ターゲットの暗殺教室   作:クローバー

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苦しみ

今日も屋根の上で寝転がっていると磯貝先輩たちのグループが死神のところに近寄っている。

多分殺す気なんだろう。

「……でもそんなことじゃ殺せねーぞ。死神は。」

俺が呟くと案の定振りかざされたナイフは避けられている。

「……まぁ、こんなもんだろ。」

俺は暗殺を見終えるとまた本に戻る。

俺は最近休み時間はこうしていることが多い。

ずっと変装して古本屋で漫画とラノベを大量に買い込むのが俺の今の生きがいである。

あの事件から俺はボッチに近かった。

まぁ、これが普通なんだよな。

追われるものとして一歩引いて行動する。

追われるものは極力人と関わらないようにする。

それは当たり前のことである。

死神に感覚が持って行かれていたが元々は学校では目立たないようにしてた。

今回は逆に目立つことをしていたが人から離れられたのでよしだとしよう。

でも、やっぱり人の繋がりは羨ましくある。

もし俺もあの事件がなかったのなら

……そんなことを考えるだけ野暮か。

「まぁWi-Fiが繋がるようになったからアニメが見られるだけマシか。」

俺はそう呟く。

それ以外は時々LAIMというSNSを開きクラスのチャットを覗くぐらいしか使っていない。

まぁ普通だろう。

最近は殺し屋も俺を狙うやつは減っている。

多分死神のおかげだな。

……まぁそこは素直にお礼言っとくか。

俺はため息をつく。

まぁ、それはそれとして

「スースー。」

この状況どうしよう。

隣ではあかりねぇがぐっすり寝ていた。

あの日以来あかりねぇは頻繁に話しかけて来るようになった。

今日も同じように話しかけようとして本に逃げるとついて来て余っている本をつまらなそうに読んでいていつのまにか寝てしまった。

休憩時間の間も誰も近づいてこないのにあかりねぇだけは話しかけて来ていた。

元々運動神経がよくて登って来るのは簡単だろう。

俺はそれを教室内の俺として答えると少し悲しそうにしているけどメゲずに話しかけてくる。

多分俺に何があったのか知りたいんだろう。

それを一定の距離感を保つにはかなりの苦痛だった。

辛い。

本当ならもっと話したい。

昔のように遊びたいし、もっと近くにいたい。

だってあかりねぇは俺が唯一憧れた人だったから。そして昔のように優しく一途であることがわかっているから。

でもターゲットの俺にとってはもう叶わないことだった。

自分がなんでこの場所にいるのかわからなくなる時がある。

復讐のためなのに、全ては捨て駒だと思っていたのに

辛い

どれだけ殺されそうになってる時よりも辛い

あかりねぇのそばで普通に過ごしたい。

青春を送ってみたい。

100億なんてどうでもいい。

地球が滅亡しようがどうでもいい。

それよりも普通の学校に行ってみたい。

俺が無理に中学に通い始めたのはそんな理由だった。

でも結局は狙われ、殺されかけ自由になれる日々を探し生き延びる日々

もし、神様がいるのなら。それはどんなに残酷なものだろうか

普通に生きて生きたい

頭が悪くなりたい。

先生に怒られ、家族に怒られ、友達と話し、買い食いや遊びに行きたい。

でも叶わない。

「誰か助けて」

口に漏れてしまう。

しかし誰も助けてくれる人はいない。

頼りたいのに助けてほしいのに

守りたいのにそばにいたいのに

笑いたいのに

たったひとつも叶わない。

だから今だけは。

周りには俺に対する殺気も何もない。

だからこの瞬間だけは。

たった二人きりの空間。

それが居心地が良くて

ずっとこのままでいれたらいいと思った。

 

「……」

「スースー。」

しばらくこの時間が続くと

「羽川くん。」

下から名前を呼ばれる。見ると烏間が立っていた。

俺は指をさしあかりねえの方を指をさすと烏間は手招きする。

仕方ないのでゆっくりとあかりねぇを下ろし下に飛び降りる。

「どうしたんですか?」

「……ちょっと大事な話があるんだが、」

「別にここでなら話は聞きますけど。」

大体の話は読めてるけど

「じゃあ。羽川くん、奴を殺してくれないか?」

「嫌だ。」

即答だった。

「……日本政府からの依頼であってもか。」

「もちろん。ってか日本政府からの依頼だからこそ受けない。」

「……それが地球がなくなるとしても。」

「それはあんたらの都合であって俺には関係ないだろ。別に地球が滅びようが俺には残りの命が早まっただけだしな。ってか一年間生きれるだけでも幸せだろ。俺からみたら一年なんかすごく長いぞ。」

俺が睨む。一年。されど一年。俺からしたら十分に長い時間だ。

「正直あんたらは俺にとって捨て駒にしか思ってないんだろ。どうせ日本政府は殺し屋か秘密兵器を用意しているんだろう。まぁ俺はその件に関しては個人の意思で妨害するつもりだしな。多分俺も殺す対象になってるだろうし。」

