チャンプの被害に遭った場所を探すことはさほど難しい事ではなかった。多少の金を積めば機密情報を流してもらうのは容易い事であったし、噂としても流れている。その中でランの教え子たちの事件がどれであるかはわからなかったが、事件が起きた場所の領主について調べるのは容易かった。女性の領主というのは帝国内にさほど多くはなく、件の事件が起きた場所と照らし合わせれば、ランの仕官先は容易く割れた。
というわけで、帝国としては比較的善良なその女領主が治める地方都市に訪れていた。背にアースマイト、腰にシャンバラ、手にコスミナの、都合帝具三つの完全装備。コスミナの要望とはいえ片手が塞がれて鬱陶しい事この上ない。コスミナはすっかり物見遊山の気分なようであっちへふらふら。こっちへふらふら。無理やり引っ張られる身にもなって欲しいが、こいつの体力を考えればしばらくこのままだろう。
女領主のお膝下であるこの都市は、帝国にしては珍しく活気にあふれていた。表通りを一本外れれば貧民街で薄暗く、怪しげな空気の漂う……なんてこともない。少々警備兵の数が多く見えるが、民に対して高圧的な態度に出ている様子もなく、朗らかに話している姿すら見受けられる。どうやらここの領主は相当に優秀な人間らしい。あるいはその部下か。
やってきた目的でもあるランを思う。貴重な帝具を与えられるほどに上手く取り入ったようではあったし、さぞ重用されているのだろう。警備の多さはランの後悔の現れと考えれば合点がいく。やはりチャンプ、いや、子供たちの事を相当気にしているのだろう。もしそうなら成功率は高くなる。が、先日の失敗もあり楽観視はできない。
さて、問題はどうやってランに接触するかだ。コスミナと二人、露店で買った肉まんを食べながら考える。
領主邸を襲撃。却下。領主を巻き込むのはデメリットしかない。ラン宅に襲撃。却下。そも最初から喧嘩腰で行くメリットがある相手ではない。先日のナイトレイドとの一件のせいで思考が好戦的になっているのか、物騒な発想しか出てこない。不意を打たれたからって先に仕掛ければいいわけじゃない。一部の例外を除けば最初は友好的にしないと敵ばかり増えてしまう。
直接会って伝える。待ち伏せあるいは陳情の形式をとる。待ち伏せは確率が高いが警備兵が多いので不審な行動は咎められるだろう。隠れようと思えば高々一介の警備兵如きに見つかるつもりはないが、隠密の専門家ではないから万一がある。陳情も、厳しいだろう。いくら善良と言えど市民が領主に直接もの申す、なんてのは死を覚悟して行うことだ。そもそも流れ者、それも内実は敵国の間者、が行えることではない。会うならば、行動を把握してからの待ち伏せが一番だろう。行動把握はしばらくこの街で過ごしていればおのずとわかるだろう。城下の見回りも定期的にしているという話だ。
書状を送る。内容を書けば第三者の目に入る可能性も高いので却下。呼び出しという形になる。盗聴や戦闘になる可能性を考えれば、街中で話す内容ではないから郊外。これが一番安牌だろう。チャンプを一人で殺そうとしたことから、奴の情報を流せば確実に現れる。欠点は警戒されること、不信感を持たれることだが、これはどうとでもなる。自衛のために帝具を持ち出してくれれば、失敗時に奪取も可能。階級の低い軍人なんかでは有事以外帝具を持たせてもらえないこともあるようだ。
妙にはぐらかすようなことをせず、誠意を見せる。証拠を見せ、確信させた上で勧誘する。性格を考えるとこれが一番いい。帝国を内側から変えようとしたあたり、革命軍と違って未だ帝国を見限っていないことが不安点。感触次第で襲撃も考慮する。万全といかないのはどう動こうと同じ事。せめてより安全な方法を考える。
書状を送る条件としては、領主に覚られないこと、目を付けられないこと。直接渡すのは確実であるが、まずもって人に知られるだろう。そこから領主の耳に入る可能性もままある。やはり、ランの自宅に直接送るべきか。ランの家に召使いなどがいても、主宛の手紙を見ることはないだろう。スパイでもいれば別だが、現状では一地方領主の寵愛を受ける副官に過ぎないランにスパイを送る理由は少ない。家に忍び込むくらいはできるだろうし、これで行くか。
