かませ以下の憂鬱   作:らるいて

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第10話

 ヌマの帝具、千刃乱舞(せんじんらんぶ)ガボルグ。三メートルほどの飾り気のない無骨な柄に一メートルに迫ろうかといほど巨大な穂先がついた巨大パルチザンのような帝具。槍型帝具ということになるのだろう。能力は本体に着いたそれよりは小型の、それでも五十センチはある穂先を無数に出現させ操ること。穂先の展開には多少の時間がかかるようで、戦闘開始の直後は万全とは呼べない。速攻で仕留める以外に勝機は見えない。そして、相手の方が単純な技量まで上。無理じゃないかな。

 イエヤスを蹴散らした後、何故かヌマと戦う羽目になってしまったが勝算はない。まず負けるだろうが、やるからにはせめて一矢報いたいのが男というもの。危険種の形体にでもなれば不意は打てるだろうが、バレたくない。いずれ話さないといけないことは分かっているが、いずれはいずれであって今ではない。……イエヤスもいるし。身内以外には言う訳にはいかない、という理論武装は整う。

 準備と称して対策を練ろうとするがうまくいかず、思考が逸れて纏まらないうちに時間切れ。相対するは北の勇者にして我が兄ヌマ。彼我の距離は三十メートルほど。大した距離ではないが、果て無く遠く感じる。攻撃が届かないよ。全力で駆ければ有って無きが如き距離ではあるが、その間にヌマは刃をいくつ展開できるだろうか。二、三だろうか。もっと多いだろうか。そんなことを考えているうちに、審判を任されたイエヤスの開始の声が響いた。

 

 声を聴くと同時に踏み出す。遠く、ヌマが槍を振るう様が見え、その軌跡上に残像が残るように出現する穂先。数は二つ。存在を認識すると同時に高速で飛来してくる。一つをアースマイトで弾き、一つを身を屈めて躱し、さらに大地を駆って置き去りにする。その間にも槍を振り回すヌマ。刃は増え続ける。想定以上の数に気が滅入るが勝ち筋は速攻のみ。止まるわけにはいかない。全力でもってヌマに迫る。十に届かぬ数が出現した辺りで間合に入り、そのままアースマイトとガボルグがぶつかる。

 しかし近接の技量もヌマが上。はやく勝負をつけるどころか押される始末。どうにか武器を合わせる度に周囲の刃は増え、五回も合わせた頃には無数の刃に囲い切られる。ヌマがとどめとばかりに一撃を振るう。逃げ場は既にない。通常の手段では避けることも、防ぐことも不可能だろう。だが生憎と、超常の手段には持ち合わせがある。

 シャンバラを起動、ヌマの背後へ転移。攻撃を振るった直後のヌマは勝利の確信もあったのだろう、動くことはできないでいる。

 アースマイトをヌマに振り下ろす。しかしアースマイトは幾度かの金属音を響かせてヌマから逸れる。言ってみれば簡単。軌道上に穂先を配置して防御、加えて側面を叩いて軌道をずらす。恐ろしく早い反応。俺じゃ勝てないね。だって瞬間移動だぜ? 初見だぜ? 真っ当に考えれば偶然以外の対処は不可能。そしてこれは明らかに偶然ではない。桁違いの天才共が持つ本能の類。俺にないもの。羨ましい事この上ない。やっぱすげぇよ、ヌマは。

 などと他人事のように考えていれば腹に衝撃。そのまま後方に飛ばされるが、空中でバク転するように体勢を整えて、地面にアースマイトを突き刺し急停止。目をやればそのまま進んでいただろう場所には無数の穂先が待ち構えている。危ないと安堵する間もなく息を呑む。展開は十分に済んだようで、十や二十ではきかない数の刃が修練場を漂っている。呆気に取られてヌマを見れば、自らが展開した穂先の一つを足場に宙に立っていた。太陽を背にゆっくりと浮上する姿は勇者ではなく魔王のそれにみえる。

 

「空飛ぶとかズルくない?」

「知らん」

 

 その後はもはや語るまでもなく、前後左右上下三百六十度あらゆる方向から次々襲い来る刃にあえなく撃沈。無理。

 

