ターゲットの暗殺教室   作:クローバー

10 / 41
幸せ

「おはよー。こうちゃん。」

いつも通り屋根上に来るあかりねぇ。

「よう。」

俺は読みかけのラノベを閉じてあかりねぇの方を見る。

「そういえば、昨日のカルマくん凄かったね。」

「ってかああ言う暗殺が基本なんだよ。馬鹿正直な暗殺方があるかよ。」

俺が言うとするとあかりねぇはクスリと笑う。

「やっぱり、こうちゃんは厳しいね。」

「……厳しいも何も事実だしな。精神的に追い詰めて殺すんだろ。じっくりじっくり痛めつけて少しずつ追い詰める。殺し方としては間違ってねぇよ。」

殺し方としては正しいだろう。怒りは我を忘れさせることにもってこいだし。

「でも、無理だろうな。死神は殺せない。」

「えっ?」

「多分今日は終始警戒すると思うしな…。殺せるはずないだろうな。」

元々殺し屋だった死神なら気付いてるだろう

痛めつけられるのが嫌なら回避すること。

たったそれだけで対策は練れるのだ。

「……よかった。」

「…えっ?」

「殺せんせーが死なないでよかった。」

すると安心するあかりねぇ。

「あかりねぇ?」

「……前にこうちゃんから聞いたこと、殺せんせーから言ってたんだ。お姉ちゃんと殺せんせーのこと」

「そっか。」

俺は大体気付いてしまった。

「……似てるよな今の死神とあぐりさん。」

「うん。おせっかいなところも優しいところもお姉ちゃんそっくりだね。」

「そりゃ、死神の先生だからな。教師を受け継いだってことは、死神はあぐりさんの魅力に気づいたんだろ。」

「……ねぇ。殺せんせーを誰かが殺した時、こうちゃんはどうするの?」

あかりねぇの言葉に俺は少し考える。

「多分だけども海外に逃げるかな。居場所がバレてるわけだし。」

「……そっか。」

心配してくれているのがよく分かる。でもそれが生き残るたった一つの道。

後一年未満

俺が普通に学校に通える時間だ。

「……」

「……」

無言が続く。気まずいってもんじゃない。

「……嫌だ。」

「……」

あかりねぇの言葉に戸惑ってしまう。

聞こえてしまった。

するとあかりねぇはこっちを見る。

「……こうちゃんといられるのが後一年だなんて嫌だ。」

今にも泣き出しそうなあかりねぇに、俺はどうしていいかわからなくなる。

「……」

目を合わせられない。俺だって嫌に決まってる。

でもお互いに分かっているのだろう

それが叶うことがないってことが。

 

「ほら、ここをくくれば。」

「あっ!!本当だ。」

「……すげぇ。分かりやすい。」

「こうちゃん凄い!!」

「倉橋先輩。その呼び方恥ずかしいのでやめてください。」

俺の周りではこんな形だった。なぜか先輩に勉強を教えることが多くなり、わかりやすいと評判だった。

「でも、よく分かるね。まだ、習ってないところでしょ?」

「まぁ、幼稚園の時に全部解きましたから。」

「……やっぱり羽川くんおかしいよ。」

「……まぁ、自覚はしてますが。」

家の事情であったが、よく幼稚園児の時解けたのか今でも不明だった。

「でもこれ殺せんせーより分かりやすいかも。」

「にゅや!」

「しかもノートも分かりやすいし、……羽川コピーとってもいいか?」

「別にいいですけど…木村先輩、ノートは自分でとった方がいいですよ。数学は答えが分かる場所で繰り返し解くことで成績が上がることに繋がるんで。」

「こうちゃん、ここ教えて。」

「……もういいや。えっとここは。」

と教えようとした時死神の触手が伸びる。

「…カルマくん銃を抜いて撃つまでが遅すぎますよ。ヒマだったのでネイルアートを入れときました。」

「……」

「まぁ、そうなるよなぁ。」

俺は少しだけ苦笑してしまう。

「やっと目が覚めたらしいな。」

死神も目が覚めたらしく油断もしていない。

簡単に死なれてもらったら困るんだよ。

 

