かませ以下の憂鬱   作:らるいて

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第2話

 「おい、アンタちょっといいか?」

 

そう声を掛けてきたのは、会ったことのない見知った人間だった。シュラ。後にワイルドハントを結成し、暴れまわる存在だ。シュラの後ろにはフードを深くかぶった奴が二人。小柄と長身。ワイルドハントのメンバーだろう。身長から推察して小柄はドロテア。チャンプは捕まっておらず、エンシンは所在が知れている。長身はイゾウだろう。俺からすれば明確に敵ではあるが、警戒していることを察されるのもまずい。ヌマと違って俺の顔が知られているわけではない筈だ。

 

「なにか?」

「オマエじゃなくてな。あーやっぱり」

 

シュラが見たのは俺ではなくコスミナの顔。緊張から心臓の音が大きくなる。コスミナは現状を理解していないようで、理解できるはずもなく、首をかしげている。

 

「西の歌姫、コスミナだろ、アンタ」

「コスミナのことを知っているんですか?」

「ちょっと西を旅したことがあってな。興味持ってたんだが、俺が行ったときには既にどこぞに越した後だったんだよ。こんなとこで会うなんて運がいい。ちょっと歌って見せてくれよ」

「えぇっと、求められるのはうれしいのですけど……どうしましょう?」

 

その正体を悟らせない、一見すると好青年に見えなくもない仮面をつけながら頼むシュラ。コスミナもやはりというか断り切れないようで、それでも目立つわけにもいかない現状を理解してか、俺に訊ねてくる。

 コスミナに話しかけるメリットはなんだろうか。正体がばれていないならばこのまま話しを合わせて立ち去るのもいいが、おそらく難しい。コスミナを勧誘するだろう。断ればどうなるかはわからないが、帝具だけでも手に入れようとする可能性はある。受けるにしても、俺がどうなるかだ。今は布にくるんで隠してあるが、俺の背負っている帝具アースマイトは先日まで帝国に使い手がいた。北の戦場で失われたこれを持っていると知られればまずい。そこまで情報が共有されているかは不明とはいえこれもあり得る。話を合わせるのはリスクが大きい。

 戦闘になればどうか。帝具使いは彼我共に二人。そして相手には並の帝具使いより強いだろうイゾウ。

 俺はかませ犬のヌマより弱い三下。コスミナの戦闘力はそれより低い。帝具ありきだ。ドロテアも低いが流石にコスミナよりは強いだろう。帝具は無視できるくらい射程が短い。帝具以上に何が出てくるかわからない道具が怖い。シュラもブドーに認められるだけの実力はある。帝具は厄介極まりないシャンバラ。イゾウは帝具こそ持たないが、おそらくワイルドハント最強。

 総合してガン不利。性格実力などを考慮して、不意打ちでイゾウを殺らねば厳しいが、いくらなんでもそう容易くはないだろう。シュラなら殺れるかもだが。

 なんにせよ戦闘は避けたい。話を合わせるのもよろしくない。逃げの一手だ。

 

「え、きゃあ!」

「なっ」

 

コスミナの手を取り駆け出す。瞬間。――殺気。即座に来た一閃をアースマイトで防ぐ。容易く布を切り裂いたそれはキンッと甲高い音を立ててアースマイトに触れ、止まる。

 

「ほぅ」

 

しくじった。そうか辻斬り。逃げる相手をとっさに斬りたくなる系人種だったかイゾウ。想定外だ。攻撃を受けたアースマイトを覆う布がハラリと落ちる。

 

「あん? それどっかで――」

「――コスミナァ!」

 

見られた。シュラも記憶にあるらしい。コスミナの名前を叫ぶと同時にアースマイトのツルハシ側を地面に突き刺す。呼応するようにコスミナが帝具を用いて大声で叫ぶ。帝具から放たれた超音波が周囲に響き、揺るがす。この程度でひるむ連中ではないだろうが、問題はない。同時にその衝撃を受けたアースマイトが共鳴するように震え、突き立てた地面が微かに盛り上がる。併せてハンマー部分を殴りつける。爆発するように大地が耕される。急に地面がふわふわになったシュラたちがバランスを崩す。

 その隙にコスミナと共に逃げ出す。一撃くらいは入れられたかな、なんて煩悩がよぎるが無視だ。この状況なら確実に逃げられると、安心した瞬間。

 

――シャンバラ!

