二度三度とトラグマの攻撃をアースマイトのハンマー部で受ける。手数という点では素手のトラグマが上。アースマイトの欠点は相手の攻撃の重さがわからないところだが、おそらくイゾウはもちろんシュラのソレより軽い。つまり奥の手が遠い。さらに、軽いのに敵を打倒しうるナニカを隠している可能性が高い。警戒は必要だがこの程度ならば捌ききれる。こちらはコスミナを切っておらず、あちらは身体操作を見せていない。つまりは前哨戦。ただの小手調べ。十ほど手とアースマイトが交差して、どちらともなく距離を取る。
「やるじゃねぇか。あいつらの時ぁ手抜いてたな?」
楽し気に嗤うトラグマ。どうやら戦闘中に口を開く人種だったらしい。流石に隙は無い。俺からの返答もないのを確認したトラグマは笑顔を消してつまらなそうにつぶやく。
「だんまりかよ。つまんねぇな。いいぜ。だったら否でも声を上げさせてやるよ!」
そう言ってこちらに駆けるトラグマは先より速い。一段上げてきたようだが、そも身体能力は此方が上。十二分に対応可能だ。ハンマー部で受ける。
同時、アースマイトを握る腕に無数の針、に突き刺されたような痛みが走る。咄嗟に後ろに跳んでトラグマとの距離を広げようとするが、トラグマがさらに迫る。距離は離せるがあまり下がればコスミナが近くなりすぎる。舌打ち一つ。アースマイトを回転、ハンマー部を地面に軽く当てて急停止。反転、全力でトラグマに突進。
ツルハシ部をトラグマめがけて、勢いのままに振り下ろす。急に反転したのを見て対応が遅れるトラグマ。これは避けられない。防御に切り替えたようで、掌でアースマイトを受け流そうと構えを取る。また鋭い痛みが、今度は腕だけではなく、顔にも。刺されたような、ではなくこれは確実に何かが刺さっている。目への痛みに視界が歪む。だが、止まらない。止まる必要がない。
がむしゃらに振ったアースマイトは、このままでは捌かれるだろう。奥の手を発動できるほど衝撃を蓄積していないアースマイトは触れても問題はない。其れこそこれが剣ならば危険だったのかもしれないが、剣と違ってツルハシは、先端以外ならば触れても何の問題もない。一定以上の技量があれば容易に対処可能な対人に向かぬ武器。殺傷力はあるが間合も汎用性もない。二度手間になるが一撃必殺でなければそこらで店売りの剣の方が、使い勝手がいいまであり得る。
トラグマの掌がアースマイトのツルハシ部の、側面に触れる。当然何も起きない。だが、それでは終わらない。
声が聞こえる。同時に体中に振動が響き渡る。技量どうこうでなく、身体能力が高い人間に対しては効果の薄いコスミナの攻撃。雑兵相手ならば一騎当千なのだが、達人級の戦いには向いていない。鎧でも着ていれば反響して効果抜群かもしれないが、生憎トラグマは軽装だ。せいぜい微かに動きが鈍くなる程度のモノ。何度も受ければ内臓へのダメージが大きいかもしれないが、一度では明確なダメージはない。そのままアースマイトは受け流される。トラグマの腕はそのまま俺に伸びてくる。
そのまま地面にぶつかるアースマイト。コスミナの声は響き続けている。故に。ヘヴィプレッシャーから出る超音波を受けているのは生物だけではない。アースマイトも受け続けている。増幅された衝撃は、地面を耕す。急に柔らかくなり盛り上がる地面。初見で対応できるはずもない。トラグマの手は俺ではなく空を切る。鋭い痛みは今度は来ない。理由は分からないが都合がいい。
アースマイトを引っこ抜いて、力任せにトラグマへ振るう。当然ツルハシ部が向いている。トラグマは体をひねり、受けようとする。そう、もはや流す余裕はない。アースマイトはトラグマの腕に突き刺さり、トラグマの腕が砕ける。
ハンマー部を俺が叩いたわけではない。ツルハシ部を突き刺して、ハンマー部を叩いて、蓄積された衝撃と共に解き放たれて対象を粉砕という二度手間帝具。だが、この帝具、ヘヴィプレッシャーとすこぶる相性がいい。ヘヴィプレッシャーの超音波を受けて増幅。奥の手の様に側面を触れるだけで、とまではいかないが二度手間ではなくなる。先の地面の様に。今のトラグマの腕の様に。一撃で破砕する帝具と化す。そして敵の姿勢を崩し隙を作る手段には事欠かない。