考え事をしている間に、広場で歌い始めたコスミナを止めに行く。まだまだ目立つなというに。
指定した場所でランを待つ。
ランと領主が一緒に暮らしている事には驚かされた。たらしこんだといっても愛人という形だと思っていたが、考えてしかるべきだった。どうやら領主は本気でランに恋していたようだ。コスミナを口説いた時は、家族連れで急いで西の国から逃げて、セイカ国内では家族分まとめて家を用意していたから気づけなかった。おかげでランの家を探り、領主に気づかれないように書留を送るという計画はご破算。どうしたものかと考えたが、開き直れば問題はなかった。
コスミナに歌わせて、領主の耳に入れば直接披露する機会もあろうというもの。コスミナの歌声は西の件で折り紙付き。見た目も良い。そもそもの計画のコスミナによる扇動がすこし前倒しになっただけ。知名度上がっての暗殺が不安だが、始めた直後ならばそんな心配もないだろう。全力で好き放題歌ったコスミナは一週間と経たずに街の人気者。噂は領主の耳に入り、期待通りに領主邸に招かれて、ランと、それから領主の前で歌声を披露。大好評だった。普段は別の場所で活動している旅芸人ということにして、連絡の取り方をメモした紙という体で領主とランにそれぞれメモ書きを渡す。そしてランの方にだけ、チャンプを示唆する文言と、待ち合わせ場所と時間を指定する一文を入れておく。
しばし、コスミナと二人で談笑していると、落ちた木の葉を踏みつぶす音が聞こえる。コスミナを手で制し、音の鳴った方へ向き直る。しばらくすれば、暗がりに人の姿が浮かび上がる。ランだ。ランはさらに一歩二歩とこちらに近づき、止まった。星明り、月明りしかなくとも顔が見える程度の距離。顔は一応笑みを浮かべているが、宴の時のそれと比べて微かにかたい。努めて冷静でいようとして、それでも激情を抑えきれていないのだろう。事情を知らねばここまで具体的に相手の心情を把握できなかった。だからこそ俺はより余裕を持てる。しばしの沈黙が続き、何も言わぬ俺に焦れた様子でランが口火を切った。
「あの手控えの内容ですが、あなた方はあの事件の犯人について、何か知っているのですか?」
感情を抑え、一つ一つ言葉を吟味しながら慎重に話している。本当は今すぐにでも首根っこを掴んで情報を吐かせたいだろうに、心を理性で握り潰せる人種。やはり、部下に欲しい。ここで感情的になるようでは、対応を変えねばならないところだったが、この様子ならば大丈夫だろう。
「えぇ。出なければ、貴方にあんな書状を渡しません。私たちは、あのピエロ、チャンプという名ですが、犯人について、次に現れるだろう場所を予測できています。それもかなりの精度で」
「! それで、何が望みですか? 領主に取り次いで専属にしてほしいという訳でもない筈。あの歌声ならばどこへ出ても通用します。……なにより、あなた方は旅芸人などではない」
「気づかれていましたか。流石、見込んだだけはある」
ランは一瞬顔を顰める。意外なことにコスミナも気づいた。というか、ランの顔を凝視して嬉しそうに笑っている。よほど好みのようだ。面食いめ。俺とてヌマに似て顔は悪くないのだ。まぁ、大きな傷があるからそういうのが苦手なら赤点に突っ込んでしまう。幸いなことにコスミナは苦手という訳ではなく、残念なことにドロテアのように好みという訳でもなく。順当に減点を喰らって評価は並だそうだ。おのれエスデス。
ではなくて。ランはどうやら試されていることに気が付いたらしい。長い瞬きのあと、再び話し出す。
「やり方が回りくどいので帝国ではない。革命軍か、異民族か、分かりませんが、どちらにせよ帝国に敵対する組織に属する人間ですね。宴の時、帝具について聞いてきたことから帝具回収が目当てでしょうか」
「ほうほう。それで?」
合格点。あるいは及第点の回答だ。だからこそさらに試したくなる。あとは何処まで読んでくれるか、あるいは降参を示すか。察したのかランは微かに目を見開く。続きを促されるとは思っていなかったのだろう。未だこちらの情報を語る様子の無い俺に諦めた様子で、ランは言葉を続ける。