 

 おいおい、そこまで対応力に優れた人間じゃなかっただろ。驚きと同時に足元に方陣が浮かんだかと思えば、コスミナを方陣の外へ蹴飛ばしていた。自分の行動がわからず、呆然としてしまうが、脚だけでなく口まで勝手に動いた。

 

「逃げろ!」

「え、ま――」

 

――コスミナが何を言うよりも早く視界が光に包まれて、どこぞの荒地に居た。微かに離れた場所に三人。フードが外れて顔が見えていて、予想通りの三人で合っていた。

 

「……のう。あの辺りにマーキングしてたかの?」

「あ。……アイツが持ってるアレはこの間北の異民族との戦いで奪われた帝具だ。つまり、アイツは北の異民族のスパイってことだ。倒せばお手柄だぜ?」

「おい」

 

シュラとドロテアがなにやら話しているが耳に入らない。そんなことよりコスミナを遠ざけてしまった理由を考えていた。こうなることは読めていたし、コスミナがいた方がはるかに有利だ。だというのに。何故。なんて考えていると、イゾウが俺に斬りかかってくる。集中力を欠いていたとはいえ、流石にそれを見落とすわけもなく、右手で握ったアースマイトのハンマー部分で受ける。

 

「む? この手ごたえ……」

 

そして左手に持ち換えてツルハシ部分をイゾウへ振るう。イゾウは一歩後ろに引くことでそれを避ける。

 

「槌の部位は攻撃を無効に、ツルハシの部位は物体を破砕する帝具というわけか。そしてその技量……喜べ紅雪、上物だ……」

 

イゾウはそれきり黙り、にらみ合いが続く。あぁ、まずいな。なんて。敵は三人。シュラもドロテアも遠巻きにしてこちらを見ているが、既に戦闘態勢にはあるらしく油断した様子ではない。距離を詰める様子でもないところを見ると、ひとまずイゾウに任せる判断か。断定はできないが、イゾウとの戦いに集中する。

 

 

 

 イゾウが踏み込む。対応して一歩下がりながらアースマイトを回転。目前に迫った紅雪をハンマー部で受ける。アースマイトをさらに回転し振るう。回転中にイゾウが斬り返し切り裂かれる。

 対応を変更。受けた後イゾウを蹴り出す。イゾウは身をひねって回避。この間に帝具を持ち変えて軸足を変更。その勢いで帝具を振るう。イゾウがさらに内側に踏み込むことで帝具は空振り。切り捨てられる。

 受けた後距離を離す。イゾウの追撃。ハンマーで受けつつ凌ぐ。反撃の余裕はない。ジリ貧で敗北。シュラ、ドロテアが痺れを切らして加勢した場合も基本は敗北。

 イゾウの踏み込みに対応してこちらも踏み込む。ツルハシ部でイゾウと打ち合う。ツルハシに沿わせて紅雪を受け流す。形状的に攻撃への反転は不可。そのまま帝具を捨ててイゾウに肘を打ち込む。怯ませ首の骨を折る。イゾウが紅雪を逆手持ちし自身ごと俺を突き刺す。後のシュラとドロテアに対応不可。

 

 いくらか経過を想定したが最高でも手負いでの勝利。シュラ、ドロテアが後に控えていることを考慮すると敗北が確定。捨て身になればイゾウは殺せる。あるいは手傷。イゾウも理解しているから膠着状態が続く。技量は奴が上。身体能力は俺。武器の質は俺だが形状で不利。総じてイゾウ有利。受けに徹すればイゾウ単体には当面負けない。しかる後に奥の手で無傷での勝利も狙えるが、シュラとドロテアの行動次第ではそれも厳しい。奴らに危機感が最低限のみ備わっている事を祈るしかない。