 そのままの流れで始まったイエヤスとヌマの戦いを眺めていれば、連中は空中戦を始める。既に現状の戦力は把握したかと思っていたが、まったくその通りで無かったらしい。特にヌマ。イエヤスも空こそ我が本領とでもいわんばかりに動けてはいるが、ヌマはそれを凌駕する。話には聞いていたが想定以上。空中を加速しながら駆け回るイエヤスに刃を足場にすることで追従しながら、刃を操作してイエヤスの進路を塞ぐ。イエヤスが一瞬でも加速を緩めれば追いつかれるだろうし、進路の判断を誤れば宙に浮く刃に切り裂かれる。摸擬戦というよりも稽古と呼ぶのがふさわしい試合。ヌマがどれだけ精密な操作をしているのかはちょっと理解できないがヌマが本気でない事は分かる。

 そして考える。地上で対抗する事のみに集中していたが、エスデスも空を飛べたはず。自在にとはいかないだろうが、奴のセンスを考慮すればヌマの動きを見て再現くらいはしてくる可能性がある。現状では触腕を伸ばすくらいしかないから何か対策を考える必要がある。どうしようか。ヌマを仮想敵として対抗手段をどうにかこうにか。……むぅ。どこぞの超能力チルドレンよろしく瞬間移動を連続的に行い、宙に留まるくらいだろうか。おそらく、シュラも同様の手法で宙にとどまっていたはずだ。だが、空中にマーキングそれもそこら中となると前準備が必要だ。どこか一カ所を自らの本拠地的に定めて、そこに引き釣り込まないといけない。……全部シュラがやってることだな、これ。やっぱり優秀だったんだな。アレ。

 

 

 

 今は亡き、自ら亡き者にしたかませ犬仲間についていろいろと考えているうちにボロボロのイエヤスが大地に転がっていた。大の字で胸を上下させるイエヤスを気にせずヌマに話しかける。当初の目的、エスデスについての相談だ。エスデスが北上の動きを見せていて、早ければ一月後にもうちの国との国境に接する可能性。

 

「そうか、帝国が……。確か、お前がずっと警戒していた帝国の将軍だったな」

「あぁ。たぶん、兄上より強い。エスデスに詳しい奴は殺すのに十万の兵と一斬必殺(いちざんひっさつ)村雨……かすり傷でも負わせれば即死させる帝具なんだが、その村雨の使い手を含む帝具使い十人が必要っていう評価をしてた」

 

もちろんナジェンダから直接聞いたわけではない。原作知識という奴だ。エスデスの方も片腕がない分戦い方も変わっているようではあるが、ある程度の指標にはなるはずだ。そして、このたとえをすれば遠く響いた勇名しか聞かないヌマにもその片鱗は伝わる。

 

「それは……なんというか、いくらなんでも過大評価し過ぎじゃないか?」

「昔、帝国の少数民族を襲ったことがあったよな」

「あぁ。あのときか。それが――」

 

かつての話をしてもヌマの反応は芳しくない。話しながらエスデスに付けられた顔の傷をなぞれば、意図は伝わったようで、ヌマは目を細めた。

 

「――お前の顔を斬った、という奴か?」

「そ。話しただろ。戦いの中で成長するような、それも重傷を負ってから急激に成長するような化け物みたいな、いや、化け物の話」

「その化け物が変わらず成長を続けていたらあり得ない話じゃない、か」

「確信してるよ」

「なるほど、な。それで何か意見があったというわけだな」

 

そこまで言うとヌマはイエヤスに今日の鍛錬は終了してしっかり体を休めるように告げる。そして俺にはついてくるよう促して歩き出した。副官と言っても重要な軍議に参加できるだけの信頼はないということだろう。一足飛びで出世したイエヤスであってもそれは帝具使いとしてのものであって、将としてのものではない。当然だ。ゆくゆくは期待したいものだが現状のイエヤスは異様な抜擢を受けただけの新兵に他ならない。

 イエヤスに傍から見ていて気が付いたことをいくつか告げて、既に闘技場から出ようとするヌマを慌てて追いかける。

 

 

 

 たどり着いたのは軍議室ではなくヌマの個室。ヌマは召使にしばらく誰も近づかせない様にだけ告げると、部屋に置いてあった封の開いた酒を卓上に置く。酒盛りでもしながら話そうという訳だ。

 ヌマに現在の方針を聞けば、俺の想定と大きく違いのないものだった。だが、それではいけない。それでは勝てない。

 

