ターゲットの暗殺教室   作:クローバー

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生きる

「あ〜もう。」

さっきからタブレットをバンバンしてるけど

「ププ。」

「イラっ」

「イラついてるなぁ。ビッチ姉さん。」

「先輩イラつかせてるんですよ。」

「……羽川くん一応聞くけどなんで?」

「暇つぶし。」

するとプッとクラスの誰かが笑う。

そしたら矢田先輩に睨まれる。

「羽川くん?真剣に答えて。」

「真剣に答えてますよ。…イラつかせることに効果があるんですよ。」

「……どういうこと?」

「赤羽先輩の暗殺覚えてますか?」

「う、うん。たしか殺せんせーにダメージを与えた。」

すると言葉を止める。

「もしかして羽川くん、わざと怒らせているの?」

「もちろんですよ。」

俺が笑う。

「えっと、なんで?」

「殺す方も殺される方も自分のペースを崩したらダメなんですよ。あのババァの取り柄は色気、美貌。でも先生に通用しても俺と烏間先生には通用してないでしょう。ってか元々は男を殺す暗殺者。どうやったら自分を美しく、綺麗に見せるのかも。ババァもその部類に入りますが…暗殺者の中で一番綺麗だったのはマナフィーさんでしたね。」

「マナフィー?」

「ちょっとあんたマナフィーに会ったことあるの?」

ガタッとババァが少したじろぐ。

「ビッチ姉さん?有名な人なの?」

「ビッチ姉さんいうな!!元接近暗殺者の一人で私たちの業界では有名な人よ。暗殺成功人数は150人を越えているわ。」

「「「えっ?」」」

「はい。ってか基本俺が相手してきた殺し屋は数100人以上暗殺成功したことのあるビッグネームばっかりですよ。マナフィーさんもその一人です。……ってか子供に色仕掛けに優れている暗殺者を送り込むって。」

「……マナフィーさんって暗殺失敗したことが二度しかないっていってたけど……そのうち一人はあんたなの?」

「二度とも俺ですよ。あの人俺の暗殺二度失敗してますから。」

「……」

イリーナは少しありえないような顔をしていた。

「そういえば、授業しないんだったら先生と変わってくれませんか?あいにく自習っていうのも暇なんですよ。」

「はぁ?」

「羽川くんは少し黙ってて。でも私たち今年受験なので。」

「あんたたちあの凶悪生物に教わりたいの?」

ゴトっとイリーナはタブレットを置くけど

「それがここじゃあ普通なんですよ。文句があるんだったら出ていってくれませんか?」

「……あんたもあの怪物の方なのね。」

「そうですね。政府から追われてるので。」

「へぇ〜。じゃあそこの落ちこぼれたちの味方なんだ。地球の危機っていうのにガキたちは平和でいいわね。」

あっこいつ簡単に地雷踏み込んだ。

周囲の温度が下がっていく。

……はぁ仕方ないか

教室を見回すと冷静な先輩が一人いた。

その先輩は怒った様子はなく

ただ周りの様子に困っている

……ちょうどいい機会か

俺はこっそりその先輩に近づく

「潮田先輩。ここは危険です。少しの間教室から出ましょう。」

「…えっ?」

「烏間先生がいるのでそこまで。後ろのドアは開けとくので後ろから出てください。」

俺は気配を消しこっそり素早く出ようとする。怒りの矛先はイリーナに向いているから気づかれないだろう。

こっそりと外に出ると烏間先生は気づいたらしい。

「羽川くんどうした?」

「いや、大事になってきたから逃げ出してきたんですけど……」

「そうだな。」

すると消しゴムを投げ込まれて一斉に殺気は強くなる。

「こりゃ、ダメだ。学級崩壊しますよ。」

「……全くなにやってるんだあいつは。」

「まぁ、まだ20歳の殺し屋ならあんなこと起こりますよ。失敗経験が少ないのもそうですが、プロとしてのプライドが邪魔をする。」

「……君はこうなるのがわかっていたのか?」

「はい。わかってました。」

教室ではついに文房具などが投げ込まれ始めている

「確かにイリーナはプロの殺し屋。だけどプロなだけで一流ではないです。一流の暗殺者ならこんなこと起こりませんので。」

「……」

「たぶんそこを理解してないと、この教室にはいられない。認めたくないですがあなたは立派な教師であり、一流の軍人です。でも、最後の教室にあなたがいてくれてよかった。最初で最後の先生が死神と烏間先生で、俺は幸せですよ。」

