虎熊童子。大江山に座する鬼の首魁たる酒呑童子の四天王だとかどうとか。
トラグマ。タツミの師匠である元軍人の名前。
偶然の一致と言ってしまえばそれまでだ。しかし四鬼羅刹の名の由来が明らかに鬼である以上、そこへの関連を疑ってしまう。もちろん本当に偶然で取り越し苦労であればその方がいいのだが、部下も失踪してしまっている。警戒するなという方が無理だ。連中が直接出てくるとまでは流石に思わないが、トラグマの実力が奴らと同程度の水準である可能性はある。なんといってもこの世界、名が体を表すことが非常に多い。エスデス然り、ヌマ然り。大臣? あれは欲望に正直だから。
とにかく、鬼と関連した名前である以上、想像してしまうのは仕方ないこと。現在の俺自身の実力の見積もりは、四鬼羅刹と同程度。尚帝具は考慮していない。であれば総合的に有利であるとは思うが、慢心できるほどの実力差はないともいえる。安全策としてコスミナとドロテアを伴って向かおうというのは、何もおかしくはないのだ。この二人の実力は四鬼羅刹より低いだろうが、いないよりはマシである。
「というわけで、行くぞドロテア」
二人が酒盛りしてるだろう部屋の、扉を開けるや否や言い放つ。案の定二人はこたつでぬくぬく飲酒中。コスミナに至っては法被なんて羽織っている。コスミナが歌った後で販売しているグッズだが、それでいいのかアイドル。ちなみに売れ行きはあまりよろしくない。
コスミナは当然のようについてくるものとして、ドロテアの説得を試みる。ドロテアは徳利を座卓に置くと、んあーと口を開きながら背中を逸らせて頭を後ろに倒し、こちらを見上げる。都合上下さかさまになった、微かに顔の赤いドロテアと目が合う。違和感。黒目が、横に長い?
「む、飲み過ぎたかの……」
そういいながら体を完全に横に倒し目をこするドロテア。その間に近づく。再びドロテアが瞼を開けると同時に、瞳をのぞき込む。違和感は、ない。
「なんじゃ。いきなり」
目の前にあった顔に小さく声を上げてぱちくり、ドロテアはこちらをみつめる。一言謝ってから距離を取り、こたつに入る。ぬくい。コスミナから酒を受け取り一口飲む。舌が痺れ喉が焼ける感覚に顔を顰める。割って飲む酒だろこれ。そのままのがおいしいか。そうか。水で割る。もったい無さそうに声を上げたコスミナは無視。
ドロテアの瞳について考える。見ればもう普段と変わらない様子。気のせいか、あるいは危険種の血を吸わせている効果がでたか。ドロテアの説得よりも前に気になることができてしまった。こたつの中でコスミナと領土争いを繰り広げつつ口を開く。
「危険種の血を吸い始めて、何か変わったことはあるか?」
「そんな話じゃったか? ……これといってないの。寝覚めがよくなったくらいか」
「それはよかったな。いま、眼がおかしく、あー、黒目が横に長いように見えたんだが何か違和感はなかったか?」
「黒目ぇ? 確かに一瞬ぬしが二人に見えたが、ふむ。ヤギやウマは横長だったか……ぬしが生け捕った危険種ではキョロクくらいじゃな」
ドロテアに渡す危険種は必然的に北の国に住むものが多くなる。それも雪の中に暮らすような寒さに強い奴ばかりを渡しているが、当然、エスデス対策だ。時止めなんてトンデモしだすのはまだ先だが、対策は早いうちに用意する必要がある。