 とはいえ、それしか勝ちの芽を予測できないのも事実。シュラとドロテアの介入が遅すぎず、早すぎず、絶妙であることを期待して受けに徹することを決定。であれば膠着状態を続けるわけにはいかない。

 一歩、イゾウに近づく。イゾウは動かない。足に軽く力を籠めて踏み込む。対応してイゾウも踏み込む。ツルハシ部を地面に突き刺し急停止、土塊がイゾウに向かい飛ぶ。イゾウが切り払う時間でツルハシを抜きつつ全力で後退。同時に帝具を反転。イゾウに追いつかれるも紅雪をハンマー部で受ける。衝撃は全て吸収。反動は互いに皆無。そのまま盾を構えるようにハンマー部でイゾウの連撃を受け続ける。

 

 引く。引く。引く。引きの一手。距離が詰められ過ぎれば帝具が役に立たなくなり、流石に受けきれない。十合、二十合と重ねるうちに全ての衝撃を吸収してきた帝具が振動を始める。奥の手の発動条件は満たされた。

 互いに戦闘中は口を開かないようで交わす言葉はない。衝撃を吸収する帝具ゆえに、武器と武器がぶつかる音すらない。地面を蹴る音のみが起こる不自然な戦場になっていたこの場所に、音叉が震えるような音が響く。発生源は無論、俺の帝具、アースマイト。

 ここでイゾウの選択は二つ。即座に終わらせに掛かるか、一度距離をとる。此処まで打ち合えば帝具の性質は既に割れているだろう。であれば速攻で終わらせるのが吉。しかし俺の技量がそれを許さない。故にイゾウの判断は距離を取るが妥当。しかし――

 

 

――音を聞いたシュラとドロテアが動く。二手に分かれ俺を囲むよう動き。右にドロテア。左にシュラ。

完璧なタイミング。俺が何か仕掛けたと考えるのが妥当。奥の手の不安もある筈。動くとしたら、これ以降は在り得ない。

 だが、奴らは最初から判断を誤った。どれだけの実力があろうと、どれだけの戦力差があろうと帝具を相手に遊びは不要、否、自殺行為とさえ呼べる。能力が知られている帝具であっても、その奥の手はほとんどの場合は知られていない。使い手の実力や発想によっては使用できなかったり使用できても変化、あるいは新たに編み出される事さえあるからだ。どんな状況にあったとしても、帝具使い、あるいは帝具使いだったものに対して、不用意な行動はしてはいけない。例えば捕虜にして、帝具を奪って、丸裸に剥いたとしても、体内に帝具の一部を隠している事もあるのだから。

 油断と慢心は持って生まれた性質か、育った環境か。奴らはそれを理解していない。イゾウを除いて、戦う人間の性質をしていない。だからこそイゾウが最も厄介で在り、最初に潰すべき相手だった。奴は遊ばず、殺す。二人はその逆。

 シュラとドロテアに呼応して、イゾウは距離を離さず詰める。それを見て笑う。イゾウと一対一ならジリ貧で負けていた。距離を取られていれば、時間を掛ければ衝撃は抜けて奥の手は使えなくなる。一度でもそれを理解されれば無傷での勝利の芽どころか勝利はなかった。

 

 イゾウの斬撃に対してハンマー部で受けるように構え、合わせて左後方に身を引きつつ、アースマイトを回転させる。必然紅雪はハンマー部の右隣りをすり抜け、俺に向かう。イゾウは一瞬目を開いたが、構わず全力で紅雪を振り下ろしてくる。だが、アースマイトの方が早い。

 俺の眼前に迫った紅雪の腹に、回転してきたアースマイトのツルハシ部が微かに当たる。通常であればその程度で、横から小石が飛んできた程度の衝撃で、剣戟の軌道がぶれる筈もない。イゾウはその程度の実力ではない。構わずイゾウは振り下ろす。

 

 直後、イゾウに決定的な隙ができる。理由は単純。振り下ろした紅雪の刀身が存在しなかったから。衝撃を蓄積したアースマイトのツルハシ部に触れた紅雪は、その衝撃を余さず受け砕け散った。その欠片はアースマイトに触れた方向とは逆側に、すさまじい勢いで弾け飛んだ。そしてその方向にはドロテアが。ドロテアは防御行動すらままならず散弾銃のように飛び散った紅雪に貫かれて倒れた。