 ヌマの考えでは、エスデス軍を迎え撃つために現在まで浸透に成功している領域まで兵を出す。折角街やら村やらの懐柔が上手くいっている状況で、それを見捨てるかのように動くことはできない。一気に状況が反転して反乱とまではいかなくとも、ちょっとした暴動でも起きれば厄介だ。今後の統治に大きく支障が出る。そこで支配に成功している村よりも帝国領内奥深く、ちょうどイエヤスの村から南の地点でエスデス軍を迎撃するという作戦。

 道理ではあるがこの作戦には難点がある。防衛陣地の構築が十分とは言えないだろう事から野戦になってしまう。そうなっては帝国最強の攻撃力を持つエスデス軍の相手を真正面からするはめになる。いかなヌマと言えどそうなっては一筋縄ではいかないだろう。

 そこで俺の提案は、エスデス軍をまともに相手取らないことだ。ある種非道とも、いや。明確に非道と言える代物だ。例えば戦う前から避難を呼びかけたとして、つい先日まで帝国臣民であった村人たちが従う可能性は低い。ヌマが敗北したとしても異民族に脅されて仕方なくとでもいえばいいだけだ。

 そこで、避難は呼びかけ従うならば援助するがそうでないならなにもしない。その上で、エスデスとの初戦は早々に見切りをつけて軍を引く。この時に馬鹿にならない被害が出るだろう事は百も承知。エスデスも追撃を仕掛けてくるだろう。エスデスの性格を考慮すれば、この時に前線に出てくる可能性は高い。無論、頭の切れる化け物ではあるので、罠と判断して出てこないことも十二分に考えられる。あるいは、北の勇者ヌマに、帝国に勇名轟くヌマに対して失望を抱くか。失望でもされればさらに楽だ。

 

 考えるのは、西の異民族と我らがセイカ王国。エスデスが攻めたさいに西の異民族は壊滅的な被害を受けはしたが堪えてみせた。それに対してセイカ王国は瞬殺だった。西にヌマ以上の化け物が居たとは考えづらい。ナジェンダの目測から考えれば、ヌマはエスデスでも手こずるはずだったのだ。その差は何処から生じたものか。

 おそらくは、エスデスが楽しめるか、否か、だ。西の異民族はエスデス軍と正面からぶつかってみせたのだろう。翻って原作のヌマは籠城することでエスデス軍の消耗を待った。並大抵の軍であれば打って出て正面から撃破してみせるヌマではあるが相手が手ごわいと悟れば、より効果的だろう作戦に柔軟に切り替えることもできる男だ。

 だがその優秀さが裏目に出た。挑んでくる相手を蹂躙することに悦びを覚えるエスデスにとって、籠城し防御に徹する相手はひどくつまらなかったはずだ。楽しい時間はすこしでも長く、つまらない時間は直にでも終わらせたいのは万人に共通の感情で、エスデスも例外ではないだろう。エスデスはさくっと本気を出しヌマが長年かけて築き上げた要塞を一撃で機能停止に追い込み、混乱する相手を蹂躙してみせた。

 あるいは、野戦でのヌマが手ごわかったからこそより一層失望し退屈したのかもしれない。

 そう考えれば帝国最強の攻撃力を持つ相手に防御を固めるのは驚くことに、むしろ愚策という結論に至ってしまう。

 

 さて、話は戻る。エスデス軍をまともに相手取らないとはどういことか。相手にしなければエスデスが本気を出してしまうというのであればこれはおかしなことだが、単純な話。エスデスさえいなければヌマなら勝てるという前提で、まずはエスデスを討ち取る。まずは、と言えるほど易しいことではないし、むしろ一番難易度が高いのは明らかであるが、その一番難しいことが一番易しい時こそがエスデス軍との緒戦に他ならない。エスデスが未だにこちらの実力を完全に測り終えていない状況で、初見殺しを連続で喰らわせて、どうにかこうにか仕留める。