「まだ始まったばかりなのにいいのか?」

「もう言葉をかけることなんてもう半年もないんですから。いいんですよ。だから先生があのイリーナを先生にしてやってください。多分あの人はこの教室で多くのことを教えてくれます。」

「……そうか、なら出来る限り善処する。」

「相変わらず堅苦しいですね。」

俺は苦笑してしまう。でも照れていることは分かっている。信頼している。烏間先生は俺の中で信頼していいと思ってしまった。すべてを受け入れてくれて羽川康太っていう一人を見てくれる。純粋な優しさが嬉しかった。

でも俺は少しだけ意地悪を言ってみる。

「俺もこの立場じゃなければ暗殺教室に参加できたのかなぁ?」

 

「……」

昼休み

矢田先輩にご飯を誘われたが断りを入れ、俺はいつもの場所で食べようとすると先客がいた。

「死神?」

「羽川くん。」

黄色いタコをした死神が屋根で座っていた。

「はいこれ。」

そこには黒の丸いものが二つ渡される。

「……これ何?」

「……おにぎりというものです。さっき作ってきました。」

「そうなんだ。……で?」

「にゅや?」

「これは俺が食べたらいいの?」

おにぎりは名前は知っていたが俺は食べたことがなかった。

昔は高級店、今は肉や魚主体の生活をしてきた。

一応俺も生徒だ。死神は手出しができないので差し入れだとわかる。

「はい。毒とかは入ってないので。」

「……ならもらう。」

俺は少し遠慮しながらもおにぎりを一つだけとる。

「にゅや?もう一つもどうぞ。」

「なら一緒に食ってくれ。一人で食うのも味気ないしな。」

「……矢田さんの誘いを断ったのにですか?」

「あぁ。頼む死神。」

「……わかりました。」

俺の隣に座る死神。

俺は一口おにぎりを食べる。

粘り気があり塩気が含まれた甘味のある米に味付け海苔がしっとり付いている。

「これって関西の方で食べられてるおにぎりだよな。」

「おや?知っていましたか?」

「あぁ。少しおにぎりに付いては子供の頃調べたことがあったから。」

一口、一口大事に食べる。

甘くてしょっぱくて美味しい。

そしてしばらく食べ進めると赤い丸いものが置かれてある。

一口食べると口の中が酸味で覆われる。

酸っぱい。

多分これが梅干なんだろう。

「美味しい。」

一言呟く。

「よかったです。もう一つ食べますか?」

「……いい。死神が食べて。」

すると死神は俺の方を見る。

「……何かありましたか?」

「まぁな。ただちょっとみんなが羨ましく思っただけ。」

「はい?」

俺はため息をつく

「矢田先輩に自分の本当の姿を見られたんだ。」

「……」

「四月最後の登校日、ちょっと烏間先生の授業が終わった直後にな。」 

俺が言うと少しだけ死神が下を向く。

「……最近矢田さんが積極的に話しかけようとしてたのは。」

「多分そのせいだと思う。でも俺は突き放した。」

俺は少しだけため息をつく。

「あのさ。俺は来年以降日本にはいないつもりって言っただろ。最近どんどん嫌になってきているんだ。」

「…」

「最初はあかりねぇが離れたくないって言ってきたことがきっかけだった。だから思ってもいない言葉であかりねぇを突き放そうとした。」

「やっぱり死にたいだなんて思ってなかったんですね。」

「もちろん。命の重さなんて誰よりも知っている自身がある。その重さがどれだけ大切なのかは知ってるさ。」

でも

「……自分の弱さがこんなことだとは思わなかった。」

「……どう言うことですか?」

「あかりねぇがすごく悲しんでたんだ。表情には出してないけど顔が真っ青になってた。俺は人の感情が色でわかるって言っただろ。」