 

「こ、紅雪……」

 

よほど大切にしていたのだろう。戦闘中にもかかわらず呆然と決定的な隙を晒したイゾウにツルハシ部が正面を向いた帝具を振り下ろす。ゾブリとした手ごたえと共に、イゾウの胸を貫く。

 

「てめぇ!」

 

今更やってきたシュラの拳を、体をひねり、イゾウが刺さったままのアースマイトのハンマー部で受ければ、増幅された衝撃によってイゾウの体は弾けた。この帝具は衝撃を増幅し拡散させる。全身に体内から広がる衝撃は体内で爆弾が爆発したようなもの。そら、こうなる。

 

 さて、ようやく一対二。もはや慢心は見込めない。手札もばれた。それでも先ほどまでより勝率は高い。帝具使い二人より、ただの剣士一人の方が厄介とは皮肉な話ではある。ようやく見えてきた勝利に口元を歪め笑いかける。奴には挑発が有用だ。逃げられれば追いつけない。最悪は元の場所に戻られる事。コスミナが逃げているとは限らず、コスミナではシュラとドロテアに及ばない。貴重な帝具使いを失うことになる。奴がもっと人の言うことを聞く性格ならばこんなことをせずに済むのだが、可能性は潰さねばならない。

 

「最初から三人で来るか、最後まで乱入しなければ、俺は死んでたろうよ。脚しか引っ張らない無思慮な大馬鹿がいたおかげで助かった。感謝するべきかな? ありがとう」

 

シュラは眼を血走らせてこちらを睨みつける。激昂して襲ってくるわけではなくこちらの動きを見る構え。少々露骨過ぎたか? ばれたのか。奴らとの戦闘経過を予測する。

 

 

 

 ドロテア、重傷。奴の生命力を考慮して死んだふりと判断。奇襲の可能性大か。要警戒。気づいていることをバレなければ逆に不意を討てる。怪力らしいが程度は不明。ライオネル使用時の故メイドより上と推定。技量、戦闘専門ではない為イゾウはもとよりシュラより低いだろう。当面無視。悟られて錬金術で作製した道具を駆使したサポートに徹された方が厄介。

 シュラ、無傷。身体能力は順当に高く、技量も十分。だがイゾウやヌマよりは明確に下。懐に入られればやや不利だが、それでも受けに徹すれば問題はない程度。厄介なのは帝具。空間転移を可能とする帝具シャンバラ。此処に多数のマーキング済みとは考え難いが頭の隅に入れる。マーキングナシなら警戒すべきはバシルーラや逃走、そして奥の手のランダム転移。発動時の隙は微少。不意を打たれなければ間合内ならば対処可能。外は不可能。よってつかず離れずを保つ。最悪近づかれ過ぎてもいい。

 

 シュラの連打をハンマー部で受ける。攻撃は断続的。ある程度殴れば距離を取ろうとする。それに合わせて進み距離を開かせない。引いた時にはこちらから軽く仕掛ける。持ち手を変えて帝具を振るう。シュラは合せて踏み込み。ツルハシ部で受けようとすればシュラは引く。シュラは後退と同時に土を蹴り上げ石を投げつける。それをツルハシ部で弾く。音を立てて明後日の方向へ飛ぶ石。

 以降シュラの攻撃は激しさを増す。ツルハシ部での反撃時に手で受けて流す。音が出ていない時は触れて問題がないと把握される。こちらの攻撃機会は攻撃を受けきった直後。それを幾度と繰り返していると、とうとうアースマイトから音が鳴る。シュラは顔色を変えて全力で距離を取る。それを追う。シュラが逃げたのはドロテアが倒れるすぐそば。シュラに攻撃するが、どこかに触れれば蓄積された衝撃は全て失われる。結果、単調にならざるを得ない攻撃は躱され、追撃を掛けようとした段階で背中に衝撃。ドロテアに殴られる。さらにドロテアに組み付かれる。怪力故に即座には振り払えない。シュラの罵倒と攻撃が入り、意識を刈り取られる。そのままドロテアの帝具アブゾデックにより生命力を吸われ死亡。こんなところだろう。

