ターゲットの暗殺教室   作:クローバー

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我儘

「さらに頑張って増えてみました。さぁ授業開始です。」

「……増えすぎだろ」

死神は一人につき一体だったのが一人につき五体まで増やせるようになっていた。

「……なんか気合い入りすぎてるね。」

「そうだな。」

普通に勉強していた俺と矢田は試験範囲が終わりちょっと先まで進んでいた。

「……まぁ理事長がきてたからなんか言われたんだろ。」

「理事長先生?」

「あぁ。先生に挨拶しにきたとか言ってた。」

俺はため息をつく

「でもどんなにスピードがあっても解決できない問題はあるんだよなぁ。」

「えっ?」

不思議そうにしている矢田先輩に言う。

「スピードがあってもそのスピードが出せなかったら意味がないんだよ。前にも言ったろ。勉強だってどんなに勉強してもどんだけやっても覚えてなければ意味がないんだ。みんなは 時間=できる だと思ってるけど本当は 理解する=できる なんだ。」

「えっと、どういうこと。」

「まぁ時間がかかってもいいから理解するまで解けばできるし、理解しようとしなければ解けないんだよ。だから根気強くやってたらいつかはできるってこと。まぁ当たり前のことだけど。」

「それは羽川くんにも言えることだよね?」

「えっ?」

「だって羽川くん前に死にたいって言ってたでしょ。でも本当に死にたいと思ってるんなら今まで生きてないんじゃない?」

「……そうですね。」

痛いところを突いてきた。矢田先輩は俺の方を見る。

「ねぇ。一応私は羽川くんよりも一つ年上なんだよ。だからもし困った時があったら何か言ってね。私じゃ力不足だと思うけどでも少しは羽川くんの力になりたいから。」

矢田先輩は笑う。なんか

「カッコいい。」

誰かが言う。全くその通りだった

「矢田先輩なんか変わりました?」

はじめてこの教室にいた時は、あまり目立たなくて自己主張も弱めの人だと思ってた。でも今俺の目の前にいる矢田先輩は全く別人だろう。

「うん。そうかも。でも守りたい人ができたからじゃないかな?」

「……そうですか。」

誰かは聞かない方がいいか。

自分のためにも、矢田先輩のためにも

「……それだったらとりあえず数学もうちょっと頑張ってください。学生の本分は勉学ですよ。」

「うん。」

すると矢田先輩はノートに集中する。

 

……守りたいものか。

俺の守りたいものはなんだろうか?

最初に浮かんできたのは3人

あかりねぇ、そして死神。そして矢田先輩

いつの間にか大切な人になっていた。

知ってるこの感情は

あかりねぇの時は離れてから気づいてしまった。

海外の船に乗った時。日本から離れる時あかりねぇのことを考えると胸が痛んだ。

大切だった。

俺にとって一番大切だった。

守りたかった。

ずっとそばに居たかった。

そのことで最初に泣いた。どれだけ苦しくても我慢して居たのに逃亡生活で初めて泣いた。

正直今でも気持ちは変わらない。

最初はわからなかった。

あかりねぇが姿も雰囲気も変わって居たから

でも中身は変わらなかった

だから好きになった

遠ざけて嫌いにならせようとした

近づけないようにした。

結果は一番辛い選択をさせてしまった。

近づかないようになったが時々こっちを見ていた。

心配そうに、でも拒絶されてしまった。

しかもバレていた俺が本心で拒絶していなかったことも

一緒にいたい

その気持ちはお互いにわかっていた

危険が及ぶとわかっていたから

迷惑になるってわかっていただろうから

お互いに離れる選択をとってしまった。

もし俺から歩み寄れば許してくれるだろうか

近づいてもいいだろうか?

あぐりさん、佳奈

俺はこっちでもう少し生きたいです。

好きな人ができたから

守りたい人ができたから

守ってくれる人ができたから

でも、奪った命から背けません

精神的な辛さは消えません

でも親友と好きな人を守るためもう少しだけこっちにいさせてください。

 

「……羽川くん。」

「……えっ?」

「えっと、大丈夫?上の空だったけど。」

矢田先輩はこっちを見てくる。

「……すいません。ちょっとお願い事をしてました。」

「えっ?」

周りを見ると教室にはあかりねぇと矢田先輩しか残っていない。

「……他の先輩と先生は?」

「えっと、殺せんせーが校庭に連れて行ったよ。でも私と茅野ちゃんは大丈夫だって。二本目の刃がきちんと持っているって。」

「そっか。」

少しだけ考える。どう話そうか。でもやっぱり素直にいった方がいいだろう。それが一番自分の気持ちが伝わると思うから。

「あかりねぇ、矢田先輩。二人に助けてほしいことがあります。」

すると二人がこっちを見る。

「正直俺は生きることを諦めていました。あかりねぇと5年ぶりにあっても、矢田先輩が話しかけてきても一定の距離を保とうとしてました。どうせ自分は死ぬのだから。そんな風に後ろ向きに考えてしまっていました。」