さらに、即座に砕けた腕では、アースマイトの勢いを殺せない。ツルハシ部はそのまま、トラグマに突き刺さり、トラグマを内側から崩した。
体に大穴を開けてちぎれかけの上半身を晒すトラグマを眺めて思う。死体が無残になり過ぎるのがこの帝具の欠点。明らかに人間に対する帝具ではない。そもそも用途が農耕及び攻城なのだから当然ではあるが。破城鎚の直撃を受けて人間が原形をとどめておけるはずがないのだ。
考えながら腕と顔を擦る。戦闘中に鋭い痛みが走った場所。撫でると細い糸のようなものが無数にあることがわかる。血を吸って湿った袖をまくって腕を見る。
赤く染まっている上に、視界が歪んだままで分かり辛くはあったが、毛深くなっていた。そんなわけあるか。毛を一本つまんで、引っ張ってみる。プチという音と共に痛みが走る。自分のだこれ。改めて他の毛を一本。つぅっと刺さった棘を抜くときと同じ感覚。普通に抜けた。抜いた場所からわずかに血が流れるのがわかる。
ということは、毛を飛ばしていたのか。無論距離に依るだろうが骨に突き刺さる威力。ゾッとして顔を撫でる。毛は無数に突き刺さっているようだ。これ、一歩間違えれば死んでいた……? 体から力が抜け、その場に座り込む。死んでいた。死んでいたかもしれない。
コスミナが参戦してから飛んでこなかったのは、無差別攻撃に撃ち落とされていたから。コスミナに助けられた。最初から、参戦させればよかったのだろうか。分からない。駆け寄ってきたコスミナが、中腰で俺の顔を覗き込んで心配している。目にした瞬間、体は勝手に動きコスミナを掻き抱いていた。
何故だろうか。いや、もはや分かり切ってはいるが落ち着く。精神安定剤だ。こういうのを女に逃げているというのだろう。抱きしめてはいるとはいえ抱きたいわけではない。アレはむしろ落ち着けない。死ぬ。
硬直していたコスミナも抱き返してきたので安心して今後の動きを考える。ドロテアのところに戻って、治療して、この毛毒とかないだろうか。急がないといけない。その後またタツミ達の村に向かう。勧誘だ。師匠の元軍人が死んだことで慌ただしくなっているだろうが、だからこそチャンスでもある。早急に就職先が欲しいことだろう。殺したことはばれない筈だ、問題はない。
一通り考え終わってから、急に恥ずかしくなってコスミナを離す。名残り惜しそうに見つめるコスミナ。その瞳は慈愛に溢れていた。尚の事恥ずかしい。だが、ならばいっそ、開き直ってしまおう。魔が差したのかもしれない。
――歌が聞きたい
照れくさいがコスミナの、歌も好きなのだ。
コスミナの反応は劇的で、見て分かる程顔を赤くした。はて。そうか。強請るのは初めてか。なんとももったいないことをしていたものだ。喜び勇んで立ち上がったコスミナをまてまてと座らせて、その膝に頭を置く。地面に直接座ったコスミナと、寝転ぶ俺とで、これでは服が汚れてしまうなぁなんて笑みがこぼれる。
そのまま、コスミナの歌を聞きながら、いつのまにやら眠ってしまった。
ドロテアの元で治療を受けて、念のために詳しく調べてもらう。遅効性の毒等あれば大変だったからだが、その結果嬉しいことが分かった。どうやら骨が常人より遥かに硬くなっているらしい。そのおかげで毛が貫通しなかったとのこと。着実に人体改造の結果が出ている。コスミナだけでなく、ドロテアにも助けられたということだ。
妙に嬉しくなって礼が口を零れて出ると、ドロテアは一瞬目を丸くしたものの、直後に嫌な笑みを浮かべてからかって来た。少しお灸をすえねばならない。そう考えて、ドロテアの頭を抑え込んでの頭突き。大きな音が鳴って、俺とドロテア互いに頭を押さえて蹲る。
「いっぅ……どういうことだ!」
「妾も硬くなってるにきまってるじゃろ! 馬鹿か!」
ぐぅの音もでない。ドロテア経由なんだから、むしろドロテアの方が顕著であるはず。当然の理屈だ。だが、退くに退けない。ドロテアにまで舐められたら、色々とこう、廃るものがある。気がする。