「えぇ。確か信用できるのかその顔の色で判断しているんですよね。」

よく覚えてたな。一ヶ月前に話した内容なのに

「……あぁ。その中でほとんどの人間は無関心。それか怖がっていることが多かった。今だってクラスの大半が恐怖って感情を抱えてる。でもあかりねぇは俺のことをずっと心配してくれた。今でも知らないふりをしてるだけでずっと心配してくれる。それは矢田先輩も同じ俺のことを恐れずに心配してくれる。……それが嬉しかった。」

「……」

「家族からも心配されたことがなかった。心配してくれたのは佳奈とあぐりさん。昔よくあかりねぇとやんちゃして二人で怒られていたんだ。夜遅くまで遊ぶこともあった。階段で遊んでいたことも。心配したんだよという一言が聞きたくて。」

親から甘えることは幼稚園に入ってから全く出来なくなった。家の世間帯だけ気にして。俺のことは子供じゃなくものとしてみていた。

「自分の弱さ。俺を心配してくれる人を傷つけたくない。」

すると死神がこっちを見る

「生きたい。この先もずっと生きていたい。二人が幸せになるところを見ていたい。心配してくれた人を守りたい。幸せになりたい。」

俺は叫ぶ。聞いて欲しかった。

「……欲張りだよね。俺。一つも叶えられないのに。欲しいものばかりあって。」

弱い。何一つ手に入らない。

「……生きることしか考えて来なかったのに。」

「羽川くん。」

触手が頭の上に置かれる。

「欲張りなのは悪いことではないです。……君のことは烏間先生と話しています。」

すると触手で頭を撫でられる。

「でも、君は自分で思ってるよりも強い。…君が生きていた数年間は多分私たちが思っている以上に辛くて厳しいものだったでしょう。でもそれを乗り越えるだけの力がある。多分君なら自分の力を正しいことに使えるでしょう。」

「…」

「私も一度はこの触手の使い方を間違えました。今度は二度と間違えません。大切な生徒を守るために。」

「そうしてくれ。俺はあんたを信じるから。」

「はい。」

それならもう少し生きようか。辛いことばかりだけどきっと笑いあえる日が来ると思って。

 

「羽川。」

「……」

俺が教室から出るとイリーナに話しかけられる。

「なんですか?イリーナ。いやビッチ先生って言った方がいいですか?」

さっき普通の授業をして先生として生徒に認められたイリーナを見る。

「……イリーナでいいわ。少し聞きたいことがあるんだけど。あなた逃走術にトラップを仕掛けるって烏間から聞いたのだけど。」

「……逃走術ではないですがトラップは結構仕掛けます。寝るとこの確保や拠点の確保に防衛施設の周りに仕掛けないといけませんし。」

「それって私でもできるものはある?」

「今すぐには無理です。何度も練習すればいくらかは使えるようにはなると思いますが。」

「それってどんなもの?」

色仕掛けだったらたぶん

「寝具にネットトラップを仕掛けたり、服に紛れさせたワイヤートラップくらいですかね。マナフィーさんの方が詳しいと思いますが。」

「……マナフィーと知り合いなの?」

「はい。でも今はアメリカでモデルとして活躍していますが。時々連絡がきますよ?」

「……そういえばあんたを殺しに行った殺し屋の多くはやめているって烏間が言っていたけど…あんた一体何してるの?」

イリーナの言葉に少しだけため息をつく。そして俺はイリーナの方を向き

「……聞きたいですか?政府が裏で何をしてきたか?」

爆弾を落とした。


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