 この流れで問題はない。ドロテアの存在に気づいていなければこうなる可能性は高い。ドロテアの不意打ち以降の行動を変えればいい。ドロテアを捌き逆に不意を打つ。仕留めるべきはシュラ。シャンバラが厄介だ。憂慮すべきはドロテアが毒物等を使用してきた場合。シュラは一撃で仕留めねば逃げられる確率が高いが、ドロテアの攻撃を受ければ最悪そのまま負ける。可能な限り回避を考えつつ、無理なようなら受けてでもシュラを仕留めればコスミナは無事だ。……なぜコスミナを考慮する必要があるんだ。訂正。回避を最優先する。仕留めきれずとも重傷を負わせて撤退させれば現状は勝利と言えるだろう。シュラの奥の手で彼方に飛ばされる可能性もあるが、彼我の戦力差ではどうしてもリスクがゼロにはならない。仕方ない。

 

 シュラとのにらみ合いに痺れを切らしたように、アースマイトを振るう。予測通りに進んでくれよ……。

 

 

 戦闘は想定通りに推移した。あんまり望みのままなものだから、逆に不安になってしまうが、現状から咄嗟に対応を変えるほどの度胸も戦闘センスもない。掌の上だというのにどこか恐怖を抱きながら、動く。イゾウ戦では無かったこの感覚は余裕があるからなのだろう。戦っていて分かった。シュラは俺より弱い。これはある意味朗報だ。俺の現在の戦闘能力が原作でどの程度の位置にあるかわかるのだから。イゾウ以下シュラ以上。四鬼羅刹相当と考えるのが妥当か。まったく。辛いな。しかし俺でこれならやはりヌマは相当強いのだろう。帝具なしでイゾウと同格以上。込ならブラート、アカメにも負けないのではなかろうか。やはり相手が悪かったというほかない。

 無駄な事を考えているうちに分水嶺。シュラに向かって音を響かせるアースマイトを振るう。シュラは大げさにこれを避ける。後ろで微かな音。ドロテアだ。シュラが遠くドロテアが早い。回避優先。の筈だったのだが、咄嗟に背中への衝撃に備えて硬直する。未だに場慣れしていなかったのか、あるいはそれ以外か。

 ドロテアの攻撃に合わせてツルハシのハンマー部を胸に押し当てる。ドゴンと、人体と人体がぶつかったと思えない音が鳴り、衝撃が背中から胸へ突き抜ける。胚の空気が押し出され、押し潰されるような圧迫感に襲われるが、全てそのまま通り過ぎる。

 タイミングを完全には合わせられなかったせいでダメージは大きい。だが、動けなくなるほどではない。組み付こうとするドロテア。踏み込んでくるシュラ。全力でシュラに踏み込む。シュラは咄嗟に防御しようと腕をクロスさせるが無意味だ。衝撃を過剰に蓄積したアースマイトの奥の手は、それこそエクスタスでもなければ防御は不可能だ。防御するシュラとの交叉時にツルハシ部を軽く押し当てる。直撃させる余裕はなかったが、十二分だ。それだけでシュラの両腕は砕け散り、全身の血管は破裂する。シュラの背後に回り込むと同時にハンマー部を地面に当て勢いを殺し急停止。そのままツルハシ部で頭を潰し、駄目押しでハンマー部を叩く。シュラの頭が弾けて、上半身が原形をとどめない下半身のみの死体が出来上がる。

 返り血で死ぬほど汚れるのが欠点。体液が毒みたいな危険種には使えないな。そう考えながら、冷汗をかき後ずさるドロテアを見る。

 

「ま、まて、降参じゃ。降参する」

 

都合のいいことを言うが、現状負ける要素がない。シュラ以下の戦闘能力。何か隠し玉を持っていたとしても現在の距離なら一足でつぶせる。だが、あえて、通常の一歩分距離を詰める。その分ドロテアは引き捲し立てる。

 