「だとすれば、そもそも私に接触するつもりでこの街にやってきたことになります。殺人犯、チャンプの情報は私との交渉材料。残念ながら事件の加害者について調べるよりも、遥被害者について調べることの方が容易です。そこから私の事を……? いや、おかしい」
気付いた。やはり優秀。
ランの過去を洗って弱みを探る。極めて順当な行動ではあるが、それには当然ランが帝具使いであることを知る必要がある。出なければそんなことをする理由がないからだ。帝具使いでさえなければ彼は一地方の官吏に過ぎない。抱き込むメリットこそあれ、そこにコストが見合わない。
帝国内の帝具使いについて調べることも心底面倒だ。そもそも秘匿されている帝具使いも多い上に、帝国の臣下の間ですら機密扱い。部外者である異民族が手に入れるのは相当な難易度だ。もちろん革命軍内ではそういった情報を持っている人間はいるだろう。であれば革命軍と判断するのが妥当。だが、ランは最初の段で俺とコスミナを異民族と疑っていた。隠すつもりもなかったし、そういうのは所作に出るものだ。宴での様子を観察していたならわかるだろう。なんなら、異民族の可能性の方が高いとも考えていたはずだ。
一言で言ってしまえば我々は不自然に知り過ぎている。情報源が俺の知識によるものでしかないのだから当然だ。知る筈のない情報が含まれている。そして、故に俺たちの正体は煙に巻かれて消え失せる。真っ当な思考回路で考えると不自然に過ぎる。帝国の内情に詳しい異民族、ではない。詳しすぎる異民族。
だが、不可解だからこそ、チャンプについて知っているということにも信憑性が湧く。ランも自身の可能な限り奴を探しているだろうが見つけ出せていないのだ。ならば暗にこちらの情報網の大きさを認識させる。それはもはや架空のものであるが、それは置いとく。説得力は大きい方がいい。誠意は見せればいいが、それが本物である必要はないのだ。己を完全に覚らせないことがこういう交渉事での勝利を招く。だからコスミナ相手には負け越している。
「……あなたは、何者ですか?」
未知への恐怖ではあるのだろう。それでも、ここに至って正直に聞くことはそうそうできない。さらに言えばコスミナは飾りと判断したのかあなた達、としなかったのも加点評価。総合的には余裕の合格。
故に満を持して名乗る。割とクセになる名乗り。
「セイカ王国王位継承権第二位。第二王子カマ・セイカ。帝具使いにして優秀な官吏である貴方を引き抜きに来ました。こちらの手札は殺人犯チャンプの現在の居場所の情報及び復讐の手助け。さらに待遇として私直属の副官の席を用意できます。無論、待遇は応相談です。何なら帝国にとどまっても構いません」
ランは帝国に愛着があり、帝国から出ることに抵抗があるかもしれない。利用するつもりしかなかったとしても、体を重ねるうちに女領主に情が湧いているかもしれない。経験談だ。どんな理由にせよ帝国に留まるにせよ帝具は一時的に回収させてもらう。国で適合者を探して見つからなければ返す。
もちろん最善は俺の副官として仕事をさせることだが、それでもランが首を振らない場合は帝国内でできる仕事を割り振る用意もある。現状既に帝国に仕えているランにしかできない、俺たち異民族には決してできない仕事。
例えば埋伏の毒、とか。当初は断られれば殺す予定であったが、ランは後にイェーガーズに入ることを考慮して情報を流させた方がいいという判断。地方の一官吏に過ぎないランに利用価値はない。しかしエスデスの側近になるということを考えて、唾を付けておくのも悪くはない。その段に入って切り捨てられる可能性もある。というか、イェーガーズが作られるとしたら北の件が落着した後だろうからその可能性の方が高い。
だが、それでもいざというときの保険程度にはなる。……これは、内心エスデスに勝利することを諦めているということだろうか。憂鬱な気分になるが、顔に出すわけにはいかない。ランを見れば熟考している。気づかれた心配はないだろう。コスミナがなぜか寄り添って体重をかけてくる。ランの顔でも眺めてればいいのに。
空に瞬く星々を見上げて、そっと息を吐き出す。本番が近づけば近づく程に。準備は順調な筈なのに。言い知れぬ不安が沸き上がる。あぁ、全て投げ出して逃げ出せればどれだけ楽な事か。右手で顔を、隠すようになぞる。
