリオを巻き込んだ大騒ぎの祭である。毎年、大賑わいで、祭りが終わった後も、後片付けや、祭りの間停滞していた通常業務の処理で大わらわなのであるが、今年はさらに例のモンスター逃亡事件も発生した。幸いロキ・ファミリアの協力のもとすべてのモンスターを退治できたが、後処理が大変だった。

 だが、そんな喧騒も、気がまぎれて良かったのかも知れない。仕事がひと段落して、ふとした時に、あのモンスターのこと、教会地下から消えた二人の男、ザラさんに捕縛された男は狂死したことなどを、じっと考え込んでしまう。はたから見ていると暗い表情になっているらしく、ミイシャなどを心配させてしまっている。

 今もそうだったらしい。担当冒険者が七階層に進出したという話を聞き、手に負えないモンスターが出たらと考え、地下室でミノタウロスに襲われた事、教会地下室での事を思い出したのだ。ベル君はこの先強力なモンスターと戦うことになるだろう。どうしても勝てないモンスターと戦うこともあるに違いない。生き残れるのだろうか。そう考えるといてもたってもいられない気持ちになってしまったのだ。

 気づくとベル君に不安な表情を浮かべさせてしまっている。

 

「エイナさん? どうしたんですか?」

 ベル君が気遣わしげな表情で問いかけてくる。心配をかけてしまったらしい。シャツを着て背中のステイタスを隠すように伝える。七階層まで進出できる実力があるとベル君が言い張るので、マナー違反なのであるがステイタスを見せてもらったのだ。力E、耐久H、器用F、敏捷D。確かに、ステイタスは十分な値を示していた。これでは七階層進出を許可しないわけにはいかない。

 受付窓口にもどり話を続けようとしたら、ミイシャに話しかけられた。

「あら、エイナが心配している新米冒険者ってあなたかしら?」

 そういって、ミイシャはベル君の顔を覗き込む。

 ミイシャの言葉にベル君はわたわたと慌てふためく。言葉ひとつでここまで動揺する何て面白いなぁと、ちょっとほんわかした気持ちを感じながら二人の会話を聞き流す。

「僕、そんなに心配されてるんですか」

「そうねぇ、はっきりとは言わないんだけれどねぇ。ため息ついたり、仕事の手を止めて暗い顔でダンジョンの方に視線を向けてたり、新米冒険者が無茶をするんで心配だと愚痴こぼしたりとかねぇ・・・」

 いや、それ、この前の事件のことを思い出してるんだけれどなぁ。ああ、そんなことをいうから、ベル君が落ち込んでしまった。どよーんとした雰囲気がまとわりついているが、ウサギが甘いお菓子にかじりついたら実は苦かったというような感じでかわいい。

受付嬢(アドバイザー)から言わせてもらうと、それがだめだと思う」

 といってミイシャはびしっとベル君を指差した。こらこら人を指差してはいけません、後で注意しておこう。

「ええ!? そんなこといわれたら、誰でもこんな風に落ち込みますよ!」

 ベル君は落ち込んだ態度を指摘されたのだと思って抗議するが、実はミイシャが指摘しているものは別のことである。

「いやそこじゃなくて。その防具。かなり痛んでるから新しいものに変えたほうが良い。そうすれば、怪我をする可能性も減るし、エイナも心配することがなくなるし、(エイナの笑顔が見られれば職員の)みんなも幸せになるのです」

 そう、指差したのは防具である。今ベル君が装備しているものは、七階層に進出するにしては頼りないのである。私もアドバイスをしようと思っていたのだが、同じことをアドバイスするとはミイシャもよく見ている。自分の担当冒険者以外にも目を向ける余裕が出てきたということだろう。喜ばしいことである。まあ、担当アドバイザーの前で冒険者にアドバイスするのは方針がブレブレになる可能性も否定できないから、ちょっと問題かなぁ~と思うが、まあ良いとしましょう。

「というわけで、明日は二人で、防具を買いに行きなさい」

 いきなりミイシャに宣言された。

「エイナは明日休みだったでしょ。それなら一緒についていって、防具を選ぶアドバイスをしたら良いんじゃないかしら。そちらの冒険者君には他にファミリアメンバーがいないらしいから,アドバイスしてくれる人が必要だしちょうど良いんじゃないの」

 それを聞いたベル君は立ち上がり土下座せんばかりの勢いで頼み込んできた。

「わ、わっ、わかった、わかったから! じゃあ明日、一緒に行きましょう」

 そういって待ち合わせ時間と場所を決める。魔石の換金も終わっていたので、帰り支仕度を始めるベル君は嬉しそうであった。そして帰り際に爆弾を置いていった。

「エイナさん、だいすきーーー!」

 そう叫んでギルドを走り出て行った。

 おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぃ、なにいってくれちゃってんのベル君!

 そーと視線だけであたりを見回すと、案の定フロア中の人がこちらを見ていた。生暖かい視線を感じるが、なんとなく殺気立ってる男の人もいるようだ。ああ、騒がしくしてしまってすいませんと、申し訳ない気持ちになり、仕事に逃げることに決める。だが、その前にミイシャを一睨みしておいた。だが、ミイシャ自身もニマニマと笑っているだけである。悔しい。

「エイナ。あなた疲れてるのよ。最近くらーい顔してるわよ。まあ、いいじゃないの。デートして元気になってらっしゃいな」

 ちょっとデートって、何よ。抗議をしようとしたが、ミイシャはニマニマ笑いをやめて真剣な顔になった。

「どちらにしろ、あの新米冒険者君に、防具選びのアドバイスは必要なんだから。どこで買えばよいのかとか場所や相場も含めて、仕事ついでと思っていってきたら」

 他にアドバイスしてくれる人はいないんでしょと続けられると確かにそのとおりである。

 うーん、仕事ねぇ・・・それならいいか。な? ヘファイストス・ファミリアの掘り出し物とか探しに行くのも良いかも知れない。たぶんベル君は場所は知らないだろうしなぁ・・・

「おや、エイナさん、デートに行くんですか?」

 そこに来たのはザラさんだった。

「ええ、そうなのよ~。ちょっと最近元気がないから、デート行くんだって」

 ミイシャからそれをきいたザラさんは、にこにこしながら、ウンウンと頷いている。

「良いことですねー、じゃあ、後は若い者に任せて! おばちゃんは換金所に行ってきますね!」

 いや、ザラさん、あなた24だから、まだおばちゃんじゃないでしょう!

「じゃあ、デート楽しんでね~」

 だから、デートじゃないってば~と思いつつも顔が微笑む私であった。

 

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