キョロクという危険種はそのうちの一つ。名前の通り巨大な鹿だ。尋常でなく寒さに強く凍土でも普通に活動するほど。性格は温厚で繁殖期以外では近づいても攻撃を仕掛けてこない。それでもいざ戦うとなると非常に手ごわい。特殊な力を持っているわけではないが、角は凍土の氷を容易く粉砕するほど固く、まともに攻撃が通らない。一匹ならどうとでもなるが基本的に群れているし連携するほど賢い。アースマイト持ちでもなかなか苦戦するが、暑さに極めて弱いので暖かい場所に連れて行くとすぐにへばる。シャンバラのおかげで強さのわりに捕獲が楽な危険種だ。
「なんの話ですかー?」
無事領土争いに勝利しこたつむりと化したコスミナが口をはさむ。コスミナは危険種狩りには連れて行っていないし、危険種の生命力を注ぎ込んでもいない。いやまてよ。又吸い程度はしていることになるか。直接意識して行ってはいない。原作におけるコスミナの末路を考えてみれば、戦力の拡充という視点だけで見ればやるべきなのだろうが、どうにもそんな気分になれなかった。人外趣味がないではないが、それが知り合いであるとどうにも妙な忌避感があった。
誤魔化すように俺の足の上にあるコスミナの足をくすぐる。笑い声と共に足が暴れて俺の手足を蹴飛ばす。少し痛い。そのまま逃げるようにコスミナの足はいなくなったが、少しすると足に重みを感じる。明らかに足ではなく、胴体。推定コスミナはそのまま狭いこたつの中で、俺の足を這うように動き、こたつ布団から顔を出した。ちょうどひざまくらの形になる。折角なのでそのまま撫でておく。髪が微かに引っかかりながら指の隙間をすり抜けていく。
「んふふ……」
猫のように目を細めて安堵しきった笑みを浮かべるコスミナ。話を続けようと手を動かしたまま前を向けば、ドロテアは呆れた様子で、こちらを見つめていた。
「どうした?」
「どうもこうも、仲いいのう」
「年寄り臭いぞ」
「なんじゃと」
目的もなにもなく、取り留めのない会話を続けていると、コスミナの動きが止まっていることに気が付く。見れば寝息を立てて眠っている。炬燵で寝ると風邪を引くからやめろというに。溜息が漏れる。当然ドロテアも気が付いた様子。
「ん? また寝たのか?」
「あぁ、また部屋まで運ばないと……まったく」
「ふぅむ」
コスミナの頭を手で支えて足を爪立てる。そのまま足を引こうとした時、いつの間にやら炬燵から抜け出したドロテアが背後から抱き着いてくる。
「まぁ、まて。ちょうどよいから血を貰おう」
「いいけども、コスミナを運んでからじゃダメなのか?」
「ぬふふ、恋人の横で致すから滾ることもあろうが。たまには、こういうのも、のう?」
「そんな趣味はない。まぁ、するなら早くしてくれ。この姿勢は結構つらい」
足を引こうとしたところにドロテアが抱き着いたので、中途半端な膝立ちという状況。ドロテアが体重をかけてくるのでちょっとした筋トレ気分だ。俺の返答に目を丸くするドロテア。息のかかる程の距離で見ても瞳に異常はない。それよりも妙に色ぼけている様子のドロテアに一言。
「そもそも、いくら見た目が若くても実年齢――」
――ブチッ!