俺がいうとするとハッとしたようにしている烏間

「……もし君の安全を保護するといっても。」

「それは殺した後まで継続されるとは限らないし、それは口約束や契約でも守る確証はない。それに最悪、研究室に入れと言われそうだからな。」

「……」

「それにあんたは知らないと思うが、国というものは自分の利益のために裏切り、見捨てるものだ。いつも正しいことをしてる訳じゃない。裏では俺らみたいに追われる奴もいるし、妹みたいに無残に殺されたりする。」

「君の。」

「気持ちなんかわかる訳ないだろ。好きな人を危険だからって知らないふりしたり、普通の生活をできないことがないあんたらが。」

声を低くして言い放つ。いつのまにか叫んでいた。

「どんだけ口で言えたとしてもどんなことをしても、辛い気持ちと苦しい気持ちなんかわかる訳ないだろ。毒や薬品に注意してコンビニやスーパーが使えなかったり、生きるためにドブ水啜って下痢をおこしても水を補給したことなんか。」

どんだけやっても

「人の苦しみが他人に理解できる訳ないだろ。どんだけ辛いのか、苦しいのか、悲しいのか、寂しいのかわかる訳がないんだから。家族を財産を、全てを奪われた。そんな奴らを信用できないし憎しみが消えるはずがない。それを地球を救え?ふざけんな!俺が考えたものを勝手に使って、危ないって言ってるのに実験を続け地球が滅びそうだからって頼ってくるのは都合が良すぎるんだよ。」

「羽川くん。そこまでです。」

するといつのまにかクラスメイトが死神が全員がこっちをみていた。

「……チッ。じゃますんの?」

「冷静になってください。烏間さんは何も知りません。ただ国から雇われた一人です。」

「……そんなんわかってる。分かってるけど…分かってるけど」

嗚咽が漏れる。

「ころせんせー。羽川くんが言っていたことは本当なの?」

ゆわふわパーマの女の子が質問する。

「それは…」

「烏間さん、羽川くんはなんで追われているんですか?」

「……」

答えられないだろう。

先生は一度話したことがある。

烏間は知っていても答えられないのだろう。

真実なんて残酷でしかない。

残酷だから生き延びられた。

そうだ、信用できない人の方が多い。

「……羽川くんはずっと一人でした。」

死神が話す。

「昔の羽川くんのことを知っている人がいます。頭が良く小学校に通う前から高校レベルの問題を解いたと聞いています。なので両親からは学校に行かず家に習い事の教師を雇っていたらしいです。なので学校に行く機会は一度もなかったそうです。」

「えっ?」

「佳奈さんという3つ下の妹がいたそうですが、世間では羽川くんも一緒になって死んだとされている土砂崩れに巻き込まれて亡くなったと聞いています。でもそれは本当は違います。羽川くんの妹は、国に殺されました。」

「「「……っ」」」

「羽川くんの居場所を吐けと命令した国に拷問を受け4年前に死んだそうです。」

「……俺そこまであんたに話してないはずだけど。」

「…君のことについて調べさせてもらいました。」

「そうかよ。」

なるほど。調査済みってことか

「でもそれって憲法違反じゃ。」

「バレなきゃ罪に問われないんだよ。隠蔽してることなんていくらでもある。俺だって、この教室だってそうだろ。」

「……」

烏間も俺をみてくる。

「正直、私にも考えられないほど多くの死地を乗り越えて来たのでしょう。だから100億という懸賞金がかけられていますが…殺し屋の多くが羽川くんの暗殺を断っています。多分私も羽川くんのことは殺せません。」

その一言に全員が俺を見る。死神は大げさにいうが多分無理だ。ってかマッハ20にかなう訳ねぇだろ。

「羽川くんはそれほどまでにターゲットとして優れているのです。」

「買いすぎだ。俺はそこまで強くねぇよ」

「……いえ。私も殺せませんよ。羽川くんは。」

死神は悲しそうに俺を見る。

「でもいつも君を心配してくれている人はいることは忘れないでください。」

「……わかってる」

その言葉には素直に頷く。

その人が誰なのかもうわかっているから。

 

翌日のHR前

「……」

「……」

屋根裏で俺はあかりねぇと並んで座っているが無言がずっと続いていた。

正直言って気まずい

「……ねぇ、こうちゃん。」

しばらくたってからあかりねぇが話しかけてくる。

「何だ?」

「大丈夫なの?」

「……そうみえるか?」

「……」

首を振るあかりねぇ。

「……今日は私を追い返したりしないんだね。」

「……あかりねぇだって泣きそうだしな。あかりねぇもショックだろ。自分の妹みたいに可愛がっていたから。」

「うん。でも、死んじゃったんでしょ。」

「そうだな。」

「私はいいよ。お姉ちゃんから聞いた時覚悟はしてたから。」

「……嘘つけ。」

あかりねぇは顔が青色、悲しみでいっぱいだった。

「……泣いたら。」

「こうちゃんが泣いてないのに?」

「俺は、全部終わったら泣く。それまでは泣けない。」

「なら私も泣けないよ。」

「……そっか。ありがと」

あかりねぇが驚いたようにこっちを見る。

「こうちゃん?」

「……なんでもない。」

するとキーンコーンカーンコーンとチャイムの音が聞こえる。

「行ってらっしゃい。」

「うん。行ってくる。」

あかりねぇは教室に向かうため屋根から飛び降りる。

そしてまたいつもの日常が行われる。


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