「……えっとこれはどうすればいいんですか?」

「えっとねこれは。」

四時間目の調理実習は完全にお荷物状態となっていた。

班ごとにするのだが、倉橋先輩と矢田先輩は手際よく進める中、俺は全く調理器具の使い方も何も使えなかった。

しかも矢田先輩に調理器具の使い方を教わりながらやっているので完全に足手まといだった。

「すみません。迷惑をかけてしまって。」

「ううん。大丈夫だよ。でも本当に一人暮らししてるんだよね?いつもごはんどうしてるの?」

「えっと、罠で動物を狩って血抜きしたやつを丸焼きにしたり、山菜を焼いて食べたり、川魚を焼いて食べてますね。」

「……」

クラス中が静寂につつまれる。

鍋からグツグツと煮込む音が大きくなる。

「あれ?おかしなこと言ってますか?」

「えっと、お風呂とかはどうしてるの?」

「基本は隣町の銭湯を使ってますけど…」

「…洗濯は?」

「基本コインランドリーですかね。」

「……ねぇ。羽川くんの家ってどこ?」

「ありませんけど…。せめていうんだったらそこの裏山です。」

すると班の全員が黙り込む。

「……別におかしなことではないと思いますが?ターゲットとしては家だと逃げ場の確保が難しいので。それにトラップも仕掛けられませんし。」

「かわいそう。」

「あの憐れむのだけは本当にやめてください。結構辛いので。」

矢田先輩の言葉に突っ込んでしまう。

「でも、生き残るにはそうするしかないんですから。」

俺はこの瞬間を生きている。

今こうして話をしている。

それだけで生きていることが実感できる。

「今を生きている。俺にとったらこれが一番の幸せですから。」

「……」

「でも欲張りをいうのなら普通の生活を送りたかったですね。貧乏でもいい。借金があってもいい。俺だって普通に学校を行って、友達と話して、勉強して、家に帰って、母さんの手料理を食べて、父さんと遊んだり、怒られたりしたかったです。そして、佳奈が誰かと結婚するのを見届けたかった。でも叶わないことって知ってますから。もうそんな夢は抱くのも間違っていることぐらい分かってます。」

両親は行方不明、佳奈は死んで、俺は政府に狙われている。

「もう、生きるのも辛いのですが。佳奈よりも少しでも長くいきていられることを幸せに思わないと死んだ佳奈に失礼ですから。」

そう。生きているこの時間をどのように使うか。

「だから先輩たちは本当に大切なものを見極めてください。敗北、挫折を皆さんは一度味わっています。理不尽にE組に落とされた人だっていると思います。でも人生は今まで生きた時間よりも長いです。その時間の中で自分にとって大切なものを探し続けて下さい。そして幸せを見つけてください。それはもう俺にも佳奈にも叶わないことだから。」

多分それはどんな些細なことでもいい。

小さな幸せ。

そのありがたみを知っている俺が伝えたかったこと。

人生はまだここからだ。

「羽川くん。違いますよ。君にだって幸せを掴むことができますよ。」

死神は肩を叩いてくる。

「幸せだよ。だって俺にとって生きることが幸せなのだから。」

「……もし私が殺されたら羽川くんはどうするんですか?」

「海外に逃げる。」

「……そのあとは。」

「生きている間ずっと逃げ続けるさ。それがどんだけ辛いことだろうと生きている間は。」

「……でも羽川くんはいつか。」

「死ぬだろうな。」

俺がきっぱり答える。すると死神は戸惑った。

「てか、死にたいんだよ。俺は。逃亡生活なんて苦しいし辛いし嫌なことばっかだし。でも、生きなくちゃいけない。どんだけ辛いことだろうと苦しくても佳奈の分まで生きていかないといけない。」

俺はそれが正しいのかは分からない。でも

「それが俺が決めた人生だから。殺してくれるか寿命が切れるそれか先生が殺せず地球がきえても。俺にとって苦しく辛い。どうせ俺はそれしかできないんだから。」

「……」

「だから、あんたには生きていてほしい、生きて俺を殺して欲しいんだ。地球が滅びるのは一番手っ取り早い死に方だしな。だからあと一年それがあんたの寿命。俺はそれまで生きる。それで死んだらやっと死ねるし、生きたら悪運が強かったと思っておくさ。」

「君は心配してくれる人がいるとしてもですか?」

「……心配してくれる人がいるからこそ俺は早く死にたいんだよ。」

「……」

「だってこの教室が終わったら俺はまた逃げないといけないし。それにもうその人と会えることは二度とないんだから。」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。