俺は夜道を歩きながら駅に向かう。
県大会の結果はリレーは予選を通過した。
泳いでいる時に肩の違和感で失速こそしたが差が縮まることはなかった。
「はぁ、これでいいんだよな」
俺は1人でそう言いながら駅に向かった。
なぜ、駅に向かったかというとこの爪を早く返したい。
駅に向かうと浦女の制服を着た生徒が何人か集まっている。
この中で善子を待つのは嫌だなと思っていると着いた時間が良かったのか善子の姿が見えた。
姿は見えたがその顔は落ち込んでいる。
今日は疲れているから早く帰りたい気持ちの方が強くそのまま善子に近づいた。
「善子」
俺は名前を読んでから袋を投げ渡した。
「ヨハネよ!」
そう言って俺が投げた袋を顔で受け止めた。
「疲れてるなら早く帰って寝ろよ」
俺はそう言ってその場から走って離れた。
寮の玄関口には雪が立っていた。
「何してるんだ雪」
雪は真剣な顔をして俺に話しかけてきた。
「お前と話したいことがある」
「話したい事か」
「零、今日のレース中失速しなかったか?」
「いや、気のせいじゃないのか」
「だったら、リレー泳いでみてどうだった」
俺はその質問には答えにくかった。
「分からねぇ」
「分からねぇってなんだよ、お前は本気で泳いでないのか!」
雪はそう言って俺の胸倉を掴んできた。
「本気で泳いで分からねぇって言ってるんだよ! 雪がリレーのへの思いが本気なのに俺が手を抜けるはずだないだろ!」
俺はそう言って雪の腕を無理やり振り払った。
「悪い、今日は疲れているから寝かせてくれ」
俺はそう言って雪の横を通り抜けようとした。
「次の地方大会も頼むぞ零」
「分かってるよ」
この肩が壊れようが俺は地方大会だろうが全国大会だろうが泳ぐ。
その時、一本の着信が来た。
「どうした善子」
着信相手を見ずにとりそう言った。
『レイ』
その弱々しい声に大体は予想着いた。
俺は壁にもたれ掛かって言葉を紡ぐ。
「怖気着いたか」
息を飲むような声が聞こえた。
「小さな箱から飛び出して大きな場所に立って怯えたか」
俺は分かっていたこの町でいくら有名になろうが場所が違えば無名になる。
俺は慰めではなく突き放す。
『私は』
「そんな事で怖気着くならやめた方がいい」
『えっ』
今なら苦しまない方を選ぶことはできる。
「俺は向こうで何があったか知らないがそれぐらいで諦めるならやめた方がいい」
『違う、私が言いたいのは』
俺は目を閉じて悟った様に言う。
「慰めて欲しいんだろ? 俺は慰めないからな」
それはお前の為にはならない。
「そんな事で弱気になってたらこの先ずっと失敗し続ける」
「それにお前はそんな事で弱気になる奴だったか?」
『なっ! 誰が弱気になってるよ』
声が明るくなってきた。
「ふっ、リトルデーモン増やすんだろ」
『笑いながら言わないでよ! いいわよ見てなさいよ、レイが追い付きたくても追いつけないところまで行ってやるわよ』
「何時も言ってるだろ、俺はお前だけを見てるって」
『ありがとう、レイ』
「明日は嵐が来そうだな」
俺は感謝を冗談で返した。
『言ったわね』
「それなら大丈夫そうだな」
じゃなと言って通話を切る。
俺が追い付けないところまで行くか。
その言葉がとても重く俺にのしかかった。