君の瞳に   作:りりなの

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壁ドン

 電車に乗ったのはいいが都会の電車は人が多すぎる。

 

「朝から忙しすぎだろ」

 

 休日でこれだけ多ければ平日は地獄だろうと思っていると次の駅で人が更に流れ込んでくる。

 

 それに従って奧に追いやられるがドアの側には人が居る。

 

 当たりそうになる前にドアを右手で押して当たらなかった。

 

「か、壁ドン」

 

 そんな声が聞こえて視線を落としたら顔を少し赤くした女が居た。

 

 何処かに当たった感触はなかったが何かしのかと思い話しかけた。

 

「何処か当たったか?」

 

 声をかけたら驚かれた。

 

「えっ、あっ、大丈夫です」

 

「そうかそれならいい」

 

 それにしてもこの状態は辛い。

 

 駅の間の感覚が短くてもこの人の多さでは手をのけることはできない。

 

 こんなことなら来なければと思いながら呟いてしまった。

 

「沼津に居た方が楽だったか」

 

 そんな言葉を聞かれたのだろうか話しかけられた。

 

「沼津ってどこなんですか?」

 

「聞いてたのか?」

 

「すいません」

 

「いや、謝る必要ないだろ」

 

 すごく大人しくて今まで関わってきた人の中では話しやすそうだと思った。

 

「静岡だよ、ここより田舎だな」

 

「静岡なんだ」

 

「あぁ、海と山しかないんだよ」

 

「静かで落ち着くには良いかな」

 

「そうか?」

 

 話すタイミングが遅かったのか降りる駅に着いた。

 

「あっ、ここで降りるから」

 

 そう言ってドアから手をどかした。

 

「私もここで降りるの」

 

 そうなのかと言いながらお互い改札まで無言のまま向かうが大学の方面だけ聞いておく。

 

「この大学はこっちの方面か」

 

 携帯の画面を出しながら指をさすが違ったみたいだ。

 

「えっと、逆方向ですよ」

 

「助かった」

 

 俺は礼を言ってから言われた方向に向かおうとした。

 

「途中まで同じ方向だから一緒にどうかな?」

 

「なんかスマン」

 

 これは自分でも方向音痴ではないのかと思うがなれない土地だから仕方がない。

 

「もしかして大学生だったりする?」

 

 あぁ、普通の奴は大学なんかに行かないからな。

 

「中学二年だ」

 

 その言葉に驚いていた。

 

「えっ、中学生だったの!」

 

「そうだけど」

 

「でもなんで大学に?」

 

「水泳の強化選手の合宿で」

 

「凄いんだね」

 

「凄くない、俺は泳ぎたいから泳いでるだけだ」

 

「呼ばれるのは凄いと思うよ」

 

「凄いとか言わないでくれ? あんたから言われると恥ずかしい」

 

 他の奴に言われてもなんとも思わない裏があるように聞こえるがこの人は違う。

 

「そうなの?」

 

「他の奴にそう言われても何も思わない、真剣に何かをやっているから言葉に違いが出ると思う」

 

 多分この人は何かをやっている。

 

 だからそう言えた。

 

「道案内はここまでね、あとは道なりを真っ直ぐ行けば付くよ」

 

「助かった」

 

 多分、この人とはもう会うことはない。

 

「またどこかで」

 

 そんな事を言われた。

 

 不思議と何処かで会うかもしれない。

 

「会えたらな」

 

 俺はそんな事を言って大学に向かう。

 

 こんな合宿を終えて善子に会いたいと思った。

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