 革命の最大の障壁の一人であるエスデスを討ち取る好機に加えて、報酬が帝具。それも複数個ともなれば、ナジェンダはともかく、他の革命軍幹部は乗ってくる。そうなれば如何にナジェンダといえど拒絶しきることはできまい。代償は帝具。所有者の見つからぬライオネルとダイリーガー。そしてエスデス配下三獣士の持つ三つ。五個の帝具の過半を革命軍に譲るとまで言えば、間違いは今度こそ起こりえない、たぶん。……どさくさに紛れて奴らがこちらを暗殺とか、あったら、どうしよう。いや、明確に敵対は、してるけど。共闘直後に殺しに来るほど非情な連中では……わからん。……警戒さえしていれば、アカメとブラートの不意打ち、マインの狙撃以外で致命傷を負うことはまずない……なにも安心できないがだからこそ警戒は、必須だ。

 ともかく。エスデスを前線に引っ張り出して、シャンバラでこちらの有利な地形に連れ込んで。囲んでボコる。返す刀でエスデス軍を撃破する。雑な説明になってしまうが以上が作戦だ。都合、戦の指揮を執るのがヌマではなくなるし、主戦力足る帝具使いは戦場にほとんど残せないのが大きな難点ではある。リヴァがいかに優秀な元将軍だとしてもわずか一戦でうちの軍を倒しきれるほどの能力はない、はずだ。ヌマがずば抜けているだけで、それ以外の将が無能なわけではないのだ。

 

 俺の提案を聞いて、ヌマは難しい顔をする。当の俺本人が思い付くだけでも問題点は大きい作戦。それでも、エスデス軍よりもエスデスを重く見た場合に、これが最善だと確信している。ヌマにも俺のエスデスへの認識を共有させることができれば、受け入れられると信じている。

 

「指揮官を隔離させる、というのは悪くはない。精強な軍でも指揮官が居なくなれば脆いものだからな。だが、それはうちにも言えることだぞ。そこはどうするつもりだ?」

「副官たちに任せるしかない。あらかじめ伝えておけば混乱はしない。ならエスデス軍相手に持ちこたえられるはずだ」

「大将を引き離してなおエスデス軍の方が強いとみるか。こちらの兵の動揺を抑えて、あちらを動揺させた上で不利、ということは指揮を執る奴が他にいるのか。代わりになる優秀な部下……帝具使いか?」

 

不満げに指摘するヌマ。流石に鋭い。いや、言い方に工夫をしなかった俺が悪いのか。内の兵のが弱いと言っているのだから。自身の鍛えた精鋭がそんな言い方をされれば大なり小なり機嫌も悪くなろう。だが、それはよりエスデスという存在の深刻さを強調できるというもの。

 

「あぁ、三獣士っていう名前の通り帝具使い三人だ。一人はただ強いだけだが、厄介なのが二人いる。かつて帝国で将軍をやっていたリヴァって奴がいるんだが、エスデスが前線に出るとしたら、兵の指揮を任されるのはそいつだ」

「将軍級の部下がいるからお前の作戦通りにエスデスを引き離しても、軍の指揮系統に関しては問題が起こらないということか。それでもいきなり総大将がいなくなれば動揺は起こる筈だが……もう一人の方はそれを起こさせない、あるいは抑えられる帝具か?」

「その通りなんだが、いや、もう、うん。スクリームという笛の帝具を使うニャウって奴がいる。直接の戦闘能力自体は大したことはない、たぶんイエヤスでも勝てるんだが、このスクリームが厄介でな。笛の音を聞いた者の精神に影響を与えるんだ」

「動揺を抑えるくらいはわけないんだな。士気高揚もできそうだ。最悪うちの兵が戦えなくなる可能性もあるか」

 

一を聞けば十を知るといえば言い過ぎだろうが、それでも四五程度は知るのがヌマだ。詳しく説明するまでもなく、できそうなことに当たりを付けていく。そのまま考え続けるヌマにいくつか質問をされ、それにこたえる。

 

 一時間か、もう少し長いか程度の時間が経ったとき、ヌマが結論を出す。感触からすれば条件付きの承諾あるいは一部承認といったところだろう。エスデスの脅威を直接見ずに正確に伝えきるのは流石に厳しいものがあったようだ。ヌマの言葉を待つ間は、気心の知れた仲と言えど緊張する。卓上にある酒でのどを潤す。俺が杯を置くと同時にヌマは口を開いた。

 

「よし。カマ、三獣士を倒してこい。」

「……は?」

「エスデスを警戒してエスデスを最優先で倒そうというお前の方針は理解できた。その上で、俺は軍への被害を抑えたい。となれば問題はエスデスではなく三獣士になるだろう?」