「……いいだろう。そちらがその気ならば――」
「な、なんじゃ?」
「――カマちゃんは怪我したんだからおとなしくしてなさい!」
いざドロテアへ襲い掛からんとした時に、横で治療の様子を眺めていたコスミナが怒鳴る。体を突き抜ける轟音。衝撃と驚きで動きが止まる。見れば手にはヘヴィプレッシャー。帝具での攻撃はありか。そうか。俺の手には帝具はない。制圧できる気はしたものの、帝具なしで帝具使いの相手をする気はない。ていうか味方だ。おとなしくベッドに戻って横になる。
コスミナは前からそのきらいはあったが、やたらと世話焼きになっていた。無視すると落ち込むので本質的にはかまってちゃんなのかもしれない。
「やはり、コスミナには甘いの」
「やかましい」
なおからかおうとするドロテアを一喝し、コスミナを見る。既にその手に帝具はなく、いそいそと散らばった薬やら茶葉やらの片づけをしていた。帝具なんぞ使うから部屋が見るも無残な姿になるんだ。
「いいのか?」
「ここには危険なものも貴重なものも置いとらん。休憩室じゃからな」
いつのまにやら割烹着を身に付けたコスミナの仕事姿を眺めていても、飽きは来ないがもっと有意義なことはいくらでもある。手持無沙汰の身の上で、すこし疑問に思っていたことを、ドロテアに聞いてみる。急を要する事でもなかったし、聞き忘れていたことだ。
「帝具の同時使用って、なんであんなに疲れるんだ?」
帝具一つでも消耗はあるが、二つ使用はその比ではない。実際、アースマイトとシャンバラを同時に使用した際には、一瞬で力尽きた。それぞれの使用感的には併用してもある程度、戦闘を行える程度にはもつはずなのだ。
「そういえば主は二つ使えるんじゃったか。安全装置、というと十分ではないか。んー。いや、やっぱり安全装置じゃな。色んな意味で」
「意味が分からん。もっと分かりやすい説明をしてくれよ」
「そう急くでない。帝具には大なり小なり、使用者の生命力を消費し過ぎないような機構が備わっておってな。この安全装置と相性が良ければその帝具が使えるわけじゃ。適合していない帝具を持った時の疲労感が本来の消耗ということじゃな。それでこの安全装置、帝具を複数同時に装備すると機能しなくなる。並の人間なら一瞬で枯れ果てあの世行きなんじゃが。お主もコスミナほどでないにせよ生命力お化けじゃからあの時逃げ切れたんじゃろう。てっきりツルハシの方は捨てていくものと思っておったが」
「冗談いえ、愛着のある大切な帝具だぞ」
「まぁ、そうか」
消耗が激しい理由は分かった。非適合の帝具を使おうとした時の消耗は知っている。精々十秒もつかどうかという酷さだ。それを二つ持っていれば、枯れ果てるのもさもありなん。だが、何故そんな仕組みになってるのかがわからない。開発上の回避できない仕様なのだろうか。疑問をそのままドロテアに伝える。
「やはり気付くか。無論、これはわざと組み込まれた機構じゃ。複数の帝具を同時使用する帝具使いによるクーデターが起きないようにの。皇帝が使用するという至高の帝具を超えることを危惧したんじゃろうな」
話は理解できる。もし複数使用できる人間がいたとして、そいつが複数の帝具を振るえば、シコウテイザーを超える可能性はある。というか一つの帝具で超えている化け物どももいるのだ。使用する帝具の相性次第では容易く超えるだろう。
始皇帝は国の外に対する抵抗として帝具を作ったが、同時にそれは内側の脅威度を引き上げてしまったというわけか。皮肉ではあるが、その対策まで用意するあたり始皇帝はよほどの心配性かつ優秀だ。当時逆らうものなどいなかったろうに。だが、既に故人。いくつも想定外あるいは対応できない事象はある。
「で、外せるか。それ」
「可能じゃが、時間はかかる。帝具一つあたま一月といったところじゃな」
「短くならないか? シャンバラだけでも」
「解析から始めねばならんからのう。帝具次第じゃな」
