デスとハイエロファントの物語:REBOOT 外伝・番外編集 作:桁石スミオ
登場人物:デスとハイエロファント、他
注:小説ではなく、落語テキスト風読み物です。
サゲは、六代目円楽師匠のサゲを拝借しました。
同一内容を、pixivにも掲載しております。
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=8759375
【挿絵表示】
デスとハイエロファントの物語:REBOOT
番外編【 落語『改訂版・死神』 】
演芸場。高座に、屏風、青色の座布団。
客席は満員。少しざわついている。
上手側袖から、紫色の着流しを着た「灰江路亭 出守」(はいこうじてい です)=デス登場。
メクリの横に正座し、一礼。静まる客席。
頭を上げ、メクリを一枚後ろに回す。「灰江路亭 伴人」の筆文字。
「前口上にて失礼する。只今より、真打『はいこうじてい はんと』、演目『改訂版・死神』をお届けする。最後までごゆるりと、お楽しみ頂きたい」
再度、一礼。客席より、一斉に拍手。
デス、立ち上がって上手袖に消える。
【 お囃子 】
入れ替わりに、「灰江路亭 伴人」(はいこうじてい はんと)=ハイエロファント登場。
薄青緑色の紋付、白色の羽織、灰色の袴。手には扇子と手ぬぐい。
満場の拍手。
座布団に正座し、扇子を前に、手ぬぐいを横に置き、深く一礼する。
【 お囃子終了 】
段々と鳴り止む、拍手。
頭を上げるハイエロファント。
【以下、独演】
「灰江路亭 伴人」でございます。一席、お付き合い願います。
本日はいっぱいのお運びを頂きまして、誠にありがとうございます。
世の中には、数多くの神様がいらっしゃいます。この日本には、八百万と書いて『やおよろず』の神様がいらっしゃるそうで・・・日本だけでも八百万、世界全部を合わせますと、これはもう、星の数ほどの神様がいらっしゃる計算になります。確か、星の数の方がちょーっと多かったと思いますね。僕が数えた訳ではありませんが。
さて、神様にもいろんな方がいらっしゃいまして、生命の誕生を司る創造神をはじめといたしまして、その生命の環の一端、死を司るのが、死神でございます。実は、僕の奥さんが死神の役目に就いておりまして・・・これがまた、綺麗で素敵で可愛らしい女性なのですよ。もう本当に、毎日毎日が幸せでしてね。僕は果報者で・・・え? 惚気はいいから、早く話を始めてくれ、って?・・・はい、では、僕の惚気はまたの機会といたしまして、今回のお話を始めさせて頂きます。
今からのお話は、その、僕の奥さんが登場する話です。
あるところに、お金に縁のない男性がいらっしゃいました。縁のないと申しますか、大変お金遣いが荒い。荒い上に、三度の飯より賭け事が好きときました。しかも勝ちが上回った日には、一晩中呑んで騒ぐ。昔は『宵越しの金は持たない』のが粋とされてた時代もあったそうですが、昨今の厳しい世情を抜きにしましても、これじゃあ、貯まる物も貯まらず、日々の糧を確保するのも難儀、という有様でした。
「ああ・・・今日も稼ぎにありつけなかった・・・何が悪いんだ? あん時、イーピン切って振り込んだのが悪かったのか? いや、ありゃあ序盤だ。あの後、上家がツモりやがったのが・・・はあ・・・最近は麻雀だけじゃなく、パチスロも競輪も競馬もオイチョカブも何やっても勝てない・・・ははあ、判ったぞ。きっとあっしには貧乏神か疫病神が憑いてるんだ。じゃなきゃ、これほど勝てないってのは・・・」
「違うな」
「うわぁ! びっくりした!・・・おや? これはまた美人なお姉さん。しかも、なかなか色っぽい出で立ちでらっしゃる。こりゃ驚いた、大きな鎌まで持ってますなぁ」
「そんなことはどうだっていい」
「あっしに何か御用ですか? どちらさんで?」
「死神だ」
「・・・はい?」
「あたしの名は、デス。死神だ」
「・・・うええ! 何てこった! もうあっしにお迎えが!」
「早まるな。残念だが、今日はお前の魂を送りに来たんじゃない。あたしの旦那に頼まれた用があって、来た」
「・・・もう人妻なんですか!?」
「お前は何を言ってるんだ。あたしが結婚してようが何だろうが、お前には関わりがないだろう」
「ごもっともですが・・・そう言や、さっき『違う』っておっしゃいましたが・・・何が違うんで?」
「お前には、貧乏神も疫病神も憑いていない。お前の稼ぎの悪さは、博奕に没頭してるからだ」
「まあ、確かに最近はとーんと勝ちには恵まれてませんがね」
「勝てる勝てないだの、恵まれてる恵まれてない以前の問題だ。博奕のし過ぎだ。自覚がないのか?」
「勝てない自覚はありやすがね」
「・・・聞いたあたしが馬鹿だった。解った、さっさと要件を言う。お前のような奴に義理も何もないが、あたしの旦那が、救けてあげてほしい、と頼んできた。まあ、あたしの旦那は困ってる奴を助けるのが趣味みたいなものでな・・・その解決策を今から教える」
「勝てる方法を教えてくれるんで?」
「・・・やはり、帰る」