「それはつまり、俺の提案を受けるってことでいいのか?」

「一応な。代わりの俺からの条件だ。これが不可能だというのなら、残念だが却下させてもらう」

「分かった。詳しく話を聞かせてくれ」

 

 ヌマの言う条件は分かりやすいものだった。到底、受け入れられないモノだった。

 エスデスを移動させた後、俺は戦場に舞い戻り、そこで指揮を取って三獣士のうち最低でもニャウを討ち取る。そうすれば敵は士気を操れなくなり動揺するのでその隙をついて敵に打撃を加える。そうすればその後の戦闘も互角に進められるので俺が指揮を続けエスデス軍を撃破するというもの。

 その間にヌマ、ドロテア、イエヤス、他俺が革命軍から連れてくる帝具使い数名でエスデスを倒すという。俺はエスデスと戦うために人間を止めたのだ。駄目だ。俺が居れば勝てるとうぬぼれるわけではないが、俺が居なければ勝てない。勝ってほしくない。俺は俺の努力を無意味にしてほしくない。にヌマは言う。慌てて言い包めようとするが、ヌマは目ざとく俺の焦りに気が付く。

 

「どうした? 少し変だぞ。ちょうどあの頃の……何があった。言え」

 

ヌマに悟られる。あぁしまった。自身を晒し過ぎた。酒のせいか、気を置けぬ間なせいか。見た目には出ていない。

 だが、むしろちょうどいいのだろうか。どうせいずれは明かすつもりだった。それが今になっただけ。酒の勢いで、という話。そのままだったらきっといつまでも言い訳して言えなかっただろう事は想像に難くない。いや、エスデスとの戦いでなし崩しでバレていただろうが、それはそれ。その前段階で俺の戦力を正確につたておいた方が確実に状況は良くなるだろう。

 

「……ヌマ。俺はエスデスを殺すために邪法に身を染めた」

 

邪法と聞いて眉を歪めるヌマ。何を想像したかはわからないが、愉快なことでない事だけは確かだ。

 

「ヌマが想像してることと違うかもしれないから、言ってもピンとこないと思う。だから、直接見せたいんだけど、ここじゃアレだ。場所を変えよう」

 

そう言ってシャンバラを見せる。ヌマが神妙な面持ちのまま頷くのを確認するとシャンバラを起動させる。行先はドロテアの研究所。どうせまた人型に戻らなければいけないんだから、此処が妥当。小さな不安点はヌマがドロテアにキレるかもしれないことだが、それはそれで面白そうだ。殺すまではいかないだろうし、活かせないからドロテアは安心してほしい。アイツは虐められている時こそ輝く。

 

 

 

 後から思えばおかしなことに、俺はヌマに拒絶される可能性を微塵も考えていなかった。拒絶はされなかったのだが、なんとも奇妙だ。コスミナが受け入れたのだからヌマも母も受け入れてくれるだろうと楽観的に考えていた。コスミナと話し合っても結局相手を過剰に美化する癖は変わっていなかったのか、いや受け入れられたのだから見る目があったととらえておこう。全ての事情を知ったヌマは俺を一通り俺の提案を全面的に受け入れてくれた。唯一の想定外はヌマがキレる対象だった。俺を改造したドロテアではなく、黙って人外と化した俺にブチ切れたのだ。

 結果、化け物状態の俺と久方ぶりの全力の兄弟喧嘩が勃発した。文字通りの死闘を繰り広げて、互いに重傷を負った末に、それでもヌマは立ち上がり笑う。曰く、だいぶマシになった。曰く、人間らしくなった。この化け物に向かってずいぶんな言い草だが、反論する気力も体力もなかった。

 そしてそんな俺に宣ったのだ。戦力の確認はできた。次は連携の練習だと。あほか。死ぬわ。

 

 

 

 結局二人してテンションが上がったまま無理をして、連携の確認はできたが死にかけて、ドロテアの治療を仲良く二人で受ける羽目になった。笑い合う俺とヌマをみて気味悪そうな顔をしていたドロテアと、ニコニコ笑うコスミナが印象的だった。

 

 




遅れました。書けなかったので最期バッサリです。
次回暗躍を挟んで次々回あたりエスデスとの決戦の予定。まぁ、今年中には完結させられると思います、たぶん。

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