「――痛っ!? わざとだろおい!」
普段とは比較にならない勢いで、急に噛みいてきたドロテア。肉の噛み千切られる音というのは、久々に聞いたが、慣れるものではない。ドロテアの帝具、アブゾデックは痛みなしに血を吸うことができる。確実にわざとだ。
俺が悪いとばかりにドロテアが喉をグビグビと鳴らしながら俺の血を飲む。実際俺が悪いのだろう。枯れているとはいえ、あれ、そういえば枯れてないのか? ドロテア。いや、いい。
とにかく女性に年齢の話をした俺の落ち度ということだろう。普段より痛みが強い分、血の勢いも強いようで間隔が短い。というかだいぶ口からこぼしている。大丈夫かコレ。ドロテアに限って加減を間違える事はないと思うが、流石に不安になる量だ。
「むぐ! ぐ。がぼっ。げっほ、ごっほ。……ぐむ、やり過ぎた」
「おいおい、大丈夫か?」
やはりというか、歳のせいというか、次々流し込まれる血に追いつかなかったようで咽てしまうドロテア。歳なんだから無理なんてしなければいいのに。ドロテアが離れたので正座に戻り、コスミナを膝の上に置く。体をひねって、咳き込むドロテアの背中を擦る。
「……怒らぬのじゃな。いや、済まぬな」
「考えれば、俺も悪いからな。其れよりも早く血を止めて欲しいんだが」
「そうじゃな……」
今度は優しく、音も聞こえないほど傷口に口付けるドロテア。同時に先とは逆に生命力が流れ込んでくる。だが、痛みという点では先の比ではない。こたつ布団を口に加え、噛みしめる。他人の生命力が無理やり体の内に入ってくるのだ。人間のソレであればこうまでいかないのだろうが、これは半ば危険種の生命力だ。先の瞳よりも確かな証拠として、当初より痛み、ドロテア風に言えば拒絶反応が強くなっている。ドロテアの肉体が変質し始めている証左だ。
苦痛に耐えていると、不意に視界がぶれる。世界が二重に重なって見える。初めての現象。先のドロテアの瞳が脳裏に浮かぶ。横長の瞳は、より広い視界を確保するためのもの。視界は広がっているのだろうか? 良く分からない。焦点は合わなくなるとかいうが、どうだろうか。正直余裕がない。
いろいろと試そうと考えているだけでドロテアによる傷の修復、生命力の送り込みは終わってしまう。するとすぐに視界が元に戻る。ドロテアは俺の瞳を見れる場所にいなかったしコスミナは寝ている。確認は今度になるが、コスミナに頼むしかない。つまらない嫉妬をして吸い尽くされることになるだろう。極めて正確な未来予測だ。これだけ自信を持てることはそうはない。
やや貧血気味な気もするが、ドロテアの用事は終わっただろう。今度こそ炬燵から出てコスミナを背負う。ぐっすり眠っていて、どれだけ体を動かしても起きる様子もない。
「じゃあな」
「うむ」
ドロテアが頷いたのを確認して、扉から出る。いつもの如く体は重いが、体力がないわけではない不思議な感覚。その場で軽くジャンプ。コスミナをしっかり背負いなおして私室へ向かう。
……あ、当初の目的を忘れていた。
あの後、コスミナをベッドに放り込んでからドロテアの元に戻ったが、結局、研究を優先したいとドロテアには断られた。仕方ない。研究は必要な事だ。無理強いはしない。
コスミナと二人で向かうことになった。立場上は流れの旅芸人。余裕のない村であっても一宿一飯くらいにはなる。西の歌姫様様だ。普通に活動する分には疑われることはないだろう。問題は主人公たちにどう絡むか。軍人の素性をどう調査するか。宴会でもしてくれればそのまま流れで行けるが、そう都合よくいくかどうか。
村に仕送りするために主人公たちは帝都で立身出世を志した。村に余裕はないはず。ましてやここは北にほど近い。最近北の国の動きが活発で、危機感は高まっている。そんな場所に訪れる旅芸人というのは些か以上に不自然だ。何も知らない奴らはともかく、元軍人の師匠には覚られる可能性は高い。村よりもさらに北に故郷があって最近物騒なので様子を見に行きたい、という言い訳は用意しているが、それも通じるかどうか。疑わしければ殺して、何もなければ運が悪かった。なんてのが通じるのが帝国だ。