一月。アースマイトとシャンバラで二月。そもそもこいつらを並行利用する利点は。瞬間移動で不意を突いて一撃粉砕。あるな。自身のみを短距離転移させるだけならば前動作も時間もいらない。ノーモーション転移ならばあるいはエスデスの不意を、それは難しいか。だが戦いやすくはなるか。あらかじめ準備した戦場じゃないと無理という欠点はあるが、エスデスが来るのを迎え撃つのならば有用。我慢するしかないか。
「分かった。シャンバラの解析から始めてくれ」
「うむ、承知した」
ドロテアは瞳を輝かせて頷く。さては気になっていたなコイツ。まぁいい。今後の予定を考えねばならない。
シャンバラを預けてヌマと情報交換。その後タツミ達の勧誘。コスミナはそのまま南下させて扇動開始。俺は戻って情報整理とヌマと戦略会議。前回の予定では既に帝国への侵攻は始めているはずだが、タツミ達の反応を見れば大ごとにはなっていない。ヌマが領主を抱き込んだのか、何かしらの事情で遅れているのか。聞かなければならない。
シャンバラが終わるまでしばらく骨休め。その後アースマイトを預け、シャンバラを受け取る。マーキングをしながらエンシンの居るだろう南方へ向かう。道中、帝国南部で可能ならば革命軍と接触を図る。ナイトレイドは帝都なのでバレはしないだろう。たぶん。危険だが奴らよりははるかにマシだ。南方諸島に到着後、帝国内のコスミナ、研究所のドロテアを回収して、なんならタツミ達も連れてエンシンを強襲。帝具を奪う。
うむ。完璧な作戦だ。一分の隙も無い。まずは、待っているがいいタツミ、と他二人。
タツミがいなかった。サヨもいなかった。イエヤスしかいなかった。
ふむ。師匠であるトラグマが死んだことで教われることが無くなった。だから早く旅立つことになった。まぁ、そうか。村を守る人間が必要だからくじ引きでイエヤスが残った。うむ、正しい。だがひどく都合が悪い。貴重な人材に逃げられた。仕掛けた針に返しがなかったようなそんな気分。
帝都なんて希望を持つほどいいとこじゃないと、前に来た時に伝えはしたが、軽く聞き流されていた。トラグマが都合悪いことを話さなかったせいだろう。弟子たちを軽視していたわけではないが重要視していたわけでもないから、当たり障りのない事のみを伝えていた。故に無垢な地方民の知識しか持てなかった、と。そういうわけか。
帝都に行けば田舎者のタツミ達は当然、原作と似たような目に遭う可能性が高い。そしてナイトレイドに救出される可能性は低い。アレは奇跡だ。娼館に流される、はまだマシで貴族共の玩具になったりすればまずもって助からない。
思い立ったが吉日とトラグマが死んだ日には決定して、次の日には旅立ったらしい。俺にとってもタツミ達にとってもなにも吉日ではない。計算すればおよそ二週間。今から追っても間に合わない。なんなら帝都についている。帝都に全力で移動すれば間に合うかもしれないが、シャンバラを使えない状況で突っ込みたくはない。ナイトレイドに見つかった時の逃走手段がない。諦めるか。残念だ。
せめてイエヤスだけでも雇い入れよう。俺は流れの旅芸人。最近北が物騒、さらに故郷は北にある。故郷の様子を見に帰ってきた。これらの設定を繋いで、さらには北の国へ勧誘する方法。ヌマの侵略と併せての流言的な工作だ。直接の勧誘は村を守るとか言ってる現状では効果がない。
北の国に侵略されて既に北の国の領土になっていたが、案外規律がしっかりとしていて略奪などは行われたわけではなかった。
監視員が常駐しているが人当たりも良くて、なんなら帝国領だった頃よりも生活が楽。
兵の募集も行っていて、最初の地位も実力を考慮するらしい。俺の兄は腕も立ったので中々の地位でもう部下までいる。
こんな話をして、抵抗する気を無くさせておく。残虐さをアピールしても良いのだが、徹底抗戦されては面倒だし、帝国に忠誠を誓っている人間がこんな辺境にそうそう居るわけがない。この村においては不穏分子は一人処理しているし。
村は守ってもらえて待遇も良いのでイエヤスなら仕官することだろう。感触も上々。自国が侵攻されてるのに動きもしない国との比較なのだから、むべなるかな。難点は既に帝都へ向かったタツミ達だが、此処まで侵攻してしまえばイエヤスから選択肢は消え去る筈だ。当初の予定と比較してしまえば悪いが、結果としては現状でもそこそこ優秀だろう人材を確保できるのだから、及第点とする。適当に話をして、コスミナが歌って、一晩泊まって、さようなら。