元教師は条件付きで首を縦に振った。奴は結局、そして案の定。帝国に残ることを選んだ。情報を流すことに承諾はしたが、一地方領主の情報など仕入れてどうするのだろうかと、疑問な様子だ。そんな情報でできる事など、情報を流したという事実をもって脅すくらい。元教師には意味がないので、対象は領主。まぁ、たかがしれている。本命は未来であり、現状ではメリットなど薄いのだから理解できるはずもない。元教師の弱みを握るという目的もないではないが、やはり薄い。
ピエロの居場所を元教師に教えて一緒に移動、なんてなるはずもなく。俺とコスミナが情報にある場所に移動。ピエロを確認後、シャンバラで元教師を運ぶという手順。復讐に手出しは無用という話も受け入れて、案内だけして高台から眺めるという流れ。
そんなわけで、現在遠くで元教師とピエロが戦っている。不意打ちで通り魔よろしく腹を刺し、その直後に空を飛んだ元教師が終止有利に戦いを進めている。ピエロも球を投げて対抗してはいるが、空を飛んでいる元教師にはなかなか当たらない。しかし障害物に隠れながらピエロが戦っているせいで膠着状態という状況。ピエロは最初に元教師を追わず人込みに紛れて逃げるべきだった。逃げても刃に塗られた毒のおかげで意味は無かったろうが。戦うよりはましな筈。
復讐心ゆえか元教師の攻撃が雑。ピエロはキレているようでも存外堅実な戦いをしている。分厚い脂肪で最初の傷は致命傷に至らず。しかし塗られた毒は十分に効果を発揮する。どちらも消耗は激しそうだが、ピエロに毒が回り切るのが先だろう。種々の危険種から抽出した毒で、ドロテアが配合した合成毒。即効性はないが痛覚を損なわず体を弛緩させる代物。主な用途は危険種の生け捕りか拷問。即効性にしろという苦情は、素材の質を損ねるという言葉で封殺された。
一度始まれば手出しはしないが、至るまでの手助けはする。そのうちの一つがあの毒。致死性を勧めたが元教師が断った。情報を聞き出したいわけでもないだろうに、苦痛なんて与えてどうするのやら。それで子供が救われるわけでなし、所詮は唯の自己満足。死、以上に恐ろしい事なんてないのだから、むしろ優しい行為だとさえ思えてしまう。どれほど綺麗だろうが、無残だろうが、勝ち誇ろうが、絶望しようが、一緒だ。死ねばすべて無だ。遺るものなんて一つもない。それは生きている者が、勝手に見出すものだ。だからこそ俺は死にたくないし、失いたくない。全ての人間が死に意味を見出せるわけじゃない。だからこそ、元教師の自己満足を否定しない。それがどのような行為であれ、喪失感に耐える為の行動に他ならないからだ。俺と変わらない。なんて、無様。
戦いはつまらない形で終わった。唯一懸念していたダイリーガーの奥の手も、ボールを組み合わせた合体技でしかなく、マスティマの奥の手で跳ね返されてピエロは死んだ。毒で倒れた果てにあっただろう無意味な暴力もなにもなく、あっさりとした決着。
原形を遺さない程度に引き潰れた死体を前に元教師も冷静さを取り戻し、それ以上嬲ることはなかった。復讐を果たした虚無感に襲われているだろう元教師を労る。喪失感を埋めてできるものは虚無感だ。できた空白に義務感を当てはめて、埋めつけてしまえば裏切りにくくて小回りの利く便利な手駒の完成だ。喪失感を直接埋めてしまうと正義狂とか薬中とか、そういった盲目的で使いづらい駒になる。磯臭い人は頑張ったと思うよ。依存先を変えさせるのは大変なのに。……そして、揺らいでいたとはいえ、そういう人材だったはずの狂人を説得したナジェンダの凄まじさよ。
とにかく、教師はきっかけさえなければ俺に情報を流し続けるだろう。虚無感と義務感と惰性で当面は利害にまで頭が回らない事だろう。そして、埋伏の毒にして正解と確信する。たとえ能力があろうと空っぽの人間は副官にするには向かない。イエスマンにしかなり得ない。かつての実感。死にたくないと心底願ったあの瞬間があったからこそ、俺は保身のための醜悪なものとはいえ中身を手に入れた。
さて、元教師はいつ中身を取り戻すのか。曇った心では国を内側から変えるなんて不可能。気づかぬうちに腐敗に呑み込まれるのがオチだ。無論、曇り続けた方が俺への利は大きいが、人間的な強さを見せてくれというのは難しいだろうか。難しいだろうな。こいつはエスデスの性質に気づけなかった、止めなかった男だ。反乱を潰して後に、なんて。甘い。甘い。