とにもかくにも歌わなければ始まらない。村長、もとい村で一番顔が利くお偉いさんの元へ行く。そこで旅芸人であることと事情を説明。娯楽の少ない辺鄙な村で断られるということはまずなく、御多分に漏れず芸を披露する許可が出た。街ならともかく村ではこういった催しは許可を取らねば難しい。
村長から話が回ったのか、一刻もすれば村中から人が集まり、俺たちの芸を待つ。想定以上に話が起きくなり嬉しい誤算。下手な芸をすれば居づらくなるということだが、その心配は無用だ。
目標である主人公及びその初期の仲間たちもいる。師匠である元軍人思われる男も発見。主人公たちの実力は明らかに俺以下。あの程度ならば三人纏めても相手取れる。想定以上に弱いが、それは同時に想定以上の成長速度であることを意味する。作中時間経過は少ないだろうにエスデスに食い下がる程になるのだから。正直羨ましく、同時に落ち込む。ドロテアに頼み、外法でも使わねば俺の強さはとうに頭打ちだ。あぁ、いや、でも、そうか。こいつも化け物に成り果てるのだから、同じか。元軍人の実力も高い。身体能力は俺が上だが技量は五分に近い。そのまま当てはめれば俺有利だろうが、四鬼羅刹のように身体操作ができるとすればまるで読めない。咄嗟に対応できるだけの戦闘センスはないので要警戒だ。
観察を終えてコスミナの方へ向かえば服装と声、本番前の確認をしている。その姿は真剣そのもので声を掛けるのは躊躇われた。くるりと踵を返し剣の素振りを始める。演奏はできないでもないがコスミナの歌声の前には素人芸、雑音に過ぎない。ない方がマシ。だが剣舞には自信がある。コスミナと併せても及第点にはなるだろう。さらに言えば撒き餌でもある。俺の様に見ただけで、とまではいかないだろうが剣を振るう姿を見せれば実力の見当もつくだろう。主人公たちは外に出ようという身だ。気になって話しかけてくる可能性はままある。なんなら摸擬戦をしてもいい。元軍人も気に掛けるはずだ。そこでお互い様ではあるが色々と探る機会ができてくる。
それにしても、剣を振るうのは久々でやはり感覚がずれている。アースマイトを手に入れて以来ずっと、あの戦闘用つるはしとかいうキワモノを振るっていた。シャンバラと同時使用は避けるにせよ、アースマイトは肌身離さず持っているわけだから剣なんて使わない。今回、接触を図るにあたって引っ張り出してきた代物だ。無論、戦闘用つるはしで舞うなんて機会あるわけもなく、剣舞をする分には何の問題もない。それでもより滑らかに舞うために、主人公たちとの手合わせの為に微かな感覚のずれを正していく。
迫るタツミの剣を受け止め、身体能力に任せてそのままはじき飛ばす。併せて一歩引きながら飛来した矢を避ける。そのまま体を翻し背後のイエヤスの足を打ち付ける。痛みにひるんだイエヤスを持ち上げてタツミの方に投げ飛ばす。タツミは慌てて受け止めるがその隙にサヨとの距離を詰める。サヨも距離を広げようとするが、遅い。同じく持ち上げて立ち上がったばかりのタツミとイエヤスの方に投げつける。案の定動きが止まった二人。そのまま距離を詰めて三人の頭を叩いて手合わせ終了。感想戦にうつる。
三人に助言をしながら考える。タツミの持つ将軍級の才能というものをまったく感じなかった。どうやら俺は他人の伸びしろがわからないらしい。薄々察してはいたが、確信した。才能ある人間がわからない。見る眼がないとも言い換えられる。あれば北の国の人間の中に才能ある人間をもっと見出しているという話だ。これは本格的に上に立つ者の才能がない。だからこそタツミ達を引き入れたいという思いも強くなる。だが問題がある。
「いやぁ、アンタ本当に強いな」
横から声が聞こえてそちらを向くと、その問題である元軍人、トラグマが居た。手合せに乗り気で、是非にとタツミ達と一緒に頼み込んできたりもした。どうやら相応に慕われているらしい。ゴズキが脳裏に浮かぶが洗脳しているわけではないはずだ。話してみると本当に人当たりも良く、村の人からの信も篤い。危険種やら賊やらから村を守る、大仰に言ってしまえば村の守護者なのだから当然ともいえる。