俺は本当に最低な行為をしていた。ずっと目を背けていた。

「本当は怖かった。ずっと生きたいと願っていたのに、後一年しかいられない人と仲良くなるのが。それ以上の関係になるのがずっと怖かったんです。だから一ヶ月ずっと避け続けてきた。俺は心配してくれたのを知っていながら目を背けてきました。この教室に参加したのも、せめても自分が残りわずかしかない命を他の人に命の大切さを、生きるっていうことを教えたかったから。それができればもう悔いはないと思ってました。でもあかりねぇは俺と一緒にいたいって言ってくれて。矢田先輩は俺のことを守りたいと言ってくれて。心配してくれて。それが嬉しかった。」

ずっと俺のことを見てくれて。弱いところを受け止めてくれて。

「…嬉しかった。ずっと会いたかった人も一緒の気持ちだったことが。でも知らないふりをして、全部はあかりねぇのためになると思っていた。ただのクラスメイトって役を演じるのが。矢田先輩も席が隣の少し変わった人程度に思ってくれたら。でも辛かった。好きな人から逃げたり、好きになっていくことが。そして生きたいって思ってしまった。一緒に学校生活を過ごしたいって。それに守りたいって。正直今まで避けていて、遠ざけようとして本当に何様だよって思ってても構いません。でも、俺は二人と一緒に生きて生きたいです。」

涙が流れてくる。苦しくて辛い。どれだけ迷惑をかけたのか。どれだけ心配をかけていたのか分からない。責められても仕方ない。でもどんだけ汚くても、泥水を啜ってるまで生きてきたのも、

「…生きたいです。どんなに辛くてもいいから生きたい。もう二度と同じ間違いだけは繰り返したくない。もう誰も失うのは嫌なんです。だけど、たぶん俺一人じゃあ何もどれ一つも叶えられません。だからお願いします。助けてください。」

自然と頭が下がった。でもどうしても欲しかった。

繋がりたかった。

近づきたかった

二人と一緒に歩んで生きたい

たったそれだけだった

「……ずるいよ。」

あかりねぇがつぶやく

「……ずるいよ。ずっと避けてたのに、ずっと話しかけないようにしてたのに。今更助けてほしいって。」

……本当にごめん。

「……こうちゃんは分かったんでしょ。ずっと私がこうちゃんのこと好きだったの。」

「うん。知ってた。でもあかりねぇも知ってたんだろ。」

「うん。」

何がとは言わなかった。自分でも最低だとは思っていたから

「……謝るのは私のほうだよ。ずっと我儘ばかり言ってこうちゃんを困らせて。でも結局は付き合ってくれる。そんなこうちゃんが好きだった。忘れようとした。でも忘れたくなかった。会いたかった。ずっと会いたかった。」

「ごめん。」

「謝らないで。知ってるから。」

「……ねぇ。二人はどう言う関係なの?」

「大切な人です。矢田先輩には話しておかないといけません。全てのことを。」

俺は少し前を向く。

「雪村あかり。それが本当の名前。元3年E組のあぐりさんの妹です。」

「……えっ?」

もしかしたら辛い思いをするかもしない。でも

「ここからは多分聞いていていい思いはしないです。でも事実です。でも聞いてほしい。この教室が始まった経緯をそして俺が追われることになった理由も。」

すると矢田先輩は息を飲む。

「すいません。わがままで。でもまだ矢田先輩は引き返すことができます。これ以上踏み込んだらもうこの教室に参加できないかもしれません。返事は今すぐじゃなくても」

「教えて。」

言い終わる前に矢田先輩が呟く

「……えっ?」

「いいの。私は全部知りたい。君がどんなことにあったのか。どんなことをしたのか。多分私じゃ全部は理解はできないと思う。でも聞きたい。少しでもいいから君のことを知りたい。だから聞かせて羽川くん。」

胸が熱くなる。矢田先輩はまだ出会って一ヶ月。たった一ヶ月。

本当に無茶苦茶なことを言っていると思ってる

普通なら信じられないこと

俺じゃ絶対に信じられなかっただろう

でも信じてくれた

俺が言ったことを受け止めてくれた

だから俺も信じよう

俺のことを、全部話そう

嫌われてもいい

甘えてることも分かってる

わがまま言ってることも分かってる

でも真実を話したい

自分のことを知ってほしい

だからこう言う時は

「ありがとうございます。信じてくれて。」

ちゃんとお礼を言おう。


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