さぁ、次は、北に戻ってヌマと合流。特に領主に対する工作はしていないようなので、何故帝国が動いていないかは不明だが、すでに侵攻している以上早さを重視する。ヌマと俺とで、二方面軍。まぁ帝国しか相手はいないのだが。
だからコスミナ。お前とはここでお別れだ。
ちがうそうじゃない別れ話じゃない。だから泣くな。泣くなというに。
最後の夜の筈が疲労困憊、次の日動けず最後の夜じゃなくなったのはご愛敬。コスミナは文字通り泣く泣く、俺を心配する言葉を残して旅立っていった。はて、心配されることがあったか。お前の方が心配なのだが。
そして現在。ヌマのところで作戦会議中。特段大きな抵抗はなく、侵攻は計画通り、あるいは計画以上に順調に進んでいた。憂うところもなかったのでヌマと摸擬戦をやることになったのだが、帝具なしでやれば惨敗し、帝具有りでやればなお酷い。強すぎる。曰く驚くほど強くなっている、とのことだが嫌味にしか聞こえない。外法に身を染めて尚、なぜ勝てない。
甥っ子だけが癒し。目元が故メイドに似ているなぁ。子供の成長早い。乳飲み子がいつのまにやら手を引かれながら歩いている。そうか。もう一年か。エスデスが攻め寄せるだろうリミットも近い。精々半年ほどだろうか。そうなればこの子も死に絶えるのだろうか。折り返しと考えるかどうするか。急がねば。
さて、感傷に浸るのもそこそこに、侵攻を速める。具体的にはとっととイエヤスの村まで攻め取って人材を確保したい。新たな帝具使いも見つからない現状、可能性のある人材はより多く欲しい。適当に理由を付けてそれっぽく話す。
事前工作の感触ではこのあたりまでは大した抵抗なく切り取れるはず、とか。帝国側に動きが見えないならば一気に行くのもありである、とか。それにしても動きのない理由の最有力候補が年貢の時期じゃないからというのは敵国ながらひどい話だ。民は金づるじゃない。そんなだから反乱なんぞ起こされるのだ。まったく。
一月を目安として、イエヤスの村まで占領することが決定。侵攻はいったん停止し、防衛及び切り取った領土の安定化を図る。蝗の親戚のようだった北の国がここまで文化的に侵略できるとは。十年もあれば国も変わる。千年変わらぬ国などある筈もない。か。人はどの程度あれば変わり果てられるだろうか。ことわざ通りに三日でいいなら楽なものだが、はてさて。
ヌマと別れてドロテアの元へ向かう。あいも変わらずヌマにさえ勝てぬこの身を鍛えるためだ。すでに限界まで鍛え上げたこの肉体。伸びしろなんて絶無である。真っ当に鍛えてどうなる話でもない。時間もない。危険種を取り込んでなおヌマには勝てないが、強くなっているのは事実のようだから、やめる理由はない。
なんなら今まで以上に行うことも辞さない。コスミナやヌマに悟られぬよう、見た目自体は変わらぬように言い含めて、今までしてこなかった直接的な改造手術に手を出す。ドロテアがどんな気の変わりようか驚いているが、気にするなと笑う。死に掛けたからか、未だにヌマに届かなかったからか、あるいは守るためか。いや、結局死にたくなさゆえだ。自らを美化するのだけはやめろ。そこに際限はない。
さぁ、やってくれ。ドロテア。痛いのは嫌いだからやさしくな。無理? そこが腕の見せどころってやつじゃないのかな……?
とにかくこれでようやく対等だ。思えばエスデスは、危険種をその身に取り込んだからこそ、あれほどの強さを手にしたのではないか。そこに質の差こそあれ、量は此方が多い。笑える話だ。量が足りないが故に質を求め、求めた質を得るために量に頼る。
脳裏に浮かぶはタツミの成れの果て。コスミナの成れの果て。自らがそうなると考えても、恐怖は湧かない。なんだ死よりよほど、マシじゃないか。
――そうか。コスミナの心配はこれか。
なかなか唐突な気がする……。
本当はね、炭酸みたいなキャラにしたかったんです。主人公。
書けなかったから諦めたけど。