だからこそ面倒だ。話して分かったがこいつは黒。密偵だ。部下を殺したのもこいつだ。向こうも俺が北の国の人間だと理解しているはずだ。何より、コスミナの帝具を見た。村を去るときにでも奪いに来る。トラグマを殺せば村には居られなくなるだろう。タツミ達からの心象も最悪に近くなる。正直殺すメリットが薄い。ドロテアは戦う意志も挫けていた上にメリットも大きかったが、こいつは間違いなく降伏なんてしない。さらに言えば情報が帝国に流れるだろう。殺さないデメリットの方が大きい。情報を送られる前に早急に仕留める。予定よりも滞在時間は短いが、一日で立ち去るとしよう。タツミ達の勧誘は後日になるが仕方あるまい。
「ははは、自衛できる力がなければ二人旅なんてできませんよ。最近物騒ですしね」
「北の故郷に帰省する途中だったか? 最近北の異民族が動いてるらしいからなぁ。心配にもなるか」
「えぇ。様子を見た後は、また南に下っていく予定ですが。そうですね、その時にでもまた寄らせてもらおうと思います」
表面上だけの乾いた会話。密偵説が確定すると同時に、四鬼羅刹関係者という線も濃くなった。基本を皇拳寺で習ったという。身体操作は見ていないし、タツミ達も知らないようだが、まずもってできるものと考える。全身凶器と想定する。爪も髪も伸縮自在の剣。体は鋼の如き硬さ。そのうえ液体のように流動する。体液は毒。……並の帝具使いよりよほど厄介だ。アースマイトの前では防御は無意味だが、所詮は点での攻撃。面どころか線での攻撃すら奥の手でも使わなければ不可能だ。いくらでも躱される。
身体操作さえなければ、負けることはないという評価。コスミナのサポートも考慮すれば勝算は十二分。小細工をする余裕はないので、このままいざ、勝負。
村人たちから惜しまれて、村を出て四半刻。開けた場所に出る。尾けられているのは明らか。しかし場所を掴ませるような下手ではないらしい。大凡の方角は分かれどより詳細な場所は不明。であれば視界の開けたこの場所で迎え撃つのが吉。声を張り上げて、奴を誘う。
「居んだろ。出てこい」
「……やぁっぱり、気づいてたかー」
気づかれていることに気づいていたのだろう。驚いた様子はない。毎度気になるのがなぜこういった状況で出てくるのか、だ。俺だったらとる行動は二つ。出ずに奇襲を諦めて撤退。あるいはそのまま尾行を続けて根競べ。こんなふうに誘ってくる段階で、場所には気づかれてない公算が高いのだからそれが正しいと思うんだが、この世界、出てくる奴の方が多い気がする。それだけ腕に自信を持つ奴が多いということでもあるのだろうか。とくにコスミナが帝具使いと判明している状況だ。俺なら逃げる。
まぁ、疑問はもはやどうでもいいことだ。敵の姿を視界に収めた。であればすることは一つ、あるいは二つ。いや、三つ。撤退、降伏、戦闘だ。今回は戦闘。
コスミナに手で指示を出す。コスミナでは近接戦闘で奴に勝つのは難しい。援護に徹するように。指向性を持たせた音による攻撃なんて、そうそう避けられるものではない。初見ではあのヌマでさえ直撃したのだから、その性能は折り紙付きだ。後方支援に徹した不可視の攻撃の厄介さは、パンプキンによる狙撃にも匹敵する、とまでは言わないがダイリーガーの汎用性には並べるだろう。奥の手を使わなければの但し書きは付くが、生命力お化けのコスミナには弾切れも存在しない。危険種を啜るドロテアや、俺よりも、未だに多いらしい。ずるい。
コスミナが下がるのを確認して、俺が前に立ち、背負っていたアースマイトを構える。彼我の距離は十メートルほど。互いの身体能力を考慮すれば近距離と言える。コスミナの適性距離とは程遠い。従来であれば戦闘の流れを組み立てるのだが、相手の手の内がわからない以上それは難しい。心底いやだが、真っ当に戦うしかない。あぁ、まったく。未知の相手との戦闘なんてくそくらえだ。
俺と元軍人、トラグマは同時に踏み込んで、大地を砕いた。
――そこから先は覚えていない。
嘘です。