「いやいやいや! ちょいと待って下さいよ! 気に障ったなら謝ります! ごめんなさい! 真剣に困ってるんで! 上手い策があったら教えて下さい! この通り! 頼んます!」
「・・・このままお前の魂を送ってやりたくなったが、お前の番はまだ先なんで、それも出来ない。お前には寿命が長く残ってるからな・・・仕方ない、ちゃんと聞いて、ちゃんと実践しろ」
「へぇ! 合点です!」
「お前・・・医者になれ」
「は?・・・何ておっしゃいました?」
「医者になれ、と言った」
「・・・いや、ちょっと待って下さい? デスさん、とおっしゃいましたか、お医者さんってのは、勉強して医学部出て、免許取らないと出来ないですよ? ご存知なんですか?」
「知ってる。こちらの世界では、医者を開業するには免許が必要なのも解ってる」
「デスさんのお国では違うんで? でも、こっちじゃマズいですよ」
「だから、モグリの医者、となれ」
「あっしは顔に傷もありやせんし、皮膚もツートンカラーじゃありやせんし、髪も片側白かぁございやせんよ」
「・・・何の話をしているんだか判らんな。まあ、実際に医療行為をやる訳ではないが、医者と同様の働きが出来る」
「ほほお、どうすりゃいいんで?」
「今のお前には、ある術が掛けてある。死神が見えるようになる、まじないだ。だからあたしが見えている。本当ならあたしの姿は、普通の奴には見えないんだ」
「へぇー! 今のあっしには、死神が見える! 何でまた?」
「それが、今回の策に必要な術だからだ。他の死神も見えるように、な。この国の死神も、目に映る筈だ」
「見えるようになって、それから、どうしたら?」
「家に帰ったら『医者』と書いた看板を出せ。手書きでいい。板は何を使っても構わない。すると、近い内にお前を頼ってくる奴が現れる」
「看板を出すだけで?・・・広告とかチラシとか、ネットショップとかやった方がいいんじゃないですか? もっとも先立つモノがありやせんが・・・」
「必要ない。ただ、看板を出しておけ。そして、呼ばれた先にいる病人を診てやれ。そこには、何処かしらから来た死神がいる筈だ。さっきも言ったが、死神はお前にしか見えていない。他の奴らには覚られないようにしろ」
「覚られないようにするのは得意でさぁ。ポーカーフェイス、ってヤツですよね」
「博奕で負け続けてる奴が言うと、説得力皆無だな」
「まあ、まあまあまあ・・・それで、行ったら何をすれば?」
「病人が寝てる布団の何処かに、死神が座っている。枕元に座っていた場合、もうそいつは寿命だ。何をやっても救けられない。ただし、病人の足元に座っていた場合・・・ある“呪文”を唱えると、死神は消える。帰らなくてはいけない決まりになってるんだ。死神が帰ると、病人は、ケロッ、と回復する。治れば、医者としての形はつくだろう」
「なーるほど・・・確かに医者みてぇなフリ出来まさぁね。こうなったら、いっぱい救けてやらねぇとね」
「問題はそこだ」
「何処です?」
「・・・場所の話じゃない」
「こいつは失礼しやした。で、何が問題で?」
「救けられる人数に上限がある。それ以上は“呪文”が無効になるから気を付けろ」
「何人までで?」
「8人だ」
「8人・・・何でまた?」
「しにがはち、と言うだろ」
「・・・デスさん、貴方、ホントは日本在住じゃございませんか?」
「気にするな。人数制限があるのは、無制限に救けたのでは、この世界の生命環が崩れるからだ。生ある者は、最後に必ず死ぬ。それが自然の摂理だからな」
「納得しやした。8人ですか・・・しかと、覚えておきやす」
「それで病人を救け、貯めた金を元手に、真っ当な商いを始めるなり、真っ当な職業に就け。そうすれば立ち直れる」
「解りやした! ありがとうございます! それで“呪文”ってのは?」
「よく聞け、一度しか言わない。ちゃんと聞いて覚えろ」
「・・・記憶力には自信がありますぜ。どうぞ!」
「アジャラカモクレン、マージドロ、テケレツのパッ・・・と言って、手を、パンパン!と2回叩け」
「・・・けったいな“呪文”ですなぁ・・・こうですかい? アジャラカモクレン、マージドロ、テケレツのパッ!」
(パンパン!と、両手を叩く)
「・・・あれ? デスさん? デスさーん・・・消えちまいやがった・・・ってコトは・・・こりゃあ、本物かい! こうしちゃいられねぇ! 帰って看板出さねぇと!」
男性は一目散に帰って、早速家の中に板があるかどうか探しました。ところが、いざって時は必要な物ほど見付からないもので、看板に使えそうな板は何処にも見当たりません。流石に俎板などは使う訳にはいかず、方々を探しましたら・・・ごみ箱に、昨日食べた蒲鉾の板がありました。
「蒲鉾板かぁ・・・まあ、ねぇよりマシだろ!」
って訳で、綺麗に洗って、蒲鉾板に金釘で『医者』と彫りまして、玄関横に釘打ちして看板といたしました。
「それにしても、死神がいるってこたぁ解ったが、ホントにこんなんで患者が来るのかよ?」
僕の奥さんの話を聞いても、尚、この男性は半信半疑だったのですね。