「わ、妾は役に立つぞ! 凄腕の錬金術師でな、そうじゃお主、北の人間じゃろ? 帝国に負けぬほどの技術力を手にしたいと思わぬか? な、な?」

 

知ってる。そしてそのメリットも考慮している。この交渉が本気だろう事も理解できている。その上でドロテアを追いつめる。できうる限り上下関係を叩きこんだ方がいい。

 

「ほう。仮にそれが真実だとしても信用できると思うのか」

「ぬぅ……」

「何か?」

「なんでもないわい!」

 

やだ、楽しい。だが、こうしている時間も勿体ない。今いる場所が何処かも分からないのだ。全力で踏み込む。ドロテアは慌てて対処しようとするが遅い。伸びてきた手をさばいて組み伏せる。そしてぐりぐりとアースマイトのハンマー部とツルハシ部の間の突起を押し当てる。

 

「ひっ! そうじゃ、妾も帝具を持っておる。これじゃ、この牙! 血液徴収アブゾデックといって血を媒体に相手の生命力を吸収して自らのモノにする帝具じゃ。どうじゃ、技術力に加えて帝具使いも仲間になるのじゃぞ! な、なんなら妾の体を好きにしていい!」

「根本的に勘違いしているな。殺すかどうかは俺の判断するところではない。もっと上の人間が判断するところだ。俺の任務は帝具の調達。無論帝具使いがセットならば言うことはないが、逃げ出す可能性があるからな」

「逃げぬ! 逃げぬ! 先に帝具を渡す! これならよいじゃろ!?」

 

お偉いさんは俺だ。その程度の裁量権はあるが、そんなことは分かるまい。だが引き出したい言葉は出た。

 

「そうか。ならとっとと帝具をよこせ。それくらいはできるだろう」

 

ドロテアはそのまま帝具を外し、後ろ手にこちらに渡す。それを受け取るとドロテアを開放する。そしてそのままシュラの亡骸からシャンバラを回収し、ドロテアに向き直る。帝具を手にした以上、逃亡されてももはや問題ないが、可能ならば味方に引き入れたい。故にドロテアに帝具を返す。

 

「……なんのつもりじゃ?」

「仲間になるんだろう? 自己紹介でもしようと思ってな。北の異民族……セイカ王国の王位継承権第二位。第二王子カマ・セイカだ。ドロテア。貴方が忠誠を誓うなら、全力で貴方の研究を援助しよう。その帝具はその証明だ。極めて重要な帝具、国宝級の代物ではあるが、偶然にも適合したようであるし下賜しよう。さて、ドロテア殿、返答は如何に?」

 

怪訝な表情でこちらを見つめるドロテアに笑いかける。返り血塗れで赤く染まったそれはどう見えただろうか。ただ、俺が名乗りを進めるにつれ、顔が引きつっていったのは面白い。そして返答は絶叫だった。。

 

「た、謀りおったなぁ!? 殿下に忠誠を誓う! これでよいじゃろ!」

「口の利き方には目をつぶろう。俺は寛大だからな。クケケ」

「なんて奴じゃ。……好条件なのが尚、性質が悪い……はぁ。よろしく頼むぞ」

 

そうだろうとも。だが悪いな。うちの国、泥船なんだ。だからがんばって泥を補強してくれ。援助はするが、妙な事をしない様に目を光らせていなければいけないし、ドロテアの研究成果の確認も俺の仕事になるだろう。コスミナの相手も考えれば過労死も近いな。特にコスミナ関連。

 想定外の遭遇ではあったが結果だけ見れば最高と言えるだろう。コスミナと合流し、革命軍と交渉して、可能ならば三人でエンシンを襲撃する。できることが急に増えた気がして、整理しなければならないかななどと能天気に考えている余裕は、実際に今後の流れを想定すればすぐに吹き飛んだ。

 

 

 

 対策を積めば制限時間が縮む。どういう糞仕様なのかと、叫びたくなったのは仕方ないことだろう。

 素晴らしく順当に、帝国から見た脅威度が上がったこの国に、エスデスの派遣が早まる可能性には気が付きたくなかった。

 




イゾウ道ずれに死んでサクッとおわりでもよかったかな。
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