条件は満たしたとして、ランからマスティマを受け取る。適合者を探して、見つからなければ返す。この間マスティマを持っていないことをバレないようにしなければいけないが、なんとかするだろう。問い詰めそうな人間と言えば領主ぐらいなものであるし、その領主がランにぞっこんだ。自身に好意を持っている人間を誤魔化すことは……コスミナが視界に入る。……難しいかもしれないが頑張れラン。領主が恋の病に侵され正常な判断力を失うことを祈る。
一仕事終えて、ぐっと背を伸ばす。シャンバラを起動。ランを元の位置に送り、俺とコスミナは砦にドロテアの研究所だ。拠点として活用している。
その場所はまるで普通の家だ。騎馬民族めいた北の国式ではなく、帝国式のではあるが。なんというかその場に根付いた建物。そうそう引っ越しはできなさそうではある。というか、砦を築く発想はあるのに未だに生活様式の根本が略奪やら放牧民なのは何故。いや、土地がやせているからなんだが。おかげでアースマイトは大活躍だ。耕すのに向かないような岩場もふかふかの農作地に変わる。土地も痩せてる上に場所もない。から土地はやせてるが場所はある、に変わって結果、国力アップだ。
ドロテアに適当な酒とつまみ、帝国土産を差し入れる。コスミナのその場に残ったのでたぶん二人で飲むのだろう。仕事が終わったら混ざろうか、などと考えながら執務室に向かう。帝国内に張り巡らせた、というと過剰だが、必死に張った情報網はここに集約される。前に確認したときから一週間ほどではあるが溜まった資料を整理する。
海賊に動きなし。エスデスは未だ西、軍が北に来る様子もない。革命軍との接触はまだ。安寧道内で順調に出世しているが教祖に接触はできない。西の異民族はエスデスに夢中で外交どころでない。南の異民族は有益な情報を得て接触を図るところ。などなど、特筆するところのない報告書の中に一つ、気になるモノを見つけた。
正確に言えば、見つからなかった。ある筈の、主人公の動向調査の報告書が届いていない。連中の才能を考慮して比較的重要と位置付けて相応の人材、帝具調達部隊だった頃からの最古参を送ったはずの仕事。俺を除けば文句なしに有能と呼べる部下からの報告がない。欠かすはずはない。今更そんな失敗はしない。
であれば。問題が発生したということ。帝国に捕まった、あるいは始末されたと考えるのが妥当。原因は何か。主人公たちに接触を図ったことに違いない。だが主人公とその仲間二人が現時点で帝国と関わっている可能性は極めて低い。であれば必然、主人公たちを鍛えていた元軍人。奴と考える。
部下の実力は皇拳寺換算で免許皆伝程度。そうそう後れを取る筈はない。直接消されたとすれば、そいつは相応に腕も立つ。そんな人間が在野なわけはない。帝国が野に放っている密偵か。実力は初期の主人公たち以上。
主人公たちは欲しい。奴は帝具性能込とはいえエスデスに対抗しうる才覚だ。どうするか。
主人公たちが旅立つのを待って接触する。却下。既に狙いがばれていると考えれば、主人公たちの動向を探っている間に狩られる。なによりそこではすでに遅い。エスデスとの戦闘が始まっている可能性が高い。
現在の状況で接触するしかない。目を盗む。不可能。気づかれた後に行うにしては難易度が高すぎる。排除する。順当。実力がある程度以上であろうことと、主人公たちに悟られ敵意を抱かれてはならないことが問題。部下では対処が厳しいだろう。実力のあるやつ。コスミナ。却下。悟られるに決まっている。ドロテア。却下。研究に専念してもらう。元教師。可能。だが当初の条件と違う仕事、受けるかは微妙。
ランに頼み、その上で帝国の仕業と主人公たちに教え抱き込む。理想。次点で俺が排除して、悟らせず抱き込む。主人公たちもナジェンダの様に虐殺に嫌悪感を抱いていたとしても、口先で誤魔化すのは容易。
ランには断られ、俺が行く事になったのだが、部下によると元軍人の名前はトラグマらしい。
……ドロテアとコスミナを連れて行くことにした。
少なくとも隔週くらいでは投稿したいなぁ。